あたしが触れると。
   いつからか、震えるようになった。








   …。


   …。


   …寒い?


   …。


   エリス。


   …。


   ……怖い?


   う、ううん…。


   …。


   ナディ…。


   …キス、いや?


   いや、じゃ、ないよ…。


   …本当に?


   う、ん…。




   そうは言うけど、震えは止まらない。
   その小さな背中に手の平を置いた時から、ずっと。
   けどそれでも、あたしの背中に、こわごわとだけど、腕を回してくれるから。
   弱々しいけれど、きゅっと髪の毛を掴んでくる、その仕草がどうしようもなく愛しいから。




   …。


   …ナ、ディ。




   今直ぐにでも自分のものにしてしまいたい、そんな強い衝動。
   それは今まで誰にも持った事のない感情で。
   思えば、あたしこそ、いつからだったのか。
   あの旅をしていた頃、触れて、触れられて。
   キスだってした。何度も。舌を絡めるような、深いキスも。
   恋人同士がする、情交のような、真似事すらも。
   そう。
   その頃はまだ、この子は震えていなかった。
   この子が躰を寄せてくれば、あたしはそれを受け入れた。
   あたしが引き寄せれば、この子はあたしに身を任せた。
   あの頃は、それが当たり前で、とても自然なことだった。

   それが…いつからか、この子はそうしなくなった。
   そして、あたしは…いつからか、触れる行為の中に強い感情が伴うようになった。




   エリス…。


   …ぁッ。




   耳元で熱い息と一緒に名前を呼ぶ…と。
   びくりと、一際大きく震えた。
   それから回された腕が強張る。ぎゅうと髪の毛を掴まれて、少し痛い。




   ……。


   ……。




   胸のふくらみに左手を、そっと、置く。
   息を呑む声が、耳朶を掠めた。
   壊さないように、怖がらせないように。
   なるべく、そっと。




   …エリス。


   ……。




   胸の、ふくらみ。
   その頂きにある、もの。
   布一枚隔てていても、分かる。
   確かにそれはあたしの手の中で硬くなっていた。
   花の蕾のよう、なんて形容は、あたしには思いつかない。
   指で抓むと、小さな悲鳴が上がった。
   瞬間、口の中に、含みたくなる。
   含んで、舐めて、転がして、吸って、歯を立てて…。




   ……。


   ……。




   震えてる。
   泣いている。
   止まらない。
   …先には、進めない。




   …もう、寝よっか。


   …。


   明日もいっぱい走るから。


   …ナ…ディ。


   ん…?


   ……。


   …大丈夫。


   う、ん…。




   ぽんぽんと背中を叩いてから、か細い躰を離した。
   それから宥めるように頭を撫でてやる。
   さっきまで震えていたのが嘘のように、頬を染めて薄く微笑むエリスはやっぱりとてつもなく可愛い。
   再び腕の中に収めてしまいたい衝動に駆られるけど、それをぐっと、無理矢理、押し込める。




   …よし。
   じゃあ、寝ようか。


   …。


   おやすみ、エリス。


   …おやすみなさい、ナディ。














  L i f e  i s  L i k e  a  B o a t .















   わたしの躰の中には魔女の血が流れている。








   エリス。
   ほら、見てごらん。


   なに?


   浴槽がある。


   …ほんとだ。


   浴槽、か。
   いつ以来だったかな。


   …よかったね。


   あんたは良くない?


   わたし…?


   そう。


   …。


   考えること?


   …ナディがうれしい、なら。


   …。


   …。


   エリス。


   …きゃ。


   そんなに脅かせた?


   ……いきなり、だから。


   いきなり、か…。


   ……。


   あのさ、エリス。


   …なに。


   一緒に、入ろうか。


   …え。


   たまには…さ。


   ……。


   まぁ、初めてだけど。


   ……ナディ。


   荒野の中、浴槽つきの捨てられた家なんて、そうそうない。
   まぁ、お湯は出ないだろうけど。


   ……。


   だから…。


   ……。


   …エリス。


   ……いや。


   …。


   …。


   …ま、いいけど。


   ……。


   そんな顔、するな?


   …。


   ……あたしに触れられるの、嫌なのは分かったから。


   え…。


   あたしの手は、汚れてる。
   おまけに血生臭い。
   だから、遅かったくらいだ。


   ナ、ナディ…。


   …どうにも、ならない。


   …。


   だから、


   ナディ。


   …。


   …ちが、う。


   …。


   いやじゃない…。


   …。


   いやじゃ、ないの…。


   …旅が終わるわけじゃない、なら。


   …。


   あんたがいなくなるわけでもない、なら。


   …。


   …あたしはそれで十分だ。


   ナディ…。


   …そんな顔、するな。
   あたしは大丈夫だから。


   …。


   ……。


   …ナディ。


   よし。
   それじゃとりあえず、シャワーを浴びて、それからごはん、に…


   …。


   ……エリス。


   …き。


   …。


   ……すき、だから。


   エリス…。


   …だから。


   …。


   いっしょ、に…。


   …無理、しなくていい。


   …。


   無理強いは、させたくない。


   …じゃない。


   …。


   いや、じゃないの…。


   …それはさっき聞いた。


   ナディ…。


   先、入っておいで。


   …。


   …エリス。


   ほんとう、は…。


   …。


   ……うれしい、の。


   …うれしい?


   ナディに、さわられて…わたし、ずっと、うれしかったの…。


   ……。


   …でも、わたし、きがつかなくて。
   ずっと、わからなくて…でも、いつからか、わかったの。
   わたし、あなたが…ずっと、あなただけに…。


   ……。


   だから、ほんとうは…もっと、……。


   …。


   ……もっと、さわって、ほしいの。


   ……。


   だけ、ど…なの、に。


   なら、いい。


   …え。


   シャワー、行っておいで。
   浴槽は…また、いつか。


   …で、も。


   きりが、ないから。


   きり…。


   エリス、お腹空いた?


   …おな、か。


   そう、お腹。
   あたしは空いてきた。


   ナディ…。


   …急がないから。


   ……。


   で。
   お腹、空いた?


   ……すこ、し。


   よし。
   じゃ、腹ごしらえしよう。
   シャワーですっきりしてから、それから。


   ……いえっさ。


   て、水出るかな。


   ……あ。


   まぁ、出なかったら。
   いつも通り、拭くだけで。


   …うん。








   わたしは、創られた存在で。
   あなたは、普通の人間で。
   わたしは、魔女で。
   あなたは…どこまでいっても、普通の人間で。

   そして、それは。

   変えようのない、事実、で。








   ……。


   エリス。


   ……。


   何か、掴めそう?


   ……。


   ん。


   …?


   夜は冷える。


   ……ありがとう。


   はは。


   …?
   なに…?


   ありがとう。


   …ナディ?


   すんなり、出てくるようになった。


   …。


   あたしもいい?


   …いい?


   隣。


   ……。


   だめ?


   …ううん。


   ありがとう。


   …ありがとう。


   そ、ありがとう。


   …どうして。


   許可、くれたから。


   …。


   ついでに、一緒にくるまろうか。


   …。


   毛布。


   …ナディが、つかって。


   それじゃ、意味ない。


   …いみ?


   二人の方があったかい。


   ……。


   エリス。


   ……でも、わたし。


   なに?


   …つめたいよ。


   今はそうでも。


   …。


   …あったかくなってくるよ。
   二人なら。


   ……。


   …あんたが教えてくれたことなんだけど。


   ……う、ん。


   …。


   …。


   …エリス。


   あ…。


   …距離、取ろうとするな?


   して、ない…。


   …じゃあ。


   …。


   …あたし、あったかい?


   ……。


   …こうしてれば、エリスにあげられる。


   ナディ…。


   …あたしの、熱。


   ……。


   ……。


   ……。


   …星、掴めたら。


   …。


   あんたに、あげるんだけど。


   …。


   髪につけてさ…きっと、良く似合う。


   ……とどかない、から。


   うん。


   …。


   …けど、あげられたらいい。


   ……ナディ。


   …。


   …ぁ。


   ……エリス。


   だ、め……。


   …。


   ナ……ん。


   ……。


   …ナ、ディ。


   エリス……。


   …ん、ん。








   わたしは、人じゃない。
   あなたと、同じじゃない。


   それが。








   ……。


   ……。


   …エリス。


   ……。


   エリス…顔、上げてよ。


   ……。


   …もう、しないから。


   ……。


   …エリス、空はさ。


   …。


   届かないけど、いつでもそこにあるもの。
   どんな天気でも、いつだって、変わらずそこにある。


   …。


   …あたしはさ、エリス。


   …。


   いつでもここにいて、届くところにいるから。
   あんたが手を伸ばせば、すぐ。


   …。


   …伸ばしてくれたら。
   あたしはその手を掴んで、その躰を引き寄せるから。


   ……。


   …離さない、何があっても。
   でも…。


   ……ディ。


   ん…?


   …。


   …あたしは。


   …。


   あんたが、好きだから。


   …っ。


   …好きだよ、エリス。


   や……。


   ……。


   …み、み。


   …。


   みみ、だめ…。


   …ん。


   ……。


   明日はどこまで行こうか。


   …。


   …あんたが、いれば。
   あたしはそれで、それだけでいい。


   ……ナディ。


   あんたも同じなら、嬉しい。


   …ばか。


   …。


   ……そんな、の。


   …そんなの?


   ばか…ん。


   ……。


   …も、う。


   ごめん…したい。


   や、だめ…んぅ。


   ……。


   ナ…ィ…。


   キス、だけだから…。


   ……うそ、つき。


   …。


   …なかに、はいってくるくせに。


   …。


   ……。


   …こういうキス、は。


   ……。


   あたしは…あんたに教えてもらった。


   …うそ。


   嘘じゃない…。


   だってわたしは、あなたに……。


   …。


   …あなたに、おしえてもらったのに。


   …どうしようも、なくなる。
   こんなの、知らなかった…。


   ……、か。


   あんたが、教えてくれるまで……知らなかった。


   ばか…ばか…ば、んん。








   わたしは、あなたが、すき。
   いつしか、きがついた。
   だから。
   あなたが、わたしをみていること。
   そのひとみが、てが、とてもあついこと。
   もとめられている、こと。
   とてもとても、うれしかった、こと。
   からだがやけてしまうくらいに、こころが、とけてしまうくらいに。


   だから、きがつきたくなかった。
   あなたをすきなわたしも、わたしをあいしてくれるあなたも。
   おぼれてしまいそうなキスをしているあいだ、も。


   …だって、わたしは。
   わたしは…。








   ……エリス。


   …。


   寒い…?


   ……。


   …。


   ……、で。


   なに…?


   …あまり、しないで。


   …。


   じゃないと…。


   …じゃないと、なに?


   ……。


   …こういう事、初めてだから。


   …?


   恋人とか…そういうの、知らなかったから。


   こい、びと…。


   …した事も。
   された事も、ないから。


   ……。


   …だから、うまく出来ない。
   震えてるの、分かってるのに…。


   …ナディ。


   嫌なら、しない…したくない。


   …。


   でも……あたしは、あんたが欲しいから。
   欲しくて、おかしくなりそうだから…。


   …。


   …待ってる、つもりだった。
   でも…。


   ……。


   …ごめん。
   こんな事言えばあんた、が…。


   ……ごめんなさい。


   …。


   くるしめて、ごめんなさい…。


   …構わない。
   エリスだから。


   …よくない。
   よくないよ…。


   …。


   …きずつけたく、ないのに。
   くるしめたく、ないのに…。


   …。


   …もとめられてること、しってるのに。


   あんたは。


   …。


   あたしを、もとめてる…?


   …ぅ。


   …もとめて、くれてるなら。
   こんなに嬉しい事は、ない…。


   ……。


   …さぁ。
   もう、寝ようか…。


   …わたしは。


   …。


   ナディが、ほしい…ほしくて、ほしくて。


   …。


   …キス、してるだけで。
   て、つなぐだけで…わたしは、わたしじゃなくなってしまいそうで。


   …。


   …それで、あなたのわたしになれるなら。
   なくなってしまえば、いいのに……。


   …。


   …わたしは、あなたのわたしに、なりたい。


   …。


   なのにどうして…どうして、なくらないの…。


   エリス…。


   …まじょのわたし、なんか。
   にんげんじゃない、あなたとちがう、わたしなんか…


   …エリス。


   わたしは、あなたとちがう……。
   ちがうのが…いたい、くるしい。


   …。


   どうして、わたしはつくられたの…。
   どうして、わたしはあなたといっしょじゃないの…。


   …。


   おなじに、なりたい…。
   まじょのわたしなんか、なくして…。


   …なくなって、しまったら。
   あたしは、悲しい。


   …。


   あたしは今の、あんたが好き。
   今、泣いてるあんたが好き。


   …でも…でも。


   今のままのあんたを、あたしは抱きたい。


   ……。


   …。


   ……こわい、の。


   …。


   だかれて、やっぱり、ちがって…。
   それで、あなたに、きらわれてしまうのが。


   エリス。


   ……あなたとはちがう、わたしをみられるのが。


   …。


   こわい…こわいの…。


   ……。


   …ごめんね。
   すきになって、ごめんなさい…。


   そういう事、言うな。


   …だって。


   言うな。


   わたしが、ナディをすきにならなかったら


   そんなの、関係ない。


   あ…。


   あたしは、あんたがあたしを好きになってくれたから、あんたを好きになったわけじゃない。


   ナ、ディ…。


   エリス、あたしはあんたを愛してる。
   たとえ、あんたがあたしを好きにならなくても。


   あぁ……。


   …。


   ……。


   …初めてのキスをした時。
   あれは、酷かった。


   ……。


   …何も、分からないまま。
   その時の感情に流されたわけでもない。
   ただ、あんたの懇願を聞きたくなかった。


   …。


   …でも、あんたはあたしを拒まなかった。
   だから、あたしは…。


   …。


   …あたしは、あんたが愛しい。
   受け入れてくれた、あんたが、この世界の誰よりも愛しい…。


   ナディ…。


   エリス。


   …。


   今すぐ。
   あんたを、抱きたい。


   …。


   うまく出来ないと思う。
   それでも、あたしはあんたを抱きたい。


   …。


   あたしはあんたが好きだから。
   あんたが欲しいから。


   ……。


   エリス。
   どんなあんたでも、あたしは。


   ……ぁぁ。








   震えている。
   あたしの下で。
   曝け出された肌を、胸を両腕で隠して。
   視線が、合わない。
   その顔は横に向けられているから。
   何より、その瞳は固く閉じられているから。
   顔を、撫でる。びくりと、震える。瞳は、開かない。
   震えは、小刻みに、止まる事無く。
   寒さからじゃないのは、本当はとっくに気付いていた。
   何かに、怯えてる。
   それは、初めて、だからかもしれない。
   初めてだから、もしかしたら。そう、考えて、だから開いてくれるのを待った。
   初めて、なのが嬉しかった。誰も知らない、この肌は誰も。


   あたしは。
   気付いて、あげられなかった。
   分かっているつもりで、何も分かっていなかった。
   小さな躰でずっと抱えてきた、それを。








   ……エリス。


   …。


   …怖い?


   ……。


   …。


   ……。


   …綺麗だよ、エリス。


   ……じゃ、ない。


   綺麗…。


   う…。


   ……。


   …ぅ…う。


   ……。


   …。


   …エリス、瞳を開けて。


   ……。


   …あたしを、見て欲しい。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……分かった。


   …え。


   ……。


   あ…。


   ……。


   どこに、いくの…?


   …どこにも、行かない。


   まって、ナディ…。


   …。


   まって、まって…。


   …。


   おこらないで、きらいにならないで…。


   …怒ってもいないし、嫌いにもならない。
   なるわけ、ない。


   だったら…。


   ……。


   …わたしを、だいて。
   はやく、あなたのものに…。


   …。


   …あなたのわたし、に。
   して、ください……。


   …。


   ナディ…。


   …ふぅ。


   …。


   エリス。


   …え。
   あ…。


   とりあえず、起き上がろうか。


   ナ、ナディ…。


   …離すけど、大丈夫?


   う、うん…。


   うん。


   …。


   じゃあ、エリス。
   あたしの躰に触ってごらん。


   え…え。


   どう触っても良いから。
   あんたが好きなように、触って。


   で、でも…


   なんだったら、抱いてくれても構わない。
   エリスなら、嬉しい。


   わ、わたし…。


   …エリス。
   あたしに、触って。


   ……。


   …エリス。


   ……。


   …ぅ。


   あ…。


   …離れないで。


   け、けど…。


   …お願いだから。


   あ、ぅ……。


   ……。


   …。


   ……。


   …ナディ。
   ナディ……。


   …あたしには、分からない。


   …。


   違い。


   ……。


   そりゃ、形とか全く同じではないだろうけど。
   でも…。


   …。


   ……あたしとエリスに。
   違いなんて、ない。


   ……。


   たとえあったとしても、それが問題になる事もない。


   …ナ、ディ。


   何度でも言う。
   あたしはエリスを愛している。


   ……。


   …怖がらないで。
   すぐには無理かもしれないけど…。


   …。


   あたしは、あんたを離さない。
   どんな事があっても。


   ナ、ディ…。


   離すものか。


   …。


   …エリス。


   ごめんなさい…ごめんなさい…。


   …それはなんの謝罪?
   あたしを拒絶する為の…?


   ちが、う…。


   …じゃあ、何?


   ……。


   …。


   ……だいて、ください。


   …。


   ナディに、だかれたい…。


   抱くよりも…?


   …。


   …あたしは、どっちでも構わない。


   ……だいて。
   つよく…。


   …。


   わたしを、あいして…。


   …エリスも、愛して欲しい。


   …。


   傷だらけ、だけど。
   綺麗じゃ、ないけど。
   それでも。


   …すき、だから。


   …。


   だいすき、だから…。


   ……。


   ナ、んん…。


   ……。


   …は、ぁ。


   ……エリス。


   ナディ……。


   …もう、止まらないけど。
   いい…?


   う、ん……。


   …。


   ……きて、ナディ。


   …やっと、目が合った。


   ん…。


   …エリス。


   ………ぁ。


   エリス…エリス……。


   ん、ん……ぁ…あ。


   ……愛してる。


   ナ……ィ……。








   うまく出来ないかもしれない。
   何を持って、うまいとするのか。
   わたしにはわからない。わからないけど。
   触れられたところが、あつい。くちづけられたところが、じんじんする。
   たえまなく与えられる熱に、なにも考えられなくなる。怖かったものすら。
   なにも、かんがえられない。なにも、かんがえたくない。あなたで、いっぱいになりたい。
   あなたしか、いらない。


   …ああ。


   この人は、太陽なんだ。
   わたしを、てらしてくれる。
   わたしを、こがしてくれる。
   わたしを、つつんでくれる。
   わたしを、しはいしてくれる。


   …わたしは。


   あなたが、すき。








   ……ぅ。


   ……。


   ナ…ディ…。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ナディ。


   ……。


   ナ、ディ…?


   …。


   ……いや。


   …?


   いや…いやぁ…。


   …エリス?


   …!


   エリス、どした?


   ……。


   ん…?


   …どこに、いってたの。


   どこに?


   …。


   どこにも、行ってないけど。


   …。


   …エリス、少し痛い。


   ……。


   ずっと、ここにいたよ。
   ちょっと、寝てたかもしれないけど。


   …どこにも、いかないで。


   行かない。
   エリスを置いて、どこかになんか行かない。


   ん…。


   …行くなら、二人。
   一人旅は、無し。


   ……。


   …いえっさ?


   ……。


   ほら、返事は…?


   …いえっ、さ。


   ん。


   ……ナディ。


   うん…?


   …。


   …なに?


   う、ううん…。


   …あんたは、可愛い。


   あ、ん…。


   ……我慢、出来なくなる。


   …ばか。


   エリス…。


   …ナディ、は。


   ……ん。


   うまく、ないの…?


   …うん?


   ……。


   あー……。


   …。


   …した事ないって、言った筈だけど。


   ……。


   どこか、痛む?


   …?
   どこか…?


   あ、いや…。


   …?


   ……はじめては、痛いって言うから。


   ……。


   ……。


   …ほんとうに。


   …?


   したこと、ないの…?


   …ないよ。


   されたことも、ないの…?


   ない。


   …キス、も?


   ない。


   …ほんと、う?


   本当。


   ほんとう、に…?


   あんたが、あたしの初めて。
   キスも…セックスも。


   …。


   こんな気持ちを抱いたのも。
   全部、あんたが初めてだから。


   ……。


   …どこか、痛くない?
   痛く、なかった…?


   …。


   エリス。


   …わた、し。


   …。


   へんじゃ、なかった…?


   …変?


   …。


   変って?


   …わからなかった、から。


   分からない?


   …いたい、の。


   ……。


   はじめては、いたいって…。


   …まぁ、人それぞれだし。


   …。


   夢中になってて、それどころじゃなかっただけかもしれない。


   …む、ちゅう。


   少なくとも、あたしは。


   …。


   …夢中、だった。
   特に。


   あ、ぅ…。


   …あんたの中に入ってからは。


   な、か…。


   ……。


   …。


   …出来ればまた、入りたいんだけど。


   …!


   エリ…


   ……。


   …エリス、ちょっと苦しい。


   ばか…。


   …。


   …なか、とか、いわないで。


   ……。


   …ばか。


   ……ね。


   …。


   …まだ、怖い?


   ……。


   て、いきなり大丈夫にはならないか。
   でも。


   …。


   …あたしが、その怖さを拭ってあげる。


   …。


   時間は、いっぱいあるから。


   ……ナディ。


   だから、離れないでよ。


   …うん。
   うん……。


   …ま、離さないけど。


   はなさないで…。


   …離さない。


   ナ…ぁ。


   ……エリス。


   ナ、ナディ…。


   …もう、一度。


   や、まだ…んん。


   ……。


   …まって。
   まっ…んぁ!


   ……。


   ナ、ディ……。


   …どうでも、いい。


   …。


   あんた以外、どうでも…。


   …ば…か…。








   あたしは自分で言うのもあれだけど、機微に通じてない。
   自分を生かす事だけに生きてきたのだから、当然と言えば当然かもしれない。
   誰かを思う事なんてしなかった。思ったところで、それが何になると思う?
   へたをすれば付け入られて、それでお仕舞い。
   早い話、なんにもならない事の方が圧倒的に多い。
   これからも気付かなかったりするだろう。
   それで傷付けてしまうかもしれない。それすら、気が付かないかもしれない。
   あんたが泣いてる事すら。








   ……。


   あ、…あ、…ぁ。


   ……エリス。


   はぁ……、…ぁ。


   ……。


   だめ、まっ、て…。


   …止まらないって、言った。


   や…だめ…だめぇ…。


   ……。


   …きたな、い…か、ら。


   ……。


   おねが…あぁぁ、んッ。


   ……。


   ぁ…、あぁ…、…ふ…あァ、ぁ。


   ……。


   …あぁ…ま、た。








   でもさ、エリス。
   あたしはやっぱり、あんたが大事で。
   自分よりも大事だって、思って…気付いてしまったあの時、から。
   あの時から、あたしはあんたを愛してた。
   いや、きっと、もっと前から。


   エリス。


   あんたは、あたしの。








   …エリス。


   …。


   エリス…。


   …。


   …おはよう?


   ……。


   ん?
   まだ、寝てる?


   …おきて、る。


   そっか。
   じゃあ、おはよう。


   …ばか。


   朝はおはよう、だけど?


   …。


   …ほら、エリス?


   …ッ。


   ん?


   …やだ。


   なにが…?


   …それ。


   それ…て?


   や……。


   …。


   …いき、やめて。


   …。


   …かけない、で。


   ……どうして?


   ……あつい、から。


   熱い、ね…。


   …。


   じゃあ…。


   …んッ。


   ……これ、は?


   …。


   ん…?


   もっと、だめ…!


   聞こえない。


   あ、やだ…。


   …。


   やだ、かまない…ひゃッ。


   …。


   や、やぁ…ん。


   ……。


   …なめない、で。


   噛むなって、言うから…。


   ……。


   …これでも。
   色んなところ舐めたいの、我慢してるんだけど…。


   ば、か…そういうこと、いわないで。


   ……。


   ん…ん…。


   ねぇ…もう少し、ゆっくりしてようか。


   ……。


   このまま…もう、一度…。


   …しない、ばか。


   ……。


   ナディの、ばか…。








   わたしは、やっぱり、魔女で。
   わたしは、やっぱり、つくられた存在で。
   それは、やっぱり、変えようがなくて。できなくて。
   あなたに愛された、今でも。
   本当はまだ少し怖くて。消せなくて。


   …でも、ナディ。
   こんなわたしでも、あなたははなさないっていってくれたから。
   こんなわたしだけど、あなたはほしいっていってくれたから。
   こんなわたしだとしても、わたしはあなたのそばにいたいから。
   ずっとあなたのとなりに、いたいから。








   ……。


   ……。


   …エリ


   だめ。


   …はいはい。


   …。


   ……。


   …。


   ねぇ、エリス。


   だめ。


   …見てないって。


   …。


   もう少し、ゆっくりしててもいいと思うんだけど。
   急いでる旅でもないし、目指すところもないから。


   もう、いくの。


   はいはい、そうですか。


   …。


   でも、さ。
   そろそろ、着替え終わってもいいと思うんだけど。


   …!


   エリ


   だめ…!


   …。


   あ。


   て、着替えてないじゃない。


   ……。


   エリス。


   いま、きがえるから。


   今?


   きがえるから…!


   …分かった。
   じゃあ、向こう見てるから。


   …。


   んー……。


   …はぁ。


   ……。


   ……んッ。


   …?


   あ、ぅ……。


   エリス?
   どした?


   …なんでもない。


   でも


   なんでもないから。


   ……なんでもなくて。


   …だめ、みないで。


   あんな声、出るか。


   …。


   …どした?


   ……なんでもない、のに。


   ……。


   ……。


   …やっぱり、もう少しゆっくりしていこうか。


   ……。


   どうせ、誰も来ない。


   …そんなの、わからないよ。


   まぁ、そうだけど。


   …ふく、きるから。


   うん。


   …あっち、みてて。


   …。


   ナディ。


   かわいい。


   …。


   …お。


   ばか。


   …。


   …にやにや、しないで。


   してる?


   …。


   …自分じゃ、分からない。


   ばか…うすらタコス…。


   …うん。


   ……。


   …エリス。


   ……ナディ。


   もしかして、立てない?


   …ッ!


   エリ


   ……。


   …あ。


   ………ば、か。


   ……。


   …。


   …まずい。


   …。


   えと……どんな、感じ?


   …しらない。


   痛い、とか。


   しらない。


   ……。


   …。


   ……。


   …ずるい。


   ん。


   ずるい…。


   じゃあ、次はあんたがあたしの中に入ればいい。
   あたしは構わない。


   …っ。


   そしたら、わ。


   ……。


   え、と…エリス。


   …これで、いい。


   …。


   いいの。


   …分かった。
   じゃあ、


   ずっと。


   …でも、それだと分からないんだけど。


   ……、する。


   ん、なに…?


   ……じんじん、する…の。


   ……。


   ……なんども、した、から。


   ……。


   ……する、から。


   …決めた。


   あ、ナディ…。


   …もう少し、こうしていよう。


   でも…。


   していたい。


   ……。


   エリス。


   ……すこしだけ、だから。


   いえっさ、エリス…。


   ……。








   旅は、続く。
   続いていく。


   あなたと、二人で。
   あなたと、二人でなら。


   ずっと、愛しいあなたと一緒に。








   …よし。
   それじゃ行こうか、相棒。


   …。


   んー。


   …。


   相棒、相棒か。


   …?


   相棒、は、相棒、だけど。
   ちょっと違うか、もう。


   …どう、ちがうの。


   ……。


   …ん。


   あんたは、あたしの恋人。
   だから。


   …こい、びと。


   もう、ただの相棒じゃない。


   ……それ、は。


   セックス、してなくても。


   …!


   それが全てじゃない。


   ……。


   でも、嬉しかった。
   だって、今も。


   …いまも。


   指先にあんたの熱、残っているような気がする。


   …!


   しあわせなんて、知らなかったけど。
   でもこれが、そうなら。


   …ばか。


   ……。


   ばか…。


   エリス。


   …なに。


   …。


   …ナディ?
   あ…。


   …。


   お、おろして…。


   いやだ。


   おろして…ひとりで、あるけるから。


   聞こえない。


   ナディ…。


   大人しく、抱っこされてろ。


   で、でも…。


   でも、は、なし。


   ……おもく、ないの。


   平気。


   …うそつき。


   落とすぞ?


   …。


   …そうそう、ぎゅっと掴まっててよ。
   そうすれば離れること、ないから。


   ……ナディ、は。


   離すわけ、ない。


   ……。


   じゃ、行こうか。
   相棒。


   …どこに?


   どこでも。


   …。


   どこにだって行ける。
   目的地なんて、いらない。


   …うん。


   …。


   …ナ、


   ……。


   ……ずるい。


   ねぇ、エリス。


   …。


   …毎日は、無理だとしても。


   …。


   それでも、出来るなら、今夜も。


   ……。


   …抱かせて、欲しい。


   ……、か。


   …?
   いた…。


   …しらない、ばか。