ただいま、さやか。


   ……。


   土産、買ってきた。
   さやかが好きな店のケーキだよ。


   ……。


   さやかー?
   おーい、いないのかー?


   …おかえり、杏子。


   おう、ただいま。
   なんだ、いるじゃんか。


   ……。


   さやか?
   どした?顔色、良くないぞ?


   …ん、大丈夫。


   本当か?
   本当に大丈夫なのか?


   杏子ちゃんは心配性だなぁ。
   そんなにさやかちゃんの事、好きなのかね?


   ばか。
   大丈夫ならいいんだよ。


   …ケーキ、買ってきてくれたの?


   おう。
   最近、あまり食べたいって言わないだろ?
   だから、さ。


   …そうだっけ。


   な、食うだろ?


   ……。


   さやか…?


   …うん、食べるよ。
   お茶、淹れるね。


   おう、頼んだ。















  未 来















   …ねぇ、杏子さぁ。


   うあー…?


   ……。


   なんだよ、さやかー?


   …もしも、なんだけど。


   もしも?
   もしも、なんだい?


   ……。


   …さやかー?


   それ、あたしにもちょうだい。


   あん?


   それ。


   ああ。
   ほら。


   ちーがーう。


   は?


   違うの。


   て、言われてもこれしかねーんだけど。


   それでいいの。


   …なんだよ。


   ねぇ、早くちょうだい。


   …ほら。


   ちーーがーーう。


   はぁ?
   さっきから何言ってんだ、お前。


   …。


   欲しいって言ったじゃねーか。


   …欲しいよ。


   でも、違うんだろ。


   …。


   何が違うんだよ。


   …だから、さぁ。


   だから、なんだよ。


   咥えて。


   は?


   端っこ。


   ……。


   んで、あたしに。


   ……。


   ……。


   ……さやか。


   だぁぁもう!
   恥ずかしいんだから、早くしてよ!


   は、恥ずかしいのはこっちだ、ばか!


   言ったあたしの方がずっと恥ずかしいわよ、ばか!


   だったら言うな、ばか!


   ばかばかゆーな、ばか!


   お前こそ


   うるさい、ばか!!


   お前の方が…んぅッ?


   ……。


   ……。


   ……。


   …さやかぁ!


   は、早くしないからでしょ、ばか!


   …ッ!


   きょ…んッ?


   ……。


   …ふ、…や、……んう。


   ……。


   ……。


   …調子に乗ってんじゃねぇぞ、ばか。


   ……。


   …それで、食うかい?


   ……うん、早くちょうだい。

 
   たく、しょうがねぇな…。


   ……。


   ん……。


   …ん。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……。


   …これで、満足か。


   ……満足じゃない、ばか。


   ああ、めんどくせーな…。


   ……ねぇ。


   ん……。


   …それじゃない。


   ……今度はどうしろって言うんだよ。


   何人…欲しい?


   …は?


   ……名前、何がいい?


   ………。


   …分かってよ、ばか。


   ……さやか。


   ……。


   ま、まさか。


   ……ねぇ?


   ほ、ほんとなのか…?


   …まぁ、あれだけしてれば。
   必然…なのかも。


   …!


   まぁ…ほら?
   あたし達ってば、条理を覆す存在だし…?


   …さやかぁ!!


   わ…。


   …本当なのか?
   なぁ、本当に…。


   ………うん。


   な、名前!
   名前、どうするか!


   …まぁ、まだ先だから。


   そ、そうか。


   それで、杏子は何人欲しい?


   そ、そうだな…。


   …あたしは、一人っこだから。
   兄弟とか、よく分からないの。


   ああ。


   妹って、どんな感じ?


   そうだな…モモは、あたしの後ろを良く付いて来たかな。


   それで…?


   すぐ泣くし、生意気な事は言ったけど……まぁ、可愛かったよ。


   …そう、なんだ。


   二人は、欲しいかな…。


   ……もっと、欲しくない?


   も、もっとか…?


   …ん、もっと。
   どうせなら、野球チームが作れちゃうくらい。


   野球チーム……て、9人か。


   サッカーの方がいい?


   いや、さすがに多いだろ…それ。


   …いいじゃない、子だくさん一家で。


   けど、9人でも多いだろ…。


   …あたし、頑張っちゃうけどな。


   て、お前が全員産むのか。


   うん、そのつもり。


   ……。


   …何よぅ、どこ見てるのよぅ。


   まぁ、お前の体型は安産が…いてぇ!


   人が気にしてること言うな、ばか。


   …褒めてるんだよ。


   ……どうだか。


   さやか。


   ……。


   …本当、なんだな。


   ……だったら?


   ……。


   …困る?


   困らない。


   …堕ろせって、言わない?


   ふざけんな。
   そんな事、言うわけない。


   …じゃあ。


   守る。


   …。


   必ず。


   うん…そう言ってくれるって、信じてた。








    なぁ、さやか。


    …うん?


    その…いつ、分かったんだ?


    ……。


    医者に、行ったのか…?


    …最初はね、なんとなくだったの。


    …。


    …このところなんとなく、躰の調子が悪いなぁって。
    だるい、って言うのかな…。


    …。


    寝てるはずなのに、昼間、異様に眠くて。
    起きて、られなくて。


    …そういや昼寝、よくしてたよな。


    杏子のせいだーって、思ったんだけどね。
    寝かせてくれない時もあったし。


    …あたしだけのせいじゃないだろ、それ。


    それから好きなもの、あまり食べたくなくなって。


    …ケーキ、あまり食わなくなったよな。


    うん…なんか、受け付けなくて。


    …。


    でね…そう言えば、来るものも来てないなぁって。
    そう、思ったら……ああ、もしかしてって、思ったの。


    …思って、どうしたんだ。


    調べた。


    調べる?


    初期の症状って、ヤツ。
    そうなると、どうなるのかなぁって。


    …で?


    症状が、当てはまるなぁって。


    …それで?


    だから、市販の検査薬を買って。


    市販の?


    うん。


    じゃあまだ、医者には行ってないんだな?


    ……。


    さや…


    …だって。


    ……。


    ……だって、一人で行くなんて。


    なんで、言ってくれなかったんだ。
    早く言ってくれれば、あたしは


    ……。


    …さやか。


    ……どんな反応するか、してくれるか。
    ずっと、考えてた…。


    …。


    喜んでくれたら…嬉しい。笑ってくれたら…しあわせ。
    でも、もしも…もしも、困った顔をされたら?
    迷惑だって、思われたら…?


    ばか、迷惑だなんて思うわけねぇだろ。


    …そう、信じてたよ。
    だって、杏子はあたしを大切にしてくれてるから。
    でも、いざとなると…言い出せなかった。


    ……。


    もし、もしもって…一回思い出すと、止まらなくて。
    だって、あたし…杏子に捨てられたら、生きていけない。
    もう、生きていけない…。


    さやか…。


    …杏子が、今のあたしにしてくれた。
    杏子が、あたしを必要だって言ってくれたから。
    だから。


    …ばかやろう。


    …。


    …さやかは、ほんと、ばかだ。


    杏子…。


    …今更、あたしに独りに戻れって?
    そんなの、出来っこないのに。


    ……。


    …さやかがいないなんて、あたしにはもう。


    きょうこ…。


    ……ごめんな、さやか。


    え…。


    ……気付いてやれなくて。


    あ…。


    …辛かった、よな。


    ……。


    …さやか。


    杏子ぉ……。


    ……。


    …けんさやく、かうとき。


    うん…。


    杏子に、いっしょにいてほしかった…いてほしかったよぅ…。


    …ああ。


    ひとりはやっぱり、やだよぅ…。


    ……。


    ……。


    さやか。


    ……。


    ちゃんと、嬉しいからな。


    ちゃんとって、何よぉ…。


    …ちゃんとはちゃんとだよ、ばか。


    ばかって言う方が…本当のばか、なんだから。


    ……。


    ……。


    …すっげぇ、嬉しいよ…さやか。


    …うん。
    うん……。








   …さやか、喉乾かないか?


   …。


   何か飲みたいものはないか、さやか。


   …。


   なぁ、さや…ん?


   ……。


   …寝ちゃったのか、さやか。


   ……。


   …。


   ……。


   …あたし達の子供、か。


   んぅ…。


   …ここに、いるのか。
   いるんだよな…。


   ……。


   …まだ、そんなにふくらんでないな。
   でも、ふくらんでくるんだよな…。


   …。


   …絶対、守ってやるからな。
   絶対、だからな…。


   ……。





   ねぇ、母さん。
   この中に赤ちゃん、いるの?






   ん……。


   ……。


   …。


   ……さやか、母さんになるんだな。
   と言うかもう、なってるのか…。


   …。


   あたしは…父さんになるのか?
   いや、でも…うーん。


   …。


   …産むのは、さやかだしなぁ。
   となると、あたしはやっぱり父さんか…?


   ……。





   父さん父さん、赤ちゃんの名前どうするの?
   え、考え中?えーー?






   ……。


   …父さん、か。


   ……。


   …まぁ、なんでもいいか。
   えと、あれだ…元気に育ってくれよ。
   で、元気に生まれて…


   ……ふふ。


   え。


   もうだめ、くすぐったい…。


   さ、さやか。


   杏子、面白い…。


   な、なんだよ、起きてたのか。


   まぁ…あれだけお腹を撫で回されたら、ね?


   そ、そんなに触ってたか?


   結構…ね?


   と言うか、寝てたんじゃなかったのか。


   うん、寝てたよ?


   …。


   杏子の体温、やっぱり気持ちいいな…。
   ひどく、安心する…。


   …。


   杏子の隣が一番よく、眠れるの…。


   …さやか。


   んー…。


   …どこら辺から、起きてた?


   ……さぁ、どこからでしょ?


   ……。


   …杏子父さん?


   …!


   でも、残念…杏子は女の子です。
   だからお父さんにはなれません…。


   …じゃあ、あたしは何になるんだ。


   何って…そりゃあ、ね。


   …産むのは、さやかだろ?


   そうだけど…お母さんでいいじゃない?


   …。


   …ね、杏子母さん?


   う、あ…。


   …何よぅ、変な声出して。


   そりゃ、出るだろ…。


   …なんでよ?


   だ、だって…あたしが、あー。


   ……。


   …なんか、馴染まねー。


   そんなの、当たり前じゃない…。
   まだ、生まれてもないんだから…。


   ……。


   …ん。


   お腹、あったかいな…。


   …二人分、ですから?


   そういうものなのか?


   …そんなわけ、ないじゃない。


   おい…。


   …もっと、撫でてみる?


   い、いいか…?


   …もちろん。
   むしろ、撫でて?


   ……。


   ん…。


   …くすぐったくないか?


   少し…でも、続けて?


   う、うん…。


   ……


   ……ここに、いるんだな。


   うん、いるよ……。








   さやか、これでいいかい?


   …ん、ありがと。


   熱いから、気をつけろよ。


   うん。


   …。


   …なぁに?


   ん、いや。


   何よぅ、気になるじゃないよぅ。


   …思えば緑茶、飲むようになったなって。
   それもその影響なのかな。


   うーん、かも。
   白湯でもいいんだけどねぇ、緑茶がおいしくて。


   甘いの、本当にだめなのか?
   ココアもミルクティーもあるのに。


   …うん、今は本当に欲しくないの。


   そうか…。


   杏子は覚えてるかな。


   うん?


   少し前の事なんだけど。
   ほら、杏子があたしの好きなケーキ買ってきてくれた時。
   あたし、戻しちゃったでしょう?


   あったな。
   あの時はすっげぇ驚いたから、覚えてるよ。


   すっごい、心配してくれたよね。


   当たり前だろ。


   食い物、粗末にするなー!って言われるかと思ったのに。


   お前な…冗談でもねぇだろ、それは。


   …ん、ごめん。


   本当に驚いたんだからな。


   …まぁ、自分でも吃驚しちゃったしね。


   あの時はもう、そうだったんだな。


   …うん。


   …。


   杏子のは?


   うん?


   何飲んでるの?


   さやかと同じのだけど。


   へぇ。


   なんだよ。


   杏子が緑茶なんて珍しいなぁって。


   たまにはな。


   もしかしてぇ、さやかちゃんとおんなじのしたかったのかなぁ?


   …。


   当たり?


   …ああ、そうだよ。


   …。


   なに。


   …ううん、なんでもない。


   ……。


   …ほんの少しだけど、お抹茶入れるとおいしいんだよね。


   え。


   お茶っぱの隣になかった?


   それ、早く言ってくれよ。
   貸して、今からでも入れてくる。


   …。


   さやか。


   んーん、これでいい。


   でも


   十分、おいしいもの。


   入れた方がおいしいんだろ?
   だったら


   もう、鈍いなぁ。


   あ?


   …杏子が淹れてくれたから。


   ……。


   だから、今回はこれでいいよ。


   …次からはちゃんと入れる。


   ん…。


   ……。


   …ね、杏子。
   飲み終わったら…また、撫でる?


   …。


   …撫でて、欲しいな。
   生まれるまで、毎日。


   毎日…か。


   そ…毎日。


   じゃあ、毎日…な。


   だって…よかったね。


   …?
   さやか?


   …きっと、伝わる。
   ちゃんと伝わる…そう、思うの。


   …。


   ……。


   …そうだと、いいな。


   うん…。








   『おー、適当に入ってくれ。』





   お邪魔しま


   きゃーーーー!


   え。


   早く閉めろ、マミ!逃げられる!!


   え、ええ!


   あーーーー。


   ふぅ、危ないところだったわね。


   あ、マミだー。


   こんにちは。


   ちゃー!!


   て、裸?
   服はどうしたの?


   マミ、ケーキ?ケーキ?まぁるいケーキ?


   ええ、持って来たわよ。
   ほら。


   くわせろーー!


   その前に服を着ないといけないわね?


   ケーキ!ケー





   こぉぉぉーーら!





   きゃう。


   少しは落ち着け。


   あーーうーー。


   よぅ、マミ。


   こんにちは、佐倉さん。
   相変わらずね?


   まぁなぁ。


   今度は服を着ないで脱走、かしら?


   正確には脱ぎ散らかして脱走。
   元気なのは良いんだけどなぁ。
   ま、適当に入ってくれよ。


   ええ、お邪魔します。


   なぎさは?


   後から来るって。


   そっか。


   鹿目さんと暁美さんは?
   もう?


   ああ、来てるよ。








   まどかー、まどかー、あそんでー!


   まどか、まどか、えほんよんでー!


   ちょ、ちょっと、待って。
   二人同時に言われても


   まどかはあたしとあそぶんだ!


   まどかはえほん、よんでくれるの!


   あそぶんだー!


   えほんーー!!


   うーーー!!


   きーー!!


   わ、分かったから、喧嘩しないで。
   ね?ね?


   ほむほむ!!


   ……。


   ほむ、ほむ?


   ……。


   ほむー!


   ……。


   …ほむらちゃん、ちょっとでも良いから何か反応してあげて?


   寧ろ、この状況でどう反応すれば良いのかしら。


   え、と…それは。


   ほむ、だいすき!


   …それはありがとう。


   けっこん、したげる!


   いいえ、貴女とは出来ないわ。
   私にはまどかがいるから。


   …?


   私の伴侶はまどかだから。


   じゃあ、まろかとする!


   は?


   う。


   ほ、ほむらちゃん、相手は小さい子だから。


   いいえ、まどか。
   こういう事に小さいも大きいも関係無いわ。
   教えるべき事は教える、それが大人の義務なのだから。


   それはそうかも知れないけど、


   …うぅ。
   ふぇぇぇぇ…。


   あ、ああ、泣かないで。


   ほむがおこったぁ…ふぇぇぇ…。


   ほむらちゃんは怒ってないよ。
   ね、ほむらちゃん。


   ええ、怒ってはいないわ。


   ほむこわいーおにーー。


   ……。


   ほむらちゃんは元々、こういう顔なんだよ。
   だから、


   …まどか。


   あ。


   ふぇぇぇぇ…。


   ……そうね、私は元からこういう顔だわ。


   ち、違うの、ほむらちゃん。
   わたしが言いたかったのは


   まどかー、あそんでーー!!


   まどか、えほんー!!


   あ、あぁぁ。


   ……。


   ふぇぇ…。


   あたしとあそぶんだー!


   えほんーーー!





   ごめんねぇ、二人とも。





   あ、さやかちゃん。


   ……。


   こらあんた達、あんまりお姉さん達を困らせちゃダメでしょーが。


   だって、だって、ほむがおこったぁぁ…おにぃぃ…。


   まどかはあたしとあそぶんだー!


   まどかはあたしとえほんなのー!


   こぉぉーーーら!!!


   「「「…う。」」」


   とりあえずあんた達二人、まどかは一人しかいないの。
   遊ぶか絵本かはジャンケンして順番を決めなさい。


   でも、あたしがさきにいったんだ!


   ちがうよ、あたしがさきだよ!


   あたしだー!


   あたしだよー!


   あ、そ。分かった。
   じゃあ、まどか。この子達とは遊んでくれないで良いから。


   え、さ、さやかちゃん?


   そんでもってあんた達、そのまま喧嘩続けるならおやつ抜きね。


   「「え。」」


   残念だなぁ、今日は折角マミさんが来てくれるのになぁ。
   おいしいおいしい、まぁるいケーキなのになぁ。


   マミ!


   ケーキ!


   あーあ、残念だー。
   あんた達は食べられないー。


   「「やーーだーー!」」


   じゃあ、ジャンケンする。
   はい、最初はグー!


   「「グーーー!」」


   じゃ、まどか。
   後よろしく。


   え、あ、う、うん…。


   で、次は。


   ふぇぇぇぇ…。


   あー、えと。
   ほむら、悪いね。


   …構わないわ。


   この子、もの好きでさぁ。
   あんたが一番お気に入りみたいなのよ。


   ……。


   とりあえず、重くない?


   …慣れたわ。
   来るたびだから。


   もうねぇ、あんたが来るって前日に話すとテンション上がっちゃって夜寝なくなっちゃうからさ。
   当日の朝、話す事にしてるの。


   …そう。


   ほむ、ほむー……ふぇぇ……。


   あ、鼻水。


   ……。


   …かぁちゃ…かぁちゃぁぁ…。


   はいはい、泣かない泣かない。
   ほむらは最初から怒ってないから。
   ね、ほむら。


   …怒ってはいないわ。


   ほら、ね。


   ……ほ、む?


   ……。


   ほむーーー!!


   うんうん。


   …さやか。


   うん?


   …鼻水、拭いてあげて。
   私からでは見えないから。


   はは、あいよー。








   …相変わらず、ねぇ。


   ああ、相変わらず毎日が戦争みたいだよ。


   ケーキ、キッチンに置いておくわね。
   なぎさが来たら、食べましょう。


   おう、いつもありがとな。
   ちび達、マミのケーキ大好きだからさ。


   ふふ、嬉しいわ。


   マミー、マミー。


   はいはい、なぁに?


   おっぱい!


   …はい?


   おっぱい、おっぱい!


   ……佐倉さん?


   あ、いや。


   おっぱいー!


   どういう教育をしているのかしら?


   子供ってそういうの、好きなんだよ。
   あとどういうわけか、マミイコールでかい胸になってるみたいで…。


   ……。


   …さやか。
   さやかー。


   なぁに、杏子。
   あ、マミさん、いらっしゃい!


   …こんにちは、佐倉さん。


   マミー、マミー、おっぱいー。


   あ。


   …別に良いけれど。


   ご、ごめんなさい、マミさん。
   どういうわけか、マミさんイコール大きい胸になってるみたいで…


   …はぁ。
   とりあえず、服を着せないと。
   どれを着せれば良いのかしら。


   悪いな、マミ。


   ありがとうございます、マミさん。
   助かり





   ……ふぇぇぇぇ。





   あ、起きた。
   杏子、この子お願い。


   おう、任せろ。


   ふぇぇ…。


   はいはーい、今行くか


   さやか、危ない。


   …おー、セーフ。
   ありがと、杏子。


   気を付けてくれよ。


   分かってますって。
   何しろもう一人、ここに入ってますからねぇ。


   それだけじゃないだろ。
   お前が怪我したらって話でもあるんだから。


   はぁい。


   …杏子。


   おう、ほむら。
   とりあえず、重くないか?


   …平気よ。


   なんでか、ほむらによじ登るのが好きなんだよなぁ。


   ……。


   杏子ちゃん。


   まどか、悪いな。
   助かるよ。


   それは良いんだけど。
   さやかちゃん、そろそろでしょ?


   うん。


   貴女、一体何人こさえるつもりなの。


   野球チーム分、かねぇ?


   ……。


   はは、冗談だって。


   …全く、冗談に聞こえないわ。


   はは、はは。


   ん、なんだい?


   はら、へったー。


   すいたーー。


   ケーキー。


   まーるいケーキーー。


   なぎさが来てからな。


   「「「「えーーーーーー!!」」」」


   えー、じゃない。
   たく、そういう時は息が合うだよなぁ。


   杏子。


   おう、さやか。


   じゃーん、起きちゃいましたぁ。


   そうかー、起きちゃったのかー。


   今からおっぱい、あげるから。
   見ないでね?


   て、言われると見たくなるけどなー。


   エッチー。


   はは。


   …この調子だともうちょっと、増えそうね。


   仲、良いですもんね…。


   …バカ夫婦。








   マミのケーキはこのお菓子の魔女がぜーーんぶ、頂くのですよ!


   なぎさー!


   なぎー!


   なーー!


   ぎーー!


   なぎさじゃないのです、と言うかそこら辺、言えてないですよ!


   「「「「まーじょーーー!」」」」


   マミのケーキが食べたかったら!
   お菓子の魔女を倒してみやがれ、なのです!


   「「「「わーーーー!!!」」」」








   …いつも思うんですけど。
   なぎさちゃんって、すごいですよね。
   あっという間にまとめちゃって…。


   子供の心を掴むのが得意なのかも知れないわね。
   特にこの家の子供達の、は。


   ただ単に精神年齢が同じだけなのかも


   こらぁ、そこの暁美ぃ!
   聞こえてますよ!!


   …マミ。


   えと…ごめんなさいね?


   ……。


   ほむらちゃん、拗ねないで?


   …拗ねてはいないわ。


   またまたぁ、唯一懐いてくれてるちびを取られちゃって拗ねてるんじゃないのぉ?


   ……。


   あ、いらっとした?
   て事は、図星かなー?


   ……。


   さやかちゃん、止めてあげて。


   ほむら、良かったらこっちのちび抱っこするかい?
   こいつは大人しいぞ。


   …遠慮しとくわ、杏子。


   じゃあ、こっちの子にする?
   今ならお腹いっぱいで大人しいけど。


   …どちらも結構よ、さやか。


   遠慮しなくても良いのに。
   ねぇ、杏子。


   そうだよなぁ、さやか。


   ……。


   え、と。
   さやかちゃん。


   なに、まどか。


   本当に一晩だけでいいの?


   うん?


   預かるの。


   ああ。
   一晩だけでもかなりありがたいって。
   ねぇ、杏子。


   ああ、さやか。
   それにまどか、一晩だけって言ってもかなり大変だと思うからさ。


   でも全員じゃないから…。


   …二人だけでもかなり大変だったわ。


   ほ、ほむらちゃん。


   はは、実際はそうだと思うよ。
   ありがと、まどか。気持ちだけ、貰っておくね。


   マミも良いかい?


   ええ、勿論。
   たまには静かに過ごしたいでしょう?


   と言っても二人は残るんだけど。


   流石に乳飲み子は預かれません。


   そうだよなぁ。


   そもそもがこさえすぎなのよ、貴女達。
   もう少しちゃんと計画を立てるべきだったわ。


   立てたよ?
   ねぇ、杏子。


   うん、立てたな。


   ……これのどこが。


   いやぁ、増えるのが嬉しくて。
   ね、杏子。


   うん、さやか。


   ……。





   ほむーー。





   お、一人戻ってきた。


   ほむ、ほむー。


   …あっちはもう良いのかしら?


   ほむ!


   ……そう。


   良かったねぇ、ほむら。


   …別に良くはないわ。


   やっぱり、素直じゃないのなぁ。


   ……。


   ふふ、ほむらちゃん良かったね。


   …まどか。


   ほむー、まろかー。


   ふふ、かわいい。


   まろかじゃないわ、まどかよ。


   まろ?


   …。


   ほむらちゃん、相手は小さい子だから…。


   だけど。
   本当に子沢山になったものね、佐倉さん。


   はい。


   おう。


   …ふふ。


   マミさん?


   なんだよ、マミ。


   皆、本当に貴女達に似ているわ。
   まるで貴女達の小さい頃を見ているみたい。


   だってあたし達の


   子供だからな。


   ええ、そうね。
   でもね、佐倉さん。


   はい?


   おう?


   教育はちゃんと、しないと駄目よ。
   特に人の事を…その、あんな風に呼んではいけないわ。


   あー…はい。


   …別に大した事じゃ


   佐倉さん?


   …分かったよ。


   うん、宜しい。
   じゃあ皆、そろそろお茶にしましょうか。






   「「「「ケーーーキ!!」」」」





   て、なぎさまで。
   いつもうちで食べてるでしょうに。








    ……。


    ……。


    …静かになったなぁ。


    そうだねぇ…。


    …。


    …ちょっと淋しかったりする?


    まぁ、少しな。
    でも。


    でも?


    明日の夜になれば、いつもどおりだ。


    …そだね。


    それにたまには、さやかと二人でゆっくりしたいしな。


    双子ちゃん二人、お腹の子を含めれば三人いるけど?


    一人は元々大人しいし、一人は寝ててくれればそれほど手はかからない。
    お腹の子は……そうだな、出来れば静かにしててくれな。


    ふふ…お腹に話しかけてるし。


    だって、ちゃんと聞いてるんだろ?


    ん、そだよ。
    だからいっぱい、話しかけてあげてね。


    おう。


    …思えば、ちゃんと話しかけてくれてたね。


    ん?


    あの子達がお腹にいる時も。


    そりゃあ、な。


    …。


    ん、さやか?


    …しあわせ。


    ……さやか。


    ね、こさえすぎかなぁ?


    まぁ、子沢山には違いないけどな。


    けど…なに?


    …こさえすぎとは思ってないよ。


    ……。


    …ま、大変だけどな。


    ふふ、そうだねぇ。


    ……。


    ……。


    …やっぱ、静かだなぁ。


    うん…。


    皆には感謝しないといけないな。


    …うん、本当にね。
    皆が手伝ってくれるから…て。


    さやか…。


    …お腹に、いるから。


    そう、だけど…。


    …だからこれで、我慢してね?


    ……。


    …ふふ。
    大好き、杏子。


    …さやかぁ。


    ね、杏子はしあわせ…?


    …うん、しあわせだ。


    ん…良かった。


    …さやかが、たくさん、あたしにくれる。


    …。


    あたしの夢…今も、ここに。


    …杏子。


    ありがとう…さやか。


    …あたしもありがと、杏子。


    ……。


    ……。


    へへ…。


    …ふふ。


    今夜は久しぶりにくっついて寝られるな。


    なんて言って、いつもくっついて寝てるじゃない。


    さやかが隣に来るからな。


    杏子が隣に来るから、でしょ?


    でも、もう少し。


    ん。


    もう少し、このまま話してよう。


    …うん、杏子。


    ……。


    ……。


    …そういや、さ。


    ん。


    やっぱり、ほむらに懐いてるよな。


    うん、かなりお気に入りみたい。


    ほむらのヤツ、あれで結構満更じゃないよな。


    あたしもそう思う。
    で、まどかがこっそり教えてくれたんだけど、嬉しいみたいよ結構。


    これで、欲しいと思い始めたりしてな。
    子供。


    あそこはどっちが産むのかな。


    どっちだろうなぁ。


    ほむらかな、やっぱり。


    いや、まどかかも知れない。


    そしたらほむら、泣いちゃうかもね。


    はは、そうだなぁ。


    …見てみたいね、二人の子供。


    うん、そうだな…。


    ……。


    ……。


    ……何か飲む?
    二人の時間は、これからだし…。


    そうだな…さやか、何が良い?


    あたしは…。








   ……。


   ……こ。


   ……。


   …杏子。


   ん……さやか…。


   そんなところで寝てたら風邪、ひいちゃうよ。


   …あたし、寝てたか。


   うん。


   ……。


   …え、なに。


   さやか…お腹、どうした。


   え、お腹?
   お腹って?


   …なんで、ふくらんでないんだ。


   はい…?


   なんで、ぺたんこなんだ。


   ぺたんこって。


   お腹の子供、子供はどうしたんだ…?


   …。


   そうだ…ちび、ちびは?
   おい、ちびはどうした…?


   ……え、と。


   寝かしつけて…それから。
   二人で、久しぶりにゆっくり話そうって…。


   ……杏子、寝ぼけてる?


   え…?


   それともまだ、夢の中にいるの?


   ゆ、め…?


   ……。


   ……そう、か。
   そう、だよな…。


   …。


   …あんな話、夢じゃなきゃ。


   ねぇ。


   ……。


   どんな夢、見てたの?
   教えてよ。


   ……。


   ね、どんな夢?
   お腹に子供って言ってたよね?
   もしかしてあたしのお腹の中にいたの?


   ……。


   …笑わないから。
   馬鹿にだって、しないから。


   ……あたしと、さやかの間に。


   うん…。


   …子供が、いたんだ。


   あたしのお腹の中に?


   …七人目。


   え。


   …上に六人。


   それは…頑張っちゃったなぁ、あたし。


   ……。


   …泣かないでよ、杏子。


   ……せ、だったんだ。


   ん……。


   ……しあわせ、だったんだ。


   …目、覚めたくなかった?


   ……。


   …でも、覚めてくれないとあたしが困っちゃう。


   さやか……。


   ……。


   さやか…さやかぁ…。


   それにね…全部が全部、夢じゃないよ。
   それ。


   え…?


   …杏子、あたし緑茶が飲みたいな。
   喉、また乾いちゃったから。


   りょく、ちゃ…。


   …ここのところ、甘いの受け付けなくなっちゃったから。


   あ…。


   だから…ね。
   お願い、してもいい…?


   …ッ!
   さやか…!


   …その夢。


   ……。


   …その夢、あたしが叶えてあげる。


   いるんだな…本当に、いるんだな?


   うん…いるよ。
   ちゃんと、ここに…。


   ああ…!


   でも、七人かー…本当に野球チームも夢じゃないかも。


   ……。


   …泣くのはまだ、早いんだけどなぁ。


   …。


   …夢まで見てくれて、ありがとね。


   うう、ん…。


   …だから、まだ早いって。


   んな事言われたって、止まんねーんだよ…。


   …もう、しょうがないなぁ。


   ……。


   …心配なんて、いらなかったんだね。
   あたしって本当、ばかだなぁ…。


   ……。


   …今も、しあわせだけど。


   ……。


   だけど、もっと……しあわせに、なろうね。
   あたしがきっと、してあげるから…。








   …杏子ちゃんと、


   美樹さんの…


   子供がお腹にいると言うの?


   ああ。


   うん。


   二人の赤ちゃんが、さやかちゃんのお腹の中に…。


   それが本当なら…。


   想像妊娠では無いの。


   想像妊娠?


   違うよ、ほむら。
   本当にあたしのお腹に杏子の子供が宿っているの。


   さやかちゃん…。


   …本当、なのね。


   でも、どうやって。
   通常の手段では土台無理な話だわ。


   ほむら、あんた結構言ってくるのな…。


   通常の手段だったら、ね。
   ほむら、あたし達はそもそもどんな存在になってると思う?


   …。


   男女の真似事…じゃない事だって、出来るんだよ。


   ……然う、分かったわ。


   …まぁ、そういうわけだから。
   一応、話しておこうと思ってな。


   さやかちゃん、学校はどうするの?
   今は…その、あまり目立ってないようだけど。


   まぁ、その時になったら休むと思う。


   美樹さん…その、言い辛いのだけど。


   両親は今、いませんから。
   こっちに帰ってくる事もないでしょうし、今は。


   話さないつもりなの?


   話したところで…分かって貰えませんから。


   だけど


   マミ。


   …佐倉さん。


   その時になったら、あたしがなんとかするよ。
   あたしの魔法、あんたは良く知ってるだろ。


   だけど…


   それから、あたしは働く。


   …え。


   杏子ちゃん…。


   さやかは…家族は、あたしが守る。
   今度こそ、壊さない。
   二度と、失くさない。


   ……。


   ……。


   杏子、さやか。
   本気なのね。


   おう。


   ん。


   …わたし。


   まどか?


   わたしに、出来ることがあったら!
   なんでもするから!
   だから!


   …ありがとな、まどか。


   ありがとう、まどか。
   凄く嬉しい。


   …そうね。
   その時は私にも声を掛けてね。
   出来る限り、力になりたいから。


   ありがとう、マミ。


   ありがとうございます、マミさん。


   …。


   ほむらは無理しなくていいからな?


   はは、確かに。


   …失礼ね、貴女達。








   …暁美さん、あの話は本当だと思う?


   ……冗談では無いと思うわ。


   じゃあやっぱり、美樹さんのお腹の中には…


   …杏子の魔力が混じっている。


   ……。


   今のさやかからは、微かにだけれど、杏子の魔力の気配がするわ。
   だから。


   …ああ、やっぱり気のせいでは無かったのね。


   ……。


   …鹿目さんは気付いているのかしら。


   ……恐らくは。








   ……。


   …聞こえる?


   …。


   …何も、聞こえない?


   なんか、音はする…けど、なんて言っていいか分からない。


   …。


   ……でもなんか、懐かしい感じがする。


   杏子も昔、この中にいたからねぇ。


   …さやかの中にはいない。


   そうかなぁ。


   …。


   あたしは…ずぅっと昔、あんたを生んだような気がする。


   …それは困る。


   どうして?


   …色々と。


   あたしは困らないけどなぁ。


   …あのな、さやか。


   感覚の話だから。


   ……。


   さやかちゃん、お母さんみたいだね。


   うん、だってお母さんだからね。


   そっか…そうだね。


   まどかも耳、当ててみる?


   いいの?


   どうぞどうぞ。


   …杏子ちゃん?


   あたしは構わないよ。


   じゃあ……。


   ……。


   ……。


   …何か、聞こえる?


   タツヤが、ママのお腹の中にいた頃の音に…。


   …。


   …似てる、気がする。








   その話、本当なのですか。


   ええ。


   ……。


   美樹さんのお腹の中には…確かに、命のようなものが宿ってる。
   今は未だ、弱いけれど…。


   …。


   なぎさ?
   聞いてる?


   …見たかったのです!


   え。


   今から追いかければ、


   待って、なぎさ。


   マミたちばかり、ずるいのです!


   ずるいと言われても…。


   だから、なぎさも


   待って待って。
   今日はもう、駄目よ。
   美樹さんの躰の事もあるし、また今度にしましょう。
   ね?


   …部活なんかしてる場合じゃなかったのです。


   また今度って、二人も言ってたから。


   マミ。


   うん?


   次の休みには二人のおうちに行くのです。
   そのためにチーズケーキ、焼くのです。


   …急には駄目だから、前もって連絡はしてみるけれど。
   それから今の美樹さん、甘いのは受け付けないみたいだから…。


   さやかも水臭いのです。
   なぎさには何も言ってくれないなんて。
   杏子も杏子なのです。まったく。


   え、と……他に何か考えておくわね。








   …杏子ちゃんとさやかちゃんの赤ちゃん、どんなかなぁ。


   ……。


   杏子ちゃんはね、さやかちゃんに似てる子が欲しいんだって。
   でもさやかちゃんは杏子ちゃんに似てる子が欲しいんだって。
   わたしはどっちに似てても可愛いと思うんだけど。


   …。


   じゃあ、最低二人は作ろうかって杏子ちゃんが笑って。
   さやかちゃんが嬉しそうに頷いて。


   ……。


   二人を見ていたら、タツヤがママのお腹にいた頃のパパとママを思い出したの。
   しあわせそうに、いとおしそうに、パパがママのお腹を撫でてた…。


   …まどかの時も屹度、然うだったわ。


   そうかな…。


   …ええ。


   そっか…えへへ、ほむらちゃんがそう言ってくれると嬉しいな。


   ……。


   だからね…しあわせ、なんだなって。
   二人は今、とても…。


   …屹度。


   楽しみだね。


   ……。


   どんな子かなぁ…二人の子供だからきっと、すごくかわいいと思うんだ。
   杏子ちゃんとさやかちゃん、どんな名前を付けるんだろ…。


   ……。


   ほむらちゃん?


   …男女のそれとは違う。
   違うと言う事は…宿っているものは普通では無いかも知れない。


   え…。


   …所詮、紛い物かも知れないと言う事。


   紛い物って…。


   …まどかは気付いていた?


   気付く…?


   …さやかの中から、杏子の魔力の気配がする事に。


   さやかちゃんの中から…。


   …然う、やっぱり気付いていなかったのね。


   ……うん。


   今は未だ、微かだから。
   だけれど子供が成長するにつれ、その気配は大きくなっていくと思う。


   ……。


   …恐らく、さやかは杏子の魔力を自分の中に少しずつ取り込んで。


   ……。


   …それを、代わりにしたのかも知れない。
   だとしても、体内に取り込む為にはそれ相応の手段を用いなければいけないでしょうけど…。


   ……。


   …既成事実を作る事で、さやかは杏子を。


   それは違うよ、ほむらちゃん。


   …。


   …さやかちゃんは、自分の為だけじゃない。
   さやかちゃんは杏子ちゃんの事が大切だから…だから、杏子ちゃんの願いを叶えてあげたいって。


   …。


   …少しもないとは、言えないかもしれないけど。
   でも、さやかちゃんは…。


   …杏子が、いいえ、杏子も望んでいた事だから。
   杏子はもう、さやかがいない頃には戻れないだろうから。


   …。


   これで二人はより一層、離れられなくなる。


   …ほむらちゃん。


   だけどそれは…二人にとっては、とても幸せな事なんでしょうね。


   ……。


   …。


   …ねぇ、ほむらちゃん。


   …なに、まどか。


   わたしたちが出来る事なんてきっと限られてるだろうけど。


   …。


   それでも…。


   …ええ、分かってるわ。
   まどか。








  Song...
    “君の銀の庭” Kalafina

   BGM...
    “未来”  Kalafina
    “WIILL” from 「俺の屍を越えてゆけ2」 樹原涼子・樹原孝之介









   ……。


   …静かに寄り添って。


   …。


   何処にも、行かないで。


   ……。


   窓辺で囀って…何処にも、行かないで。


   行かないよ。


   …。


   さやかを置いて、何処にも行かない。
   独りでなんか、何処にも行けない。


   …。


   囀るのは…出来ないけどな。


   …歌、なのに。


   そうだな。
   でも言いたくなったんだよ。


   …でも、嬉しい。


   ……。


   …みんな、吃驚したかな。


   まぁ、少しはしただろうけどな。


   …ほむらは相変わらずだったね。


   ああ、そうだな。


   …まどかはやっぱり、あたしの嫁でした。


   はは。


   …マミさんも。


   うん。


   なぎさは…どうかな。


   どうかな。
   あいつは空気、読まないからな。


   …ふふ、そうだね。


   さやか、寒くないか?


   …ん、大丈夫。
   杏子が手、繋いでてくれるから。


   ……。


   …ん、杏子?


   もっと…くっつかなくてもいいのか。


   …。


   その…冷えは、良くないだろ。


   …くっついて欲しいなら、そう言えばいいのに。


   ……。


   うるせぇって、言わないの?


   言わない。


   …。


   はぁぁ。


   吐く息、真っ白だね。


   今日は特にな。
   春はまだ、遠いなぁ。


   杏子。


   うん?


   …くっついて、いい?
   もっと。


   …ああ、いいよ。


   ……。


   ……。


   …あなたのお母さんはとても優しい人です。


   さやか?


   ばかなあたしをずっと、見ててくれた。
   いっぱい、心配してくれた。傍でずっと、守ってくれた。


   ……。


   屹度…ううん、あなたの事も絶対に守ってくれる。
   あなたのお母さんは…とても強い人だから。
   強いだけじゃない…人の弱さも、知っている人だから。


   …さやか。


   あたしは…そんなあなたのお母さんが大好きです。


   ……。


   …だから安心して、生まれてきてください。
   待ってるからね。


   …。


   ……なんて、まだ気が早いかな。


   いいんじゃないか、別に。


   …うん。


   …。


   ね、杏子も何か言って…?


   …何かって?


   なんでもいいから。


   なんでもいいって言われてもな…。


   …なんでも、いいから。


   ……。


   ……。


   …手、当てるぞ。
   その方がより、伝わるような気がするから。


   うん…。


   ……お前の母さんは、ばかだった。


   て…ええ。


   だけどな、結局あたしはそんなところに惚れたんだ。


   …。


   …心が真っ直ぐで、きれいな目をしてて。
   何より、あたしなんかよりずっと優しくて。そのせいで、沢山傷付いて。
   気付けばあたしは、お前の母さんに酷く惹かれてたんだ。


   ……。


   …あたしは、守りたいって思った。
   誰かの為に傷付くなら、だったら、あたしがさやかを守ってやろうって。
   今思えば大分独り善がりな思いだけどな…。


   ……。


   …だからな、お前の母さんがあたしを好きだと言ってくれた時は。
   凄く嬉しかったんだよ…本当に、嬉しかった。


   …杏子。


   お前の母さんは…あたしを独りにしない、したくないって言ってくれた。
   あたしも、思ってた。さやかを独りにしたくないって。ずっと思ってた。


   ……。


   そして、今…お前はあたしの誰よりも大切な人の中に宿った。
   お前は…あたし達の大切な命だ。あたし達が生きている証だ。


   …。


   どうか、元気に生まれてきて欲しい。
   たとえ、どんな姿であっても…あたし達はお前を愛しているよ。


   …。


   あたし達はお前が生まれてきてくれるのを、心から、待っているよ。


   ……。


   愛しているよ…さやか。


   …ずるい。


   うん…?


   …ずるいよ、杏子。


   何か言えって言ったのは…さやか、お前だろう?


   そうだけど…なんか、ずるい。


   なんだよ…それ。


   ……愛してる、なんて。
   なんでそんな風に言えるの…?


   そんな風にって…どんな風に言ってた?


   ……。


   …さやか?


   大好き。


   …ん。


   ……杏子みたいには、言えないから。


   あたしみたいに言う必要なんか、ないだろう…?


   …。


   …さやかの言葉で、声で、真っ直ぐな心で。
   言ってくれたら…あたしは、それでしあわせなんだ。
   この子も屹度、そうだ。


   …。


   …さぁ、うちまでもう少しだ。
   帰ったら風呂にでも入ってあったまろう。


   …一緒に入って。


   ああ…いいよ。
   一緒に入ろう。


   ……杏子。


   なんだい…さやか。


   …愛してるの。


   …。


   杏子を…愛してる。


   …うん、嬉しい。


   あなたのことも…いっぱい、愛してるからね。


   ……。


   …あたし、初めて魔法少女で良かったと思えた。
   だからこの子を…杏子の赤ちゃんを、授かる事が出来たんだもの。


   …。


   愛してる人の子供を自分の体内(ナカ)に宿せるのは…とても、しあわせな事だから。
   それがずっと、あたしの願いだったから。


   ……ありがとう、さやか。


   …。


   …あたしを、愛してくれて。


   あたしも、ありがとう…杏子。


   これからも、ずっと。


   うん…ずっと。


   ……。


   ……。


   …お前の事も、


   …あなたの事も、





   『愛して、いるから。』