君と夏の終わり、将来の夢、大きな希望、忘れない。















  F e r m a t a















   二人だけの秘密基地、みたいだね。

   なんて。

   二人で暮らし始めた時に、あいつは、真面目な顔でのたまったんだ。








   さやかは可愛いよな。


   …は?


   さやかは、可愛い。


   あ、あはは。


   なに、笑ってんだ?
   あたし、何かおかしいこと言ったか?


   い、いまさら、君はさやかちゃんのかわいさに気づいたっていうのかね。


   でも、ばかだよな。


   な、なんだとぅ。


   まぁ、そういうとこも可愛いけどな。


   …。


   …何しろ、秘密基地だもんな。


   は…?


   さやか曰く、この部屋の事。


   そ、それは


   だから、前から気づいてたよ。


   …と言うか、それもう忘れて。


   いやだね。


   忘れろー。


   やーだ。


   忘れろー、忘れてしまえー。


   そんなんで、忘れられるかよ。


   忘れろっつってんの!


   やだって、言ってるの。


   あ…。


   …ばかな子ほど、可愛いって。
   良く言ったもんだよなぁ、昔の人は。


   …ばかは余計。


   じゃあ、さやかは可愛い。


   …今までそんなこと、言ってくれたこと、なかったくせに。


   だから。
   今、言ったんだ。
   思い出したから。


   …秘密基地?


   そう、秘密基地。


   …ちくしょうめ。


   はは、可愛いな。


   だ、大体、杏子だって!


   逆切れしたさやかも可愛いな。


   だ、だから…!


   だから、なんだ…?


   …あ、う。


   さやか。


   あうあうあう……。


   ……。


   …ま、真顔で言うなーーー!!


   …。


   と言うか、離れ


   …さやか。


   あ…。


   さやか…。


   ………。


   …さやか?
   なんだか熱いぞ?熱でもあるのか?


   …わざと、言って。


   おい、さやか。


   …あ、あんたの、


   おい、顔、真っ赤だぞ。
   大丈夫か。


   せい、でしょうがーー!!


   あ?


   あ、あんたが、真顔で言うから!


   そうか、あたしのせいか。
   だったら。


   …え。
   え…?


   ベッドに連れて行ってやる。


   ベ…。


   な?


   い、いい、いいから…!


   熱、上がったら大変だからな。


   よ、余計、上がるっつの…!


   暴れたら危ないぞ。


   おろして、おろせー!


   だめだ。


   ね、熱があるわけじゃないから!


   でも、熱い。
   顔も真っ赤だ。


   だ、だから…あぁ、もう!!


   お…。


   ……。


   さやか?


   …あんたも、一緒に寝て。


   さやかがそうして欲しいと言うのなら、幾らでも。


   ……。


   ん?


   …熱、あるんだって言うなら。
   あんたが、なんとかして。


   …。


   …責任、とってよ。


   責任なんか、幾らでもとってやるさ。


   …。


   そう、幾らでも。


   …きょう、こ。


   で…どう、とればいいんだ?


   …ッ!


   さやか?
   なぁ、さやか?


   ……言わせるな、ばか!








   さやか。


   …。


   さやか。


   …ぅー。


   起きなくていいのか?


   …ねむ、い。


   あたしはいいけど。
   さやかはいいのか?


   ……ねかせて。


   ん、分かった。


   …なに。


   うん?


   …こえ、なんか、うれしそうなんだけど。


   …。


   …きょーこ。


   なんだ?


   …みず。


   水でいいのかい?


   ……あまく、ないの。


   じゃあ、水だな。


   …むぎちゃが、いい。


   さやかは我侭だな。


   …あんたにだけは、いわれたくない。


   ……。


   うー…ねむ、い…。


   なぁ、さやか。


   ……。


   本当にいいのか?


   ……なんでも、いい。


   んー…。


   ……。


   ほれ、麦茶。
   飲めるかい?


   …。


   さやか?


   …のませて。


   おう。


   ……ふ。


   ……。


   ん……ん……ん……。


   …まだ、欲しいか?


   ん…。


   ん…分かった。


   ……ん…ん。


   ……。


   ……。


   ……もう、いいか?


   …ん。


   ……。


   ……。


   …まどか、と。


   ……?


   約束、してたんじゃないのか?
   映画、観に行くって。


   ………。


   夕方からの回しか、やってねーって。
   言ってたよな、確か。


   ……あ!


   思い出したか?


   い、今何時…?!


   5時、過ぎた。


   …やっば!


   間に合いそうか?


   い、今から着替えて…あ、でも、シャワー…あぁ!


   ……。


   …まどかぁ、ごめんよぉ。


   さやか、ほれ、携帯。


   ……ごめんよぉ、まどかぁ。


   ……。


   なに、笑ってんのよ。
   こうなったのも、全部、あんたが悪いんじゃない。


   さやかに誘われたら、抗えない。


   さ、誘ってなんか…!


   …本当、に?


   う……。


   …さやかは、可愛いからな。


   …ッ!
   き、着替える…!


   間に合わないんだろ?


   ごはん、食べてくるの!


   ごはん…。


   映画はダメだったけど、ごはんなら時間、関係ないでしょ。


   そうだな。


   ああ、やっぱり昼からの約束にしておけば…そうすれば、こんなこと。


   さやか。


   …なに。


   帰りは?
   何時ごろになる?


   …。


   ん?


   …あんたも一緒に来ればいいじゃん。


   あたしも?
   あたしはいいよ。


   そうすればごはん、作らないでいいでしょ。


   テキトーに作って、食うよ。
   まどかとのデート、邪魔したら野暮だ。


   …なにそれ。


   さやか、携帯鳴ってるぞ。


   …あ!


   まどかからか?


   …ねぇ、杏子。


   なんだ、さやか。


   …そんなに遅くならないから。


   おう、分かった。


   ……。








   おいしいね、さやかちゃん。


   …うん。


   …。


   …ごめんね、まどか。
   映画、楽しみにしてたのに…おまけに盛大に遅刻、して。


   さやかちゃん。


   うん?


   ごはん、おいしいよ?


   …。


   映画はまた、ね?
   今はおいしいごはん、二人で食べよう?


   まどかぁ…。


   えへへ。


   ああ、やっぱりまどかはあたしの嫁だぁ。
   かわいいよぅ。


   だめだよ、さやかちゃん。
   今はごはん中。


   はぁい。


   ふふ。


   …うん!
   これ、おいしい!


   ね。


   まどかと二人で食べてるから、二倍、ううん三倍、うまい!


   杏子ちゃんとも、でしょ?


   …え?


   杏子ちゃんも来ればよかったのに。


   …あいつは、来ないよ。


   …。


   どんなに言っても、あいつは来ない。
   なぁに、遠慮しちゃってんだかねー。
   友達なのに。


   …ほむらちゃんも、かなぁ。


   ほむら?


   映画も一緒にって言ったんだけど。
   行かないって。


   …。


   …杏子ちゃんは?


   興味ないって、言われた。


   …。


   恋愛ものなんざ、始まった途端寝るからって。
   確かにあいつがそんなの、一生懸命観てるのなんて、想像できない。


   杏子ちゃんらしいね。


   でしょ。


   …なんでかなぁ。


   …。


   …。


   て、まどか!


   わ。


   さやかちゃんと二人きりデートじゃ、不満だってかぁ!


   ううん、不満じゃない。


   だったら、いいじゃない。
   たまには二人で楽しも。


   うん。


   じゃあまどかの、ちょっとちょうだい。


   いいよ。
   さやかちゃんのもくれる?


   えー、どうしよっかなぁ。


   じゃあ、わたしもあげない。


   えー。


   じゃあ、くれる?


   しょーがないなぁ。


   ふふ。








   あー、おいしかったぁ。


   …。


   まどか?
   どうかした?


   …ううん。


   うそつけぇ。
   ほらほら、さやかちゃんに話してみなさい?


   え、とね。


   うんうん。


   ほむらちゃん、ちゃんとごはん食べてるかなって。
   ちょっと思っただけだから。


   …。


   ごめんね、さやかちゃん。


   …ううん、あたしもまどかのこと、言えない。


   …。


   あいつさ、一人でごはん食べるの、ほんとは…だめなんだ。


   …。


   味、しないって…今は、そうでもなくなってきたみたいなんだけど、それでも。


   …さやかちゃん。


   なに、食べたかな…杏子。


   …。


   またカップ麺、食べてたら承知しないんだから。
   たまには料理しろっての。人には文句ばっか言うくせにさ。


   ……。


   まどか、ちょっとケーキ屋さん寄ってかない?


   ケーキ買うの?


   あ、さっき食べたのにって顔したな。


   してないよ。


   いーや、したね。


   してないよぅ。


   …。


   …。


   …りんごの、さ。
   あいつ、好きなんだ。


   …。


   ほんとは、手作りしたいんだけど。
   マミさんにレシピ教えてもらったんだけど、うまく、出来なくて。


   …作ったこと、あるんだ。


   失敗しちゃったけどね。


   でも、杏子ちゃんは食べてくれた。
   でしょ?


   …おいしいって、言ってさ。
   あんな失敗しちゃったの……ばかだよね。


   そんなこと、ない。


   …。


   …杏子ちゃん、さやかちゃんのことがダイスキだから。


   や、やだなぁ。
   恥ずかしいじゃないよぅ。


   ふふ、さやかちゃんかわいい。


   も、もう、さやかちゃんをあんまりからかうなー。


   …私も、買おうかな。


   え?


   ケーキ。
   ほむらちゃんと、食べるの。


   …そういや、ほむらはどんなケーキが好きなの?


   えと、ほむらちゃんはね…。








   …あれ。電気、ついてない。

   どっか、出かけたのかな…。

   …せっかく、杏子の好きなケーキ買ってきたのに。

   …あいつ、目離すと、すぐどっかに行っちゃって。

   ケーキ、一緒に食べようと思ったのに…。

   ……どこ行っちゃったのよ、ばか杏子。








   さやか、早かったんだな。


   …。


   楽しかったかい?


   …ごはん。


   うん?


   ごはん、どうしたの。


   ああ。
   テキトーに食った。


   …テキトーって?


   カップ麺じゃないぞ。


   だから、何って聞いてるの!


   さやか?


   …どこ、行ってたの。


   マミんち。


   …え。


   飯、どうするかなぁって考えてたら。
   マミから電話きた。


   …。


   ほむらも来たぞ。


   …そう、なんだ。
   で、ケーキも食べちゃったり、した…?


   おう。
   マミのケーキはうまいよな。
   そうだ、これ、さやかの分だって。


   …もしかして、りんごの?


   うん。
   でも、どうして分かったんだ?


   …そう。


   さやかはどうだった?
   楽しかったかい?


   …。


   帰り、早かったな?


   …これ。


   うん?


   あんたと、食べようと思って…。


   …これ、ケーキか?


   でももう、いらないでしょ。


   いや、食うぞ。


   マミさんの、食べてきたんでしょ!?
   だったら、いらないじゃない!


   さやか。


   …あ。


   ……。


   …これ、一人で食べるから。


   二人で食べよう。


   …。


   その為に、買ってきたんだろ?


   …あんたが、一緒だったら。


   …。


   こんなこと、しないでもいいのに…考えなくても、いいのに。


   ……。


   …離れてると、いつも、あんたのことばかり。
   どうしてくれるのよ…。


   …さやか。


   どうして、くれるのよぉ…。


   …心配するなよ、さやか。


   ……。


   言ったろ?
   責任なら幾らでもとってやるって。


   …!


   迎えに行こうと思ってた。
   でも、さやかの方が早かったな。


   …杏子。


   なぁ、さやか。


   …なによ。


   マミのケーキは、すごくうまいけど。


   …知ってる。


   その店のケーキも、うまいけど。


   …知ってるわよ。


   でも、あたしはさやかの


   言わなくて、いいから。


   …。


   もっと、うまくなってから、言ってもらうから。
   だから今は、言わないで。


   …ん、分かった。
   じゃあ、言わない。


   ……。


   おかえり、さやか。


   …ただいま、杏子。


   ケーキ、食うか。


   その前に。


   うん?


   おかえり、杏子。


   …ああ。
   ただいま、さや








   …く。


   さやか、あんまり前に出るな!
   下がってろ!


   あたしだってやれるわよ!


   邪魔だって言ってんだ!
   分からねぇのか!!


   杏子!


   いいから、お前は下がれ!


   …。


   さやか!!


   …あたし、だって!


   …!
   さやか…!


   うおぉぉぉぉ…!!


   …こん、の、


   ……あ。


   ばかやろうがぁぁあぁ!!


   ……。


   く、うぅぅ…。


   …きょう、こ。


   下がれって言ってんだよ!
   殺されてぇのか!!


   で、でも…。


   うるせぇ!
   早く下がれ、ボンクラ!!


   ボンクラって…!


   …う、ぉあぁぁぁあああ!!!!


   …っ。


   はぁ…はぁ…。


   ……。


   …いいか、さやか。
   お前は、そこで、後方支援だ。
   分かったな。


   …。


   分かったな…ッ!


   …分からないわよ!!


   ああ?!


   あたしだって、戦える!
   戦えるの!


   この分からず屋が…!!


   うるさい!


   …んだと。


   あたしだって、杏子を守りたいの…!


   …ッ。


   …あんたばかり、前で戦わせない。
   あたしだって、あたしだって…!


   いいか、さやか。
   よく、聞け。


   …。


   お前はまだ、未熟だ。
   それは、分かるな。


   ……。



   だけど、お前の回復はあたしなんかよりも、ずっとすごい。
   だから、あたしの後ろにいて欲しいんだよ。


   でも、それじゃ


   お前が後にいるから、あたしは前で戦えるんだ!!


   …!
   杏子…!


   うおおぉぉぉっぉぉ…!!


   杏、子…。


   お前が後ろにいるから!
   お前が守ってくれてるから!!


   でも…でも…。


   お前しか、いないんだよ!
   あたしの、後ろはぁぁぁ…!!


   ……。


   …ぐ。


   杏子!


   はぁ…はぁ…あの野郎、手ぇ、かけさせやがって。


   ……。


   …さやか。


   ……。


   あたしの背中、守ってくれ。
   頼むよ。


   …。


   次だ。
   次で、終わらす。


   …。


   終わったら、うちに帰ってケーキ食おうぜ。
   お前が買ってきたのと、マミの。


   …こんな時、まで。


   とんだ邪魔者が入ったもんだけど。
   いい運動には、なっただろ。


   …本当、おなかすいちゃった。


   だろ?


   さっさと帰りたい。


   同感だ。


   だから、杏子。


   おう!


   行けぇぇぇ…!!!


   おおぉぉっぉぉぉ…!!!!








   ……。


   あー、終わった終わった。
   ほれ、さやか。


   …。


   グリーフシード。
   お前の分。


   …杏子ってさ。


   うん、なんだ?


   …戦いになると、出逢った頃に戻るよね。


   戻る?


   ボンクラって、言うし。


   ああ。


   …。


   怒ってる、か?


   …あたし、いつになったら杏子にボンクラって言われなくなるのかなぁ。


   ……。


   追いつけなくても、せめて、もう少し強くなりたい。


   さやか。


   …わ。


   昔のあたしも、さ。


   …うん。


   お前みたいなもんだったから。
   だから、気にすんなよ。


   …。


   生きてさえすれば、力なんか、後からついてくるさ。


   …それまで、ボンクラ?


   だな。


   うー、それはやだー。


   はは。


   笑うな、ばか杏子。


   ほら、さっさと浄化しちゃえよ。
   ばかさやか。


   ばかって言うな。


   お前が言ったんだろ。


   あたしはいいの。
   あんたはだめ。


   ばーかばーか。


   だから…ん。


   ……。


   ……。


   …腹、へったから。
   早く帰ろう、さやか。


   …杏子って、ずるい。


   浄化、早くしちまえ。


   言われなくても。
   誰かのせいで魔力、使いすぎちゃったから。


   ……。


   な、何よ。


   さやかは、すぐ怒る。


   は?


   さやかは、よく笑う。


   何言ってんの、あんた。


   さやかは、すぐ、泣く。


   す、すぐには泣かないわよ!


   さやかは、すぐ、拗ねる。
   し、我侭。


   …何が、言いたいの。


   さやかは、ころころ、表情が変わる。
   見てて、飽きない。


   …だから?


   だから、さやかは可愛い。


   …はい?


   ……。


   ちょ、ちょっと、黙らないでよ。


   帰ろう、さやか。


   か、帰るけど…あ。


   帰ろう。
   腹、へった。


   ……。


   さやか、なんか作ってくれよ。
   ケーキより、さやかの飯がいい。


   …ケーキ、どうすんのよ。


   それも食う。


   どんだけ食べるのよ。


   さやかも食うぞ。


   あたしはそんなに食べ


   最後にさやかを食う。


   ……は?


   昼のだけじゃ、足らない。


   …!
   ば、ばか…!


   いてぇ。


   な、何を言うかと思えば…!


   …いてーなー。


   今日はもうしない、しないんだから…!


   ……。


   だ、大体、昼のだって…そのせいで、まどかと映画観られなかったし…ごはんは、食べたけど。


   ……。


   そ、そりゃあ、あたしも…でも、誘ったわけじゃ…。


   …。


   だ、だって、いきなり、あんたが真顔で可愛いとか言ってくるから…だから、


   さやか。


   …う。


   素直じゃないよなー、さやかは。


   う、うるさい!


   …。


   あ、ああもう…。


   やっぱり可愛いな、さやかは。


   …っ。


   ほら帰ろう、さやか。
   あたしたちのうちに。


   …ごはんは、作らないから。


   えー。


   えー、じゃない!
   ばか杏子!!








   ……。


   …ねぇ。


   ……。


   ねぇ、きょうこ…。


   ……ん。


   ねぇ、杏子ってば…。


   ……。


   ……。


   …いッ。


   ……。


   …さやか、いてぇんだけど。


   最っ低。


   …あぁ?


   やるだけやって、自分はさっさと寝ちゃうなんて。
   最悪最低。


   だからって、思い切り抓んなくたっていいだろ。


   あたしはしないって、言ったの。


   …。


   それなのに杏子は。
   挙句、自分だけ満足しちゃってさ。
   本当、最低。


   …ああ、悪かった。
   悪かったよ。


   本当にそう思ってるの。


   思ってるよ。


   最低なんだからね。


   分かったって。
   大体、いつもは寝ないだろ。


   …。


   …自分は昼寝、したからな。


   なに。


   なんでもねーよ。


   大体、誰のせいで。


   あたしのせいってんだろ。
   で、なんだよ。


   ふぅん…分かってないんだ。


   あ、こら、やめろ。


   …。


   さやか。


   …。


   先に寝たのは悪かったよ。


   …。


   さやか。


   …ねぇ、杏子。


   なんだい、さやか。


   杏子。


   うん。


   きょーうこ。


   …だから、なに。


   …。


   さやか。


   …。


   …さやか。


   今度。


   …?
   今度?


   あんたも一緒に行こう。


   どこに。


   まどかと、ごはん。


   あたしはいいよ。


   だめ。
   行くの。


   いいって。
   二人で食べてこいよ。


   五人で、食べるの。


   五人?


   マミさんと、ほむらも。


   マミ、は、いいとして。
   ほむらは来ないだろ。


   だから、あんたが来るの。


   意味が分からないぞ。


   いいの。
   とにかく、来れば。


   …あたしはいいよ。


   …。


   あたしは…さやかと二人でいる方が、いてぇ!


   ばか杏子。


   …あのな、お前。
   結構、痛いんだぞ。


   あたしのこと…かわいいって言うなら、思ってるなら。
   あたしのいうコト、少しは聞きなさいよ。


   はぁ?


   …聞いてよ。


   それとこれとは話が違うだろ。


   違わない。


   違う。


   違わないの。


   …。


   あたしが来てって言ってるの。


   …。


   来て、欲しいの。


   …さやかは。


   …。


   まどかとは親友だろ。
   だから、たまには二人で遊べばいい。


   まどかと二人で遊ぶのは楽しいわよ。


   だったら、


   でも。


   …でも、なんだよ。


   あんたのこと、考えちゃうのよ。
   そう、今日だって。


   …。


   …まどかといる時は楽しい。
   色んなこと、話せるし…あんたのことだって。


   …。


   おかしいって、分かってる。
   分かってるけど…想うことは、止められない。


   …。


   あ、あたしがこんな風になっちゃったのは、あんたのせいなんだから。
   だからあたしの言うコト、聞いて。


   …さやかは滅茶苦茶だな。


   そ、そのあたしを好きになったのは


   あたし、だ。


   ……。


   …一人で、いる時。
   さやかのこと、考えてるよ。


   …杏子。


   まどかと何食ってんだろ、とか、楽しくしてんのかな、とか。
   今日だったらそんなこと、考えてた。


   ……。


   しょーがねぇな。


   …ん。


   まどかがいいって言うなら、行ってやる。


   …言わないわけ、ない。


   そうか…?


   …あんただって、まどかの友達なんだから。
   まどかだって、あんたと話したいに決まってる。


   …。


   前みたいにまた、みんなでごはん、食べよ…?


   …おう。


   じゃ、映画もね。


   は?


   え、い、が。


   ちょっと待て。
   なんでそうなるんだよ。


   遊園地でもいい。


   はぁ?


   いつがいいかな。


   おい、さやか。


   ……。


   お……。


   …最初は二人で行くの。


   どこに。


   だから、遊園地!


   ……。


   杏子、全然、連れて行ってくれないんだもん。


   連れてけって言われたこと、ねーぞ。
   行きたいなら、


   言われなくても連れて行くの!
   全っ然、分かってないんだから!


   そんなの、分からねーよ。


   今言ったから、もう分かったでしょ。


   …。


   …分かったって、言って。


   ああ…分かった、分かったよ。


   …心から。


   めんどくせー…。


   …。


   …はい、分かりました。
   今度、行こう。


   …。


   さやか。


   …えへへ。


   ……。


   約束。


   …ああ、約束。


   楽しみにしてるから。


   ああ、しててくれ。


   ……。


   ……。


   …きょうこ。


   なんだ…。


   …あたしのこと、好き?


   …。


   ね…。


   …好きだよ。
   大好き、だ。


   ……あたしも杏子が好き、大好き。


   ……。


   えへへ…。


   …なぁ、さやか。


   …?
   あ…。


   …目、完全に覚めた。


   きょ、杏子…。


   …かわいい。


   ま、待って、今日は…んん。


   ……。


   …きょう、こ。


   かわいいな…。


   ……も、う。








   ……。


   …。


   …さやか。


   …。


   さやか。


   …。


   …なぁ、いつまでそうしてるつもりなんだよ。


   …。


   なぁ、さやか。


   …あたしの気が済むまで。


   う…。


   …あんたは、気が済んだかもしれないけど。
   散々、好きにしてくれたから…。


   ……。


   だから、次はあたしの番…。


   …と言うか、くすぐったいんだけど。


   寝かせない。


   …。


   …寝かせない、の。


   ……寝かせない、ね。


   かまって。


   …じゃあ。


   それはもう、だめ。


   …む。


   それ以外。


   …そんなこと言われても、な。


   ……。


   …ぅ。


   耳…さんざ、噛まれた。


   …いい声が、聞けるから。


   舌、入れてきた…そう、こうやって。


   ……。


   …。


   …さや、か。


   杏子は…まるで、あたしの全部を知ってるみたい…。


   …知らないよ。
   まだ、知らない…。


   じゃあ、知りたい…?


   …。


   どうなの…?


   …そうなったらいいな。


   そうなったら、って…?


   …さやかのこと、全部。


   …。


   あたしのものに、出来たら。


   …すれば、いい。


   簡単に言うなよ…。


   …じゃあ、してあげる。


   うん…?


   …あたしがいなければ。
   心も躰も、あたしがいなければダメにしてあげる…。


   …ああ。


   あたしはね、杏子。


   …。


   …本当は、あんたさえ、いてくれればいいの。


   ……。


   …友達も


   そんなこと、言うな。


   ……。


   …言うなよ、さやか。


   ……なによ。


   まどか…ほむら…それから、マミ。
   あいつらはいいヤツだ…そうだろ?


   …そんなの、あんたに言われなくたって。


   だから…淋しいこと、言うなよ。


   だっ、て…。


   ……。


   …だって、あたしが愛してるのはあんただけなんだもん。


   ……。


   まどかも、ほむらも、マミさんも好きよ…でもね、杏子。


   ……。


   愛してるのは、あんただけ…。


   ……。


   こんなにも、愛してるの…。


   …さやか。


   ねぇ、杏子…。


   ……なんだい、さやか。


   もっと、あんたのものして…あたしを、あんたのものに。


   ……。


   …されたい、の。


   止まらなくなる…。


   …。


   …そんなこと、言われたら。


   それのどこが、いけないの。


   …。


   …あたしは、そうされたいの。


   あたしは、強欲なんだよ。


   …。


   …だから、さやか。


   ん……。


   ……あたしは、あんたが思っている以上に、あんたが欲しいんだよ。


   ……。


   ずっと欲しかったんだよ、さやか…。
   …そう、まどかにだって、渡したくないくらいに。


   …ばか杏子。


   そうだよ…でも、そんなあたしが


   好き。


   ……。


   ……もう、寝ようか。


   気、済んだのか…。


   …ほんとはまだ、済んでない。


   どうすれば、気が済むんだ…?


   …愛してるって。


   …。


   言って。
   あたしのこと。


   …愛。


   ずっと、愛してるって…離さないって、言って。


   …。


   ねぇ、杏子……。


   …離さない、離すものか。


   ……。


   ずっと、あんたはあたしだけのものだ。


   ……。


   …ずっと、あたしはさやかを。


   ……しあわせに、して。


   ああ、幾らでもしてやる。


   …ゾンビでも?


   そんなの関係ない。


   ……。


   …愛してるよ、さやか。


   う、ん……。








   みーなさんおはよーうございますーぅ、わーたくし、ふつうのちゅうがくせい。


   ……。


   すきなえいがはれんあいもーの、にがてなえいがはホラーですー。


   …そのわりには見るよな、人にしがみついてまで。


   がっかりすること、あーりますねー、そーんなときこの、ステップをー。


   さやか、あんまり調子に乗ってるとこけるぞ。


   そーれだけでー、そーれだけでー、なんとなくちょっと


   つか、パンツ見えるぞー。


   ハッピーーーーーッ!


   …いてぇ!


   見てんな、ばか杏子!


   お前が見せてんだろ、音痴さやか。
   と言うかまだ見てねーよ。


   まだってコトは見る気満々なんじゃない。


   別に今更。
   そんなもん、いつも見てる。


   そんなもん、言うなー!!


   そもそも、そのスカート短いんだよ。
   そんな短いので飛んだり跳ねたりしたら、見たくなくても見えるだろうが。


   …見たくない、だとぉ。


   ほら、さやか。


   ……。


   さやか?


   …どうせ、似合わないわよ。


   あぁ?


   こんな短いスカートなんて。


   そんなこと、言ってないだろ。
   ただ、中が見えるって


   見たくないなら、いいじゃない。


   …。


   …どうせ、いつも見られてるし。
   あーあーどうせ見られてるわよ、新鮮味なんて、ないわよ。


   あのな、さやか。


   …。


   あたし以外にも見られるんだぞ。


   …誰もいないもん。


   そういう問題じゃない。


   …。


   それともさやかは、あたし以外の誰かに見られても


   そんなわけ、ないじゃない!
   ばか!!


   だったら、あまりはしゃぐな。
   見られたらどうするんだ。


   …どうするの?


   あ?


   杏子は、どうするの?


   …。


   ね、どうする?


   ぶっ飛ばす。


   …。


   決まってんだろ。


   つまり杏子ちゃんは面白くないんだ?


   そうだよ。
   だから、あまりはしゃぐな。


   だって、嬉しいんだもん。


   …。


   杏子と、遊園地デート。
   それなのに。


   …お。


   杏子は全然、嬉しそうじゃない。


   …そんなことないよ。


   だったらもう少し、嬉しそうにしてよ。


   お前のはしゃぎっぷりを見てたら、そうもいかないだろ。


   なんでよ。


   パンツ、他のヤツに見られるかもしんないし。


   …。


   本当にぶっ飛ばすぞ、あたしは。


   …えへへへ。


   ……気持ち悪いぞ、さやか。


   きょーうこ。


   ん?


   さやかちゃん、かわいい?


   あん?


   かわいい?


   …それ、着替えの時も言ったぞ。


   気が変わってるかもしれないじゃない。


   あのなぁ。


   きょーこ。


   ああ、かわいいよ。
   かわいい、かわいい。


   あー、テキトー。


   …。


   …おしゃれ、したんだ。
   杏子とデート、だから。


   …知ってるよ。


   ……。


   …可愛いよ、さやか。


   …。


   さやかは、可愛い。


   …杏子!


   なに。


   あたし、気が付いちゃった。


   何を。


   杏子も、かわいいね。


   は?


   ふふ。


   何言ってんだ、可愛いのはさやかだろ。


   んーん、杏子もかわいい。


   さやか。


   ねぇ、杏子。


   …なんだい、さやか。


   今日は、楽しもうね。


   …ああ。
   でも、スカートの中は見せるなよ。


   分かってます、杏子にしか見せません。


   そういう問題じゃねーから。


   いいかね、杏子君。


   よくねーから。


   今日は下見もかねてること、忘れないでくれたまえ。


   むしろお前が、だろ。


   だから、杏子が覚えてるの!


   なんだそれ。


   いいの、それで!!


   ああ、そうかい。
   たく、さやかはしょうがねーな。


   あー、楽しみ!


   …まぁ、そういうトコも可愛いんだけどな。


   みーなさん、ごきげんいかがですーぅ、わたくし、


   だから、やめろって。








   あれ、さやかちゃん?


   杏子も一緒みたい。


   いつも一緒だけどね。


   …ん。


   今日はデートかな。


   …きっと、そうね。


   ふふ、さやかちゃんすごくはしゃいでる。
   嬉しくてしょうがないんだ。


   さやかは分かりやすいから。


   ね、ほむらちゃん。


   なに、まどか。


   さやかちゃんは杏子ちゃんの前でしか、あんな顔、しないんだよ。


   …そうなの?
   まどかと一緒にいる時だって


   ううん、わたしの前ではしてくれない。
   だってわたしは、さやかちゃんの恋人じゃあないから。


   …。


   さやかちゃんは元々、かわいかったけど。
   杏子ちゃんの恋人になったら、もっと、かわいくなっちゃった。


   …。


   ちょっと、悔しかったんだ。


   …悔しい?


   だって、さやかちゃんはわたしの親友だから。
   杏子ちゃんに取られちゃったみたいで。


   …。


   さやかちゃんってね、誰かを助けようとはするんだけど、自分は助けて欲しいって絶対に言わないの。
   昔から、そうだった。


   …。


   だから、人に甘えることが出来なくて。一人で背負って、傷付いて。
   わたしはそれを知ってるのに、知ってるだけで、何もできなかった。


   そんなこと、ない。
   だってまどかは


   ありがとう、ほむらちゃん。


   …あ。


   さやかちゃんは…杏子ちゃんの前だと、不器用だけど、それでも素直でいられる。
   甘えることだって出来るし、何より、杏子ちゃんはそんなさやかちゃんをちゃんと受け止めてる。


   …。


   だから、さやかちゃんはいつだって杏子ちゃんに恋してるんだ。
   ああ、やっぱり少しだけ悔しいな。


   …きっと、杏子も。


   ん?


   さやかの前では、杏子は本当の自分でいられるんだと思う。


   …。


   さやかと出逢う前はもっと、棘があったから。


   恋って、すごいね。


   …。


   悔しいけど、わたしは杏子ちゃんにはなれない。


   まどか…。


   でもね、ほむらちゃん。


   …。


   わたし、さやかちゃんにしあわせになってほしいから。


   うん。


   杏子ちゃんにも、なってほしい。
   二人で、なってほしい。


   うん。


   二人がしあわせに、なれますように。
   そのしあわせが、ずっと、続きますように。


   まどか。


   ん?


   私はあなたのしあわせを願うわ。


   …。


   さやかと杏子、二人のしあわせをまどかが願うなら。
   私はまどかのしあわせを、願うから。
   ずっと、願うから。


   わたしだけじゃ、だめだよ。


   え。


   わたし一人では、しあわせになれないから。


   …。


   ほむらちゃんが、いるから。
   いないと、なれないんだよ。


   あ…。


   私はほむらちゃんと、しあわせになりたい。
   今もしあわせだけど、でも。


   まど、か…。


   もっと、なろうよ。
   二人で。


   うん…うん…。


   ほむらちゃん。
   これからも、よろしくね。


   うん、まどか…。


   …。


   …。


   さやかちゃん、やっぱりはしゃいでるなぁ。


   …杏子は少し、困ってるみたい。


   でも、楽しそう。


   それに、嬉しそう。


   今度みんなでごはん食べる時に、今日のこと聞いてみようかな。


   みんなで?


   そう、みんなで。
   ほむらちゃんも一緒だよ。


   うん…。








   (…来たんだな。)


   (…あなたこそ。)


   (…うるさいんだよ。来いって、さ。)


   (……。)


   (…で、あんたは?)


   (…断れるわけ、ないわ。)


   (…そのわりには今日の今日まで、来なかったじゃんか。)


   (……。)


   (……まぁ、分からないでもないけど。)


   (…しあわせそうね。)


   (…あ?)


   (さやかと一緒にいる時の、あなたは。)


   (…今もいるけど。)


   (二人でいる時の。)


   (…それを言うなら、あんたもだろ。)


   (ええ…しあわせよ。)


   (…。)


   (だから…しあわせに、したいの。)


   (…そうかい。)


   (……あなたは?)


   (…聞くかい?)


   (…そうね。)


   (……あたしのしあわせは。)


   (…。)


   (さやかなしじゃ、考えられない。)


   (…ええ、知ってるわ。)


   (……。)


   (プロポーズ、してしまえばいいのに。)


   (…うるせぇ。)


   (……家族になって欲しいのでしょう。)


   (……。)


   (さやかなら屹度、応えてくれると思うわ。)


   (…あんたこそ、したらどうなんだ。)


   (……。)


   (……。)


   (…私は、今でも十分にしあわせだから。)


   (……。)


   (…まどかと一緒にいられれば、それだけでいい。)


   (…欲がない、とは違うんだよな。あんたの場合。)


   (……。)


   (そうだよ…あたしは、さやかに家族になって欲しいんだ。)


   (…だったら。)


   (……いつか、ちゃんと言うよ。)


   (いつか…ね。)


   (…誰にも渡したくないから。)


   (……。)


   (誰にも、渡さない…。)


   (…だったら尚のこと、さっさと言ってしまえば良いのに。)


   (…うるせ、ほっと)





   『ねぇ、聞いてる?』





   ねぇ、杏子。


   …あ?


   ほむらちゃん。


   …あ。


   杏子、全然聞いてなかったでしょ。


   あー…。


   ほむらちゃん?


   …ごめんなさい、まどか。


   もう、杏子ったらごはんばっかり食べてて。
   話、ちゃんと聞いてなさいよ。


   あれだろ、今度の遊園地のことだろ。


   ほむらちゃんは何に乗りたい?


   私は…まどかと一緒ならそれで良いわ。


   杏子。


   なんだよ、ちゃんと聞いてるよ。


   ほむらちゃんが乗りたいの、乗ろう?


   私は…。





   ……。





   あ、マミさん。
   マミさんは何に乗りたいですか?


   えと、私のことは良いのよ。


   だめですよ!


   …つか、ちょっと忘れてただろ。


   そ、そんなことないわよ!


   ……。


   どもってるぞ、さやか。


   うるさい。
   マミさん、マミさんは何が食べたいですか?
   そうだ、これなんてどうですか?
   この間、杏子と一緒に食べたんですけど、


   美樹さん、佐倉さんと一緒に行ったの?


   …え。
   あ、ああ、実はそうなんです。
   し、下見、しようかなー、なんて。


   つまりデートだね、さやかちゃん。


   そ、そうとも、言うかな…。


   …別に内緒ってわけじゃないだろ。


   う、うー…。


   美樹さんは佐倉さんとお付き合いしてるのだし、別に良いと思うわよ?


   そ、そうなんです、けど…。


   …すごいはしゃぎようだったからな、あの日のさやかは。


   きょ、杏子!


   うん、知ってる。
   ね、ほむらちゃん。


   うん。


   え、なんで?
   なんで、まどかとほむらが


   楽しかった?
   杏子ちゃんとの遊園地デート?


   …ッ!


   ん?


   ……。


   あれ、さやかちゃん…?


   …杏子?


   あー、まぁ、楽しかったかな…。


   …?
   佐倉さん、歯切れが悪いわね?


   そういうわけじゃねーけど。


   こ、この話は、置いておいて!
   今度、今度の話をしよう!
   そうしよう!


   …なんかあったんだね。


   あったみたい。


   あったわね。


   な、ないからー!
   別にないからーー!


   …キス、したくらいだな。


   …!


   ああ。


   …ああ。


   なるほどね。


   きょ、杏子ーー!


   だって、さやかがして欲しいって、


   言うな、ばかーーー!!








   さやか。


   …。


   さやか。


   …。


   まだ怒ってるのかよ。


   …。


   ……。


   …ばか杏子。


   悪かったよ。


   …初めて、だったのに。
   二人だけの秘密にしたかったのに。


   ごめん。


   …。


   …。


   …責任、取って。


   幾らでも。


   …ん。


   …。


   抱っこ。


   …ここでか?


   帰ってからに決まってるでしょ!
   ばか杏子!


   手出しておいて、お前な。


   …。


   …じゃあ、帰ってからな。


   …うん。


   …。


   …夜、どうする?


   食べたばっかりじゃない。


   …そうじゃなくて。


   …。


   夜、どうするかってこと。


   …いつも聞かないくせに。


   …。


   …。


   なぁ、さやか。
   買い物、していかないか。
   欲しいのがあんだけど。


   …何。


   酒。


   却下!


   なんでだよ。


   あたしたちは中学生です。


   …中学生、ね。


   だから、駄目。


   生きてる年数はとっくにそれを通り過ぎてるけどな。


   …。


   今となっちゃ、歳も良く分からない。


   …それは杏子が数えるのを止めちゃったからでしょ。


   さやかだって、同じようなもんだろ。
   中学生だって、言い張るんだから。


   …。


   …。


   …それでも。


   …。


   …それでも、中学生だから。


   躰はそうでも。
   心はもう、違う。


   …違わない。


   …。


   違わないよ。


   …あの頃のさやかだったら。


   …。


   躰も心も自分がいなければ、なんて、言わなかったよ。


   …それは。


   …。


   …杏子のせい、だから。


   ……あたしのせい、か。


   そうよ。
   杏子があたしを変えて…。


   …。


   …あたし達は、何も変わってない。
   何も、変われない。変わる事なんて、出来ない。


   …そんな事、無い。


   …。


   無いんだよ、さやか。


   …杏子は。


   …。


   少しだけ、大人になったね。


   …少しかよ。


   然う、少し。


   さやかは…ばかなままだな。


   うるさい、ばか。


   …。


   …かわいい、なんて。
   言ってくれなかったのに。


   …なぁ、さやか。


   …。


   酒、買ってくれよ。


   だめ。


   …。


   そんなの、飲まなくていい。
   キスがお酒くさくなるなんて、いや。
   大体、なんで飲みたいのよ。
   今まで、そんなこと言ったことなかったのに。


   …。


   理由を、述べよ。


   …理由を言ったら、買ってくれるのか。


   理由次第。
   でも基本的にはだめ。


   …。


   杏子。


   ……ああ、やっぱり駄目だな。


   え?


   酒に、頼るのは。
   あたしらしくない。


   え、何。
   杏子がお酒に頼るって?


   …なんでもねーよ。


   何、どういうこと?


   だから、なんでもない。


   杏子。


   …。


   あ、こら、先に行かな


   あのさぁ、さやか。


   …。


   あと何年、一緒に居られるか分からないけど。


   …何よ、それ。
   なんでいきなり、そんなこと


   さやかの時間、全部あたしにくれよ。


   …え。


   あたしの時間、全部、さやかにやるから。


   ……。


   ずっと、一緒に暮らしてきて。
   今更かも知れないけど。


   ……。


   さやかのこれからの時間、全部、あたしに下さい。


   …。


   あたしの家族になって下さい。


   …そんなの。


   ……。


   そんなの…!


   ……。


   ……。


   …駄目、か?


   ばかじゃないの!


   …お。


   杏子のばか!
   おおばか!!


   …さやか。


   言うの、遅いのよ!
   ずっと、待ってたのに!


   ……。


   …ずっと、聞きたかった。
   聞きたかったのに…。


   さやか…。


   …何年、一緒に居たと思ってるのよ。


   うん…。


   …違わないなんて、嘘。
   心は…あの頃より、杏子を求めてるのだから。


   ……。


   …ねぇ、杏子。


   なんだい…さやか。


   百年でも、千年でも、一緒に居てあげる。


   …。


   家族で、居てあげる。


   …さやか。


   杏子は、あたしの家族だから。


   …うん。


   はい、違う。


   …あ?


   あたしは?
   あたしは、杏子の?


   …さやかは。


   …。


   あたしの、家族だ。


   …。


   …て、おい。
   なんで笑ってるんだよ。


   …本当、今更だなって。


   ……。


   何年経ってもあたしの事、未熟者扱いするくせに。
   自分だって、へたれじゃない。


   うるせ。


   ねぇ、杏子。


   …なに。


   名字、どっちが良い?


   …あ?


   みょ、う、じ。
   家族になるなら、同じが良いな。


   ……。


   何その顔。
   まさか、そこまでは考えてなかったとか?


   ……。


   はい、図星ー。


   …うっせ、ばか。


   ふふ、懐かしい。


   …何がだよ。


   最近の杏子、妙に余裕だったから。
   大人の余裕ってヤツ?


   だから、何だよ。


   うっせ、ばか。


   …。


   …今の少し大人になった杏子も好きだけど。
   子供のままの杏子も好き。


   …なんだ、それ。


   …。


   ん…。


   …あたしの時間、全部、杏子にあげる。


   ……ありがとう、さやか。


   ふふ…。


   …。


   これで改めて杏子の時間は全部、あたしのものなのだ。


   …ああ、全部さやかのものだ。


   …。


   どれだけ一緒に居られるか


   違う。


   …百年でも、千年でも。
   全部。


   …うん。


   さやか…。


   で。
   そんな大事なコト、酒飲んで言うつもりだったんだ?


   …う。


   やっぱり、根っこはへたれだねー。


   …うるっせ。


   さやかちゃんの事、そんなに信じてなかったのかなー?


   そんなんじゃねーよ。


   じゃあ、何?


   …言ったろ。


   ん…?


   …あたしは、強欲だって。


   うん、聞いた…。


   …それに。


   …。


   あたしは家族を…。


   …ね、杏子。


   ……。


   …大丈夫。
   あたしは杏子が居て呉れさえすれば、壊れない…。


   …。


   だから、ちゃんと傍に居る事…良い?


   …う、ん。


   あらあら、杏子ちゃんってばかわいい。


   …かわいいのは、さやかだろ。


   ……。


   さやか…。


   ね…夜、しよ?


   …。


   …さっきの、答え。
   なんだったら、帰ってからすぐ…でも、いいけど。


   さやか…!


   …え。
   あ…。


   大好きだ!


   …て、杏子!


   早く帰ろう!


   恥ずかしいから、下ろして!


   抱っこして欲しいって、言ったろ。


   帰ってからって…んん。


   ……。


   …杏子。


   このまま、な。


   …ほんと、ばか。


   ああ、お互いさまだ。


   …。


   なぁ、さやか。


   …ばかなとこだけは、変わらないんだから!








   …ほむらちゃん。


   ……。


   疲れた顔、してる。


   …まどか。


   ……。


   ……。


   …あまり無理しちゃ、駄目だよ?


   分かってる…分かってるの。


   ……。


   …こんな事をしたって、何も生まない事ぐらい。
   何も、成らない事ぐらい…。


   ……。


   …それでも、私は。


   ねぇ、わたしには何も出来ないかな。


   …。


   …何も、させてもらえない?


   ううん…。


   …。


   …居て、くれるだけで。
   私はそれだけで、良いの。


   …ほむらちゃん。


   ……。


   …永遠の時間に、閉じ込めて。


   …ッ。


   …それは、あなたの力を酷く消耗させる。


   ……。


   …ね、ほむらちゃん。


   ……私、ね。


   うん。


   …まどかさえ、居てくれれば良かったの。


   うん…知ってるよ。


   まどかの事だけ、考えて、想って。
   それだけが、私の支えだったから。


   …。


   …みんなの事、見殺しにしてきたの。
   知ってたのに…知ってたから、どうせどうにも出来ないから…幾度も幾度も、見捨ててきたの。
   特に…。


   …。


   …この手にかけた事だって、あるの。
   何も、感じないように…感情を、殺して。


   …全部を殺す事なんて、出来ない。


   …。


   そうやって、あなたは痕にもなれない傷を幾つも背負ってきたんだね…。


   ……。


   ……。


   …今だって、本当は


   ほむらちゃん。


   …う。


   …知ってるよ。
   知ってる、から…。


   …まどか。
   まどか…まどか…。


   …しあわせに、なるよ。
   もっと、しあわせに。


   ……。


   杏子ちゃんと、さやかちゃん。


   ……。


   …偽りの時間の中でも。
   しあわせは、偽りじゃない。


   ……。


   だけど…ほむらちゃん。
   お願い、一人で頑張らないで。


   …。


   …ほむらちゃんが、わたしを望んでくれるのなら。
   大切にしてくれるのなら。


   …まど、か。


   ねぇ、ほむらちゃん。
   あなたはもう、独りじゃないよ。


   ……。


   あなたは…わたしの大切な友達だから。


   …う…ぅ。


   ……いつか、終わりが来たとしても。


   ……。


   …ね、ほむらちゃん。
   またみんなでごはん、食べようね。


   …。


   ほむらちゃんが来れば杏子ちゃんも来てくれるから。


   …う、ん。


   でもその前に、みんなで遊園地。
   楽しみだね。


   うん…。








   ……。


   …杏子。


   ……。


   きょーこ。


   ……。


   きょ、う、こ!


   …起きてるって。


   また寝ちゃったかと思った。


   寝てない。
   まだ晩飯も食ってないのに。


   だったら返事、ちゃんとしてよ。


   …なんだよ、さやか。


   ……。


   う、ぉ…。


   …隠れて、飲んでないよね。


   なに、を…。


   お酒。


   …飲んでないよ。


   一度も?


   ねーよ、一度も。


   …。


   さやか…重い。


   杏子は嘘、つけないもんねぇ?


   …腹を抓んな、いてぇ。


   ……肉、全然つかないのがむかつく。


   …おい、さやか。


   このままでいる。


   …飯、どうすんだよ。


   ……。


   あー…。


   …ね、杏子。


   あー?


   …あたし、回復だったら杏子よりすごいから。


   それが、どうした…?


   悩んでるの。


   …は?
   なんで?


   …。


   お、おい、さやか……


   …。


   …ぅ。


   ……うん、ついた。


   お前なぁ…。


   …。


   …さやか?


   痕、残らない。


   …。


   …内出血なんて。
   簡単に治っちゃうんだ、あたし。


   …ああ。


   杏子のしるし、すぐに消えて無くなっちゃう…。


   …さやかは、やっぱりばかだな。


   なによぅ…。


   そんなの、幾らでもつけてやる。


   ……。


   何度でも、幾つでも、つけてやる。


   …こんなとこにもつけて!
   杏子のばか!


   …は?


   って、言ってみたかった。
   一度でいいから、言ってみたい。


   ……。


   ……。


   …やっぱ、ばかだな。


   杏子には分からないわよ。


   力、もう少し制御出来るようになれよ。
   何年、魔法少女やってんだ。


   …。


   そうすれば


   簡単に言って。


   …。


   …出来たら、こんなに悩んでない。


   ……。


   杏子はいいよね。
   なかなか、消えなくて。


   嫌味か。


   …杏子のあと、消したくない。


   ……。


   ぁ…ん。


   …言ったろ。
   幾らでもつけてやるって。


   ……でも、消えちゃうんだよ。
   こう、してる間にも…。


   魔法で、消えてしまうのなら。
   魔法で、つければいい。


   …え?


   ……。


   きょ、杏子…?


   ……。


   …んッ!


   ……これで。


   …。


   少しは持つだろ。
   多分。


   …そんな、こと。


   な?


   出来るなら、早くやってよ…!


   …いてぇ!


   …。


   お前な…。


   ……杏子の、ばか。


   ……。


   ……。


   …耳、赤くなってるぞ。


   うるさい。


   …嬉しいなら、そう言えばいいのに。
   素直じゃないな。


   う、る、さ、い。
   あんたには言われたくない。


   ……。


   ……。


   …かわいいな、さやかは。


   杏子…。


   …。


   …ねぇ、杏子。


   飯、どうするんだ…?


   …あたしよりごはんの方がいいんだよね、杏子は。


   さて…。


   …。


   …飯、食った後も。
   するつもりだったから。


   ……。


   …明日まで消えない痕、つけてやる。


   うん…つけて。


   ……さやか。


   ……。


   ……。


   …さくら、がいいな。


   …?


   みょうじ…。


   …今、言うか。


   だって、かぞくになるんだもん…。


   …。


   いいなって、おもってたんだ…ずっと。


   …なんでだよ。


   だって、はなのなまえじゃない…?


   …はな?


   さくら。


   …ああ、花か。


   さくら…あんこ。


   …きょうこ、だ。


   さくら、きょうこ……きれいな、なまえ。
   きょうこじゃないみたい…。


   …わるかったな。


   …さくら、さやか。
   へん、かな…。


   …別に変じゃないよ。


   じゃあ、きまりね…。


   …みき、はいいのか?


   ……。


   …さやか。


   うつくしい、き…あ。


   …。


   あたしたち、おなじなまえだったんだ…。


   …うん?


   さくらも、きじゃない…?


   …ああ。


   きれいなはなをさかせる、うつくしいき…だから。


   …おなじ?


   おそろい…。


   …無理矢理、だな。


   いいの。


   …ああ、そーかい。


   でも、さくらね。


   …さやかの好きにすればいい。


   じゃあ、きまり…。


   …。


   …いまから、あたし。
   さくらさやか、だから…。


   …ああ、分かった。


   えへへ…。


   …。


   さくらきょうこ、と、さくらさやか。


   …。


   …きょうこは、あたしのかぞくなのだ。


   さやかは、あたしの家族だ…。


   …ん。


   …もういいか、動いても。


   うん…きて。








   じゃあ、今から佐倉さんと呼んだ方が良いのかしら?


   え、あ、いやぁ、でも杏子も佐倉ですし…旧姓でいいですよぉ。


   本当に?


   ほら、紛らわしいですし。


   佐倉さん?


   はい、なんでしょう!


   やっぱり、佐倉さんの方が良さそうね?


   でもまだ、慣れないんですけどね…へへ。


   でも、しあわせそう。


   …そう、見えます?


   寧ろ、そうとしか見えないわ。
   ねぇ、鹿目さん?


   はい。
   さやかちゃん、良かったね。


   …ん、ありがと。


   プロポーズ、早くして欲しいって言ってたもんね。


   ま、まどか。


   あのヘタレ、とも言ってたわね。


   マミさんまで。


   ね、なんて言われたの?
   プロポーズの言葉。


   それ、私も気になるわ。


   え、え〜、どうしようかなぁ。


   教えて欲しいな。


   私も知りたい。


   そ、それより、あれ。
   マミさん、あれ、すっごく美味しいんですよ。


   あ、話逸らした。


   それは佐倉さんと食べたからでしょう?


   い、いやいや、杏子と一緒じゃなくても


   ほんとに?
   実はあれ、杏子ちゃんが気に入ってるものなんじゃないの?


   …う。


   逃がさないわよ、佐倉さん?


   あ、あーもう、参ったなぁ。








   そう。
   やっと、言ったのね。


   …まぁな。


   言ったとおりだったでしょう?


   ……。


   佐倉にしたのね。
   名字。


   さやかがそうしたいって言ったんだよ。


   美樹じゃなくて良かったの?


   いいよ、別に。
   さやかがしたいって言うんだ、だから、それでいい。


   美樹杏子、も悪くはないと思うけど。


   しつこいぞ。


   …そうね。
   貴女がそれで良いなら、構わないわ。


   ……。


   ……。


   …相変わらず、今日もじゃれてるな。


   ええ…相変わらずね。


   佐倉さやかになっても、まどかはあたしの嫁!とか言いそうだな、あいつ。


   嫉妬?


   まさか。
   相手はあのまどかだし。


   …。


   あんたこそ、どうなんだよ。
   べったべた、だぞ。今日も。


   …さやかは、まどかの親友だもの。


   へぇ。


   …でも、少し。


   面白くない、だろ。
   分かるよ、それ。


   ……。


   例えば、ごはん食いに行っても。
   当たり前のように、二人並んで座るだろ。


   …ええ。


   で、あたしがあんたの隣。
   なんでだ、ってさ。


   ……。


   三人だと、いたたまれなくさえなってくる。


   …ええ。


   しょーがねぇ、とは思ってるんだけど。
   でも、なぁ。目の前でべたべたされると、なぁ。


   …杏子にくっついてれば良いのに。


   …。


   なんて、思わなくも無かったわ。


   だろ?


   ええ。


   …。


   …。


   あー、しょうもねぇ。
   さやかには絶対、言えねー。


   …全くだわ。


   ま、今日はマミがいるから。


   三人でくっついてはいるけど。


   …さやかはあたしの嫁だぞ、と。


   ……。


   なんだよ、笑うなよ。


   笑うところでしょう?
   寧ろ。


   うっせ、ばか。


   …ねぇ、杏子。


   あ?


   今、幸せ?


   …なんだよ、急に。


   聞きたくなったのよ。


   …決まってるだろ。


   …。


   しあわせだよ。


   …そう。


   なぁ、ほむら。


   …何。


   あんた、少し痩せたか?


   …どうして?


   なんとなく、そう見えただけだよ。


   …。


   ほむら?


   …少しね。
   でも、なんでもないわ。


   …あ、そ。


   ……。


   何一人で頑張ってるのかは、知らないけど。
   あんまり、無理はすんなよ。


   …何も頑張ってないわ。
   だから心配は無用よ。


   あぁ、そうかい。


   …。


   まどかが悲しむことは、すんなよ。


   …しないわ、そんな事。
   絶対に、しない。


   なら、いいけど。


   …杏子。


   うん?


   …なんでもない。


   あ、そ。


   ……。





   杏子はあたしの嫁なんだけどー!





   …あん?


   杏子。


   なんだい、さやか。
   お、それ、買ったのか。


   ……。


   …何かしら、さやか。


   ほむらさん、杏子はあたしの嫁です。


   ええ、知ってるわ。
   佐倉さやか。


   だから、何だよ。


   むぅぅぅ。


   …?


   さやか、変な顔してるぞ。


   なーんか、いい雰囲気になってた!


   …。


   は?


   杏子、はいこれ!
   好きでしょ?


   お、おう。


   んで、あっち行こう。
   向こう。


   え、おい、さやか?


   いいの、行くの!


   と言うか、まどかとマミは…


   さやかちゃんが杏子ちゃんと逃げたー。


   逃がさないわよ、佐倉さん。


   ああ?
   あたしは別に


   貴女じゃない方の佐倉さんよ。


   ああ。


   紛らわしいわね、二人居ると。


   だな。
   でも、さやかとあたしは家族だから。


   杏子、早く!


   分かった、分かったから引っ張るなよ、さやか。


   杏子!


   しょーがねぇなー。


   待って、さやか。


   待ちません!


   さやかは今、幸せ?


   …え?


   幸せ?さやかちゃん。


   美樹さん改め、佐倉さん?


   そ、そんなの…!


   …そんなの、なんだよ?


   しあわせに、決まってるじゃない!


   そうね、見れば分かるわ。


   ね、分かるね。


   ええ、分かるわね。


   なんだそれ!?


   …さやかはばかだな、やっぱり。


   うー!


   はいはい、行こうぜ。
   あたしのかわいいさやか。


   …!?
   きょ…!


   じゃ、そーいうわけだから。
   また後でな。


   ええ、また後で。


   さやかちゃん、顔真っ赤。


   でも話はちゃんと、聞かせてもらいますからね?








   なんだかんだ言ったって、杏子はほむらと仲がいいんだよね。


   さやか。


   この間のごはんの時だってさ、ほむらと無言の会話してたしさ。
   あたしが気がつかないとでも思ってたのかっつの。


   さやか。


   ほむらが来る時は杏子も来るしさ。
   あたしが行こうって言うだけじゃ、来てくれないくせに。


   さやか。


   大体、なーんか、いつもいい雰囲気だしさ。
   さっきだって、二人だけでなんか話してたしさ。


   さやか。


   あたしが呼んでも、気づいてくれない時だってあるしさ。


   さやか。


   杏子には、本当はあたしなんかよりもほむらの方が


   おい、こら。


   …合ってるんじゃないの。


   さやか。


   ……。


   ほむらにはまどかがいるだろ。


   …そう、だけど。


   さやかはまだ、まどかは自分の嫁って言うつもりかい?


   …。


   お前は佐倉さやかだ。
   あたしの、家族だ。


   …今からでも遅くないよ。


   あたしじゃなくて、まどかを嫁にするか?


   …!
   あたしじゃなくて…!


   さやかは、あたしの嫁になったんだ。
   もう、誰にも譲らない。


   ……。


   し、渡さない。
   まどかにも、だ。


   ……でも、あんたは。


   あたしにはさやかしかいない。


   ……本当?


   ばーか。


   …う。


   さやか。


   ……。


   お前は、あたしのものだ。
   あたしは、お前のものだ。


   …。


   あたしが、お前を。
   絶対に、しあわせにしてやる。
   今よりも、ずっと。


   …あたしだって。


   ん?


   あたしだって、負けないんだから。


   負ける?


   あんたをしあわせにしたい。
   ううん、絶対にしてやるんだから。
   今よりも、ずっと。


   …ああ、期待してるよ。


   ……。


   …ところで、さやか。


   …なに。


   人気の無い場所に来て、何をするつもりだい?


   …え。


   ……。


   べ、別に何もしないわよ。


   …しないのか?


   ……。


   しなくて…いいのかい?


   …杏子の、ばか。


   ……。


   …ほむらと、あまり仲良くしないで。


   仲良くなんかしてない。


   …そう、見えるの。


   あいつとはただの友達だ。


   …それでも、いやなの。


   ……。


   …いや。


   じゃあ、あたしも言う。


   …え?


   ……まどかはあたしの嫁って、二度と言うな。


   ……。


   …お前は、佐倉さやかになったんだから。


   ……。


   …分かったな。


   わからない…。


   …あ?


   ……わからせて。


   ……。


   ぁ…。


   …今日は、みんながいる。


   ここには、いない…。


   …やっぱり、何かするつもりだったんだな。


   ……いいから、はやく。


   分かったよ、さやか…。


   …ん。


   ……。


   ……。


   …これで、分かったかい?


   ……。


   さやか?


   …どうかなぁ。


   あぁ?


   ふふ。


   おい、さやか。


   あたしの嫁は、杏子だけなのだ!


   …お。


   これで、いい…?


   …ばーか。








   ふふ、杏子ちゃんも顔、真っ赤にしてたね。


   何しろ、あたしのかわいいさやか、ですもの。


   聞いているこっちも恥ずかしかったわね。


   杏子ちゃん、少し変わったよね。
   前の杏子ちゃんだったらそんなこと、言わなかったのに。
   優しいのは、今も同じだけど。


   今じゃもう、佐倉さんのお嫁さん…と言うより、旦那さまだもの。


   ふふ、そうかも。
   杏子ちゃんって、なんか、旦那さまって感じだよね。
   なんだかんだで、さやかちゃんの我侭、聞いてあげるし。


   …杏子はさやかに弱いのよ。
   だから、甘くもなるの。


   でも、あの子が誰かに恋をして、誰かと結ばれるなんてね。
   マミさーん、なんて、呼ばれてた頃が懐かしいわ。


   …さやかも。
   恋愛の痛手を負った頃の姿なんてもう、思い出せないくらいね。


   杏子ちゃんのおかげだよね。
   杏子ちゃんが、さやかちゃんの傍にいてくれたから。


   佐倉さんもよ。
   佐倉さん…紛らわしいから美樹さんって、今だけ言うわね?
   美樹さんのこと、好きになって…あの子は、本来の優しい自分を取り戻せた。
   美樹さんが居なかったら、あの子は未だに、偽りの自分を演じて続けていたかも知れないわ。


   …偽り。


   結婚式、するのかな。
   すればいいのにね。


   その時はケーキ、沢山作るわ。
   お茶も良い茶葉、用意しないと。


   ……。


   ね、ほむらちゃ…?


   …暁美さん?
   なんだか顔色が悪いわ。
   大丈夫?


   ……。


   ほむらちゃん。


   …私なら、大丈夫。
   だから、心配しないで。


   駄目よ。
   少し休んだ方が良いわ。


   でも、折角みんなで…


   そうしよう、ほむらちゃん。
   そこで杏子ちゃんとさやかちゃん、待ってよう?


   …でも。


   今、無理をして、もしもほむらちゃんが倒れちゃったら。
   わたし、その方がいやだよ。


   …まどか。


   そうよ、暁美さん。
   ね、少し休みましょう?


   ……、なさい。


   え?


   ……。


   …ごめんなさい…ごめんなさい…。


   あ、暁美さん?
   どうしたの?
   どうして、謝るの?


   ……あぁぁ。


   ほむらちゃん。


   まどか…まどかぁ…。


   …少し休もう、ほむらちゃん。
   ね…?


   う、ん……。


   鹿目さん…暁美さん……。








   君と夏の終わり、将来の夢、大きな希望、忘れない。


   …。


   十年後の八月、また出逢えるのを信じて。


   …。


   十年後も。


   …。


   百年後も、千年後も。


   ずっと、一緒だ。


   それ、あたしが言おうと思ってたのに。


   さやか。


   …何よぅ。


   さやかの歌、あたしは好きだ。
   うまくはないけど。


   一言余計なのよ、ばか。


   …。


   …将来の、夢。


   ずっと、さやかと一緒にいる事だ。


   大きな希望…。


   …あたしの希望はさやか、お前だよ。


   …。


   …。


   …真顔で言うな、恥ずかしい。


   うっせ、ばか。


   杏子。


   …みんなのところ、戻るか。


   大好き。


   …。


   ずっと、宜しくね。
   浮気したら、一生、赦さないんだから。


   …ああ。
   ま、浮気なんて、絶対に有り得ないけどな。


   …。


   …。


   …消えて、無くなったとしても。


   それでも、ずっと。








   二人が一緒に暮らす為の部屋。

   なんとなく秘密基地みたいだと思って、そう口にしたら、あいつは笑ったんだ。

   でもそうだなって言ってくれたこと、あたしは一生、絶対に忘れてなんかやらないんだ。








   杏子。


   さやか。


   杏子。


   さやか。


   杏子。


   さやか。


   好き。


   好きだ。


   大好き。


   大好きだ。


   愛、してる?


   愛…って、なんで疑問形なんだ。


   愛してる。


   …愛してるよ。


   杏子。


   さやか。


   ばーか。


   うっせ、ばーか。


   ね、今日は楽しかったね。


   ああ、そうだな。


   また行きたいな。


   みんなでか?
   それとも?


   内緒。


   内緒かよ。


   ふふ。


   なんだよ。


   帰ろっか。


   帰ってるだろ。


   二人の秘密基地に。


   …。


   あんたもそうだなって、言ったんだからね。
   だから、あたしと同類。


   …言ったっけか。


   言いました。
   さやかちゃんは思い出しました。


   よし。
   じゃあ、今すぐ忘れろ。


   やですー、絶対に忘れませーん。


   さやか。


   あはは。








  Song...
    “secret base〜君がくれたもの〜10 year after ver” from 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」
    “なんとなくちょっとハッピーステップ さやかver” 佐倉(美樹)さやか

   Battle's BGM...
    “熱情の律動” from 「ROMANCING SAGA −Minsterel Song−」
    伊藤賢治









   ……良く頑張ったね、ほむらちゃん。


   ……。


   大丈夫だよ…わたしが、ほむらちゃんの力になるから。


   まど、か…。


   …これからは、二人で頑張ろう?


   ……。


   …仮令、偽りの時間だったとしても。
   二人の幸せは偽りじゃない。


   …。


   仮令、偽りの時間だったとしても。
   ずっと、続けていけば、それは偽りじゃなくなるかも知れない。


   …。


   …二人の幸せを。
   マミさんの幸せも。
   そして。


   …まど、か。


   私達の幸せも。


   ……。


   …此処には、確かに、あるから。


   う、ん……。


   …いつか、終わりが来たとしても。
   その時まで。


   ……。


   …わたしが、ほむらちゃんを支えるから。
   離さないから。


   まどか…まどか…。


   …大好きだよ、ほむらちゃん。
   あなたは…


   ……。


   わたしの希望、だから。