よ、と。


    …。


    ん、気持ちいい。


    …。


    エリスもどう?


    …つめたくない?


    そんなには。


    …。


    気持ちいいわよ。
    ひんやりして。


    やっぱりつめたい。


    大丈夫だって。


    …。


    なによぅ、その目は。
    あたしが信じられないの?


    しんじてるよ。


    じゃあ、おいでおいで。


    …。


    エリス、もしかして泳げないとか?
    あ、でもプールには入ったことあるわよね。
    あの時は


    …およいだこと、ない。


    お。


    みずうみでは。


    まぁ、あんまりないか。


    …。


    でもま、泳ぐわけじゃないし。


    …。


    おいで、エリス。


    …。


    エリス?


    …みずうみ。


    …?
    どしたの?


    ……はかせ。


    …。


    …。


    …。


    …ナディ?


    ……少し、ここで休んでいくから。


    うん。


    …。


    ナディ、どうしたの?


    …別に。
    来ないならエリスはそこにいて。


    どこにいくの?


    どこにも行かない。
    けど、もう少しこうしてる。


    …。


    …。


    ナディ。


    …なに。


    そっちにいっても、いい?


    別にいいわよ、来なくても。


    いく。


    いいわよ。


    いく。


    だから、いいって。


    いきたい。


    …。


    ナディ。


    …じゃあ、来れば。


    いえっさ。


    …。


    …。


    …。


    ナディ、まって。


    …。


    まって、ナディ。


    …だからどこにも行かないって言ってるでしょ。


    でも…。


    …。


    ナディ…おこってるの?


    なんで?


    …。


    怒る理由なんて、ないでしょ。


    …おこってる。


    だから…!


    …。


    ……ごめん。


    あ。


    少し、頭冷やしてくる。


    まって、ナディ。
    わたしも


    一人がいい。


    …。


    ごめん、エリス。
    でも怒ってるわけじゃないから。


    …。


    …。


    …やだ。


    …。


    わたしもいく。


    …だから。


    いや。


    …。


    ひとりは、いや。


    …エリス。


    しないで。


    …大袈裟よ。


    …。


    …。


    ……ナディ。


    エリス…。


    ……。


    ……。


    …。


    …冷たい?


    …?


    水。


    ……すこし、つめたい。


    気持ち、いい?


    …うん。


    ほら、言ったとおりだったでしょ?


    うん。


    …。


    ……ナディ。


    怒ってるわけじゃ、ないの。


    …。


    けど……あーあ、ダメだなぁ。


    …なにがだめなの?


    ……言いたくない。


    …ききたい。


    やだ。


    きかせて。


    絶対、いやだ。


    …。


    こんなこと、言えない。
    言えるわけ、ない。


    …どうしても?


    どうしても。


    ……わかった。


    …。


    …。


    ……て、ちょっと。


    …なに?


    なんで、泣くのよ…。


    …わたし、ないてる?


    思いきり。


    …ほんとだ。


    ……。


    なんで?


    …あたしに聞かれても。


    …。


    …。


    …。


    …あぁ、もう。


    ん…。


    泣かないの。
    こっちまで泣きたくなるでしょ。


    ナディも?


    そうよ。


    なんで?


    自分の情けなさに。


    …なさけなさ?


    …。


    ん…。


    ……何、気にしちゃってるんだろう。


    …。


    エリスはもう…あたしと。


    …。


    …でも。


    でも…?


    あの人が、あたしは顔も知らないけど、エリスにとったら今でも大事な人なんだなって思ったら…。


    …。


    …ああ、もう。
    エリスを泣かせて何してんだ…。


    …ごめんね、ナディ。


    あんたは悪くない。


    …でも、ごめん。


    悪くないの。


    …。


    あんたは何一つ、悪くない。
    悪いのは…みっともなくヤキモチを焼いたあたし。


    …。


    分かっていたのに……だめだなぁ、あたし。


    ナディはだめじゃないよ。


    …。


    だめなんかじゃない。


    …。


    …。


    ……エリス。


    ナディは…わたしの、だいじなひと。


    …。


    はかせもだいじなひと…だった。


    …。


    いまは…んん。


    …。


    …。


    …それ以上は言わなくていいから。


    …けど。


    そんなこと、言わせたいわけじゃない。
    そう、言わせたかったわけじゃないの。


    …。


    比べさせるなんて、そんなこと、させたいわけじゃなかった。
    だって比べることなんて、出来ない。
    そう、出来ないのに…。


    …。


    …なのに、あたしは。


    ナディ…。


    …今の言葉にひどく安心してる自分がいる。


    …。


    ……最低だ、あたし。


    ナディ…。


    …ごめん、エリス。
    ごめん…。


    …あやまらないで。


    だめで…ごめ、ん。


    …。


    …。


    ……ナディはわるくない。


    エリス…。


    わるくないの。


    …。


    …。


    ………エリス。


    …ナディ。


    …。


    おねがい…ぎゅってして。


    …。


    …おもいきり。


    …。


    して……ナディ。


    ……いえっさ。


    …。








    …。


    …。


    …。


    …ナディ。


    んー…?


    ちょっと、さむ…くしゅっ。


    お…。


    …。


    …上がろうか。


    …いえっさ。


    …。


    …。


    …て。


    …なに?


    このままじゃあ、無理だって。


    …。


    離れないと…。


    …ん。


    え、なに…?


    …だっこ。


    え…えぇ?


    ん…。


    て、あ、あんたねぇ…。


    …できない?


    で、出来る出来ないって問題じゃなくて…


    できない?


    いや、だから…。


    …。


    で、出来なくは、ない…と思うけど。


    じゃあ。


    いや、でも…


    …じゃあわたしがしてあげる。


    え……えぇぇっ。


    …ナディ。


    い、いやいやいや…っ。


    ナディもかるいね?


    ちょ、や、えぇぇ…ッ?


    …。


    エ、エリス…!


    なに?


    お、おろして!


    …。


    エリス!


    …ナディがしてくれるなら、いいよ?


    て、おいおいおい!


    してくれないなら、


    わ、分かった!


    …。


    してあげる、してあげるから…!!


    いえっさ。


    ……。


    ナディ。


    …。


    んー。


    …え、と。


    して、くれないの?


    い、今するから!


    ほんとう?


    ほんとに、本当!


    …やった。


    あぁぁもぅ…。


    …。


    …ほら、ちゃんとつかまって。


    ん。


    よいしょ…と。


    …。


    …これで、オーケイ?


    おーけい、じゃない。


    え、なんでよ。


    ちがうから。


    何が。
    ちゃんと抱っこしてるじゃないの。


    わたしがしたようにして。


    …え。


    おひめさまだっこ。


    ……。


    て、いうんだって。


    …また変な本、読んだわね。


    ナディ。


    これでいいじゃない…。


    …。


    これなら、ほら、抱き合ったままのようだ、し…。


    …。


    ……。


    ……ナディ。


    …こ、今度。


    こんど?


    して、あげるから…。


    …。


    ひゃ…!


    …ナディ、みみがあつい。


    あ、あんたが変な事ばかり覚えてくるから、つか、いきなり触るなって…。


    …あついこいのほのおがもえあがるのであった。


    ……。


    きえないんだよ…?


    …はい。


    やくそく。


    …いえっさ。


    えへへ。


    ……なんだろ、この敵わない感。


    ナディ…。


    あ、こら、前が見えないって。
    転んで全身びしょぬれになりたいの?


    …えへへ。


    たく…。


    ナディといっしょになるなら、いやじゃないよ?


    あー…はいはい。


    …。


    …よ、と。
    はい、着いた。


    …おしまい?


    おしまい。


    …。


    タオル…タオル、と。


    つまんない。


    …風邪、ひきたいの?


    …。


    はい、タオル。


    ありがとう。


    どういたしまして。


    …。


    …。


    …ナディ。


    ん?


    …ナディも、やきもち。


    う…。


    ……ふふ。


    あー…。


    …あのね、ナディ。


    ……なに。


    もう、いわないから。


    …。


    にどと…。


    …あのね、エリス。


    …?


    エリスの今があるのは、その人のおかげでもあるの。


    …。


    あたしはそう、思ってる。


    …そうなの?


    うん。
    だけどね…。


    …。


    …前はそんなこと、なかったんだけど。


    うん。


    エリスが…その、あたしを好きって言ってくれて。
    あたしも…エリスが、好きで。
    それで…今、こんな事になって。


    こんなこと?


    あんた曰く…仲良し夫婦?


    きくの?


    …仲良し夫婦、になって。


    うん。


    けど…。


    …。


    ……エリスが好き。
    その感情を自覚してから…いつか、そう思えなくなってる自分がいることに気が付いた。


    …そう?


    だから…その人、シュナイダー博士のこと。


    …。


    心のどこかで…エリスは本当はあたしよりも


    ナディ。


    ……ばかでしょ?


    うん、ばか。


    ……。


    でもそんなナディもすき。


    …あんた。
    とりあえずそう言っておけばいいと思ってない…?


    おもってない。
    だって、ほんとうのことをいってるだけだから。


    ……。


    ナディ。


    ……ほんと、敵わないのかもしれない。


    …。


    …。


    …。


    …ところで。


    なぁに?


    さっきのあれ…。


    さっきのあれ?


    …ぎゅっとして。
    あれも


    ほんでよんだ。
    そういうとね、だいてもらえるんだよ。


    ……あぁ、そう。


    ナディ。


    …ん?


    ぎゅっとして?


    …。


    して?


    ……つか、どんだけすればいいのよ。


    いっぱい。


    …。


    だって…。


    …仲良し夫婦、だから?


    ふうふはどんなときでもわかちあうんだよ。


    …分かち合う?


    うれしいことも、いやなことも、つらいことも、それから。


    …。


    いとおしいという、きもちも。


    …。


    だから、いっぱいだきしめあうの。
    ナディをかんじるために。


    ……そっか。


    だからね…。


    あ…。


    …して、あげる。


    …。


    …ナディ。
    わたしは…ナディだけのものだよ。


    ……うん。


    …。








    …。


    …。


    …ん。


    …。


    あ、れ…。


    …おきた。


    …。


    おはよう。


    …おはよ。
    つかあたし、寝てた…?


    うん。


    いつのまに…。


    …おつかれ?


    なのかな…。


    …もうすこし、このままでいる?


    うん……て。


    …。


    あ、あたし…。


    …どうしたの?


    エリスのひざ、に…あ。


    …だめ。


    エリ、ス…。


    …このまま。


    で、でも…。


    いいから。


    …。


    …いいの。


    ……いえっさ。


    …。


    …。


    …ねても、いいよ?


    …ん。


    けど、つまんない…。


    …こらこら、どっちよ。


    どっちも、ほんとう。


    …はは。


    …。


    …。


    …?
    ナディ…?


    思えば…。


    …。


    こうやってエリスを見上げるの、なかったような気がするなぁ…て。


    あるよ?


    …あれ。


    でもひざまくらははじめて。


    …なんと言うかさ。


    …。


    いつもはほら…あんたが勝手に乗っかってきてると言うか。


    …かって?


    許してるのは…あたしだけど。


    かって?


    …まぁ、嬉しいんだけど。


    うん。


    …。


    …それで?


    まぁ…なんだ。


    …。


    いいな…て。
    こういうのも…。


    …ん。


    エリス…。


    …ナディ、くすぐったい。


    …。


    けど、もっとさわって…。


    …なら、もっと近付いて。


    …。


    もっと。


    ……。


    …もっと。


    ……ナ、


    …。


    ん…。


    …。


    …。


    …。


    ……はぁ。
    ナディ…。


    ……くすぐったい?


    …ううん、きもちいい。


    そう…。


    ナディ…ナディ。


    …。


    …。


    …ん。


    …?


    ……。


    …。


    エリ…ス…。


    …おやすみなさい、ナディ。








    …ふあぁぁぁ。


    よく、ねた?


    うん、良く寝た。
    ありがと、エリス。


    えへへ、よかった。


    …。


    ん?


    いや…。


    いや?


    かわいいな…と。


    …。


    さ、さて、行こうか。
    問題はここからだ。


    ナディ。


    エリス、なんとなく分からない?
    方角とか。


    えへへ。


    …あはは。


    ナディ、ほっぺたあかい。


    そーいうことは言わんでよろしい。


    いえっさ。


    で、どう?
    なんとなく、でもいいんだけど。


    んー…。


    大小合わせなくても、広いんだよなぁ。
    まぁ、一周してもいいけど。
    急ぐわけでもないし。


    あっち。


    ん、どっち?


    あっち、だとおもう。


    あっち…ね。
    オーライ、行ってみようか相棒。


    …。


    んお?


    よめ、じゃないの?


    …。


    よめ?


    …いや、こういう時は相棒の方が言いやすいかな、と。


    …。


    な、なんか違うじゃない?
    嫁だと。


    …ちがわないとおもう。


    …。


    おもう。


    …行ってみようか、嫁。


    いえっさ!


    …いや、やっぱり違うでしょ。


    ちがわない。


    違うって。
    締まらないって。


    べつにいいとおもう。


    …。


    おーけい?


    …オーケイ、なのかなぁ。


    ふふ。


    …はは。


    いこう、ナディ。


    うん、行こう。


    …。


    そうだ、エリス。


    なぁに?


    その、なんだ。
    聞かせてよ。


    …なにを?


    その、博士のこと。


    …。


    あ、でも、思い出すのが辛いとかあまり覚えてないとかだったらいいから。


    …いいの?


    うん。


    ほんとうに、いいの?


    …知っておこうかと思って。
    知らないでやきもち焼くのも、あれだし…。


    …。


    えと、いつでもいいから。
    エリスの気が向いた時にでも


    ナディ…!


    わ、なになに…。


    …。


    …え、と。


    あのね、ほんとうはあまりおぼえてないの。


    あ、うん。
    …つか、今?


    あのとき、すこしだけおもいだしたんだけど…。


    あの時…ああ、ローゼンバーグの。


    わたしじゃなかった。
    はかせを…ころしたの。


    …うん。


    …。


    …


    …あまりおぼえてない、けど。


    …。


    だいすき、だった。


    …。


    …ほんとうに。


    …。


    …。


    …。


    …ナディ、だいじょうぶ?


    大丈夫、だけど。


    …。


    …やっぱ、ちょっと妬ける。


    …。


    うー…。


    …かわいい。


    …。


    よしよし。


    …いらんことばかり覚えて。


    こうすると、きげん、なおるんだよ?


    …そうかね。


    そうだよ。


    …。


    よしよし。


    ……うーん。


    なおった?


    …と言うか、初めから機嫌、損ねてないし。


    おちこんだときにもゆうこう。


    ……。


    ゆうこう?


    …幾らなんでも単純すぎやしないか、あたし。


    …よしよし。


    ……ああ、くそぅ。


    ナディ、にやけてる?


    …だから、言わんでいいって。


    …。


    …エリス。


    ん…?


    もう、大丈夫だから。


    …。


    大丈夫、だから。


    …いえっさ。








    森と湖、か…。


    …うん。


    あたしは行った事がないから想像するしかないんだけど…。


    …とても、きれいだった。


    そっか…。


    いちどだけ、みずうみであそんだの。


    一度だけ…。


    じっけんばかりしてた…とおもうから。


    ……。


    わたしは“そと”にでたことがなかった。


    …出してもらえなかった?


    …まじょ、だから。


    …。


    じっけんがいや…で。
    …だけど。


    …。


    …はかせがいたから。


    …。


    はかせは…やさしく、してくれた。


    …。


    ……ナディ。


    …ん。


    このみずうみと、あのみずうみはちがうけど。


    …だろうね。


    ここもきれいだよ。


    …。


    そらがうつってる。


    …そうかなぁ。


    そうだよ。


    …じゃあいっか、それで。


    …。


    …エリス、さ。


    うん。


    …大事な思い出は忘れなくていいから。


    …。


    博士と過ごした時間、辛い事もあったけど…それでも、あんたが博士を好きだった事は忘れなくてもいい。


    …。


    あたしは、そんなエリスが好きだから。


    …ちゃんと?


    ちゃんとってなによ。


    ちゃんと、すき?


    ばか、そうだって言ってるでしょ。


    …。


    …。


    …ねぇ、ナディ。


    ん…。


    わたしのなかに、ナディがいるよ。


    …エリスのなかに?


    うん…。


    …。


    ここに…いるんだよ。


    …胸?


    おもいではこのなかにあるの。


    ……心?


    そう。


    …。


    はかせとのおもいでもあるよ。
    でも…。


    …。


    いまはナディとのおもいでがいっぱいはいってるの。


    …。


    たのしかったことも…ナディにキーホルダーこわされたことも。


    …う。


    ちゃんと、おぼえてるよ。


    で、出来ればキーホルダーの事は忘れてほしいかな…。


    だめ、わすれない。
    ナディ、けっこう、あっさりしてるから。


    いや、でもね…。


    わたしがおぼえてないと、ナディ、きっとまたやるから。


    えー…。


    しない?


    しないわよぉ。


    …おぼえとくね?


    ……。


    ね…?


    ……はい。


    …。


    …と言うかあの時はエリスが危ないと思ったからで、悪気があったわけでは…って、ああもう、だめだめ。


    ナディ。


    はい?!


    …びっくり?


    …少し。
    で、なに?


    とまって。


    え?


    うんてん。


    …なんでまた?


    おねがい。


    ……え、と。


    おねがい、ナディ。


    ……いえっさ。


    …。


    …で、何?


    …。


    あ…。


    ……ここ。


    ……。


    ちゃんと、あるから。
    ちゃんと、いるから。


    …まさかそれをやる為に?


    だめ?


    …いい、けど。
    そうならそうと言ってくれれば…


    サプライズ。


    …あーそうかい。


    …。


    て、こら…。


    …ナディのなかにも。


    …。


    わたしは、いる?


    …。


    いる…?


    …ばぁか、当たり前でしょ。


    ほんとう?


    今となってはあんたとの思い出ばっかりよ。


    …そんなにながくはすごしてないのに?


    それを言うならあんたもでしょ?


    …あ、そっか。


    まぁ、昔の事もそれなりにはあるけど。
    量より、質。


    …たべものはりょうなのに?


    おいおい、あたしはどんだけ食い意地張ってるんだ。


    たくさん?


    …。


    いた。


    まったく。


    …。


    あんたと過ごした時間は確かにまだそんなに長くはないけど、でもすんごく濃かった。


    こかった?


    そう、すごくね。


    あじがこい?


    いや、それとはまた違うかなぁ…。


    …。


    エリス。


    …ん。


    あたしのここにも、あんたはいる。
    ちゃんと。


    …。


    …オーライ?


    ……。


    て、おいおい。
    返事なしですか。


    …ナディ。


    うん?


    ナディのおもいでのなかに、いてもいい?


    なぁに言ってんのよ。


    …。


    まったく、あんたは。


    …。


    結婚しておいて。
    いてもいい?はないでしょ?


    …だって。


    だって、は、なし。
    じゃあなに、離婚でもしたいの?


    りこん?


    夫婦はやめて、さよーなら。
    へたしたら一生逢いません。


    いや。


    でしょ?


    …そんなの、やだ。


    分かってる。


    …。


    エリス。


    …いさせて。


    …。


    ナディのおもいでのなかに、いさせて。


    …たく、あんたは。


    …。


    いてよ、ちゃんと。
    と言うかいないと、許さないんだから。


    …。


    分かった、相棒?


    …。


    ほら、いえっさは?


    …いえっさ!


    うんうん。


    …えへへ。


    しっかし。


    …?


    こうしてみると思い出すのはあんたと過ごした事ばかりだわ、あたし。


    …。


    色んなこと、あったっけね。


    うん、あった。


    これからもあるんだろうけどね。


    あるのかな。


    そりゃ、あるわよ。
    人生、これからだもの。


    そっか、これからか。


    そうそう、これから。


    たのしそうだね。


    そればっかりじゃないと思うけど。
    でも、あんたといればいつか笑い話になるわね。


    わらえるの?


    いつかは、ね。


    そうなんだ。


    そうそう。


    じゃあナディのウィニャイマルカ、いかないと。


    …じゃあ、なのか?


    うん。


    …ま、いいや。
    とりあえずあっち、よね?


    うん、あっち。


    オーケイ。
    じゃ行くかね、エリス。


    オーケイ、ナディ。








    …。


    …。


    …今日はここまで、かな。


    のじゅくのじゅんび?


    ちゃんと手伝ってよ?


    うん。


    よしよし。


    …。


    て、なにしてんの。


    もうふ?


    て、寝るんかい。


    ううん、まだねないよ?


    じゃあ何故に毛布。


    やまはさむいから。
    からだ、ひやしたらだめ。


    …。


    …?


    間違ってはないけど。
    火、起こす方が先かな。


    そっか。
    じゃあ、たきぎのじゅんび。


    ああ、そうそう。
    エリス。


    ん…?


    この辺はね、高地だけど案外寒くないのよ。
    まぁ、寒暖差はあるけどね。


    …そうなの?


    湖があるから。


    みずうみがあるとさむくないの?


    水が蒸発してるから、なんだって。


    じょうはつしてると、あったかいの?


    まぁ、暖かいとは言えないけど。


    なんで?


    なんで…って。


    …ナディもわかんないの?


    とにかく、他よりは寒くないの。


    …。


    そのうち、分かる。


    …ふぅん。


    あ、でも。


    なに?


    …あ、いや。


    なぁに?


    …湖の水の方があったかいんだったような。


    どういうこと?


    まぁ、毛布は必要ってこと。


    …さむい?


    風邪は勘弁。


    いえっさ。


    さて、今日のごはんはどうするかなぁ。


    ソーセージいがい?


    この、贅沢な。


    おいもがいいな?


    芋、芋かぁ。


    いや?


    ううん、いいけどね。
    普通のと、アルーガ、どっちがいい?


    …あるーが?


    お、と。
    チューニョと、普通の、どっちがいい?


    ふつうの。


    んじゃ、茹で芋にでもするかな。


    ゆでいも…。


    なに、文句でもあるの?


    ない。


    よし。


    ほくほくにできたらいいね?


    うん、だから今日はエリスが作って。


    わたし?


    そう、エリス。


    んー…。


    おいしいの、食べたいなぁ。


    わかった。
    がんばる。


    おうおう、その意気だー。


    ナディよりおいしいの、つくるね。


    …おうおう、その意気だ。


    ナディ、ひ、おこして。


    はいはい。


    いえっさ。


    はいはい、いえっさいえっさ。


    いっかい。


    いえっさー。


    …。


    ほら、早くしないと食べられないぞー?


    ねぇ、ナディ。


    ん?


    あるーがって、チューニョのこと?


    だと思う。


    …。


    いや、ね。
    最近、言葉が混じってて。
    多分、覚えてない筈の昔の夢を見てたせいだと思うんだけど。


    …わたしのせい?


    確かにね、ちょっときつかったけど。


    …ごめんなさい。


    別に気にしてないから。
    それに悪気があったわけじゃないでしょ?


    …。


    よしよし。


    …ん。


    落ち込んだ時に、有効?


    ……えへへ。


    と言うわけだから。
    おいしいの、よろしくね?


    いえっさ!








    …うーん。


    くしゅ…っ。


    日が沈んじゃうとやっぱ冷えるなぁ。


    …。


    エリス、大丈夫?


    …うそつき。


    あ、いや、嘘は言ってないハズ、なんだけど…。


    …さむいよ?


    うん、冷えるね。


    …。


    ほら、もっと火のそばにおいで。


    …もう、きてるよ。


    …。


    …。


    …お茶でも飲む?
    コカ茶だけど。


    いらない。


    …あ、そう。
    あったまるのに。


    …。


    …。


    …。


    …エリスー。


    …。


    本当に嘘じゃないんだって。


    …でも、さむい。


    …。


    …。


    …え、と。


    …。


    こんな時はあったかいお茶でも飲もう、うん。


    のまない。


    …。


    …。


    …あー。


    …。


    あーもう。
    ごめん、ごめんって。


    …。


    機嫌、なおしてよ。


    …べつにきげんわるくないよ。


    いや、悪いって。


    わるくない。


    そっぽ向いてる時点で悪いじゃないの。


    わるくないよ?


    じゃあこっち向いてみ。


    …。


    エリスー。


    …。


    …て。


    むいたよ。


    一瞬かい…。


    …。


    ちゃんと謝ったじゃない。


    …それはもういいの。


    え。


    …。


    もう、いいって…。


    …いいの。


    じゃあなんで機嫌悪いままなのよ。


    …。


    エリスってば。


    …。


    エリス。


    …。


    …ああもう。
    どーしたもんかな…。


    …ナディはどんかん。


    へ?


    …。


    鈍感、て。


    ナディ。


    …。


    …。


    …分かった。


    ほんとうに?


    よしよし。


    …。


    なおった?


    …なおらない。


    えぇ…。


    …。


    そもそも、あんたがこうすればなおるって


    なおらない。


    …。


    …。


    …そうだ。


    …。


    茹で芋、おいしかった。
    さっすがエリス。


    …。


    …あれ、違う?


    …うすらタコス。


    あー…。


    …。


    …ああ、分かった。


    こんどこそ?


    あたしはどうせ鈍感だから。


    …。


    教えてください。


    …。


    ほら、このとーり。


    …。


    ね、エリス?


    ……しらない。


    て、ちょっとぉ。


    …。


    エリス、エリスってば。


    …。


    あー……。


    …くしゅっ!


    て、ちょっと大丈夫?


    …なにが?


    風邪、ひきそうなんじゃない?


    ひかないよ。


    そんなこと言ったってひく時はひくから。


    …。


    よ、と。


    …ナディ?


    とりあえず、これ。


    …。


    羽織っときなさい。


    …。


    ほら、早く。


    …そうじゃない。


    …。


    そうじゃない。


    あのねエリス、機嫌が悪いのは分かったけど。
    風邪、ひいたらつまんないでしょうが。


    …。


    …え。


    ……。


    エ、エリス…?


    ……ばか。


    ……。


    ナディの、ばか。


    ……エリス。


    …。


    ……初めから。
    そう、言えばいいのに…。


    わかってくれないナディがわるいの。


    …。


    …。


    …これで、なおるの?


    ナディしだい。


    ……。


    …。


    …エリス。


    …。


    ……もっと、そばにおいで。


    もう、きてるよ。


    いや、だから…。


    …。


    ……エ、エリス。


    …なに?


    抱えてあげる。
    だから…。


    …。


    …ここに、おいで。


    いえっさ。


    …う、わ。


    ナディ…。


    ……あ、うん。


    …。


    …。


    …はやく、ナディ。


    う、うん。


    …。


    …これで、いい?


    …。


    だ、だめ?


    ……あったかい。


    そ、それはよかった…。


    …えへへ。


    ……やれやれ。


    ナディ。


    ん…?


    おちゃ、のむ?


    …。


    のもう?


    …たく、あんたはもう。


    えへへ。








    むかしむかし、湖から神さまが現れました。
    神さまはその湖の泡から生まれました。


    …。


    神さまは太陽、月、星、そんでもって人、あとその他諸々を作りました。


    そのたもろもろってなに?


    山とか川とか。


    ほかには?


    …山とか川とか。


    ……てきとう?


    その他諸々はその他諸々。


    …つくって、どうしたの?


    その神さまは作り終えると湖に帰っていきました。
    …あれ、海だったっけ?


    しらない。


    …まぁ、いいや。
    とにかく、神さまは帰りました。


    それで?


    その湖こそ、ウィニャイマルカと呼ばれてました。


    …かみさまは?


    …。


    ナディ?


    …えーと。
    その神さまはまた戻ってくると言って、帰っていきました。


    うん。


    そして長い時間をかけて


    もどってきたの?


    戻ってこない。
    けど。


    …けど?


    神さまの姿によく似た“人間”が現れました。
    その“人間”を神さまだと信じた人々はその“人間”を歓迎しました。
    けれどその“人間”は神さまではありませんでした。


    …。


    そこにあった国はその“人間”によって滅ばされてしまいました。


    ……かみさまは?


    神さまは信じてる人の中に今でもいます。
    おしまい。


    ……。


    まぁ、神話だしね。


    …ナディがちいさいころにきいたの?


    うん。


    ……てきとう?


    そんなことないわよ。
    確か、こんな話だったよなぁって。


    …。


    まぁ、いいじゃない。


    …ほかは?


    他?


    ほかのおはなし。


    そうだなぁ…。


    …。


    え、と。
    神さまに作られた太陽のお話。


    うん。


    太陽もまた神さまとされてました。


    かみさまはふたり?


    ほんとはもっといるのよね。


    たくさん?


    そこらじゅうのものに宿ってるとされていたから。


    …そこらじゅう。


    そう、そこらじゅう。
    それこそ、山とか川とか。


    …すごいね?


    ねぇ。


    …。


    一番とされてたのは湖から出てきた神さま。
    太陽を作った神さまだからね。
    言わばお父さん。


    うん。


    でも太陽が一番とされていた時代もあったの。


    なんで?


    太陽が一番だったから。


    ……わかんない。


    でもって、太陽の妻は月の女神さま。


    つきなの?


    そう、月。
    一番の神さまの娘。


    ……きょうだい?


    そう、兄妹。
    でもって三番目もいて、それは大地の女神さま。
    この女神さまは今でも信仰されてる。


    ……きょうだいで、ふうふ?


    まぁ、神話だから。


    …。


    て、実際に妹を妻にしていた王さまもいたみたいだけどね。


    …。


    外戚の問題とか、色々あったみたいよ。


    がいせきってなに?


    あーと…夫から見て妻の家族、だっけかな。


    …もんだいなの?


    らしいよ。
    よく分からないんだけどね。


    ふぅん。


    で…


    たいようとつきはなかよしふうふ?


    …まぁ、子供もいるしね。


    じゃあわたしたちといっしょ。


    …はい?


    ナディはたいよう。
    エリスはつき。


    ……。


    いっしょ。


    …うん。
    とりあえずそれは置いておいて。


    …あとはこどもか。


    …。


    …。


    あー…エリス。
    続き、話してもいい?


    いいよ?


    …太陽と月の間に生まれた子供は国を作りました。


    くに?


    神さまに姿だけ似てた“人間”に滅ぼされちゃった国。


    …。


    で。
    その子孫があたしたち、って話。


    ナディ、かみさまのしそんなんだ。


    話の上ではね。


    すごいね。


    すごいのかな。


    すごいよ。


    ま、普通の人間だけどね。


    …ふつうの。


    あんたもね。


    …。


    でしょ?


    …うん。


    …。


    …ナディ。


    うん…。


    ……。


    …でもね。


    ん…。


    これはあたしがばあちゃんから聞いた話であって。
    他の人に聞くとまたちょっと違う話になるのよね。


    そうなの?


    伝承ってそんなもんなのかもね。
    よく分かんないけど。


    …。


    これでお話はおしまい。


    …。


    あったまった?


    …あったかいよ?


    …。


    …えへへ。


    そろそろ、寝ようか。


    うん。


    ……え、と。


    さむいから。


    …。


    …さむいから。


    ……寒くなくてもくっついてくるくせに。


    ふうふだから。


    なら、寒いからゆーな。


    でも、さむいよ。


    …。


    かぜ、ひきたくないよ?


    …ま、ね。


    ナディがひいたらしんぱい。


    て、あたしかい。


    うん、ナディ。
    わたしのしんぱいはナディがしてくれるから。


    …。


    ナディ?


    …。


    ナ…ん。


    ……。


    …ナディ。


    …ひかないように。
    あったかくして寝ないとね。


    …いえっさ。








    …。


    …ナディ。


    …ん?


    …。


    どした?


    …はな。


    …花?


    あかい、はな…。


    …カントゥータ?


    ナディの、すきなはな…。


    …よく覚えてたわね?


    うん、おぼえてるよ…。


    …。


    ナディのことなら…こと、だから。


    …。


    おぼえてたい、の…。


    …うん。


    ん…。


    …エリス。


    ……ごめんね、ナディ。


    …どうして?


    わたし…。


    …謝るのはあたしの方よ。


    …。


    油断、してた…。


    …。


    …ここまで平気だったから。
    エリスも大丈夫なんだって…思いこんでた。
    絶対なんて、ないのに。


    ……。


    …戻ろう、エリス。


    ……でも。


    エリスの方が大事。
    ずっと。


    …。


    ほら、そんな顔しないの。
    今は休む。


    でも、でも…。


    …いいから。


    …。


    夜が明けたら、一旦、引き返すから。
    もう、決めた。


    …。


    …大丈夫、あたしたちには時間がある。


    …。


    急がなくてもいいの。
    だから。


    …。


    …そんな顔、しないで。


    …。


    …ほら。


    ……だいじょうぶだよ、ナディ。


    え…?


    ……わたし、まじょだから。


    …。


    だから…へいき。


    …あんたは人間よ。
    魔女だろうが、関係ない。


    …。


    人間だから具合だって悪くなる。
    それは当たり前のことなの。


    …。


    …だから、無理はだめ。


    ……。


    大丈夫、今の状態なら休んでればひどくならない…。


    …。


    …頭、痛い?


    ……すこし。


    そっか…。


    ……ナディ。


    こんなことしても、治らないと思うけど…。


    …ううん、そんなことない。


    …。


    ……あんしんする。


    ん…。


    …。


    …ナディ、は。


    …?


    へいき、なの…?


    …今は、ね。


    そっか……よかった。


    …!


    ……。


    エリス…エリス…。


    ……あったかいね。


    うん…。


    だから…ちゃんと、だいてて?


    ……う、ん。


    ナディ……。








    …お茶、もっと買っておこうかな。


    …。


    砂糖ももう少し…甘いの、好きだし。


    …ディ。


    …よし、後でまた


    ナディ。


    …?


    ナディ。


    …エリス!


    おかえり、ナディ。


    エリス、起きてて大丈夫なの?


    うん、もうだいじょうぶ。


    無理は


    してないよ。
    ほんとうにだいじょうぶ。


    けど


    ありがとう、ナディ。


    …。


    しんぱい、してくれた。


    …ばか、当たり前でしょ。


    えへへ。


    …よかった。


    まじょは、へいきなんだよ?


    …。


    …ナディ?


    ああ、もう。
    心配して、損した。


    …。


    確かにあんたはあたしより体力はあるし力は強いし、ジャンプで軽く屋根に上れるし、おまけにすっごい遠くまでよく見えるし。
    あたしの心配なんか、余計なお世話なのよね。
    だったらもうしない、エリスの心配なんか。
    ええ、ええ、しませんとも。


    ……。


    ん?


    …ナディのばか。


    …。


    …。


    ……あのね、エリス。


    …。


    心配しないわけ、ないでしょ。


    …けどしないっていったよ。


    それはあんたが軽口を叩くから。
    あたしがあんたの心配しないわけ、ないでしょうが。


    …なんで?


    言ったでしょ?


    ……。


    あんたは人間なの。
    具合だって悪くなる、なればあたしは心配する、それこそ眠れなくなるぐらい心配する事だってあるかもしれない。
    今回だって


    ねむれなく?


    そうよ。


    ……でもナディ、ねるのはやいよ。


    …。


    …。


    …あのねぇ。


    ねぞうもあまり


    エリス。


    …。


    …本当に、心配したんだからね。


    …。


    もう一回言うけど。
    魔女だから、とか、そんなの、関係ないの。


    ……うん、ごめん。


    ん、分かればよろしい。


    …ねぇ、ナディ。


    ん…?


    ナディはわたしがにんげんだから、しんぱいしてくれたの?


    まぁね。


    それだけ?


    それだけ…て?


    ナディはやさしいから。


    …え、と?


    わたしいがいのひとのこともしんぱいする。


    ……。


    …わたしだけじゃ、ない。


    ……。


    …ナディは、やさしいか


    エーリース。


    ひゃ…。


    まぁったく、何を言い出すかと思えば!


    …なひー。


    あんた、自分で言ったじゃないの。


    …ひゃひを?


    あたしの心配はあんたがしてくれる。
    それはどうして?


    …。


    離してほしければ、ちゃんと理由を言う。


    …ひゃにゃひてくへなひゃ、ひゃなへないひょ。


    あ、そっか。


    ……のびたー。


    伸びてない。
    で?


    …。


    また引っ張られたいかー?


    …ナディだから。


    …。


    ナディだから、しんぱい。


    それはあたしが人間だから?


    …ちがう。


    …。


    だいすきだから…たいせつ、だから。


    …。


    だから…ん。


    …。


    …。


    …エリス。


    ……ナ、ディ。


    あんたはあたしの家族になったの。


    …。


    あんたはあたしにとって…特別な存在なのよ。


    …とくべつ。


    つまり…その、大好きだし、大切なのよ。
    こうなる前から…。


    こうなるまえ…?


    …あの旅をしてた頃、から。


    わたしが?
    ほんとうに?


    …。


    …?


    エーーリーースーーー。


    ほひゃ。


    まぁったく、この口は!!


    なひぃ。


    あーもう分かったわよ。
    何度だって言えばいいんでしょ。


    …。


    あたしはあんたが好きなの、愛してるの。
    だから心配だってするの!


    …。


    大体あんたはあたしが優しいって言うけどね、誰彼構わず優しくなんかしないわよ。
    そもそもあんたはあたしのなんなの、大事な相棒よ、今となっては嫁よ、家族よ?
    そんなあんたを他の誰かとなんか、一緒にするハズがないでしょ。
    一緒になんて出来ないの、むしろどうして出来るの、意味、分かんないわよ!


    …ナディ、すごいはやくち。


    エリス!


    な


    返事は「はい」!


    …はい。


    あたしはあんたが思ってるほど、優しくない。


    …でもおひとよし。


    …。


    あ。


    …。


    ……ナディ。


    あんたさえいれば、いてくれれば。
    他の誰かなんていらないの。


    …。


    ……いい加減、分かってよ。


    ……。


    ……。


    …ごめんね、ナディ。


    …。


    ごめんなさい…。


    ……分かれば、よし。


    …。


    仲良し夫婦、なんでしょ?
    あたしたちは。


    うん。


    あたしも…そう、思ってるから。


    …。


    本当?とか聞かないでよ。


    うん、もうきかない。


    ん、よし。


    …ナディ。


    ん?


    …ありがとう。
    だいすきだよ…。


    ……あたしも好きよ。


    …いっしょに、いくから。
    ナディをひとりになんて、させないから。


    うん…。


    …。


    …。


    …いつ、しゅっぱつするの?


    …。


    ん…?


    …もう少し、休んだら。


    そっか。


    ……たくもう。


    えへへ…。








    具合が悪くなったらすぐに言うコト。
    いい?


    いえっさ。


    うん。


    ナディも。


    あたし?


    もちろん。


    はいはい、いえっさ。


    よろしい。


    ま、いいけど。
    そうだ、エリス。


    なに?


    飴。


    あめ?


    あげる。


    どうしたの?


    勿論、買ったの。
    甘いのは疲れにいいからね。


    へぇ、そうなんだ。


    チチャモラーダ味だって。


    ちちゃもらーだ?


    前、とうもろこしのお酒でチチャってあったでしょ?
    あんたがうっかり飲んで酔っ払ったヤツ。


    …おさけ?


    とは全然、ちがうもの。
    チチャモラーダはとうもろこしのジュース。


    むらさきいろ?


    紫とうもろこしが元だから。


    おいしいの?


    おいしいわよ。
    さっぱりとした甘さで。


    のんだこと、あるの?


    前にね。
    飲みたい?


    うん。


    じゃあ、今度ね。


    やくそく。


    うん、約束。


    …。


    飴、舐める?


    うん。


    じゃあ…はい。


    …?


    あーん?


    …。


    ほら、エリス。
    あーん?


    …あーん。


    ふふ。


    ……ん。


    おいしい?


    …おいしい。


    へぇ、おいしいんだ。


    ……。


    いや、飴ってどうなのかなって。


    …ためした?


    チチャモラーダ自体はおいしいから。


    …ひどい。


    お。


    …。


    あはは。
    なんてね、あたしもちゃんと舐めたから知ってるんだけど。


    …ふくろ、あいてなかったよ。


    試しがあったのよ。
    観光客用に。


    …。


    で、舐めたら。
    エリスが好きそうだったから。


    わたしが?


    そう、エリスが。


    わたしのこと、おもってくれたの?


    そうだと言ってる。


    …。


    …。


    …ナディ。


    んー?


    おいしい。


    ん、良かった。


    …。


    よし、それじゃ行こ…う、わッ!


    …。


    ちょ、何……んん!


    …。


    ん、ん……。


    …。


    エ、エリ……。


    …だめ。


    だ、だめって…ん。


    …。


    は……。


    …。


    ………ん?!


    ……うん。


    …………て、エリス。


    あまい?


    …。


    あまかった?


    …甘い。


    そっか。


    つか、出来ればもっと普通の方法がよかった、んだけど…。


    ふつうだよ?


    どこがだ!


    あめは、くちうつしがきほん。


    いやいや、基本じゃないから!


    とてもあまいから。


    そりゃ、甘いけどさぁ。


    キス、が。


    ……は?


    ナディとのキスはあめよりもあまいんだよ。


    ………え、と、つまり?


    あめとキスがあれば、ばっちり。


    ……。


    えへへ。


    …本読むの、しばらく禁止にしようかな。


    ナディ。


    …なによ。


    んー。


    …はい?


    もうひとつ。
    わたしの、ナディにあげちゃったから。


    いや、誰も欲しいなんて言ってないし!


    んー。


    キ、キスじゃなくてもいいじゃない…?


    キスであげたから。


    だ、だから、あたしは


    んー。


    ……。


    んー。


    ……んあぁぁ、もぅ!


    …。


    …。


    ……ん。


    …。


    ん、ん……。


    …。


    ……。


    ……はぁ。


    えへへ、あまい…。


    …オーケイ?


    ん、オーケイ。


    …そりゃよかった。


    ナディ。


    …あ?


    かってくれて、ありがとう。


    …。


    えへへ。


    …どーいたしまして。


    しゅっぱつ?


    …ん、出発。


    じゃ、ゴーゥ。


    …。


    ナディ?


    …はいはい、ゴーゥ。


    ゴーゥ。








   ...nueve