−コンドルは飛んでゆく(音楽聖蓉)





   あ、懐かしい…。


   ん?


   これ、コンドルは飛んでいく、よね?


   そうなの?


   知らないの?


   なんか良かったから。


   聖って然う言う人よね。


   うん、然う言う人です。
   良ければ何でも良いもん。


   まぁ、然うだけど。
   これは…英語?


   スペイン語のもあるよ。
   聴いてみる?


   ええ、聴きたいわ。


   じゃ、少々お待ちを。


   …。


   で、さ。


   うん?


   懐かしい、て言ったよね。
   さっき。


   ええ、言ったわね。


   なんで?
   蓉子さん、フォルクローレに興味なんて御座いましたっけ?


   フォルクローレ、は知っているのね。


   うん、書いてあるから。
   これは代表的な曲なんだってさ。


   駅前でどこかの国の人が演奏しているのを聞いた事があるわ。


   ああ、たまにあったよね、然う言うの。
   立ち止まって聴いてた口?


   いえ…ああでも、たまに少しだけ。


   それで懐かしい?


   ううん。


   と、言うと。


   小学生の頃に、ね。


   うん。


   リコーダーで演奏した事があるのよ。


   へぇ、それはそれは。


   音楽の教科書に載っていなかった?


   さぁ、どうだったろう。
   そんな“昔”のこと、覚えてないよ聖さんは。


   ふふ、然うね。


   リコーダーかぁ…まぁ、ケーナも縦笛だから良いかも知んない。


   ええ、ちゃんとパートもあってね。


   割と本格的?


   然うなの。
   打楽器なんかもあってね。
   まぁ、私はリコーダーだったけど。


   蓉子が吹いているの、聴きたいものだね。


   無理よ。
   もう覚えてないもの。


   教科書は?


   無いわ。
   処分しちゃった。


   そ、それは残念。


   …これ、スペイン語?


   うん。


   じゃあエルコンドルパサー、ね。


   良く知ってるね?


   まぁ、それくらいは。


   どっちが好き?


   うーん…。


   選べない?


   …然うね。
   どちらも良いと思うわ。


   それは言葉が?


   いえ、雰囲気が。


   ふふ、蓉子も私と同じになってきた。


   それはどうも。


   じゃあ、歌無しもいかが?


   じゃあ、お言葉に甘えて。


   いえいえ、言葉だけでなく、他でもどんどん甘えてくださいませ。


   ……。


   ね?


   ただ、くっつきたいだけ、でしょう?


   蓉子も、でしょ?


   全く。


   へへ。


   …小学生の頃。


   さっきの続き。


   いや?


   いや、良いよ。


   六年生を送る会というのがあって。


   そーゆーのって何処にでもあるもんだね。


   で、下級生が色々とやるんだけど。


   色々?


   確か歌を歌ったり、とか。
   詳しくは覚えてない。


   なるほど。


   で、六年生がお返しにと、コンドルは飛んでいくを最後に演奏するのよ。


   へぇ…と言うか、渋いねぇ。


   今はどうか知らないけれど。


   案外、続いてたりして。


   …それで。


   うん。


   一年生の時に初めて聴いて、やたらに感動したのよね…。


   …。


   …ん?


   いや…。


   …何よ。


   七歳児にしてなかなか、だと思いまして。


   …自分でも良く分からないのだけど。
   良かったのよねぇ…。


   だから懐かしい、なんだ。


   ええ。
   勿論、リコーダーやら木琴やらの演奏だったからこんな雰囲気のあるものでは無かったけれどね。
   演奏しているのも六年生だし。


   はは。


   ……懐かしいわ。


   好き?


   …然うね、好きだわ。


   そっか。


   ……。


   …じゃ、また聴こうかな。
   二人で…。








  −Rainy Day(聖蓉)





   …。


   …蓉子。


   …。


   よーこ。


   …。


   ねぇ、蓉子ってばぁ。


   …。


   窓の外ばかり見てないで私を見ようよ?


   …。


   ほらほら、聖さんと遊ぼう?


   …。


   楽しいコト、しよう?


   …。


   …むぅ。


   …。


   …。


   …止めて。


   む。


   そんな気分にはなれない。


   じゃあどんな気分になら、なれる?


   …。


   あのさ、蓉子。


   …。


   幾ら外を見てたって止まないよ。


   …!


   今日はずっと雨だよ。


   そんなの…!


   わ…。


   分かってるわよ!


   わ、わ。


   ……分かって、いるわよ。


   ……むぅ。


   でも楽しみにしてたんだもの…。


   うん。


   …とても、とても。


   よしよし。


   ……莫迦にして。


   してないよ。


   …でも子供じみてると思っているのでしょう?


   どうしてさ。


   …出掛けるのが駄目になったくらいで、て。


   だって私と出掛ける筈だったから、なんでしょ?


   ……。


   だったら子供じみてるなんて思わないよ。


   ……。


   今日は駄目だったけど。
   また今度いこ?


   ……。


   今度は屹度、晴れるよ。


   …晴れなかったら?


   曇りでも可。


   ……曇らなかったら?


   雨でも、私は蓉子と一緒ならしあわせ。


   ………何よ、それ。


   大事なのは蓉子と一緒に居ることだもん。


   ……。


   ねー?


   ……もう。


   蓉子、蓉子。
   私と遊ぼう?


   何して遊ぶと言うのよ。


   んー…。


   …だから、そんな気分じゃないと言ってるでしょう。


   昨日、してない。


   あのね。


   今日、出掛けるからって。


   …。


   蓉子とデェトに行けなかったのは私も凄く残念。
   でもそれならそれで他のコトで楽しもうよ。


   …ソレが、コレ?


   うん。


   莫迦。


   あいた。


   貴女の頭の中はどうしてそうなの。


   だって蓉子が好きなんだもん。


   だからってね…。


   いつだって蓉子に触りたい。


   触ってるじゃない。


   セックスしたい。


   ……。


   ごはん、作ってあげる。


   …食べ物で釣るつもり?


   うん。


   美味しくないと駄目だけど?


   頑張ります。


   好きなものじゃないと…ん。


   …勿論、です。


   ……。


   ね、しよ…?


   ………おいしくなかったら。
   承知、しないんだから…。


   ……うん。








   ……よっこ、さ。


   …ん。


   どこか、でかけよっか。


   ……。


   雨、止まないけど。
   行った先が外じゃ無ければ、良いわけじゃない。


   …するだけ、しておいて。


   んー…何となく、さ。


   …あめ、やまない。


   でも弱くなった。


   ……けど、ぬれてしまうわ。


   だから、近場に。


   ……。


   なにか、美味しいものを食べても良いよね。


   …つくってくれるって。


   じゃあ、その為にお買い物。


   ……。


   蓉子の食べたいもの、作ったあげる。
   あまり手のかかるのは勘弁、だけど。


   …むじゅん。


   へへ。


   ……。


   ん…。


   ……こんどは、はれて。


   …そだね。


   はれに、して。


   …へ。


   はれにして。


   …いやぁ、してあげたいのもやまやまだけど。


   …して。


   ……とりあえず。
   てるてるぼうずでも、つくりましょうかね…。








  −とある昼下がり、いつもどおりの昼下がり。(俺屍版聖蓉)





   聖?


   …んあー?


   そんなところで寝転がって。
   其の姿勢、行儀が悪いわよ。


   蓉子もどう?
   日差しが気持ち良いよ。


   まだ風が冷たいでしょう?


   うんにゃ、そうでもない。


   お昼寝をするのなら体を冷やさないところで眠りなさいな。


   寝ないよ。


   と、言ってて。
   気付いたらすやすやと気持ち良さそうに寝ているのよね、貴女。


   考えゴト、してるから。


   へぇ?
   それは参考までに聞かせて貰いたいわね。


   どうしよっかな。


   言いたくないのなら聞かない。


   んー?


   別に聞かなくても良い事だもの。


   蓉子、暇?


   …暇そうに見えて?


   うん。


   お生憎様。


   然う言われると思った。


   誰の上衣を縫っていると思っているのかしら?


   わたしのー。
   楽しみだなー。


   ……。


   あー…。


   ……聖。


   ん、やっぱ暇?


   いいえ。


   ……ちぇ。


   折角天気が良いのだから。
   ごろごろしてないでお散歩にでも行ってきたら?


   そんな気分じゃ無いんだよねー…。


   鈍るわよ。


   適度な運動はしてますから。
   夜に。


   毎回同じ答え。
   もう少し違う事は言えないのかしらね?


   今は言えないなぁ。


   今は?


   あの頃は若かった。


   私よりも若いくせに。


   蓉子だって若いよ。
   肌の張りとか、前と変わらないもん。


   …。


   すべすべだし。


   …ところで。


   んー。


   考え事はどうしたの?


   あー。


   考えはまとまったのかしら?


   いや、考えてなかった。


   ……。


   蓉子とお話してる方が楽しい。


   構って欲しかっただけ?


   然うとも言う。


   もう少し、掛かるから。


   待ってる。


   そのまま寝ないでね。


   そっち行っても良い?


   聞くこと?


   んじゃ、行く。


   邪魔はしないでね。


   針で刺されそう。


   ご希望とあらば。


   痛いのはやだなぁ。


   でしょう?


   少しだけなら、許して欲しいな。


   貴女の程度は私の程度と合わないのよね。


   膝を貸してください。


   邪魔はしないのでしょう?


   しない。
   大人しく寝てる。


   結局、寝るのね。


   うん。


   ……。


   よいしょ、と。


   ……。


   へへ、よーこ。


   全く。
   幾つになっても。


   へへへ。


   何か掛けるものを持ってきなさい。
   じゃなきゃ駄目。


   はぁい。








  −Quake(音楽聖蓉)





   ノークンカージャンティーディーチャンプーマー


   …ご機嫌?


   だって蓉子さんと迎えた朝ですもの。


   ……。


   ヤンニートゥークマイクントンファーラジャーナン


   …空耳?


   や、それなりの自信はある。


   ……ふぅん。


   ノークンカージャンティーディーチャンプーマー


   ……何語?


   さぁ。


   ……。


   わけの分からないところが、面白いでしょ?


   …造語?


   分かんない。


   ……そう。


   でも何となく響きがアジアかなぁ、とか。


   ……アジア、ね。


   あとさ、和太鼓って良いよね。
   やっぱり日本人なんだなぁ、私ってば。


   …そうね。


   あ、起きないで良いよ。
   たまには寝坊も良いもんさ。


   ……。


   あら、思い切りしかめ面?


   ……起きられないのよ。


   あ、なるへそ。


   ……。


   じゃ、どうぞ気兼ねなく寝そべってて下さいな。
   お姫様。


   ……面白がってるでしょう。


   にひひ。


   ……その顔、おおいに憎たらしい。


   ちゅー、してもい?


   …だめ。


   したいなぁ。


   …いや。


   ううん?


   ……。


   お姫様は不貞腐れ気味ですか?


   ……そんなんじゃないわ、ばか。


   あらあら。
   これは本格的だ。


   ……。


   ふむ。


   ……しつこいのよ。


   じゃあさ。
   聖さん特製コーヒーを準備致しますので、それでご機嫌を直しては頂けませぬか。
   姫様。


   ……。


   お好みはミルクを多めに、角砂糖は一つ。
   甘すぎず、苦すぎず。


   ……。


   ね、よーこ。


   ………そんなので、


   じゃ、朝ごはんの支度もつけちゃう。


   ……今朝は


   だからお昼と夕ごはんは宜しくね?


   …。


   よーこのお手製ごはんは聖さんの大好物!


   ……。


   今日は何を作ってくれるのかな?かな?


   ……もう。


   よーこ。


   ……重い。


   ちゅー…。


   …コーヒーは?


   ちゅー、したら。


   ……。


   にしし。


   ……美味しくなきゃ、嫌なんだから。


   はい、存じてますよ、お姫様。


   ………それも止めて。


   ふふ。
   さぁて。


   …。


   ノークンカージャンティー


   …お気に入り?


   なんか、残っちゃった。


   ……。


   パパドォーエイミサネーバンヤン


   ……。


   トゥーローナーンタオラー


   ……確かに、残りそうだわ。








  −不安定、故に。(聖蓉)





   …。


   いらっさい。
   早かったね?


   ……どういう事。


   あのね、唐突に食べたくなったんだ。
   ほら、急に寒くなったじゃない?


   ……これは、何。


   鍋でっす。


   ……。


   さっぱり嗜好で塩ちゃんこにしてみた。


   ………聖。


   んもう、あまりにも早くて吃驚しちゃった。
   あ、若しかして初めからそのつもりだったとか?


   ……。


   だったら、嬉しいな。
   へへ。


   ……貴女が。


   あ、直ぐあっためちゃうから。
   座って待ってて。


   今直ぐ来て、て言うから…。


   やっぱり鍋は誰かと一緒じゃないとねぇ〜。


   ……ッ!


   一人で食べても、ね?


   …誰かと、なら。
   私じゃなくても良いでしょう。
   加藤さんとか、大学の他の子


   だめだよ。
   私にとっての誰かは蓉子しか居ないもん。


   …。


   へへ、美味しく作るね。


   …私、帰るわ。


   へ?


   ……。


   ま、待って待って。


   …離して。


   何で?
   どうして?


   ……。


   よっこ。


   ……た。


   え、なに…?


   …また。


   また…?


   メールよ!


   ……え、と。


   どうしたのって、何かあったのって、返してるのに全然返ってこなくて!
   ただ一言、いますぐ来て、それだけで…!


   あ、あー。


   何事があったのかと思って来てみたら…鍋、ですって。


   ごめん、準備してて気付かなかっ…た。


   ……。


   蓉子、待って。


   ……これで、何度目なの。


   ……。


   そのたびに慌てて来てみれば。
   貴女はのほほんとしていて。


   や、それは…。


   私がどんな気持ちで…!!


   わ……。


   私がどんな気持ちになると思っているのよ…!


   ……。


   ……なのに、貴女は。


   ……蓉子。


   ずっと、貴女に振り回されてばかり。


   ……。


   もう、いい加減にして。


   …蓉子。


   …今日は帰るわ。


   やだ、行かないで。


   …こんな状態じゃ、貴女といられない。


   いやだ、帰らないで。


   ……いい加減にして。


   ……。


   ……さよなら。


   蓉子…ッ


   ……。


   行かないで、傍にいて。


   ……聖。


   ごめん…ごめんなさい。


   ……。


   だってそれだけしか言わなければ蓉子は心配して来てくれると思ったんだ…。


   ……。


   今日だって。
   空気が冷たくて、一人で居るのが嫌で、だから…


   …だったらどうして然う言ってくれないの。


   ……。


   聖。


   ……くだらないって思われたら。
   断られたら…どうしよう、て。


   ……。


   けど、いますぐ来てってそれだけしか言わなければ…


   莫迦…ッ。


   …っ


   …聖は、莫迦よ。


   ……よーこ。


   ……。


   蓉子…。


   ……ばか。


   ……ごめんなさい…ごめんなさい。


   ……。


   どうか、帰らないで…。


   ……。


   お願い、蓉子…。


   ……。


   ……今夜は傍に居て。


   …。


   ……ずっと、一緒に居てよ。


   ……聖。


   夜が、怖い…怖いのよ。


   ……あなたは。


   …。


   ……離れて。


   …!
   蓉子…ッ!


   聖。


   …。


   このままだとお鍋、食べられないでしょう?


   ……え。


   塩ちゃんこ、だったっけ?
   作ったのでしょう?


   う、うん。


   私と食べる為に。


   うん。


   ご馳走になっても良い?


   …!
   もちろん…!


   じゃあ、ご馳走になるわ。
   わざわざ、呼び出されてあげたのだから。


   本当?


   あら、帰らないでって言ったのは貴女よ。


   だ、だって…。


   ……ねぇ、聖。


   …なに。


   くだらないなんて、思わないから。


   ……。


   ちゃんと、言って。
   一言で、良いから。


   …でも。


   言ったでしょう。
   くだらないなんて、思わない。


   ……。


   だから、お願い。
   あまり、心配をかけさせないで。


   ようこ…。


   …貴女を心配するのは、嫌じゃない。
   けど…そのたび、私は莫迦になってしまうから。


   …。


   ああ、でも莫迦になるのも嫌じゃないのよ。
   だって貴女の事だから。


   …うん。


   …けど。
   やっぱり苦しいのよ…。


   ……。


   …息をするのだって。


   ごめん…ごめんなさい、ようこ。


   ……。


   ようこ…。


   …淋しいと思うのは。
   何も貴女だけじゃ、無いから…。


   …蓉子、も。


   ……。


   ……。


   …食べないと。


   …?


   冷めないうちに。
   聖お手製のお鍋を、ね…?


   …いっぱい、作ったんだ。
   明日の分もあるよ。


   …それはつまり?


   泊まっていって。


   …いつもどおり、ね。


   泊まっていくでしょ?


   仕方ない、そうしてあげる。


   …ふふ。


   手の掛かる人なんだから。


   蓉子。


   …ん?


   好き。


   …。


   好き?


   …もう。
   本当に、ばかね…。








  −私だって。(聖蓉)





   ふあぁぁ。


   ……。


   眠くなってきちゃった。
   そろそろ寝ようかな、と。


   …もう、寝るの?


   うん、もう眠い。


   ……まだ、10時にもなってないけど。


   何かね、最近直ぐに眠くなるんだよねー。


   ……。


   よいしょ、と。
   じゃおやすみ、蓉子。


   ……聖。


   また明日ねー。


   聖。


   ……。


   聖…!


   …ん?
   何、呼んだ?


   ……。


   何か用?


   ……そんな言い方。


   用が無いのなら行くけど。


   あ、あのね。


   うん。


   最近…。


   ……。


   あ、あの…。


   ……。


   ……だから、その。


   …はぁ。
   蓉子。


   え…。


   言いたい事があるのならさっさとして欲しいかな、て。


   ……。


   それとも特に無かったとか?


   …。


   ま、それならそれで良いや。
   じゃ、おやすみ。


   …聖!


   んー?


   ……。


   蓉子?


   ……して。


   え、何?


   …どうして、さいきん。


   …。


   その……。


   ……。


   ……。


   …はぁ。
   なんかもう、面倒になっちゃった。


   …ッ


   蓉子。


   ……。


   よーこ。


   …呼び止めてしまってごめんなさい。
   おやすみな


   よっこらっしょ、と。


   ……え。


   蓉子さん。


   え…え?


   ま、ね。
   どんな蓉子でも大好きなんだけどね。


   せ、聖…?


   でももう少し、言葉にしてくれたら良いなぁ、なんて思ったわけ。


   ……あ。


   だから、さ。
   凄く頑張って眠くも無いのに先に寝たりもしてみたんだけど。


   ん…。


   もう、いっかな…。


   …せい。


   …ああ、でもなぁ。
   やっぱり、なぁ、折角ここまで我慢したのに


   ……ま、って。


   …。


   やめな…い、で。


   ……。


   せい…。


   …蓉子、さ。


   ……。


   いっぱい、とは言わないから。


   ……。


   たまにはさ、蓉子から求めて欲しい。


   ……。


   じゃないと。
   不安になるよ。


   …ふあ、ん?


   無理をして合わせてくれてるんじゃないか、て。


   ……。


   そりゃあね、強引な時もあるけどさ。


   ……。


   私からばかりなの…も。


   ……。


   ……蓉子。


   ……。


   ……。


   ……せい。


   …とりあえず、起きられる?


   いや…、いや…。


   …。


   つづけ…て。


   ……あのね、蓉子。


   ……。


   結構、と言うか相当我慢してたわけなのよ、私。


   ……う、ん。


   それは多分、蓉子も……と思うんだけど。


   ……。


   と、なるとだ。
   ひとたび、始めてしまったら…。


   ……。


   …止まれる自信は、さっぱり、無いわけなんだな。


   ……あぁ。


   だか…ら。


   ……。


   …連れて行ってあげたいのはやまやまだけど。
   この体勢だと、ちと、難しいなぁ…とか。


   ……。


   手、貸すよ?


   ……ばか。


   でも蓉子だってベッドの方が、良いでしょ…?


   ………ばか。








   んー……。


   ……はぁ。


   仕合わせ、逃げちゃうよ?


   …ん。


   それとも仕合わせの溜息?


   …ばか。


   へへ。
   お腹、いっぱいになった?


   ……。


   ふふ。


   ……なに?


   かわいい。


   ……。


   かわいいなぁ…。


   ……くすぐったい。


   止める?


   ……つづけて。


   ん、りょーかい。


   ……。


   そーいや、さ。


   …なぁに?


   知ってる?


   …?
   なに…?


   アレの前って、さ。


   ……。


   いつもより、欲しがるんだって。


   ……え、と。


   蓉子、そろそろだよね。


   ……。


   ……Blue day。


   ……あ。


   分かった?


   ……。


   あらら?


   な、何を言い出すのよ…。


   ちらっと小耳に挟んだの。


   …挟まないで、そんなコト。


   ま、人だって所詮、動物だしね。


   ……。


   予めプログラムされてるもの、即ち、本能?


   …だけど人間には“理性”を司る“脳”があるわ。


   それに壊れてるしね、人間の本能ってヤツは。


   ……。


   それでも。
   やっぱり確立が上がる時ってのは、それなりになるもんなんだと思うわけよ。


   ……それなり、て。


   んー、簡単に言えば…盛る?


   ……。


   でも、大丈夫。
   そんな蓉子もかわいい…すごく、かわいい。


   ……もう、いいでしょ。


   なにがいいの?


   ……。


   ……休憩?


   ……。


   欲求不満にさせちゃったし、ね?


   ……も、ぅ。


   計算、してたわけじゃないけど。


   せい…。


   ……いや、ある程度はあった…かな。


   ……。








   ……はぁ。


   …しあわせ、にげちゃうんでしょ。


   だって仕合わせなんだもん。


   …そ。


   ね、心配しちゃった?


   …なんの。


   ししし。


   …もぅ、なんなの。


   私はね、やばいなって思ったよ。


   ……。


   だって気付けば蓉子のことばっか、考えてるんだもん。
   他の事、頭ん中に入らないくらい。


   ……。


   仕舞いには蓉子の裸が


   すけべ。


   うん、そうだよ。
   だから…


   ん…。


   …我慢するのは、キツかったなぁ。


   ……。



   あぁ。
   やっぱり、いいな…。


   ……。


   ねむい?


   ……さぁ?


   まだいける?


   …どこまでいくつもりなの。


   んー、いけるとこまで?


   …やめてちょうだい。


   じゃ、蓉子が満足するまで。


   ……。


   そんなんで、どう?


   ……。


   ね?ね?


   ……。


   おっと。
   寝たふりかぁ?


   ……。


   そんなコトしたって……。


   ……。


   …あり?


   ……。


   蓉子…マジで?


   ……。


   おーい、蓉子さーん。


   ……ん。


   ……。


   ……。


   …うーん。


   ……ねぇ、せい。


   え、なに?


   ……。


   ……寝言?


   ……


   か、な…。


   ……よかった。


   え?


   ……。


   …蓉子ぉ。


   ……。


   …少なくとも。
   あともう一回、て思ってたのにー。


   ………せい。


   …はいはい。
   私はここにいますよ。


   ……せい。


   お…。


   ……。


   ……。


   …せぃ。


   ……。


   ……ほんとうに、よかった。


   ……よーこ。


   ね、せい…。


   …ん。


   わたしのこと…


   好きだよ。


   …もっと。


   好きだ。


   ……。


   好き。


   ……もっと、もっと。


   好き、好きだよ、蓉子。
   蓉子以外、要らないくらいに好きだ。


   ……。


   だから、ようこ…。


   ……もぅ、だめ。


   …もう一回、だけ。


   だめ…。


   …うん。


   …あ………あ、あん。


   よーこ…よーこ…。


   ……せ…ぃ。








  −八月十五日(聖蓉)





   私の最初の記憶は。


   …。


   千切れた腕が電線に引っ掛かっていた、という話。


   …。


   小さかったけど。
   その絵が頭の中に浮かんで、離れなくなってしまったの。


   …。


   怖かった。
   凄く、凄く。


   …そんな話、小さな子供に良くしたね。


   でも、それだけだった。
   それ以外、何も聞いた事が無いわ。


   …けど、トラウマに近いものになった。


   …。


   出来れば、あまり聞きたくない話だね。
   こと、小さい頃には。


   でも、今は聞いて良かったと。
   少しだけ、思えるかも知れない。


   そのせいで怖がりになったかも知れない、のに?


   …多分、それが私の性格だったのよ。
   生来の。


   …そんなもんかね。


   ……貴女は。
   無い?


   私は…。


   ……。


   …あまり会った事が無かったから。
   両方とも。


   …そう。


   会っても、そういう話をするような雰囲気じゃ無かったし。
   私自身、あまり懐いてなかったみたいだし。


   …。


   ああ、けど。


   …けど?


   ちらりと聞いた話。
   一応生き残り、だったらしい。


   …一応?


   身体があまり強くなくて。
   前に立つことは、無かったそうだけど。


   …そうなの。


   ……ああ、そうだ。


   …?


   少しだけ、聞いた事を思い出した。


   …。


   ……鰐のお腹から靴が出てきた事。


   ……。


   直接、では無いけれど。
   今思えば、直接的な表現だよね。


   …そうね。


   ……ごめん?


   …大丈夫。


   …しかし。
   なんでそんな話になったんだっけな…。
   …あまり、覚えて無いなぁ。


   私は…暑い夏だったわ。
   大人たちが出掛けて、たまたま二人になって…。


   他に子供はいなかったの?


   いたと思うけど…覚えてないの。


   …何気なく、だったのかな。


   …分からない。
   けど、伝えたかったのかも知れない。
   だって恐らく、その時に…。


   …大好きだったんだっけ?


   ええ。


   …。


   ……続き、なんだけど。


   …。


   それが終わって“直ぐ”に亡くなった…らしい。


   ……直ぐに?


   あまり強くなかったから。
   折角、生き残ったのにね。


   …。


   薄情?


   …会った事、無いのだから。


   お墓と遺影ぐらい、かなぁ。


   ……。


   でも、子供の頃の記憶って残るもんだよね。
   良かった事はあまり、と言うかほとんど、覚えて無いのに。


   …ええ、そうね。
   多分、私はずっと忘れないわ。


   ……だから、なのかな。


   …。


   人間、嫌だった事を、途中でその形を変えたとしても、忘れない。
   だから、繰り返したくないって思うのかも知れない。


   …ああ。


   でもま…


   ……。


   嫌だなぁ…私は。


   …ええ。


   ……ところで。


   …?
   なぁに?


   夜、一人でトイレに行ける?


   は…?


   だってほら、怖がりじゃん?
   意外と。


   …行けるわよ。


   ええ、本当に?


   行けるわよ、莫迦。


   遠慮しなくても良いから。


   初めからしないわよ。


   うっかり思い出しちゃって、暗がりが怖くなっちゃってとか。


   …。


   子供の頃とかに経験、ありそ…あ。


   ……。


   あ、ああ…え、と。


   莫迦。


   ごめんなさい。


   …。


   えと…まぁ、もう二十歳過ぎてるし、ね。
   うん。


   確かに、怖くなる事だってあるわよ。


   …。


   ああ、もう。
   どうして貴女が居て良かった、なんて思ってしまうのかしら。


   …それ、本音?


   そうよ、悪い?


   全然、悪くない。


   なに、嬉しそうな顔してるのよ。
   私は不貞腐れてるんだけど。


   自分で言う?


   言うわよ、ばか。


   …へへ。


   だから、嬉しそうな顔をするなと言っているの。


   はい、ごめんなさい。


   …全然、反省しているように見えない。


   案外、怖がりなんだよなぁ、かわいいなぁ。


   ばか、離して。


   離さない。


   暑いから。


   離さないと言ったら、離さない。


   ……。


   大事な人だから。
   何があっても、離したくありません。


   ……何があっても?


   そう、何があっても。


   …。


   ね?


   …絶対、よ。


   うん?


   絶対、なんだから…。


   ……うん。








   夏の聖蓉祭。(寧ろ、季節関係ない)