さようなら。




   彼女は笑顔を浮かべて、確かに、然う言った。







































   息が切れていた。


   寝巻きが汗に濡れて、気持ちが悪い。


   何も見えない。


   光が無い。


   ああ、今は未だ夜だ。


   然う、此処は。


   自室のベッドの上。


   頭が痛い。


   割れるよう。


   息も。


   いや、胸が。


   苦しい。


   苦しい。


   治まれ。


   治まれ。


   ……。


   瞳を閉じる。


   己の腕で躰を抱いて。


   じっと堪える。


   嵐が過ぎ去るまで。


   今は何も考えず。


   いや、考えるな。















  さ よ う な ら 。















   …あ、ぁ。




















K i s s  
t w i c e




















   学校。


   望んでいようが、嫌であろうが、彼女に逢える場所、時間。


   だけれど、もう直ぐ其れは無くなる。


   卒業。


   彼女はリリアンでは無く。


   私はそのままリリアンに。


   其れは即ち、もう、同じ時間の中に居られない事を示す。


   学校。


   言葉は同じでも、同じ場所を指すわけじゃ無くて。


   これからもう、其処へ行っても彼女には逢えない。


   彼女は居ない。


   当たり前だった事が。


   いつでも隣に居てくれた其の姿が。


   然う。


   私と彼女の道は別れる。


   然う、私と彼女は別れるのだ。


   いや、逢おうと思えば逢えるだろう。


   彼女の事だ。


   若しかしたら、連絡をくれるかも知れない。


   だから私からも連絡を取って、取り合って、逢う約束を交わせば。


   だけど…其れは矢張り違う。


   当たり前だった事が、何かの形を以ってしなければ、果たせなくなってしまう。


   ああ。


   私と彼女は友達。


   親友。


   何をこんなに気にする必要がある?


   然う、自分で決めたんだから。


   深く、求めない。


   求めては、いけない。


   また繰り返してしまうから。


   だけれど。


   私の知らない場所、時間に立った彼女を思う。


   若しも。


   若しも彼女の隣に私の知らない人が当たり前のように立っていたら。


   彼女が笑いかけたら。


   彼女が触れたら、触れられたら。


   例えば、其の唇に。


   ……。


   …嫌だ。


   そんなの、嫌。


   想像しただけで。


   想像もしたくないのに。


   なのに。





   瞼を閉じる。


   閉じた其の先に。


   いつも。



























   其れは雪の様に。


   つもって、つもって。


   けれど、溶けずに残る。


   心に。


   やがて、私は。






















   知りたい。


   蓉子の気持ちが。


   蓉子の気持ちを。


   然うだ。


   はっきりさせて、溶かしてしまえ。


   然うすれば屹度、楽になれる。


   夢にうなされる事も無くなるだろう。


   けど、だけど。


   …ああ。


   今はただ。


   其の声を。



















   貴女に逢いたい。


   逢いたくないのに。


   でも、逢いたい。


   蓉子に。


























   蓉子。



   蓉子。



   私は。



   蓉子を。






































   蓉子さんなら、今日は来てないけれど。


   ああ、然う。
   まぁ、自主登校だし、仕方ないかな。


   何か御用でもあったの?


   …。


   聖さん…?


   …うん、まぁ。


































   聖…?


   ごきげんよう、蓉子。


   どうして。


   今日、学校に来てなかったから。


   行かなかったけれど。
   だからってどうして聖がうちに…


   来てはいけなかった?


   いや、然う言うわけでは無いけれど。


   小父さまと小母さまは…


   居ないわ。
   今日は平日だから。


   ああ、なるほど。


   其れで聖は…


   とりあえず、上がっても良い?
   此処だと寒いんだけど。


   あ、ああ、どうぞ。


   有難う。
   あ、これ、お土産。
   一緒に食べようと思って。


   有難う。
   飲み物は…


   蓉子が煎れてくれた心まであったまりそうなお茶が良いな。


   コーヒーでなくて良いの?


   うん。
   久しぶりに蓉子の煎れたお茶が飲みたい。


   分かった。
   じゃあ…私の部屋に行っていて。


   うん。
   お邪魔します。























   蓉子の匂いがする部屋。


   手を伸ばせば触れられる距離。


   嫌がおうにも昂ぶる心。


   其れを誤魔化すように他愛の無い会話を続けた。


   若しかしたらいつになく、饒舌になっているかも知れない。


   だから。























   蓉子ってさ。
   結婚願望とかって、あんの?


   …突然、何。


   だって。
   突然、思ったから。
   で、どうなの。あんの?無いの?


   …全く無い、わけじゃ無いわ。
   でも絶対したいと言うわけでもない。


   其れはつまり?


   したいと思う相手が現れたら。
   するかも知れないわね。


   積極的では無い、と?


   結婚って。
   どうしてもしなければならないもの、とは思わないから。


   じゃあ、法的保障なんて要らないってのもあり?


   場合によって、は。
   と言っても、其の立場に置かれてみないと分からないけれど。
   私達は未だ、一介の学生なのだから。


   まぁ、其れも然うだ。
   だけど女は学生であろうと16歳になれば結婚出来る。


   未成年だから両親の同意が必要、だけどね。


   ねぇ、知ってる?
   何も両親たる父母二人の同意が無くても、片方の同意があれば結婚出来るのよ。


   良く知ってるわね。


   家に転がってた小六法を少々。


   でも何故かしらね?


   知らない。
   だって私は法律家じゃないし、なりたいとも思わないもの。
   其れを良く知るのはこれからの蓉子の役目。


   確かに。


   ま、世の中どうしたって結婚を認めない親が居るって事なのかな。


   いつの世に、も?


   そ。


   けれど、聖。


   うん?


   出来るのなら。
   私は両親に認められたい。
   私をここまで育ててくれたのは他でもない、父と母だもの。


   …私は、どっちでも良いや。
   特に母親はあれこれ口うるさくて嫌になるくらいだから。


   …聖は。
   結婚、したい?


   私は…どうだろう。


   …。


   そもそも、相手が居ないとね。


   まぁね。


   好きな人だって…


   …居るの?


   居ると、言ったら?


   其れはリリアンの…いえ、詳しくは聞かないわ。
   そんな権利、私には無いもの。


   寂しいなぁ。
   私達、親友じゃない。


   …親友だからこそ。
   聞けない事もあるわ。


   ふぅん。


   …。


   ところで、蓉子。
   蓉子は子供を産みたい?


   …は?


   子供を産むだけなら何も結婚する必要は無いし、
   今のご時勢、珍しい事でも無いし。


   どうしたの、聖。
   今日の貴女、何か変よ。
   連絡も無しに突然、訪ねてくるし。


   然う?
   私はいつもと変わらないつもりなんだけどな。


   結婚とか子供、とか。
   寧ろ、聖に然う言った願望があるの?


   其れは違う。


   何が違うの。


   蓉子さ、いつか言ってたじゃない。


   何を?


   生理痛だけじゃなく、妊娠、出産。
   これから受けうる痛みについて。


   …そんな事、聖に話したかしら。


   覚えてないかも知れない。
   貧血で保健室に運ばれて、意識が朦朧としていた時だったから。


   …然う言えばあの時。
   貴女、授業をさぼったのよね。


   自主学習と言って下さいな。


   聞こえは良いけど。
   実際は態の良いサボり。


   蓉子さんが心配だったんですよ。


   人を口実にしないで。


   あと。
   目を覚ました時、目の前に見知った顔があった方が良いかな、と思ったから。


   …。


   あの時の蓉子の手、冷たかったな。


   …冷え性なだけよ。
   特にあの時は


   知ってるよ。
   何年の付き合いだと思ってるの?


   小学校分、かしら。


   正解。


   と言っても。
   私の事なんて、興味なかったくせに。


   然うでもないよ。


   嘘ばかり。


   嘘じゃないわよ。


   ああ、然う。


   素っ気無いなぁ。
   好きな人に対して興味を持つのは、より知りたいと思うのは一種の欲でしょう?


   然うね。


   好きよ、蓉子。


   …其れはどうも。


   蓉子は?
   私の事、好きだと思ってる?


   ええ、思ってるわよ。


   本当に?


   友達だもの。


   友達、ね。
   でも違う。


   親友だと、自分で言ったのよ。
   それともやっぱり私とは友達ですら


   はい、待った。


   …。


   蓉子は…親友。
   今ではとても、とても大切…な。


   …然う。


   だけど、違うのよ。
   私の言った好きとは。


   何が違うと言うのよ。


   意味。


   意味…?


   蓉子。


   …っ


   少し、ショックだったのよ。


   か、顔が近いわ、聖…。


   …蓉子が。
   妊娠や出産の事を考えていたのが。


   そ、其れは、お腹があまりにも痛くて、其れで…。


   だけど。
   蓉子のこれから歩く道程には其れらがあるって事なんでしょう?


   あ、あくまでも一般論じゃない、の…。


   一般論、ね。
   まぁ、然う言ってしまえば其れまでなんだけど。
   だけどね、蓉子。


   せ、聖、少し離れて…。


   …私は。
   そんな事、考えた事無かった。


   …貴女も。
   痛みがひどかったら、或いは…。


   然うじゃない、然うじゃないのよ、蓉子。


   …せ、せい。


   女同士じゃ、子供は生せない。
   仮令、どんなに肌を重ねたとしても。
   然う、仮令…


   …!
   や…っ


   …。


   聖、本当にどうしたと言うの…?!


   …つぅ。


   どうしちゃったのよ、聖…。


   …どうもしてない。


   だけど私に、其の…キ、キスしようとするなん、て…。


   …強いて言えば。
   蓉子とは違う症状なだけ。


   違、う…?


   私の場合。
   より不安定になるみたい、なんだよね。
   最近、自覚した。


   なんだよね…て。
   そんな他人事のように…。


   いっそ、他人事だったら良かった。
   然うしたらこんな気持ち悪くなる事も無いのに。


   …。


   不確かな事にいちいち、不安になっていらついて。
   だったら確かにしてしまえば良いのに、其れも出来ない。
   結局どうして良いかなんて、全然分からなくて。
   分からなくて気持ち悪くて…苦しい。


   聖…。


   …触らないで。


   あ…。


   …ごめん。
   だけど今は、蓉子からは、触らないで。


   …。


   …。


   聖。


   …私、帰るよ。


   え…。


   受験勉強で忙しいって言うのに、勝手に押しかけてきちゃってごめん。


   そんな事はこの際良いわ。
   だから、


   キス、されそうになったのは?


   …其れ、は。


   …私に言われる筋合いも無いと思うけど。
   頑張って。


   聖…!


   …。


   お願い待って、せ


   …ッ
   触るな…ッ


   ……。


   …ごめん。
   じゃあ…また学校、で


   …聖!


   な…。


   聖、座って。


   や、だから…ッ


   じゃあ、座らなくても良いから。
   動かないで。


   よ、蓉子…。


   良い?絶対、よ。


   蓉子、何を…。


   ごめんなさい。


   …何が?
   何で蓉子が…?


   貴女の顔に。
   傷をつけてしまったから。


   …きず?


   さっき、振り払った時に。
   爪、で。


   …あぁ。
   良いよ、元はと言えば私が悪いんだから。
   それより…


   良くないわ。
   今、薬をぬるから。


   自業自得なんだから。


   血だって出てるのよ。


   …蓉子。


   ねぇ、聖。


   …。


   …どうして、今日、


   もう、良いよ。
   離し


   どうして、うちに来たの。


   …。


   …答えたくない?


   …逢いたかったから。


   誰に…?


   …此処、蓉子んちでしょう?
   蓉子以外、他に誰が居ると言うのよ…。


   私の両親に、という可能性は?


   いや。
   普通に考えたら無いでしょう、それ…。


   然うかしら。
   うちの母、貴女の事をいたく気に入っているようだから。


   …蓉子、最近あまり学校に来ないでしょう?


   其れは聖も、でしょう?


   …。


   聖、やっぱり変よ。


   …何度も言われなくても分かって、あ。


   …。


   よ、蓉子、何を…。


   …。


   は、離れて…。


   話を元に戻すわ。


   え…。


   妊娠とか、出産とか。
   女として、其の機能を持って生まれた以上、其の可能性は男性と比べたら全くのゼロじゃない。
   だからと言って、私がその道を行くとは限らない。


   …。


   だけど痛いのよ、本当に。
   それこそ薔薇の館で椅子に座ったまま動けなくなる時だってあった。


   …蓉子は変に頑固だから。


   だから、じゃないけど。
   若しかしたら訪れるかもしれない更なる痛みを想像してしまって、それから其れが無い男性と比較してね。
   ほら、話を聞くと凄いじゃない?


   …凄い?


   出産。
   女は昔から其れに命を懸けてきたんでしょう?


   ……。


   ただ、其れだけで。
   願望があるわけじゃな


   だけど、私は。


   …。


   私は要らないと、思った。
   この躰が血を流すたびに。
   何度も、何度も。


   ……うん。


   血を流すたび、私は改めて女だと言う事実を受け止めないといけなくなる。


   聖は…女に生まれた事が嫌なの?


   …多分、違う。
   だけど…。


   うん。


   ……。


   ねぇ、聖。
   嫌でなければ、話して。
   私は貴女の話が聞きたい。


   …さようなら。


   え…?


   私達、もう卒業するのよ。
   リリアンを。


   然うだけど…でも、聖はリリアンに


   だけど、蓉子は居ない。


   ……。


   私達、別れるのよ。
   もう直ぐ。


   待って、聖。
   別れると言ったって、そんな大それたものでは…


   私にとっては然うなのよ。
   だって蓉子が居ないんだもの。


   ……。


   夢を、見たの。


   夢…。


   蓉子ね、私にさようなら、て言ったの。
   リリアンの制服を着て、笑顔で、そして。


   ……。


   蓉子は何処かへ行ってしまった。
   私の知らない何処かへ。


   何処に行くというの。


   知らない。
   だけど、蓉子は居なくなる。
   私の前から、隣から、手の届くところから…!


   あ…。


   蓉子、蓉子。


   ……。


   私、どうしたら良い?
   分からなくて、苦しいの。
   いえ、分かってるのよ。
   駄目なんだって、一歩引かなければ、て。
   でも分からない、分からないの…。


   …聖、は。


   ねぇ、蓉子。
   私、どうしたら良いんだろう。


   聖は、どうしたいの。


   分からない、分からないのよ…。


   ……。


   ねぇ、蓉子。
   蓉子は女で、私も女なのよね。


   …ええ。


   私は然うだけど、だけど蓉子は…ああ。


   ……。


   女である私は、女である蓉子が好き。
   蓉子である貴女が好き。


   ……聖。


   苦しい、苦しいわ、蓉子。
   今だって息が詰まって…死んでしまいそうなくらいに。


   聖、聞いて。


   あぁ…友達で居る事がこんなに苦しいのならば。
   だって然うでしょう?
   こんなに近くに居るのに、私は何も出来ない。
   挙句、貴女の他の誰かとの仕合わせを近くで見るかも知れないのよ。
   そんなの、耐えられない。


   聖。


   だけど離れるなんて、出来ない。
   だから蓉子、いっそ私を嫌いと言って。
   もう貴女には逢えないって。
   私な、ど


   ……。


   ……よ、うこ。


   落ち着いて、聖。
   私は此処に居るわ。


   ……。


   ねぇ、聖。
   貴女の気持ちに私の気持ちは介入出来ない?
   許してはくれない?


   え…。


   分からないのは、私も一緒だった。
   けれど一つだけ分かっている事があるわ。


   ……。


   ねぇ、聖。
   私ね、貴女が好き。
   好きだったのよ。


   …友達として、でしょう?


   友達でも…キス、したいと思うものなのかしら。


   は…、ん。


   …聖、好きよ。


   ……でもさっきは。
   嫌だ、て…。


   だって…怖かったんだもの。


   ……。


   其の、目が…それから吃驚もした…し。


   …。


   大体、聖が私の事、を…其の、好きだなん…て。


   …あぁ。


   …もう一度、聞くわ。
   聖は…どうしたいの。
   私を…。


   私は…。




























   私は蓉子が、蓉子の何もかもが欲しいのだと。


   蓉子の胸の中で言った。


   いつからか、瞳を閉じれば、いつも蓉子が居た。


   其れが私を苦しめて。


   其れが私に安らぎをくれた。


   私の躰は月に一度、血を流す。


   まるで心が血を流すように。


   何処にも行けず溶ける事も出来ない想いが、悲鳴を上げるように。


   苦しみと痛みを伴って。


   然う、私は蓉子が欲しかった。


   仮令、壊してしまうとしても。


   仮令。


   仮令。




























   千々に、乱れる…。


   …?
   なに…


   思った事があるの。


   ……。


   お腹が痛くて、気持ちが悪くなって。
   貧血を起こして、熱も出てきて。
   こんなに痛くて苦しい思い、どうしてするのだろう、て。


   …うん。


   私は貴女が好きだから。
   余計、然う思ったのかも知れない。


   ……。


   子供とか。
   実際は良く分からないけれど。
   若しかしたら欲しいと思う日が来るかも知れないけど。


   …。


   だけど。
   若し来るのならば、私は貴女の子を産みたい。
   其の為ならばどんな痛みでも、耐える事が出来る。
   今ならば、然う思える。


   ……。


   莫迦でしょう?
   絶対に有り得ない、いえ、未来には可能になるかも知れない。
   でも今のままならば確実に無い話。


   蓉子…。


   それでも私は貴女が好きだから。






























   首に絡まる、温かな腕。


   胸。


   溶けていく。


   溶けていく。


   何処にも行けず、つもるばかりだった、想いが。


   蓉子の中で。


   温かいものへ。


   瞼を閉じる。


   全てを委ねて。






























   私、蓉子が好きって言っても良い?


   もう、言ったじゃない…。


   言ったけど、…だから、其の、これからも。


   貴女が私を好きでいてくれるのなら。


   じゃあさ、私の隣に居てくれる?


   貴女ね…。


   居てくれないの。


   貴女こそ、どうなのよ。


   私は…居たい。


   居たいじゃ、無くて。
   居てよ。


   うん、居る。


   ならば私の隣も貴女って事になるわね。
   聞くまでもないでしょう?


   ああ、そっか。


   だけど。
   聞きたくなったら、何度だって聞いて。
   夢に見るくらいなら。


   うん。


   それから。


   …ん。


   あまり、無理しないで。
   幾ら痛くないからって、冷やしたら大変なんだから。





























   私達は、卒業する。


   蓉子はリリアンではない大学へ。


   私はリリアンに。


   二人の道は別れる。


   だけど、其れはさよならじゃない。


   だから、卒業式にだってそんな言葉言わない。


   彼女は私を抱いて然う言った。


   今までのような当たり前は無くなるけれど。


   だったら、違う当たり前を作れば良い。


   違う?


   然う言う彼女の声は何処までも優しかった。




































   相変わらず。


   私の躰は血を流して。


   不安になったりもするけれど。


   だけど。


































   改めて。
   蓉子、卒業おめでとう。


   聖も。
   おめでとう。


   じゃ、行こうか。


   何処に?


   決めてない。


   何よ、それ。


   と言うか。
   蓉子となら何処だって良いのよ、私。






























   隣には蓉子が居る。


   居てくれる。


   其れでだけで今は。






























   あ。
   待って、聖。


   蓉子、早く。


   行き先も決まってないのに。


   良いから。
   あ、然うだ。


   うん?


   はい。


   …もう。


   ふふ、離さないでね。


   聖こそ。


















「Kiss twice」
KOUDELKA
菊田裕樹