蓮 と ピ ー マ ン 。






   蓮。


   …。


   好き嫌いは駄目だと。
   教えたでしょう?


   ……。


   蓮、ぴーまんたべないとだめだよ。


   …うるちゃい。


   うるちゃいだって。
   あはは。


   ……。


   聖。


   へーい、すんませーん。


   蓮?
   この間も残していたわよね?


   ……。


   食べたふりをして。
   本当は葵に食べてもらったでしょう?


   ……あおい。


   わたしはいってないよ。


   そう、葵は言って無い。
   だけど私には分かるのよ。


   ……ぴー、にがい。


   そっかなぁ。
   今日のピーマンはそんなに苦くないけど?
   ねぇ、葵。


   うん。


   ほら、蓮。
   聖も葵も苦くないって言っているわ。
   だから一口だけでも良い、食べてみて?


   …。


   ほーら、蓮。
   モタモタしてると蓉子の作った美味しいご飯、この聖さんがぜーんぶ、食べちゃうぞぅ?


   …!


   あー、これなんか特に美味しいなぁ。
   …おや、それでも蓮は食べたくない?
   仕方が無い、蓮の分はやっぱりこの私が


   め。


   んー?
   蓮はピーマンが嫌いなんだよねぇ?


   ……。


   じゃあ、食べないでしょや?


   …。


   蓉子、君の手料理は今日も最高だ。
   ご飯が進む。


   はいはい、ありがとう。


   おかーさん、これすごくおいしい。


   ありがとう、葵。


   さて。
   そんじゃあ…


   め。


   お?


   め…!


   だけど、なぁ。
   蓮はピーマン、嫌いだって言ったしなぁ?
   ちゃんと食べてあげないとピーマンが可哀想だしなぁ。


   ぴーまん、かわいそうなの?


   然うだよ、葵。
   それと作ってくれた蓉子にとても失礼なんだよ。
   ちゃんと、覚えておくようにね。


   うん、わかった。


   と、言うわけで。
   いただ


   めー!


   …ふむ。


   蓮。


   ………。


   だいじょうぶだよ、蓮。
   にがくないよ。


   ………ん。


   お、これまた思い切りいった。
   つか、細かくなってるからそんなに口を開けなくても良いのに。


   聖。


   ほい、すんましぇん。


   ………。


   がんばって、蓮。


   ………たべ、た。


   おー、どれ。


   にゅ…。


   …本当だ、口ン中、残ってない。


   聖。


   一応、と思いまして。


   全く。


   よーこ。


   うん?


   ちゃんとたべた。


   ん、いいこいいこ。


   …えへへ。


   む、ピーマン食べたぐらいで頭を撫でて貰うとは。
   よし。
   蓉子、私も残さず食べるから撫でて。


   莫迦。


   むぅ。
   …ん?


   …。


   葵、どうしたのかな?


   …べつになんでもない。


   分かった、葵も撫でて欲しいんだ。
   もう、蓉子に似て本当に可愛いんだから。


   ……。


   はい、いいこいいこ。


   ……ふふ。


   ああもう、なんて可愛いわが子なんだろうねぇ。


   ところで、聖。


   んー?


   獅子唐。


   シシトウ?


   当然だけれど、まさか残さないわよねぇ。


   …それはもう、当然ですよ。
   と言うか、ピーマンと獅子唐が同時に並ぶ食卓ってどうなのかしら。


   お言葉だけど青椒肉絲にピーマンが無かったら、ただの肉の細切り炒めじゃないの。


   ピーマンは良いよ、ピーマンは。
   私が言いたいのはなんで獅子唐まで


   冷蔵庫に残っていたから。
   以上。


   ……もう、主婦の鑑だね。















  蓮 と だ が し 。






   駄目よ、蓮。
   この前も買ったでしょう?


   …。


   蓮、このあいだもかってもらったじゃない。


   …。


   蓮、戻してらっしゃい。


   …。


   蓮はそれが好きだねぇ。
   そんなに美味しかったっけ、これ。


   …。


   蓮、駄目。


   蓮、だめ。


   ……。


   お、出た。
   いじけた時のむくれっつら。


   そんな顔をしても今日は駄目よ。
   戻してらっしゃい。


   ……。


   蓮、良い子だから。


   …ぅ。


   蓮、ないちゃ、だめ。


   …よーこぉ。


   ちゃんと戻してきたら。
   今日の夕ご飯は蓮の好きなご飯を作ってあげる。
   だから


   ……ちゃまご、かれー?


   そう。


   カレーは一晩寝かせた方が美味しいんだけどなぁ。
   てか、ちゃまごだって。
   やっぱり思い切り噛むよね。


   聖。


   よーし、蓮。
   聖さんと一緒に戻してこよっかー。


   やだ。


   まぁ、そう言わず。
   迷子になっちゃうぞ?


   へーき。


   んんー?
   本当かなぁ?


   葵。


   うん?


   ん。


   …え、と。


   葵と一緒に行くから平気ってか。


   …。


   あ、蓮…。


   あらま。
   何だかんだ言っても“葵”なんだよねぇ、蓮は。


   二人とも、ここで待っているから。


   ところで蓉子さん。


   何でしょうか、聖さん。


   甘口は本気で勘弁してください。


   心配しないで。
   大人のカレーは別だから。















  佐 藤 家 と 北 海 道 物 産 展 ア イ ス 。






   はい、葵のアイスにはキャラメルソースにチョコチップをトッピング。


   ありがとう、聖ちゃん。


   蓮のは十勝産あずきと胡桃、ちびのくせに渋い好みは蓉子の影響大。


   …だって美味しいじゃない、あずき。


   …。


   ははは。
   ところで蓮、ありがと、は?


   ……と。


   んーーー。


   …。


   まぁ、いっか。
   んじゃ、召し上がれ。


   いただきます。


   …ます。


   じゃあ、聖。
   二人の事、お願いね。


   おー、任せろー。


   ええ、任せるわ。
   じゃ、行ってきます。


   ん、行ってらっさい。


   …。


   ほい、蓮はここでお留守番。
   おとなしく、座って待ってよーね。


   …うー。


   蓮、直ぐに戻ってくるから。
   ね?


   ……。


   うん、良い子だね。










   え、と…聖ちゃん、あーん。


   あーん。
   おー、冷たくて美味しいねー。
   …ちみっと甘いけど。


   …。


   蓮、蓮。
   蓮のもちょーだい?


   や。


   一口、一口で良いから。
   ね?


   や。


   ありゃ。


   蓮、ひとくちぐらい、いいじゃない。


   や。


   葵はくれたのにな〜。
   蓮はケチだな〜。


   …。


   ふーむ。


   聖ちゃん、もうひとくち、いる?


   おお、ありがとう。
   だけど。


   ?
   聖ちゃ、あ。


   …ッ


   お、やっぱ和風だな、こりゃ。


   にゃーッ


   あっはっは。
   蓮君、いかなる時も油断してはいけないなぁ。


   せーッ


   もう、お腹の中に入っちゃったもんねー。


   ばかせーッ


   お、やるか。


   うぅぅ…ッ


   蓮、聖ちゃん、だめ。
   こんなところでケンカしないで。


   だってさ、蓮。


   …。


   聖ちゃん、かってに蓮のたべちゃ、だめ。


   およ。


   ちゃんとあやまって。


   そっか、だめだったかー。


   ……。


   んじゃ…ごめんなさい。


   …ばかせー。


   勝手に舐めて、ごめんなさい。
   はい、このとおり。


   …。


   蓮、ごめんなさい。


   ……。


   …何を、しているの。


   お、蓉子。
   待ってたよーいた。


   ばか。
   蓮、どうしたの。


   ……。


   …聖。


   ん?


   貴女、また?


   いやー、蓮が頑なに駄目って言うと余計、構いたくなってさー。


   貴女、今年で幾つ?


   蓉子さんとタメ、でっす。
   あ、はたかないで。


   …はぁ。
   また、聖に食べられちゃったのね?


   …う。


   と言っても、ほんのちょっと舐めただけなんだけど。


   大人げ、ない。


   はっは。


   …あげう、の。


   ん、なぁに?


   …よーこ、に。


   うん。


   …のに、せーが。


   ……うん。


   め、て……。


   ……。


   蓉子さん、蓉子さん。
   我を忘れちゃってるよ。


   …は。
   えと、ありがとう、蓮。


   …ん。


   くれるの?


   う。


   ありがとう。


   あー。


   あー…、


   …よーこ?


   …ん。
   ええ、美味しいわ。


   ……えへへ。


   ……。


   はいはい、蓉子さん。
   またどっかいっちゃってるよ。















  蓮 と 葵 と た ま ご や き 。






   蓮。


   …。


   蓮。


   …あ?


   お昼。


   …。


   どうする?
   たまには薔薇の館に…


   …外。


   …。


   一人で良い。


   私も行く。


   …。


   蓮を一人にしたら、十中八九、寝坊するもの。


   …あ、そ。


   ええ、そうよ。


   …じゃ、勝手にすれば。


   うん、するわ。


   …。










   ねぇ、蓮。


   …。


   今日のお弁当ね。


   …。


   蓉子さんが作ってくれたんだよ。


   …知ってるよ。


   久しぶりだよね。


   …蓉子は忙しいから。


   聖さんのお弁当も美味しいから好きなんだけど。


   …。


   私、まだまだだなぁ。


   ……別に。


   え。


   …何でもない。


   …そう。


   …。


   え、と、いただきます。


   …。


   蓮も。


   ……いただきます。


   宜しい。


   …うるさいヤツ。


   何?


   …いいえ、何でも。


   そう。


   ……。


   ふふ、卵焼き。


   ……。


   蓉子さんの卵焼き、美味しいよね。


   ……うん。


   甘くて、ふわふわで。


   …おかずにはならない。


   そんな事言って。
   蓮は小さい頃から一番最後に食べるんだよね。
   食後のデザートみたいに大事に取っておくの。


   …。


   そのせいで聖さんに取られそうになって


   葵。


   うん…あ。


   …。


   返して、返してよ。


   うるさいから。


   だからって私の卵焼きを…あー!


   …。


   蓮、ひどい!


   …ご馳走様。


   ひどいよ、蓮!


   一つだけ残して、さっさと食べない葵が悪い。


   最後に食べようと思っていたの!


   人の事、言えない。


   …莫迦!
   蓮の莫迦…!


   …。


   楽しみにしてたのに…。


   ……葵。


   何よ…!


   …。


   あ。


   …葵の。


   …。


   これで文句は無いだろう。


   ……もう。


   …。


   …卵焼き。


   …。


   作り方、教えてもらったんだけど。
   なかなかこういう風になってくれないんだ。


   …年季が違う。


   そうだけど。
   それだけじゃない気がするの。


   …。


   よく、分からないんだけど…。


   …これは。


   …。


   蓉子の卵焼きだ。
   葵のじゃ、無い。


   …うん。


   そう言うことだ。


   …でも。


   まずくは、無い。


   …。


   だから、それで良い。


   …まずくはない、て。


   嫌いじゃない。


   …。


   …。


   …ねぇ、蓮。


   …ん。


   蓉子さんの卵焼き、好き?


   …。


   今更?


   …嫌いだったら取られて泣かない。


   …ふふ、そっか。


   …。


   ねぇ、蓮。


   …何。


   頑張るね。


   …適当で良いんじゃないの。


   もう、蓮ったら。










   …お姉さま。


   …何。


   …また、一緒に居ますね。


   …ええ、そうね。


   …ですが、いつもの事でそろそろ


   …いいえ、いつもとは違ったわ。


   …と、言いますと?


   …葵さんの食べるはずだった卵焼きを蓮さんが食べて、蓮さんが自分の卵焼きを葵さんにあげたわ。


   ……で?


   …自分の使ってる箸でよ?


   …そりゃ、そうでしょうね。


   …なかなか、無いことよ。


   ……そうですか?


   …ええ。


   ……前も見ましたけど。


   …あれは嫌いなのを入れたのよ。
   けれど今回は違うの、蓮さんは、と言っても葵さんもなのだけれど、甘い卵焼きが好物らしいのよ。


   ……良くご存知ですね。


   …ええ、そりゃあね。


   ……。


   …ああ。
   これでどちらかがあーんとかやってくれたら最高なんだけど!!


   ………そうですね。


   …そんな姿を瓦版に載せられたらと思うと…ああ、もう!!


   ……。


   そしたら、記事のタイトルは…ああもう、どうしようかしらね!















  葵 と パ ン ケ ー キ 。






   わぁぁ。


   久しぶりに作ってみたのだけれど。


   けーき?


   ええ、パンケーキと言うのよ。


   おかーさん、このけーき、ふわふわしてるよ。


   本当?
   良かった。


   わぁい、蓉子のパンケーキー。


   あら、貴女も食べるの?


   勿論。
   奥さんが作ったものは何でも食べる主義です。


   じゃあ、


   おっと。
   野暮な事は言いっこ無しですぜ、奥さん。


   何のキャラクターよ、それ。


   おかーさん。


   ん?


   このままたべてもいいの?


   ええ。
   ただそのまま食べてもパンケーキの味しかしないから。


   いや、蓉子の愛の味がする。


   じゃあ、貴女はそのまま食べなさい。


   あい。


   あ。


   ……うむ、美味しい。


   …。


   あ、蓮まで。


   ……にゃー。


   ふははは。
   蓮には未だ、早かったようだなー。


   …。


   全く、莫迦な事ばかり。


   あじ……。


   莫迦な人は放っておいて。
   蓮、葵。


   えー、放っておかないでよぅ。
   淋しいよぅ。


   こほん。
   ここにあるもので、好きなものをかけて食べてみて。


   …じゃむ?


   オーソドックスにバターにメープルシロップでも良いけれど。


   バニラアイス、でも美味しいですよね。


   ええ、そうね。


   ……あんこ?


   でも、良いわよ。


   蓮はあんこ好きだからなぁ。


   だけど蓮、ブルーベリージャムをかけても美味しいわよ。


   にゃ。


   …。


   葵、葵はどうする?


   ……んーと。


   ん?


   …あんこ。


   あら。


   葵もあんこが好きだからなぁ。
   もう、誰かの影響が大すぎる。


   いちいち見ないでも良いから。
   と言うか私、そんなにあんこばかり食べてないわよ。


   たいやきはあんこ派。


   だから何よ。


   ケーキよりもたいやき派。


   …時と場合にもよるわよ。


   …。


   葵、ホイップにバナナをのせても美味しいわよ。


   …うん。


   やっぱりあんこ、だよねー。
   誰かに似て大好きだもんねー。 


   もう、茶化さないで。
   聖。


   へーい。
   じゃ、聖さんはバターで食べよう、と。


   …。


   ん?


   そのまま食べるのでは無かったのかしら。


   ふっへっへ。


   …下品。


   蓉子の愛の味は他でも味わえますから、ねー。


   ……どこまでいっても下品。


   …。


   よーこ、よーこ。


   ん、なぁに?


   うまうまー♪


   うん。


   …。


   葵?
   どうしたの?


   う、うん。


   …若しかして、迷ってるの?


   …。


   ふむ。
   じゃ、少しずつ色んな味を試してみたらどうかな?
   何も一つに縛られる事は無いよ、うん。


   色んな?


   先ずはあんこ。
   その次はジャム。
   でもってその次はホイップやらバナナやら、はたまたバターやらメープルシロップやら、とね。


   …。


   …。


   ん、だめ?


   …うん、そうしてみる。


   聖にしては…。


   ふふん。


   ……。


   お、先ずはジャムにいった。
   一寸意外。


   …あ。


   どうかな?どうかな?


   おいしい…。


   でしょうでしょう。
   だって蓉子が作ったんだもんね。


   何で貴女が胸を張るのよ。


   蓉子は私のお嫁さんだからー。


   ……程ほどにしてよね、旦那様。


   おかーさん。


   ん?


   ぱんけーき、おいしい。


   うん、良かった。


   よーこ。


   うん?


   うまうま。


   うん。


   蓉子蓉子。


   ……何よ。


   とても美味しいです。


   はいはい、ありがとう。















  聖 と 蓉 子 と た ま ご や き 。







   ふっふーん、今日のお昼は蓉子の卵焼き〜。


   …。


   久しぶりだなぁ〜。


   …この間も作ったわよ。


   一日以上空けば久しぶりなんだよ。


   …。


   いっただきまーす。


   …はい、召し上がれ。


   蓉子は食べないの?


   食べるわよ。


   うん……うふふ。


   …。


   蓉子と二人でお昼ご飯。
   学生時代を思い出しちゃう。


   あの頃は皆も居たわよ。


   よく卵焼き貰った。


   と言うより、取られた。


   美味しかった。


   甘いの、苦手なくせに。


   うん、苦手。
   と言うか卵焼きが甘いなんて有りえないよねー。


   …いつも然う言って、取られてたのよね。


   だって蓉子の卵焼き、美味しいんだもん。
   甘くて、ふわふわ、で。


   …。


   うちのはあんまり美味しくなかったから。


   だけど一生懸命作って下さったのよ。


   でも大抵、焦げてるんだもん。


   自分で作れば良かったじゃない。


   自分で作るより、蓉子が作ったのが美味しいもん。


   …。


   よーうこ。


   …何。


   蓉子がお嫁さんで、私、嬉しい。


   ……何よ、今更。


   ずっと傍に居て欲しいな。


   改めて、約束をしろと?


   ううん、そんなんじゃないけど。


   子供、三人も居て。


   もう一人ぐらい、頑張る?


   ばか。


   未だいけるよ?


   そりゃあ、貴女はいけるでしょうけど。
   …と言うか一生いけそうで怖いわ。


   蓉子もいけるよ。


   あのねぇ。


   なんて、ね。
   無理強いする事じゃないよね。


   酔っ払った勢いとかね。


   反省してます。


   宜しい。


   いやもう、あの時は、なぁ。
   今思えば…


   ねぇ、聖。


   うん?


   何があっても。
   離婚なんて、しないんだから。


   …。


   何よ。


   うん、愛してる。


   ありがとう。


   よーこの卵焼き〜。


   然う言えば、聖。


   ん?


   聖の卵焼き。


   私の?
   あんまりふわふわにはならないんだよねぇ。


   聖は砂糖をほとんど入れないから。


   やっぱり砂糖だよね、ポイントは。


   好きよ。


   え、何が?


   勿論、卵焼き。


   私は?


   聞くの?


   うん。


   好きよ。


   そっか。
   良かった。


   だから聖の卵焼き、食べたいわ。


   私の?
   本気?


   ええ、本気。
   だって私、聖の卵焼き好きだもの。


   甘くないよ?


   でも美味しいわ。


   うーん、そうかなぁ。


   然うなの。


   …ま、蓉子が言うなら。
   今度のお弁当、頑張っちゃおうかな。


   ええ、頑張って。


   おー。


   ふふ。















  蓉 子 と シ ナ モ ン 。






   蓉子。


   …。


   蓉子?


   …ああ、聖。


   …どうしたの?
   すんごい深刻な顔をしてるんだけど。


   …。


   仕事で何か、あった?


   ……ううん。


   でも蓉子が家の中でそんな顔するの、滅多に無いのに。


   …。


   あ、まさか…


   …あのね、聖。


   物足りなかった?


   …は?


   それともマンネリ化してるとか?


   …。


   いや、ご希望に添えてないとか。


   ……。


   あとは


   聖。


   分かった。
   今夜は蓉子、君の望みを全て叶えてあげよう。


   聖。


   あ、でも、お腹に子供が居るからあまり激しいことはだめだ…?


   …。


   ひょー…。


   聖、私の話、聞いてくれる?


   ひゃ、ひゃい。


   じゃあ、少し黙ってもらえるかしら。


   ひゃい、ひょひょこんへ。


   うん。


   ……で、何でしょうか。


   …。


   え、と、蓉子さん?


   …あのね、今日。


   う、うん。


   ……。


   ……あ、あれ。


   ……私、小さい頃から肉桂飴が苦手だったの。


   ニッキアメ?
   えーと…。


   聖は知らない?


   知ってるような、知らないような…覚えてないだけのような。


   …あの独特な辛みが駄目で。


   ふぅん。


   ……だから、では無いと思うのだけど。


   うん。


   …。


   蓉子ー。


   ………シナモン、が苦手で。


   なんだ、その事?


   …。


   知ってるよ。
   蓉子さん、ケーキに入ってる微量のシナモンも苦手だもんね。


   ……。


   で、それがどうかしたの?


   ……パンに、入ってたの。


   パン?


   …少し、小腹が空いたから。


   へぇ、珍しいね。


   ……だから、近くのパン屋さんで買ったのだけど。


   …ああ、分かった。


   ……。


   入ってたんだ?


   ……ええ。


   でも何に入ってたの?


   …コーヒーシュガーロール。


   あら、甘そう。


   ……。


   あら。


   ………もう、気分が悪くなって大変だったんだから。


   むぅ、それは酷い目にあったね。
   おのれ、コーヒーシュガーロール。


   ……。


   よしよし。


   …どうしてシナモンなんて。


   そうだね、ただのコーヒーシュガーロールで良かったのにね。


   …。


   …てか。


   …。


   なんか蓉子、すんごい可愛い。


   ……。


   蓉子も人間なんだにゃあ。


   ……当たり前でしょう。


   そっか、そっか。


   ……ああもう、本当に最悪。


   未だ残ってるの?


   ……うん。
   妊娠して体質が変わったせいか、余計に駄目になってるみたい…。


   そっか…。


   ……。


   よし、分かった。
   ここは一つ、聖さんに任せなさい。


   ……聖?


   今夜の夕飯はうーんと美味しいもの、作ってあげる。


   …。


   とりあえずはさっぱり目が良いよね、うん。


   ……聖。


   あとは…お。


   聖。


   ……蓉子。


   …。


   よしよし。


   ……ありがとう、聖。


   どーいたしまして。















  聖 と 獅 子 唐 。






   …。


   …。


   …蓉子さん。


   …何かしら。


   どうしても食べないと、駄目ですか。


   …とりあえず、一口で良いわ。


   …。


   苦味、完全には消せてないかもしれないけれど。


   …うう。


   ピーマンは平気になったのだから。


   ……実はあまり得意では無いのよー。


   ん、知ってる。


   でも蓉子が上手に料理してくれるからあまり気にしないようになっただけでー。


   獅子唐の方が苦味は少ないと思うのだけど…。


   …何だろうね、苦手なんだよね。


   と言うより、嫌い?


   ……はい、然うです。


   唐辛子は平気なのに。


   …辛いのは好き。


   獅子唐も辛いわよ。


   …けど、苦い。


   でもピーマンほどじゃない。


   …たまにすんごい辛い。


   ……唐辛子は平気なのに。


   そもそも唐辛子はあのまま一個食べない。
   あいつは調味料みたいなもんだから。


   まぁ、確かにねぇ。


   ……うー。


   ……駄目?


   ……好きになれません。


   …。


   よーこー。


   ……一口も、だめ?


   ……。


   蓮にも食べてもらいたいの。


   ……。


   聖…。


   ……キス。


   …。


   してくれるなら、頑張れる気がする。


   ……。


   …じゃないと、頑張れない。


   …キスで良いのなら。


   絶た…


   ……これで、良い?


   ……お口に、が良かった。


   …。


   …。


   …はぁ。
   じゃあ、一口食べられたら。


   …食べる前じゃないの?


   …食べたら口直しに、とかって言わない?


   …言うと思う。


   …。


   ……よーこー。


   ……分かった。


   ん…。


   ………獅子唐、一口くらいで。


   …。


   さぁ、聖。


   ……ん、頑張ります。


   はい。