なーんか。
   暇、なのよねー。


   …てか。


   一言で言えば、暇、なのよねー。


   暇暇五月蝿いな、でこ。


   そんな事言われても。
   暇なんだもの、私。


   身も蓋も無いな。


   貴女達がいちゃいちゃするのは方針?みたいなものだから、どーにかなるものじゃないけれど。


   方針!
   うん、良い言葉。


   でもそうなると黄色組の出番が無いのよね。


   寧ろ、出張ってくんな。
   良いじゃん、私と蓉子がずっといちゃいちゃしてれば。


   と言う事で。
   此の間の一族話に続き、二人だけの世界では無い話をしようと思いまーす。


   だーかーら。
   それよりも私と蓉子の


   討伐中の一寸した話。真面目風味。
   あくまでも風味なのが味噌です。


   聞けよ。


   もっと言うと蓉子が怪我をした時のお話です。
   ちなみに黄色の出番は私だけでーす、まる。


   いやだから…て。
   蓉子が怪我した時のってまさか。


   はい、其のまさかー。


   本気で?


   本気の本気でーす。


   …あ、やばい。
   思い出した、ものっそ思い出した。
   鬼の面まではっきりと思い出した。


   あの時のあんた、尋常じゃ無かったわよねー。


   でこもな。


   流石、白鬼と呼ばれるだけあるわよねー。


   聞け。
   と言うか人が気にしてる事をさらっと言うな、流すな。
   お前だってでこ女って言われてるくせ、に…?







   ピシ。







   て、いたぁ…!


   然う言う事を言うヤツにはでこぴんの刑を。


   やりやがったな、このでこ女!!







   ビシ。







   …ッ!!


   えー。
   字だけの表記では分かり辛いと思うので此処で一つ解説を。
   上のは人差指を親指に引っ掛けてから弾く型。
   下のは両手を使う型で、片方の人差指をもう片方の人差指で限界まで反らしてから離す型。


   こ、この…


   使用の際はお好みで。
   指が長くて柔らかければ両手を使った型がお勧めです。


   でこすけがぁ!
   何しやがる…!!


   何って。
   でこぴん。


   でこぴん。
   じゃ、ないっつの…!
   今日と言う今日は…!!


   え、と。
   そんなわけでどっかの万年発情天狗面のせいで脇道に逸れてしまいましたけど。


   おい、人のはなじぼ…ッ?


   話を始めようと思いまーす。
   はい、れっつれっつ。


   べ、べぼ…ッ















灰 
 ニ 帰 ス















   …ふぅ。


   おーい、蓉子ー。
   こっちは終わったけど、そっちはー?


   此方も片付いたわ。


   よ、と。
   怪我は?無い?


   私は大丈夫。
   聖こそ大丈夫?
   相手はおどろ大将だったのでしょう?


   問題無し。
   あんなの、図体だけだから。


   だけど其の分、力が凄まじいわ。
   一撃でもまともに喰らえば…


   喰らってないから矢っ張り問題無し。


   もう、真面目に聞かないで。


   だって。
   本当に大丈夫なんだもん。
   ほら。


   分かったから。
   いちいち見せないでも良いわよ。


   いや、見て。


   何でよ。
   大丈夫なんでしょう?


   実は、ね。


   若しかして何処か痛むの?
   何処?早く見せて…


   ちょこっと擦り剥いちった。


   …。


   脇腹の、此処。
   多分、拳が掠ったんだと思う。
   装束もちみっと破れた模様。


   …然うね、少しだけ血が滲んでるみたいね。


   うん、ヒリヒリするの。


   …で?


   治してー。


   それぐらい、自分で治しなさい。


   聖さんとしては 蓉子さんに治して貰いたいな、と。


   甘えないで、と言うか自分を聖さんとか言うな。


   だって脇腹と言っても腰よりだよ?
   治癒術、掛け辛いよー。


   手の平を当てるだけじゃない。
   其の程度の傷なら泉源氏でも足りるわ。


   蓉子さんの泉源氏が良いな。


   自分で治しなさい。
   江利子ー。


   はーい。


   江利子の方はどう?


   もう疾うに。


   祥子は?


   此方も大丈夫ですわ、お姉さま。


   然う。
   なら奥に進みましょうか。
   もう少し戦勝点を稼いでおきたいし。


   ねぇねぇ、蓉子ってば。


   だから自分で治しなさいって。


   えー…。


   子供じゃ無いんだから。


   ちぇー、蓉子さんのけちー。


   けちで結構。


   なぁに?
   また何処ぞの天狗面が駄々を捏ねてるの?


   然うなのよ。
   いつまでたっても子供みたいで。


   聖の甘えたは今に始まったものでは無いし。
   でもって蓉子も蓉子で甘やかすから。
   其の勢いは留まる事を知らず、てね。


   其れでも。
   最近は突き放すようにしてるのよ、私なりに。


   ふーーん。


   …何よ、その相槌。


   別にー?
   其れよりほら、お子さんがあっちで剥れてるわよ。


   …蓉子に治して欲しいという此の気持ち、と言うか討伐と言う殺伐とした中で一寸した潤いが欲しいと言うこの想い。
   そんな繊細な心の機微、或いは感情が蓉子には分からないんだ…ぶつぶつ。


   …私はあんな子供を持った覚えは無いわよ。


   ま、確かに本当の子供だったら困る事も出てくるだろうしねー。
   色々、と。


   止めてよ。
   それより先に進むわよ。
   時は無限では無いの、こうしている時間が勿体無いわ。


   はいはーい。


   ほら、聖も。
   行くわよ。


   …。


   もう、いつまで剥れてるつもりなの。
   置いていくわよ。


   …蓉子さん、何か冷たい。


   あのねぇ…。


   褥の中だとあんなにあったくて可愛いのにさー…。


   …殴られるのと、蹴られるの、どちらがお好みかしら。


   どちらかと言うと、抱きしめられるのが。


   其れは選択肢に入ってませーん。
   残念!


   うっさい、でこ。


   あーもう。
   馬鹿な事言ってないで、さっさと行くわよ。


   …蓉子のけちんぼ。


   聖、あまり手を焼かせないで。
   当主たる貴女がそんなだと、祥子にだって示しがつかないじゃないの。


   と言うか。
   今更、ね。其れも。
   祥子、今から眉間に皺を寄せていると蓉子みたいになっちゃうわよ。


   …余計なお世話ですわ。


   そんなの、別に構わない。


   傷は?
   治したの?


   …治してない。


   ヒリヒリするのでしょう?
   ちゃんと治しておきなさい。
   傷口が膿んだりしたら大変だわ。


   そうなったら蓉子のせい。


   …聖、いい加減にしなさい。
   今はそんな我侭に付き合っている暇は無いのよ。


   …じゃ、蓉子がぱっと治して呉れれば良いじゃん。
   そうすりゃ、直ぐじゃん。


   聖。
   時と場合を考えて。


   …。


   あーあ。
   今回も今回とてやたらに強情だわね。
   こうなったら治してあげれば良いじゃない。


   駄目よ。


   時間、こうしている間にも流れているのに。
   其れこそ、時と場合じゃない?
   何が気に食わないのか大方の予想は付くけれど、聖が一度ああなるともう駄目よ。
   其れは蓉子の方が身をもって知ってる筈でしょ。


   …。


   お姉さま。
   此度の討伐は…


   分かっているわ、祥子。


   ならば。


   …あーもう!
   聖!


   …何。


   これっきりよ。


   治してくれるの?


   然うよ。
   だから早く見せなさい。


   へへ、やた。


   げんきん。


   何とでも言え、でこすけ。
   よっこー。


   じっとして。


   うん。


   彼の者の傷を治せ、泉源氏。


   んー、あったかい。
   やっぱ蓉子の泉源氏は良いな。


   誰でも同じよ。
   さ、もう良いでしょ。行くわよ。


   へーい。


   全く、聖のお陰で余計な時間を食ってしまったわ。


   はーい、ごめんなちゃい。


   ちゃい、じゃないわよ。
   おどけて。


   もう機嫌が直ってる。
   本当に単じゅ…


   大体、聖は…


   …。


   聖ってば。
   ちゃんと聞いているの?


   あ、あぁ、ごめ…


   全く。
   貴女にはもう少し当主としての自覚を…


   …ッ
   屈んで、蓉子!


   しゃがめ、蓉子!


   え…?


   駄目だ、振り向くな!!


   せ…あぁぁッ


   …ち。
   傍に居ながら何やってんのよ、莫迦聖。


   江利子、矢を!


   生き残りかそれとも新たに湧いたか、どちらにせよまずったわね、と…!


   お、お姉さま…ッ


   祥子、薙ぎ払え!


   け、けれど、お姉さまが…ッ


   蓉子は私が見る!
   奴らの此れ以上の勝手を赦すな!!


   は、はい…!


   …くぅぅ。


   蓉子、見せて。


   私なら大丈夫よ。
   其れよりも早く鬼を…。


   何処が大丈夫なの。
   こんなに血が出ているのに。


   自分で治せるから。
   聖も早く援護に…


   早く手を除けろ!
   痕になったらどうするんだ!!


   …ッ


   …抉れて、る。


   自分で…治す、から。


   彼の者の傷を癒せ、円子。


   あ…。


   祥子、後に下がれ!
   今から私が前に出る!
   其の間
〈カン〉蓉子を!!


   せ、聖…?


   …蓉子は此処に居て。


   う、うん…。


   直ぐ終わらせるから。
   でこ!


   何よ、天狗面。
   私は今とても忙しいのだけれ、ど。
   見て、分からないの、かし、ら。


   雑魚どもに手間取ってる時間は無いわ。


   言われ、なくて、も。


   だから、一気に潰す。
   塵すら、赦さない。


   だから。
   言われなくてもって、言ってるじゃない、の。


   …蓉子の綺麗な顔に傷を付けた事。





























   死して尚悔やめ、木っ端ども。











































   全てを灰燼に帰せ、七天爆。











































   …蓉子。


   聖?
   終わったのね?


   うん。
   目は?見える?


   聖が直ぐ治してくれたから。
   今は血のせいで良く見えないけれど。


   目に直撃してなくて良かった。


   ごめんなさい。
 

   蓉子が謝る事じゃない。


   そうそう。
   此れは此処に居た皆の問題。
   寧ろ、こんな場所で散々駄々を捏ねた聖が一番悪い。
   それさえ無ければ疾うにこの場所から離れていたのだし。


   …。


   さて、蓉子。
   私の指は何本立ってるでしょう。


   …三本。


   視力には影響は無さそうね。
   潰れていたら本気で洒落にならないところだったわ。
   其れで傷は…


   …。


   んー…此れなら痕にはならなそうね。
   良かったわ。


   お姉さま、此れで血を…。


   あ、私がやるよ。
   自分じゃ良く分からないだろうし。


   然うですか、ならば私がやります。
   甘えたな当主様に任せたら、余計な処までお触りになりそうですから。


   な…。


   言うわね、祥子。


   失礼致します、お姉さま。
   痛かったら直ぐに言って下さいませ。


   ん…。


   …如何でしょうか、お姉さま。


   …うん、良く見えるわ。
   有難う、祥子。


   …ちぇ。


   蓉子、立てる?


   ええ。


   はい、待った。


   え?


   よ、と。


   え、えぇ…。


   うん、此れで良し。


   お、下ろして。


   ふらついたら大変だから、ね。


   だ、だからって。


   良いから良いから。


   よ、良くないわよ。
   わざわざ抱えて呉れなくても、其の、だ、大丈夫なのだから…。


   天狗面のやる事に面白く無いくらい動揺しすぎ、蓉子。
   調子に乗らせるだけよ。


   だ、だって…。


   何だったら。
   このまま行っとく?


   ば、莫迦な事言わないで…ッ


   本気なんだけどなぁ。


   だ、第一、私を抱えたままじゃ戦えないじゃないの…ッ


   んー?
   其の言い回しだと、戦えたら良いって事になるけどな?


   ば、ばか…ッ


   はは、可愛いなぁ、蓉子は。
   直ぐ鵜呑みにして。


   全くだわ。
   ただ其れが私に向けてじゃないのが惜しいのだけれど。


   え、江利子も莫迦な事言ってないで助けて…ッ


   江利子に助けさせるぐらいなら、下ろす。


   だって。
   良かったわねぇ。


   良くないわよ…!


   …じゃ、このままで良い?


   ん、あ…。


   ね、蓉子…?


   …お願い、下ろして。
   聖…。


   あーあ、耳まで赤くして。
   祥子には見せられないわね、此の様は。


   …もう、十分なほどに見せ付けられていますわ、江利子さま。


   あ、矢っ張り?


   じゃ、ゆっくり下ろすよ。良い?


   う…ん。


   …どう?
   大丈夫?


   …。


   ん、蓉子…?


   …せい。


   え。
   わ、わ、何…。


   あら。


   お、お姉さ…ッ


   …。


   あ、いや、こんな処で?


   …。


   嬉しいけど、良い……か、うん。
   滅多に無い事だし。


   い、いけませんわ、こんな処でッ
   何て破廉恥な…ッ


   まぁまぁ、祥子。
   止めないであげて。


   し、しかし、江利子さま…ッ


   蓉子…。


   …か。


   へ…?


   聖の、莫迦…ッ
   元はと言えば貴女が全部…ッ
































   バチーン!






















   あーあ。
   莫迦な天狗面。





































   あの後。
   私はひたすら耐え難い苦を与えられました。
   あー、思い出しただけでも恐ろしい…。


   自業自得、因果応報。
   結局、二人のいちゃいちゃで締めてるし。


   …きつかったなぁ。
   手すら触れさせて呉れなかった、し…。


   で。
   本当に痕、残ってなかったのよね。


   …でこも確認してたじゃん。
   寧ろ残ったのは私の頬の紅葉。


   一応、と思って。


   うっすら、と。


   残ってるの?


   残ってない。
   残ってるとしたら私が付けたのだけ。


   そんなのは聞いてない。


   いやぁ。
   あの苦が終わった瞬間は其れはもうこれが仕合わせなんだって、心の底から改めて思ったっけなぁ。


   はいはい、其れは良かったわね。


   二人とも、こんな処で何をしてるの?


   あら、蓉子。
   一寸、ね。


   一寸?


   蓉子。


   聖、いい加減来月の予定について話さないと…て。
   なに、突然なんなの…!?


   うん、一寸した確認。


   確認…て。


   さて、と。
   でこ、来月の予定について何か希望は?


   面白探し。


   一人でやれ。


   若しくは出番。
   寄越せ、出番。
















































   …ん。


   あ、起きちゃった。


   なぁに、まだたりないの…?


   其れもあるけど。
   改めて確認しとこうと思って。


   …ひる、も。
   そんなこと、いって…。


   うん、矢っ張り残ってない。


   …?
   なにが…?


   知りたい?


   …えりこと。
   なにをはなしていたの…?


   蓉子の話。


   わたし…の。


   いつか、此処を怪我した時の。


   …あぁ。
   だから…。


   傷物にならなくて良かったな、てね。


   ん、くすぐったい…。


   綺麗な蓉子。
   本当に良かった。


   …もう。
   もとはといえば…


   ん、ごめんなさい。


   …で。


   うん?


   たりないの…ね。


   ん、全然。



















































   …結局。
   二人のいちゃいちゃで終わるのよねーー。
   あぁーーーーあ。

















   灰 燼 ニ 帰 ス 了