あ!


   あら。


   でこちんがきた!!


   はぁい、でこちんよ。


   せーちゃん!かーさん!れんちゃん!あおいちゃん!


   点呼?


   でこちんが、むぎゃ。


   ごきげんよう。


   ごきげんよー!


   あらあら、元気ね。


   でこちんはなにしにきたの?


   まぁ、ごはんを食べに?


   ごはん!
   またごはん!!


   然う、またごはん。
   美味しいわよね、蓉子のごはんは。


   うん!
   おかーさんのごはんはとってもおしいよ!


   惜しい?


   でもせーちゃんのもうんまい!


   聖は居るの?


   いるよ!
   うーんうーんいってるよ!


   蓉子も?


   おかーさんはおしごと!
   ばりばりおしごと!


   双子は!


   がっこー!!
   ごきげんよー!


   さっきの点呼は何だったのかしら?


   てんこってなに?


   一人一人の名前を呼んで、居るのを確かめる事。


   ……。


   はい、分かってない。


   わかってるもん!


   ふぅん?


   ほんとだもん!


   へぇ?


   むぅぅぅ。


   ふふ。





   『…玄関先で何やってる





   んだ。


   の。


   あ、れんちゃん!あおいちゃん!!
   おかえりんごーー!


   あら、お帰りなさい。


   …。


   ただいま…です。


   れんちゃん、あおいちゃん、あそんであそんで!


   …それより中に入りたい。


   江利子さん、今日はどうしたんですか?


   まぁ、いつもどおり?


   …またごはんか。


   はぁい、当たぁーーりぃ。


   ……弓道部か。


   実は入ってたのよ。


   …。


   勿論、嘘だけど。
   弓なんて、触った事も無いわ


   …。


   え、えと。
   とりあえず中に入ってください。
   ひー、聖ちゃ…さんは?


   うーんうーんいってる。


   …詰まってるな。


   …みたい。


   だからひーがでたんだよ。


   一人で出るなといつも言ってるだろう。


   ちゃんと確認したの?


   でこちん、ごはんたべにきたんだって。


   然う、来ちゃったの。


   ねー?


   ねー。


   …。


   …え、えと。


   中に入れてくれるかしら?


   だって。
   どうするー?


   入れてくれない?


   どうしっよかなー。
   でこちんだからなー。


   あら、このおでこはそれはもう由緒正しいおでこで


   …どんなおでこだ。


   …蓮。


   ゆーしょただしい?


   然うよ。
   このおでこはこんな事も出来ちゃうのよ。


   あ、まぶしー!


   ふふふ。


   …んなわけ、あるか。


   ……。


   し、したたない、きょうはかんべんしてやる!


   それはありがとう。


   ……葵。


   …兎に角中に入ろう、蓮。


   でこちん、どーぞ。
   おかいまなく。


   はい、どうも。


   …それを言うならお構いなく、だ。
   それから仕方ない。


   おかま?


   お構いなく、よ。ひー。


   おかいまなく!


   …もう、良い。


   蓮、ひーはこれから覚えていくから。
   ね?


   …どうだかな。


   蓮も然うだったじゃない。


   …。


   とうもころし、だったかしら。
   猫バスには乗れたかしら?


   ……うるさい。


   え、と。
   だから、智もこれからだと思うの。


   …へぇへぇ。


   もう、またいい加減な返事を…


   ふふ。


   …。


   …江利子さん?


   でこちんがわらった。
   きしょくわる、むぎゃ。


   面白いわねぇ、やっぱり。


   …。


   面白い?


   むぎゃ、むぎゃぎゃ


   見たい、とは思っていたけれど。
   まさか合わさったのが見られるとはね。


   ……。


   …えと。


   むっぎゃー!


   と。
   さて、中に入れて貰っても良いかしらね。


   …。


   あ、はい。
   ひー。


   えこーー!!


   でこ?
   それとも江利子、かしら?















  家 族 団 欒 × 過 程 円 満















   『ただいま』


   おかえりこー!


   あら、今度は私の名前?
   光栄だわね。


   …。


   すみません。
   語尾に何かを付けるのが、今の智のお気に入りみたいで…。


   ああ良いわよ。
   面白いから。


   …面白いか。


   …蓮。


   ええ、面白いわよ。
   貴女達とはまた違って。


   …。


   …。


   蓮はにゃーにゃー言ってたし。


   …。


   葵は蓮から離れようとしないし。


   そ、それは…


   今も、かしら?


   え、え…。


   ん?


   ………。


   あらあら、可愛いわねぇ。
   顔を真っ赤にしちゃって。


   ……。


   …葵、あまり深く考えるな。


   れ、蓮…。


   そうそう、深く考えたって答えなんて出ないし。
   出てる場合は考えたところで変わるわけでも無いし、容易に変えられるぐらいだったら思考する必要も無い。
   そんなものよ、貴女達ぐらいの時は特ね。


   ……。


   ……。


   せーちゃん!
   れんちゃんとあおいちゃん!
   あと、でこちーん!!


   せーい、とりあえず来たからお茶を頂けるかしら?


   …着替えてくる。


   …わた


   れんちゃーーーん!


   …おがッ。


   れ、蓮!


   あそぼ、あそぼ、あそんでー!


   ……。


   蓮、大丈夫?


   あおいちゃんもあそんで、あそんで。


   ひー、それは分かったけど、


   智。


   わぁい!


   …。


   おが。


   後から思い切り、膝に飛びつくな。


   おが?


   あのね、ひー。
   後から膝に飛びつくとカクンってなって危ないのよ。


   おがが?


   兎に角、いきなり飛びつくな。
   良いな。


   …あおいちゃん。


   危ないから、駄目。
   ね?


   …むぅぅ。


   若しもそれで蓮が怪我でもしたら、遊んで貰えなくっちゃうわよ?


   そうなの?


   そうよ。
   そんなの、ひーも嫌でしょう?


   いや。


   じゃあもう、しない?


   ひざにはしない。


   膝以外も、だ。


   おご。


   体が幾つあっても足りない。


   なんこあるの?


   あ?


   れんちゃん、いっぱいあるの?


   ……。


   あおいちゃん、れんちゃんいっぱいあるんだって。


   えと…。


   葵、着替えるぞ。
   制服が皺になったら面倒。


   う、うん。


   あ、れんちゃん、あおいちゃん。


   遊ぶのは後で、だ。


   直ぐに着替えてくるから待っててね。


   むーーーー。


   …ふふ。


   …。


   …。


   なかなか良い、親代わりね?


   …冗談じゃない。


   やっぱり一回りくらい離れていると自然になるものなのかしら?


   聖さんが忙しいとどうしても私達が見てる事が多くなるんです。


   …忙しくなくても、だ。


   ……蓮。


   ふふ、面白い。
   私とはまた違うから、余計。


   …。


   …。


   ああ、着替えるんだったわね。
   さぁ、行ってらっしゃい。


   …。


   …はい、行ってきます。








   ……うー。


   ごきげんよう。


   …あ?


   せーちゃぁん!


   お…。


   おわった?おわった?


   んー…まぁ、何とかなりそうかな。


   なんとか?


   ひーは良い子にしてたかな?


   うん、してたー!


   よしよし。


   聖。


   …なんだ、でこちん。


   あら、ちゃんと気が付いていたの。


   …まぁ、ね。


   疲れてる?


   いや、別に。


   目の下、隈が出来てるようだけれど?


   眼科にでも行け。


   確かに少し、度が合わなくなってきているのよね。
   これ。


   つか、似合わない。


   然う?
   蓉子には似合うと言われたのだけど。


   …いつだよ。


   あら、聞いてないの?
   ふぅん、然う。


   …腹立つ。


   せーちゃんせーちゃん。


   ん、なんだい?


   でこちんね、またごはんたべにきたんだって。
   ねー?


   ねー。


   …。


   ん?


   お前、帰るトコあるだろ。
   そっちで食え。


   たまには違う味が良いものなのよ。


   あのな。


   と言うか、今回はお前に食わせる飯は無いって言わないのね?


   …お前を構ってる余裕が無いんだよ。


   んー?


   何でもない。


   無計画。


   …。


   せーちゃん、せーちゃん。
   ひー、おなかすいた。


   …そーだねぇ、聖ちゃんも空いたよ。


   ぐーぐー?


   うん、ぐーぐー。
   あー蓉子さんの特製雑炊が食べたい。


   あら、それは食べた事が無いわ。


   へへん、なんと言っても特製だもんね。
   お前になんか


   今度、蓉子に言って作って貰おうかしら。
   屹度、蓉子なら作ってくれると思うもの。


   それを黙って許すと思ったら大間違いだ、でこすけ。


   別に聖の許しなんて要らないもの。
   ねぇ、ひー?


   ねぇー。


   て、こら、智。


   にゃ。


   こいつの言うコトは聞かんで良いの。


   いいの?


   と言うか、下の子もにゃーにゃー言うのね。
   これはごろんたの呪いかしら?
   それとも本当はごろんたの、


   それ以上言ったらぶっとばすぞ、鳥居。


   鳥居?


   鳥居だろ。


   ああ。
   然うだったわねぇ、確か。


   あ?
   お前、自分の


   あ、あの、聖さん。


   …あ?


   え、と、ただいま帰りました。


   ああ。
   お帰り、葵。
   今日も

   …。


   蓮君は…?


   …さっき言った。


   聞こえるように言ってほしいかな?


   …。


   蓮君?


   …ただいま。


   おう、お帰り。


   聖さん、大丈夫ですか?


   ん、何が…?


   その、疲れてるみたいで…。


   んー…。


   …聖、さん?


   とりあえず、敬語は止そうか?


   ……。


   ねぇ、葵。


   …はい。


   んじゃ、おなかすいたー。


   …はい?


   空いて、力が入らない。


   ……。


   ねぇ、蓮。
   聖さん、何か食べたいなぁ。


   ……ひー。


   なにー?


   おやつ、食べたのか?


   んーん。


   …。


   ま、そーいうコト。


   ……葵。


   うん。
   聖さん。


   んー…?


   今日の夕ごはんは私達が作り


   作り?


   …作るから。
   何か食べたいもの、ある?


   君らが作ったのなら、なんでも。
   ひー、今日は双子ごはんだぞー。


   わぁい、ふたごはんー!


   双子ごはんって?


   蓮と葵が作ってくれるごはんのコト。


   まんまね。


   じゃあ、聞くな。


   ねぇねぇ、あおいちゃん。


   ん、なぁに?


   ひーもおてつだい、する。


   手伝ってくれるの?


   うん!


   …してくれない方が


   蓮。


   ……これ、作ろう。


   どれ?
   …て、また卵。


   ……。


   へぇ、どれどれ。
   …ふぅん、農夫の朝食ねぇ。
   変わってるわね?


   …。


   これ、オムレツなんです。
   ドイツで良く食べられてる…。


   へぇ、ドイツね。
   でもじゃがいものオムレツと言ったらスペインじゃない?


   …トルティージャ。


   そうそう、それ。
   いつだか聖が作ったのを食べたわ。
   ねぇ?


   お前に食わせたくて作ったわけじゃねぇっつの。
   私は


   はいはい、そーねぇ。
   で?


   …じゃがいもはドイツの主食だ。


   ああ、なるほどね。
   流石、アメリカ人の子供だけあるわ。


   江利子さん、食べられますか?


   ええ、平気よ。
   楽しみだわ。


   …玉葱は


   蓮。


   ……。








   あら、美味しい。


   だろー。


   ひーね、たまごわったー。


   おー凄いなぁ、ひーは。


   すごいすごい?


   うん、凄い凄い。


   …カラ、拾う方がよっぽどの手間だ。


   蓮。


   葵はひーに甘い。


   出来ない事を叱るより、出来た事を褒めてあげた方が良いのよ。


   だから、図に乗るんだ。


   蓮こそ、ひーに厳しいのよ。


   手間が増えるのが面倒なだけだ。


   面倒面倒って。
   私達は智のお姉さんなのよ。


   だから?


   だから、て。


   じゃあ言うけど。
   妹を甘やかさないのも姉の仕事だろ。


   そうだけど。
   でも蓮は何かにつけては面倒って言うでしょう?
   そういうの、止めて。


   面倒なものは面倒だから仕方が無い。


   だから、それを止めてって言ってるの。
   ひーが真似をしたらどうするの。


   その方が手間が減る。


   蓮、どうして蓮は


   まるで夫婦の会話ね?


   …。


   …。


   ひー、口にケチャップが付いてるぞー?


   むーー。





   ただいま。
   江利子、来てるの?





   おかえり、蓉子さん!


   おかえりすー!!


   ただいま、智。


   蓉子さん、蓉子さん。
   私には?私には?


   はいはい、ただいま。


   じゃ、おかえりのちゅー。


   ちゅー。


   してくれるの?


   勿論です、蓉子さん!


   うん、したげる!


   じゃあ…。


   へへ……て、あれ?


   んー。


   …ん。
   ありがとう、智。


   どーいたまして!


   蓉子さん、蓉子さん。
   聖さんにも、聖さんのも。


   今日は良い子にしてた?


   ん、してたー!
   せーちゃんのじゃま、しなかったー!


   聖はちゃんとお仕事してた?


   うーんうーんいってた!


   然う。


   蓉子ぉ。


   何?


   無視しないでよぅ。
   淋しいよぅ。


   ちゃんと貴女にも言ったでしょう?
   ただいまって。


   ちゅーはしてない。
   ひーばっかりずるい。


   それ、四十間近の大人が吐く言葉じゃないわよ。


   歳なんて関係無いですよ。
   全然、無いね。


   いや、流石に気にして頂戴。


   ただいまのちゅーしてよぅ、しようよぅ。


   子供の前で何度も言わないの。
   だから


   せーちゃんと、ちゅー?


   …そもそも智がキスするのだってね、貴女が原因であってね。


   親が仲良しだと、子供にも良いんだって。
   ほら、蓮と葵も良い子に育った。


   ……こっちに振るな。


   …。


   だからね、聖。


   よーこぉ。


   せーちゃんとかーさん、なかよしのー!


   あら、今度はうちの孫?
   結構、数がありそうね?


   よーこ、よーこ。


   …ああ、もう。


   えへへ。


   えへへー。


   ……甘い。


   なんだかんだ言っても最後には、だからね…。


   まぁ、今に始まった事では無いから。
   聖の甘えたと、蓉子の甘やかしは昔からだもの。


   …。


   …。


   それでもね、貴女達ぐらいの時は良く喧嘩してたのよ。
   あれでも。


   …。


   聖さんとお母さんが…?


   ええ、然うよ。
   まさに今の貴女達のように、ね。


   …。


   …。


   ま?
   子育てについて、では無かったけれど。


   …子育てなんかしてない。


   …。


   蓉子、愛してるよ。
   これからもずっと。


   …はいはい、私もよ。


   あいしてるー!


   そうそう。
   聖さんは蓉子さんを誰よりも愛してるんだよ、ひー。


   うん、しってるー!


   ……ああ、もう。


   お帰り、蓉子。


   ただいま、江利子。


   相変わらずね。


   …ええ。
   本当、困ってしまうのよ。


   そんな顔、してないけれど。
   寧ろ、疲れが和らいだって感じすらするわ。


   江利子まで止めてよ…。


   はいはい。


   蓮、ただいま。


   …お帰り。


   お帰りなさい、お母さん。


   ただいま、葵。








   ん、美味しい。


   でしょでしょ?


   蓮、葵。
   今日は二人が作ってくれたの?


   …。


   あの、お母さん。


   うん?


   スープ、辛くないですか?


   これくらいなら大丈夫よ。


   …良かった。


   私はもう少し辛くても


   葵はお前に聞いてねえよ、でこちん。


   でもどうして?


   胡椒、少し入れすぎてしまったような気がしたので…


   …大丈夫だって言った。


   蓮はそう言うけど、私が止めなかったら


   …もう少し辛い方が美味しい。


   でも蓮に合わせると、お母さんも私も食べられないわ。


   そんなに辛くしない。


   私にはこれでも十分なの。


   …子供舌。


   違うもん。


   …子供。


   あ。


   …。


   と、兎に角、蓮に合わせていたら


   蓮、葵。


   ……。


   ……。


   辛さは兎も角。
   とても美味しいから、ね?
   勿論、ドイツ風のオムレツも。


   かーさん、のーふのちょーしょくだよ。


   そうそう、農夫の朝食ね。


   こっちは、のーふのスープ。


   アイントプフ、だったかしら?
   とても美味しいわ、蓮、葵。


   …。


   …はい。


   かーさんかーさん、ひーのはあんまりからくないのー。


   ひーは辛いの、まだ食べらんないもんねー。


   ねー。


   然う。
   智のは別に作ってくれたのね?


   …。


   はい、ひーのは別に…。


   ありがとう、蓮、葵。


   …。


   …うん。


   ところで、聖。


   んー?


   ごはんも作れない程だったのね?


   …その話はまた後にしない?


   然うね。
   じゃあ後で聞かせて貰うわ。


   れんちゃん、あおいちゃん、あそぼあそぼ。


   まだ食べてる。
   ひーも食べ終わってないだろ。


   えーたべたよー。


   ひー、ちゃんと食べてからね?


   たべたら、あそぶ?


   ええ。


   …遊びたくない。


   蓮。


   ……へぇへぇ。


   ねぇ、蓉子さん。


   うん?


   聖さんって言ってみて。


   は?


   蓉子さん。


   …はいはい、聖さん。


   何でしょう、蓉子さん。


   言えって言うから。


   だって聞きたかったんだもん。
   こうね、なんか甘酸っぱい気持ちになるって言うかさ…。


   むー…。


   ひー、ちゃんと噛まないと駄目よ。


   か


   口の中に物を入れて話すな。


   ……むー。


   蓉子、今日はさ…。


   はいはい、なぁに…。


   ……家族団欒、ね。








   ねぇねぇ、あおいちゃん。


   なぁに?


   はんぐりーってどこ?


   はんぐりー?


   はんぐりー。
   きょうね、テレビでみたの。


   ああ、ハンガリーね。
   ハンガリーは確か…。


   …中央ヨーロッパにある国。


   あのね、パラチンタがおいしいんだって。


   …パラチンタ?


   …。


   パラチンター!


   …蓮、知ってる?


   食べ物の何か。


   それは分かるわよ。


   ねぇねぇ、こんどつくって。


   え?


   …無理。


   つくってつくって。


   とりあえず、どういうものか調べないと…ねぇ、蓮。


   …知らない。


   れんちゃん、つくって。


   だから、無理。


   調べれば


   ここは日本。


   …ドイツ風のオムレツは作るくせに。
   聖ちゃ…聖さんにパソコンを貸してもらって調べれば…。


   パラチンタ、パラチンター♪


   …そういうのばかり、覚えるのが早い。


   ねぇ、蓉子。


   うん?


   辛いの、大丈夫になったのね。


   辛いの?


   蓉子さんはあまり、得意じゃないよね。
   辛いの。


   本当に辛口じゃなければ食べられるわよ。


   でも市販の辛口カレーは食べられない?


   …そんなに辛くしなくても良いと思うのよ。


   うん、蓉子さんの作るカレーは美味し、むぐ。


   とりあえず、それは良いから。


   …何しやがる、でこちん。


   あの子。


   蓮?
   蓮がどうかした?


   胡椒が利いたスープ。
   とても美味しかったわ。


   …え、と。


   …思い出した。


   聖?


   味噌汁にラー油事件。


   …あ。


   そうそう。
   味噌汁にラー油、だったかしらね。
   でも事件って言う程では無いと思うけど。


   いつもなら可愛いだけのにゃーにゃーがただの悲鳴になったのは、後にも先にも、あれ一回だけだ。


   あら然う?


   あら然うじゃねぇ。


   今は違うわよ?


   は?


   お味噌汁にラー油。


   どうでも良い。


   今は然うね、


   どうでも良いっつの。
   つか、タバスコでもマスタードでも入れやがれ。


   お味噌汁にタバスコってどうなのかしら?
   マスタードは流石に試したいとは思わないけれど。
   ねぇ、蓉子?


   ねぇ、て。


   あの子、今では辛いの好きになった?


   どちらかと言うと、然うね。
   葵はあまり得意では無いのだけれど…。


   あのラー油が良かったのかしら?


   それは違う、断じて違う。


   うちのは辛いのが苦手だから。


   聞いてねぇ。
   つか、志摩子にまで


   してない。
   あの子は白味噌の辛く無いのが好きだから。
   白薔薇だけに。


   …。


   知らなかった?


   …あまりのくだらなさに、言葉が出なかっただけだ。


   ふーん。
   ま、良いけど。


   …。


   間違ってもラー油を、七味すら入れられる雰囲気では無いのよね。
   残念なことに。


   するな。


   だから今度はひーで


   お玉で殴られたいか。
   つかお前がひーとか言うな。


   お玉はその為の道具じゃないわよ。
   ねぇ、蓉子。


   …江利子。


   あら。


   しないでね。
   絶対に。


   …。


   絶対に、駄目。


   …あらあら。


   うちの可愛いちび達はお前の玩具じゃない。


   蓮と葵はもう、ちびじゃないけれど。


   それでもうちのちびに変わりは無い。


   親莫迦?


   うるせ。
   何でも良いから、うちのちびで遊ぶな。
   遊ぶなら自分ちの


   詰まらないんだもの。


   …お前なぁ。


   何と言うのかしら。
   冷めてる…とは違うのだけれど、いまいち面白い反応が返って来ないのよね。


   …。


   ん?


   ただの自業自得だ。


   然うかしら?


   然うだ。


   蓉子も然う思う?


   …と言うより。


   うん?


   ある意味、貴女の子よね。


   どういう意味?


   …勝手知ったるとはまた違うとは思うのだけど。


   れんちゃーん!


   飛ぶな。
   下に響く。


   えーつまんなーい。


   つまんなくて良い。
   飛ぶな。


   ぶぅ。


   …変なところばかり、聖に似て。


   まぁ、聖さんの子供だし…。


   …。


   つまーんなーい。








   勝手知ったる…ね。
   当たらずと雖も遠からず、かしらね。


   でこちーん。


   ん?


   これ、あげる。


   何かしら?


   でこちん。


   あら。


   おえかきおえかき。


   これ、私?


   そう、でこちん!


   だって。
   どうかしら?


   でこ具合がそのまんま。
   ね、蓉子。


   …。


   蓉子は?


   …おでこが。


   ひー、良く描けてるぞぅ。


   えっへん。


   と言うか、私っておでこだけ?


   すみません、江利子さん。


   あら、なんで?


   智がどうしても描くって聞かなくて…。


   ああ、良いわよ。
   聖達が言うように、良く描けているわ。
   髪の毛が後退しまくってるおでこ、とか。


   …すみません。


   ……。


   結局、お絵かきにしたのか。
   蓮君。


   …君は止めろって言ってる。


   蓮、葵。


   はい、お母さん。


   …。


   明日の支度は大丈夫?
   宿題は無いの?


   宿題は無いですけど…


   …英語。


   お風呂に入ってからにしようと思ってます。
   それまでは


   れんちゃん、あおいちゃん、れんちゃんとあおいちゃんもかいてあげるー!


   …もう、描いたろ。
   髪の毛の無い…。


   じゃあ、


   飛ぶのは止めろ。


   うたうー。


   …は?


   うた、うた。
   まりあさま、うたってうたって。


   ……。


   あおいちゃん、うたって。


   え、と、マリアさまの心?


   まりあさまのこころー!


   ……はぁ。


   ふむ。
   ちびっこは元気ねぇ。


   結構な事だろ。


   おっきいちびは疲れてるみたいだけど。


   蓮と葵には見てもらってばかりだから。


   歳が離れていると、こういう関係になるものなのかしらね。


   さぁ、知らん。
   お前の方が知ってるだろ。


   うちは男だったから。


   江利子の事、凄く可愛がっていたものね。


   今でも、よ。
   いい加減にして欲しいわ。


   ところで、江利子。


   何?


   今日はどうするの?
   時間、大丈夫?


   ああ。


   ……。


   そんな目で見なくても良いわよ、お義姉さま。


   気色悪い。


   大丈夫よ、蓉子。


   然う…。


   さて。
   れーん、あおい、ひじりー。


   …。


   はい?


   なになに?


   江利子さんは帰るから。


   …。


   え、もうですか?


   帰って欲しくない?


   あ、いや…。


   でこちん、かえるの?


   待たれちゃってるのよねぇ。
   難儀な事に。


   …。


   …。


   ばいばい、でこちん。


   うん、ばいばい。


   あ、ごきげんよー?


   はい、ごきげんよう。


   …。


   …。


   蓮、葵も。
   ごきげんよう?


   …ごきげんよう。


   ごきげんよう、江利子さん。


   ご飯、ご馳走様。
   おいしかったわ、ありがとう。


   …。


   あ、いいえ…。


   じゃね、蓉子とアメリカ人。


   気をつけてね。
   聖、途中まで


   やだ。


   聖。


   ああ、良いわよ。
   未だそんなに遅くなってないから。


   でも


   いやだ。


   …聖。


   ふふ。
   ねぇ、蓉子。


   え?


   結構、良いものかもね。


   …えと?


   あれ。


   あれ?


   まーりーあーさーまーのーこーこーろー。


   それーはサファイアー。


   ……。


   れんちゃんもー。


   ……わたしたちをかーざる、ひかーるサファイアー。


   へたくそー。


   うるさい。


   ふふ、面白い。


   江利子?


   ねぇ、智もリリアンに?


   そのつもりだけど…。


   姉妹でリリアン、ね。
   歳も離れているし、それも面白いわね。


   …て。


   ま、分からないけどね。


   まさか、お前…。


   ん?


   ねぇ江利子、まさか…


   蓉子はまさか、だった?


   え…。


   アメリカ人は、確信犯でしょうけど。


   やかましい、でこちん。


   ふふ。
   じゃあ、ご馳走様。


   もう来るな。


   そうだ、蓉子。


   うん?


   この眼鏡、私に似合ってる?


   ええ、良く似合ってると思うけど。
   でも眼鏡にしたのね。


   ええ、然うなの。
   ほらね、言ったでしょう?


   …今かよ!


   え、何が?








   …。


   …。


   …蓉子、さ。


   気になる?


   …。


   気になるのでしょう?


   ……まぁ。


   会いに、行く?


   …いや。


   …。


   何かあったら、向こうから知らせて来ると思うから。


   …貴女達は昔から、然うね。


   それが私達だから。


   …然うね。


   …。


   でも、気になるのね。


   …うん。


   …。


   ……蓉子。


   ん…


   …やっぱり、複雑だよぅ。


   よしよし…。


   …。


   かーさん。
   せいちゃん、どーしたの?


   ん、一寸だけ疲れちゃったんだって


   うーんうーんいってたから?


   然うなの。


   そっかー。


   …。


   …聖さん、大丈夫ですか?


   大丈夫よ。
   ねぇ、聖。


   …うん、蓉子がいればへーきー。


   …。


   …え、と。


   あと、君達もいるから。


   …。


   …。


   ひーは?ひーは?


   勿論、ひーも。
   なー?


   なー?


   …ま、明日になればいつもどおりだろう。


   蓮君のその釣れなさも好きよ、聖さんは。


   …気持ち悪い。


   照れるな照れるな。


   てれうなうれうな。


   照れてない。
   智、お前も繰り返すな。








   …おかえりなさい。


   あら。


   何。


   起きていたのね。


   悪い?


   いいえ。


   そんなに遅い時間じゃないわよ。


   ま、然うね。
   志摩子は?


   帰って来ないと思ったわ。


   残念だったかしら?


   …。


   江利子さま。


   うん?


   おかえりなさい。


   ただいま。
   未だ起きていたの。


   はい。
   お茶、飲みますか?


   ありがとう。


   …。


   お食事は


   してきたわ。


   然うですか。


   …連絡ぐらい、


   あんたが私の愛人って呼んでくれたヤツの家で、ね。


   …そんなの、どうでも良いわよ。


   おやすみ。


   まだ、寝ないわよ。


   そ。


   …私、部屋で明日の予習をするから。
   何かあったら言って。


   ええ。
   ありがとう、恵麻。


   …うん。


   志摩子。


   はい。


   明日、食べるから。


   はい、分かりました。


   体調は?


   大丈夫です。


   然う。


   お元気でしたか?


   会ってくれば良いわ。
   何も変わって無いから。


   ふふ、それだけで十分です。


   ふぅん。
   貴女達は昔から然うよね。


   然うですね。


   ま、良いけど。
   そうそう。


   はい?


   ちび達が作ったのよ、ごはん。


   ちび…蓮と葵、でしょうか?


   ええ。
   結構、美味しかったわよ。
   やっぱり似るものなのね。


   味、ですか?


   それも然うだけど。
   嗜好も。


   子供の頃から食べているでしょうから。


   ご丁寧に聖と蓉子、どちらにも似ているのよ?
   少し面白かったわ。


   ふふ。


   貴女も然うなのかしら?


   恐らくは。
   江利子さまも然うでしょう?


   さぁ、どうかしらね。
   座ったら?


   …。


   ん?


   …はい。


   三番目のちび、前より大きくなってた。


   はい。


   蓮と葵ほど露骨じゃないけど。
   矢張り、似てるわよ。
   とても。


   …。


   ふぅ…。


   お疲れですね…。


   …ちびは?


   もう、早くに…。


   …然う。


   ……。


   …未だ、黙っておこうかと思ってるのよ。
   色々と、ね…。


   面白いから、ですか?


   …入園式に分かった方が良いじゃない?


   然うですね…。


   ……。


   …江利子さま。


   それ。


   …え。


   そろそろ、止めにしましょうか。


   …。


   さま。


   ……。


   ま、いきなり呼び捨てにしろとは言わないわ。
   けど、考えておきなさいな。


   ………はい。