尼ヶ崎市教育委員会との話し合い

2010年3月に起こった、尼崎市内の少年たちによる野宿者襲撃事件について、野宿者ネットワークも参加する「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」は、尼ヶ崎市教育委員会と話しあいを継続し、12月13日に、3回目の話し合いを持ちました。
 3月29日午前0時50分ごろ、尼崎市立中3年の男子生徒2人(いずれも14歳)が、尼崎市南武庫之荘の武庫川河川敷で野宿生活をしていた65才の男性のブルーシートのテントに石を投げ、男性がいるのを確認した後、ライター用のオイルをまいて火をつけました。少年たちは、「以前からホームレスらに石を投げつけていた。男性が投げ返してきたので、腹が立って火を付けた」と言っています。男性は逃げて無事でしたが、2人は「死んでも構わないと思った」と話しており、尼崎北署は未必の殺意があったと判断し逮捕したと報道されています。
 この事件に関して、尼崎市教育委員会は「『人の命を軽んじる行為で、あってはならないこと。事態を真摯に受け止め、人権教育を徹底していきたい』とし、生徒や保護者らに対し、道徳教育などを通じて人権の大切さなどを訴えていく」と報道されています(神戸新聞)。しかし一方で、「道徳教育などを通じて人権の大切さなどを訴えていく」とあることについて、そうした一般的な人権教育や道徳教育で、襲撃問題を解決していけるのだろうかという危惧がありました。具体的な教材も実践のプランがない中、教育現場ヘの指導がかりに「暴力はいけません」「命を大切にしましょう」という呼びかけだけで終わってしまえば、児童生徒はこの問題を受け止めることができず、今回のような事件は今後もくり返されるのではということです。
 12月13日の参加者は、
生田、まーこ(ふるさとの家)、青木(神戸の冬を支える会)、砂脇(尼ヶ崎貧困問題研究会)、西部(弁護士・ホームレス部会)
市教育委員会からは、人権教育、指導部、教員研修の担当者4名。
▼市教育委員会
当事者の少年一人は、事件前から引っ越しの予定があり、市外へ引っ越した。彼は引っ張られた方で、反省も強かったと思う。もう一人は、学校に戻った。問題行動はいまもあり、保護者と連絡をとりながら指導にあたっている。
▼市教育委員会
教育長から全校長に「この問題についてこどもたちに話をするように」と指示した。また、すでに話したように、「いのちを大切に」という教育委員会が作成した資料を配付した。
その後、いくつかの学校で、「野宿の問題について授業をしたい」という先生がいて、授業を行なっている。
7月12日 U小学校で6年生1クラス
15日 O小学校で6年生1クラス
14日 T中学校で2年生
15日 O中学校で2年生
O中学校は、以前に梅田で野宿しながら詩を作っていた故ツネコさんを学校に呼んで授業をしたことがある。資料を先生たちが自ら作り、意欲的な授業だった。
▼市教育委員会
教員対象に「いのちの大切さ」についての研修を行なった。
必修研修で1年目の教員92人対象。
選択研修では、381人(うち小学校345人)。教育委員会から講師にお願いし、野宿の問題も取り上げてもらった。
▼そうした授業の資料をだしてほしい。そうした授業を行なった先生たちと連携したい。
▼市教育委員会
出します。
▼6日〜10日に立花公園で炊き出しや法律相談会を行なうので、先生たちにも来て欲しい。そうした情報を伝えてもらいたい。
▼市教育委員会
連絡します。
ホームレスにとって住みやすい社会はわたしたちにとっても住みやすい社会だ。こどもの感想文には、野宿の人たちといい出会いをした内容があって、感激している。
▼夏休み前に出すこどもたちへの「しおり」はどういうものだったのか?
▼市教育委員会
これです。(2ページの諸注意の中に、「ホームレスの人たちへのいやがらせをしないようにすること」とだけあった)
▼これでは、教育委員会としてのこの問題への取り組みの意志が見えないです。
▼授業をした先生たちは、DVD「ホームレスと出会うこどもたち」は知っているのだろうか?
▼市教育委員会
小学校の先生は見ているが、授業では使わなかったようだ。
▼当該校の取り組みは?
▼市教育委員会
去年に続いて、海外のストリートチルドレンについて学んでいる。
▼市教育委員会
学校とみなさんをつなぐようにしたいとは思っている。
▼この事件を知って、心を痛めている先生たちに、授業の情報やDVDなどの教材を伝える機会を作りたい。
そのためにも、「いのちの大切さ」という研修よりも、「野宿」「障害」「性的少数者」といった的を絞った研修を行なうのがいいのでは。また、当該校が「海外のストリートチルドレンについて学ぶ」のはいいことだが、こうした事件のあとでは、いかにも不自然では。
▼市教育委員会
そうした個別の内容だと、研修に人があまり来なくなるという現実がかつてあった。そのため、一般的な内容でお願いしている。
▼大阪市の「教育センター」や姫路市が独自に「野宿問題の資料」を作成しているが、尼ヶ崎市では作らないのだろうか?
▼市教育委員会
予定はない。野宿者のことだけでなく、他の問題についても作っていない。
▼青木
他の学校に「O小学校、U小学校などでこういう野宿についての授業がありました」というお知らせはしないのだろうか?
▼市教育委員会
考えています。人権担当教員の集まりがあり、そこで話すつもり。
▼「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」は大阪市、千代田区、江戸川区の教育委員会と話し合ってきたが、どこでも教員研修でのDVDの上映など、もっと踏み込んだ対応をしてきている。尼ヶ崎市としても、もっとがんばってほしいのですが。
▼市教育委員会
うーん、そうですね(という内容を10分ほど)
▼当該校のこどもたちは、事件について学校から聞いているのか。
▼市教育委員会
教育委員会→校長会→生徒という流れで伝わっています。
▼当該校では、保護者に対して、この事件について説明を行なったのだろうか。また、生徒に対して、こういう事件が起こったことについて、学校としてこう考えている、という説明はあったのだろうか。
▼市教育委員会
そういう話は聞いていない。確認します。
わたしたちとしては、学校とみなさんをつなぐようにしたいと思っている。今後も情報交換などをしていきたい。
▼今後も継続的な話合いをお願いします。

いくつかの小中学校で、自発的に 野宿問題の授業が行なわれたことには、とてもホッとしました。内容もよかったようです。そうした授業をした先生たちと連絡を取りたいとは考えています。
一方、当該校については、おそらく具体的な対応は全くされていません。事件は「なかったこと」にされているに等しいと思います。
また、考えてみれば、市教育委員会としての具体的な取り組みはほとんどありませんでした。話し合いで直接言ったように、尼ヶ崎市教育委員会は他の教育委員会と比べ、消極的な対応のままでした。
ただ、市教育委員会の中で、個人的に襲撃や「野宿問題の授業」に関心を持ち、情報を集めて、尼ヶ崎で行なわれた授業を見学して、先生たちと資料を交換する人もいました。全体として動きが取れない中で、できる限りのことはしたいという思いは感じられました。
今後も、話し合いを行なうことになると思います。

戻る