『受傷から示談へ』 

 貴方がもし、何かの事故に遭われたとする。その時、保険屋任せの賠償金を受け取ることとなった時、その額面の低さに、「こんなものか」と驚かれるに違いない。しかし大抵の人はそれ以上の事を口に出さない。「これだけしか貰えないのか・・」と諦めて納得してしまうのだ。

 それで済めば保険屋は「これで済んだ、しめしめ・・」と陰で笑っている。被害者側から何も言って来ない限り、それで本当に終わってしまうのだ。経済的に困窮している場合なら、目先の金額でも受け取らざるを得ない。

 受け取れるものは素直に受け取ればよいが、貴方が納得いかないようなら、一時金として受け取る事にしたほうがいい。その時、保険屋の態度の変貌に怒りを感じる被害者は少なくない筈だ。しかし、示談書にサインするのはちょっと待とう。あなたの気が収まるのなら何も言わないが、果たしてそれで良いものか・・。後遺症が残れば貴方はそれを一生引きずっていかなくてはならない。まして、ここまで来るのに、ひと悶着あったのであれば、すぐにサインするのは避けよう。

それ以前に、貴方の損害について、妥当な金額をまず算出しておく必要がある。まずは賃金センサスを見て欲しい。ここで自分の年齢に見合う平均月収を12倍してみよう。おそらくたいていの人は、その年収に届いていない事に驚かれるかもしれない。そういった場合は、無職である人の賠償額の方が高くなるわけである。だが、当然の事ながら、少なくても現在もらっている収入が基本となる。もちろんそれ以上に稼いでいた人は、当然その収入が基本となる。自営業など自主申告されている方は、前年度の申告額が基本とされる。実際それ以上稼いでいても申告されていなければ通用しない。保険屋と話をする時、事前に自分の賠償額を知っておかれたほうが、示談でも失敗する事はない。打算的な者を相手にする場合、さらにそいつを上回る打算も必要なのである。


 『後遺障害』

 手術中に患者の腹の中に手術器具を置き忘れてきたという医療過誤を聞くことがある。こういった場合、実際には医療裁判にまでは発展することは稀だろう。と言うのも患者がそれによって何らかの後遺症が残ったと言うことが無ければ、たいした賠償は行われない。裁判で賠償額が高額になる要素として、後遺障害等級が取れるかどうかといった問題がある。治療して後遺症が残らなければ、大抵は、患者が痛い思いをしてそれで終わる。治療費のみという事が大半である。慰謝料さえも寸志にさえ満たない。

 また、過失相殺というのも問われる。発見が遅れたから・・という理由では、医者の非は大きく問われない場合がある。つまり、患部が不健康な状態の場合は仕方が無いということで解決されるケースが大半である。つまり、患部以外の正常だった機能が、手術によって機能障害が起こされたと立証できる時、医療側の過失を問うことが出来るというものだろう。

 以上のような点を考慮すると、医者側が不利な状況と言えるのは、高額の賠償金が認められやすくなる。つまり勝負する価値があるということだ。裁判という大きなエネルギーを要する戦いに、不利か有利かは決断する時の最重要点だ。時間と金が掛かった割には・・という結果にならない為にも、その点は見極めたい。

 本来は利益云々もさることながら、社会的にも許されないケースの場合が多く、それを闇に葬る事は社会悪を放任する事にも繋がる。次の犠牲者のことを思えば、それを食い止めるための努力は社会のためでもある。

 さて、後遺障害等級表を見て欲しい。ここに上げられる後遺障害等級さえ取れれば下手な弁護士を使わずとも、それを認定した医師が自分のプライドを守る為、必死になって証言せざるを得なくなる。そのため直接の執刀医自身が患者の後遺症認定する事は、まず有り得ない。自分の手で自分の首を絞めることになるからだ。だからこそ、被害者はセカンドオピニオンに当たるしか術が無い。
 
ここで気を付けなくてはならないのは、紛争の匂いを感じさせないことが肝心である。
医者はこういった事には、ことさら敏感である。しかし、たいていの被害者は自分の気持ちを理解してもらおうと、必死で弁明してしまう。これは後遺障害認定を取る為の、大きな障害になる事を知らねばならない。

 術後の医者のミスを言いたい気持ちは分かるが、かえって逆効果である。無駄な時間にしない為にも現状の障害を治したい一念で医者と対峙するべきである。治ればそれに越したことは無いが、治らなかった時、早ければ約半年の通院で症状固定が取れる。まずはそこまで通院する必要がある。

 ここまで来れば、あとは後遺症認定の診断書をどうやって書いてもらうかである。自分の後遺症の等級をあらかじめ自分で判断しておくと、その症状を医師に伝えるように持っていくようにしたい。医師も等級認定をしやすいと言うものだ。しかし、後遺障害等級を書いてくれと言った途端に、態度を硬化させる医師が多い筈である。だからこそ、医師との会話を全て録音しておくのである。当然、悟られてはいけない。裁判でいざとなった時の為に密かに保管しておくのである。初めからそれを出すと、打算的な患者に医師も味方はしないだろう。あくまで、敵に回った時に使うのである。証拠として出すタイミングを間違えない事である。

 かろうじて後遺障害等級認定がなされればよいが、取れなかった時は仕方が無い。訴状の上で自主申告するほか無いだろう。当然のことながら、後遺症の等級が争点の中心となる。被害者はセカンドオピニオンの医師が裁判で証言してくれるのだろうかと心配を抱く必要はない。裁判所命令によって呼び出せば、どんな医師でも応じない訳にはいかない。症状固定を出した以上、等級認定の義務を負わすことも可能だ。その時の風向きが悪かったら、初めて録音テープを証拠として提出する。

 「ここまでしなくとも・・」と思われる御仁も居られるだろうが、医療過誤被害者の為に証言してくれる医者を見つけることなど、素人の被害者には至難の技である。「いいよ、協力しよう」などと言ってくれる医師を見つけるまで提訴を控えるのであれば、患者の負担は一気に増大する。見つからなければ、いつまでも提訴出来ず、しまいに嫌になってあきらめてしまわれる事だろう。

 提訴と同時に、裁判所の保全科でカルテの証拠保全をすることで、カルテの改竄や隠蔽を幾分防止することは出来るだろう。しかし医師の書いたカルテが裁判でたいして有効とも思えるものでもない。ただ事実認定の上で必要となるくらいである。

 よく、なぜそのような後遺症が残ったのかという部分がクローズアップされて、裁判の進行が遅れる原因となる。本人訴訟に於いては、セカンドオピニオンに任しておくのが一番である。まして受傷後、セカンドオピニオンが患部に手を入れようものなら、責任転嫁を免れようと必死に証言してくれるはずである。

 原告である貴方は、受傷後の後遺症が残った結果に重点をおいておけばいいのだ。裁判官も医者ではない。どうしてそうなったのかも認識しておく必要もあろうが、下手な素人証言になるだけであろう。だからこそ、被害者にとって辛い後遺症を訴えることが、裁判官の心に一番届きやすいところとなる訳だ。


 『提訴』

 この書は本人訴訟の為のノウハウを綴ったものである。弁護士に意見を求めたら、「提訴は下手なやり方で、相手側を完全否認させるだけだ」などと言われ、鬱陶しい調停から始められることだろう。しかし私から言わせれば、時間のロスとしか思えない。たとえ相手側が全面否認しようが、提訴は一番の方法であるというのに変わりは無い。現に後遺障害が残っているのであれば、その手術以外で後遺症が残るはずが無いと、消去法を徹底して押し通すやり方が、素人による本人訴訟の強みでもある。

 セカンドオピニオンが患部に直接治療を施してくれていたりしたら、それこそ医者同士の対決になるだろう。こうなれば、弁護士の介入する部分は極端に少なくなる。だからこそ初めから外して考えればよい訳だ。弁護士費用に大金を投じるぐらいなら、訴訟額を大きくして印紙代に投入する方が、経済的に困窮している者には有利に働くこともある。

 少ないリスクで訴訟を進めていくには、弁護士費用を外して考える方がいい。ただし、訴求額に対する印紙代には、大枚を惜しんではいけない。弁護士費用につぎ込むぐらいなら、印紙代に投入すべきである。

 さて、経済的に困窮しているのを証明できれば、と言っても事故が原因であることが重要だが、それが認定されれば仮払い仮処分と言う方法が功を奏する。これは申請してから一ヶ月ぐらいで結審される。額面の大小に関わらず、認められると言うことになれば、大きな先制攻撃になる。少なくとも裁判官が被告の過失を一部は認めたことになる訳だから。それを覆すと言うのは、相手側を後手に回らすことが出来る。

 さらに、印紙代に掛かる費用さえも、後回しに出来る方法もある。これは訴訟救助付与と言う方法だが、仮払い仮処分申請と同時に出しておくのも効果的だろう。両方認められることになれば、さらに有利な裁判運びが可能だとも考えられる。

残るは訴訟救助付与申請である。添付書類が揃えば試すべきである。

 さて、これの決定が下りれば、いよいよ本訴である。訴状作成の手順を説明していこう。
まず表2の後遺障害等級表から、等級に値する労働能力喪失率を見る。例えば9級ならば35%となっている。これと、表○の年齢別の就労可能年数に対する新ホフマン係数、それと年収、これらのデーターから免失利益が算出される。

 細かいところなどは、専門書を読めば素人でも分かることなのでここでは省く。

 たとえば、初めに弁護士を使っていたとしても、提訴にまで及んでいなければ着手金も25万〜30万くらいだろうか。それさえも苦しい状況であれば、裁判所敷地内に扶助協会という所がある。ここでまず弁護士を紹介してもらえばいい。着手金さえも分割払いにできる。条件としては、経済的に困窮している事の証明と「裁判に勝てないとはいえない事件である」と認められなければならない。

たいていは調停から始められる事だろうが、この時の文書をよく読めば、おおかたの法律用語も理解でき、後々本人訴訟に転じる時にも流用する事が出来る部分が多い。あとは、弁護士がいい加減であったりしたとき、思い切って解任すればよい事である。

(いくぶん重複する部分があったでしょうが、許されたし)

 2003.7.21 by東道武志