−JOJO





   そして今宵も実の姉に抱かれて夢を見る。





   ……。


   …姉さま。


   ん…。


   …。


   …なぁに、榛名。


   ……何でもありません。


   …。


   …然う、何でも。


   ……はーるな。


   にゃ…。


   ふふ…にゃ、だって。
   かわいい。


   …ね、ねえさま。


   榛名の悪い癖、また出てるよ。


   …。


   離して欲しかったら…ちゃんと言って。


   ……。


   …じゃ、ないと。
   こうしちゃうぞ…?


   ……。


   榛名のほっぺた、やーらかいな?


   ……うぅ。


   …榛名。


   ……いい、ます。


   …本当に?


   ……ひゃ、い。


   ん…良し。


   …。


   ……それで、なぁに。


   …姉さまは。


   うん。


   ……姉さまはどうして私を抱くのですか。


   え…。


   どうして私を…抱いて呉れるのですか。


   …。


   …実の妹である、私を。


   ……。


   …。


   ……。


   …?
   姉さま…あ。


   …もう手遅れだよ、榛名。


   ておく、れ…。


   …今更手放せと?
   そんな事、出来るわけない…。


   ね、ねえ、さま……。


   …どうして抱くか、なんて。
   答えなんて、一つしか無い…無いんだよ、榛名。


   ……。


   …どうして、そんな事聞くの。
   どうして、そんな事…。


   …。


   ……私の事、嫌いになった?
   もう、触って欲しくなくなった…?
   もう、お仕舞いに…ん。


   ……姉さま。


   ………然うなんだね。


   違います。


   …然うなんでしょ。


   違う。


   …だったら、なんでそんな事を聞くの。


   …。


   ……実の姉に抱かれるなんて、気持ち悪いって。
   然う、気付いたんでしょう…。


   ……違う。


   …良いよ。
   でも榛名、私は……どうしても、君を離せない。


   …。


   離せないの…。


   ……姉さまは、私の事、好きですか。


   え……。


   私の事、愛していますか…。


   ……何を。


   教えて下さい。


   …。


   ……教えて、下さらないですか。


   …私は。


   私が…実の妹だからですか。
   それとも、躰だけが、欲しかったのですか…。


   ……違う。


   私の事、好きですか……。


   …好きじゃ、なければ。
   こんなに、こんなにも…。


   ……。


   …不安になんて、ならなかったのに。


   ………姉さま。


   …榛名、若しも、いつか。
   君が、私から離れる日が来たら……私は。


   ……私は貴女が好きです。


   …。


   好きだから…貴女とのこんな関係に、溺れているのです。


   ……榛名。


   溺れて、溺れて……苦しくて。
   そのまま、息が止まってしまえば良いとさえ…思っているのです。


   榛名……。


   …私は屹度もう、子供じゃないんです。
   だから……。


   …。


   …だから、形が欲しいんです。
   貴女との、明確な形が……姉妹ではない、けれど確かなものが…欲しいんです…。


   ………。


   …抱かれるだけじゃ、怖いんです。
   怖くて…怖くて……。


   ………榛名は私の恋人だよ。


   …。


   …でも、それじゃあ、足りないんだね。


   ……ごめんなさい。


   …。


   ごめんなさい……比叡姉さま。


   …。


   ……わがままで、ごめんなさい。


   …一寸待ってて、榛名。


   あ…。


   ………。


   やだ、行かないで…。


   …榛名、知ってる?


   …。


   空を越えて伝わる想いは、確かに、あると言う事。


   ……。


   どんなに離れても、私は榛名を想う。
   そしてその想いは…榛名に伝わると、届くと信じている。


   いや、です…。


   …。


   …離れるなんて、言わないで下さい。
   言わないで……。


   …。


   …私は、姉さまみたいに強くない。
   離れて…貴女をずっと想うとしても、信じる事が出来ない……不安に、なってしまう。
   若しも、姉さまの心が他の人に移ってしまったら…私の知らない人に惹かれてしまったら………。


   …榛名。


   不安で、不安で…屹度、榛名の心は…押し潰されて…。


   私も強くない。寧ろ、弱い。
   だから…本当は、怖いよ。
   さっきも言ったけど、本当は、不安で不安で仕方無いんだ。
   朝、起きた時に…隣に、抱いて眠った筈の榛名が居なくなっていたらと、考えるだけで。
   怖くて、怖くて…眠る事が、出来なくなるくらいに。


   …。


   だけど…ただ、信じてるんだ。
   榛名を。


   …私を。


   榛名を愛しているから……榛名を、信じるの。
   怖いけれど……想いは届いていると、信じて。


   ……あぁ。


   榛名、私は貴女を愛しています。
   だから…貴女のすべてが欲しくて、貴女を抱くんです。
   少しでも、少しでも…貴女を貰える事が出来たら良いと、願いながら。


   …。


   ……榛名、指を。


   …。


   左の、薬指を。


   ……ひだり、の。


   出して、呉れますか。


   比叡、姉さま……。


   ……どうか。


   ……。


   …有難う。


   ……。


   ……私は、誓います。
   貴女を…何があろうと一生、愛する事を。
   私の全てを懸けて、守る事を。
   しあわせにする事、を。


   私…私は…。


   榛名…私の薬指にも、嵌めて呉れますか。


   …。


   …貴女の、手で。


   ………はい。


   有難う…。


   ……。


   ……。


   ……私は、貴女を、愛しています。
   ずっと、ずっと、一生…若しも、死んだとしても。
   貴女を、貴女だけを…。


   …本当はもっと早く、渡したかったんだけど。
   その……ごめんね。


   …いいえ。
   いいえ……。


   …。


   …榛名、こそ。
   ごめんなさい……ごめんなさい…。


   …榛名を、抱く理由。


   …。


   榛名が私の愛しい人だから。
   そして、今からは…。


   …。


   ……私の一生、の。


   …。


    ……形に、なるかな。


   …。


   これが少しでも榛名の欲しい形に、なって呉れれば…。


   …抱いて、下さい。


   …。


   何も分からなくなるくらいに…姉さまの事しか、分からなくなるくらいに……強く、私を抱いて下さい。


   ………榛名。


   姉さま…何も返せなくて、ごめんなさい。
   我儘ばかりで、ごめんなさい。
   困らせて…ん。


   ……。


   …ねえ、さま。


   ……嬉しい?


   …。


   ユビワ……。


   ……は、い。


   良かった……。


   姉さま…姉さま……。


   …ずっと、私と一緒に居て下さい。


   はい……榛名で、良ければ。
   いいえ、貴女の傍に居るのは……。








   そして今宵も実の妹を抱いて夢を見る。








   醒める事の無い、夢を。








  −Baby Leaf





   …っ、待っ…ッ。


   …。


   待って…待って、ください…ッ。


   …待てない。


   あ、や、だめ…。


   ……待てないよ。


   だめ、だめです…ねぇさ、あぁんッ。


   ……ん、いいこえ。


   おねがい、です…まってください…まって…。


   ……いやだ。


   …ねぇ、さま、おねがい…おねがい、だから……。


   ………。


   おねがい……おねがい…まって…まって、ください……。


   ……。


   ねぇさま…ひえい、ねえさま………。


   …榛名。


   ………おねがい、です。


   榛名…。


   ……。


   …ごめん。
   ごめん、榛名……。


   …。


   …………ごめんなさい。


   ……なって、しまうから。


   え…?


   ……せい、ふく。


   …。


   ……しわ、に。
   だか、ら……。


   しわ……せいふく……。


   …。


   …ああ、よかったぁぁ。


   ………よく、ありません。


   いや、だって…む。


   …しわになったら、大変なんです。
   ねぇさまだって、しってるはずです…。


   ……はい。


   …。


   あの…榛名。


   …どいて、ください。


   ……えと、ほっぺた。


   退いて下さらないのなら、もっと、力をこめます。


   …よかったら、脱がしてあげる、けど。


   ……。


   ひぇ…。


   ……比叡ねえさま。


   …はい、どけます。


   ……。


   ……。


   ……はぁ。


   え、と…。


   ……。


   ……なんか、お預け喰らってるみたい、です。


   …だって、然うですから。


   う…。


   ……。


   …あの、榛名。


   だめ、です。


   ………はい。


   …。


   …。


   ……姉さまは、ずるいです。


   へ…。


   …私ばかり、脱がされて。


   あ、いや、別に服を着たままでも、私は、構わないんです、けど……。


   榛名が言いたい事はそういう事ではありません。


   …はい、すみません。


   …。


   ……あの、脱がないのでしょう、か。


   …。


   榛名、これ、結構…。


   ……。


   …その、待ってるから。
   待ってるから…だから、榛名。


   ………。


   …。


   ……脱がせて、下さい。


   …え。


   …。


   は、榛名…?


   ……待ってるんです。


   え、そ、然うなの…?


   ……。


   き、気合、入れて、脱がせます。


   …こんな事に気合入れないで下さい。


   あ、はい……。


   …。


   …榛名ってセーラー服、似合いますよね。


   ……急に何ですか。


   ずっと、思ってたんです……似合うなぁって。


   …姉さまだって。


   私は…あまり、似合わなかったので。


   …そんな事、ありません。


   なんて言うかなぁ…正統派と、言いますか。


   …。


   ……兎に角、似合ってるんです、とても。


   …。


   ……だから、ですよ?
   その…余計、興奮してしま…いたい。


   ……姉さま。


   …はい。


   ………そんなに似合っていますか。


   …はい、とても。


   …。


   ……着たまま、してしまいたい、と、思うくらいに。


   …。


   ……疚しくて、ごめんなさい。


   …皺になったら、大変なんです。


   はい…知っています。


   ……。


   ……榛名、立って呉れますか。
   スカートを……あ。


   ……。


   ……う、わ。


   …。


   は、榛名…。


   ……あまり、見ないで下さい。


   む、無理です…。


   …榛名の着替えなんて、珍しいものじゃない筈です。


   そ、然うなんですけど、時と場合と言うものがありまして…。


   …。


   …わ。


   ………。


   はる、な…。


   ……もう、良いですよ。


   …。


   …あとは、下着だけですから。
   だから…。


   ……榛名ッ。


   …。


   ……もう、良いですか。


   …良いと、言いました。


   ……。


   ……。


   …スカートって。


   …?


   ……ストンって、落ちますよね。


   …何が言いたいのですか。


   ……なんか、圧倒されて。


   はい…?


   じゅ、重力って、すごいね…?


   ……意味が分かりません、姉さま。


   …。


   ……。


   ……ねぇ、榛名。


   …何ですか。


   胸、少し大きく…いたい。


   ………。


   …はるなぁ。


   ……はやく。


   …。


   …はやく、してください。


   …ッ。


   ……がまんしてるのは、してたのは、はるなも、おなじなんですから。


   榛名……ッ。









  −変わらないもの





   姉さまなんてもう、知りません…ッ。


   …。


   もう、姉さまなんて…。


   榛名。


   …知らない、知りません。


   榛名、怒った…?


   ……。


   榛名、怒ったの?


   …姉さまとなんて、話したくありません。


   …。


   …姉さまなんて、知らない。
   姉さまなんて……嫌い…。


   …そっか。


   あ……。


   …。


   ………。


   …ごめん、榛名。
   それでも私は榛名が好きだよ。


   …っ。


   ずっと、榛名が好きだよ。
   何度生まれ変わっても、榛名だけを好きになるよ。


   ……うそ、つき。


   …。


   …金剛お姉さまの事を愛しているくせに。


   ……うん、然うだね。


   姉さまの瞳に榛名が映る事なんて…。


   …然うかな。


   …。


   私は榛名の事を…君が生まれた時からずっと、見ていたよ。
   見て、きたよ。


   ……そんな、の。


   然うだね、榛名は私の妹だから。
   掛け替えのない、妹だから。


   ……榛名は好きで、貴女の妹に生まれてきたわけじゃない。


   …。


   榛名が姉さまの妹で無かったら…姉さまと榛名が姉妹で、無かったら。


   …。


   ……女同士だと、しても。
   それでも……それでも……。


   …何度生まれ変わっても、私は榛名と姉妹になりたい。


   …!
   どうして、ですか…!


   …どうしても。


   どうして、どうして、ですか……。


   …どうして、だろう。
   でも、どうしても…然う、思うんだ。


   ……結局、榛名は。


   …。


   榛名は、姉さまの妹の一人にしか過ぎないんです…だから、そんな事が、思えるんです…。


   ……然うなのかな。


   榛名は、榛名は……貴女と、結ばれたかった。
   躰も、心も、結ばれたかった…。


   …今は叶っていないの。


   ……。


   榛名。


   ……怖いんです。


   怖い…?


   ……姉さまの、その、優しさが。
   どこまでも甘えてしまいそうで…甘えて、しまっているのに…それなのに、姉さまは。


   …。


   …いつまでも、私を。
   私を、妹としか、見て下さらない…。


   …。


   …その腕の中に抱いて下さっている時でさえ。
   榛名は…。


   ……姉妹として、生まれて。


   …。


   生まれて……何度でも、私は榛名を好きになるんだ。


   …いや、なんです。


   …。


   …榛名は妹として、愛されたかったわけじゃない。
   なかったんです…。


   …榛名。


   私は…一人の女として、貴女に……愛されたかった。
   ただ、それだけ、だったのに…。


   ……私は、多分。


   …。


   …確かに榛名は私の妹です。
   それは、変わる事が無い…変わる事は、無い…。


   ……もう、止めて下さい。


   …。


   榛名に優しくして呉れるのは…もう、止めて。
   じゃないと、榛名は…私は……。


   …ごめん、止められない。


   ……いや。


   榛名、私は。


   …やめて、もう、やめて。
   わたしは、はるなは、あなたがすきなの、だいすきなの…あいして、いるの…。


   …。


   …姉としてではなく。
   貴女を、一人の女性として…愛して、いるの。


   …。


   …だから、同じになって欲しかった。
   同じように、榛名を……ん。


   ……見ているよ。


   やだ、はなして…。


   …多分、見ていたんだよ。


   やめて、そんなうそをつくのは…もう、いいんです、だから、やめてください…。


   ……。


   …榛名は、貴女の妹、なんです。
   ただ、それだけなんです…。


   …それの何処が悪いの。


   …。


   榛名は私の妹です。
   だけど私は榛名を一人の女として、愛してしまっている。
   妹として愛して、一人の女として、愛して。
   榛名の存在が、これ程までに、私の中で大きく占めていると言うのに。


   …姉さま。


   …榛名は嘘だと言うけれど。
   だったら、私はどうしたら良いのかな…。
   私の想いは…どうやったら、榛名に届ける事が出来るのだろう…。


   ……。


   …榛名、貴女を今直ぐに抱いてしまいたい。


   あ…。


   ……榛名。


   や、だめ…。


   ……榛名が、欲しいんだ。


   ね、ねえさ…んん。


   ……。


   ……いや…いや……。


   …嫌いだと、言われても。
   私は……榛名を嫌いになる事なんて、出来ない…。


   ……もう、やめて。


   …。


   …あらがうことなんて、できない。
   できないのを、しっていて……。


   …だったら。


   …。


   …抗わないでよ。
   どうか、抗わないで……。


   …こころが、こわれてしまう。


   榛名……。


   …こわれて、しまうんです。
   あなたをしんじきれない…よわい、わたしが、ゆるせないんです……。


   …。


   ……あなたが、すきなんです。
   すきだから、あいしているから……。


   ……何度、生まれ変わっても。
   私は榛名だけを好きになる…。


   …。


   …仮令、妹だったとしても。
   榛名を好きになって…何度でも、この腕に抱くんだ。


   ……。


   …勿論、榛名が私を好きになって呉れたらの話だけど。


   ……きっと。


   …。


   ……わたしも、なんどでも。


   …。


   なんど、うまれかわっても……あねである、あなたを。
   あなただけを……だから、こんなに、くるしいのに…それ、なのに……。


   ………結婚しよう、榛名。


   …。


   …法律なんて、知らない、どうでも良い。
   あんな紙切れさえ、私達には必要無いんだ。


   ……だけ、ど。


   形を、作ろう。


   …かたち。


   私と榛名の、新しい形を。


   ……。


   …姉と妹。
   恋人。
   そして。


   …。


   …これからは榛名、貴女は私の。


   ……だめ、です。


   …。


   …しんじてしまう、から。
   のぞんで、しまうから…。


   …望んでよ、榛名。


   …。


   望んで、欲しいんだよ…。


   …でも、だけど。


   どうしても信じられないと言うのなら……然うだな、またこうやって、話そう。


   …!


   …どうか、嫌いにならないでよ。
   榛名が居なければ…私は駄目なんだ。


   ……姉さま。


   …。


   ん……。


   ……今から、姉と呼ばないで。


   …。


   …姉妹である事が永遠に変わらなくても。
   同じように、私の榛名への想いも…変わらない。
   変わらない……変わる事なんて、無い。


   …あぁ。


   ………僕は、君が好きなんだ。


   ねえ、さま…。


   …なんて、さ。


   ……むかし。


   …。


   …そう、いっていましたね。


   …演じていただけさ。


   ん、姉さま…。


   ……けど、榛名はちゃんと、私を見ていて呉れた。
   私を、比叡、として……ずっと。


   …。


   ……私は榛名を妹として愛している。
   そして、それ以上に……。


   ……ひえい。


   …。


   ……わたしと、けっこん、してください。


   …。


   いもうとでもいい…から……。


   ……全部の榛名と結ばれたい。


   …。


   ……欲張りでしょう?


   …ほんとう、に。


   ……。


   ……。


   ……嫌いに


   なれるはず、ない…。


   …。


   ……あなたがいなければ、わたしは、だめなのだから。


   …うん。


   ………ずっと、わたしのてを。


   …かわらないものを、きみに。


   …。


   …あいに、すべてを。








  −のんで、のまれて。





   …あ、あの、榛名?


   はい、なんでしょう…ねえさま。


   え、と……。


   …なんですか、ひえいねえさま。


   こ、これ、どんな状況かなぁって。


   …どんな?


   あのさ?
   なんで私の膝の上に榛名が座っているのかなぁ…て、さ?


   …だめですか?


   や、駄目ってわけじゃないけど…その、珍しいじゃない?


   …いつも、したいって。
   おもってたんです、よ…?


   そ、そうなの…?


   ええ…そうです。


   わ…。


   ……ねえさまぁ。


   は、はるな、その、上着、上着、着ようか?


   …や、です。


   な、なんで…と言うか、なんでそんなに薄着なのかな…?


   …あついから、に、きまってるじゃないですか。


   そ、然う?
   でもさ、そんなに暑くないよ?
   もう、夏も過ぎたし、秋も深まって……ん!


   ……あつい、です。
   とても、とても、あつくて……。


   は、榛名…。


   …ねぇ、ねえさま?


   な、なに…。


   ……とても、あつい、です。


   あ、う……。


   ……。


   は、榛名。


   …はい、ねえさま。


   も、もう一度、聞いても良いかな…?


   ……もういちどだけ、ですよ。


   ど、どうしてこんな状況になったのかなぁって…。


   …。


   う、わ…まずい、この角度、まずい…。


   ……やぼって、いうんですよ。


   え。


   やぼ、です…ねぇさま。


   は、はる、はるな……。


   ……。


   …ひぇ。


   ……ねえさま、すき。


   …ッ。


   …はるな、ねぇさまが、だいすきです。


   う、うん…。


   だから、だから……はるな、ねぇさまといいこと、したいんです。


   …ぶはッ。


   ねぇ、ねえさま…はるなと、いいこと、いたしましょう?


   げほっ、…っ、へんなっ、とこ、…ッ、はいっ、た…ッ。


   ねぇさま…。


   ま、まっ…げほッ、げほッ。


   ……。


   ……!
   ひぇっ、…えぇ…ッ。


   ……。


   …いき、が、…っ。
   と言う、か、むねぇぇ…ッ!!


   ………んっ。


   …!


   ねえさま、ちょっとつよい、です……。


   ご、ごめ…ッ。


   …でも、ねえさまが、のぞむのなら。
   はるなは…。


   やばい、これ、やばい…ッ。


   …ねぇさまの、すきに、されたいです。


   は、榛名は、そんなこと、言わない…っ!
   と言うか、言われた事、ない…ッ!


   …いま、いいましたけれど。


   は、はい、言われました…!
   …じゃ、なくて!!


   ……いき、ととのいましたね?


   と、ととのわない…ッ。


   …そうですか。
   じゃあ……。


   ま、まずいから、ほんとに、まずいから…。


   …どうして、さけるのですか。


   だ、だめだよ、榛名。
   今日は…。


   …どうして、だめなのですか。
   はるなのからだ、こころ、こんなにも、まちきれないことになっているのに…。


   …やばい、ほんと、やばいですからぁぁぁ!


   ……ねぇさま。


   は、はるな、ちょっと、まって、まっ……んん。


   ……。


   ……ふ、…はる、…まっ………ん、…んッ?


   ……。


   ………待って、下さい!!


   ぁ…。


   …榛名、若しかして。


   どうして、ですか……。


   若しかして、お酒、飲みましたか…?


   …はるなのこと、きらいになったのですか。


   でも、いつ……ん。


   …はるなのこと、きらいですか。


   嫌いじゃ、ないよ…。


   じゃあ、もう、すきではないのですか…。


   す、好きだよ…。


   ……だったら、はるなと、いいことを。


   う…。


   あぁ、ねえさまのくび…しろくて、おいしそう。


   ……。


   ……たべてみても、いいですか。
   ねぇさまがいつも、はるなにしてくださっているように…。


   …榛名。


   ねえさまがわるいんですよ……ねえさまが、はるなを、たべてくださらないから。


   ………あぁ。


   だから…はるなが、たべて、さしあげますね。


   …なんか、もう。


   ………ふふ、あったかくて、やわらかい。


   …いい、かなぁ。


   ねぇさま…ねぇさま………。


   ……。


   …あ。


   ………榛名。


   ねぇ、さま………。


   …名前、呼んで。


   ……ひえい、ねぇさま。


   …。


   やっと、そのきになってくれたんですね…。


   ……なんかもう、いいかなぁって。


   ねぇさま…ひえいねぇさまぁ…。


   …良い事、しようか。
   榛名……。









   ……ん。


   …ああ、分かった。


   ひえいねえさま…。


   ……チョコレート、だ。


   んん…。


   お酒入りのが入ってたなんて、なぁ………。


   …ねぇさま。


   ……はぁ。


   ……。


   ああもう…ほんと、可愛い。


   ん……ねぇさま…。


   ……榛名。


   …。


   …寝ちゃって、良いよ。


   ……あの、はるな。


   うん…。


   …どうして、ひえいねえさまのおへやに。


   うん、まぁ…色々、あって。


   ……いろいろ。


   色々、なのかなぁ……。


   ……ぁ。


   …え、と。


   あ、あ、あ……。


   ……でもまぁ、こういう事に、なったんだけ、ど。


   〜〜〜ッ。


   あ、榛名…。


   …お。


   お…?


   ……おもい、だし、ました。


   あ、うん…。


   榛名、チョコを食べて、そしたら、お酒が入って、いて………あぁぁ。


   えと、榛名、苦しいでしょう…?


   …榛名は、大丈夫です。
   ……大丈夫じゃ、ないです。


   どっち…?


   ………。


   ええと、出ておいでよ…ね。


   ……無理です、出られません。


   いや、でも…。


   …今夜は、今夜は。


   うん…。


   ……ごめんなさい、姉さま。
   本当に、ごめんなさい…。


   …謝らないでよ、榛名。
   その…したくないわけじゃ、無いし。


   …。


   …寧ろ、したいし。


   ………。


   ああ、榛名、そんなに潜ったら…。


   …明日は早いと、寝坊は絶対に出来ないと、聞いていたのに。
   それなのに、榛名は……。


   ………。


   ……霧島に、遅刻したなんて、知られたら。


   …まぁ、その時は。
   気合、入れて、謝ります…。


   …榛名も、一緒に、謝ります。


   いや、榛名は良いよ…抑えられなかった私が悪いんだから。


   いいえ、いいえ、榛名も…。


   寧ろ、榛名が謝ったら…その、余計、ね?
   一応、秘密にしてるんです、し……。


   ………うぅぅ。


   …とりあえず、出てきて呉れないかな。


   ……。


   榛名。


   ………は、い。


   …うん。


   ……比叡姉さま。


   …まぁ、なんとかするよ。
   うん、なんとかするから…。


   ……。


   ……やれば、出来るんです、私。


   …でも姉さま、早起きは苦手ですよね。
   だから今夜は早く寝ると…仰っていた、のに……。


   ……まぁ、大丈夫です。
   いざとなったら…。


   …。


   ……榛名が、起こして下さい。
   お願いします……。


   …榛名、全力で、起こします。








  −You're such a baby.





   ……。


   姉さま…?


   ………なに。


   あの…なんだかとても、眠たそうです。


   …うん、ねむたい。
   なんか、きょうは、つかれちゃった…。


   …もう、休みますか。


   うん、そうしようかな…。


   …お布団、敷きますね。


   うん…ありがとう。


   ……。


   …ねぇ、はるな。
   おねがいが、あるんだけど…。


   …榛名で、良ければ。


   はるなにしか、できないこと、なんだけど…。


   …はい、何でしょう。


   だっこしたい…。


   …抱っこ、ですか。


   うん…だっこ。


   ……ええ、と。


   …だめ、かな。


   だめ、では、ないですけれど…。


   ……じゃあ、いい?


   ……。


   ……だめ?


   …いい、です。


   ……。


   ………ええ、と。
   お布団、敷けました…。


   …。


   …姉さま、此方に来られそうですか?


   うん……いく。


   …あ。


   ……。


   姉さま。


   ……ねむい。


   姉さま、榛名に掴まって…きゃ。


   ……。


   ね、姉さま…。


   ……はるなぁ。


   だ、だめです……。


   ……はるなは、やわらかいな。


   あ、あの、あの……。


   ……このまま、で、いいかな。


   だ、だめです、ちゃんとお布団で寝ないと…。


   ……でも、きもちいいし。


   あ、ん……あ。


   …あぁ、やわらかい。


   は、榛名、なんて声を…。


   ねぇ、はるな………はるなのむね、きもちいい。


   ね、姉さま…ッ。


   ………。


   だめ、だめですから。
   ああ、姉さま、寝ないで下さい。
   姉さま、姉さまったら。


   ……やだ。


   そんな、幼子みたいに…。


   ……。


   姉さま、お願いですから、お布団に。
   お布団の中でだったら、好きなだけ…


   ほんと?


   え。


   すきなだけ、いいの?


   ……え、えと。


   いい…?


   は、い……。


   …やった。


   ……うぅ、どうしましょう。


   …よし。
   きあい、いれて、いきます…。


   ……こんな事で気合入れないで下さい。


   へへ……よいしょ、と。


   ……。


   んん……。


   ……大丈夫ですか。


   ん…だいじょうぶ。
   ありがとう、はるな。


   …いえ、そんな。


   ……。


   ……。


   ………ああ、おふとーん。
   いいにおーい……。


   …今日、干したんです。


   はるなのにおいがする…。


   ………そうじゃ、なくて。


   …はーるな。


   …。


   はーるな?


   ……はい。


   ……。


   ……姉さま。


   …すきなだけ、いいんですよね?


   ……はい、どうぞお好きなだけ。


   じゃあ、すきなだけ…。


   ………ん。


   ふふ…ふかふか、だ。


   ……。


   ……あぁ、あんしんする。


   …もぅ。


   ……はるな。


   はい、姉さま…。


   ……だいすき。


   …ッ。


   へへ………。


   ………榛名、今夜は眠れないかも知れません。








  −Desfile(Parade)





   Azar, Suerte, Late, Surge, Sombrío, Lazos, Vida, Pasión....





   …。


   榛名。


   …。


   榛名。


   ……ねえ、さま。


   榛名。


   …はるなは、だいじょうぶです。


   …。


   …あ。


   大丈夫じゃ、ないでしょう。


   はるなは、だいじょうぶです。
   だいじょうぶだから、おろしてください。


   駄目です。
   …向こうなら人があまり居ない筈。


   ひえいねえさま…。


   じっとしていて下さい。


   で、でも


   じっと、していて。


   …ぅ。


   ごめん、榛名。
   でも、お願いだから。


   ………。








   …やっぱり。


   ……だいじょうぶ、です。


   鼻緒ずれ、しているじゃないですか。


   …ちがい、ます。


   擦り向けて、こんなに赤くなってる……痛かったでしょう。


   い、いたくなんて、ありません。
   はるなは、だいじょうぶだから、だから。


   榛名。


   ……ぅ。


   絆創膏があれば良いんだけど…持ってないし。
   でもここまで赤くなってしまっていたら、絆創膏を貼っても痛いだろうし。
   さて、どうしたものか…。


   ……です。


   …いっそ、鼻緒を引きちぎって。
   柔らかい手拭いで……いや、大して変わらないな。
   どっちみち、患部に当たるわけだし…。


   …や、です。


   うん?


   …まだ、かえりたくありません。


   …。


   ね、ねえさまとおまつり、はるな、たのしみにしていたんです…。
   だから、だから…。


   …榛名。


   かえるのは、いやです……。


   …帰りませんよ、未だ。
   私だって、楽しみにしていたのだから。


   は、はるなは。


   …うん?


   もっと、もっと、ひえいねえさまより、もっと、もっと、たのしみにしてたんです……。


   ……。


   たのしみに、してたんです……。


   …ああ、もう。
   仕方の無い子ですね…。


   ……うぅ。


   ほら、泣かないで。
   未だ、帰りませんから。


   でも、でも…。


   今、考えてますから。
   榛名の足に負担を掛けない方法を。


   はるな、あるけます。
   だから、ねえさま…。


   無理をしたら酷くなる一方だから、駄目です。
   草履なんて、そもそも、履き慣れていないのですから。


   ……でも。


   ふむ…金剛お姉さまだったら、どうするかな。


   こんごう、おねえさま…。


   ……ふむ。


   ひえいねえさま……。


   …ん。


   はるなは、ひえいねえさまと、いっしょにいるんです…。


   …。


   ひ、ひえいねえさまは……こんごうおねえさまじゃ、ないです。
   はるなは、ひえいねえさまが、いいんです。
   だから……だから。


   ……うん、手はやっぱり一つだけだな。


   ひえいねえさま。


   榛名の言う通り、私は比叡です。
   だから、こうする事にします。


   …?
   あ…。


   榛名、私の背中に。


   え…え。


   おんぶ、します。
   そうすれば、榛名の足に負担は掛かりません。
   掛からない筈、です。


   そ、そんな…。


   はい、どうぞ。


   で、でも、でも、はるな…。


   未だ帰りたくないのでしょう?
   けど、足は痛いんでしょう?
   だったら、ね。


   ……。


   さぁ、榛名。


   ……ねえ、さま。


   私だって、楽しみにしてたんです。
   その気持ちは榛名に負けてはいないんだから。


   ……。


   さぁ、一緒にもっと遊ぼう。


   …。


   榛名。


   ……。


   …ん、しっかりと掴まって。


   ………ねえさま。


   立ちますよ。


   ……。


   よ、と。


   …。


   …大丈夫ですか、榛名。


   ………ねえさまは、だいじょうぶですか。
   はるな、おもたくはありませんか…。


   私は大丈夫です。
   榛名は重くない、寧ろ、軽いくらいです。


   ……。


   じゃあ、行きましょうか。
   然うだ、未だ蜜柑飴買ってませんでしたね。


   …はい。


   ふふ、榛名は蜜柑飴が好きですよね。
   杏子飴より。


   ……はるな、すっぱいのはにがてです。


   私も酸っぱいのは苦手だから、同じですね。


   ……はい、ねえさまといっしょです。


   ふふ。


   …ねえさま。


   うん、何ですか。
   榛名。


   ……。


   榛名?


   ……はるな、ひえいねえさまが、だいすきです。


   …。


   ………だいすき。


   …私も。


   …。


   榛名の事が、大好きですよ…。







   ...Esto nunca tendrá un final.








   …。


   榛名。


   …。


   榛名。


   …はい、姉さま。


   足は大丈夫ですか。


   …はい、大丈夫です。


   痛くはありませんか。


   …はい、痛くないです。


   うん…良かった。


   比叡姉さまの、おかげです…。


   …私の?


   草履、榛名の足に合わせたものを作って下さったから…。


   靴も然うですけど。
   草履もやっぱり、足に合うものが良いと聞いたんです。
   昔の人は然うしていたから、痛くなるなんて事、無かったらしいですよ。


   …でも普段、履かないのに。
   榛名にはやっぱり、勿体無いです…。


   …気に入りませんでしたか。


   え。


   ……。


   あ、いえ、その……とても、とても、気に入っています。
   比叡姉さまが榛名の為に作って下さったから…だから。


   …気に入って呉れていますか?


   はい…とても。
   榛名の宝物がまた一つ、増えました…。


   ……。


   姉さま…。


   …もっと、増やしてあげたいな。


   え…。


   いえ、何でもありません。
   しかし、久しぶりに来ましたけど、此処は変わりませんねぇ。


   …はい、然うですね。


   あ。


   …何でしょうか?


   あの二人、姉妹かな。


   …ああ、然うかも知れませんね。


   年の頃…あの頃の私達と同じくらいかも知れません。


   ……屹度。


   なんか、懐かしいな…。


   …姉さま、覚えていらっしゃいますか。


   うん?


   …榛名が鼻緒ずれを起こして、動けなくなってしまった時の事を。


   勿論…覚えていますよ。


   ……。


   …帰りたくないと、言って。


   ……だって、帰りたくなかったんです。
   どうしても…姉さまと二人で、居たくて。


   ……。


   ん、姉さま…。


   …言ったでしょう?
   私も、然うだと。


   ……。


   ん…?


   …言われてないような気がします。


   えぇ、ちゃんと言いましたよ。
   その気持ちは榛名には負けてないって。


   ……。


   思い出しました…?


   …あれは、然ういう意味だったのですか。


   はい、そのつもりでした。


   ……。


   榛名。


   ……顔が、熱いです。


   見せて下さい。


   …いや、です。


   見たいんだけどな…。


   …それ、より。
   縁日、回りましょう…折角、久しぶりに来たのですから。


   じゃあ、後で見せて下さい。


   …。


   ね。


   ……もう。


   ふふ。


   …姉さまも浴衣、着れば良かったのに。
   子供の頃から、着て呉れなくて…。


   一応、甚平を着てますけど。


   榛名は浴衣姿が、見たかったんです…。


   …ふむ。


   ……。


   浴衣、着る事も考えたんですけどね。


   …だったら。


   甚平の方が、動きやすいですから。


   ……。


   榛名に何かあった時に。
   だから、これで良いんです。


   ……榛名はもう、大丈夫です。
   比叡姉さまが下さった草履を履いているから…鼻緒ずれだって。


   そんなの、分からないでしょう?
   それに鼻緒ずれ以外に、何か起こるかも知れません。


   …何かって、何ですか。


   何かは、何かですよ。


   ……起こらないかも知れないじゃないですか。


   それはそれで。
   寧ろ、その方が良いじゃないですか。


   ……。


   そんなに見たいものですか、私の浴衣姿。


   …見たいです。


   …。


   見たいです、姉さま。


   んー……じゃあ、来年に。


   …来年。


   また、此処に来られたら。
   その時に、


   約束、ですよ。


   …お。


   約束、です。
   破ったら……榛名が、許しません。


   …はい、分かりました。
   約束、します。


   ……。


   …ねぇ、榛名。


   はい…。


   …あの頃の榛名は、とても、可愛らしかったけれど。
   今は、とても、綺麗です。


   ……。


   本当に…綺麗です。


   …榛名、大人になりましたか。


   うん…なりました。


   …。


   なりましたよ…榛名。


   ……だったら、もう。


   ん…。


   ……姉さまのお嫁さんに、なれますか。


   ……。


   …未だ、駄目ですか。


   榛名。


   ……あ。


   …私の事、大好きですか?


   ……。


   ……。


   ……はい、大好きです。


   …。


   大好きです…姉さま。


   …うん。


   榛名の気持ちは、私の気持ちは……あの頃から、変わっていません。
   いえ…本当は少し、変わったのかも知れません。


   …どんな風に、ですか。


   姉さまの事が大好きで、一緒に居たくて………。


   ……。


   ……誰よりも、愛するように、なりました。


   …。


   ………姉さまは、榛名の、こと。


   …大好きですよ。


   その、気持ちは……。


   ……。


   ……榛名の、と。


   お嫁さんに、なりますか?


   …あ。


   ……私のお嫁さんに、なって呉れますか。


   ……。


   なって呉れるのなら…これ程しあわせな事は、ありませんが。


   ……なります。


   …。


   なります…なります、から。
   榛名を、お嫁さんに……ん。


   …。


   ……ねえ、さま。


   なって下さい、榛名。


   …!


   ……榛名、ずっと私の隣に。


   …榛名で、良ければ。
   榛名で、良いのなら……。


   …。


   比叡姉さま……。


   …本当、は。


   え…。


   ……帰ってから、言おうと思っていたんですが。


   …帰って、から。


   まぁ、良いか。


   ……。


   …顔、熱い?


   ………は、い。


   後で、見せて下さいね。
   と言うより、見せて貰いますから。


   ……。


   …お布団の中で。


   …ッ。
   ね、姉さま…ッ。


   はは。


   も、もぅ……。


   …本気、ですよ?


   ………。


   …。


   ……姉さま。


   何ですか…榛名。


   ……大好きです。


   …。


   ……大好き。


   …私も。


   ……。


   榛名の事が、大好きです。








  −RENA





   ……。


   …。


   ……はぁ。


   …姉さま。


   ん…。


   …熱い紅茶を淹れて参りました。
   少しでも、躰が温まれば…。


   ああ…有難う、榛名。


   …。


   …。


   …寒いですね。


   うん…冬、だからね。


   …。


   ん…?


   …頬が冷たくなっています。


   ……空気、冷たいから。


   …。


   …榛名の手は、温かいね。


   ……姉さま。


   ……。


   …星、綺麗ですね。


   冬は。


   …。


   …良く、見えて。
   寒いのは苦手だけれど……嫌いじゃ、ないんだ。


   …はい。


   ……榛名は射手座だったね。


   姉さまは…蠍座、でしたね。


   然う、蠍座の女ってヤツ。
   思い込んだら命懸けってね。


   …ふふ。


   もう少し生まれるのが遅ければ、榛名と同じ射手座だったんだけどなぁ…。


   …姉さまは難産だったそうですね。


   うん…らしいね。
   二人目、なのにね…。


   …。


   まぁ、出産に何人目とか、関係無いんだろうけど…。


   …。


   …でも、そのせいで母さんは体調を崩してしまって。
   生来、躰が丈夫な方では無かったらしいけど…。


   ……。


   ん…榛名?


   ……姉さまが無事に生まれてきて呉れて。
   無事に、生まれてきて下さったから……。


   ……若しも、生まれていなかったら。
   榛名とこうして、星を見る事も出来なかったな…。


   …。


   …母さんに感謝しないといけないね。
   後で一緒に手を合わせようか…。


   …はい、姉さま。


   ……。


   ……。


   …面白いよね。


   え…。


   …射手座も蠍座も夏の星座とされているのに。
   榛名は12月生まれ、私は11月生まれ、で。


   …どうしてそうなったのでしょうか。


   …。


   …。


   …少しだけ長くなるけど、良いかな。


   はい…姉さまのお話、榛名、聞きたいです。


   ん…分かった。
   じゃあ…。


   …。


   先ず、星占いに使われる12個の星座は黄道12星座と呼ばれている。
   黄道は黄色い道と書く。


   黄道12星座…ですか。


   太陽は常に決まった通り道を経て一年で天球を一巡りする、この太陽の通り道を黄道と言うんだけど。
   その太陽の通り道の上にある星座を黄道12星座って言うんだ。
   どうやら目印みたいなものだったらしい。


   目印…。


   古代の天文学者は、天文現象や天体の動きを観測して、そこから国の将来や進むべき道を占った。
   それがいつしか、個人を占うものになっていったらしい。


   それが今で言う星占いの事なのでしょうか?


   うん。
   で、一般に「○○座生まれ」と呼ばれる星占いの星座は、基本的に、その人が生まれた時に太陽が位置していた星座を意味する。
   けど、さっきも言った通り、射手座も蠍座も今では夏の星座で私達の誕生日とはずれているよね。


   はい。


   これは黄道12星座の大きさは星座によってまちまちだったから。


   だから、なのですか?


   いや。


   …え?


   そこで、太陽が一ヶ月ごとに一つの星座を移動するよう、春分点を頭として黄道を12等分してそれを12宮としたんだけど。


   えと、12宮…?


   だから…榛名は射手座生まれだけれど、本来は人馬宮生まれなんだ。


   じんばきゅう…ですか。


   黄道12星座では射手座、12宮では人馬宮と言うんだ。
   因みに私は天蠍宮生まれ。
   天に蠍って書くんだよ。
   「さそり」と言う字は二種類あって…。


   てんかつきゅう…。


   そしてややこしい事に、黄道12宮星座と12宮は違うものなんだ。
   黄道12星座は元から夜空にあるものだけれど、12宮は人間が作ったものだから。


   …。


   で、長い年月の間に、黄道12星座と12宮に大きな違いが生じてきた。
   12宮は春分点から黄道を等分して作ったものだけど、地球の歳差運動の為に春分点の位置は12宮を決めた当時から次第にずれてきたんだ。
   その差は現在では星座およそ一つ分、それはつまり「○○座生まれ」の人の誕生日に太陽は実際にはその隣の星座にいる事の方が多い。


   …。


   簡単に言えば、12宮を決めた時の星空と、今の星空は異なっていると言う事。
   つまり、今はもう黄道12星座と12宮は重なっていなくて…?


   …。


   …榛名、大丈夫?


   え。


   えと…ごめんね、もう少し上手に説明出来れば良いんだけど。
   私、説明が下手で…。


   あ、いえ、榛名は大丈夫です…。


   ほ、本当に?


   ええ、と。
   つまり、星占いで使われている黄道12星座と12宮は違うもので、12宮が決められた当時の空と今の空は異なっている。
   だから、ずれが生じている…と言う事ですよね?


   …。


   ……違い、ましたか。


   榛名の方がずっと端的で、分かり易い……。


   そ、そんな事は…。


   …。


   ね、姉さま…。


   …まぁ、そんなわけなんだ。


   有難う御座います…姉さま。


   夏の星座と言っても、春にも秋にも見えるし…冬は見辛いけど。


   …。


   …ああ、もう少し説明するの上手になりたい。


   は、榛名は…!


   …。


   姉さまのお話を聞くの、幼い事から…大好き、ですから。


   …分かり辛くても?


   少し難しい時もありますけれど…でも、一生懸命にお話して下さるから。


   …。


   だから、榛名は…そんな姉さまが、大好きです。


   ……。


   ………。


   …ええ、と。
   有難う、榛名。


   ……榛名には、勿体無いです。


   …。


   …。


   …紅茶、少し甘めで美味しい。
   躰があったまる…。


   …良かったです。


   ねぇ、榛名。
   話は、変わるんだけど。


   …はい、姉さま。


   射手座であるケンタウルスが番える矢の先に居るの、何だか知ってる?


   …矢の先に、ですか?


   うん…矢の先に何が居るのか、何を狙って弓を引き絞っているのか。


   …。


   …射手座の隣に居るのは、何座?


   ……まさか。


   然う。
   蠍座、スコルピウスの心臓であるアンタレスに向けられているんだよ。


   …そんな、どうして。


   ゼウスの命令で蠍が天で暴れた時に直ぐ射殺出来るように。


   …ッ。


   …。


   そんなの、酷いです…蠍は、蠍は、暴れたりなんか、しないのに。
   それなのに…。


   …まぁ、毒を持っているから。
   警戒すべき生物には違いないんだよ。


   ……だからって。


   …。


   ……。


   …榛名。


   ……榛名は、そんな事、しません。


   …。


   姉さまが生まれてきて呉れて、一緒に生きていて呉れて……榛名は、榛名は。


   …いや、榛名は確かに私の心臓を射抜いたよ。


   え……。


   …痛かったなぁ。


   そ、そんな……。


   …。


   ご、ごめんなさい、姉さま…ごめんなさい………ごめんなさい…。


   ……恋の痛みの事だよ、榛名。


   え……え?


   …まぁ、なんて言うか。
   心臓と言うより、心、なんだけれどね……。


   …!


   ……榛名の事、こんなに好きになっちゃうなんて。
   子供の頃は、思わなかった…。


   ……。


   …いや、好きだったけどね。
   もっと、こんな風に、好きになるなんてさ…。


   ……だったら、榛名は。


   ん…?


   ……姉さまの毒に、中りました。


   え、毒…?


   ……然うです。


   え、えと……つまり?


   …私は小さい頃から、姉さまだけが、好きでしたから。


   ……。


   …姉さまが居ないなんて、考えられないくらいに。
   姉さまだけが、榛名の全てになってしまうくらいに……。


   ……あぁ。


   …。


   ……榛名。


   …はい。


   何と言うか…お互い様、かなぁ。


   ……いいえ、姉さまの毒の方が強いです。


   えぇ…。


   ……榛名は、姉さまが居ないともう、生きていけないのですから。


   ……。


   ………だから。


   …いや、だったらやっぱり、お互い様だよ。


   …。


   ……私も、然うだもの。


   姉さま……。


   …今更だけど、寒くない?


   ……榛名は、大丈夫です。
   姉さまが隣に居て下さるから…。


   然うだ。
   榛名、私の足の間に座りなよ。


   …。


   …後ろから抱っこしたら、ふたりとも屹度、温かいから。
   だから…おいで、榛名。


   ……は、い。


   ……。


   ………姉さま。


   ……榛名。


   …温かいです。


   うん……私も。


   ……昔の人も、こうやって、見ていたんでしょうか。


   …屹度。


   ……。


   ……星の、海。


   …。


   ……行けるなら、榛名と一緒に行ってみたい。


   …姉さまと一緒なら。


   …。


   ……榛名は何処へでも、行けるから。