下層区街。
   私はそこで普通に生きていた。
   3RDレンジャーとしての任務を果たし。
   親友、仕事の上では相棒と呼べる人と、一緒に生活を営み。
   時折、青く塗られた壁を見上げては、お伽話である「空」を思う。
   そこは決して空気も水も綺麗ではなくて。
   任務は辛く、一人でこなすのは困難なものばかりで、死と隣り合わせなものだって少なくない。
   生活だって楽じゃない。切り詰めてやっとの毎日。明日を思うより今日を思って日々を過ごしていく。
   けれど。
   私達は笑い、喧嘩をし、背中を預け、時には互いの温度を確かめ、身を寄せ合って眠った。
   確かにそこで私達は生きていたのだ。
   平凡かも知れない。
   希望や夢など、思い描けないかも知れない。
   このまま年老いて、何も出来なくなって死んでいくのかも知れない
   それでも。
   私達は生きていくのだ。
   此の先もずっと地下1000mのこの場所で。



   …然う。



   二人、此処で…。

















   
Д р а к о н  Ч е т в е р т ь

















  
Н о л





   セイ!


   おー、おつかれ。


   それはこちらの台詞。
   おかえりなさい、セイ。


   ただいま。
   ところで体調の方はいかがかな?


   大分、良くなったわ。
   ありがとう。


   とは言え、明日もお休みね。


   もう大丈夫よ。


   明日もゆっくり休んで明後日からまた頑張れば良いよ。
   一日ぐらいじゃ、溜まった疲れはとれない。


   でも


   軽いとは言え、担いで上がってくるのは大変なんだよね。


   …。


   最近はディクもやたらに活発化してるし。
   その辺、考えてね?


   …遭遇した?


   何回か、ね。
   まぁ、大型かつ凶暴なヤツに出くわさなかったのが救いかな。
   流石に一人じゃ捌き切れない。


   然う。


   だから、ヨウコの今すべき仕事は体調を整えること。
   じゃなきゃ、安心して背中を預けられない。


   …分かったわ。


   宜しい。
   それで今回の報告なのだけど。


   どうだった?


   全体的に老朽化は進んでいるけど、一部の損傷が特に激しかった。
   損傷の仕方を見るに多分、ディクにやられたんだと思う。
   あれじゃ、最下層の電気供給に異常が出ていてもおかしくない。
   へたをしたら酸素供給にも差支えが出る。


   応急処置を?


   一応。
   だけどあんなんじゃ焼け石に水、だわ。


   分かった、報告しておくわ。


   いや、もうした。


   セイが?


   ついでに、急いだ方が良いって言っておいた。
   ここは未だ、マシだけれど、下はひどくなる一方だから。


   ええ。


   …さて、と。


   疲れた?


   少し、ね。
   やっぱり一人ではきついもんがある。


   …ごめんなさい。


   なので明後日からは楽をさせてくださいな、ヨウコさん?


   …さぼらないでね?


   さぼりませんよ、生活費がかかってますから。


   そろそろ、新しい清浄機が欲しいわね。
   最近、本格的に調子が悪くなってきたのよ。


   ご飯が不味いのはいやだけれど、水が不味いのはもっといやだね。


   じゃあもっと、切り詰めないと。


   …うへぇ。


   ふふ。


   ま、頑張るしかないかなぁ。


   頑張りましょう、二人で。


   ん、然うだね。


   …ねぇ、セイ。


   んー?


   怪我はしなかった?


   したよ。
   いっぱい。


   見せて。


   だけど、誰かさんがいっぱい傷薬を持たせてくれたから。


   貴女の事だから。
   適当に処置した、若しくは全くしてない箇所もあるでしょう?


   と言うか、気付かない時があるだけだよ。


   それが問題なのよ。
   いつか化膿して大変な目に遭ったじゃない。


   然うだっけ。


   然うよ。


   じゃあ、お願い。


   服を脱いで座って。


   お、大胆。


   ばか。










   …ヨウコ。


   うん…?


   邪公にやられた傷、もう痛くない?


   …ええ、傷は。
   薬が大分、効いたみたい。


   …そっか。


   まさか後になって熱を出すなんて思わなかったけど…。


   だから疲れが溜まってたんだって。


   …。


   どれ…。


   …セイ。


   熱、測ってあげる。


   い、良いわよ…。


   …良いから。


   ………。


   …うん、大分引いたね。
   ちゃんと大人しく、寝てたんだ。


   …誰かさんとは違いますから。


   誰かさんは誰かさんが傍に居ると、ちゃんと大人しくするんだけど。


   嘘ばかり。


   …へへ。


   ……もう、寝ましょう。
   今日は疲れたでしょう…?


   …うん。


   あ、こら…。


   …こうした方が良く眠れる。


   …。


   風邪じゃないんだから、良いよね?


   …もう。


   おやすみ、ヨウコ…。


   おやすみなさい…セイ。










  
О д и н





   ね、言った通りだったでしょ?


   報告、したのに…。


   もう此処は駄目だね。
   暫くは使えない。


   ……むごい。


   こんなもんだよ。


   …セイ。


   所詮、家畜以下、なんだよ。
   “Low D”
〈ローディ〉なんて。


   でも彼らだって人間だわ。


   然うだよ。
   でも、違うんだよ。


   …。


   生きる気力さえ持てない、持たせてもらえない最下層区の彼ら。
   そんな彼らを上から見下げて、仕舞いには、目を向ける事さえ忘れてしまう。
   仮令、血を分けた者であっても。
   それくらい、ヨウコだって身に染みて分かってるでしょう?


   …分かってるわ。
   だけど…。


   未だ慣れない?


   …然ういう言い方、止めて。


   それは失礼。
   さて、ここにこうして突っ立ってても仕方が無いかな。
   どう良く見積もったって、ほぼ全滅には変わりない。


   …どこかに生き残りは。


   ただでさえ空気が淀んで最悪に汚いと言うのに、この居住区は酸素供給が一時的に滞った。
   無理だ。


   ……。


   これじゃ報告も何も無い。
   久々にろくでもない任務に当たったよ。


   …過去形にしないで。
   私達は未だ、此処に居るのよ。


   居るだけだよ。
   だって然うでしょ、死んだ彼らの為に何が出来る?


   …。


   時間は掛かるだろうけれど、いずれ、此処もまた人が住めるようになる。
   仮令、生きる為には劣悪な環境だったとしても。


   …。


   行こう、ヨウコ。
   最下層の居住区は此処だけじゃない。


   …分かってる。


   任務は終わってない。
   なんて、元々は誰の口癖だったかな?


   …。


   …ヨウコ。


   こんな小さな子まで…。


   …仕方が無いんだよ。


   …。


   D値が全て。
   この世界はもう、腐りきってるんだ。


   ……。


   さて、此の先にもう一箇所、小さいけれど居住区があった筈。
   そこも見て来いとのお達しだ。


   …ええ。


   感傷に浸るのは結構だけれど。
   己の身くらい、己で守ってもらわないと困るんだけどな?


   …大丈夫よ。


   なら、良いけど。


   行きましょう、セイ。


   うん。










   …ここも。


   うん、ここも駄目だ。


   …く。


   ヨウコ、ヨウコがそんな顔したところで死んだ者は戻ってこない。


   でも…!


   …し。


   ふ…。


   誰かいる。


   …?


   あれは…。


   あら?


   …。


   あ…。


   ごきげんよう、お久しぶりね。
   後ろが無防備だけど大丈夫?


   …お前。


   エリコ…、どうして…。


   二人とも、健在そうで何よりだわ。
   私は見ての通りよ。


   お前、此処で何をしている?


   あら、久々に再会したかつての“親友”に挨拶も無し?
   淋しいものね。


   ふざけるな。


   ヨウコ、こんなのが相棒じゃ大変じゃない?
   ご愁傷様。


   エリコ、今まで何処でどうしていたの?


   あら、ヨウコまで?


   答えて、エリコ。


   と、言われてもねぇ。


   勝手に抜けて。
   心配したのよ。


   それはありがとう。
   だけど、見ての通り元気だから心配は要らないわよ。


   ふざけるなよ。


   ふざけてなんか、無いわ。
   だけど、然うね。


   エリコ。


   まぁ、簡単に言えば。
   “レンジャー”よりも自由が利きそうだったから。
   ただ、それだけ。


   ……。


   エリコ、どういう事なの?


   言葉のままよ、優等生なヨウコさん。


   エリ


   ヨウコ。


   …セイ。


   こいつ、反政府組織
〈トリニティ〉だ。


   え…。


   あらあら。


   ま、待って。
   だって、そんな…。


   …エリコ様。


   あら、レイ。
   どう、見つかった?


   はい。


   然う。
   じゃ、さっさと回収して帰るわよ。


   了解です。


   じゃ、然う言うことだから。
   折角の再会だったのに、大してお話も出来なくてごめんなさいね。


   エリコ、待って。


   あぁ、でも然うね。


   …。


   マスク、外したら?
   ここら辺はもう、平気の筈よ。


   何を言っているの。
   此処は地下ガスが…あ。


   気付いた、かしら。


   セイ…!


   …ああ、ここらの空気は基準値になってる。
   何故か、ね。


   然うよ。
   だから大丈夫なのよ。


   だから、マスクをしてないのか。


   ええ。


   エリコ、これはどういう事なの?


   ふふ。
   二度目ね。


   エリコ!


   知ってる、かしら。


   え…?


   …。


   ねぇ、ヨウコ?
   ああでも、“3RD
〈アナタタチ〉”には知らされていないかしら。
   いえ、“それ”の詳しい事は隊長格でも知らないわね、屹度。


   何を言っているの、エリコ。


   …。


   貴女は知っているかしら?
   セイ=1/128?


   ……何の事だ。


   流石に知らないわね。
   いえ、知らない振り、かしら?


   生憎、ね。


   まぁ、政府の最重要機密事項だし。
   妥当、なのかしら?


   で?
   反政府組織であるお前達は知ってる、と。


   さぁ、どうかしら。


   答えろ、エリコ=1/64。


   …レイ。
   回収は済んで?


   はい、いつでも戻れます。


   然う。
   ご苦労様。


   恐れ入ります。


   じゃあ、名残は惜しいけれどお喋りはここまでね。
   ごきげんよう、ヨウコ。


   待って、エ


   待て、エリコ。


   あら、抜刀なんてして。
   物騒ね。


   詳しく聞かせてもらおうか。


   聞いてどうするのかしら?


   どうするかは、聞いてからでも良い。


   なるほど、ね。
   ヨウコ。


   …。


   ヨウコはどうする?
   聞きたい?


   エリコ様…っ


   レイ、声が大きいわ。


   しかし…っ


   で?
   聞きたい?
   ヨウコ=1/8192。


   …私が聞きたいのは。


   ん?


   エリコの事よ。


   あら、それって聞きようによっては告白のようね。


   エリコ、貴女は今、何をしているの。
   トリニティに居るって、本当なの。


   想像に任せるわ。
   その方が楽しめるでしょ?


   エリコ…。


   そんな顔、しないで?


   …。


   然うね、何だったら一緒に来れば良いわ。
   歓迎するわよ。


   な…。


   …。


   然うすれば、今の私が何をしているのか分かるわよ?
   ヨウコの場合、百聞は一見に如かずなタイプだから。


   …。


   …る、な。


   エリコ様、そろそろ…


   然うね。
   ヨウコ、とりあえずは考えておいて。
   いずれまた、会うかも知れない時までに。


   …。


   じゃ、セイも。
   ごきげんよ


   ふざけるな…!!!


   …っ
   セイ…。


   …ヨウコ、あいつらの背後を良く見て。


   ……。


   民間人じゃない者が、明らかに、混ざってる。


   ………あ。


   あれは多分……上位のレンジャー、だ。


   相変わらず、目だけは良いわね。


   エリコ、お前達は此処に何を回収しにきたんだ。
   どうしてここだけ、空気は正常化してるんだ。
   答えろ、エリコ!


   …やれやれ。
   本当に時間が無いのだけれど。
   レイ、サイクロプスをここに。


   …!
   それだけはいけません、エリコ様…!


   見せるだけ、よ。


   けれど、命令違反です!


   幾らでも取り繕ってあげるわ。
   然うね、思ってもいなかった賊に強襲されたとか、どうかしら?


   でも


   わたくしの言う事が、理解出来ない、のかしら?


   ……。


   良い子ね、レイ。


   ……どうなっても知りませんよ。


   あら、先の事なんて分からない方が面白いじゃない。


   そんな事が言えるのは恐らく、貴女だけだと思います。


   ふふ。
   それじゃヨウコ、セイ。
   少しだけ、だから。
   目を凝らして見て…


   …。


   ね?


   …。


   あれ、は…。


   はい、お仕舞い。


   …こど、も?


   …少女だ。


   二人とも、当たり。


   その少女が何だと言うんだ。
   その子が最重要機密とでも言うのか…!


   じゃもう一つだけ、ヒント。
   背中には赤いハネのようなものが付いているのだけれど、それがここの空気を正常値に戻した要因になっているのよね。


   …!


   …赤い、ハネ?


   ………まさ、か。


   それ以上を知りたければ、自分達でどうぞ。
   その方が飽きないでしょ?


   その子は何なの、エリコ。


   人の話を聞いていなかった?
   この答えは他人から与えられるものじゃないわ、己で知りたいと願い見つけ出すものよ。
   但し、それだけの覚悟があるのならば、の話だけど。
   ね、セイ?


   …。


   …エリコ様。
   本当に良い加減にしておかないと彼らがまた…。


   はいはい。
   それじゃ二人とも、せいぜい、任務を全うしてね。
   ごきげんよう。


   …。


   …。


   あ、そうそう。
   これは“親友”からの忠告。
   此処で見て聞いた事は“無かった事”にしておいた方が身の為よ。










  
Д в а





   セイ。


   …。


   体を拭いたら?
   さっぱりするわよ。


   ん…ああ。


   何を見ていたの?


   上。


   空?


   いや、青く塗りつぶされただけの、壁。


   だから空じゃない。


   どうだか。
   空なんて誰も見た事が無い、ただのお伽話の産物だよ。


   セイは本当に空は無いと思ってるの?


   見た事が無いからね。
   見る事も無いだろうし。


   然う。


   ヨウコは空があると信じてるんだっけ?


   私はあると思うわ。


   前にも聞いたけど、根拠は?


   だって仮令お伽話であっても明確に「空」と称して、色を「青」だとしているんだもの。


   人の空想はある種、無限だから。


   でも人が空想出来る事は屹度、実現出来るわ。
   空だって…


   ま、どうでも良いけど。


   …。


   さて、ちゃっちゃと拭いちゃうかな。


   …ねぇ、セイ。


   何、拭いてくれる?


   …然うじゃなくて。


   あ、そ。
   残念。


   ……セイ。


   んー?


   ……エリコ、は。


   ……。


   本当に


   その話は此処でしない方が良い。
   己の身を守りたいのならば。


   …。


   トリニティは、レンジャーの敵、だ。
   違う?


   …レンジャーの、と言うより。
   政府のでしょう?


   レンジャーはその政府の直属機関。
   優等生であろうヨウコさんがそんな事もど忘れ?


   …。


   じゃ、また後でね。


   …ええ。


   さて、と。


   …。


   …あー、やっぱり清浄機欲しいなぁ。


   …でも。


   ね、ヨウコ。
   給料が出たらさぁ。


   あの時の貴女の顔は…










   あ…!


   ただいま、ヨシノ。


   おかえりなさい、レイちゃん!
   どうだった?どうだった?


   うん、無事に終わったよ。


   …。


   ん、なに?


   私も行きたかったのに。


   また、そんな事言って。


   だって。


   発作が出たら大変だよ。


   …薬飲めば平気だもん。


   駄目だよ、下層はただでさえ空気が汚れてるのに。
   特に今回は最下層での仕事で


   分かってるわよ、レイちゃんのばか。
   …こほ、こほ。


   ヨシノ…!


   …ただの咳よ。


   でもまた発作が…っ


   大丈夫だって言ってるの。
   全く、レイちゃんは心配性すぎるのよ。


   だって…!


   だって、じゃないわよ、もう。


   あらあら、楽しそうねぇ。
   相変わらず。


   あ、エリコ様。


   はぁい、ヨシノちゃん。
   ごきげんよう。


   ごきげんよう、デコさま。


   て、ヨシノ…っ


   それから、ただいま、かしらね?


   はいはい、おかえりなさいまっせー。


   ぼ、棒読みにも程があるよ…。


   ふふ。


   …何ですか。


   いいえ、やっぱり此方の方が良いと思っただけ。


   は?


   値など、此処では関係ないものね。


   …。


   あ、あの、エリコ様。


   レイ、わたくし、お茶が飲みたいわ。


   へ…?


   宜しかったらヨシノちゃんもご一緒しませんこと?


   レイちゃんが居るなら、私が居ないわけないじゃないですか?


   あら、然うなの?


   ええ、然うですよ?


   じゃ、レイ。
   然ういうコトだから宜しくね。


   え、ああ、はい。


   レイちゃん。


   え、なに。


   誰かの分だけ、美味しく淹れなくても良いからね。


   え、ええ…。


   何よ、その情けない声は。


   だ、だってね、ヨシノ…。


   ふふふ。


   ……止めてくれませんか、その笑い方。
   気持ち悪いんですけど。


   あら、それは失礼?


   本当ですよ。


   …何か楽しそうですね、エリコ様。


   ええ、楽しいわよ。
   それなりに、だけれど。


   はぁ…。


   貴女ぐらいの子を拾ってきたのよね。


   ……はぁ?


   まぁ、背中に人であらざるものを背負っているけれど。


   ……エリコ様。
   それは機密事項では?


   良いんじゃない、別に?


   いや、駄目ですって。


   私ぐらいの子って、何の話?
   レイちゃん。


   え、いや…。


   今回の仕事って、女の子を拾ってきたの?


   …うん、まぁ。


   ……ふぅん。


   で、でも駄目だよ。


   別に何も言ってないじゃない。


   こっそり見に行こうと思ってるでしょ。


   じゃあ、堂々と行くわ。


   もっと駄目だって…!


   ……ふふ。


   ……。


   ……気持ち悪い。


   あら。


   …本当に楽しそうですね。


   ええ、やっぱりそれなりに、ね。


   …顔が気持ち悪い。


   何気に失礼ねぇ、ヨシノちゃん。


   恐れ入ります。


   いや、そこは畏まるところじゃないから…!


   ……何にせよ、どう、動くかしらね。
   特に…


   …エリコ様?


   いえ、何でもないわ。
   さぁ、お茶にしましょう。










   …ふぅ。
   あーさっぱりした。


   …。


   ヨウコ、お腹減った。
   ご飯食べに行こう。


   …。


   ヨウコってば。


   …え。


   ご飯。


   ええ…。


   それとも作ってくれる?


   …。


   ヨウコ。


   …セイ。


   未だ気にしてるの?


   …セイだって。


   その話は、お仕舞い。
   お腹が空いたよ。


   …。


   ヨーコ。


   ……ねぇ、セイ。


   ん?


   セイはどうして、私と一緒にいるの?


   …は?


   貴女のD値なら、もっと上に行ける…いえ、居たのに。


   …そんなこと、考えてたの?


   …私は所詮、3RD
〈サード〉どまり。
   だけど貴女は…


   ヨウコ!


   …。


   貴女らしくないよ。


   ……。


   一緒に居られたら、迷惑?


   …。


   迷惑なんだ?


   …そんな筈、無い。


   じゃ、良いじゃない。


   ……だけ、ど。


   “ローディ”。


   ……。


   とか言うヤツ程、反吐が出るほど、うざいんだよ。
   自分はとんだ下衆野郎のくせしてね。
   消してやりたくなる。


   …。


   …私にはこっちの方が性に合ってる。
   殊に…


   ……あ。


   お節介で世話焼きで、真面目で、優しい…


   セ、セ……んん。


   …。


   は…、ふ…ぁ…。


   ………貴女の隣に居るのが、一番、気楽なんだ。


   ……セ、ィ。


   …お腹、空いたけど。


   あ…ん…、や、だ…め…。


   こちらを先に頂く事にしようかな。


   ……ぁ。










   ……。


   …どこへ、いくの。


   あり、起きちゃった?


   どこへいくの。


   お腹空いたから。
   食べられるの、なんか買ってこようと思って。
   ヨウコ、今は動けないでしょ?


   …。


   良いよ、起きなくて。


   私も行くわ。


   良いって。
   しんどいでしょ?
   久々に頑張っちゃったしさ?


   行くわ。


   休んでて、て。


   行くの。


   行くの、て。


   …。


   どうしたのさ、ヨウコ。
   さっきかららしくないよ。


   …帰ってこないつもりでしょう。


   は?


   貴女、もう…。


   何を言ってるのさ。
   さっきの話、聞いてなかった?
   私の居場所は


   本当は私の隣では無いのでしょう?


   …。


   あの時、明らかに態度が違ったわ。


   …あのさ、何の話をしているのかな。


   エリコがトリニティだと、知った時。
   貴女は…


   ヨウコ、さぁ。


   …。


   私は今、ヨウコを選んで一緒に居たいと思ってる。
   それだけじゃ、足りないのかなぁ?


   ……私の躰をなぞる時、貴女は私を見てい


   それ以上、言ったら。
   その口、裂くよ?


   ……。


   お腹が空いてるからロクでもない事を考えるんだよ。
   腹ごしらえ、しよう。


   …行かないで。


   食べる物、適当に買ってくるよ。


   連れてって。


   今日のヨウコちゃんは聞き分けが宜しくないなぁ。


   お願い、私を連れてって。


   …。


   一緒に、居させて。


   ……。


   あ、待って。


   …。


   待って、行かないで、セイ…。


   …。


   セイ…!!


   ……居なくなんか、ならないよ。


   …。


   やっぱ食べに行こっか?


   …。


   動けるのなら。
   一緒に行こう、ヨウコ。


   ……。


   何だったらおんぶしてあ


   歩けるわ。


   そ?


   歩けるから…。


   なら、行こう。
   一緒に。










   …。


   あー、食べた食べたー。
   おなかいっぱいー。


   …。


   お腹もふくれた事だし。
   少しは機嫌、良くなった?


   …私は別に


   よし。


   …え。


   早く帰って、続き、しようか。


   ………はい?


   不完全燃焼。


   ちょ、一寸


   さぁ、早く。


   待って、待ってセイ…っ


   これからも大事な相棒で居る為に。
   触れ合う事は、とても、大事なコトだよね。


   だ、だからって…


   …ヨウコだけ、見てるって。


   …。


   証明、してあげよう。


   ……セイ。


   さ、早く。


   ひ、引っ張らないで。


   何、未ださっきのが足に残ってるのかな?


   …。


   それとも、腰?


   …ばか。


   ふふ。


   …なに、よ。


   それ、ヨウコだけだよ。


   …それ?


   ばかって、さ。
   D値、私の方が高いってのにね。
   この世界のルールだったら、先ず、有りえない。


   …。


   それから。
   お節介してくれるし、本気で叱ってくれるし……何より、心の底から心配して泣いてくれる。
   そんなローディ、ヨウコだけなのよ。


   …。


   ちなみに今のローディは悪い意味で言ったんじゃないからね?


   ……。


   …え、と。
   例えば、さ?


   …?


   若しもヨウコの方が私よりD値が高かったら。
   私の事なんて、相手にしなかった?


   ……分からない、わ。


   えー。
   ちとショックだなー、それ。


   だって…本当に分からないんだもの。


   …じゃ、言い方を変える。


   ……。


   D値の低い私の事を馬鹿にして、視線すらも向けないで、


   …やめて。


   然うかと思えばローディのくせにとか言って、嘲笑って、挙句の果てには人とは思わな


   やめて、セイ。


   …。


   …。


   …つまりは、然う言うことだよ。


   ……。


   何と言うのかなー、ヨウコはどんな立場であっても私を対等に見てくれる気がするんだよね。
   ま、何となく、なんだけど。


   …。


   だからさ、私はヨウコが愛しいと思うんだよ。


   ……。


   …て、こんなトコで言わせないでよー。
   恥ずかしいなー。


   …そんな顔、全然してない。
   寧ろ、にやけてる。


   うん?


   面白がってる。


   うん。
   じゃ、続きは寝台の中で。


   ……繋がってない。


   明日はやっと非番だし?


   …若しかしたら緊急招集が、


   そん時はそん時。


   …。


   さ、早く帰ろ。


   …。


   正直、早く触りたくってうずうずしてるんだよねー。
   ああもう、指先にさっきの感触がー。


   ……ばか。










  
Т р и





   ひっさびさの非番、と思っていたんだけどな。
   あの時は。


   …。


   何だろうね、この展開。


   …。


   謹慎、挙句に、監視付きになるとは、さ。
   おかげで部屋から出ることもままならない。


   …。


   今日で一週間。
   ヨウコとのんびり出来るのは嬉しいけれど、流石に少し飽きてきた。


   …。


   ヨウコと一緒に居るのが、じゃなくてだよ?


   …ねぇ、セイ。


   んー。


   あの時の報告、やっぱり…。


   電気供給システム破損が原因で、酸素供給が滞り、及び、空気清浄システムが正しく作動しなかった為、
   みんな、一人残らず、全滅してました。
   但し、何故か一つの居住区の大気だけマスクを必要としない正常値までに回復していました。
   居住者は皆、大人から子供まで等しく死んでいたので、この居住区だけ空気が淀まなかったわけでは無い様子でした。
   また、短期間では有り得ない状況だった為、出来る範囲で調査はしてみましたが、結局、原因は不明です。
   尚、近くに廃物遺棄坑及び廃棄ディク処理施設がありましたが一連の事とは関係無いと思われます。
   最後に、迅速且つ確実な修復作業が望まれます。
   以上。
   どこか、おかしい?


   …おかしくはないけど。


   あの時の事はあまり触れない方が良いよ。
   て、何度も言ってたよね。


   …トリニティの事は分からずとも。
   上位レンジャーがああなっていた以上…。


   惚ける事も人生の上では必要な事よ、ヨウコ。


   …。


   ま、何かあったら私が守ってあげよう。
   だから大丈夫。


   ……。


   浮かない顔、だねぇ。
   そんなに信用出来ないかな?


   ……いいえ、信用してるわ。
   だけど私も貴女を守りたい、それだけ。


   そ?
   じゃあ、いつもどおり背中を宜し…


   ……。


   ……誰か、来た。
   1…2…3…人、か。


   …セイ。


   何となく、重苦しい雰囲気がするな…。


   …隊長ではないのかしら。


   …。


   セイ…?


   …いや、何でもないよ。
   それよりも…。


   …。


   得物を。
   何があっても良いように。


   え…。


   良いから。
   ここは黙って私に従っておいて。


   え、ええ…。










   ……ふぅ。


   はぁ…はぁ。


   ここまで来ればとりあえず平気、かな。


   …はぁ。


   ヨウコ、大丈夫?
   怪我は?


   …大丈夫。
   ありがとう。


   うん。
   じゃ、そっちの手を見せてもらおうか。


   そっち…?


   左。
   利き手じゃ無い方。


   …。


   早く。


   大丈夫だから。


   背中、預けるのに不安要素は作りたくない。


   …。


   さぁ。


   けれど、無駄には


   つべこべ言わないの。


   く、ぁ…。


   止血ぐらい、しておかないと。
   あとは消毒。


   …くぅ。


   化膿して腐って切り落とす事になったら。
   この世界では到底、生きらんないよ。
   知ってるでしょ?


   ……。


   よし、良い子だね。


   ……ごめんなさい。


   別に。
   どうってコト、ないさ。
   相棒、だからね。


   ……つ。


   我慢我慢。


   ……。


   よし。
   あとは…。


   …もう、大丈夫。
   ありがとう。


   包帯、忘れてるよ。


   …。


   ……よし。
   さ、もう動いて良いよ。


   …ありがとう。


   さて。


   セイは?


   私は平気。


   けど傷が


   ヨウコのよりは掠り傷。


   ちゃんと処置しておかないと


   それより先を急ぐよ。
   少々、時間を喰った。


   …。


   今のところ、追跡はまいた筈。
   けど、いつどこで遭遇するか分からない。
   私達が逃げたことも報告されているだろうしね。


   それなのだけど。


   歩きながら話そう。


   …。


   で、何。


   どうして


   余計な事を知ったと看做されたから。
   然う考えるのが妥当。


   余計な事って何。


   さぁ。
   でもだからこその襲撃、だったんでしょ。


   わざわざ、上位レンジャーに?


   と言っても、2ND
〈セカンド〉だったけど。
   舐められたもんだね。


   私達は3RDよ。


   実力は2ND以上。


   …貴女は、ね。


   ヨウコもだよ。
   幾つもの死線を掻い潜ってきたのは伊達じゃない。


   けれど私一人では…


   然うだよ。
   ね、私の相棒?


   ……。


   さて、本格的に急ごう。
   網を敷かれる前に。


   ……ええ。











   . . . Продолжение следует