お?


   あ。


   おー。


   一寸、勝手に触らないで。


   お、結構気持ちいい。


   乱暴にしないでよ。


   してないって。


   してるわよ。
   離して。


   あらら。


   もう。


   どったの?
   その子。


   …別に良いじゃない。


   悪いなんて一言も言ってないじゃない。
   で?


   …買ったのよ、悪い?


   だから悪くないって。
   でもなんだ、言ってくれればプレゼントしたのにー。


   良いわよ、別に。


   いやいや、やっぱりここは一つ、ね?


   だから良いってば。


   一目惚れ?


   は?


   その子。
   この前来た時はいなかったよね。


   …。


   図星?


   …そうだけど、悪い?


   だから…ああもう、蓉子は仕方無いなぁ。


   …。


   なんでそんなに意固地になるのかな?


   …どうせ似合わないもの。


   なんでさ。


   …。


   あのさ、蓉子。


   …何よ。


   元紅薔薇さまである蓉子と、私の恋人である蓉子は確かに同じ人だけど。


   …。


   でも、私の恋人である蓉子は私しか知らないわけなのよ。


   …何を言っているのよ。


   つまりはさ、似合うよ?


   ……。


   ん?


   …良いわよ、無理しなくても。


   蓉子。


   ……。


   似合ってるよ。


   …聖がそんなコトばかり言うから。


   うん?


   ……聖だけだわ、そんな事言うの。


   そうだと良いなぁ。


   …。


   いや、良くないなぁ。
   …けどやっぱり私だけで良いや。


   …どっちなのよ。


   蓉子の可愛いところは私だけが知ってれば良いと思うんだ。


   ……。


   でも、さぁ。


   …。


   ベッドにあったというコトは、一緒に寝てたりした?


   …。


   ねぇねぇ、蓉子。


   …。


   抱っこして、寝てた?


   …うるさいわよ。
   もう、良いでしょ。


   だって気になるー。


   気にしないで。


   なるものはなるのー。


   …うるさい。


   ねぇ、蓉子。


   気持ち良いのよ。


   うぇ?


   肌触りが良くて、感触も気持ち良くて。
   いい歳してって言われるかも知れないけど、良いでしょ、気持ち良いんだから。
   もう触れないで、放っておいて。


   ……。


   …。


   …ま、確かに気持ち良いよねー。
   この


   触らないで。


   …と。


   …触らないで。


   …。


   …。


   …汚いから?


   …。


   ねぇ、汚いから?


   ……。


   蓉子の“中”に入ってたから?


   …ッ


   ふぅん、そうなんだ。


   ……。


   蓉子は汚くないんだけどな。


   …だから。


   ま、良いけど。


   …どうして、そこに置いたの。


   ん?


   戻さなくても良かったのに。


   でもここでしょ?
   この子の居場所は。


   …。


   いや、本当だったら今私が居る場所、かな?


   …聖。


   わざとだよ。


   …。


   だって蓉子の隣は私の場所だから。


   ……。


   譲ってやるつもりなんて、無い。


   …ぬいぐるみじゃないの。


   そうだよ。
   でもそれはお互い様だと思うけど?


   …。


   ねぇ?
   蓉子。


   ……。


   …ねぇ。


   …。


   何か、言ったら?


   …何かって何よ。


   この子の名前は?


   …は?


   名前。
   無いの?


   ……。


   じゃ、私が考えてあげる。


   ちょ、一寸。


   何が良いかな…。


   名前とか、良いから。


   なんで?
   かわいいんでしょ?


   だからって名前なんて


   私の代わりになるじゃない。
   あった方が、より。


   …。


   でしょう?


   …そんな事を思って買ったんじゃない。


   ふぅん。


   …聖。


   こんなので誤魔化せるんだよね、蓉子は。


   …!


   …そう、蓉子はさ。


   何を言っているのよ!


   …何をって?


   代わりだとか。
   私はただの一度も


   僻みだよ、ただの。


   …。


   こいつは蓉子と毎晩一緒に眠れる。
   私が幾ら望んでも一向に叶わないってのに。


   ……。


   ばか?


   …ばかよ。


   死んでも治らない自信があるわね。


   …死んでもとか言うの、止めて。


   じゃあ、草津の湯?


   …それは恋の病。


   じゃあやっぱり治らない。


   ……。


   見られるの、そんなにヤだった?


   …。


   ただのぬいぐるみなのに、ね?


   …まだ、するの。


   うん。


   …。















  孫 と ぼ く















   …ん、まぶし。


   …。


   ……んー。


   …。


   …蓉子、蓉子さん。


   …んん。


   ……おはよう。


   …。


   朝、ですよ。


   ……。


   大学、行く用意しないで良いのかな…?


   ……。


   まぁ、私はこのままでも全然構わないんだけど。
   でも後で怒られそうだから…ね?


   ……。


   ん…?


   …。


   …今朝の蓉子はお寝坊さんだ。
   へへ、嬉しいな…。


   ……ばか。


   お…。


   ばか、せいのばか。


   …朝っぱらから?


   ……。


   …と。


   …。


   蓉子…?


   ……ない。


   え?


   …いかない。


   え、どこに?


   ……ばか、ばかせい。


   ……え、と。


   ……。


   本当に、良いの…?
   必修とか無かったっけ?


   …うるさい。
   いかないっていったら、いかない。


   ……。


   ばか…ばか。


   …昨日のこと、怒ってる?


   ……。


   蓉子?


   …しらない。


   やっぱり怒ってるんだ。


   しらないっていってるでしょ。


   …寧ろ、拗ねてるかな。


   聖こそ、はやくいきなさいよ。


   私は必修じゃない限り、朝一には入れて無いんで。
   知ってるじゃない、蓉子。


   ……。


   よし。
   朝ごはん作ってあげるから、機嫌直して。
   ね?


   そのてにはのらない。


   あらら。


   まいどまいど、おんなじこといって。


   いや、まぁ、たしかに。
   でもさ、蓉子ってば私が作るごはん好きだって言ってくれるからさ?


   …。


   蓉子、よーこ。


   …うるさいっていってるの。


   や、でもさ、本当に良いの?


   …。


   私はまぁ……嬉しい状況ではあるけど。


   ……聖のせいよ。


   …だろうねぇ。


   あなたがばかなことをいうから。


   …。


   あなたの代わりとか、ばかじゃないの。


   はいはい、そうだね。
   ごめんね。


   そういうとこがむかつくのよ!


   あら。
   蓉子さんがむかつくなんて言葉、使うなんて。


   …なんなのよ。
   いつも、いっつも。


   ……ふむ。


   代わりだなんて…かわりだなんて。


   …ねぇ、蓉子さ。


   ……。


   もっと…いや、今よりももう一寸逢いたい。


   …。


   もっと、蓉子の傍に居たい。


   ……。


   そしたら…


   …。


   ……ねぇ、蓉子。


   …。


   …。


   …。


   ……そーいや、さ。


   ……なによ。


   この子、どことなく蓉子の孫に似てない?


   …!


   たぬき、じゃないんだけど…何と言うかなぁ。


   ……。


   …てか、あれ。


   …。


   蓉子サン、若しかして…。


   …それ以上いったら、おこるから。


   ……てか、やっぱり。


   おこるっていったでしょ!


   と言うか怒ってるじゃない。


   おこってないわよ!


   いや、十分に怒ってるから。


   べつにすこしにてるかもなんて、おもってないわよ!


   ほら、思ってるんじゃん。


   だから、おもってないっていってるの!


   わ…ぶ。


   ばか、聖のばか!


   …や、てか、それもどうなの?
   ばか聖だけで十分じゃぶ


   うるさいうるさい!


   ……あーもう。


   ばか、ば


   蓉子…!


   …ッ


   …蓉子。


   …、て。


   …。


   はなして。


   いやだ。


   はなして!


   いやだね。


   …!


   ……。


   ……。


   ……。


   ……せい。


   ……。


   …聖。


   ……。


   ……。


   ……分かってたよ。


   …。


   ……代わりじゃないってコトぐらい。


   …。


   …けど。


   ……。


   代わりを作られるのも……作られないのも。
   なんか、いやだった。


   …結局、どっちなのよ。


   …分かんない。
   うまく、言えない。


   ……。


   …いつでも私を想っていて欲しい。
   代わりを作ってしまうくらいに…。


   …。


   …でも代わりで紛らわせてしまえるのも、いやだ。


   ……言えてるじゃないの。


   ……。


   ……。


   …孫、かわいいよね。


   ……ええ。


   ……。


   ……。


   …あーー。


   …まぬけな声。


   好きなのよ、私。


   知ってるわよ、とても可愛がっていたもの。


   そうなんだ。


   それは、今でも。


   そう、今でも。
   だけど…妬いてるんだよ。


   …。


   ……まさか、妬けるとは思わなかった。


   …。


   あぁ……気付かなきゃ、良かった。


   …本当よ、ばか。


   だって蓉子が…。


   ……。


   あ、いや………すいません。


   …かわいかったのよ。


   …。


   目が、合ったの。


   …目?


   そう、目。


   この子と?


   ええ…そう。


   …目、ねぇ。


   おかしい?


   …いや、おかしくはないけど。
   目ぇ、あるし。


   …ちょこんと。
   座っていたのよ。


   座って?


   …小物のお店に寄った時に、ね。


   ふぅん。


   …最初はそのまま通り過ぎたのだけど。


   やっぱり気になってそのまま連れて帰ってきた、と。


   …ちゃんとお金は払ったわよ。


   …。


   …。


   …やっぱり似てるんだよなぁ、こいつ。


   …最初はあまり思わなかったけど。
   貴女が言うのなら…やっぱり、似てるんでしょうね。


   …。


   …。


   …ごはん、どうしようかな。


   …貴女が作ってくれるんでしょう。


   けど


   作って。


   ……はい。


   …。


   大学は


   行かない。


   ……え、と。


   もう、決めたの。


   …で、どうするの?
   今日。


   どうもしない。


   …らしく、ないね?


   私だってそういう時もあるの。


   …さようですか。


   ばか。


   …何度も聞いたよ。
   今朝だけでも。


   貴女が分からないからよ。


   …分かる?


   あなたこそ、今日はどうするの。


   …私は


   大学、行きなさいよ。
   “絶対”。


   ……あ。


   けど、私は行かない。
   今日は。


   ……。


   …せいぜい、忘れ物をしないように。


   行かない。


   …。


   私も。


   行きなさいよ。


   行かないよ。


   行って。


   やだ、行かない。


   …。


   …決めた。
   今日は蓉子とこうしてる。


   …私はしないわよ。


   別にベッドの中でなくても良い。
   蓉子と過ごせれば…それで良い。


   ……。


   ……とりあえず。
   何、食べたい?


   …何でも良い。


   それが一番困る答えじゃなかったっけ?


   今朝は何でも良い気分なの。


   ふふ、それは難しいなぁ。


   …貴女の作ったものだもの。


   …。


   …。


   …どうやら私は釣られやすいみたいだよ。


   ……知ってるわよ、ばか。








   …。


   …。


   …どう、かな。


   …おいしいわ。


   そっか、それは良かった。


   ジャガイモの入ったオムレツ。
   厚みもあって、おいしい。


   トルティージャ・エスパニョーラって言うんだよ。


   スペイン風、ね。


   そ。


   オムレツとか上手よね、貴女は。
   前はイタリア風のを作ってくれたわ。


   フリッタータ、ね。
   卵、好きなんだよね。手軽だし。
   で、一番好きなのは蓉子の卵焼き。


   …。


   …ねぇ、蓉子。


   …なに。


   お昼は蓉子が作って。


   …夕ご飯じゃなくて?


   …。


   …ま、別にお昼でも良いけど。


   いや、夕ご飯が良い。


   じゃあお昼はどうするの。


   お昼は……また、私とか?


   たまには、良いんじゃないの。


   …ま、こんな機会がなきゃ、作らないしね。


   そのわりには慣れているのよね。
   調べたりもするし。


   蓉子さんに仕付けられてますから。


   ちゃんと自分の為にも作りなさい。


   …。


   不精なのは


   食べてくれる人が居なきゃ、やる気が出ないんだよ。


   …。


   ねぇ、蓉子。


   …なに。


   あのぬいぐるみ、さ。


   …。


   やっぱり私が居ない夜は


   一人寝が淋しい時もあるのよ。


   …それは、本音?


   さて、どうかしら。


   …。


   一緒に居ると、性質も似て来るのかも知れないわね。


   …分からないよ。
   案外、持って生まれたものかも知れない。


   …そうね。


   けど、似てくれた方が嬉しいけど。


   ……コーヒー。


   飲む?


   ごはん、だったらお茶が良かったけど。


   昼はごはんにするよ。


   …お米、ちゃんと研いでね。


   無洗米ってどうなのかねぇ。


   …さぁ、食べた事無いから。


   やっぱ米は研ぐってイメージがあるんだよなぁ


   …。


   さて。
   蓉子さんは苦いの苦手だから…


   ねぇ、聖。


   …ん。


   …。


   蓉子?


   …好きよ。


   え…?


   あなたのごはん。


   ……。


   とても。


   …ますます、釣られちゃうじゃない。


   釣ってるんだもの。


   …敵わないなぁ。


   ……ふふ。








   「〜♪」





   蓉子さん、携帯鳴ってるよ。


   そうみたいね。


   ……。


   …。


   …誰から、ですか。


   少なくとも貴女からじゃないわね。


   いや、それは…


   貴女用の着信音じゃないし。


   …。


   …え、と。


   …私専用の着信音なんて


   してるけど。


   ……。


   だめ。


   …手、洗うから。


   今はごはんを作る方が優先。


   …一寸だけ。


   だぁめ。
   それはごはんの後。


   …。


   ん?


   …分かった。


   …うん。


   …で、誰から?


   気になるのね?


   …まぁ。


   川藤さん。


   …大学の?


   良く覚えてました。


   …蓉子の事だもん。


   …。


   ……で、何だって?


   そこまで?


   …だって。


   休講の事。


   ……は?


   休講だって。


   …キュウコウって。


   必修。
   まぁ、昨日のうちから張り出されていたけど。
   川藤さん、見てなかったのね。


   ……。


   ん?


   …ヤラレタ。


   何の話?


   まんまとしてやられました、て話。


   誰に?


   そりゃあもう、蓉子さんに。


   何も企ててないわよ。


   たまたま、だったとか?


   ええ、たまたま。


   ……そうとは思えないんだけど。


   ん?


   …あ、いや。


   …ふふ。


   ……くそう、かわいいなぁ。


   ありがと…。


   んぉ…っ。


   …かわいい。


   ……てか、さ。


   なぁに。


   休講、だったんですね…。


   …言わなかったっけ?


   聞いた覚えはありませんよ…。


   じゃ、言わなかったのね。
   言ったら多分、調子に乗りそうだったから。


   …。


   でも、全部、じゃないもの。


   …そう、だけどさぁ。


   嬉しいんじゃ、なかったの?


   …いや、嬉しかったけど。


   過去形?


   ……嬉しいです。


   だったら、良いじゃない…。


   …あ、ぅ。


   ……。


   …なんか、やたらに積極的蓉子さん。


   ……だめ?


   大歓迎です…。


   …。


   …はぁ。


   ……やっぱり、聖のが良い。


   …。


   ん…?


   …もっかい、ゆって。


   …いや。


   ねぇ、もう一回だけ。


   いーや。


   そう言わず。


   いやよ。


   蓉子ぉ。


   もう、二度と言わない。


   ねぇ、蓉子。
   もう一回、もう一回だけ。


   いやと言ったら、いや。


   …蓉子のけち。


   言ったな。


   だってけちじゃん。


   ええ、そうよ。
   どうせけちよ。


   あ、開き直った。


   私はけちだから、もう二度と言わないの。


   あーもう!


   ふふ。


   ねぇ、蓉子ってばぁ。


   いーーや。








   ・


   ・








   「あ」





   でさ…て、ちゃんと聞いてよう。


   はいはい、それで?


   蓉子さま!


   …あ?


   あら?


   お久しぶりです、蓉子さま。
   こんなところでお会いするなんて


   おー、祐巳ちゃんじゃない。
   久しぶりー。


   …。


   ん?


   ああ、聖さま。
   お久しぶりです。


   いや、フツーに気付いてたよね、その反応。


   祐巳ちゃん、一人?


   いえ、待ち合わせしているんです。


   分かった、祥子だ。


   違います。


   祥子ではないの?


   はい。
   今日は由乃さんと志摩子さんとごはんに行こうと思って。


   ほぉ、由乃ちゃんと志摩子とかぁ。
   良いねぇ。


   蓉子さまは江利子さまとお会いになったりはしないのですか?


   都合が合えば会ってるわよ。
   やっぱりごはんを食べに行ったりとか。


   え、そうなの?


   知ってるでしょうに。


   いや、今の言い方だと結構頻繁っぽい感が。


   貴女の単なる気のせい。


   …ばっさり、ですか。


   でも本当に偶然ですよね。


   本当にね。


   これからどちらに行かれるのですか?


   私達もごはんだよ。
   一緒だね。


   そうですね。
   それで、蓉子さまはどちらに?


   ごはんを食べに。
   何を食べるのかは未だ、決まってないのだけれどね。


   そうなんですか。
   実は私達も会ってから決めようって由乃さんが


   ……。


   て、何ですか聖さま。


   …やっぱ、あんまり似てないかも。


   は?


   聖?


   ぬいぐるみ、さ。


   …ヌイグルミ?


   ……。


   でも…やっぱ少し似てるかなぁ。
   目のあたりが…


   何を言っているんですか。


   ねぇねぇ、蓉子。
   蓉子はどう思う?


   と言うか今、それを蒸し返す?


   だって、さぁ。
   改めて祐巳ちゃんを見たら、さぁ。


   だっても明後日もありません。


   あの、私がぬいぐるみに似てるんですか?


   似てるような、似てないような、だね。


   …結局、どっちなんですか。


   それが分からないから…ね、蓉子。


   その話はもう、良いわよ。


   …蓉子さまの、なんですか?


   え?


   私に似てるかどうか良く分からないぬいぐるみは、蓉子さまのなんですか?


   …まぁ、


   そうなんだよ。


   …。


   …聖。


   うーん、やっぱり似てる…ような。


   もう本当に良いから。


   蓉子さま。


   …ん?


   ありがとうございます。


   ?
   何の話?


   すみません、こちらの話です。


   そう?


   はい!


   …孫、やたらに嬉しそうだし。


   それより祐巳ちゃん、時間は大丈夫なの?


   あ。


   ふふ、慌てて行って転ばないようにね。


   はい、ありがとうございます。


   …おばあちゃんの前では素直だねぇ。


   それではまた!
   ご


   あ、一寸待って。


   ?
   はい?


   リボン、曲がっちゃってるわ。


   …あ。


   うん、これで良し。


   あ、ありがとうございます。


   どういたしまして。


   …えへへ。


   ……おーおー、にやけちゃってるねぇ。


   じゃあ、またね。
   祐巳ちゃん。


   はい、蓉子さ


   ちょいと待て。


   …うぎゃ。


   一寸、聖。
   折角直したのに。


   祐巳すけに言いたい事がございます。


   …て。
   祐巳すけってなんですか!


   じゃあ、孫。


   私は聖さまの孫じゃありません。


   いずれ、義理のになるから良いじゃん。
   いや、寧ろなってる?


   なってませんし、なりません!


   聖、祐巳ちゃんにも都合があるのだから早く解放してあげなさいよ。


   おうよ。


   …で、何なんですか。


   祐巳ちゃん。


   わ。


   君は本当に凄いと思います。


   と言うか顔、顔が近いですから!


   気にしない気にしない。


   気にしますから!


   ここまで生きてきて、まーさーか、ぬいぐるみにやきもちをやく事になるとは思いませんでした。


   …はぁ?


   ……。


   祐巳ちゃんの事は好きなんだけどねぇ。
   やっぱり話は別なんだよねぇ。


   だ、だから、何が言いたいんですか!


   んー…愛してるよ、かな?


   はぁ?!


   だからこそ、やられた感でいっぱいと言うかねぇ。


   いやいや、意味が分かりませんから!


   ……。


   とりあえず、離れてください!
   と言うか離れろ!


   かわいいなぁ。
   ちゅー、しても良い?


   駄目です!
   と言うか蓉子さまの前で!!


   前じゃなきゃ、良い?


   だーめーでーす!!!


   まぁまぁ、減るもんじゃ無し。


   あ゛ー!!


   んー…。


   聖。


   …お。


   もう、良いかしらね?


   はーい。


   ……はぁ、はぁ。


   じゃあ祐巳ちゃん、また今度ね。


   そんなもん、ありません!


   ごめんなさいね、祐巳ちゃん。


   …蓉子さま。
   こんな事を言うのは全くもって失礼及び不躾なコトと重々承知していますけど、この際言わずにはいられないと言うか


   祐巳ちゃん。


   何ですか!


   君は本当に凄い子だよ。
   本当に…ね。


   はぁ…?!


   ねぇ、蓉子。


   …全く、聖は。


   しし。


   全っ然、意味が分かりませんよ!
   もう!!








   あーあ、面白かった。


   人の孫を玩具にするの、止めて下さる?


   いやぁ、くせになっちゃってるんだよねぇ。
   あの顔見たらかまわずにはいられない。


   まぁ、気持ちは分からないでもないけど。
   でも、だめ。


   …。


   て、何よ。


   蓉子は私の方が良いんだよね?


   はぁ?


   ぬいぐるみの祐巳すけより。


   …あのねぇ。


   ね?


   もう言わないって言ったでしょうに。


   確認は必要だと思います。


   ところで今日はどうするの。


   あ、話逸らしたー。


   ごはん食べたら解散?


   んなわけないじゃん。


   こら。


   …ほんの一寸ぐらい良いじゃん。


   だめ。


   けちー。


   だからそうだと言ってるじゃない。


   …むぅぅ。


   どうせ帰ったらくっついてくるでしょう、貴女。


   今もくっつきたいです。


   だーめ。


   手、手ぐらい良いでしょ?


   さぁ、どうかしら。


   いつもは良いって言ってくれるじゃん。


   いつもいつも、とは限らないでしょう?


   蓉子ー。


   人の孫で遊んだ罰。


   でもそれには海ほどじゃないけど深い理由が。


   無いでしょ?


   …いや、実はあります。


   …。


   蓉子さん。


   …言わなくても良いわよ?


   いや、


   あんまり言いたくないでしょう。
   正直。


   …。


   ごはん、何が食べたい?


   …蓉子の好きなの。


   じゃあ貴女のごはん。


   じゃあ私は蓉子のごはん。


   …。


   …。


   …じゃあ、韓国。


   辛いの、あんまり得意じゃないくせに。


   辛くないのもあるもの。


   辛いの、いれないもんね。


   少しはいれるわよ。


   本当に少しだけどね。


   で、聖は?
   私のごはん以外で。


   うーん、そうだなぁ。
   蓉子と一緒ならなんでも


   ちゃんと考えて。
   偏食家なんだから。


   じゃあ…韓国。


   本当に?


   聞いたら食べたくなった。
   私達のレパートリーにはあまり無いものだし。


   じゃあ、それで?


   うん、それで。


   じゃ、行きましょうか。


   祐巳ちゃんたちは何を食べるんかなぁ。


   さぁ、なんでしょうね。


   スイーツ食べ放題とか?


   志摩子はそれでも大丈夫なの?


   どうだろ。
   でも嫌いじゃ無いと思うけど。


   あの子、渋いのが好きなのよね。


   ねぇ。


   …て。


   由乃ちゃん風に言えば、隙あり、てトコ?


   …。


   振り解くのは無しだよ。
   隙を見せた蓉子の負けなんだから。


   いつ、勝ち負けになったのよ。


   たった今。
   そう、決めました。


   …勝手なんだから。


   へへ。


   一寸だけだからね。


   うん。
   帰ったらもっとくっつくから。


   ……全く。