−Caléndula〜Con amor





   そっか、今日はハロウィンだ。
   なーんか変な格好してる人がやけに多いと思ったのよねぇ。


   はろうぃん?


   知らない?


   …。


   クリスマスは知ってるのに?


   しってるよ。


   あ、そ。


   ハロウィンだから、なに?


   いやさ、子供たちが仮装してるでしょ?


   かぼちゃ?


   そう、かぼちゃ。
   こっちは道化師、あっちはどくろのお面、そっちは魔女かな。
   大人まで仮装してるし。


   …まじょ?


   格好だけね。


   あれがまじょのかっこう?


   らしいよ。


   なんでまじょのかっこうなんかするの?


   定番らしいけど。


   ていばん?


   そ、定番。


   ふぅん…。


   元々、こっちにはなかったものらしいけどね。


   ……まじょ?


   いや、ハロウィン。


   …サンタさんがいないのといっしょ?


   かなぁ。


   …。


   おかし。


   …?


   欲しい?


   …いらない。


   そ。


   …。


   …そっか、ハロウィンか。


   ねぇ、ナディ。


   うん?


   いたずらと、おかし。
   ナディはどっちがいい?


   そりゃあおかしの方がいいでしょ。
   あんたは?


   わたしは…どっちでもいいよ。


   どっちでも?
   いたずらでもいいって言うの?


   うん。
   でも。


   でも?


   ナディげんてい。


   ……は?


   げんてい。


   …それはどーゆー意味だ。


   そのままのいみ?


   …。


   する?


   しない。


   しないんだ。


   しないわよ、いたずらなんか。


   じゃあ、おかしをくれる?


   さっきはいらないって言ったくせに。


   そうだっけ?


   こいつ。


   えへ。


   つか、あたしがエリスにいたずらをする立場だとしたら、エリスがあたしにおかしをくれる立場なんじゃないの。


   そっか。
   じゃああげないね。


   じゃ、いたずらしちゃおうかな。


   うん、いいよ。
   はい。


   …。


   ん?


   …て、本当にするわけないでしょーが。
   はいって何よ、はいって。


   しないの?


   だからしないって。
   そもそもどんないたずらさせる気だ。


   ねるときしてくれるような?


   …ぶ。


   いじわるなナディもすき。


   あ、あのなぁ。


   しちゃおうかなっていったよ?


   いや、それはただのノリだから。


   じゃあ、わたしがしてもいい?


   は?


   エリスはまじょだから。


   …そんな魔女の為におかし、あげよう。


   いらない。


   そこら辺に飴でも売ってないかな。


   ナディ。


   チョコレートの方がいい?


   いたずらのほうがいい。


   あたしがやだ。


   なんで?


   なんでも。


   するほうがいい?


   …まぁ、どっちかと言えば。


   やっぱり。


   て、違うから。
   なに言わせんだ。
   つかやっぱりってなんだ、やっぱりって。


   ナディはすなお。


   …こら。


   うん?


   くっつくと歩きづらいって、いつも言ってるでしょーが。


   エリスはへいきだよ、っていつもいってるよ。


   あんたは平気でも…。


   ハロウィンだから。


   関係ないと思う。


   いいの。


   なんでよ。


   すきだから。


   ……。


   …ふふ。


   ……あーもう。


   …。


   …。


   …ナディ。


   あー?


   いたずらは、あとでね?








   …あーあ。
   寝たと思ったらもう朝だし。


   …。


   そりゃ、あたしも悪いのかもしんないけどさ…それにしたって、エリスがさ…。


   ねぇ、ナディ。


   …あ?


   きょうもハロウィン?


   は?


   かぼちゃ、と、どくろ。
   あと、おはながいっぱい。


   …。


   ナディ?


   …Día de los Muertos.


   ししゃの、ひ…?


   ハロウィンより、大事な日よ。


   そうなんだ。


   …。


   …?
   ナディ…?


   …ねぇ、エリス。
   あの花の名前、知ってる?


   あのはな?


   あそこにある、あの、いっぱいあるオレンジ色の…


   マリーゴールド?


   お、知ってた。


   うん、しってた。


   そういやいつだか、買ってあげったっけ。
   花の図鑑。


   うん、かってもらった。
   クラベル、しらなかったから。


   じゃ、こっちの言葉でなんて言うかは?


   こっち?


   そう、こっち。


   …。


   んー?


   カレンドゥラ。


   お。


   ちゃんとおぼえてるよ。


   うん、そうみたいね。


   ナディはしってた?


   まぁね。


   いがい。


   それくらいは知ってるわい。


   おはながどうしたの?


   あれの別名は、知ってる?


   べつめい?


   そ、他の名前。


   …。


   ん?


   …。


   …あれね、死者の花とも言うの。


   ししゃのはな?


   そ、死者の花。
   亡くなった人たちを思って家族や友達がお供えしたり、飾ったりするのよ。
   だから、忘れない。


   …そっか。


   今日は子供の魂が戻ってくる日なの。


   こどものたましい?


   で、明日は大人の魂。
   だからね、今日はチョコレートがお供えしてあっても、明日になったらお酒になってたりするのよ。


   …よっぱらうの?


   さぁてどうかな。
   もしかしたら、そうかも。
   なんと言ってもお祝いの日だからね。


   おいわいするの?


   そうよ。


   しんじゃったのに?


   死ぬことは…悪いことではないから。


   …。


   少し淋しいけれど。
   でもだからこそ、忘れないようにする為に祝う。
   あたしはそう思ってる。


   …そう、なんだ。


   町に出たらここから見るよりもずっと、どくろがあると思うよ。


   なんであるの?


   象徴だから。
   かわいい服着せたりしてね、面白いわよ。


   …ふぅん。


   …。


   …ナディ?


   エリス、外に行こう。


   いくの?


   うん。
   そうと決まれば、支度、支度。


   …。


   ほら、早く早く。


   …いえっさ。








   ふむ。


   …きょうも、にぎやかだね。


   今日の方がにぎやか、かな。
   むしろ。


   おまつり?


   そう、おまつり。


   …ねぇ、ナディ。


   ん?


   めずらしいね。


   何が?


   こんなふうに、まちのなかあるくの。


   まぁ、たまにはね。
   こんな風にのんびりするのもいいでしょ?


   …。


   ほら、エリス。
   今日も屋台が出てるわよ。


   ナディ。


   いいにおい。
   何食べようかな。
   ねぇ、エリ


   ナディ。


   お金なら大丈夫。
   まだ、ゆとりあるから。


   …。


   エリス?


   …。


   どした?


   …どうしたの?


   へ?


   へん、だから。


   て、あたしが?


   …。


   つかさ、変なのはあんたじゃない?


   …。


   楽しくない?


   …。


   …なんというか。
   もっと楽しそうにしてくれるかな…なんて、思ってたんだけ、ど。


   …。


   …こういうの、やだった?


   ううん。


   でも、楽しくない…?


   …ナディがたのしいなら、たのしい。


   あたしが?


   …うん。


   あたしは…それなりに楽しんでるわよ。
   本当に久しぶりだから。


   …。


   ずっとフラフラしてたから。
   賞金稼ぎを始めてからは特にさ。


   …。


   それに…一人じゃ、どんなことでも楽しくなかったから。


   …。


   今はエリスと一緒だから。


   …ほんとうに、たのしい?


   うん。


   ……。


   ほぉら、エリス。


   …なに?


   見てのとーりだけど?


   …。


   いつもは勝手に絡めてくるくせに。


   …。


   やなら、いいけど。


   …する。


   そ。
   なら、早く。


   ……。


   …ん?


   ……。


   て、なに照れてんのよ。


   …てれてないよ。


   じゃ顔、あげてみ?


   …てれてないもん。


   なら、あげてみなって。


   …。


   …ほっぺた、少し赤いような気がするけど?


   きのせい。


   ふぅん?


   …ナディだって。


   お…。


   …あかい。


   ……。


   あかい。


   …ちぇ。


   ……えへへ。








   …。


   …どうするの?


   え?


   おはな。


   …さて、どうしようかな。


   …。


   あんたにでも飾ってみようかな。
   ほら、ここらへんにとかさ?


   …いや。


   …。


   …。


   …冗談だって。


   どうして、かったの?


   死者の日だから。


   …。


   …それだけ。


   ナディのかぞくのため?


   …。


   …。


   …今までしてこなかったのになんで今更。


   ちがうの?


   …。


   ナ…あ。


   …ねぇ、エリス。


   …。


   もしも今、博士に会えたら…どうする?


   はかせに…?


   …そう、博士に。


   …。


   やっぱり嬉しい…?


   ……。


   …嘘は、なし。


   ……うん。


   うん、って?


   …うれしいと、おもう。


   …。


   …あえたら。
   はなしがしたい…。


   …どんな話?


   …。


   ん…。


   …ナディのこと。


   あたしの…?


   …わたしの、だいすきなひとのこと。


   …。


   ……きっと、きいてくれるよ。


   そうかな…。


   …そうだよ。


   …。


   …。


   …でもさ、あんたは本当にそれでいいの?


   ほんとうに…?


   …もう一度、会えたら。
   また、一緒に生きることだって


   だめ。


   ……エリス。


   …わたしはナディだけだから。


   …。


   …だからそんなこと、ききたくない。


   ……ごめん。


   …。


   ……この花は、さ。


   …うん。


   あんたの…。


   …わたしの?


   ……あんたに、なれなかった子供たち。


   わたしに…?


   …人の都合で、望んでもいないのに、創られて。


   …。


   ……捨てられて。


   …。


   生きたかった子もきっといたハズなのに…。


   ……ナディ。


   …だけど。


   …。


   もしもあんたじゃなかったら…。


   …。


   …エリスが魔女じゃなかったら。
   あたしはあんたと…。


   ……わたしで、よかった?


   …。


   よかった…?


   …あたしは、ひどい。


   …。


   …無造作に捨てられた小さな骨の山。


   ほね…。


   あんたが魔女じゃなかったら、あんたもあの中に…。


   …。


   …あんたが魔女で良かったなんて。
   他の子じゃなくて、あんたで良かったなんて…。


   …。


   …ごめん、エリス。
   あたしは…。


   ひどくない。


   …。


   …ひどくないよ、ナディ。


   ……エリ、ス。


   まじょのちからなんていらなかったけど…でも、ナディにあうためにひつようだったなら。


   …。


   ……まじょで、よかった。


   …ッ。


   よかったよ、ナディ…。


   ……エリス。


   ん…。


   エリス…エリス…。


   …わたしのこと、ほしい?


   …。


   ほしいって、いって…。


   …あたしは。


   だめ。


   …。


   …そんなかお、しないで?


   エリス、あたしは…。


   …いってほしいの。


   …。


   ほしいって…いって。


   ……ほしい。


   まじょでも、いい?


   …ばか。


   あ…。


   ……エリスが、欲しい。


   …もっと。


   欲しい。


   …もっといって。


   欲しい、あんたが…欲しい。


   ……。


   ……。


   エリス……。


   ……いいよ、ナディ。


   ……。


   ぁ…。


   …エリス、…エリス。


   …。


   は……。


   ……ねぇ、ナディ。


   …。


   あの、おはな…。


   …は、な?


   どうする、の…。


   …。


   …あ、ん。


   ………あの花、は。


   …。


   ……ここに、おいてゆく。


   ここに…。


   …この町の、いちばんたかい場所に。


   たかい…ぁ。


   …。


   だ、だめ、ナディ…。


   …くれないの。


   あげる、あげるよ、でも…。


   ……。


   ひ…。


   ……。


   …な、んで。


   ……くれるんでしょ。


   う、あ…。


   …だから。


   や、やだ…。


   ……。


   そ、んなとこ、ろ、…な、めない、で…。


   …花、みたい。


   ひゃ、あ…。


   あかい…はな。


   …ッ、や、ぁ…ッ。








   はむ。








   …。


   …。


   ……あー。


   …。


   …エリス。
   あたしはあんたの食い物じゃ、ないんだけど。


   …。


   ほら、くすぐったいって。





   かぷ。





   …歯ぁ、立てるなって。


   …。


   エリス。


   …やだ、もっと。


   こらこら…。


   …。


   …間違っても、噛み切らないでよね。


   ……。


   あーあ…。


   ……。


   …あたし、おいしい?


   うん。


   …即答かい。


   ……ナディは?


   あ?


   わたし、おいしかった?


   …。


   たくさん、なめられたから。


   …う。


   …。


   あ、や、まぁ…。


   …はじめて。


   ……。


   …。


   …え、と。


   …。


   やだった…?


   …。


   ……ごめん、もうしない。


   なんで?


   なんでって、だって…


   …。





   かぷ。





   ……エリス。


   …ひゃひ?


   飽きない…?


   …ぜんぜん?


   あ、そう…。


   …。


   ……あーーー。


   …?


   甘ったるいなぁ、この感じは。


   …きらい?


   じゃないから、困ってる。


   こまるの?


   困らないから、困ってる。


   …よくわからない。


   だから、なんつかさ…。


   …。


   あたし、だめだ。


   だめ?


   …あんたがいないと、もう。


   うん、しってる。


   …。


   さっき、わたしでよかったっていったから。


   …うん、まぁ。


   それにそうじゃなきゃ、ずるいから。


   ずるい?


   ずるい。


   って、何が。


   …。


   や、噛まんでいいから。


   …やだ。


   もう、散々噛んだでしょうが。


   もっと、かむの。


   あんたは獣の子か…。


   …。


   じゃあせめて、噛む前に教えてよ。


   ないしょだから、おしえない。


   なんだとぉ…。


   …ないしょ。








  −Feriz Navidad!2011





   エーリス。


   なぁに?


   はい。


   わ。


   ふふ。


   …なに?


   まぁ、雰囲気だけでもと思ってね。


   ふんいき?


   ま、暑いから。
   忘れてるかもしんないけどね。


   ……。


   なんだか分からない?


   うん。


   じゃ、取ってみなさい。
   そうすりゃ分かるから。


   …。


   分かった?


   ぼうし?


   そう、帽子。


   あかいぼうし。


   そ、赤い帽子。
   さて、それで何を思い出すかね?


   …。


   ん?


   …。


   おいおい、ほんとに分からないんじゃないだろーな?


   …サンタさん?


   そう、サンタ。
   赤い帽子と言えば、サンタでしょ?


   …。


   なによ、違うの?


   …ぼうしだけ。


   さすがにあのかっこは暑いって。


   …。


   あー、やっぱだめだったかな。


   ナディ。


   うん?


   ナディがかぶって。


   あたしが?


   うん、ナディ。


   …いいけど。


   かぶせてあげる。


   いいって。


   エリスにはかぶせてくれたよ?


   それは…驚くかなぁ、と思ったから。


   ナディ。


   …。


   ナディ。


   …はいはい。
   これでいい?


   うん、いいよ。


   …。


   サンタさん。


   んー…。


   サンタさん?


   …なんか、帽子だけだといまいちかも。


   でも、サンタさんだよ?


   ま、エリスがそう言うならいいけどね。


   ナディ!


   お、と。


   えへへ。


   はいはい、なによ。
   プレゼントのリクエストならホンモノに言ってね。


   サンタさんにはないよ。


   ないの?


   でも、ナディサンタさんにはあるよ。


   …そーかい。
   で、何が欲しいの。
   言っとくけど、財布は相変わらず軽いからね。


   …。


   エリス?


   えへ。


   あ?


   …。


   …エリス。


   ナディがほしい。


   …。


   ほしい…。


   ……いつもと変わんないじゃない、それ。


   だめなの?


   …。


   …だめ?


   あー……。


   …。


   ……叶うといいわねぇ。


   かなうよ。


   …。


   …きっと、かなえてくれる。


   ……そ。








   …。


   …エリス。


   …。


   エリスー。


   …。


   …ねぇ、エリスってば。


   ん…。


   …寝ちゃった?


   …。


   それとも、起きてる…?


   …。


   ……ふぅん。


   …。


   エリス…。


   ……ッ。


   …。


   …。


   …サンタ、は。
   子供が寝てる間にプレゼントを配るんだっけ。


   …。


   で…いい子にはくれるけど、悪い子にはくれない。
   確か、そんなんだったよねぇ…。


   …。


   …サンタ、あたしのとこには来なかったな。
   ま、いい子じゃなかったし…。


   ……ぁ。


   …。


   …。


   …そもそもなってくれる人もいなかった、し。


   …、……。


   …。


   ……、ィ。


   …。


   ……。


   ……サンタは寝てる子のとこに来るんだから。


   …ぅ。


   起きてる子のとこには来ないんじゃないの。
   ましてや…


   …、ふ…ぁ。


   寝たふりをしてる子のとこなんかには、さ。


   …しない、で。


   …。


   いじわる…しないで。


   …してないよ。
   今夜のあたしは…あんたのサンタらしいから。


   …。


   …ほら、目ぇつむって。


   …。


   つむらないと…続き、しない。


   や…。


   …。


   しないで…。


   …続きを?


   …。


   ……ほら、早く。


   …。


   それから…。


   …!


   ……。


   ん…ん…。


   ……寝てる子はそんな声、あげない。


   …。


   ……殺して。


   …。


   …あたしが欲しいって言ったのは、あんた。


   ナディ…。


   …寝てる子は、名前なんて呼ばない。


   ……よぶよ。


   …。


   …ねてても、ひとりだけをおもっているから。
   だから…よぶの。


   ……エリス。


   ねてるあいだなんて…いや。


   …自分で言ったくせに。


   ぜんぶ、おぼえておきたいから…。


   …全部は無理だって。


   …。


   ……て、覚えてるなんて言わないでよ。


   ナディは、すぐにわすれちゃうから。


   …忘れるとかの問題じゃないって。


   じゃあ、なれ…?


   ……は?


   わたしは、なれてないよ…。


   …ああ、慣れね。


   なれない…。


   ……。


   ナディ…。


   ……結局、いつもどーりだし。


   ううん、ちがうよ。


   …どこが。


   きょうは…クリスマス。


   …で?


   クリスマスなの。


   …だから、なに。


   …。


   ……聖夜にナニしてんだか。


   プレゼント…。


   …。


   …わたしを、あげるね?


   ……。


   あげる…。


   ……はいはい、ありがと。


   …。


   …。


   …。


   ……ねぇ、エリス。


   なぁに…。


   Feliz Navidad.


   …?


   …メリークリスマスって意味よ。
   教えてなかったでしょ、確か。


   Feliz Navidad?


   そう……。


   …そうなんだ。
   ナディ。


   ん…。


   Feliz Navidad.


   …うん。


   …。


   …。


   ……ナディ。


   …。


   あかいぼうし、にあわなかったね…?


   …うるせ。
   つか、今更かい。


   えへへ…。


   …。


   …ナディ。


   …。


   ……つづき。


   …。


   つづき…。


   …ばーか。
   言われなくたって…。








  −La pareja de horneros.





   …。


   ナディ。


   …。


   マテ茶。


   …。


   ナディ。


   …え。


   マテ茶。
   飲む?


   …ああ。
   うん、飲む。


   じゃあ、はい。


   …ありがと。


   隣。


   …いつもは聞かないじゃない。


   どうしたの?


   …どうしたって?


   ぼうっとしてた。


   んー…。


   考えごと?


   いや…つか、何も考えてなかった。


   そうなんだ。


   うん…。


   …。


   …座るなら、早くおいで。


   うん。


   ……。


   …ナディ。


   んー…?


   …疲れてる?


   んー…。


   …。


   …かな。


   …そっか。


   …。


   …。


   …ん、おいし。


   おいしくなるように、淹れたから。


   …なるほど。
   んじゃ、おいしくならないわけないか。


   …ん。


   …。


   …。


   …ところで、エリス。


   なぁに…?


   あんたこそ、今日は…?


   …大丈夫だよ。


   どれ…。


   …。


   …ん、大丈夫そうね。


   だから、言ったでしょ?


   …はいはい、ごめんなさいねぇ。


   ううん、いいことだから。


   …。


   …朝、大丈夫でも。
   夜、駄目な時もあるから。


   …分かってるなら、良い。


   …。


   …最近は落ち着いてるみたいで良かった。
   お腹も…。


   …でも、ナディはお疲れだね。


   なんだかなぁ…。


   …。


   ……今日は特に疲れた。


   おつかれさま。


   ん、エリス…。


   …おつかれさま、ナディ。


   ……うん。


   ねぇ、ナディ。


   …なにー。


   寄りかかっても、いいよ。


   …あ?


   はい。


   …いや、はいって。


   いいよ?


   …。


   ナディ。


   …寄りかかるより。


   …?


   抱きかかえたい。


   そっか。
   いいよ。


   …。


   どうすればいい?


   あ、いや…。


   そうだ。


   お…。


   私がナディの前に座ればいいんだね。


   まぁ、そうだけど…。


   えへへ。


   …。


   これで、オーケイ?


   …うん、まぁ。


   オーケイ?


   …オーケイ。


   …。


   …。


   …ナディ?


   んじゃ、遠慮なく…。


   うん、しないで。


   …。


   …。


   ……ああ。


   ねぇ、ナディ。


   …。


   ナディはお仕事の話、あまりしないね。


   …しても面白くない。


   でも、私は聞きたいよ。


   …面白くないって。


   ナディのことだから。


   …。


   なんでも、聞きたいって思ってるんだよ?


   …。


   知らなかったの?


   …そーだったね。


   だから、話したくなったらいつでも話して。
   私はいつだって、ナディの傍にいるから。


   …。


   …いるから。


   うん…。








  −Clavel〜Amor vivo y puro





   このはな、なんていうの?


   …あ?


   このあかいはな。


   あー……なんだっけな。


   しらないんだ。


   いや、知ってる、知ってるんだけど…思い出せないだけ。


   …。


   ほんとだって。


   …カントゥータじゃ、ないね。


   違う違う。
   あー、なんだっけなぁ。
   この辺まで出かかってるんだけど…。


   …。


   あーーー…。


   …。


   …つか。
   その花、欲しいの?


   …あかかったから。


   赤?


   あかいはな…。


   んー…。


   …。


   欲しいの?


   …ううん。


   一輪ぐらいなら、買えないわけでもないけど。


   いらないよ。


   あ、そう…。


   …。


   …のわりにはじっと見てるのよね。


   みてちゃ、だめ?


   あたしはだめじゃないけど。
   商売の邪魔になるかもしんない。


   じゃま…。


   エリス、どれがいい?


   …。


   一輪だけなら。


   …いらないっていったよ。


   て、エリス。


   …。


   ちょっと、なんで行っちゃうのよ。


   …。


   …つかなんでそんな不機嫌そうな顔、してんのよ。
   買ってあげるって言ってるのに。


   …ふきげんじゃないよ。


   不機嫌じゃない。


   …。


   そんなにいらないの。


   …。


   あの赤い花、気に入ったんじゃないの?


   …。


   エリ


   ほしいものなんて、なかったのに。


   え?


   …なかった。


   エリス、何


   なのに。


   言ってるのよ。


   ナディの、せい。


   はぁ?
   何でよ。


   …。


   てこら、エリス待って。


   …。


   エリスってば。


   ……わたしが、ほしいものは。


   エリス。


   …ひとつだけ。


   ねぇ、ほんとにいらないの?


   ただ…ひとつだけなんだよ、ナディ。


   ねぇ、エリス。


   …。


   …。


   …。


   …じゃ、買わないけど。
   いいのね?


   …。


   …。


   …。


   …なんだって言うのよ。
   意味分かん…あ!


   …?


   思い出した!
   エリス、思い出した!


   …なにを?


   クラベル!


   …くらべる?


   あの花の名前!
   クラベルよ、クラベル!


   ……。


   北の言葉だと確か…そう、カーネーション!


   カーネーション…。


   あー、すっきりした。


   ナディ、はなのなまえしってるんだね。


   そりゃあ、クラベルぐらいなら誰でも知ってるわよ。


   エリスはしらなかった。


   …そうだけど。
   でも今、知ったじゃない。


   …。


   忘れないでしょ、あんたのことだから。


   ……うん。


   うん。


   ナディ。


   んー。


   クラベル、かって。


   あ?


   かってくれるっていった。


   でもあんた、いらないって。


   きがかわった。


   なんじゃそりゃ。


   かって。


   …。


   ナディ。


   …仕方ないなぁ。
   んじゃ、戻ろっか。


   いえっさ!


   ……。


   …?
   なに?


   ううん、何でもない。
   じゃ、行こ。








   …。


   …。


   …。


   …エリス、さ。


   なに?


   そんなに気に入った?


   きにいる?


   クラベル。
   ずっと見てるから。


   …。


   カーネーション、の方がいい?


   …ううん、クラベルでいいよ。


   そ。
   じゃ、クラベルで。


   …。


   …ま、きれいだけどね。


   うん、きれい。


   …。


   …。


   …なかなか似合ってるわよ。


   にあう?
   はなが?


   そう、あんたに。


   …。


   白の中に赤が映えてる感じと言うかな。


   はえてる?


   …いや、その生えるじゃなくて。


   …?


   つまり、褒めてんのよ。


   ほめられてる?


   そ。


   …そっか。


   …。


   エリスに。


   …ん?


   “あか”は、にあう?


   うん、似合うよ。


   …。


   うん?


   じゃあ、ナディにもにあう?


   あ?


   ナディ。


   いや、あたしは花ってガラじゃないし。
   お金出して買ったのだって今回が初めてだしさ。
   花じゃ腹、ふくれないし。


   ちがう。


   ちがう?


   …。


   エリス?


   エリスは…ナディに、にあう?


   …え?


   にあう…?


   つか、あたしは花じゃないんだけ…ど。


   …。


   …ん?


   ……もう、いい。


   て、エリス、なに怒って…


   …もう、いいの。


   エリス。


   ……ねる。


   でも。


   ねるの。


   …そ。
   じゃあ…おやすみ。


   ……。








   ・








   エリス。


   …?
   なぁに?


   はい、クラベル。


   わ。


   ふふ。


   どうしたの?


   そりゃ、買ってきたのよ。


   そっか。


   なかなかきれいでしょ?
   赤いクラベル。


   …うん、きれい。


   …。


   …?
   ナディ?


   エリス。


   …なに?


   好きよ。


   …え。


   いつだか、言えなかったから。


   …。


   つか、自覚してなかったから。


   …うん。


   やり直しってわけじゃ、ないんだけどね。


   …ねぇ、ナディ。


   うん?


   私はナディに…似合う?


   …。


   似合ってる…?


   …もちろん。


   良かった…。


   …あんたには赤が似合う。
   花も…


   …ナディも?


   ん……。


   …でも、ナディ。


   …ん?


   お酒、くさい。


   ……え、と。


   …。


   ちょっとだけ…ね。


   ちょっと?


   …うん、ちょっと。


   …。


   て、言っても仕事でさ。
   今度、店で生ビール(カーニャ)を出すって言うから…


   …。


   …え、と、エリス。


   飲むなら、うちで飲んで。


   …。


   …外は、だめ。


   いや、でも今回は…


   いや。


   それに酒の力を借りてるわけでも…。


   …。


   …クラベル、やっぱり似合ってる。


   私はナディに似合ってれば、それで良い。


   …。


   ……。


   …はい。


   …。


   …。


   …ナディ。


   ん…。


   ……ありがとう。


   …。


   …くれた、から。


   ……うん。


   …。


   …。


   …この子が、生まれたら。


   ん…。


   …考えてみる。


   なにを…。


   …まぁ、色々と。


   なぁに…?


   ……畑、とかさ。
   子供の頃、手伝ってたな…て。


   子供のころ…。


   ま、あいつに何を言われるか分からないけど…。


   …大丈夫だよ、きっと。


   そうだと良いけど。


   ……。


   …すぐには、出来ないかもしれないけどさ。


   ……うん。








  −The Hunter of the Witch.





   う、ぁ…。


   …。


   …や。


   …。


   …?


   …。


   …ナディ?


   ……。


   どこに行くの。


   エリスのとこ。


   私は


   エリスじゃない、でしょ。


   …。


   アリス。


   …違う。


   違わない。


   ……。


   前も、こんなコトあったっけね。
   でもまさか、こんなコトされるなんてさ。
   ご丁寧に服までないし。


   …。


   あんたさ、そんなにあたしのコト好きなの?


   …そんなわけ!


   じゃあ、なんでこんなコトをしたの?


   私は気に入らないだけよ。
   人間のクセに、


   気に入らないのに、人間とセックスはしたいの?


   違う…!


   ふぅん。


   う…。


   …キス、されると思った?


   …。


   しないわよ。
   あたしはエリスにしかしない。
   たとえ、夢の世界だとしても。


   …。


   つか魔女ってのは、わざわざ人の夢をいじくるのが好きなのかねぇ。


   …。


   何にせよ、あたしはエリスと、エリスとしかしたくない。
   だから、ごめんね。


   …舐めたくせに。


   …。


   首、舐めたくせに!


   …うん、まぁ。


   私のこと、エリスだと思ったんでしょ。
   誰でも良いんでしょ、本当は。


   …。


   …したくないなんて、言って。
   今だって我慢してるんでしょ。
   莫迦じゃないの。


   …アリス、さ。


   …。


   やっぱり、あたしのコト好きなんでしょ。


   だれが、あんたなんか。


   だったら、してあげるわよ。


   …ぅ。


   セックス。
   エリスにしてるように、あんたにも。


   ……。


   …あんたの中、入れてよ。


   ……ぁ。


   エリスは泣いて悦んでくれるけど…。


   う…ぁ、あ…。


   ……。


   あぁぁ……。


   …やっぱり。


   …?


   あたしのこと、好きなんじゃない。


   …ッ。


   でも、あたしが好きなのはエリスだから。
   こーいうコト、エリス以外としたくないの。


   …。


   だから、アリス。


   ばっかじゃないの!


   あ。


   人間のクセに!


   あんたもでしょ、アリス。


   私は違う!
   あんたらのような


   ほら、そうやって怒るところなんて人間じゃない。


   …ッ!


   子供が駄々をこねてるようにしか、見えない。
   エリスも子供っぽいところがあるけど、あんたも


   …。


   …と。


   殺してあげる。


   …。


   安心して、エリスもすぐに殺してあげるから。
   心臓を貰ってね。


   それはありがとう。


   …。


   でも、殺されてあげないし、エリスも殺させやしない。


   殺す。


   だから、さ。


   殺すの、殺して私は


   アーリース。


   うるさい、私の名前を呼ぶな。


   じゃあ、なんて呼べばいいのよ。


   あんたなんかに呼ばれたくない。


   あ、そ。
   じゃ、呼ばないけど。


   どこに行くのよ。


   だから、エリスのとこだってば。
   いい加減、覚めないとね。
   ご機嫌、ななめになっちゃうから。


   行かせない。
   あんたは


   あんたとずっと一緒にいるって?
   冗談。


   …ッ!
   だれもそんなこと…!


   はいはい。
   今度は目が覚めてる時間においで。


   あんたなんか…!


   そしたら一緒にごはんでも食べよ。
   もちろん、エリスも一緒だけどね。


   …!


   …魔女ってのは。
   素直じゃないんかねぇ。








   …。


   …。


   …おはよ、エリス。


   …。


   んー…。


   …!


   …ん、この感じはエリスだわ。


   ……ナディ。


   ん?


   …。


   なぁに、エリス…?


   ……ばか!


   …。


   …。


   …はいはい、ごめんね。


   かるい。


   …でも、何もしてないから。


   うそつき。
   でれでれしてた。


   してないって。
   でれでれも、さ。


   …うそつき。


   つかあんた、見えてたの?


   …。


   じゃあ


   うそつきは、きらい。


   嘘つきじゃないわよ。
   ついてないから。


   …やろうとしたクセに。


   まぁ、フリだけどね。


   いや。


   …と。


   いや、いや…。


   …。


   ……ナディの、ばか。


   …ふふ。


   ばか、うすらタコス。


   …今日のエリスは。


   あ…。


   …素直で、いい。


   …。


   ……天邪鬼なあんたも、好きだけど。


   や、ナディ…。


   …あたしの好きな人は。


   や…ひ、ぁ。


   ……あんただけ、よ。


   だ、め…。


   …聞こえなーい。


   もう、あかるい…のに。


   …恥ずかしい?


   きのう、だって…たくさん、して…。


   …違う日よ、もう。


   ……。


   …明るいのがイヤなら。


   ナディ…。


   ……暗く、してあげる。


   あ……。








   
アリス・・・漫画版に出てきたエリスと色違いの子。L・Aの代わりかも知れない。
    漫画版は色々アレだったけどこの子の存在はわりと好きだったので、英語版でたまに出そうかと思ってます。