活字ジャンキーの憂鬱

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5月27日
吉本隆明・糸井重里「悪人正機」
インターネット上での対談(ほぼ日刊糸井新聞)と週刊プレイボーイで連載されていたコラムをまとめたものなんだけれど、「〜ってなんだ?」という素朴でしかし深い疑問について吉本隆明流に答えていく。これは面白かった。「同姓愛」ってなんだ?とかとても答えに困るような(笑)質問をされたときの吉本隆明の切り返しが素晴らしく同じような展開を見せながらもまったく飽きない内容になっている。こんな大人がそばにいたら、僕なんかきっと一日中「〜ってどういう事?」って聞いてその都度感心してるんだろうなぁ〜。強引なところもあるのだけれど、それもある種の強さみたいに感じられて気にならない。でも最近こういう本ばっかり読んでるなぁー(笑)

5月16日
橋本治「わからないという方法」
わからない事が恥だった20世紀は終わったらしい。どうやら我らが治ちゃん(怒られるな)は、「わからない」という事をスタート地点にする事にしたらしい。これはもの凄く画期的な事だと思う。しかも作家と言われる人がこれを書くというのが凄い。「もうなんでもかんでも、すぐに正解があるという時代は終わったんじゃないか?」と言う。「わかる」という事をスタートに設定してしまった多くの人は「わかった」に続く矛盾する道で躓き、その道筋で「わからなく」なり、結局投げ出してしまう。「わからない」という事はとても勇気と根気がいる事である。でも平気で言ってしまえば「わかる」へと至る道は間違いなく続くのだと思う。これはビジネス書でもあり、エッセイでもあり、私小説でもあり、教科書でもある。不思議な感覚だが、これだけ言いきられると思わず納得するしかない。本音を言えば「わからない」のだけれど。
岩松研吉郎「日本語の科学」
昨今の日本語の乱れを嘆く本や意見は多い。が、しかしそれを「自然の事」として受け止め、尚かつ論理的に解明し、しかも解りやすい本はおそらくめずらしいのではないだろうか?「本来言葉は善悪で判断できるものではないのです。好きか嫌いしかなくて、今は若い者が使う言葉を嫌いだと思う人間が、新しい日本語について意見を述べているにすぎない」と言いきる。ら抜き言葉をはじめ、「モーニング娘。」の「。」の意味、「っていうか」などの言葉を「ちゃんとした時代の流れ」として説明してくれる。少し例題が多くて、もっと文章を読みたい気にさせるが、こういう本でそういう気持ちになること自体が素晴らしいと思う。

5月13日
糸井重里「ほぼ日刊いとい新聞の本」
僕は糸井重里という人が大好きである。埋蔵金を掘ったり、釣りをしたりコピーライティングをしたり、こうしてHPを作ってみたりそのどれもが、ばらばらの活動のように見えるのだけど「糸井重里」という人間の中では一つの事柄で、そのどれもが「コピーライター」としての仕事だと言いきる姿勢が素晴らしい。この本はHPをつくった動機やその悪戦苦闘ぶりが綴られているのだけれど、どんなビジネス書、どんなマニュアルにも勝る圧倒的な魅力がある。ほんとうにセンスがいい人だよなぁーと僕は思う。この本を読んだ人はきっと、自分自身では気がつかなかったいろいろな事を知ると思いますよ。必読。

5月6日
いしいしんじ「ぶらんこ乗り」
理論社から出版されている大人向けの童話といったらいいんだろうか?可能涼介さんの「はじまりのことば」然り森絵都さんの「カラフル」しかり、ここから出版される本はいい本が多い。今回の本は友人に偶然すすめられて読み始めたのだが、個人的に大好きな文体で内容も抜群によかった。タイトルのぶらんこ乗りという言葉には「空中ブランコ乗り」と、弟の事を差す「ぶらんこ乗り」と両方の意味があり、これは読み進めていくうちに、解る事になる。この本を読んだ直後になんだか、忘れてた感情がまたよみがえってきた。

5月5日
佐藤正午「女について」
「恋売ります」という本が改題されて文庫化された。女性にまつわる体験談のような創作のような話が8作入っている短編集。佐藤正午は最近「ジャンプ」という作品が大当たりし一躍ベストセラー作家になったんだけれど、この時期からおそろしくうまい。どの話も読ませる。しかも全部を説明せずに細かいがさらっとした描写をする文章は、一度読んでしまうとやみつきになる。恥ずかしい話だけれど、僕はこの作品を読んだ直後にまたファンメールを書いた。

5月3日
田口ランディ「モザイク」
「まもなく渋谷の底が抜ける。渋谷は完全に電子レンジ化する」電子、、、電子レンジ化ですか、と驚きながら今回もページをめくった。「コンセント」「アンテナ」と続いた3作目は「モザイク」という一片の欠片となって僕の手元にあった。読み終えて今回はいろんな意味で問題作だと思った。なんの先入観もなく読んだ人たちの間でこの本は傑作になるかもしれない。それくらいラストでの開放感は素晴らしい。でもそれと同時に僕は思うところがあった。ランディさんのスタイルは細切れになった「体験」のピースをはめ込んでいって一枚の大きな「小説」というものを作り出す書き手だと思う。自身「自分の中に無いものは書けないですから」と語っているようにいつもリアルな思いにあふれていた。でも今回の作品は少しニュアンスが違う。どこかで読んだ記憶のある話が、そのままの形で引用されているような感じを受ける。とくに「スプーン」というノンフィクションと藤森直子さんの「ファッキンブルーフィルム」の中の話をいたるところで発見した。本人はなんでもない事なのかもしれないが、僕は気になった。だから僕はこれを評価することができない。正直に言うと「楽しく」は読めなかった。

「感読 田口ランディ〜80のレビューで探る作品世界」
僕はこのレビューに3作掲載されているのだけれど、全体を通して読んで少し恥ずかしくなった。というのはこの本が「作品評」というのではなく「ラブレター」「ファンメール」に近い感じで仕上げられたからだ。僕の「からだのひみつ」評は「からだなんだから」というとぼけたタイトルから「ランディさんは秘密が大好き!」というハートマークも飛び出る勢いのタイトルに変わっていたので少しびっくりした。まぁ自分も十分センスのないタイトルをつけているのだけれど。(笑)

ただ、そういう偏った部分を抜きにして読むと結構面白い。興味を持ったレビューも何本かあった。2300円は少し高い気もするけれど、機会があったら読んでみて欲しい。

でも本屋でみかけないのはいったいどういう事なんだろう?
問い合わせのメールが僕のところに来て少し困っている。