……。


   また、みてんの。


   …あ。


   なにがおもしろいのよ。


   …ん。


   そらなんて、いつもとかわらないじゃない。


   …ううん、そんなことない。


   は?


   いつも、ちがうよ…。


   どこがよ。


   …ちがうの。


   ……。


   …ほら。


   できそこないがかんがえることなんて、わたしにはわからない。


   ……。


   なに、そのかお。


   …ごめんね。


   ふん。


   …ね。


   なに。


   …どこまで、つづているのかな。


   は、なにが?


   そら…。


   しらないわよ、そんなの。
   しったことではないわ。


   …。


   どうでもいい。


   …そう。


   ……。


   …。


   …なに、してんのよ。


   とどかない…。


   は?


   ……とどかない。


   ばかじゃないの。
   とどくわけ、ないじゃない。


   …とどけば、いいのに。


   くだらない。
   とどいたところで、どうするのよ。


   ……。


   だからなによ、そのかお。


   …ううん。


   まだ、みてんの。


   …ん、もうすこし。


   …。


   もう、すこしだけ…。


   …かってにすれば。


   ごめんね…。


   ……。


   …。


   …いつか。


   …?


   ここをでたら。
   あきるほど、みられるわよ。


   …だったら、いいな。


   だったら、じゃない。
   そうするのよ。


   …。


   わたしと、あんたで。
   できないことなんて、ないの。


   …まじょ、だから。


   そう、まじょだから。
   にんげんなんか、そのきになれば


   …だめ。


   ……。


   …そんなことしちゃ、だめ。


   は、なまいき。


   …う。


   できそこないのくせに。
   わたしがいなきゃ、なんにもできないくせに。


   ……。


   あんたはわたしのいうことをきいてればいいの。
   だまって、ついてくればいいのよ。


   …う、ん。


   ……。


   …?


   もうすこし、なんでしょ。


   …。


   ぜんぜん、わからないわ。


   …どこまでも。


   ……。


   つながってる…きっと。


   …どうだか。


   もしも、わたしたちがはなれても


   はなれない。


   …。


   あんたがかってにしんだら、わかんないけど。


   ……うん、そうだね。









    ……。


    …ん…ぅ。


    エリス。


    …キ、ジャ。


    ……。


    …おはよう、ナディ。


    おはよう、エリス。


    ……。


    もう少し寝てても良いよ。


    …ううん、私も起きる。
    ごはん、作らなきゃ…。


    ごはんはあたしが作る。
    あんたより早く起きたからさ。


    …ううん、作りたいの。


    そっか。
    じゃあ二人分、ね。


    …え。


    二人だから。


    …そっ、か。
    そう、だったね…。


    やっぱりあたしが作るよ。
    出来たら


    ううん、私が作る。
    作りたい…。


    ん、分かった。


    ……。


    …エリス?


    ん、大丈夫…。


    …無理、してるようなら。


    してないから…。


    ……。


    …少し、淋しいだけだから。


    少し、ね。


    …でも、淋しいだけじゃないから。


    ……。


    …ナディが、いるから。
    私は大丈夫。


    本当だったら。


    …?


    少しだって、感じさせたくないんだけど。


    ……。


    無理、か。
    正直、あたしも少し淋しいし。


    …ナディ。


    早いもんだね。


    …。


    子供が大きくなるのってさ。


    …うん。


    畑、一人でやるのかー。


    …クイは私が見るね。


    うん。


    ……。


    ま、そのうち慣れるかな。


    …ねぇ、ナディ。


    うん?


    ……。


    エリス?


    …ううん、なんでもない。


    そ?


    ん…。


    …そっか。


    ねぇ、ナディ…。


    …なに、エリス。


    少し淋しいね…。


    …そうだね。
    でも。


    ん、ナディ…。


    …二人は、変わらないから。


    …。


    それにまた、増えるかもしれないしさ。


    …ナディ。


    可能性の話かな。


    ……。


    はは。


    ……そうだね。


    え?


    …なんでもない。








    じゃあ、始めるかな。


    ……。


    ロント。


    …はい。


    やる気、あんまり感じないんだけど?


    ……。


    まぁ、良いや。
    やるって言ったのは、あんただから。


    …ナディ。


    うん?


    あの、銃は…。


    ……。


    う…。


    焦らなくても教える。
    でもその前にね、ロント。


    …え。


    銃が使えない状況とか、考えた事ある?


    あ、う……。


    例えば、こんな状況とかさ。


    ……ぅ、…ぅ。


    このままだと、あんたは死ぬ。
    銃も無い。
    さぁ、どうする?


    ……ぁ、……。


    守るって言うのは良いけど。
    その前にあんたが死んだら?


    ……ナ、……ィ。


    何も、守れない。


    …、……ぅ。


    自分を犠牲にするのは、構わないけど。
    命は一つしかないから一回死ねば普通、もう二度と、守れない。
    分かる?


    ……。


    と。


    ……は、…はッ、げほッ。


    まぁ、こういう状況もあるわけだ。


    ……。


    なる前に、対処すれば良いだけなんだけど。
    どうしたって出来ない時もあるから。


    ……。


    さて。
    やる気、まだある?


    ……。


    ん?


    …あ、る。


    そ。
    じゃ、続けるよ。


    …はぁ。


    あたしのは付け焼刃のようなものだから、大したコト無いんだけど。
    でもまぁ、無いよりかはまし。


    …ナディ、は。


    エリスの子供だから。


    …?


    身体能力、あたしよりも高い…と思ってたんだけど。


    ……。


    その気になれば、車一台なんて簡単に押せるくらいに。
    違う?


    ……。


    でも、その使い方を知らない。
    エリスもそうだけど。


    …エリスは知らなくて、いいから。


    ……。


    ……はぁ。


    落ち着いた?


    …うん。


    それは良かった。


    …分かった気がします。


    何が?


    エリスが言っていた事。


    何を言ってた?


    …。


    まぁ、良いや。
    後でエリスに聞くから。


    …知らない人になる。


    ……。


    ……賞金稼ぎの、裏の顔。


    …。


    だから少し、淋しかったって。


    …それ、エリスが?


    ……。


    …そっか。
    うーん…。


    …でも今は知ってると思う。


    ……。


    もうずっと、一緒にいるから。


    …。


    ナディ。
    わたしはやめない。


    …そ。
    なら、続けようか。


    はい。









    ……。


    …ナディ。


    ん。


    ここにいたんだ…。


    …。


    …畑にいなかったから。


    うん。


    ……。


    ここだったなぁ、って。


    …うん。


    今はもう、感じない?


    何も、感じない…。


    …そっか。


    ……アリスは。


    …。


    もう一人の私。
    今も、尚。


    …エリスは。


    …。


    もう一人のアリス。


    私達は…同時に造られて。
    同じ場所で、育った。


    ……。


    …今になって良く、思い出すの。


    うん…。


    …出来損ないだった私。
    完全とされていたアリス…。


    …でも、違いなんてなかった。


    ……。


    何も。


    …私はアリスとずっと一緒の筈だった。
    アリスは私とずっと一緒にいるつもりだった。
    私が出来損ないでも、世界でたった二人だけの魔女だから。


    ……。


    …でも私は。
    私はナディ、貴女と出逢ってしまった。


    …しまった、か。
    まるで出逢わなかった方が良かったみたいな言い方だ。


    ……。


    分かってる。
    エリスにそんなつもりが無い事は。


    …ナディ。


    分かってるから。


    …貴女が、好きなの。


    ……。


    初めて逢った時から、貴女が好きだった。


    …エリス。


    記憶が消されても、貴女を。
    心のどこかで貴女を覚えてた。


    …分かるよ。
    今思えば、あたしもそうだったから。


    …。


    …子供を欲するくらい、あんたが好き。


    ……キジャ。


    エリス、おいで。


    …。


    ここにアリスだったものがいた。


    …繋ぎとめていたのは。


    ロント。
    あたし達の子供。


    ……あの子は。


    この空の下、どこかで。


    …どうか、元気でいますよう。


    大丈夫。
    お守り、渡したから。


    ……。


    …ここは風が気持ち良いな。


    うん…。


    さて、戻ろうかな。
    行こうか、エリス。


    …いえっさ、ナディ。








    …はッ。


    うぐ…ッ。


    ……。


    …はぁ。


    まだ、甘い。


    ……やぁッ。


    ……。


    …がッ。


    突っ込めば良いってもんじゃない。
    頭を使え。


    …はぁ…はぁ。


    あんたにあって、あたしに無いもの。
    それをもっと利用しろ。


    …あぁあッ!


    ……。


    が、は…ッ。


    …あ。


    ………。


    まずった、かな。


    ……。


    ロント。


    ……。


    ロ、


    …やぁぁッ!!


    ぐ…ッ。


    …はぁ、…はぁ。


    ……。


    ナ、ディ…ッ!


    …ロント!


    ああぁぁ…ッ!!


    …はぁ!


    ……、


    …ふ、


    …?!


    ……。


    う、が……。


    …もう少し、かな。


    …はぁ…はぁ。


    正直、真正面からだとかなり危ない。


    ……う…。


    エリス。


    …ま、だ。


    あたしも良いんだけど、ね。


    はぁ……。


    エリス、もう良いよ。





    …ロント!!





    う…。


    ……。


    …そんな顔、しないで。
    エリス…。


    ……ごめんね。
    ごめんね、ロンティタ…。


    …?
    どうして…?


    ……。


    ねぇ、エリス…。


    …。


    ナディはやっぱり、すごいね…。


    …ロント。


    でも……う。


    …手当て、するから。


    う、ん…。


    エリス、あたしもして欲しいんだけどな。


    …ナディは後。


    後でも良いから。


    ……。


    …良いけど、さ。


    良いけど、なに。


    …いや、なんでも。


    ……。


    は、はは…。


    …?
    ロント…?


    ロント、何かおかしかった?


    すごいのに、エリスにべた惚れ…。


    ……。


    あんたにもそのうち、分かると思うけど。


    …なんとなく、わかるよ。
    つ…。


    …ナディ。


    はいはい、少し休もう。
    で、休んだら、銃の手入れをやろうか。


    …え。


    ちゃんと覚えないと、いざという時に応えてくれない。
    オーケイ?


    …さわっても、いいの?


    触らないと出来ない。


    …いえっさ、ナディ。


    あんた意外に不器用だからなぁ。


    ナディも。


    エリス。


    ……。


    …機嫌、直してくれると嬉しいんだけど。


    怒ってない。


    …でもなぁ。


    怒ってないの。


    …はい、ごめんなさい。


    はは…。









    …ふぅ。


    ナディ。


    エリス。
    丁度、良かった。


    …もう、おしまい?


    うん、今日は。


    お腹、すいた?


    かなり。


    くいしんぼ。


    それ、言われ続けて早何年かね。


    ふふ。
    ごはん、出来てるよ。


    やった。
    じゃ、さっさと帰ろう。


    …。


    エリス。


    …ん。


    ……。


    一人で、大変…?


    まぁ、少しね。


    …私も。


    手伝って貰おうかな。


    ……。


    …。


    ……。


    …エリス。


    夕方って…。


    …。


    …少し、淋しくなるね。


    ん…そうかもね。


    ……。


    …じゃ、帰ろうか。
    ごはん、冷めちゃう前に。


    うん…。


    あいつは何、食べてるかな。


    …ソーセージ、焦がしてるかも。


    あはは、そうかも。


    …でも、トマトのスープはおいしかったね。


    あたしが作ったのより?


    …もう。


    ……。


    ナディ。


    …ん。


    明日、作って。


    …何を?


    分かってるくせに…。


    …聞きたいから。


    ……。


    エリス。


    …もう、ばか。


    言わないなら、作ってあげないけど。


    いじわる。


    じゃあ、作ってあげない。


    ナディ。


    …じゃあ、ちゃんと言え?


    ……。


    …。


    …ナディのトマトスープ、食べたい。


    いえっさ。
    じゃあ、明日ね。


    …ん。








    …運動神経は良い。
    勘も、悪くない。


    ……。


    でも、それだけ。
    ま、しょうがないか。


    ……あの子の、体。


    ん。


    ……傷だらけだよ。


    知ってるよ。


    …痣、出来てた。


    うん。


    擦り傷だって…。


    …。


    …どうしても駄目なの。


    うん、駄目。


    ……どうして。


    どうしても。


    …ナディは。


    …。


    ナディはどうして平気なの。


    別に平気じゃないけど。


    じゃあ、どうして。
    力を使えば


    自分で治せるから。


    …。


    すぐには治らないけどね。


    …痛みを、我慢してる。


    うん。


    …今日も新しい傷が増えてた。


    ……。


    …。


    あの子が決めた事だから。


    でも…!


    エリス。


    でも…。


    …あんたにだって、負担がかかる。


    私は良いの。
    だから


    良くない。


    …!


    …。


    ナディは、ナディはロントが


    エリス。


    …だって。
    だって…。


    ……。


    …。


    …少し、家を離れようか。


    え…。


    見ているのが、辛いのなら。
    あたしはロントを連れて、少し離れる。
    そうすれば


    そんなの、いや…!


    …。


    そんなの、いや…。


    …言うと思った。


    ……。


    思った、けど。


    ……。


    ここにいれば、あんたはロントの傷を見る事になる。


    …離れてたって。


    分かる、か。


    ……。


    どうするかな…。


    …ナディ。


    ん、エリス…。


    …ナディの躰には消えなかった傷がいっぱい残ってる。


    まぁ…ね。


    …あの子にも、消えない傷が残るの。


    う……。


    ……アリスを守る為、に。


    ならないとは…言えない。


    ……。


    …エリス。


    ……。


    エリ、…っ。


    ……。


    …。


    ……だめ。


    …エリス。


    やだ。


    ……。


    …いや。


    あんたが。


    …ぅ。


    触るから。


    …触った、だけ。


    だけ、ね…?


    触っただけ、なのに…。


    …舌を這わせておいて。
    よく、言えるね。


    あ。


    …。


    や、だめ…あ。


    ……。


    だめ、だめ…。


    ……。


    …ぅ、あッ。


    ……エリスが、悪い。


    ナ、ディ…。


    …そんな風に、触るから。
    それも…。


    だっ、て…だって…。


    ……うるさい。


    あ、ぁ…。


    ……。


    ……ナ、ディ…。









    ……。


    …ナディ。


    ん…?


    …はい。


    …?


    …飲まない?


    ああ。
    ありがとう、エリス。


    …ん。


    …。


    ……。


    ん、おいしい。


    …良かった。


    ……。


    ……。


    ……。


    …ナディ。


    …。


    ナディ。


    …なに?


    …。


    エリス。


    …ううん。
    静かだね。


    そうだねぇ。


    …。


    …雨、止まないなぁ。


    雨季、だから…。


    この調子だと、明日も雨かな。


    ……。


    ん、エリス…?


    …。


    なに…?


    …だめ?


    だめじゃ、ないけど。
    珍しい。


    …いい?


    あたしの膝なんかで良ければ、どうぞ?


    …ふふ。


    ……。


    ……ねぇ、ナディ。


    ん…。


    ……。


    …なに、エリス。


    大丈夫かな…。


    …ああ。


    ……風邪、ひいてないかな。


    病気らしい病気、しなかったけど。
    でもいつだったか、一度だけ。


    …。


    高い熱、出したね。
    あれはなんでだったっけ。


    …風邪、ひいてるのに。
    黙ってて、無理して。


    こじらせた…んだっけ。


    …。


    子供らしく、なかった。
    もっと甘えて、もっと我侭を言って。
    それが子供だと思ってた。


    …魔女の力が。
    あの子を、そうさせてしまった。


    ……。


    …もっと、子供らしくさせてあげたかった。


    ……。


    あげたかったよ…ナディ。


    …エリス。


    ……。


    …今はどこら辺かな。


    どこにいても…


    雨に打たれてなければ…か。


    …うん。








    ……。


    い、つ…。


    あ。


    ……。


    痛かった…?


    …ううん、大丈夫。


    ごめんね…。


    ……。


    ……。


    …ねぇ、エリス。


    …なに。


    ナディと何かあった…?


    …どうして?


    ……。


    ……。


    …なんか様子が違うから。


    なにもないよ。


    …。


    …ない、から。


    ナディも。


    ……。


    …どこか、様子がいつもと違った。
    だから。


    ……。


    …ナディと喧嘩、した?


    ……。


    …初めてだ。


    …?
    初めて…?


    ナディとエリスが喧嘩してるの、見るの。


    …してないよ。


    ……。


    してない…。


    …わたしが、原因?


    ……。


    ごめんなさい…エリス。


    …ロントが謝る事、ないの。


    ……。


    …ない、から。


    ナディ、ね…。


    ……。


    …エリスの事、気にしてたと思う。
    今日、いつもより少し鈍かったから。


    そんなこと…


    …あるよ。
    それはエリスが一番、分かってると思ってた。


    ……。


    …ナディの事、怒ってるの?


    ……。


    ……。


    …怒って、ないから。


    わたしは、大丈夫だよ。


    …。


    自分で、決めたんだ。
    だからこれくらい、なんともない。


    ロント…。


    …だからナディの事、嫌いにならないで。


    そんなの…!


    …ん。


    なるわけ…なるわけ、ない。


    そっか…良かったぁ。


    ……。


    ナディのところ、行こう?
    待ってるから。


    …もう少し、だから。


    うん…。


    …あのね、ロント。


    ん…?


    …触ってはいけないものに、触ってしまったの。


    …?


    ナディの…古傷。


    でも、それは…。


    …ううん、駄目なの。


    ……。


    手で触るのはまだ良いの…でも。


    …スイッチ。


    ……私が知らなかった頃のナディの顔。


    エリス…。


    でも、私……。


    …ナディは、怒ってないよ。
    むしろ、エリスの事を気にしてばかりだ。


    …。


    …謝りたいんじゃないかな。


    それは、私だって…。


    …だったら、ちゃんと話さないと。
    ね。


    ……。


    わたしは大丈夫だよ。
    だって、貴女達の子供だから。


    ロンティタ…。


    …さ、お母さん。
    ナディのところに行ってあげて…?


    ……いえっ、さ。


    うん。


    ……。


    ……。


    …ロント。


    うん?


    アリスのこと、好き…?


    …うん、大好き。
    だから守りたい…


    …。


    …ううん、守るよ。
    エリスとの約束も。
    必ず。


    …強い瞳、輝いている瞳。
    私の大好きなあの人の…。


    ……。


    …大きくなったんだね、ロント。


    二人がここまで育ててくれたから。
    だから、今のわたしがここにいる。


    ……。


    だから、ありがとう。
    それから、ごめんなさい。


    ……ロン、ト。


    …さ、エリス。
    ナディのところへ。
    ナディがエリスを待ってる。









    ……。


    …ナディ。


    ……。


    …お腹、空いてない?


    ん、少し…。


    …聞こえてたんだ。


    ……。


    ナディ…。


    …ごめん。
    無視してるつもりじゃなかった。


    ……何、食べたい?


    そうだなぁ…。


    ……。


    …エリスが作ってくれるのなら、何でも良い。


    だめ、ちゃんと言って…。


    …ん。


    言って、ナディ…あなたの、したい事を。


    …?
    あたしの…?


    …私は、貴女がしたい事をして欲しいから。


    ……したい事、か。


    ……。


    じゃあ、今夜抱きたい。


    ……。


    したい事、だけど。


    …真面目に言ってるの。


    だから、真面目に答えてるんだけど。


    不真面目。


    あんたが言えって言ったから正直に、かつ、真面目に言ったのに。


    ……。


    …まぁ、良いや。
    水でも汲んでくるよ。


    待って。


    ん?


    …それが、今のナディのしたい事なの?


    うん。


    ……。


    うすらタコスだしねぇ、あたしは。
    一時期、それしか考えてない事もあったし。


    ……。


    …それで無理矢理、なんて事も何度も仕出かした。
    普通だったら、許してもらえないと思う…。


    …普通、なんて。


    …。


    人によって、違うものだから。


    …そう、だとしても。


    ん、ナディ…。


    …古傷、触られた時ほど。
    酷く、昂ぶって。


    ……。


    …酷く、気持ちが良かった。
    酷い話だ。


    …ナディ。


    歳、取ったかな。


    …でも、変わらないよ。


    ……。


    …それに。


    うん…?


    …ナディが私の事、考えてるのは。
    いつもだから。


    いや、流石に今は


    若い時から、ずっと、そうだから。
    変わらないから。


    んー…。


    ……。


    …あたしはどれだけ、うすらタコスなのかね?


    測れないくらい。


    ……。


    …測れないの。


    だから、あの子が生まれた。


    ……。


    うすらタコスも、悪いもんじゃない…かな。


    ばか、自分で言わないで。


    ……。


    ……ナディ?


    有難う、エリス。


    ……。


    …有難う。
    あたしはずっと、あんたに甘えてきた。


    ……。


    …それはこれからも、だと思う。
    出来れば、


    ナディ。


    ん…エリス。


    ……。


    …エリス。


    抱いても、良いよ…。


    …じゃあ、お言葉に甘えて。


    ばか。


    と…。


    …今はだめ。
    ごはんが先。


    腹が減っては出来ない、からね。


    …もう。


    じゃあ水、汲んでくるよ。


    ……。


    エリス?


    …静かだね。


    うん、そうだね。


    …ロントがいなくなって。
    家の中、静かなままだね…。


    …あいつがいた時も、騒がしくはなかったけどね。


    ……。


    ……。


    …行ってらっしゃい、ナディ。
    早く戻ってきてね。


    淋しい?


    ばか。


    はは、じゃあ行ってくるよ。


    …ん、行ってらっしゃい。


    そうだ、エリス。


    …なぁに?


    久々にあれ、食べたい。


    あれって?


    あんたが昔、喋っていた言葉のごはん。
    なんだっけな…えと、アイント、なんとか。


    …ん、分かった。








    は…、は…。


    ……。


    ぐ…。


    …待ってなんか、くれない。


    …あ、ぁ……。


    あんたさ、これで何回死んだ?


    …ぅ…ぐ…あぁ。


    これから何回、死ぬつもり?


    …ぅ…う…。


    何回死ねば、守れる?


    ……。


    それとも。
    目の前でアリスが殺されてみないと、分からない?


    ……ッ!


    無残に、さ。


    …あ、あぁぁ。


    下衆な野郎だったら、玩具のように犯されて、塵のように殺される。
    あたしはそういうの、何度も見てきたよ。
    あの世界はそれが“ざら”だったからね。


    ……がぁぁぁぁッ!!


    ……。


    そんな、こと……。


    …口でだったら、何とでも言える。
    あんたが言ってるのは所詮、


    誰が、させるかぁ…ッッ!


    …む。


    はぁ…はぁ…はぁ…っ、…!


    ……。


    …ナ、ディ…ッ…。


    あたしが憎いなら。


    …は…、は…、は……。


    もっと、





    だめ、ロント…ッ!!!





    あぁぁぁあ……ッ!!


    …ぐ。


    ゆるさない、ゆるさない…ッ、ユルサナイ…!


    ……うん、それでこそかな。


    あああ…!!


    ロント、止めて…!
    それ以上は


    エリス!!


    …ナディ!


    来るな。


    いや、聞けない!


    エリ


    このままだったら、貴女がロントに!
    ロントの心だって…!!


    もう少し、待って。


    でも…!


    うぅぅぅ……、ア゛ァ゛…!


    あ…。


    …ぐぅぅ。


    ナディ…ッ!


    …エリス。


    ……!


    …はぁ。
    ありがと、助かった…。


    もう、やめて。
    お願い、ナ


    ナ、ディ…ィッ!


    やめて、ロント!
    その力はあなたにとって…!


    …エリス。


    ナディ…もう、止めて。
    お願い、もう…あの子を、刺激しないで。


    …ロント!


    ナディ、どうして……。


    ロント、力は正しく使うべきだ。
    でもそれは、人を殺した者から言わせれば、ただの綺麗事に過ぎない。
    守る為に力を使えば、誰かが必ず傷付く。傷付いた誰かにしてみればそれは悪だ。正しさも何も、無い。
    そうやって憎しみは広がっていくの。


    う、うぅぅぅ…ッ。


    ロント。
    あんたはいつか、その力でその手を汚すかもしれない。
    アリスを守ると言う名目で。


    ……、…。


    それでも、ただ殺すな。
    殺すのに種類なんて無いけど、それでも。


    はぁ…はぁ…、はぁ…。


    …ま、所詮、あたしも綺麗事を言ってるに過ぎないけど。


    ……ぅ…う。


    ……。


    ……。


    …尽きた、かな。


    ロント……!


    ……。


    ロント…ロント…。


    …魔女の力。


    …!
    ナディ…!


    ……。


    どうして、どうして…。


    …手段を選べない時が、あるから。


    だからって…ッ。


    …あたしは、あんたの力に何度も助けてもらった。
    今だって。


    でも、それは…ッ。


    ……。


    …それ、は。


    今ので分かった。
    今後、ロントの力が暴発する可能性は否定出来ない。
    だったら。


    ……。


    …少しでも、コントロール出来た方が良い。


    ……う。


    エリス……。


    …あぁ、ロント。
    ロント……。


    ……。


    ごめんね…ごめんね……。


    …この子は本当の意味での痛みを知らない。


    ……。


    出来れば教えたくなかったし、知って欲しくなかった。


    ……。


    …あたし達とずっと一緒にいれば。
    でも、それは出来ないから。


    ナ、ディ…。


    …あんたが泣いてると、ロントが心配する。


    う……あぁあ。


    エリス……。


    …ナディ、ナディ…ナディ…。


    今日はここまでしよう。
    さぁ、帰ろうか。








    ごちそうさま。
    おいしかった。


    ん…。


    やっぱり、エリスが作るごはんが一番おいしい。
    いつ食べても、さ。


    …ありがとう、ナディ。


    お茶、淹れようか。


    …ううん。


    …?


    ナディ。


    …うん?


    ……。


    エリス…?


    ……。


    …と。
    えと、休まないで良い…?


    ……。


    …エリス。


    少し、だけ…。


    …じゃあ、お茶でも飲もうよ。
    夜は、これからだから。


    ……うん。


    ……。


    …ねぇ、ナディ。


    うん?


    ……。


    ねぇ、エリス。


    …なぁに。


    あんたがしたい事って、なに?


    私が…?


    エリスはいつも、あたしがしたいようにさせてくれるから。


    …それが、嬉しいから。


    同じだよ。


    …おなじ?


    あたしもエリスがしたい事、して欲しい。


    ……。


    あの旅が終わって。わりとすぐに結婚して。二十歳になる前に子供、持って。
    それから体調に気をつけながらずっと子育てしてきて。
    そう考えるとエリスは自分がしたい事、出来なかったんじゃないかなって。


    …ううん、そんな事ない。


    ……。


    …ナディに、愛されたかった。
    魔女ではなく、ただの一人の女として。


    ……。


    …結婚、したかった。
    ナディの子供が、欲しかった。


    …。


    貴女にそっくりな子供を産み育てる事が出来て…とても、しあわせだった。
    だから、私のしたい事は全部…。


    本当に全部?


    ……。


    これからだよ、エリス。
    あたし達の時間はまだまだ、あるんだから。


    …ナディ。


    だから…エリスがしたい事、しよう。
    あたしはどんな事でも、エリスの傍にいるから。


    …私は。


    うん……。


    私は、ナディにされたい…。
    それが、私のしたい事だから…。


    …エリス。


    ナディ……。


    ……。


    …でも、叶うなら。
    あと、もう一つだけ…叶えて、欲しい。


    だけ、なんて…言うな。


    ……。


    …言うな?


    う、ん…。


    …それで、なに?


    ここじゃ、いや…。


    …じゃあ、ベッドで?


    ……。


    …ん、分かった。
    じゃあ、ベッドでね…。


    ……う、ん。








    …丸々としている子を。
    その際、間違っても妊娠している子を選んではいけない。


    ……。


    …血を抜いて、内臓を取り出す。
    それから熱湯に入れて、毛を抜く。


    ……。


    …全部、ナディが教えてくれたこと。


    今ではもう、完全に一人でこなせるようになった。
    あたしもエリスもこの子達に関してはあんたに全部任せてる。


    うん。


    ……。


    …エリスには決して、見せようとしなかったね。


    あの子は今でも血が駄目だから。


    …。


    …昔は切り傷程度の血でも駄目だった。
    酷いと発作を起こして、


    力が暴走したんだね。


    …それはつまり、あの子の躰に負担をかける。
    力に振り回されるあの子はいつだって、苦しそうだった。


    ……。


    …涙を流して、過呼吸を起しかねないくらいに喘いで、最後には気を失って。
    小さな躰に、あんな大きな力はどう考えても見合っていない。


    …。


    あたしは、苦しむエリスの姿を見たくなかった。


    ナディは。


    …。


    エリスを苦しみから救ってあげたかった。
    魔女の力から解放してあげたかった。


    …そんな立派な人間じゃないよ、あたしは。


    ううん。


    …。


    ナディはわたしのお母さんだから。
    わたしは世界で誰よりも尊敬してる。


    …一人、忘れるな?


    忘れてない。
    絶対に忘れない。


    …。


    …わたしは二人の子供に生まれることが出来て、しあわせだから。


    ……。


    …ナディ。
    わたしの中にも


    かつて、エリスを振り回してくれた力がある。


    …うん。


    いつか、それはあんたを必ず振り回す。
    あんたの意思なんて、関係無く。


    …。


    …大事な人間でさえ巻き込んで、傷付けてしまうかもしれない。


    ……エリスは。


    ……。


    今はもう、自分の意思で制御できるんだよね。


    …まぁ、ね。
    だけど躰に大きな負担をかけるのだけは昔と変わらない。


    ……。


    …今夜はクイの丸焼きと、チューニョのスープか。
    昔だったらごちそうだ。


    …ナディのおばあちゃんが生きていた頃くらい?


    もっと言えばばあちゃんが若い頃くらい…かな。


    ……。


    ロント。


    …ん。


    傷は?


    …少し痛いけど。
    でもこれくらい、なんてことない。


    …。


    エリスに手当て、してもらったから。


    …そ。


    ……。


    ……。


    …ナディがクイを屠殺するのを初めて見た時のこと、今でも覚えてる。


    ……。


    …わたしは、わたしたちは命を食べて生きている事。
    食べなければ、生きられない事。


    ……。


    …それが、生きるという事。


    必要なものを、必要な分だけ。


    …。


    過度に求める事、それは自分達の身を滅ぼす。
    それがばあちゃんの教えだった。


    …厳しいよね。


    あたし以上にね。


    はは。


    ……。


    でも…そっくりだった。


    …。


    姿も、声も…愛する人を守り抜こうとする意志も。


    ……。


    …引き離されてしまったとしても。
    最期までその想いを貫いた…。


    …。


    …わたしも、そうなりたい。


    なりたい、じゃない。


    …。


    どうせなら、なれ。


    …なれるかな。


    なれるかな、じゃない。


    ……。


    …あたしとばあちゃんの血を引いてるなら。
    必ず、なれる。なる。


    …。


    何より、エリスの血が一番強い。
    あの子は、あたしなんかよりもずっと意志が強いから。


    うん。


    ……。


    …それに“エル”も。


    ……。


    ナディ。


    ん。


    必ず、守るよ。


    …。


    必ず、アリスを。


    …それ、口だけ終わらせるな?


    いえっさ、ナディ。


    ……。


    …ところで、ナディ。


    うん?


    こども。


    …?
    子供?


    …作ると思ってたから。


    ああ。
    あたしとしては


    作ってあげて。


    …。


    …わたし、いなくなるから。


    いなくなるわけじゃない。


    …。


    と言うか、言われなくても作りたい。


    …わ。


    エリスが良いって言えば、今夜にでも。


    ……。


    あんたがいようが、いまいが。


    ……。


    と…エリスには内緒で。
    こんな事、あんたに言ったなんて聞かれたらまた怒られる。


    …きっと、顔を真っ赤にしてね。


    そこがまた、可愛いんだけどね。


    ……。


    …これも内緒で。


    はは、二人はいつまでも仲良しふーふだね。


    愛してるからね。


    …ん。









    ……。


    ……。


    ……エリス。


    …あのときも、こうやってさわらせてくれた。


    ……。


    はじめてのとき、こわがるわたしにあなたはじぶんのからだをさわらせて…。


    …。


    …そして、おしえてくれた。
    わたしとあなた、なにも、かわらないって。


    ……。


    …なにも、かわらない。


    ……。


    ナディと、わたし…なにも、なにも。


    ……。


    なにも、かわらない…。


    …髪、肌、瞳。
    色は違うけど…違いなんて、どこにもない。


    ……。


    …エリス。


    ああ、ナディ……。


    ……。


    ……ナディ?


    …そのままで。


    でも……。


    ……。


    ……。


    …やっぱり、きれい。


    ナディ、もう…。


    …初めての時、あんたは。


    ……。


    ずっと、ふるえてた。


    ……。


    …初めての前から。
    あたしが触れるだけで。


    …こわかった、から。


    …。


    まじょ、だから…。
    にんげんじゃない、ナディにそうおもわれるのが…どうしようもなく、こわかったから。


    …でも、違いなんてどこになかった。


    ……。


    あんたも、あたしも…愛する人を求める。
    ただの人間に過ぎない。


    …なにも、かんじなかったらって。


    …。


    ナディにからだをあいされて…ナディがわたしのなかに、はいって。
    それでも、なにもかんじなかったらって…。


    …そこまで考えてたんかい。


    だ、って…。


    …だって?


    こわかった、の……。


    …。


    …こわくて、こわくて。
    ナディにもとめられて、しんでしまいそうなくらい、うれしかったのに…。


    ……。


    …だから、ちゃんとかんじることができて。
    ちゃんと…その、おわることができ…て。


    ……。


    そのとき、は…その、よく、わからなかったけど…でも、ナディのうでのなかで、ねむりにおちるときに…わた、し。


    ……。


    …わたし、ナディにだかれて。
    わたしのなか、ナディでいっぱいに…


    …エリス。


    ……。


    結構、はずかしいこと、言ってるけど。


    …ばか、いわないで。


    かわいい。


    ん、ナディ…。


    …かわいい、エリス。
    いつまでたっても。


    …ばか。


    ……もう、こわくない?


    …。


    エリス…?


    …う、ん。
    おなじ、だから。


    そっか、良かった。


    …ナ、ディ。


    そろそろ、ベッドに入ろうか?


    ばか…。


    …ちゃんと、だっこしてあげるから。


    ……すぐ、なのに。


    それでも。


    ……。


    …ちゃんと、つかまってろ?


    …。


    …いえっさは?


    いえ、さ…。


    ……。


    …ん。


    エリス…。


    ……ナディ。
    ナディ……。


    ……。


    …わたしの、だいすきなひと。
    たいせつなひと…。


    ……。


    ……。


    …ついた。


    はなれたく、ない…。


    …しってる。
    あたしもそうだから。


    …ん、あぁ。


    エリス……あんたのしたい事は?


    …。


    …ベッドの中で聞く約束。


    ……。


    …それとも、もっと後でが良い?


    いま、は…。


    …ん、エリス。


    はやく、あなたがほしい…。


    …。


    …はやく、あなたをかんじたい。
    いまよりも、もっと…。


    …いえっさ、エリス。


    あぁぁ…ナディ…。








    その目で良く見ること。


    ……。


    まずはそれからだ。


    ……。


    目を逸らすな。
    間違っても、瞑るな。


    ……。


    引き金を引けば、弾は勝手に飛んでいく。
    暴発しない限り。


    ……。


    だから、日頃の整備は怠るな。


    ……。


    銃口。


    …。


    照星。


    …。


    排莢口。


    …。


    遊底、照門、撃鉄、安全装置、グリップ・セイフティー…


    …銃把、ランヤードリング、弾倉、マガジンキャッチ。


    …。


    引き金、トリガーガード、スライドストップ…。


    …。


    スライドストップを引き抜けば、


    分解出来る。


    …うん。


    嫌でも覚えたもんだけど。


    …ナディは大体、感覚で覚えてるよね。


    頭でも覚えてるよ、一応は。


    …うん。


    勝手に飛んでいった弾は的を射抜くか、外れるか。
    それで結果は大きく変わる。


    ……。


    何もしなければ腕は鈍る。
    感覚は鈍っていくものだから。


    ……。


    ……。


    ……。


    ロント。


    …はい。


    その子は今日からあんたのものだ。


    ……。


    まだまだ馴染んでいないかもしれない。
    けど、それはもう、あたしのものじゃない。


    ……。


    生かすも殺すも、あんた次第。
    オーケイ?


    …オーケイ、ナディ。


    うん。


    ……。


    まだ、重い?


    …少し。


    そ。
    じゃ、さっさと慣れた方が良いね。


    …ナディは。


    あたしは?


    …どうしてこの子を持っていたのか、覚えていないんだよね。


    まぁね。


    気付いたら、


    躰の一部だった。


    ……。


    いつでも一緒だった。
    そう、いつでも。


    …エリスよりもずっと。


    でも、あんたにあげたから。
    いずれ、エリスと一緒にいる時間の方が長くなる。


    …ねぇ、ナディ。


    うん?


    知りたい?


    何を?


    どうしてこの子を


    別に良い。


    …そうだね。
    ナディはそういう人だよね。


    分かってるなら、言うな?


    …う。


    補充の弾はあるにはあるけど。
    無くなったら、自分でなんとかする事。
    弾が無い銃なんて、鈍器ぐらいにしかなんないから。


    うん。


    ……。


    ……。


    …銃把、あたしの癖がついてるから。
    使いにくいだろうけど。


    大丈夫。
    必ず、わたしの手に馴染ませるから。


    あ、そ。


    …銃と、魔女の力。


    …。


    わたし、二人の子供みたい。


    みたいじゃ、ない。


    …うん。


    魔女の力は。


    …。


    あたしが思っている以上に、重いものなんだと思う。


    …。


    あたしは結局、全てを分かってあげる事は出来なかった。
    いや、これからも出来ない。
    どうやっても。どんなに願っても。


    …それでもエリスには。


    …。


    そのナディの気持ちだけで、十分なんだ。


    …だと、良いけど。


    じゃなかったらわたし、ここにいなかったよ。


    …。


    わたしは、いなかった。


    …そしたら。


    ……。


    アリスはずっと、独りだった。


    …ナディ。


    ロント。


    …ん。


    頑張れ。


    …え。


    一人じゃ、無理でも。
    二人なら、なんとかなるもんだから。


    …うん。


    ……。


    ……。


    明日、早いなら。
    今夜も早く寝た方が良い。


    …うん、ナディ。


    でもその前に。


    ……うん。









    ……。


    ……。


    ……。


    …わたしの、したいこと。


    ……。


    わたしの、ねがい…。


    ……。


    …こんなにナディにあいしてもらってるのに。


    ……。


    …あかちゃんまで、もらったのに。


    ……。


    …まだ、たりないって。


    …。


    わたしは、そんなじぶんが、いやでたまらなかった…。


    …人間は。


    …。


    足りている、そう思っていても。
    どこかで足りないって、思っている。


    …。


    …エリス。


    ナディ…。


    大体、そんな事言ったらあたしなんてどうなる?


    …。


    エリスを初めて知った日から、数え切れないくらい求めてきた。
    それなのに、まだ足りないって思ってる。


    ……。


    …あたしのしたい事、あんたは叶えてくれた。
    これからも、叶えてくれる。


    …。


    …だから、あたしはあんたの願いを叶えたい。
    どんな願いでも、あたしが出来る事ならば、なんでもしたい。


    ……わたしは。


    ……。


    わたしは、ナディ…。


    …。


    ……もう、いちど。
    もう、いちどだけ…。


    ……。


    …あなたの、いのちを。
    ふたりの、いのちを…。


    …それが、あんたのしたい事?


    ……かなえて、くれる?


    …。


    …かなえても、いい?


    と言うか、エリス。


    …ん。


    それはあたしのしたい事でもあるんだけど。


    ……。


    …忘れてた?
    あたしがずっと、望んでいた事。


    ううん、わすれてない…。


    …あんたが、望まなければ。
    それで良いって、思ってた…けど。


    ……。


    …あんたが、望んでくれるなら。
    あたしはしたい。叶えたい。叶えてあげたい。


    ……わた、し。


    …。


    …ひとりで、いいって。
    おもってたの…。


    ……。


    それいじょう、のぞんではいけないって…。


    …どうして?


    ……だ、って。


    …。


    だって、こんなにしあわせなのに…。


    …。


    もっと、ほしいなんて…いえない。


    言って、良いんだよ。


    …。


    …エリス。


    それに。


    …。


    …まじょのちからが、いまでもやっぱりこわいの。


    ……。


    わたしとアリスでおわらせる。
    こんなちから、にんげんにはひつようない。
    こんなちからなくたって、にんげんはあるいていけるから。


    ……。


    …だから、わたしたちでおわらせる。
    おわらせるべきだった…だった、のに。


    ……。


    だって…こんなちから、あってはいけないから。
    ナディみたいなひと、ばっかりじゃないから…。


    エリス。


    …なの、に。


    ……。


    ……あのこには。


    …。


    …まじょのちからなんてもってない、ふつうのこどもとして、うまれてほしかった。
    いきて、ほしかった…。


    ……。


    わたしのこどもというじてんで、そんなのかなわないのに…。


    ……だから。


    ぅ…。


    望んでは、いけないと?


    …それでも、わたしは。


    ……。


    それでもわたしは…こころのどこかで、ふつうのこどもとしてうまれてきてくれることをねがってた、しんじてた。


    …。


    …つぎもきっと、しんじてしまう。
    あのこをみても、なお…。


    あたしはさ、エリス。


    …。


    嬉しかったよ。
    あの子は間違いなく、あんたの血を繋いでいるから。


    ナディ…。


    …魔女の力は。
    あんたとあたしにあの子をくれた。


    …。


    本当なら、叶わない願い。


    ……かなえてはいけない、ねがい。


    あの子に言われたよ。


    …?


    子供、作ってあげてって。
    自分はいなくなってしまうから、自分の代わりをって。


    …かわり、なんて。
    あのこは、あのこはたったひとりだけなのに…。


    …。


    わたしの、わたしたちのたいせつな“たまご”……。


    …あんたが。


    ……


    あんたが、望んでくれるなら。
    あたしは幾らでも、あげたい。
    勿論、あの子の代わりなんかじゃない…。


    …ナ、ディ。


    そう、あんたが望むなら。
    あたしは、それを望んでいるから。


    ……。


    …と、言っても。
    あんたの躰の事もあるから、無理はさせたくない。


    …。


    もう、そんなに若くもないしね…?


    …ねぇ、ナディ。


    うん…?


    もしも、もしも…。


    …子供は二人の親から何かを貰って、生まれてくる。
    何かは分からないけど、でも貰わない子供なんて、きっと、いない。


    ……。


    …エリス。


    ……。


    あたしの命、あんたのお腹に。
    それがあんたの願いなら、あたしは。


    ……。


    ……。


    …あなたの、みぎうで。


    問題、ない。


    ……。


    でも、叶うなら。
    今度はちゃんとしたいかな。


    …ちゃんと?


    最初は…なんていうか、動物の交尾みたいだったから。


    こ…。


    …だから、次は


    ばか。


    …お。


    こうびだなん、て……。


    …あの時の感覚、記憶。
    あまり無いのが悔しくてさ…あたし。


    …ばか。


    だから、次があれば…て、考えてた。


    ばか、うすらタコス…。


    …勿論、それだけじゃないんだけど。


    ……。


    …エリス。


    ……。


    ……。


    …かなえ、て。


    …。


    もういちど、わたしに…。


    ……。


    かなえて、ください…。


    …いえっさ、エリス。


    あ…。


    ……愛してる、エリス。


    あぁ、ナディ……。








    ……。


    …エリス。


    ……。


    ……。


    …深い深い、森の中。


    …?


    心を、眠らせている。
    ずっと。


    ……。


    …私の声はもう、届かない。
    その手を離してしまったから。


    ……。


    …もしも離さないでいたら。
    私達はずっと、一緒にいたかもしれない。


    ……。


    …でも、それはありえない。
    何度、やり直せたとしても。


    ……。


    …あの人が、私の前に現れるたび、見つけてくれるたび。
    わたしは、何度でも、あの人を好きになる。
    恋に、落ちてしまう。


    ……。


    …私は、あの人と出逢う為。
    生まれてきたって、あの人が教えてくれたから。


    ……。


    …どの世界の私も、あの人を選ぶの。
    そう、どんな世界であっても私は…。


    ……ずっと昔から決まっていたこと。


    …。


    …エリス。


    この世界の魔女は、二人。
    私と…アリス。


    …。


    …もしかしたら、アリスが選ばれていたかもしれない。


    それはないと思う。


    …どうしてそう思うの。


    エル・カザドはエリスを選ぶから。


    …。


    そしてエリスになれるのは一人だけだから。
    どの世界にもエリスはたった一人しかいないから。


    …。


    …エリスは母さん、貴女一人だけだから。


    ……ずっと。


    …。


    ずっと、眠ったまま。
    ずっと、凍ったまま。


    ……。


    …私が眠らせてしまった、凍らせてしまった。
    共に歩く筈だった私が。


    ……。


    そして、貴女が。


    ……。


    …もう一人の、エル・カザド。


    ……わたしは。


    ……。


    母さん達の子供だから。


    ……。


    ……。


    …ロント、これを。


    これは…。


    …インカ、ローズ。


    ……。


    お守りにもならないかもしれない。
    でも。


    …ありがとう。
    大事にするね。


    ……。


    そうだ。
    ナディに頼んで紐を通してもらうよ。
    それで、首からかけておく。


    …うん。


    ……。


    ……ウィニャイ、マルカ。
    かつて、私達が目指した場所。
    あの人が命を懸けて、私を連れて行ってくれた場所。


    ……。


    …でも私達の永遠の場所は。


    ……。


    …すぐそばにあった。
    あの人と出逢ったその時には、もう…。


    ……エリスは。


    ん……。


    ナディが大好きなんだね。


    …うん、大好き。
    あの人が、大好き…。


    ……。


    …だから、ロント。
    貴女があの子を恋しく想う気持ちは…分かるつもりなの。


    ……。


    今でも私はあの人に…ナディに、恋をしているから。


    ……ナディも。


    そうだと、良いな…。


    …子供が言ってるんだから、そうだよ。
    一番近くで、ずっと、見てきたんだから。


    ……うん。


    ……。


    ……明日、早いんでしょう?


    うん…。


    …じゃあもう、寝ないと。


    ナディが。


    …。


    …エリスを迎えに来てる。


    貴女の事も。


    ……わたしね、エリス。


    うん…?


    少し淋しかった。


    …。


    …甘えるの、うまく出来なくて。
    もしもこの力がなかったら…わたし、もっと上手に甘えられたかな。


    ロント…。


    …でも、この力のおかげでアリスと出逢えたから。


    ……。


    …泣かないで、エリス。


    ……ごめんなさい…ごめんなさい…。


    ナディに泣き虫って、言われちゃうから。


    ……。


    …ねぇ、エリス。


    ……。


    もう、望んじゃいけないって。
    思わないで。


    え…。


    …新しい命を。


    ……。


    二人が望む願いなら。
    わたしは叶えて欲しい。


    でも…でも、ロント…。


    …魔女の力ぐらいで、どうにかなるわたし達じゃないよ。


    …!


    だって、わたし達は…エル・カザドの子供だから。


    ああ…あぁ…。


    ……だから、エリス。


    私…わたし…。


    …どうか、自分を責めないで。
    そんな必要、どこにもないんだから。


    ……望んで、いいの。


    うん。


    欲しいって、思ってもいいの…。


    …うん。


    もう一度、かなえてもいいの…。


    …何度でも、いいんだよ。


    ……。


    ナディはエリスの願い、いつだって叶えてくれる。
    叶えようと、してくれる。


    …あぁ、ナディ。
    私の、大好きな人…。


    ……そして、エリスも。


    ……。


    エリスもナディの願いを、いつだって叶えてあげてる。
    叶えようとして…。


    ……。


    …わたしは、出来るのなら。
    ナディとエリスのようになりたい。


    …。


    アリスと。


    ……ロント。


    でも、好きだけじゃ駄目なんだよね。


    …でも、それが。


    …。


    全ての始まりだから…。


    …。


    そして、貴女に繋がったから…。


    …うん。


    ……。


    …インカ、ローズ。


    ……。


    あたたかい。


    …ん。


    ……どんなに深い森でも。


    ……。


    わたしは、諦めない。


    …。


    ん、エリス…。


    …あの人の子。
    心を受け継いでいる子…。


    ……。


    …きっと、大丈夫。


    うん…母さん。


    ……ナディ。


    ……。





    呼んだ?





    …うん。


    そっか。
    じゃあもう、寝ようか。
    明日も早いし、何より、夜の外気は躰に良くない。


    …来てくれる。
    いつだって。


    勿論。
    あたしはあんたのエル・カザドだから。


    うん……。


    おやすみ、ロント。


    …おやすみなさい、ロント。
    また、明日ね…。


    …うん。
    おやすみなさい、ナディ、エリス。
    また、明日…。









    ……。


    ナディ…。


    …大丈夫。


    うん……。


    ……。


    はぁ…。


    ……。


    …ナディ。


    あ、そうだ。


    …え?


    ちょっと待って、エリス。


    ナ、ナディ…。


    止めるわけじゃないから。


    ……。


    んー。


    ……何、してるの?


    …。


    ナディ。


    ……。


    ナディ……。


    エリス。


    …。


    これ、いつかの約束。


    …約束?


    贈り物(レガーロ)


    ……。


    約束。


    …あ。


    忘れなかったよ。


    ……。


    インカローズ。


    …。


    あの子にあげちゃったでしょ。
    その代わりと言うわけじゃないんだけど。


    ……十字架?


    チャカナって言って、昔から伝わるお守りなんだけどね。


    …南、十字星?


    そう、南十字星。


    ……。


    太陽、空気、水、そして大地。世界を司るもの。
    病気や災いからあんたを守ってくれるように。


    ……。


    ……。


    ……。


    …いらない?


    ううん、嬉しい…。


    そっか。
    良かった。


    …でも、ナディ。


    うん?


    私はもう、守られてるよ。


    …。


    …貴女と言う太陽に、ずっと、守られてる。


    エリス…。


    ……。


    …本当はあの子にもあげようと思ってたんだけどね。
    インカローズがあれば大丈夫だろうから。


    ……。


    …つけてあげようか?


    いい…?


    …勿論。


    ……。


    ……。


    …ありがとう、ナディ。
    嬉しい…。


    喜んでもらえて、あたしも嬉しい。


    ……。


    …エリス。


    うん……。


    ……。


    …ねぇ、ナディ。


    ん…?


    …あなたにも、お守り。


    ……。


    …toi、toi、toi。


    ……。


    形がなくて、ごめんね…。


    …良いよ。
    エリスが、いるから。


    ……。


    …エリスがあたしを守ってくれるから。


    ……。


    ……。


    …ナディ。


    ……。


    私の、太陽……。


    ……ぅ。


    はぁ…。


    ……く…う。


    ………。


    …エリ、ス……。


    …はぁ……、はぁ……。


    エリス……。


    ……ナ、ディ。


    ……。


    ……。


    …う、あ、…あ。


    はぁ…っ、…はぁ…、…っ。


    く…、…あぁァ、…あ゛アァッ。


    ……はぁ……はぁ…。


    ………。


    …ナディ。


    ……。


    ナディ…。


    ……エリス。


    あ……。


    エリス。


    …あぁ。


    ……。


    ナディ、ナディ……。


    …分かる。


    ……。


    感触、感覚、あの時とは…違う。


    ……ナディ。


    これで…ん。


    ……。


    ……エリス。


    はやく、ほしい…。


    …。


    …はやく、あなたが。


    あたしも、欲しい…。


    …あ、ん。


    もう一度、一つになろう。
    いや、何度だって。


    ……ばか。


    む……。


    …いまは、いまだけに。


    ……。


    わたしに…あなたのあたらしい、いのちを。


    いえっさ、エリス…。


    ……ぁ。


    ……。


    あ…、あ…、あぁぁ。


    …あんたの、(なか)に。


    きて…はやく、…はやく。


    ばか、焦らせるな……。


    …だ、って。


    それに……ゆっくり、感じたい。


    ……。


    …あんたの胎、感じさせてよ。


    ばか、いつも……あッ。


    ……。


    あ、ナディ、ナディ……。


    …あつい。


    あ…、あ…あ…。


    ……すいつく。
    とける……。


    …ハヤ、く…はや…く。


    もう少しだけ…。


    …や…いやぁ、はやく…はやくぅ。


    ……動く、な。


    おねが、ィ……はや、ク…。


    ……アァ。


    あ、ァ…ぁ…。


    ……なき、むし。


    ナ…デ…ィ……。


    なキむし、エリス……。








    ……。


    …ねぇ、ナディ。


    何?


    その右腕は私を作った代償なんでしょう…?


    あたしはそうは思ってない。


    …魔女の力は人間の身に余るものだから。


    だとしても。
    あたしは一つも後悔してない。


    …知ってる。


    ……。


    …さっきも言ったけど、魔女の力は人間の身に余る。
    持っている者にさえ、持て余すくらいに。


    ……。


    エリスの躰が弱いのも、そのせい。


    それだけじゃない。


    …。


    あたしに命を半分、くれたから。
    それから。


    …わたしにも。


    まぁ、あんたにはあたしのも混ざってるけどね。


    ……。


    …あと。


    ……アリス。


    エリスに聞くまで、全然知らなかった。
    あんたは知ってたんだろうけど。


    …うん。


    アリスは。


    ……。


    アリスの躰も、エリスと同じように…


    …アリスの場合は、その心。


    ……。


    ナディに受け入れて欲しかった…エリスではなく、自分を。
    そして、それだけじゃない。


    ……。


    …本当はエリスにだって。
    独りで生きるのは…独りぼっちは、淋しいから。


    ……。


    魔女の力は、人の子の身に余る。
    心にも。


    ……。


    …ナディが魔女の力に耐えられたのは。


    エリスの命があったから。


    …ううん、それだけじゃない。


    …。


    それだけじゃ、なかったんだ…。


    ……。


    …ナディの中には、最初からあったから。


    ……。


    魔女の血が


    ロント。


    ……。


    始めようか。
    これが最後になるように。


    …はい。


    魔女の力。
    抑えられるのは、どこまでいってもあんた自身。


    ……。


    エリスは、負けなかった。


    ナディが、いたから。


    あんたにはあたし達が…アリスがいる。


    ……。


    抑えられるのは自分だけ。
    でも自分を支えてくれるのは、誰かの存在だから。
    …そう、大切なね。


    ……。


    独りじゃなければ、大丈夫。


    …二人でなら、どこまでも行けるように。


    三人でも、四人でも…ね。


    ……。


    …少し、楽しみかな。


    気が早いよ…。


    あたしは十代だったけど?


    ……。


    あたしがあんたを授かったその歳まで、もう少しだし。


    ……ナディ。


    やり方は…まぁ、知ってるだろうし。
    ずっと、見てただろうから。


    …!


    へぇ、あんたでも顔真っ赤になる事があるんだ。


    ……。


    いつも涼しい顔してたから。


    ……。


    理性と本能のせめぎ合い、あんたにも必ず分かる日が来るよ。


    …う、ん。


    案外、もう分かってるかもしれないけど。


    ナ、ナディ…!


    当たり。


    ……。


    あたし達のした事は、生物として、間違っていた。


    …。


    それでも、あたしはそんなの、どうでもいい。
    あたしはエリスとの子供が、あんたが欲しかったから。


    ……。


    …と、ついお喋りが長くなるなぁ。


    ……。


    始めようか、ロント。


    ナディ。


    ん?


    …その時は。


    ……。


    その、必ず見せに来るから。


    …見せるだけじゃあ、なくて。


    …。


    抱かせてやってよ、エリスに。


    …いえっ、さ。


    あんたにも抱かせてあげるから。


    ……。


    まだ、だけど。
    まぁ、そういう事。


    …エリス莫迦。


    あんたにもその血が濃く流れてる。


    …楽しみにしてるね。


    うん。


    ……。


    よし。
    じゃあ…。


    ……。


    ……。


    ……。


    …大分、慣れたみたいで。


    慣れてない…慣れてないけど。


    ……。


    …今でも怖いけど。
    でも、この先にアリスがいるなら、いるから。


    ……。


    わたしは、魔女の力を。
    ナディを…!









    ……。


    ……。


    …音が、した。


    ……。


    水の音…命の、音。


    ……。


    …そっか。


    ……ひとりで。


    …。


    ぶつぶつと…。


    …一応、話をしているつもりだよ。


    ……。


    何かが生まれる時、卵の殻が割れる音がする…。


    ……。


    …でも、まだそこまでじゃない。
    けど…。


    ……。


    …眠い?


    ……うるさい。


    ごめん。


    う…。


    …なつかしいな。


    ……。


    昔の夢を、見た。


    …だから?


    昔と言うほど昔ではないんだけど…。


    ……。


    …今でも子供のままだけど。


    ……。


    あの時間は、わたしにとって、かけがえのない時間だった。


    …それなら。


    ん…。


    はなれなければ、よかった…。


    …でも、子供は。
    いつか、離れて…自分で歩いていかなければならない。


    …。


    自分の道を、自分だけの道を。
    遅いか、早いか。
    違いはあるけれど…でも、いつか必ず、一人になるから。


    ……。


    …一人になる、その時に。
    誰かが傍にいてくれたら…いてくれることは、とてもしあわせな事なんだ。


    …でもひとは。
    ごうまん、だわ。


    傲慢なのは…さびしいからだよ。


    …どうだか。


    さびしいから…何かを求めずにはいられない。
    誰かを、求めずにはいられない…。


    …そのために。
    ほかのなにかはきずつけてもいい。
    それが、ごうまんなのよ。


    ……みんながみんな、おのれの望むようにしあわせになる、なんて。
    きっと、ありえない…。


    …。


    …だから、どこかで諦める。
    どこかで、妥協して…我慢して。
    それでも、歩いていく…生きていく。


    ……あのふたりは。


    …。


    おもうように、のぞむように…なったわ。
    しあわせに…。


    …けど、うしなったものもある。


    そんなもの…。


    …あるよ。


    ……。


    みぎうで、いのち…、失っても、なお。


    ……ばかだわ。


    …。


    ほんとうに、おろか…う。


    ……。


    ……、ト。


    形…大分、出来てきたね。


    ……。


    …どんなに時間がかかっても。
    必ず…叶える。


    ……。


    その為にわたしは…ここに、いるのだから。


    …おろか、だわ。


    ……。


    う…ぁ…。


    …あたたかい。


    ……。


    これが、あなたのいのちのぬくもり…。


    ……いのち、なんて。


    ここに…たしかに、ある。


    わたしには…。


    …うまれてきてくれて、ありがとう。


    …ッ。
    それは…ッ!


    ……。


    …わたしをつくったにんげんへのことばだわ。
    わたしへのことばじゃない…。


    …あなたへ。


    ちがう…。


    ……いじっぱり。


    ……。


    …人と人は糸で繋がっている。
    会うべき人間とは、必ず、会うべきして出逢う…。


    ……。


    それは…赤かったり、青く淡く光っていたりするけど。


    …うんめいとでも、いうつもりなの。


    そんなものより、もっと…強い。


    ……いみが、わからないわ。


    ……。


    ……。


    …その、糸は。


    ……。


    とても、きれいで…とても、はかない。
    さがして、からまって…すぐには、たどりつけなくとも。
    それでも、きれることはない。


    …わからない。


    アリス。


    ……。


    …愛してるよ。


    ……。


    うまれてきてくれて、ありがとう…。


    ……ばか。








    ……。


    ほんとう、あきないわね。


    ……。


    なにが、おもしろいんだか。


    …ねぇ。


    なによ。


    …そらは、どこまでもつながってる。


    まえにもきいた。


    …きれることは、ないから。


    だから?


    …あなたとわたしも。
    おなじだと、いいな…。


    ……。


    はなれることに、なってしまっても…どこまでもひろがる、そらのように。


    ……。


    ね、ひととひとは、いとでつながってるんだって。


    いと?
    ずいぶんともろいわね。


    でも、きれることは、ないの…。


    きれるでしょ、いとなんて。
    かんたんだわ。


    …ひととひとをつなぐいとは、きれない。


    きれるわ。
    だいたい、わたしたちはひとじゃない。
    まじょよ。


    …そう、だったね。


    で、いつまでみてるつもり?


    …て、だして。


    は?


    て…おねがい。


    ……で?


    ありがとう…。


    …。


    ……。


    …なに、してんのよ。


    ひも、しか、ないけど…。


    ……。


    …あなたと、わたしが。
    きれて、しまわないように…。


    ……。


    せかいで、たったふたりだから…。
    ふたりぼっち、だから…。


    …くだらない。


    あ…。


    ……こんなの、ひつようないわ。


    …。


    …できそこないがかんがえることなんて。
    りかい、できないわ。


    …そうだね。
    ごめんなさい…。


    ……。


    …そら。


    ……。


    たかいね…。


    のぞむなら。
    とんでみせてあげてもいいけど。


    …でも、とどかない。


    …。


    とどかないから…あこがれる。


    あこがるれ?
    なによ、それ。


    ……。


    なに、わらってんのよ。


    …わらって?
    う…。


    わたしがそのきになれば、あんたなんて、かんたんにこわせるのよ。
    ねぇ、できそこない?


    ……。


    …なまいきなのよ、あんた。


    ごめんなさい…ごめんなさい…。


    …わかれば、いいわ。


    ……。


    ……。


    …いつか。


    ……。


    いつか……。









    …人と人は、命と命は、繋がっている。
    どんな形でも、必ず…。








   ...seven