10 文庫で知る戦争・昭和@

平成07年発行 角川文庫

NHKが平成4年に放送した「太平洋戦争 日本の敗因」6巻の文庫化。番組は戦後50年の節目で放送された。当時隆盛の8oVTRに録画してあ
ったので保存すべくDVDに移し替えながら繰り返し見た。映像の内容は強烈である。それまでは良く知らなかった「インパール作戦」「ガダルカナル戦」は、悲惨極まりない。放送も文庫も戦争最前線の軍部組織の呆れるほどの無責任な命令を余す処なく捉えている。戦争を止められない理由も精査されている。「外交なき戦争の終末」は驚く程希望的にソ連を頼ったかが指摘されている。
平成13年発行
      PHP文庫
「昭和」の時代に力を注ぐ著者が昭和を前期・中期・後期に分け、コンパクトに55のポイントにして解説。無論前期は「戦争」、中期は米軍占領に関わることが多い。著者は「まえがき」に「戦前をやみくもに批判するのでなく歴史に謙虚であるべき」の主張に啓発される。この本を読むまでは「日独伊三国同盟」「ハル・ノート」などの言葉は知っていてもその内実は無知同様だった。父親が「戦病死」の境遇に、どう解釈するのか、端緒として最初に具体的にアンダーラインを引きつつ読んだ本。今でも教科書的存在の書で解り易い。
平成11年発行
      PHP文庫
「昭和史を語り継ぐ会」を主宰する著者が「太平洋戦争」の具体的な失敗を10項目に分けて叙述。この本一冊で太平洋・大東亜戦争の何たるかが解かるほどである。「まえがき」で何故、太平洋戦争にこだわるのかと問われ、この戦争の3年9か月の期間に近代日本の矛盾が全て凝縮されているとの指摘。日本人のありのままの姿がよく表れているからだと指摘。第3章の「戦場なき戦争の指導者と国民」で日中戦争は、戦争指導者の本国の軍人も当然の如く国民もその戦場の実態をよく知らなかったのではないかとこれも指摘している。
平成15年発行
      講談社文庫
第5話に「なぜ陸軍の軍人だけが、極東国際軍事裁判で絞首刑になったのか」がある。今では一般にも山本五十六など良心的海軍軍人が居たことが知られている。だが著者は占領軍GHQがスムーズな占領政策に昭和天皇の存在が不可欠であること知り、天皇に直結する「統帥権」を意図的に無視せざるを得なかったことを指摘する。当初から統治者マッカーサーの意を汲んだキーナン検事のもと日米開戦は、陸軍省軍務局主導とのシナリオになった。しかし著者は別の書で真の開戦責任者は海軍の少壮軍人の誘導であることを告発した。
平成17年発行
      講談社文庫
好評だった「昭和史七つの謎」の続編がこの書。いわゆる「ゾルゲ事件」「昭和天皇の戦争責任」等に触れている。1章の「ゾルゲ事件」は今も謎が多い。この事件と東條英機内閣の成立には因果関係がある。ゾルゲが逮捕されたのは、昭和16年10月18日、まさに東條英機内閣誕生その日だったのは今では驚く。そこに著者は戦争を始めたくて仕方のなかった軍部中枢の何らかの作為があったのではないのかと推測している。更に協力者の尾崎秀実、近衛文麿の「昭和研究会」にまでコミンテルンが及んでいたではないかと示唆している。
平成17年発行
      講談社文庫
著者は昭和14年生だが、昭和初期の「死なう団事件」によって旧軍人を取材することから時代を探求することが始まった。“死なう”の旧仮名がひとつの切っ掛けだったと指摘。この著書で巨匠・松本清張から「帯文」を貰っている。多くの軍人の証言は貴重で、ことに著者の昭和前半を凌駕した旧軍関係者への取材は述べ4000人を超える。海軍軍人で、首相も勤めた米内光政等の秘書「実松譲」、陸軍の東條英機の秘書だった「赤松貞雄」の相対する証言を知るだけでも、この本の価値は十分。瀬島龍三・細川護貞の取材もも興味深い。
平成17年発行
      講談社文庫
昭和史の第一人者の著者が月刊誌などに発表した4篇を収録。巻末に「あの戦争から自衛隊は何を学んだのか」と防衛大学出身の戦後のいわば軍人との対談が付記される。「開戦の日の熱狂」「山本五十六の死」「原子爆弾と日本の技術」「極東国際軍事裁判」等。エピローグに「大東亜戦争、太平洋戦争の呼称問題」に言及。敗戦と同時に多くの機密資料は焼却されたが辛うじて残った「戦争機密日誌」をも解説。著者は他の書でも同様、平和を希求・存続させるなら過去の戦争の実態から十分に学ぶべきと重ねて解くが、納得できる。
平成11年発行 文春文庫

この書は上下2巻に別れていて全部で43項目に及ぶ。それぞれが六百ページ弱あり、分厚い文庫。下巻は主に終戦後の謎だが、上・下巻共に厖大な資料を駆使している。昭和の始めの「田中義一内閣の上奏文」から始まり「三島由紀夫事件」までであ。「ゾルゲ事件」や「真珠湾攻撃対米通告の遅れ」や「昭和天皇独白録」等が興味深い。著者には「慰安婦問題」でも実証的な労作がある。中国大陸に於ける日本の侵略について感情に溺れることのない叙述は多くの近代史に引用されているゆえん。「陸海軍軍人事典」をも編纂している。
平成13年発行 文春文庫

著者は日大教授。作家猪瀬直樹をして博覧強記、戦争に関しては字引のような人と形容する。南京大虐殺・慰安婦問題・教科書裁判など実証的に詳述。新潮選書の分厚い本で「慰安婦と戦場の性」があり、この問題では右に出る者はいない。朝日新聞を介して家永三郎との対決は真に迫る。返す刀で大東亜戦争を肯定的に捉える中村粲をもその危険性を看破。旧陸軍の加登川幸太郎との対談では陸軍参謀の無謀な作戦で多くの陸軍軍人が無残な餓死を遂げた事が暴露された。こうした事実は現在の日本では、殆どが臭いものに蓋であろう。
平成11年発行
      PHP文庫
著者は、文藝春秋の編集長を経て作家となる。近代文学・軍事問題に詳しく海軍に関しては特に詳しい。10章に分れ、それぞれが一々眼を洗われる内容である。大正末期は軍縮時代だったのにどうして軍部が独走して行ったのかが語られる。第2章の「朝日新聞と満州事変」では当時の軍部と世相について容赦なく詳述される。軍部の独走に待
ったをかけるべき言論機関を代表する朝日新聞の論調は、それまで常に軍に批判的だったが昭和7年の満州事変から一気に変節した。結論は新聞の戦争報道記事が飛ぶように売れたからだと明快。
平成12年発行 文春文庫

著者・半藤一利の書を最初に購入したのは「日本史が楽しい」である。この書は全編、著者を入れての鼎談で28項目にわたる。戦争に関することだけでなく昭和の芸能・相撲・水泳・将棋・紅白歌合戦などあらゆる分野を網羅する。その当事者や関係者とのやりとりは面白い。やはり統帥権・近衛文麿体制・日米開戦・昭和天皇独白録・東京裁判等が秀逸である。著者を有名にしたのは昭和40
年、まだ出版社勤務の時代の「日本のいちばん長い日」。敗戦の一日を丹念に追ったもの。著者が畏敬する鈴木貫太郎が中心。東宝映画になった。
平成07年発行 文春文庫

この本は、平成3年A5判上・下2巻で発行されたもので4冊の文庫化。内容は太平洋戦争の資料としてその史料価値は高い。86篇からなり、開戦から敗戦までの体験記を軸として網羅。執筆者は軍人・学者・作家・俳優まで多彩である。代表編集者の秦郁彦氏によれば「太平洋戦争」に日本に勝機があったとする論はさすがに見当たらないらしい。真っ先に読んだのは「東條内閣の退陣」である。東條英機の終始勤勉・実直・律儀だが、それ故に戦時のリーダーとしては資質に欠け多大な誤りを犯したと容赦のない指摘は的を射ている。
平成06年発行
      講談社文庫
通常コミック・漫画には縁が無いが、この本は少し違う。著者・水木しげるは昭和19年ラバウルで負傷、左手を失い、九死に一生を得ている。戦後苦労の末、右手一本で人気漫画家となった。「ゲゲゲの鬼太郎」はつとに有名であり、故郷・山陰の境港市商店街には鬼太郎のモニュメントを配した「水木しげるロード」がある。「昭和史」8巻は、戦後50年を意識して文庫化された。文芸評論家・尾崎秀樹氏の解説、戦争経験者の本人のあとがきも詳しい。もしかしたら若者にとって太平洋戦争とは、この本が一番解り易いかもしれない。
昭和55年発行 新潮文庫

著者は、歴史作家として最もよく読まれている。この書は「私の雑記帖」との副題がつく。雑記とは云え戦争に関しては本質を突く。作者に「私は不覚にも大正時代に生まれてしまった」と言わしめ、自分が配属した戦車隊を象徴として日本の愚かな「戦争」を語る。昭和前半には「統帥権」を盾に軍部が国を占領、これが国家なのかと思われる程「インチキくさい」ものと再三指摘。作家としての出発点はこの絶望的にでたらめな陸軍組織の経験によるのは間違いない。死して10年、新潮文庫「司馬遼太郎が考えたこと15巻」が刊行中。
平成5年発行 文春文庫

著者は各出版社から膨大な書が刊行されている。小説を書かなくなっても朝日新聞社の「街道を行く」シリーズ、月刊「文藝春秋」の巻頭言は続いていた。6巻の内容は確実「司馬史観」とも称されるもので、歴史家・思想家に相応しい。特に巻4の「統帥権」と「日本人の二十世紀」は、太平洋・大東亜戦争を考えるのに今や啓蒙の書となった感がある。巻6の「歴史のなかの海軍5」が絶筆。昭和5年の浜口首相暗殺で憲政は終ったと著者は指摘する。前記の書と同様に昭和前期を“鬼胎”と厳しい言葉で断罪しているが納得できる。
平成18年発行 文春文庫

新潮文庫の「司馬遼太郎の考えたこと・15巻」に対抗するかのように著者の対話選集10巻が刊行された。司馬遼太郎作品全文庫との差し込み案内は各文庫に共通である。朝日文庫の「街道を行く」シリーズがいちばん数が多い。この対話集のなかに戦争・昭和について対談しているものがある。「3歴史を動かすちから
・5日本文明のかたち・6戦争と国土・8宗教と日本人」に私は注目。巻5の山本七平との日本人のリアリズムに関する対談、巻6の戦争経験者との対談、巻8の井上ひさしとの「昭和」は解りやすく示唆に富んでいる。