今日はこの辺までにしておこうか。


    …。


    エリス、今夜はここで野宿。
    オーケイ?


    …ん、オーケイ。


    どした?
    寒い?


    …ううん、大丈夫だよ。


    本当に?


    大丈夫。
    ナディとお揃い、してるから。


    …。


    ポンチョ。


    …大丈夫なら、良いけど。
    でも何かあったらすぐに言うのよ。


    いえっさ。


    よし。
    んじゃあ日が暮れてくる前に野宿の支度するよ。
    すぐに火を起こすからエリスはお湯を沸かしてくれる?


    うん。


    待った。


    ?


    よ、と。
    水、ここに置くから。


    うん。


    それから


    ごはんは、任せて。


    …。


    任せて?


    うん、任せた。
    けどそろそろ食料が心許なくなってきてるんだよな…。


    明日は町に着くんでしょ?


    うん。
    そしたらまずは宿を取ろう。
    で、ごはんを食べて、夜はベッドで寝よう。


    ん。
    お金は平気?


    うん、平気。
    贅沢さえしなければ、ね。


    じゃあしない。


    よし、良い子だ。


    ナディもだめだよ?


    いえっさ、エリス。
    …よし、点いた。


    ふふ。


    でも、今更だけどさ。
    口座、使えるようになったのはやっぱりありがたいよね。


    そうだね。


    どっかのブルーアイズが使えなくしてくれたおかげで、一時期はそれはもう、苦労したけど。


    パンも買えなかったね。


    しかも忘れてやがったしさ。


    うん、忘れてた。
    でもナディも忘れてた。


    …う。


    ね。


    けどそれはさ、使えないもんをいつまでも覚えてたって無駄だからであってさ、


    ナディらしいね。


    …だからって別に忘れてたわけじゃ、


    でも覚えてても無駄なんでしょ?


    …どうせ忘れてましたよー。


    らしい。


    …ちぇ。


    おまけに。


    …は、おまけ?


    意外と貯めてたのねって言われたね。


    …あー、今思い出しただけで腹が立つ。


    でも、意外だよ?


    エリスまで。


    ナディは貧乏なイメージだから。


    失礼な。
    言っとくけど、あんたもでしょ。


    うん、夫婦だから同じだよ。


    …。


    同じ。


    …まぁ、それは良いけどさ。
    これでもあたしはお金持ちになりたかったのよ。


    うん、聞いた。


    だから必要に迫られた時以外は使わないようにしてただけ。


    でもミゲルに取られたね?


    あれはしょうがないからくれてやっただけ。
    言ったでしょ。


    ふふ、そうだった。


    …ばあちゃんの教えもあったし。


    おばあちゃんの?


    簡単に言えば無駄使いするな、てね。


    難しく言ったら?


    難しく?


    うん、難しく。


    …生きたお金の使い方をしろ、だったかな。


    お金って生きてるの?


    例えよ、例え。
    要は無駄に使うなってコト。


    ふぅん。


    ま、おかげであんたのウェディングドレスの費用も返せたし。
    あー良かった。


    でもまだ式の費用が残ってるよ?


    それも絶対に返す。
    あいつに借りなんて作ってたまるかぁ。


    ナディはブルーアイズが嫌いなの?


    あ?


    前から良いこと、あまり言わないから。


    嫌いじゃないけど…うーん、なんと言うのかな、天敵みたいな感じかね。


    テンテキ?


    とも違うかもしれないけど。
    とにかく、やなものはやなのよ。
    特にあんたのコトに関しては。


    私?
    なんで?


    なんでも。


    どうして?


    …。


    ナディ。


    …こういう問答が始まると結局言うハメになるのよね、いつも。


    うん。


    …。


    言って?


    …あんたはあたしの何よ。


    ナディの?


    そう、あたしの。


    …相棒。


    …。


    人生の。


    ……つまり?


    妻、恋人。
    永遠の。


    …また恥ずかしい言い回しを。


    違うの?


    …違うなんて言えるハズないでしょうが。


    なら?


    つか、あたしがあんたに聞いてるんだって。


    だから、答えたよ?


    …。


    ん?


    …まぁ、そういうコトだから。
    自分の相棒


    人生の?


    …人生の相棒に関しての事は、あいつにあまり借りを作りたくないのよ。


    そうなんだ。


    …嬉しそうな顔するなって。


    だって嬉しい。


    …。


    ナディ。


    …わ。


    えへへ。


    ……いきなりくっつくなって。


    …いきなり、じゃないよ。


    お湯、沸いたわよ。


    …うん、湧いたね。


    とりあえずお茶、飲みたいんだけど。


    私の淹れた?


    そう、あんたが淹れた。


    じゃあ、すぐに淹れるね。
    そしたらごはん?


    …うん、ごはん。


    今夜はお芋ととうもろこしを煮たのと、そのスープ。
    いえっさ?


    いえっさ、エリス。


    うん。
    じゃあ車から


    エリス。


    ?
    なに?


    先に言っとくけど、あんたは重たいの持たないで良いから。


    うん?


    これからはあたしが持つ。


    どうして?


    どうしても。


    でも平気だよ?


    だめ。
    あたしが持つ。


    でも力は


    だめって言ったら、だめ。


    ……。


    お湯、足りそう?


    …ん、足りるよ。


    じゃ、車から降ろすから。
    それまでにお茶、淹れておいて。


    ナディ。


    …ん?


    ……。


    …なに。


    ナディは、しんぱいしょう。


    …。


    ……でも、嬉しい。


    あ、そ…。


    …えへへ。


    …。


    …。


    …エリス。


    ん…。


    お腹、空いてきたかな…。


    …じゃあまた後でね。


    …。


    後でね…?


    …まぁ、冷えないにはくっついてる方が良いし。


    ……ナディはあまのじゃく。


    悪かったな…。


    …ふふ。









    …ある日、オガライティが川岸を散歩していると、優しい歌が聞こえてきた。
    オガライティは興味を引かれて、声のするほうへ向かった。


    …。


    声の主はとても美しい娘だった。エイレテ、それが彼女の名前だった。
    やがて二人の心に愛が生まれ、そして永遠の愛を誓い合った。


    …。


    …はい、今夜はここまで。


    もっと。


    だーめ。


    …。


    太陽が沈んじゃうとやっぱり冷えるなぁ。
    エリス、寒くない?


    …ナディがくっついてるから平気。


    ナディに、でしょ?


    …が。


    に。


    が。


    に、だって。


    仕方ないからそれでも良いよ。


    …こいつめ。


    えへへ。


    でもさ。


    に、で良いよ?


    いや、それじゃなくて。


    なに?


    この本、もう随分と読んだじゃない?


    うん、読んだ。


    それこそ内容、覚えちゃうくらいに。


    うん、覚えてる。
    ナディも?


    そりゃ、こんだけ読まされれば。


    そうなんだ。


    あのなぁ。
    あんた、どんだけ人に読ませたと思ってるの。


    いっぱい?


    そう、いっぱい。
    これで覚えないハズがないっつの。
    いざとなったら開かなくても話せるわよ。


    もう、読みたくない?


    そういうわけじゃないけど。
    この絵本買った時はまさかこんなに長い付き合いになるとは思ってなかったからさ。


    それは絵本のこと?
    それともエリス?


    両方、かな。


    …。


    …なに、不満?


    …。


    エリス。


    ……私は。


    …。


    …今が幸せだから、それで良い。


    …。


    ……。


    …ま、あれだ。


    …。


    これくらいで長いとか言ってちゃだめかもね。


    …どういうこと?


    先はまだまだ長いってこと。
    これからもずーっと、一緒にいるんだから。


    …うん。


    こらこら、あまり寄り掛かるなって…。


    …いいの。


    あんたは良いだろうけど。
    あたしには寄り掛かるとこ、ないんだから。


    …エリスに寄り掛かれば良いよ?


    この姿勢で?


    …前かがみ?


    無茶ゆーな。


    …わ。


    これじゃ余計疲れるでしょ、お互い。


    …うん、そうかも。


    さ、そろそろ寝るよ。
    夜更かしは躰に良くないからね。


    …もう少し。


    だぁめ。


    …。


    …ほら、この子も眠いってさ。


    ん…。


    あんたがいつまでも起きてたら眠れないって。


    …。


    …ん?


    そうなの?


    うん、そうなの。


    今までも眠かったのかな。


    今まで?


    …。


    エリス?


    ふふ。


    ちょっと、何よ。


    …ナディはたまにせっかち。


    は?


    だし、やっぱりへたくそ。


    …エリス。


    でも、伝わってるよね。


    何が。


    私たちが仲良しってこと。


    ……あー。


    …ふふ。


    ソレ、これからは考えないとな…。


    …考えるの?


    負担、かかるでしょうが…。


    …。


    …だからあんたも


    ナディ。


    …あ。


    ……大丈夫。


    いや、大丈夫ってね…。


    …まだ、大丈夫だから。


    けど


    しぃ。


    ……。


    …大丈夫だから。


    ……エリス。


    …。


    ……でも、やっぱり考えちゃうって。


    考えすぎ?


    …あのなぁ。


    本を読むのと一緒。


    本を?


    読み聞かせ。


    ……は?


    この子に、聞かせてるんだよ。


    …。


    聞こえるんだって。


    …つか、そうだったの?


    うん。


    だからあたしに読ませてたの?


    うん。


    つか、自分でも読めるのに?


    共同作業?


    ……。


    夫婦は、分け合うの。


    …ならもっと早く言えって。


    鈍感?


    あ、の、なぁ。


    …へへ。


    あーもう、あんたは…。


    …ナディの声、ちゃんと聞こえてるって。


    あーそうかい…。


    ……。


    …。


    …。


    ……ほんとにいるんだよなぁ。


    うん、いるよ…。


    …。


    …。


    ……とりあえず、何がいるんだろ。


    …?


    服とかおしめとかはいるでしょ。
    あとは…。


    …気が早い。


    遅いよりは良いでしょが。


    …。


    …あとはなんだろ。


    名前。


    …なまえ?


    そう、名前。


    …。


    …ちゃんと、考えてね。


    ……あんたこそ、気が早い。


    夫婦、だから。


    …。


    …だから。


    ……そうかい。


    ん…。


    …エリス。


    ナディ…。


    …そろそろ、ほんとに寝るよ。


    …。


    毛布、ちゃんとかけて。
    冷えないように。


    …キス、まだだよ。


    するから。


    …ちゃんと?


    …。


    して。


    …するわよ。


    なら、いい…。


    …たくもぅ。


    ……。


    ……てかさ、エリス。


    なに…。


    あたしは…その、アレは未だに自分でもうまくないって自覚してるけど。


    …けど?


    例えば、


    だめ。


    む。


    絶対、だめ。


    ちょ、エリス。


    浮気、しないで。


    誰もするとは言って、つかなんでそんな話にむが。


    …だめ。


    ……。


    …。


    …するわけ、ないでしょうが。


    じゃあなんでそんなこと、言ったの。


    そんなことって。


    …したいって思ってるから。


    ち、違う違う!


    …。


    エリス。


    ……もう、寝る。
    ナディのばか。


    誤解だって。
    つか人の話は最後まで聞けって。


    …。


    あ、あたしはあんたしか知らないから…だから。


    …他の人としてみたい?


    そ、そうじゃなくて!


    …。


    ……そうじゃなくて。


    …なに?


    あたしはただ、あんたをもっと…。


    …。


    だから…。


    …ばか。


    う…。


    …私、言ったよ。


    …。


    今、仕合わせだって。


    ……。


    …とても、とても。


    ……うん。


    …それに。


    …。


    ……本当はそんなにへたくそじゃないよ。


    うん…え?


    なんでもない。


    エリス、今なんて


    ナディが私以外を知らないで良かったって、言っただけ。


    え、えぇ。


    いやなの?


    そ、そんなわけ


    いい?


    …うん。


    良かった。


    …。


    キス。


    …え。


    寝るんでしょ?


    あ、うん…。


    …キス、して。


    …。


    ナディ。


    う、うん…。


    ん……。


    ……えと。


    おやすみ、ナディ。


    …おやすみ、エリス。


    ……。


    …まぁ、いいや。


    ……ふふ。








    …ふぅ。


    …。


    寒いとは思ってたけど。
    まずいな…。


    …なにが、まずいの。


    エリス。


    …。


    雪が降るかもしれない。
    しかもたくさん。


    …うん。


    この地域は寒くても雪までは降るとこじゃないのに。
    最近の天気はどうかしちゃってるにも程がある。


    …。


    急がないと。


    うん、そうだね…。


    …。


    …はぁ。
    息、白いね…。


    エリス、もう少しだから。


    うん、大丈夫だよ…。


    …。


    …大丈夫。


    …。


    …?
    ナディ、どうしたの…?


    …エリス。


    ……。


    …。


    …ナディ。


    気休めにもならないけど…。


    …あったかい。


    …。


    ナディは、あったかい…。


    …あたしも結構、冷えてるんだけどね。


    えへへ…。


    …鼻、赤くなってる。
    ほっぺたも。


    ん。


    白いから、良く目立つ。


    …変?


    ううん、かわいい。


    …。


    急に止めてごめん。
    急がないといけないってのに。


    ナディ。


    うん?


    手、貸して。


    手?


    ん…。


    …なに?


    冷たいね…。


    …あんたも。


    はぁぁ…。


    …。


    …あったかい?


    ん、あったかい。


    良かった…。


    …エリスのも貸してみ。


    ん…。


    ……はぁぁ。


    …。


    …町に着いたら、あったまろう。


    ん。


    あったかいごはんを食べて。
    あったかいシャワーを浴びて。
    それから、


    あったかいベッドで寝るの…二人で。


    …。


    …ナディの腕の中で。


    嫌だって言っても、離さないわよ。


    …。


    離さない。


    …耳、赤くなった。


    寒さのせい。


    …。


    さ、む、さ、の、せ、い。


    …じゃあそういうことにしておくね。


    ふん、だ。


    …ふふ。


    一寸飛ばすから。
    毛布にしっかりとくるまってるのよ。


    …いえっさ。


    よし。


    ……雪。


    え。


    降るんだ…。


    …多分、だけどね。
    この雲は雪雲だと思うから。


    そっか…。


    …。


    ……楽しみ。


    おいおい。


    きれいだよ…?


    悠長なヤツだ。
    こんなに寒いってーのに。


    …。


    …こら、運転し辛いって。


    …だめ?


    んー…。


    …。


    …仕方ない、今だけ許可してあげよう。


    偉そう?


    はは。


    …ふふ。








    何か食べたいもの、ある?


    …つめたいもの。


    こんなに寒いってのに?


    …部屋の中は、あったかいよ。


    まぁ、外よりはマシだけど。


    ずっと、マシだよ…?


    …冷たいものって、例えば?


    …。


    …分かった。
    買ってくるから待ってて。
    この寒さなら


    だめ。


    うん?


    行かないで。


    行かないと買ってこられないでしょうが。


    …。


    頼めって?
    そんな贅沢、出来るかぁ。


    …。


    そもそもこういうトコで頼むと無駄に高いのはエリスも知ってるでしょ。
    いくら安ホテルだって言っても…。


    …。


    贅沢、は…。


    …。


    …で、なんのアイスが良いのよ。


    イチゴ。


    イチゴ、イチゴねぇ。
    あんた、好きよね。


    うん…好き。


    まぁ、良いけど。


    だってナディが初めて買ってくれたものだから…。


    …そんなことで?


    十分…。


    あー…もしもし、イチゴのアイスをひとつ。
    あ、上に乗せるフルーツ?


    …イチゴ。


    あー、イチゴで。


    やった…。


    …言っとくけど、今回だけだからね。


    ん…。


    ……まだ、熱いかな。


    …き。


    ん?


    …雪。


    かなり降ってるよ。
    思ったとおり。


    …外で見たい。


    絶対、だめ。


    …言うと思った。


    何度も言ってるけど、あんただけの躰じゃないんだからね。


    …わかってるわよぅ。


    お。


    …ナディの真似。


    いらんコトはしないでよろしい。


    …見たいな。


    …。


    雪…。


    …ここからなら。


    …。


    どう、見える?


    …見えない。


    あんたの目をしても?


    …。


    と。


    …見えるけど、近くで見たい。


    …。


    …あったかいから、平気だよ。


    そういう問題じゃない。


    …ナディが支えてくれるから。


    …。


    だから…。


    …あのね、エリス。
    いくら風邪じゃないからって…。


    …。


    ……少しだけだからね。


    うん。


    絶対、だからね。


    ん、分かってる…。


    待った。


    …?


    支えるんでしょ、あたしが。


    …。


    エリス。


    …そうだった。


    よいしょ…と。


    …。


    ふらふらする?


    …しない。


    正直に言わないと、支えない。


    …すこし。


    よし。


    …。


    しっかり…は、無理だとしても。
    ちゃんと掴まってるのよ。


    いえっさ…。


    …。


    …。


    …どう、結構降ってるでしょ。


    真っ白…。


    ちょっと足止めかなぁ、このイキオイだと。


    …ふふ。


    楽しくないから。
    ホテルだってタダじゃないんだからね。


    仕事、するの?


    日払いのタコス屋でもあればいいけど。


    …あるよ。
    だって、あのタコス屋さんには仕事の出来る人がいるから。


    頭ん中が機械の、ね。


    ふふ…。


    うん、ここは笑っても良し。


    …ナディ。


    んー。


    きれいだね。


    雪?


    きれい…。


    …ま、あんたが言うなら。


    きれいじゃないの?


    きれい、よ。


    …本当に?


    本当に。


    …。


    あんたと見てるから、って言えば満足?


    …後のが余計だと思う。


    はは。


    …。


    さ、もうおしまい。
    ベッドに戻ろ。


    もう少し…。


    だーめ。


    うー…。


    ダダをこねない。
    今夜大人しく寝ないと下がるもんも下がらないわよ。
    それでも良いって言うの?


    …。


    それに雪はまた降るって。
    そもそもこれが初めてなわけじゃないでしょ?


    …。


    その時また、一緒に見れば良いんだから。
    ね。


    …いえっさ。


    ん。


    …。


    …よいしょ、と。
    そうだエリス、そろそろアイスが来ると思…


    …。


    …ほら、来た。
    はいはーい。


    …。


    …て、これは。


    ナディ…?


    なんかすごいのが来た…。


    …イチゴだらけ?


    アイス、見えないんだけど…。


    見えないね。


    …高そう。


    ナディも食べる?


    一人で食べられるなら


    ナディと食べる、食べたい。


    …じゃ、貰う。


    うん、あげる。


    しかし凄いわね、これ。


    ね…。









    しばらくはイチゴ、いらないかな…。


    私は食べられるよ…?


    あんたはね。


    ナディはもういらないの…?


    こんだけ食べればしばらくはいらないって。


    …。


    だからってあんたに食べんなって言ってるわけじゃないわよ。
    あんたが食べたいって言うなら、食べればいい。
    まぁ、いつもは無理だけど、


    …ナディが食べないなら、食べない。


    だから、


    ナディと食べられないなら、いらない。


    …。


    おいしいね…?


    ちょっと酸っぱいけどね。


    でも、おいしいよ。


    うん、そだね。


    …。


    …どうせ、いつもは無理だし。


    うん…?


    次にあんたが食べたい時はあたしも食べたいかもしんないってこと。


    …。


    イチゴの話。


    …そっか。
    だったら、食べる。


    いつもは無理、だからね?


    アイスも…?


    もちろん。


    …ちぇ。


    ちぇ?


    ナディのまね。


    だから、しないでよろしい。


    …へへ。


    アイスもおいしい?


    うん、おいしい。


    …あー。


    あー?


    味見。


    そっか。
    じゃあ、はい。


    んー…ちょっと甘い、かな。


    おいしくない?


    イチゴが余計酸っぱくなる感じ。


    …。


    でもまぁ、おいしい。
    頼んで良かった。


    …ほんと?


    うん、ほんと。
    正直、こんな雪が降る中アイスだけ買いに行くのはちときつかったしね。


    …寒いから?


    それにあまり慣れてないし、雪。


    …うん。


    まぁ、ちょっと怖いけどねー。


    お財布に優しくない?


    ま、そこまでじゃないと思うけど。
    いつだかのホテルのサービスに比べれば、ね。


    リリオ?


    そう、リリオ。
    あん時はほんと困った。


    …。


    てほら、融けちゃうよ。
    もう、食べらんない?


    …ううん、食べる。
    でもイチゴはもう食べられない…。


    あたしが食べるから心配無用。


    …くいしんぼ?


    なんだとぅ?


    …えへへ、ごめんなさい。


    たく。
    アイス、食べたら寝るのよ。


    …ナディ。


    うん?


    お腹、空かない?


    お腹?


    ご飯、食べてない。


    んー…。


    …何か食べてきても良いよ。


    いや、行かない。


    …大丈夫なの?


    缶詰、最後のひとつがあるし。


    足りるの?


    足らすの。


    でも


    こんな熱出しさみしんぼを、一人になんかさせらんないじゃない?


    ナディが私から離れられないだけじゃなくて…?


    あ?


    …私がナディから離れられないのと同じように。


    …。


    …。


    …さみしんぼ。


    …くいしんぼ。


    そんなコト言うとお腹、空いてきちゃうでしょうが。


    えへへ…。


    とにかく、食べたらさっさと寝るから。
    後は明日だ、明日。


    シャワー、は?


    明日。


    良いの?


    良いの。
    明日、あんたと浴びるから。


    …私と?


    そ。
    だからさっさと寝て、さっさと下げろ?


    …いえっさ。


    ん?


    …。


    熱、上がった?


    …平気だよ。


    でも顔、赤いわよ。


    …。


    ん…?


    …ナディの、せい。


    ……。


    …。


    …いつもはやられっぱなしだし。
    まぁ、たまにはね。


    …赤い。


    やかましい。


    …ねぇ、ナディ。


    なに。


    一緒に


    寝るわよ。


    …。


    当たり前でしょ。


    …やっぱり赤い。


    うるせっつの。


    …。


    あったかいごはんもあったかいシャワーも明日回しだけど。
    あったかいベッドで一緒に寝るのは回す必要ないでしょ。


    …ん。


    さて、最後の一個だ。
    つかイチゴだけでも結構、ふくれたなー…。


    …。


    …缶詰、別にいっかな。


    夜中、お腹空かない?


    だからそういうこと、言うなって。
    ほんとになるでしょうが。


    …なりそう。


    エーリース。


    ……いえっさ。


    たく。


    …ナディ。


    また余計なコト、言うんじゃないでしょうね。


    手。


    手?


    …。


    …こう?


    うん…。


    …。


    …。


    …熱いほっぺた。


    …熱い手。


    あんたの方が熱いでしょうが。
    普段はあたしよか低いのに。


    …でも、ナディも熱い。


    …。


    熱い…。


    …そりゃ大変だ。
    あたしも熱が出てきたのかもしんない。


    …。


    さっさと寝ないと。


    …あ。


    寝るよ、エリス。
    後はぜーんぶ、明日。


    …。


    …ほら、あたしを入れてよ。


    ん…。


    …。


    …。


    …やっぱ熱いし。


    寒いから丁度いい…?


    …ばーか。


    …。


    …ほら、さっさとおいで。


    …。


    …あっつい躰。


    …ナディは気持ちいい躰。


    …。


    …ナディはいつもあったかいから。


    …最初からそう言え。


    …?


    …。


    …あのね、ナディ。


    んー…。


    あったかいのはベッドじゃなくて…。


    …。


    …ナディなんだよ。


    …。


    ナディ…。


    …エリス。


    …。


    …また明日ね。


    うん、また明日…。









    …。


    …。


    …ま、良いけどね。


    ……まだ。


    ん?


    ふるえ、取れないの…?


    ああ、起きた?


    ナディ。


    んー、まぁね。


    …。


    あんたに隠してもしょうがないから、言うけど。
    今日は具合がちょっと良くない。
    多分、寒いからだと思うけど。


    …どんな風に?


    ちょっと痺れてる。
    でもま、大した事ない。


    ……ごめんね、ナディ。


    なんで?


    …私が、弄ったから。
    壊したから、だから…。


    それ、何度も聞いてきたけど。
    そのたび、あたしはなんて返してきたっけ?


    …私のせいじゃない。


    そ。


    …。


    あのさ、エリス。


    …なに。


    自分で決めたの。


    …。


    他でもない、あたしが。
    だから、こうなった責任はあたしにある。


    けど私が


    それでもあたしが決めた。


    …。


    だからあんたが責任を感じる必要なんて、ない。


    ……。


    と、言ったところで。
    あんたが自分を責める気持ちを全部、無くせないことも分かってるんだけどね。


    ……ナディ。


    熱、下がったみたい。
    良かった。


    …。


    他人が何を言ってきても、どんなに良い悪い助言をくれたとしても。
    最後は必ず、自分で決める。
    だから、他人のせいにはするな。


    …おばあちゃん?


    思えば、ばあちゃんに甘やかされたコトはほっとんどなかったような気がするなぁ。


    そうなんだ。


    でも、あたしもそう思うんだ。
    他人があーだこーだ言ってきても、最後に決めるのはやっぱり自分だって。


    …。


    賞金稼ぎになるのも、それで人を殺して金を得るのも、全部自分ひとりで決めた。
    他の選択もいくらかはあっただろうけど、あたしは選ばなかった。
    ま、どうせロクでもないんだけどね。
    子供で出来るコトなんて、かなり限られてるから。


    …。


    何かを言ってくれる人もいなかったし。


    …ブルーアイズは?


    あいつと会ったのはあんたと逢う少し前の事だから。
    あたしはとっくに賞金稼ぎになってたし、むしろ、賞金稼ぎになってなかったらあいつと会うコトもなかった。
    こっちは明日も知れぬ孤児、あっちは組織の歯車一個、住む世界が違いすぎる。
    ま、それは今もだけど。


    …私とも?


    ん?


    私とも逢わなかった…?


    それは分かんない。


    …分からない?


    もしも運命と言うものがあるのなら。
    どんなあたしでもあんたと逢ってた、と思う。


    …。


    …なに?


    ナディじゃないみたい…。


    なんだとぅ?


    …えへへ。


    あんたは後悔してる?


    …私?


    そう。


    …。


    あたしの事は抜きにして。
    純粋に自分だけのコトを考えてみなさい。


    …。


    …出来る?


    ……私は。


    うん。


    ……してない。


    そっか。


    …わ。


    具合、あんまり良くなくても。
    これくらいは出来る。


    …ぐしゃぐしゃ。


    寝起きでどうせ、ぐしゃぐしゃ。


    …むぅ。


    ふふ。


    …どうして笑ってるの。


    そりゃ、嬉しいから。


    …。


    んーーー…。
    ベッドで寝るとやっぱり違うなぁ。
    疲れが取れる。


    ナディはあんまり関係ないと思う。


    だから、あんたのコトを言ってるのよ。


    …ん。


    うん、やっぱり熱は下がってる。


    …。


    調子はどう?


    …ナディと、良く寝たから。


    ん…なら、良かった。


    ……。


    ……。


    …?
    ナディ…?


    ごはん、食べに行けそう?


    …。


    行けそうなら、一緒に行こ。
    行けないなら…今回だけ奮発して、何か頼もう。


    …大丈夫、行けるよ。


    無理してない?


    ん、平気。


    よし。


    でもその前に。


    んお?


    一緒にシャワー。


    …。


    ナディが言ったんだよ?


    …そーだったね。


    いやなんて、言わない?


    …ま、一人じゃ心配だし。


    言いわけ?


    違います。


    ふぅん。


    …んじゃ、さっさと浴びちゃお。


    ねぇ、ナディ。


    うん?


    二人で決めることは、出来ないの?


    二人で?


    …夫婦、だから。


    …。


    二人が良いよ…。


    …出来るし、してるよ。
    今は。


    けど、さっきは…


    二人で決めて、改めて自分で強く決めるの。
    だから後悔なんて、しない。


    …。


    もっと言えば…二人で決めたコトだからこそ、後悔して欲しくない。
    自分を責めて欲しくない。


    …あ。


    このコトを。


    ……。


    感じる?


    …うん、少し。


    動いてる?


    …まだ、分からない。


    気ぃ、早いか。


    うん、早い…。


    …。


    …ナディの手、ふるえてる。


    エリス…。


    …でも、どんな手でも大好きだから。


    うん…。


    …。


    …ふふ。


    …嬉しい?


    言わない。


    言うと思った。


    はは。
    おはよう、エリス。


    …?


    そういえば、今朝はまだだったでしょ?


    …そうだった。
    おはよう、ナディ。








    ...tres