−しろ、あんど、もも。(佐藤家)





   蓮君だけに。
   ホワイト仕様にしてみました〜。


   …。


   …良く見つけたわね、こんなの。


   いや、特注?


   ……特注?


   うん、特注。


   ……。


   令がねー、喜んで引き受けてくれたよー。


   …莫迦?


   令が?


   貴女が。


   なんで?


   あの子だって社会人なのよ。
   自分の生活だってあるの、忙しいの。


   でも喜んで引き受けてくれたし。


   しかも私に黙っているなんて。


   脅かせようと思ったの。


   他人を巻き込まないで頂戴。


   …怒られた。


   怒らせないで。


   ……むぅぅ。


   後でお礼の電話を掛けておかないと。


   …。


   聖。


   ……。


   へそを曲げて。


   …だって。


   確かに可愛いわ。
   だけどね…


   ……。


   …はぁ。
   ちゃんと、分かってるから。


   …何が。


   喜ばせようとしてやってくれたという事。


   ……。


   それで。
   葵のは


   …桃色タイガー。


   ……。


   赤よりも桃色かな、と。
   どちらにせよ、現実には居ないけど。


   …ふぅん。


   ……だめ?


   …良いんじゃない?


   かわい?


   ええ、かわいい。


   でしょ?


   ええ。


   …へへへ。


   …単純、なんだから。


   蓮君蓮君。
   いつもみたいににゃーって言ってみ?


   …。


   葵でも良いよ。


   …。


   何なら二人揃って。


   …。


   …。


   あら?


   …よーこ。


   …おかーさん。


   二人ともとても可愛いわ。


   ほら、蓉子もこう言ってるよ?


   …。


   …。


   あれ?


   ……。


   ……。


   ふむ。
   何というか、もじもじている葵の可愛さは犯罪だな。
   気をつけないと。


   親ばか。


   よーことお揃いだもんね。


   言ってなさい。


   しし。
   ま、それは兎も角、だ。


   …。


   蓮、にゃー、って言ってごらん?


   …。


   ほら、蓉子も言って。


   何でよ。


   蓉子が言えば効果覿面。


   あのね、無理矢理言わせても


   いや、蓉子が言えば無理矢理には当たらない。


   …どんな理屈よ、それ。


   言ってみて、言ってみて?


   ……全く。
   蓮。


   …。


   いつもみたいに、にゃぁ、って言ってみて?


   …。


   …。


   …。


   …にゃぁ。


   ああもう!
   葵かわいーー!!


   …ッ


   …聖。
   葵が吃驚してるじゃないの。


   いやだって、ねぇ?!


   はいはい。
   分かったから、落ち着いて。


   ああ、葵は本っ当にかわいーなぁ。


   …。


   …蓮?


   …。


   こほん。
   蓮、嫌なら良いのだけど……にゃぁ、て言ってみて?


   …。


   …。


   …。


   …と言うか。
   私、何やってるのかしら…。


   ……にゃー。


   ん?


   にゃー。


   ……!


   お。
   蓮君もやっと言った?


   にゃ。


   ふむ、かわいいかわいい。


   ……。


   ね、蓉子。


   ……。


   蓉子?


   ……あ、いえ、何でも無いわ。


   …。


   何でも無いのよ?


   ……ししし。


   何でもないったら。


   ほら、やっぱり私と蓉子は一緒だった。


   だから


   似たもの夫婦?


   ……ああ、もう。


   にゃー。


   …にゃぁ。








  −一年の計は元旦にあり。(双子高等部二年)





   …。


   はい。


   …ふぁ。


   蓮の分。


   ぁぁ…。


   はい、一味。
   ここに置いたからね。


   …。


   で。
   未だ“起きない”の?


   ……蓉子は?


   聖さんとひーを連れて初詣。


   …。


   本当は私達も行く予定だったのに。


   …あんなトコ、行く気なんて湧かない。
   人が多すぎて面倒。


   おみくじ、引きたいの。


   …んなの、正月じゃなくても引ける。


   お正月だから引きたいんじゃない。


   …あ、そ。


   だから。


   …。


   お雑煮、食べ終わったら。
   付き合ってもらうから。


   …一人で行け。


   いや。


   ……。


   蓮。


   ……。


   聖さんと蓉子さんにも言ってあるんだから。
   待ち合わせの時間だって。


   ……面倒な事を。


   だってそうでもしないと蓮は動かないもの。


   …それでも動きたくない。


   蓮。


   …。


   お餅、一つで足りる?


   ……もう一つ。


   ん、分かった。


   …。


   じゃ、さっさと食べちゃってね。
   髪の毛もちゃんと整えて。


   …。


   寝癖、ひどい事になってる。


   ……寝てたいんだけど。


   だーめ。


   …。


   食器、洗ってしまいたいから。
   早くね。


   …詰まらせたらどうするんだ。


   飲み込まないようにすれば良いの。


   ……卵焼きは?


   言うと思った。


   …。


   蓮がグーグー寝てる間に聖さんとひーが食べちゃった。


   …。


   さっさと起きないのが悪いんだって。


   ……。


   伊達巻ならあるけど?


   ……お代わり。


   はい。


   ……なると。


   そう言うと思ったから。
   追加、しておいた。


   …。


   お礼は?


   …どうも。


   はい。


   …。


   一味。


   ……どうも。


   数の子、食べる?


   …ああ。


   黒豆。


   …。


   かまぼこ。


   …。


   お醤油、要る?


   …いらない。


   ん。


   …伊達ま


   卵焼きも要る?


   …。


   聖さんとひーが食べてしまうの分かってたから、て。
   蓉子さんがこっそりと、ね。


   …。


   はい、蓮。


   …。


   私も食べて良い?


   …食べたんじゃないの。


   ううん、私は食べてないの。
   だって。


   …。


   蓮と食べようと思ったから。


   …。


   …やっぱり、美味しい。
   蓉子さんの卵焼き。


   ……。


   あ、もうこんな時間。
   蓮、早く。


   ……葵も一緒に行けば良かったんだ。


   だめよ、そんなの。


   …。


   そしたら屹度、ずっと寝てるに違いないんだもの。
   蓮は。


   …眠いんだから寝るのは当然だ。


   寝てばかりいたら、体、鈍っちゃうわ。
   ただでさえ蓮は怠け癖があるんだから。


   …。


   ね?


   ……葵。


   なに?


   …。


   蓮?


   お節介。


   …!


   …。


   もう、蓮は。


   …。


   あけましておめでとう、も言ってないのに。


   …あけましておめでとうございました。


   …もう!


   …。


   どうして蓮はそうなのよ。


   こうだから仕方ないね。


   新年早々、憎まれ口ばかり。


   お互い様。


   ……。


   ごちそうさま。
   食器、さっさと洗いたいのだろ。


   ……もう。


   葵。


   なに…


   …。


   ……。


   大事なのだろ、新年の挨拶は。


   ……ばか!








  −身をもって、知る。(蓉子と蓮)





   …。


   よーこ!


   ……蓮。


   よーこ、あそぼ。


   …。


   よーこよーこ。


   …ごめんね。


   よーこ?


   …聖。


   あいよ。


   にゃ…。


   今日の蓉子さんは一寸無理なんだ。
   だから聖さんと遊ぼう。


   やー!


   さて、何して遊ぶかな。


   よーこ、よーこ…!


   …ごめんね、蓮。
   また、今度ね…。


   にゃぁ!


   あ、そうだ。
   蓉子。


   …なに。


   りんご、あっためてあげよっか。


   …。


   バニラアイスを添えた方が美味しいんだけど。
   今はりんごだけの方が良いでしょや?


   …うん。


   食べられそう?


   …ええ。
   ありがとう、聖…。


   うん。


   ふぅ…。


   …ねぇ。


   ん…?


   …。


   ん……。


   …ほんの少しでも、紛れるように。


   ……ばかね
   でも…ありがと。








   …蓮。


   …。


   蓮。


   ……。


   お腹、どう?


   ……。


   まだ痛む?


   ……。


   お薬、効いてこない?


   ……さっきよりは。


   そう…良かった。


   …。


   何か、食べる?
   薬を飲む為にヨーグルトぐらいしか、食べてないでしょう?


   ……いや。


   じゃあ、果物は?
   りんご、剥いてあげる。


   ……。


   …やっぱり、だめ?
   食べられない…?


   ……あったかいの。


   え、なぁに?


   …あったかいのが、いい。


   あったかいの…。


   ……。


   あ、蓉子さんの。


   ……。


   分かった。
   今、作ってくるね。


   ……。


   直ぐ作ってくるから。


   ……葵。


   ん、なに?


   …。


   他に何かして欲しいことがあったら。
   言って?


   …。


   何でも、するから。


   …なんでも?


   うん。


   …。


   あ…。


   ……はぁ。


   ……。


   …。


   …少しは紛れた?


   …全然。


   ……後でさすってあげる。


   ……








  −ノータイトル。(夫婦)





   …。


   …また。


   …。


   双子だったら面白いね…?


   ……。


   返事、無し?


   ……。


   …それとも疲れちゃった?


   ……。


   蓉子のおなか…あったかい。


   ……。


   …私の、あつかった?


   ……。


   もっと欲しい…?


   …ッ!


   …欲しいでしょう?


   あ、もう…。


   …ねぇ、蓉子。


   …だ、め。


   ねぇ…欲しいって言って…?


   ……。


   ……私が欲しいって。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……ようこ。








  −愛を誓う日。(双子高等部…と)





   蓮。


   …。


   これ、どうしたの。


   …貰った。


   誰に。


   知らない人。


   …。


   …リリアンの制服は着てた。


   お礼は言ったの。


   一応。


   …で、幾つ?


   あ?


   今年は幾つ貰ったの。


   …そこに入ってるよ。


   勝手に漁れって?


   どうぞ。


   …嫌よ、そんな趣味の悪いこと。


   所有者が良いって言ってんだから、別に良いんじゃないの。


   でも、いや。


   あ、そ。
   じゃ、知らない。


   …蓮。


   ふぁぁぁ。


   ちゃんとお返しをしないとだめよ。


   …面倒。


   貰いっぱなしだなんて。


   …葵、やっておいて。


   蓮!


   …。


   ちゃんと、して。


   …。


   貴女を想って、みんな、くれたのよ。


   …それ。
   毎年、聞いてるな。


   毎年、言わせないで。


   …別に欲しいなんて言って無いんだけど。


   蓮は薄情だわ。


   …。


   他人に対して。
   全然、人の気持ちを考えない。


   …だから、何。


   蓮。


   勝手にくれただけだ。


   だから…っ


   私を大して知りもしない。
   挙句、自分の想像を押し付ける人間は好きじゃない。


   それは貴女が他の人とあまり話そうとしないから。


   …。


   …蓮が人見知りなのは知ってるわ。
   人とうまく接する事が出来ない事も。
   でも、


   余計なお世話だ。


   …。


   …。


   …蓮。


   …。


   世界は、蓮が思っているよりずっと広いわ。


   …。


   永遠に箱庭で生きることなんて


   …葵だって。
   今は同じようなもんだ。


   ……。


   …私は。


   …。


   狭かろうが、広かろうが、そんなのはどうでも良い。
   ただ…。


   ……。


   私を本当に知る人間が一人でも居てくれれば、それで良い。


   ……そんな、の。


   …あとは面倒だ。


   聖さんや蓉子さんは?


   …聖と蓉子は親だ。


   けど


   嫌いになんか、ならない。


   ……。


   …それで、良いだろう。


   ……恵麻。
   そう、恵麻は?
   彼女だって…


   …あれはただのでこちんだ。


   ……。


   ……。


   …手紙もあるわ。


   そう。


   …どうするの。


   どうもしない。


   …。


   ところで。


   …。


   葵は?


   …私が何。


   貰ったんじゃないの。


   …ええ、そうね。


   そう、それは良かった。


   ……。


   ふあぁ、少し寝る。


   蓮。


   …。


   蓮。


   ……なに。


   これ。


   …。


   今年の。


   ……あぁ。


   蓮はくれないけど。


   ……。


   私も他の子と同じだわ。


   …葵。


   …そう、私も。


   …これ、食べても良いんだよな。


   蓮にあげたんだもの。
   好きにして。


   …そ。


   …。


   …へぇ。


   …代わり映え、しなくてごめんなさいね。


   無難が一番だ。


   …。


   ……。


   …味も無難?


   うん。


   …。


   葵。


   …。


   葵。


   …な、んん。


   …。


   や、…ふ、…ん。


   …。


   れ…。


   ……あげた。


   ……。


   これで文句は無い筈だ。


   …こんな、の。


   無難、だったろう。


   …私のチョコじゃない。


   他の子ので、良かった?


   …!
   蓮は…!


   葵のだけで、十分なんだ。


   …。


   じゃあ、お休み。


   ……。


   ……。


   ……蓮。


   ……。


   蓮…。


   ……寝たいのならば。


   …。


   勝手にすれば良い。


   ……。







   よーこ。


   …。


   よーこ。


   …。


   えへへ。


   …よくも飽きもせず。


   そりゃあ、飽きないよぅ。


   …。


   よーこ、よーこ。


   …はいはい。


   わぁい。


   …お返しはいらないからね。


   そんな事言わずー。


   良いから。
   いい歳して恥ずかしいから。


   歳なんて関係ないもんねー。


   だめ。


   よーこー。


   いらないって言ってるでしょう。


   んー。


   あ、こら。


   …んーー。


   せ…








  −それはとても甘く。





   どうしてこんな事になっているのか。



   はぁ…。


   …。



   私達以外誰も居ない、薔薇の館。
   締め切ったままの窓。
   閉じられたカーテン。
   電気もつけず、薄暗い部屋の中。
   まるでそこは外の世界から隔離されてしまったような空間。



   …や…やだ。


   …。



   さっきから、うわ言のように吐く言葉。
   言葉としての役割を果たしていないそれ。



   やだ…やだ…。


   …。



   ぴちゃり、ぴちゃりと。
   首元から絶えず、響く音。



   …いや、…や。


   …。



   後ろからきつく抱きとめられ。
   タイを解かれ、布は強引に横にずらされ、露にされた肩。
   そこを這う、生暖かい感触。



   …あ、ぁ。


   …。



   たまに強く吸われて、歯を立てられる。
   そのたびにきつい衝動が意識を揺らす。
   何度目か、もう、分からない。



   …どうし、て。


   …。



   抗い難い快楽の中で。
   こんなコトになったのは自分のせいでは無い、と。
   言い訳を探す。



   あ…。


   ……。



   …そんなもの。
   到底、見つかりっこ、無いのに。



   …。


   …。



   甘い痛みを覚えてしまった私には……もう。








  −目に入れても痛くないという事は、こういうコト。(佐藤家)





   ほぉら、蓮君。


   にゃー…。


   たかいたかーい。


   にゃ、にゃー。


   あはは。


   聖。


   んー?


   この間みたいに、落とさないでね。


   おー。
   それ、もういっちょーう。


   にゃぁぁ。


   蓮君は高いトコが好きだもんねー。


   にゃぁ♪


   ははは。


   うー。


   お。


   …。


   葵、葵もやって欲しいのかな?


   …。


   どれどれ。
   よーこ。


   はいはい。
   蓮、おいで。


   よし。
   じゃあおいで、葵。


   …。


   それ、たかいたかーい。


   …。


   もういっちょーう。


   …。


   聖。


   ん〜?


   あまり楽しそうでは無いわよ、やっぱり。


   あー、やっぱり?


   葵は苦手なのかも知れないわね。


   なのかなー。


   あー。


   お…。


   あーうー。


   わー、くすぐったいー。


   あらあら。


   ぺたぺた触ってー。
   葵は聖さんの顔が好きなのかなー?


   うー。


   お、返事した。


   にゃー。


   蓮?


   にゃーにゃー。


   聖、蓮もまた抱っこして欲しいですって。


   お、ほんと?


   ええ。


   よしよし、じゃあ蓮君もっかいおいで。


   葵は?


   葵もこのままが良いよねー?


   あー。


   ふふ、ぷくぷくほっぺー。


   親ばか。


   だってかわいいじゃーん。


   より、目が垂れちゃって。


   うふふー。


   にゃ、にゃー。


   おー、分かった分かった。
   さ、蓮君おいでおいで。


   にゃーー。


   落とさないでよね。


   おー、任せろー。


   本当に大丈夫かしら。


   おー大丈夫大丈夫。
   無問題〈モウマンタイ〉よー?


   …じゃあ。


   にゃぁ。


   お…とと。


   ちょ…


   なんて、ねー。


   …。


   蓮、葵、本当にかわいーなぁ。


   …全く。


   蓉子もかわいいなぁ。


   …は?


   もう、みんなかわいい。
   あー、しわわせーー。


   ……やれやれ。








  −もう一つの家族。





   …今日ね。


   うん。


   蓮と葵のお母さまが学校に来たの。


   然う。
   お姉さ…聖さまはお迎えに行くがお好きだから。
   屹度、二人とお散歩でもしながら帰るつもりだったのでしょうね。


   ううん、二人で来たわ。


   まぁ、蓉子さまも?
   それは珍しいわね。
   お仕事、お休みだったのかしら。


   えま、葵と帰ろうと思ったのに。


   帰ってこなかったの?


   …だって。


   聖さまと蓉子さまは屹度、恵麻が一緒でも良いって仰ってくれるわ。


   ……だって。


   ?
   どうしたの、恵麻。


   …ねぇ、ママ。


   なぁに?


   どうして帰ってこないの?


   …帰って?


   もう一人の、ママ。


   …。


   たまに来るけど、でもすぐにいなくなっちゃうわ。
   どうして?


   …。


   どうして、別のおうちに住んでるの?
   どうして、えまとママといっしょじゃないの?
   ねぇ、どうして?


   …それはね、


   えまたちの事、キライなの?
   イヤだから、いっしょじゃないの?


   それは違うわ。


   じゃあ、どうして?


   それは


   蓮と葵の母さまは二人、いるわ。
   おむかえにだって、来てくれるわ。


   …。


   いつもいっしょだわ。


   …。


   なのに…なのに。


   …恵麻。


   なんで、今日も帰ってこないの?
   なんで、いつもいっしょじゃないの?
   ねぇ、なんでなの?


   ……聞いて、恵麻。


   …。


   これだけは言えるわ。
   江利子さ…もう一人の母さまは私達の事が嫌いなわけでは無いし、嫌だから一緒に住んでないわけでは無いの。


   …じゃあ、なんで。


   もう少し、時間が必要なの。


   …。


   今は未だ、一緒には住めないけれど。
   いつか屹度、一緒に暮らせる日が来るわ。
   屹度よ。


   …いつか、っていつ?


   然うね…恵麻がもう少し、大きくなったら。


   何年生になればいいの?


   …。


   何年生になれば、母さまと一緒にいられるの?
   ねぇ、ママ。


   …ごめんなさい。
   私には分からないわ。


   …嘘つき。
   きっと、って言ったじゃない。


   恵麻…。


   ママは…ママは、一緒にいたくないの?


   …。


   いたくないんだわ。
   だから…。


   …。


   ねぇ、ママは


   ねぇ、恵麻。


   …。


   屹度…屹度。
   その日は来るって、私は信じているの。


   …けど


   信じているのよ。
   屹度いつか、三人で暮らせる日が来るって。


   ……。


   だから、恵麻。
   あなたも信じて。


   …。


   ね、恵麻。
   今度、あの方が帰ってきたら、恵麻は何が食べたいかしら。


   ……。


   あの方が好きなもの、恵麻が好きなもの、一生懸命作るわ。
   私はね、二人に美味しいって言ってもらうのが、とても嬉しいのよ。


   …帰って、なんか。


   恵麻?


   帰ってなんか、こないわ!
   ぜったいに…!


   あ…。


   嘘つき!
   ママなんて、きらい!


   待って、恵麻。


   いつか、いつかって。
   そればかりじゃない!
   いつかっていつ?!
   いつなの!?


   聞いて、恵


   ずっと、待ってても、いい子にしてても、そんな日ぜんぜん来ないじゃない!
   ずっと、ずっと、待ってるのに!!


   …。


   蓮と葵にはいるのに!
   私にはいない!
   蓮と葵ばっかり、ずるい!


   それは違うわ。
   あの子達は何もずるい事なんてしてない。


   でもずるいわ!!
   ちゃんといるもの!
   私にはいないのに、蓮と葵には!


   恵麻、お願いだから


   母さまはもう、母さまのコトなんて愛してなどいないんだわ!


   …!


   だから、帰ってこなくても平


   恵麻!


   …ッ


   ……私は、ね。
   今でも、江利子さまを愛しているわ。
   それは嘘なんかじゃ、ない。


   ……。


   だから、待っているの。
   待てるのよ。


   …けど、帰ってなんかこないわ。


   そんな事、無い。


   …どうして。


   江利子さまはいつか、屹度。
   “帰ってくる”。


   …。


   …けど、恵麻は淋しいわよね。


   …。


   淋しい思いをさせてしまって、ごめんなさいね…。








   …。


   江利子?
   どうかした?


   …あぁ、蓉子。


   口に合わなかったかしら?


   ううん、そんな事無いわ。


   然う?
   なら、良いけど。


   相変わらず、蓉子の卵焼きは甘いんだな、て。
   思ってただけだから。


   だったら、食うな。


   いいえ、食べるわよ。
   これはこれで美味しいもの。


   そもそもだな。
   お前にゃ、蓉子の卵焼きは勿体無さすぎるんだ。


   あー、美味しい。


   だから、勿体無いだっつーの!


   聖、大きな声を出さないの。


   だってさぁ!


   …。


   …江利子?


   …いえ、何でもないわ。
   本当よ。


   …。


   …ただ、ね。


   ただ?


   あの子のは出汁巻きなのよね、て。


   …。


   …。


   さぁて。
   ごはん、ご馳走になったら今日はさっさと帰ることにしようかしらね。


   江利子、貴女


   ああ、さっさと帰れ。


   …。


   …聖。


   お前なんぞ、さっさと帰れ。


   ええ、言われなくても然うするわ。


   ……。