−いつから、辛そうな顔を見るのが苦手になったのだろう。(聖蓉)





   ……。


   …。


   …せ、ぃ?


   …。


   わたし、たしかきょうしつで…。


   ここは保健室。


   ほけん…?


   教室でぼうっとしてた。


   ……。


   貴女が。


   ……そ、う。


   38度6分。
   これは熱がある、と言うのよね?


   ……うん。


   いつから?


   ……。


   答えて。
   いつから?


   ……あさから。
   でもそのときは37度くらいで…。


   それであくまでも普通を装って授業に出て?


   …。


   昼休みになっても薔薇の館に来ないから。


   ……。


   動くの、しんどかったんでしょう。


   …。


   なんで帰らないのよ。


   …だって。


   だって、何。
   そんなに生徒会の活動とやらが大事とでも?


   ……。


   莫迦。


   あ…。


   こんなになってまで。
   莫迦じゃないの。


   …おこってる、の?


   怒ってるよ。


   ……。


   蓉子の莫迦。


   ……ごめんなさ、い。


   …。


   ごめんなさい…せい。


   ……みんなも。


   …。


   心配、してたよ。


   ……ん。


   ……。


   ……。


   …帰ろう。


   …。


   家まで送る。


   …え。


   蓉子に拒否権は無いよ。


   で、でも


   無いんだ。


   ん…。


   ……さっきより、マシになったかな。


   ……せい。


   鞄、持ってきてあるから。


   せい。


   早く帰って寝た方が良い。


   わたしなら一人でかえれる、から。


   ……。


   だから…


   …無いじゃんか。


   …?


   一人で帰せるわけ、無いじゃんか。
   ばか。


   ……。


   送ってく。


   ………う、ん。








  −ひとりで良い…良い筈、だった。(蓉聖)





   聖。


   …。


   聖。


   …。


   聖。


   …うるさいなぁ。
   そんなに連呼しなくても聞こえてるよ。


   …。


   …で、何。


   一寸、失礼するわね。


   は……あ。


   ……いつから?


   ……。


   朝から、なのね?


   ……別に。


   今直ぐ、帰りなさい。


   ……。


   鞄は…この時間じゃ教室にあるわね。


   …待ってよ。


   じゃあ、保健室に行きましょう。


   ……。


   立てる?


   …あのさぁ。


   風邪声。


   ……。


   おまけに熱い。
   多分、発熱してるわ。


   …だとしたら、何。


   こんなとこで寝てないで。
   保健室、或いは家に帰ってちゃんと寝た方が良いわ。


   ……。


   さぁ、聖。


   …やだ。


   は?


   やだ。


   何を言っているの。


   やだ、て言ってるの。


   こんなところで寝ていても良くならないわ。
   だから


   いやだ。


   聖。


   帰りたくない。


   だったらせめて保健室に


   ……。


   聖。


   ……蓉子。


   顔が赤いわ。
   熱が…


   ……一緒に帰ってくれる、なら。


   ……はい?


   一人は、いやだ。


   何を言って…。


   ……。


   あ、聖…。


   ……頭、痛い。


   一寸、大丈夫?


   …じゃない、あんまり。


   ああ、やっぱり早退した方が良いわ。
   このまま学校に居ても屹度、ひどくなる一方だから。


   ……。


   鞄、取ってくるわ。
   先生には私から言っておくか…


   ……。


   …ら。


   ……かえって。


   ……。


   …いっしょに、かえって。


   ……聖。


   ……ひとりは、いやだ。


   ………。


   ……はぁ。


   ………分かった。


   ……。


   但し、今回だけよ。


   ……うん。


   ……とりあえず、離して。


   …。


   熱い手…熱が上がってるんだわ。


   ………よーこ。


   直ぐ戻ってくるから。


   …ぜったい?


   ……。


   ぜったい…?


   …ええ、絶対。


   ………う、ん。








  −恥ずかしげに、お願いします。(星海ネタ・薔薇さま三人組)





   カモン、バーニィ!


   カモン、バーニィ。


   …。


   Come on バーニィ!


   カモン、バァニィ。


   ……。


   うーん…やっぱ、こうかな。
   カモン


   やかましいわ。


   あいた。


   何なの、さっきから。
   カモンカモン、って一体何を呼んでるの。


   バーニィ。


   だから何なのよ、それは。


   あら、蓉子。
   バーニィを知らないの?


   知らないわよ、何なのよ、と言うか仕事しなさいよ。


   バーニィはうさぎみたいなヤツなのよ。


   それでいて足がすんごく早いんだよねぇ。


   やっぱりしがみつくのかしら。


   そもそもヤツは乗れないと見たね。


   いや、どうでも良いわ。
   限りなく、どうでも良いわ。


   と言うわけで、蓉子。


   蓉子も呼んでみない?


   は、何で。


   カモンバーニィ、と言えば良いのよ。


   出来ればこう、艶かしくって言ってくれたら本望なんですけど!


   呼ぶか。


   まぁ、そう言わず。


   言うだけで良いから!


   うるさい。


   蓉子が呼んだら来るかも知れないのに。


   いや、この際バーニィは来なくても良い。
   蓉子のカモンバーニィが聞きたい。


   それより仕事して。


   じゃ、言ったらする!


   ……。


   あら、凄い皺。





   ベシ。





   …痛いわ。


   くだらない事を言ってないで仕事しなさい。


   一回で良いから。
   ねぇ、蓉子。


   言わない。


   良いじゃん。
   一回言ってくれたらちゃんと仕事するからさ?


   言わなくてもして。


   じゃあ、私にやる気を出させて。


   …。


   あ、拳ではない方法でお願いします。


   ……。


   ねぇねぇ、よーこぉ。
   一回、一回で良いから。
   ね?ね??


   嫌よ。


   どうしてさ。


   嫌なものは嫌。


   何、若しかして恥ずかしかったりする?


   …。


   じゃあさじゃあさ、私の耳元でこそっと言えば良いよ。


   はぁ…?


   はい、蓉子。


   ……。


   カモン、バーニィ?


   ……か。


   うん?


   ……。


   …少し、離れてようかしらね。


   蓉子、もう一回もう一回。


   …。


   ね、早くはや





   こんのばかものがぁぁ!





   ぎゃぁ…ッ


   ……あー。
   今日も良い天気ねぇ、太陽系の向こうから宇宙船でも落ちてこないかしらねぇ…。








  −Festive Avenger by Mirage Coast(星海ネタ2・俺屍版三人組)





   …あら?


   はぁ、終わった終わった。
   さ、帰ろう帰ろう。


   ……。


   あぁ、早くお風呂に入りたいわ。


   …うーん。


   蓉子、帰ろ?


   …。


   蓉子?


   …え。


   終わったわよ。


   え…ああ、然うね。


   よーこ、帰ろ帰ろ。


   ええ、帰りましょう…。


   よーこ?


   どうかして?


   …いいえ、何でもないわ。


   まさか、どっか怪我でもした?!


   大丈夫よ。


   見せて、痛いトコ、早く見せて!


   大丈夫よ、聖。


   蓉子は直ぐ我慢するから。


   本当に大丈夫だから。


   腕?足?
   それとも


   聖…。


   信用が無い、


   頭?胸?腰?
   あとは


   ………聖。


   と、言うより。
   ただ単に、


   だって、私の蓉子に傷が残ったら大変だもんね。
   だから


   ………。


   触りたいだけ、ね。


   よーこ、よーこ、よ、ぃだぁっ


   大丈夫だから。
   分かった?


   ……あい、分かりました。


   脳天に拳骨。
   いつも通りでつまらないわ。


   全く。


   だってずっと触ってない…。


   大将を討ったとは言え、未だ、討伐中。


   …だってぇ。


   蓉子。


   ん?


   さっさと帰りたいんだけど。


   然うね、帰りましょう。


   然うだ、早く帰って蓉子とお風呂に入、いたぁっ


   ばか。


   …うぅぅ。


   莫迦の一つ覚えね。


   ……うるせー。


   ………?


   蓉子、帰りましょう。


   …え、ええ。


   …良いもん、お風呂が駄目でも夜一緒に眠れれば、


   ……。


   あ、待って、殴るのは勘弁して下さい。


   ……。


   …て、あれ?
   よーこ?


   蓉子。


   …あ、あぁ、ごめんなさいね。


   やっぱりどこか…!


   大丈夫だから。


   けどやっぱへぶっ


   天狗面、其れはもう良いわ。
   詰まらないから。


   で…こちん!


   はいはい、今はそれよりも。
   蓉子、先刻から一体どうしたと言うのかしら。
   本当に何処か傷めた?


   …いいえ。
   ただ感覚が…。


   感覚?


   もう良い。
   よーこ、こんなヤツなんて置いて帰ろ。
   さっさと、とっとと、帰ろ。


   ……何かを掴めそうな感じなのよ。


   へぇ?
   其れは奥義か何か?


   そんな大それたものでは無いのだけれど。


   ……ふぅん。


   よーこってば。
   早く、帰ろーよ。


   あ。


   さ、帰ろ帰ろ。


   聖、引っ張らないで。


   やれやれ。


   帰ろ。
   二人のおうちに帰ろ。


   みんなも居るわよ。


   帰ったら。
   蓉子と何日かぶりの


   ああもう、聖!
   引っ張らな…!


   お布団、ふかふかだったら良いなぁ。
   ふふ。


   聖、危ない!


   わ…。


   大将が討たれたのだから。
   そのまま引っ込んでいれば良いのに。
   面倒ねぇ。


   江利子!


   はいはい。
   援護は任せて。


   聖!


   あーもう!
   さっさと帰りたいのに…!


   ああ、其れは心配無いわね。


   …は?


   はぁぁぁぁぁ…!!


   え…?





   ドォォン!





   ほら、言ったとおりでしょ?


   ……。


   ふぅ。


   はい、お疲れ様。
   援護もさほど必要無かったわね。
   さ、帰りましょうか。


   ええ。


   …蓉子。


   うん?
   あ、聖、何処か怪我はしなかった?


   其れはへーきだけど。
   今の、何?


   え?


   何か、見た事の無い動きだったけど。


   え、然うだった?


   なんか…いやいつも凄いけど、今回は蹴りから火が…。


   火…?


   ま、アレね。
   暫くは蹴りに気をつけた方が良いわね。
   打撲だけでは済まされないから。


   ……。


   聖…?








  −思い出。〈俺屍版祐巳と瞳子)





   お姉さま。


   …ん?


   当主様がお呼びです。


   あ、本当?


   はい。
   恐らく、次の討伐についてかと。


   そっか。
   じゃ、行かないと。


   …。


   ん、何?


   …いえ。


   ……うーん。


   …?
   お姉さま…?


   とーーうこ。


   ひゃ…っ


   何か聞きたい事があるのなら、はっきりと、言って?


   べ、別に、私は…


   うーそ。


   お、おねえひゃま…。


   全く。
   瞳子はいつまで然うなのかなぁ。


   ひゃ、ひゃなひてくひゃひゃい…。


   良いよ。
   その代わり、


   …。


   ちゃんと白状してくれるなら、ね。


   ……。


   はい。
   で、何?


   …当主様が


   うん、ちゃんと謝る。


   ……。


   と言うかね、瞳子が言ってくれないと気になっちゃって。


   …私のせいになさるおつもりなのですか。


   ううん?


   ……。


   其れで、何?


   ……何をご覧になっていたのですか。


   なんだ、そんな事?


   ……。


   ああ、ごめんごめん。
   一寸ね、懐かしいものをね。


   …懐かしい?


   幻灯。
   私が未だ小さかった頃、皆と撮ったの。


   …皆と言うと。


   あの頃は未だ、先代様がいらっしゃってね。
   乃梨子ちゃんは居なかったな。


   …然う、ですか。


   初めてのお祭で撮ったんだ。
   見てみる?


   …宜しいのですか。


   何で?


   …お姉さまの大事な


   良いよ、見ても。
   と言うか駄目な理由は、一つも、無いよ。


   ……はい。


   でね。


   …。


   この人たちが先代さま。
   志摩子さんの隣にいらっしゃる方が令さまのお姉さまである江利子さまで、


   …。


   この一緒に写っているのは聖さまと蓉子さま。
   聖さまは志摩子さんのお姉さまで、蓉子さまは祥子さまのお姉さま、瞳子から見たら曾お祖母さまにあたるんだよ。


   …この真ん中に写っているのは。


   ああ、其れは私。
   ちっちゃいよねぇ。


   …今とあまりお変わりが無いような気がします。


   ええーー。


   勿論、冗談ですけど。


   でもま、確かに今でも小さいから強ち間違いじゃないかなぁ。


   …お姉さま、嬉しそうですね。


   うん、何しろ初めてのお祭だったしね。


   …いえ。


   うん?


   …。


   今度は何?
   さぁ、言ってごらんなさい?


   ……先代さまと写っているから、では無いかと思ったのです。


   ……。


   勿論、当主様や家族皆で写っている時も嬉しそうなのですか。
   聖さまと蓉子さまと写っている写真は…


   …然うのかなぁ。


   違っていたら申し訳ありません。


   いや、然うなのかも知れない。


   ……。


   私ね、小さい頃は良く、聖さまにからかわれて遊ばれていたんだ。


   …聖さまに?


   何でか分からないんだけど。
   蓉子さま曰く、気に入られてたんだって。


   ……。


   もうね、顔を合わせる度に遊ばれるんだよ?
   其のたび、お姉さまが怒って。


   …はい。


   蓉子さまが其の場を治めて。
   いつも、然うだった。


   …。


   ……私、ね。


   …?


   先代さま達が大好きだった。


   …。


   私は母親が居なかったから。


   …お父上、でしたよね。


   父上も好きだったけど、ね。


   …。


   いつか、聖さまに肩車されて、蓉子さまが心配してくれて。
   蓉子さまの膝の上に座って、その蓉子さまを聖さまが後ろから抱き締めて。
   あの頃は気がつかなかったけど…。


   ……。


   まるで親子のようだったな、て。


   ……親子。


   なんて。
   そんな事を言ったら父上が落ち込んじゃうからあまり言えなかったんだけど。
   それから聖さまも調子に乗っただろうし。


   ……本当に、然うですね。


   ん?


   三人で写っている幻灯は……


   祐巳。


   …あ。


   …。


   瞳子。
   私は祐巳を呼んできて欲しいと言った筈だけれど?


   ……申し訳御座いません。


   お姉さま、あ、いえ、当主様。
   瞳子は悪くないのです。


   どういう風に悪くないのかしら。


   本
〈モト〉を正せば私が幻灯を見ていたから…


   で?


   私が気になどしなければ


   ……。


   ……ごめんなさい、お姉さま。


   ……申し訳御座いません、当主様。


   ……どれ?


   …へ?


   …?


   どれを見ていたの。
   私にも見せてみなさい。


   あ、はい。
   これです。


   ………ふぅん。


   お姉さま、私が未だ小さい頃に


   其れくらい、覚えているわよ。
   貴女にとって初めてのお祭の時の幻灯でしょう?


   …!
   はい、然うです!


   声が大きい。


   ……すみません。


   …。


   ……当主様?


   懐かしいわね。


   ですよね。


   …。


   あの頃は未だ…。


   …。


   …と、思い出に浸るのは、たまには、結構だけれど。
   瞳子もこの頃のうちについて何も知らないわけだから。
   だけれど。


   はい。


   瞳子。


   …はい。


   次の討伐、貴女も出陣
〈デ〉なさい。


   了解致しました、当主様。


   お姉さま、行き先は…


   其れを今から話し合うわ。
   良いわね。


   はい、分かりました。








  −本当は貴女の体温が一番の薬。(聖蓉)





   …。


   …蓉子。


   …。


   薬、未だ効いてこない…?


   …。


   眉間に皺寄ってる。


   …。


   …痛い?


   ……聞かない、で。


   …ごめん。


   …。


   同じ女なのに。


   …。


   …私には、良く、分からない。
   分かることが、出来ない。


   …。


   ……同じなのに。


   …仕方が、無いわ。


   ……。


   個人差があることだから…。


   …だからって。


   こればかりは……仕方が無いのよ。


   …自分に言い聞かせているみたいだよ。


   …。


   ……蓉子。


   はぁ…。


   …早く、効けば良いのに。


   …。


   早く蓉子を…楽に、させてあげて。


   …聖。


   私にはどうする事も出来ない…から。


   せい…。


   …。


   ……ぎゅ、てして。


   ……よーこ。


   して。


   してるよ…もう、さっきからずっと。


   …もっと。


   …。


   もっと、強く…。


   ……うん。


   ……。


   蓉子…。


   …聖は、あったかい。


   ……。


   あなたの体温が…、私を、楽にしてくれるの…。


   ……。


   …本当よ。


   ………うん。


   そんな声、出さないで…。


   ……ごめん、蓉子。


   …貴女のせいじゃ、無いのだから。


   …ごめん。


   もう…仕方のない人…。


   ………よーこぉ。








  −アフタースクールフェスティバルズ(令由・聖蓉・江志)





   令ちゃん。


   うん?


   これ、どうしたの?


   え、どれ?


   それよ。


   …これ?


   それと言ったらそれ以外に何があるのよ。


   ご、ごめん。
   で、これがどうしたの?


   それも私が聞いてることじゃないの。


   あ、そっか。
   ごめん、由乃。


   いちいち謝らないで。


   え、あ、ごめ


   令ちゃん。


   …はい。
   で、これのコトだよね…?


   そうよ。


   花寺の文化祭に行った時に貰ったんだ。


   花寺の文化祭?


   ほら、山百合会の薔薇さまが呼ばれたじゃない?


   ああ。
   で、その時に貰ったの?


   お姉さまが興味を持って、ね。
   でも紅薔薇さまがこれ以上は迷惑だからって。


   これ以上?


   本
〈モト〉はと言えばお姉さまが展示とか教室を見てみたいって言い出したんだ。
   折角だから、って。


   …迷惑なでこちんね。


   それで行った先の教室の子たちが腕につけてたの。
   お姉さまはそれに興味を持ってね。


   腕につけて?
   でもこれ、ヘアゴムでしょ?
   腕にはつかないと思うけど。


   これよりもっと長いものだったんだよ。
   ブレスレットみたいになってた。


   ふぅん。
   それを黄薔薇さまが欲しいって?


   いや、欲しいと言うより興味を持ったみたい。
   作ってるところに行ってみたいって。


   …つくづく迷惑なでこちんね。


   結局、紅薔薇さまが止めたんだけどね。


   そりゃそうでしょうね。
   迷惑だもの。


   で、コレなんだけど。
   向こうの生徒会の人がわざわざ用意してくれたんだ。


   人数分?


   うん。
   焼き物としてはどうやら本格的なものらしいよ。
   向こうの生徒会長が言ってた。


   でも、どうするの。


   どうするって?


   使うの?


   …。


   令ちゃん、髪の毛短いじゃない。
   手首につけるの?


   由乃、要る?


   要らない。


   …そう。


   大体、なんなの?
   これ。


   恐竜の歯型。


   恐竜の歯型ぁ?


   って、言ってた。


   より、要らない。
   恐竜なんて興味ないもん。


   でもお姉さまは喜んでたんだけどなぁ。


   でこちんは変わってるだけ。


   由乃…。


   で、紅薔薇さまと白薔薇さまは?


   ん?


   あのお二人はどうだったの?
   反応。


   ああ、あのお二方は…








   あ。


   聖、何を勝手に漁っているの。


   これ、懐かしいなぁ。


   聞いてるの、聖。


   ほらほら、蓉子。
   これ。


   て、勝手に取り出して…て、あら。


   ほら、これ。


   …こんなところにあったのね。


   と言うか、取っておいたんだ。
   流石蓉子さん、無下にはしないねぇ。


   聖は?


   どっかいっちゃった。
   別に欲しい訳でもなかったし。


   …貴女ねぇ。


   蓉子は何、大事にしてたの?
   仕舞いこんでいたみたいだけど。


   …。


   …やっぱり、嬉しかったの?


   …聖。


   男から貰って。
   嬉しかった?


   …貴女が気にする程でもないわ。


   いやだ、気にする。


   ……。


   やっぱり男からの方が


   怒るわよ。


   ………ごめん。


   忘れてたのよ、それ。


   …忘れて?


   貰ったのは良いけれど。
   使い道は無いし、かと言って折角貰ったのだから捨てるわけにもいかないし。


   …。


   で、仕舞ったのは良いけれどそれっきり。
   今日の今日まで忘れてたわ。


   …どうでも良かった?


   ……正直に言えば、ね。


   そっか。


   こら、嬉しそうな顔、しないの。


   だって。


   大体、聖は。


   ん?


   貰った時は笑顔でありがとうなんて言ってたくせに。


   営業用、だよ。
   そんなの。


   分かってるわよ。


   かなり頑張ったんだよ。
   白薔薇さまとして、さ。


   それも分かってる。
   聖が男の人に対してあんなに愛想が良いの、未だにあまり見たこと無いもの。


   で、それっきり。
   ものは行方不明。


   捨てた記憶は?


   無いけど。
   手元には無いね。


   …もう。


   でもさ、こんなの貰って本当に喜んでたのはでこちんだけだと思うよ。
   令も微妙な顔、してたし。


   聖も思ってた?


   うん。
   大体あいつってばさ、折角だからとか言っちゃってさ。


   珍しいものが好きだから。
   裏方さん達が居たの、江利子も気付いていたハズなのにね。


   私はさっさと帰りたかったのにさぁ。


   知ってる。


   うん?


   その態度、少し出てたもの。


   あらら。


   男くさいの、嫌いだものね?
   昔も、今も。


   否定はしません。


   でも、江利子ね…。


   アイツはどうしてんのかね。
   今でも持ってるのかな。


   どうかしら…ね。


   恐竜の歯型。
   あの時はそれだけのコトだったけど。


   確かに、まさか繋がっているとは思わなかったわね。


   …捨てた、かな。


   さぁ…分からないわね。


   まぁ、どうでも良いけど。


   もう、聖。


   腐れ縁、だからね。
   私にとっては。


   …腐れ縁、ね。


   蓉子にとっても、ね?


   あら。
   私にとっては親友、よ?


   えー。


   当たり前じゃない。


   じゃあ私は?


   …。


   ねぇ、蓉子。


   …言わせたいの?


   うん、言わせたい。


   ……。


   蓉子。


   聖は、私の……。








   …それが、かつての好きだった人がくれたものだったのよ。


   …。


   不思議よね。


   …そうですね。


   まさか、ね。
   でも思えば恐竜だったから、気付いてもおかしくはなかったのよね。


   お気付きにはなられなかったのですね。


   なったわよ。
   付き合い始めてから、暫くして。


   …暫くして、ですか。


   ええ。
   ある日…あれはデートをした日の晩だったかしら。


   …。


   ああ…!
   て、ね。


   ……それは現物を見て、ですか?


   違うと言ったら?


   …そうですか、と答えるだけです。


   そう。


   気に入っていたのですか。


   そうよ。
   当時は、ね。


   ……。


   出来れば作っているところが見たかったのだけれど。
   蓉子が、ね。


   …蓉子さまらしいですね。


   ねぇ?
   ま、今となっては、ただの記憶に過ぎないけれど。


   …江利子さまは


   私は未練なんて、持たないわよ。
   そんなの、面白くも何とも無いもの。


   ……。


   彼が私を選ばなかった。
   けれど私も彼を選ばなかった。
   ただ、それだけの事。


   ……。


   …でも、それでも。


   …はい。


   うまくいく、なんて。
   思っては、いたのだけれどね…。


   江利子さま…。


   …やぁね。
   らしくないわ。


   …そんなこと。


   感傷に浸ったところで。
   面白いわけでもないのに。


   …。


   志摩子。


   …はい。


   今夜はどうする?


   え…。


   私はどちらでも構わないわよ。


   ……私は


   ああけど、そうね。
   今夜は帰らないでも良いわ。


   …。


   そういう気分なだけ、だけど。
   ま、強制はしないわよ。


   して下さい。


   うん?


   して下さい、江利子さま。


   …珍しい。


   …。


   志摩子がそういうこと、言うの。


   私にもそういう気分の時があるだけです。


   そう?


   はい。


   じゃ、そうするわ。
   志摩子、今日は帰らなくても良いから。


   もっと強く強制して下さい。


   …。


   江利子さま。


   …志摩子。


   …。


   帰らないで。
   傍に居なさい。


   ……はい、江利子さま。








   最後の話は相当、私的設定と言う名の妄想が入ってます。
   聖蓉は相変わらず、ですけどね。