[CHELSEA]
written by ZIGYAKU (BASTARD , JUDGEMENT)





★『まえがき』

6月のある日、向井から連絡が来た。
今年は新型コロナの影響でチェルシーの日のライブが開催できないので、座談会を開いてYouTubeで生配信をすることになった、ついては俺にも参加して欲しいとのこと。
とても良い試みだとは思ったけど、如何せん、そういった場が苦手であり、ましてやチェルシーについて【生配信】で喋るなんて高いハードルは、俺にはクリア出来る気がしないので辞退させてもらった(笑)。

んが、せっかくなので、この機会に俺の記憶にあるチェルシーに関する想い出話を文章に残してみようかなと言う気持ちになり、思いつくままに書いてみることにした。
色んな人が語る話を通じて、チェルシーという人がどういう人物だったのかを、知ってもらう一端を担えればこれ幸いである。





★その1『出会っちゃったよ』

最初に出会ったのは、デスサイドが初めてツアーで広島に来た時だった。
それまでにも、愚鈍で東京に行った時等に、何度か見かけたりはしていたけれど、ちゃんと話をしたのは広島ライブ後の打ち上げの席だった。


「自虐くん、奇形児が好きなんだろ?俺も大好きなんだよ」


これが、チェルシーが俺に話しかけてきた第一声。

以前、ミニコミ「修羅」のインタビューで、俺がそう答えたのを読んだらしい。
そう声を掛けられた時の正直な印象は「ふん、どうせたいして好きじゃないんだろ?このメタルあがりが」
みたいな偏見だった。


あとでチェルシーに聞いた話では、向こうもインタビューを読んだ時に
「はあ?どうせ上っ面で好きって言ってるだけだろ?エセファンが!」
と、思っていたらしい(笑)。


で、そこから奇形児談議が始まったのだけど、

「あの曲のあそこの歌詞がすっげー好きでさ」とか、

「あのイントロ聞いただけでウォーっ!てならん?」だの、

「音源になってないけど、『小心者』ってすげーいいよな」などなど、まあ、意見の合うこと。


極度の人見知りの俺に対して、チェルシーは他人に対して全く壁がないと言うか、相手の全部を受け入れる不思議な人間で、それもあってか、すぐに打ち解けて色んな話をした。


こうして、お互い奇形児ファンとして認め合った。
んな訳で、つまり、俺とチェルシーは友達になったのだった。


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★その2『永福町〜ash to ash』

その後も、東京〜広島と離れてはいたけど、よく電話で長話をしたり、ツアーで行き来した時は必ず一緒に遊んでいた。


しばらくして、俺が上京することを決めた時もとても喜んでくれて、色々と相談にも乗ってくれた。


そして上京した俺は、杉並区永福町のアパートに住み始めた。
越したその日に、チェルシーと石屋が引越し祝いに遊びに来てくれた。
一緒に、まだそんなに知り合いではなかったガゼルやヒロシも来てくれていたと思うけど、その辺りは少し記憶があやふやである。


で、ひとしきり酒を飲んで語らい、夜中になってガゼル達は帰って行ったのだけど、石屋とチェルシーはそのまま泊まって、さらに飲み明かした。
次の日も、その次の日も、ひたすら飲み明かした。
1週間経ち、2週間が経ってもまだ飲み明かしていた。
たまに、スタジオやライブハウスに出かけては行くのだが、夜には「行っていい?」と、電話があり、またやって来て飲み明かした。
ひと月が経つ頃には、電話も寄こさずに「ただいまー」と言って、帰ってくるようになった。


その辺りで俺は思った。
『はは〜ん、コイツらここに住んでるな?』と(笑)。


それから数ヶ月、いや、もっとかな?
とにかくずーっと、一緒にいた。
チェルシーは家があったから、たまに帰ったりもしてたけど、いつもすぐにまた戻ってきた。
そこに、様々な人間が入れ替わり立ち替わり遊びに来るようになり、ノリ、ロンリー、ユウ、飯、マドコンや、パイルや、まつじのメンバー、トク、ゴチョウ、リキ、ヤシマetc...とにかく常に人がいた。

つまり、上京したその日からウチは溜まり場になったのだった。
んな馬鹿な。
ただ、隣の号室には向井が住んでいたのだけど、アイツは何故か、ほとんど来なかったな(笑)。


で、毎日何をやっていたかと言うと、ひたすら酒を飲み、馬鹿話をし、レコードを聞き、音楽やバンドの話をし、夜な夜なライブハウスに出かけ、お互いのスタジオやレコーディング、地方ツアーに用もないのに付いて行ったりと、とにかく音楽浸けの毎日だった。


あ、それと、ファミスタを狂ったようにやっていたな。
ひと晩かけて、6人の総当たり戦をやったこともある。
6人総当りってのは、ひと試合20分でも5時間かかる。
で、最下位の者が、向井の部屋から人数分のタバコをくすねてくるという、不毛な罰ゲーム。
暇人、ここに極まれりである。


特にチェルシーとは、いつも色んなハードコアパンクのレコードを聞いては、

「いやー、やっぱりカッコいいな〜」

「このシングルの曲、知らなかったけどスゲーな」

「どうやったらこういう音質に仕上がるんだろな?」

等と、話していたのだけど、ある日、当時沢山リリースされていた、海外の無名のハードコアパンクバンドを多数収録した、オムニバスを聞いてみようという事になった。
その手のレコードも、何枚も持ってはいたのだけど、殆どが1回聞いたっきりで棚で眠っていたので、今聞くとカッコいいと思うバンドが見つかるかもしれないから、掘り起こしてみようぜ、というノリで。


結果、確かにカッコいいバンドを再発見出来たりもしたけれど、ぶっちゃけ、あまりピンと来ないバンドも少なからずあった。
そのうち、どちらからともなく点数を付けては、その理由を言うという遊びに変わり

「40点。最初のガア゛ーーーーッッッッッ!!って叫びが気合入ってるから」

「67点。曲はつまらんけど、ソロの前のブレイクが超カッコいいから」

「52点。とにかく、力一杯ドラムを叩いているから」

と、基本良いところを発見して評価する流れだったのだけど、どうしても褒めるところが見つからないバンドもあって、段々と

「15点。メンバーの名前が面白いから」

「21点。ボーカルが親孝行だから」

等と、フザけた内容になり、さらにピンとこないバンドには

「2点。パンクだから」

「2点。パンクに0点のバンドがあるわけないから」

みたいな事になって、延々とやっていた。


思えば、あのアパートでの他愛もない遊びや、チェルシーをはじめとした皆と過ごした時間が、その後の俺の曲作りやバンド活動に、大きな影響を与えてくれたようにも感じている。


今でも、あの頃の事は本当に楽しかった記憶として、残っている。
数年後に、他所に引っ越した一週間後に、火事で全焼して灰になってしまったけどね。


ash to ash。


今では、チェルシーも灰になってしまったけれど、灰は決して無と同義ではない。
何かが燃えた証である。



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★その3『何者?』

チェルシーってどんな人だったの?
そう聞かれたら、なんて答えるのが良いだろうか?

俺にとっては、ありきたりな言葉ではあるが、

『友達』『仲間』『戦友』『親友』『盟友』『悪友』『ライバル』etc...
であった。


でも、チェルシーを直接知らない人に、アイツの人となりを伝えるとしたら、どういう言葉が良いだろうか?
ちょっと、幾つか考えてみた。


《悪意がない人》
少なくとも俺は、チェルシーが悪意を持って人と接しているのを見たことがない。
勿論、俺に対してもそうで、悪意を向けられたと感じた事は、1度もなかった。
誰かに対して怒りをぶつけている場面は、何度も見た事があるが、それは純粋な信念やアイツなりの正義から来るもので、悪意とは違ったと思う。
例えば、嫌いな奴や気に入らない後輩に向かって、何か意地悪をしたりとか、嫌味を言ったりとか、そういう些細な事すら、俺は見たことがない。
前に挙げた、他人に対して壁がないというのも、きっとそういう人間性から来ているのではないだろうか。
誰とでも対等な目線で、相手の全てを頭ごなしに否定せずに受け入れて、変化球無しで、本音で向き合う。そんな人だったな。
思い出補正が働いているのかも知れないけど(笑)。



《クソ迷惑な奴》
これはきっと、身近にいた人になら分かってもらえるだろう。
自由奔放さからなのか、自分が他人を受け入れるから他人も皆そうだとでも思っているのか、とにかく常識とは掛け離れた言動が多く、なんでそんな事すんの?って事が多々あった。



数あるエピソードの中でも、俺が未だに忘れられない事がある。
2年ローンを組んで買ったばかりのマーシャルのアンプを、デスサイドのツアーで使いたいからと、ひと夏貸してやったときの話だ。
ツアーを終えて、帰ってきた俺の新品のアンプは、何十年も使い込んだかのようにボロボロになっていた。あ然、呆然、愕然である。


まず、傷がつくのを防ぐ為のビニールカバーが邪魔くさいからと、すぐに捨ててしまったらしく、クッションも敷かずにワゴンに積み込んで全国を走り回った為、アンプに貼ってあるトーレックス(例の革みたいな黒い素材)が数十カ所にわたって剥がれていた。
ボリュームのツマミも幾つか無くなっていて、金属棒が剥き出しになっていた。つーか、1本折れていた。
ヘッドとボトムには、それぞれ《デスサイド》と書いたガムテープが貼ってあるのだが、熱で溶けてベトベトで剥がせない。
極めつけは、自分のセッティングの目印の線を。油性マジックで。直接。アンプのメモリに書き込んであったことだ。
何故、他人のアンプに自分のセッティングを、油性ペンで書くんだお前は?

シンナーで消そうにも、元々のメモリまで消えてしまうので、未だに俺のアンプには、チェルシーのセッティングメモリのインキが残っている。
さらにムカつくことに、奴の音作りはミドルメインの分厚い音で、俺の音作りは低音高音を上げた、ザクザクのドンシャリ音である。
全く真逆の位置に書き込んである目印は、心の底から鬱陶しい。


石屋は「スマン、弁償するからさ、、」と、申し訳無さそうだったが、チェルシーは「また借りるとき便利だし、まあ、いいじゃん!」と心の底から楽しそうに笑っていて、結局死ぬまで謝らなかった。
やはりクソ迷惑な奴であったのは、間違いない(笑)。



《足立のモーツァルト》
なんだか知らないが、アホみたいに曲を作る男だった。
デスサイドの時も、次から次に作り過ぎて、メンバーがスタジオに入っても入っても、追いつかない位作っていた。
実際に、レコーディングはしたけれど世に出さなかった音源だけでも、アルバムが数枚分作れるくらいはあったんじゃないかな?
それに加えて、ピーチクスや、セッションバンドやソロの曲、その後のPAINTBOXに至るまで、洪水のような勢いで曲を作り続けた。
おそらく、俺が1曲作る間に、奴は50曲位作っていたんじゃないだろうか?
スランプに陥ったのも、1度も見たことがない。
とにかく、アホみたいに曲を作る男。
それがチェルシー。
傍で見ていて、俺は思った。


キダ・タローかお前は?


という訳でここに『足立のモーツァルト』の称号を授けたい。
生きてたら嫌がるだろうな(笑)。
まあ、天才だったよね、やっぱり。





《???な人》
んでは最後に、最早どう形容していいか分からない、小エピソード等を幾つか書き連ねてみる。


元々は、とてもお洒落な男前だったのだが、段々と見た目にこだわらなくなり、冬でも便所サンダルを履いていた。
折れた眼鏡のフレームは、割り箸で代用していた。
あまりにも頭を洗わないので、とかしたクシが抜けなくなり、くっついたままになっていた。


愛用ギターも、最初は白いフライングVにこだわっていたけど、投げて壊れてからは、人がくれるギターを何でも使っていた。
それでも毎回、同じ音を出していた。


そのうち、出演ライブに手ぶらで来るようになり、対バンの人にギターを借りて弾いていた。
それでも毎回、同じ音を出していた。


ギターに貼ってあるステッカーに豆粒ほどの膨らみがあり、気泡かと思って押してみたが固かったので、不思議に思い、聞いてみた時の会話。
「これ何?」
「ゴキブリ」
意味がわからない。


黒崎マーカスでのライブ後、「サンキュー!グンナイ!」と叫び、カッコよく客席に飛び込んで退場したが、目が悪いため鏡張りの柱に激突して、少し照れていた。


頭の回転がとても速く、ユーモアに溢れていて、話はいつもとても面白かった。


自然が大好きで、旅が大好きで、人が大好きだった。


ギターが大好きで、パンクが大好きで、音楽が大好きだった。


あ、そうか、なんて言えばいいのか分かった。
チェルシーとは、
《愛すべき人間》
だったんだと思う。




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★『あとがき』

長々と書いてきたけど、どうだろう?
少しは、チェルシーの人物像が伝わっただろうか?
え?
やっぱり、よくわからない?
そう、それがチェルシーなのかもしれない(笑)。


晩年は、お互いの家も遠くなり、会う機会も少なくなっていたのだけれど、亡くなる3日前に、偶然チェルシーと遊ぶことができた。


ミキオを飲みに誘ったら、丁度チェルシーと一緒にいたらしく、そのまま合流し、カラオケに行き、ミキオの家に泊まって飲み明かした。
朝、起きたときに、その晩の俺のイビキと寝相がいかに酷かったかを、物凄く楽しそうに何度も話していたっけな。


夕方、駅まで一緒に歩いて、別れ際に交わしたのが、チェルシーとの最後の会話だった。


「藤井!ラーメン食べたい!ラーメンおごってくれ!」

「嫌だね、帰れ」


奢ってやっとけば、良かったかな。



2020/jul.

ZIGYAKU


※日記のようなつもりで書いたので、文章内に出てくる個人名、及びバンド名は、普段、呼び合っている呼称を使わせていただきました。




【BASTARD / LIVE IN OSAKA】

https://youtu.be/KH87J18xBYE

2010年6月20日に大阪にて行われた、BASTARDのREUNION LIVEを収録。
※9月15日にて配信終了予定。
※売上全額がEARTHDOMへのドネーションとなります。

〈御購入は此方↓〉
https://earthdom.thebase.in




2020.08.17 (月)
「BURNING SPIRITS〜CHELSEAの日」配信トークライブ

【出演】
・GAZELLE (ASYLUM)
・HIROSHI (ASYLUM)
・KATSUTA (ex.鉄アレイ / EXTINCT GOVERNMENT)
・KAKI (鉄アレイ)
・ORI (PILE DRIVER、DEATH SIDE)
・MUNE (ex.PAINTBOX)
・SHINTANI (RAPES)
・REE(RAPES)
・BENKEI(MUSTANG / CRUDE / DEATHSIDE)

【MC / ナビゲーター】
・ISHIYA (FORWARD / DEATH SIDE)
・MUKA-CHIN (SLIP HEAD BUTT / DEATH SIDE)

DEATH SIDEのCHELSEA在籍時の秘蔵映像、PAINTBOXの未発表映像も放映あり。

CHELSEAの日 トークライブ
アーカイブ購入 (8月20日 21:00まで)
https://loft-prj.zaiko.io/_item/328098