…。


   おし、うまく出来た!
   よっこ、喜ぶかなー喜ぶと良いなーー。


   …聖ちゃん。


   ん?
   おー葵。
   どした、お腹空いた?


   …うん。


   そっかそっか。
   でもあともう少し、待ってよっか?
   蓉子、屹度もう直ぐ帰ってくるよ。


   うん、まってる。


   うん、良い子良い子。


   ……。


   ん?


   なに、つくったの?
   いいにおい…。


   おお、これ?
   今宵の聖さんと蓉子さんのおつまみ。
   良いの、見つけてねー?


   …?
   よいの?


   そう、良いの。
   なんだかんだで蓉子も好きなんだよねー。


   …いいにおい。


   お、ほんとに?


   うん。


   葵が然う言うんじゃ蓉子にも好評だな!
   絶対!


   …。


   んん?


   …いい、におい。


   …。


   おいしそう…。


   葵。


   …なぁに?


   食べてみる?


   …。


   良ければどうぞ?


   …いいの?


   ええ、勿論。


   でも聖ちゃんとお母さんの


   なに、良いってコトよ。
   結構、作ったコトだしね。


   わぁ…。


   蓮は食べるかな。


   …わかんない。


   でも一応、用意しとっこか?
   葵が一人で食べてたら若しかしたら横から取っちゃうかも知れないし。


   わたし、蓮とはんぶんこにする。


   葵は優しいなぁ。
   でも大丈夫、蓮君の分もあるよ。


   …。


   だから、大丈夫。
   ね?


   うん!















  さ と う け の し ょ く た く















   おかえりー蓉子。


   ただいま。
   …良い匂いがするわね?


   やだ、未だ言ってないのにー。


   お風呂より、貴女よりも、まずはごはん。
   今日はお腹が空いているの。


   あら、そんなにお腹空いているの?


   ええ。
   今日は何だか、やたらに疲れてしまって。
   暑かったせいかしらね?


   んじゃ、たまには…やっちゃう?


   そうねぇ。
   …蓮と葵は?


   まさに、ごはん食べてる。
   と言っても、食べ始めたばかりなんだけど。
   待ってたんだよ。


   先に食べてても良いのよ。


   うん、だから。
   けど今日は少し、遅かったね。


   ええ、そうなの。


   ま、話は後で聞くとして。
   どうする?


   どうしようかしら。


   やると言っても、蓉子さんの場合は少しだし。
   別に良いんじゃないの。


   …聖は?


   勿論、私もお付き合い致しますよ。


   …うーん。


   無理にとは言わないよ。
   たまには、の話。


   …今日は飲もうかしら。


   お、ほんとに?


   ええ、たまには。
   今日も暑かったし。


   はい、お疲れ様でした。


   ありがとう。


   じゃ、用意しとくね。
   とりあえず、着替えるんでしょ?
   鞄、持ちましょう。


   大丈夫、自分で


   良いから。


   …ありがとう。


   どういたしまして。


   …。


   ん?


   …良い匂い、ね。


   私が?


   …何を作ったの?


   あ、そっち?


   ……。


   ちゅー?


   …それは、良いから。


   じゃ、今は軽くね?


   あ…。


   …おかえり。


   ……もぅ。


   あれ、お返事は?


   …。


   へへ。


   …ただいま、聖。


   はぁい。


   ……もぅ。








   ひょーこ!


   お母さん、おかえりなさい。


   ただいま、蓮、葵。


   こらこら、蓮君。
   口の中に食べ物を入れたまま、歩かないの


   …。


   ほらほら座った。
   でもって良く噛んで飲み込んで。


   ……聖だってよくいわれてる。


   そだよ。
   だけど、蓮君は真似しないで良いのさ。


   ……。


   ふふ。
   じゃあ私、着替えてくるわね。


   あ、手伝います。


   何を。
   じゃね。


   まぁまぁ、然う言わむぎゃ。


   聖?


   ……はーい。


   宜しい。


   …ねぇ、蓉子。


   うん?


   ご飯の前にシャワー、浴びる?


   …。


   汗、かいてるでしょ?
   さっぱりしたいんじゃない?


   …そうね、やっぱりそうしようかしら。


   じゃあ、着替え持って行くよ。


   良いわ、自分で持ってく。


   良いから良いから。
   聖さんに任せて。


   …何か、企んでる?


   んーん、何にも〜。


   ……へんなかお。


   こら、蓮君。
   と言うか君の顔もこの顔だぞ?


   ……。


   はっはっは。


   …。


   ところで、蓮君。
   葱が綺麗に残ってるけどどうしたのかにゃ?


   ……。


   蓮、たべないとだめだよ。


   …あおはうるさい。


   すぐ、そうやっていうんだから。


   …。


   蓮、また葱を残しているの?


   ……だって、おいしくない。


   一緒に味付けた“そっち”は食べてるのに、かにゃ?


   ……。


   君の分は君の為にやっこくしたから。
   あのキライなしゃっきり感は無いと思うんだけど?


   …。


   ま、全部食べなくても良いさ。
   けど一つは食べなさい。


   ……。


   “それ”は、美味しかったろ?


   ……。


   蓮、お味噌汁の葱は食べられるようになったじゃない。
   それに聖が柔らかくしてくれたのなら、大丈夫よ。


   ……。


   蓮。


   ……。


   抵抗、なかなか無くならないもんだなぁ。


   あら、貴女にも身に覚えがあると思うけど?


   いやいや、本当に難しいもんですネ。


   ええ、本当に。


   ……。


   蓮、ひとつ、ひとつだけだよ。


   ……。


   ところで、聖。


   ん?


   あれ。


   どれ。


   蓮と葵が食べてるの。
   あれって。


   今夜のおつまみ、だったんだけど。
   おかず、にもなっちゃった。


   …でも、なんで?


   葵が、ね。


   葵?


   渋いもの好き、なんだよね。
   誰かさんにそっくり。


   と言うより、あの嗜好は貴女じゃないの。


   ええ、然うかな。


   だって好きじゃない。


   好きだけど。
   蓉子さんも好きじゃない。


   嫌いじゃないけど。


   その言い方はずるい。


   まぁ、好きだけど。


   未だずるい。


   そもそも私に教えてくれたのは貴女でしょ。
   貴女が食べてるのを見るまで、私は食べた事無かった…


   …。


   …何。


   その言い方はえろい。


   ……。


   まぁ、“色々”と教えたけど。
   でもそれはお互いさ


   私が言っているのは勿論、“砂肝”の事なんだけど。


   …ひょーへすよね。


   分かってる?


   ひゃい。


   宜しい。
   じゃシャワー、浴びてくるわ。
   頃合を見計らってのご飯、お願いね?


   …はい、お任せをー。
   行ってらっさいませー。








   蓉子、焼き鳥が良い。


   …うん?


   今日のごはん。


   焼き鳥?
   焼き鳥が食べたいの?


   うん、焼き鳥。


   うーん…。


   だめ?


   良いけど。
   でも、なんで?


   美味しそうだったから。


   ふぅん。


   蓉子は食べたくない?


   いいえ。
   たまには良いわよね。


   うん、良いよね良いよね。


   で、ビール?


   ビール、と言いますと?


   飲みたいんでしょ、今日。


   おー。


   分かるわよ。


   好き好き、蓉子さん。


   はいはい。
   で、ビールで良いの?


   今日は蓉子さんに合わせて冷たい梅酒。


   …私?


   梅酒、好きじゃん?


   ……まぁ、好きだけど。


   冷やして、飲もう飲もう。


   じゃあ冷えてるの、買っていかないとね。


   うんうん。


   焼き鳥は、と。


   あっち。


   え?


   あっちにお店があった。


   お惣菜売り場じゃなくて?


   出来れば鳥屋さんのが良い。
   今日は安いんだって。


   安いの?


   らしいよ。
   張り紙がしてあった。


   食べたいのが、あったの?


   然うとも言う。


   …。


   だめだめ?


   良いわよ。
   じゃあ、行きましょうか。


   やた!


   ふふ、子供じゃないんだから。


   だって嬉しいものは嬉しいもんね。


   はいはい、良かったわね。








   んー、そうだったっけ?


   そうよ。
   私、あの時に初めて食べたんだもの。


   と言うか、食べた事が無かったんだっけ?


   ええ。


   一緒に飲みに行った時なんかに食べなかったっけ?


   食べてない。


   んー…。


   思えば貴女ってこりこりしてるのが好きよね。


   …軟骨とか?


   そう。


   美味しいじゃん。


   まぁ、美味しいけど。


   ちなみに一番好きなこりこり感は蓉子さんの耳。


   …いつか食べられそうね。


   うん、いつも食べたい。


   ……。


   でも、鳥皮も好きだよ。


   だから、なのよ。


   んー?


   蓮も葵も、焼き鳥と言えば鳥皮が好きで。


   タレも塩も美味しい。


   蓮は塩、葵はタレ。


   でもま、どっちも食べるけどね。


   軟骨も好きだし。


   歯応えがあって、美味しい。


   そして、砂肝。


   いや、自分で料理してみようと思ってさー?


   これを聖の影響と言わないで何と言うの。


   蓉子も好きだから、結果オーライ。


   私だって聖の影響だもの。


   それって私色に染まってるってコト?


   違うから。


   でも染まってるでしょや?


   と言うか、今時言わないわよ。


   今時のコトなんて知らない。
   うちはうち、だもんね。


   …。


   少なくとも味覚の共有はしてる。


   …まぁ、然うだけど。


   ところで、さっぱりした?


   ええ、したわ。


   じゃ、ごはんにしよっか。


   ところで、聖。


   ん?


   わざわざ迎えに来なくても良いから。


   お風呂上り直後の蓉子さんは譲れない。


   何年一緒に居ると思っているのよ。


   まぁ、人生の半分は優に。


   …一緒に暮らして、よ。
   学生時代を含めてどうするの。


   なはは。
   ま、今日は特別ってコトでさ?


   特別の意味、分かってる?


   まぁ、良いから良いから。
   ほら、子供達も待ってるよ。


   …もう、直ぐにはぐらかすんだから。


   蓮、葵、お待たせー。
   て、君らはほとんど食べちゃったねぇ。


   …。


   …おなか、すいてたから。
   お母さん、ごめんなさい…。


   良いのよ。
   その気持ちだけで嬉しいわ。


   そうそう。
   なんならもっと食べると良いさ。


   …。


   …でももう、


   いっぱい食べて、いっぱい大きくなれば良いさ。
   君らはまだまだ、縦におっきくなる余地があるんだから。
   特に。


   …。


   蓮君。
   君はちっこいから。


   …うるさい。


   またまたそんな事言っちゃって。
   聖さん、知ってるんだぞぅ。


   …。


   葵よか1cm、小さいのを気にしてるコトを。


   …。


   え、そうなの?


   きにしてない。


   その顔は思い切り気にしてる顔だね。


   …。


   お、いっちょ前。


   聖、止めなさい。
   体の事を言われたら誰だって嫌な気分になるわ。


   む。


   貴女だって然うだったでしょう?


   確かにそうだ。
   ごめんよ、蓮君。


   …。


   …蓮。


   …ふん。


   お詫びと言っちゃあなんだけど、もっとお食べ。


   …あ。


   葱、一つと言わず二つ食べたみたいだから今日のところは勘弁しちゃる。
   けど君は油断してると野菜を食べないからね。


   …。


   トマト。
   好きだろ?


   ……。


   蓮、この葱も食べられたのね?


   ……蓉子。


   偉いわ。


   …うん。


   蓉子、私は私は?


   何で。


   工夫したのは、私。


   …はいはい、偉い偉い。


   えへへ。


   …だらしないかお。


   だーから。
   君と一緒、なんだって。


   …。


   ふふ。


   葵はもういっぱい、かにゃ?


   うん。
   ごちそうさまでした。


   はい、お粗末様でした。


   …ん?


   うん?


   聖、いつの間に?


   なんのコト?


   お粗末様って


   そりゃ、蓉子の色に染まってますから。


   ……。


   それよりほい、あったかごはんお待ち。


   …ありがとう。


   スープもほい。
   今夜はワカメスープ。


   ありがとう。


   どーいたしまして。
   そんじゃ聖さんもごはんにしましょうかねー。


   聖は


   蓉子さんを、待ってました。


   ……そう。


   あ、嬉しそう。


   …言わなくても、良いから。


   認めた?


   …だから、良いから。


   ふふー。


   …んもう。








   …はぁ。
   あーおいしー。


   …。


   ねぇ、蓉子。


   …ん、そうね。


   やっぱ蓉子と飲むのが一番だなー。


   …じゃあ私は聖と飲むのが一番、って言った方が良いのかしら。


   そんなの、言わせないでよぅ。


   ふふ。


   つまみ、は、急遽違うのになっちゃったけど。
   有り合わせでごめんね?


   ううん、これはこれで好きよ。


   そう?


   ええ。
   貴女の作るおつまみは何でも美味しいわ。


   …へへ。


   子供達、砂肝を気に入ったみたいね。


   うん、みたい。
   けどさ、葵は美味しいって言ってくれるから良いんだけど。


   蓮?


   あいつは無言でこりこりこりこり食べ続けるからさぁ。


   でもそれがあの子にとっての美味しい、なのよね。


   そうなんだけど。
   けど、もちっと美味しそうに食べてくれると良いんだけどな。


   確かに少し表情が乏しいのよね…。


   そうなんだ。


   小さい頃はもう少し豊かだったのに。


   ま、それでも少しは動いているんだけどね。


   …そうね。


   でもって美味しくなきゃ、と言うか好きじゃないのは食べないし。


   表情じゃなくて行動に出るよね、あの子の場合。


   うん。
   だから分かりやすいと言っちゃあ分かりやすい。


   ええ。


   ま、葵もいるから。


   …でもいつまでも一緒ではないわ。


   それはどうかな。


   …。


   互いに結婚とかしなきゃ、一緒に居たって構わない。
   寧ろ、大人になっても仲が良いのは良いと思うよ。
   この、世知辛い世の中で。


   …とかなんとか言って。


   ん?


   葵を他の誰かにあげたくないだけなのよね、貴女は。


   にゃはは、ばれたー?


   昔から言ってたもの。


   だって、あげたくないじゃん。


   大変でしょうね。


   んお?


   葵が誰かを連れてきた時は。


   却下。


   あのね、葵が選んだ人なら一回くらいは


   やだ。


   ……。


   大体ね、大変なのは私だけじゃないと思うよ。
   屹度。


   私なら


   んーん、蓉子じゃないよ。


   …じゃあ、誰?


   簡単。
   昔々、くまのぬいぐるみを大変な目に遭わせちゃったヤツ。


   くまの………あ。


   ねぇ?


   ……本当、先が思いやられるわ。








   …。


   …。


   …蓉子。


   …んー?


   豆腐、もちっと食べる?


   …んー。


   もう少し、残ってるんだよねぇ。


   …聖は?


   んー…もう、良いかな。


   そう。
   私もよ。


   そっか。


   美味しかった。
   ご馳走様。


   お気に召してもらえたようで光栄の極み。
   お粗末様でした。


   ふふ。


   冷奴、たまにはこーいうのも良いもんでしょ?


   ええ。
   結構、合うものね。


   うん。


   レシピ、自分で?


   と言うほどでも無いんだけどね。
   トマト切って、バジルとオリーブオイル、そんでもって塩をほんのりかけただけだから。


   さっぱりしてて良かった。
   お酒にも合うし。


   本当は砂肝の予定だったんだけどね。


   でもお夕飯で食べたから。


   うっかりしてたらちび達に全部食べられちゃうとこだった。


   ちゃんと取り分けていたじゃない。


   ま、そーなんだけどね。
   美味しそうに食べてたから、ね。


   …聖が作るの、子供達は大好きだから。


   蓉子が作るのも、ね。


   …ええ。


   私も大好き。


   …手、焼いたけどね。


   けど大分、食べられるようになったもんね。


   子供達の手前、飲み込んでるだけの時もあるようだけど?


   細かくしてくれるから、飲み込める。


   出来ればちゃんと噛んでね?


   細かいから胃も頑張れる。


   …本当に嫌な時は人の皿にこっそりと移して?


   人参は未だに天敵です。


   人参だけじゃないくせに。
   蓮と貴女、本当に親子よね。


   葵の牛蒡が苦手なのも私似、だったり?


   …。


   ニオイ、がね。


   …きんぴらごぼうは好きよ。


   うん、知ってるー。


   …。


   ま、アレは私も苦手だからね。
   うん。


   …何でもそうだけれど、調理法如何よね。
   この豆腐だって、然う。


   そだね。
   豆腐、ホントにあと少しなんだよな…あ。


   …うん?


   蓮、れーん。


   …。


   聖?


   蓮君、おいでおいで。


   ……。


   葵もおいで。


   …?
   なに、聖ちゃん。


   テレビ、見てるとこアレだけど。
   君ら、豆腐食べない?


   …。


   …。


   一口ずつ。
   美味しいよ?


   ……。


   …ん、と。


   イタリアン風冷奴。
   生姜も良いけど、バジルも良い。


   …たべる。


   じゃあ、わたしも。


   でも酒は駄目だぞ?


   いらない。


   のんじゃ、だめなんだよ。


   はは、二人ともなかなかに優等生だなぁ。
   聖さんは嬉しくなっちゃうよ。








   ・


   ・








   葵は焼き鳥、何が好き?


   え、焼き鳥?


   そう、焼き鳥。


   んー…鳥皮、かな。


   皮ぁ?


   うん。
   …変?


   私は苦手なのよね、皮。


   美味しいのに。
   ねぇ、蓮。


   ……でこっぱちだからな。


   でこは関係無いわよ、アメリカ人。
   じゃあ塩とタレ、どっちが好き?


   塩。


   あんたには聞いてないわよ、ハーフ。


   私はタレ。
   でも塩も好きよ。


   私も好き。
   でもってモモ肉が好き。


   そういえば貴女も葱が嫌いなんだよね。


   …も、って何よ。


   …ものによる。


   美味しいのになぁ。
   そう言えば蓮は砂肝が好きだよね。


   砂肝ぉ?


   …。


   ねぇ、蓮。


   葵も好きだろう。


   うん、私も好き。


   …ねぇ、葵。


   うん?


   アメリカ人は鳥皮も好きだとか?


   うん、好きだよ。
   ね、蓮。


   ……。


   あ、でもあれは少し苦手、かな。


   …葵もな。


   あれ…?
   あれって何よ?


   あ、あと軟骨も好きだよ。
   ね。


   …そうだな。


   いやだからあれって何よ。


   あれは…。


   …あれだ。


   ………。


   なんか、変?


   …あんたらはそうだった、って思い出したところよ。


   そうだった?
   て、何?


   渋いか、おっさんくさいか。
   二人しか分からないって言うか。


   二人しか…?


   …。


   ま、百歩譲って軟骨は良いとしても。
   砂肝って聞かないわよ、普通。


   そうかなぁ。


   …でこっぱちが聞かないだけだろ。


   うるさいわよ、アメリカレンコン。


   …。


   相当、変わってるわ。


   そうかなぁ。


   豚はモツが好きって言うし。


   他もちゃんと好きだよ。


   アメリカ人のくせに一味を入れて食べるのが好きって言うし。


   お前に言われる筋合いは無い。


   で、鳥皮と砂肝、でしょ。
   子供の頃から一体何を食べてきたのよ。


   普通のごはんだけど。
   ね、蓮。


   …。


   砂肝が?


   普通じゃない?


   …。


   少なくとも、私は食べなかったわよ。


   そっか。
   残念だね。


   …全くだ。


   そこは残念がるところじゃないわよ!


   だって美味しいもの。
   こりこりして。


   …あのこりこりが良い。


   ………。


   ん?


   …。


   いや、あんたらって本当にアレよね。


   あれ?


   …。


   ……まぁ、良いけど。


   …?


   ……ふん。








   ・


   ・








   よし!
   今日は聖さん特製の…


   …。


   お、葵。
   また嗅ぎ付けて来たな来たな?


   …聖ちゃん。


   食べる?


   …うん。
   でも…


   良いって良いって、みなまで言わなくても。
   君らの分もちゃーんと、あるからね。


   あ、聖ちゃん…。


   さ、そろそろ蓉子が帰ってくるよー。
   みんな、ごはんの支度だー。








   …。


   …。


   …ねぇ、聖。


   …何でしょう?


   凄く、食卓が暗いんだけど。
   何かあったの?


   いや、何も無い筈だけど…。


   と言うか全然、箸が進んで無いんだけど。


   …そうなのよねぇ。


   …。


   …これ、いらない。


   あ、蓮君。


   ほかのがいい。


   いや、他のって。
   好き嫌いはダメだぞ☆


   ……。


   て、あれ…。


   …聖。


   え、と。
   美味しくない?


   私は美味しいと思うけど。


   けど…だめ?


   まぁ、こればかりは好き嫌いが別れるわね。
   実際、私も子供の頃は苦手だったし。


   あ、そういや私も。


   …。


   …。


   私はこの独特な食感が駄目だったわ。


   あー私も私も。


   …。


   …。


   蓮、一つは食べたのね?


   …うん。


   仕方ない。
   残しても良いよ、蓮。


   蓮、卵でも焼いてあげましょうか?


   スクランブルがいい。


   はいはい。


   あ、私が


   蓉子のがいい。


   …にゃろう。


   聖、良いわよ。


   でも仕事から帰ってきて


   スクランブルくらいなら直ぐだから。


   …分かった。


   ……。


   葵、葵は食べられる?


   …え。


   葵は蓮と違って好き嫌いがあまり無いからなぁ。
   これも平気、かな?


   う、うん…。


   そっかそっか。
   じゃあ蓮君の分まで食べて良いよ。


   あ…。


   ……。


   れ、蓮…。


   ……。


   さ、葵。


   う、ん…。


   …。


   お、蓮君?
   お食事中に立つなんて、どったのかな?


   …蓉子。


   なぁに?


   ふたりぶん、つくって。


   二人分?


   …。


   良いけれど…あ。
   聖!


   へ……あ。


   ………。


   あ、葵。


   ……。


   いやいやいや、泣くほどだったら良いって!


   …で、でも。


   良いから、そこまで無理しなくても!


   ……ごめんなさい。
   ごめんなさい…。


   い、良いから。
   ね、蓉子。


   え、ええ。


   ……。


   蓮君も気付いていたなら、言ってよ。


   …だから、ふたりぶん。


   ああ、なるほど。


   …聖。


   あ、いや、そうじゃなくて。


   せっかくつくってくれたのに…ごめんなさい、聖ちゃん。
   お母さんもごめんなさい…。


   良いのよ、葵。
   スクランブル、貴女の分も作るから、ね?


   そうそう、だから泣かないで。
   ね、葵。


   ……う、ん。








   …はぁ。


   聖?


   あー、今日は失敗したーー。


   けど、美味しかったわよ。


   蓉子さん好きー大好きーー。


   はい、よしよし。


   …子供って苦手なんだよね、あれ。


   好きな子もいるでしょうけど。


   葵も苦手だとはなぁ。


   葵だって人の子だもの。


   違う違う、私と蓉子の子。


   …はいはい、そうね。


   今度はレバーの研究しなきゃ、だー。


   食べてもらう為に?


   うん。


   私も手伝うわ。


   是非是非。


   けど、レバーって初めてだったかしら。


   まぁ、あまり買わなかったかも。
   買っても私達が食べてて。


   ああ。


   あのくさみ、食感。
   どうするかなぁ、くさみは何とかなるだろうけど。


   食感は慣れ、なのよね。
   ものにもよるけど。


   まぁ、徐々に、かなぁ。


   そうね。
   大人になってから食べられるものってあるから。


   うん、私みたいに。


   …。


   あれ?


   …蓮の将来が心配だわ。
   あの子は本当に偏食家だから…。








   ・


   ・







   ……。


   あ、蓮。


   …うるさいのが、来た。


   また卵食べるの?


   …。


   朝、食べたじゃない。


   …あれは目玉焼き。


   それも卵じゃない。


   これはゆで卵。


   だから、卵でしょ?


   ……ん。


   …え、何。


   葵の分。


   え、私の?


   要らないなら、食べる。


   貰う。
   だって貰わないと蓮、二つ食べる気でしょう?


   ……。


   …最初から二つのつもりだったの?


   …別に。


   もう、蓮はどれだけ卵が好きなのよ。


   鶏肉と卵があれば十分。


   だめ。


   ……。


   小腹が空いたのなら、言ってくれれば何か作ってあげたのに。
   ゆで卵がおやつ代わりなんて、聖さんにまた、卵が無いって言われちゃう。


   …今日あたり、買ってくるだろ。


   そういう問題じゃ無いの。


   ……。


   て、聞いているの?


   丁度良い。


   …え、何が?


   食べれば、分かる。


   あ、蓮…。


   ……。


   …もう。


   ……。


   何が丁度良いの……あ。


   …。


   ……かたゆで。


   ……。


   …おいし。


   言ったとおり。


   蓮。


   ……。


   本当、放っておくと卵ばっかりなんだから…。