蓉子、よーこ。


   ……。


   おーい、どこー?


   ……。


   …やっぱ、此処かなぁ。
   此処、だよなぁ。


   ……。


   いい加減、私の部屋に来てくれても良いのに。
   本だって、今よりも置けるのになぁ。


   ……。


   此処がそんなのに良いのかなぁ。


   ……。


   …ふむ。
   よーー…


   …ぅ。


   ……お。


   …んん。


   んーー…。


   ……。


   …そーだ。


   
……。















  
T e l l  y o u r  W o r l d















   …とうしゅさま。


   しぃ。


   …。


   …んで、何かな?


   なに、してるんですか。


   なにも。


   …。


   こっちは寝てるけどね。


   …。


   蓉子に何か用事でもあった?


   …。


   あったんだ?


   …おやすみのようなら、いいです。


   どれ、私が代わりに聞いてあげよう。


   いやです。


   まぁ、そう言わず。
   と言うかきっぱりだねぇ、相変わらず紅の血筋ってのは。


   …。


   それ?


   ちがいます。


   分かった、読めないんでしょう?


   よめます。


   漢字も?


   …う。


   はは、相変わらず紅は分かりやすい。


   あとでまた、きます。


   うん、じゃあそうして。


   …。


   折角、良く寝てるからね。
   起こしたら、可哀想でしょや?


   ……。


   あはは、面白く無さそうな顔。
   なんだったら君も


   しまこさんによんでもらいます。


   …志摩子に?


   はい。


   ああ、それが良い。
   あの子なら大体のものでも読めるさ。


   ……。


   ん、何?


   ぜんぜん、おもえません。


   何を?


   しまこさんのおねえさまに、です。
   じゃ、ごきげんよう!


   はいはい、ごきげんよう。








   …あの。


   うん?


   …蓉子さまは。


   今度は令?
   なかなか忙しいねぇ。


   …お休みのようならまた後で参ります。


   私じゃ駄目な用事?


   …いえ、本来ならば当主様に


   本来ならば?


   ……すみません。


   はっは。
   ま、気にしない。


   …。


   どれ、貸してみ。


   …ですが。


   たまには、さ。
   ほれ。


   ……では。


   何これ。


   …町内会の回覧板です。


   回覧…こんなの、あったの?


   …ありましたよ。


   いつから?


   …ずっと前から、だそうです。


   ふぅん。


   …で、如何されますか。


   いかが、って?


   …町内会大掃除、です。


   イツ花にお願いするって言っておいて。


   ……。


   うん?


   …いえ、当主様がそう仰られるのなら。


   蓉子、未だやってたとか?


   …いつも、では無いそうですが。


   子供の頃、やらされたけど。
   問答無用で。


   え、当主様もですか?


   私にもあったからねぇ、子供の頃。


   …ですよね。
   申し訳ありません。


   で、蓉子は今も続けてたと?


   でも大抵は私か、討伐中はイツ花、最近は


   今度から蓉子にはさせない。
   以上。


   ……。


   何か文句でも?


   …いえ、起きないなぁと思いまして。


   ね。


   …。


   まだ何か?


   …いえ。
   では、イツ花に伝えておきます。


   うん。


   ……。


   ん?


   あ、いえ。
   では、ごきげんよう。


   はい、ごきげんよう。








   ……。


   ……。


   ……。


   …蓉子、なら。


   …!


   こんな、だから。
   用があるなら私が聞くよ。


   …。


   蓉子に用事?
   それとも祐巳すけに用事?


   …祐巳をそのように呼ぶのは止めて頂けませんか。


   でこすけは呼んでるのに?


   …あの方、は。


   別に真似したいわけじゃないけど。
   寧ろ、したくないし。


   …。


   そもそも、だ。


   …。


   なんで、君に訊かないんだろね。


   …何を、ですか。


   お、気になる?


   いいえ。


   はは、律儀だなぁ。
   返事、嫌ならしなくても良いのに。


   …。


   蓉子に伝えておこっか?


   結構ですわ。
   また後で窺いますので。


   だったら、


   結構だと申し上げております。


   あーそう。
   じゃ、言ーわない。


   …。


   いらっとしたでしょや?


   ……。


   志摩子のとこにいる筈だよ。


   …志摩子?


   君はちみっと、厳し過ぎると思うんだよなぁ。
   だから、一人で頑張ろうとしている。
   それが後々仇にならなきゃ良いけど。


   ……分かったような口を利かないで下さいませんか。


   分かんないけどね。
   ま、どうでも良いや。
   老い先、短い身だし?


   …それを。


   うん?


   お姉さまの前で仰ったら、


   怒っちゃう?


   ……。


   でも、怖くないけどね。
   君の母親は死ぬほど怖かったけど。


   ……。


   うーん、紅は難儀だねぇ。


   …。


   行く?


   ……。


   来た事、蓉子には?


   …結構ですわ。


   そ。


   ごきげんよう、当主様。


   うん、ごきげんよう。








   …。


   …うーん。
   今日はいまいちな天気だねぇ。


   …。


   季節の変わり目ってのは崩れやすいって、言ってたっけかな。


   …。


   ねぇ、由乃ちゃん。


   …。


   祐巳ちゃんと志摩子なら、此処にはいないよ。
   当然だけ


   これ。


   どれ?


   れいちゃんがもってけって。
   じぶんでもっていけばいいのに。


   どれどれ。


   じゃ、わたしはいきます。


   あー待った。


   なんですか?
   わたし、いそがしんですけど。


   忙しい?


   はい。


   のわりにはぐずぐずしてたねぇ、珍しく。
   猪突猛進、なんて、君の為にあるような言葉なのに。


   ぐずぐずなんて、してません。
   それからちょとつもーしんじゃありませんから。


   さっさと入ってきても良かったのに。


   はいろうとおもったら、とうしゅさまがよんだんです。


   じゃあ、そういうコトにしておこうかな。


   それで、なんですか。


   これを持ってきてくれたお返しに何かあげようと思ったんだけど。
   何も無かった。


   は?


   あはは。


   …。


   ところでこれ、例の店の団子?


   そうです。


   好きだねぇ。


   べつにわたしが


   先代も好きだったよ、ここの団子。


   …せんだい。


   でこちんの上。
   そっか、君は会った事無いんだっけね。


   ないですけど。
   それがなにか。


   面白い人だったよ。


   ふぅん。


   令は覚えてるかもね。
   気になるなら、聞いてごらん。


   べつにきになりません。


   然う?


   そうです。


   じゃあ、お使いついでに頼まれてもらおうかな。


   …は?


   お茶が欲しいって、言ってきて。


   れいちゃんにですか。


   由乃ちゃんが持ってきてくれても良いよ。


   わたしは


   じゃ、お願いね。
   その時まで、ごきげんよう?


   わたしがもって


   当主命令、にはしないけど?


   …ごきげんよう。


   うん。








   ああ、寝てるのね。


   ……。


   はい、お茶。
   一応、二人分で良いのでしょう?


   …お前かよ。


   ええ、私。
   志摩子は今、手が離せないから。


   聞いてない。


   一応、姉でしょうから。


   由乃ちゃんは?
   私は


   良く寝てるみたいね。


   見るな。


   嫌よ。


   ああ?


   相変わらず、この部屋は狭いわね。


   何座ってるんだよ。


   空いているから、かしら。


   戻れよ。


   言ったでしょう?
   志摩子、今は手が離せないのよ。


   なんで志摩子が出てくるんだよ。
   関係ないだろ。


   無い、と思っているのは貴女達だけ。


   は?


   深い意味は無いけれど。
   少し置かせて貰うわね。


   嫌だ。


   此処はあんたの部屋じゃないわよ、白ちび。


   うるせぇ、でこっ


   ところで。


   ……。


   お礼、は?


   …は?


   お茶、持ってきてくれた者へのお礼。
   蓉子に習わなかった?


   お前に言う礼は習わなかった。


   あら、万人には私も含まれているけれど?


   勝手に言ってろ。


   然う?
   じゃあ、お言葉に甘えて。


   ……。


   ……?


   ……。


   ……。


   ……。


   …此処は、こうしていると静かね。
   家の物音も響いて来ない。


   …鳥の声。


   …。


   風の音〈ネ〉


   …。


   雨の律動。


   …へぇ。
   詩人ね、なかなか。
   それも蓉子の影響かしら。


   …。


   …確かに、此処は


   此処は本を読むのにうってつけだ。


   世の喧騒を忘れる。
   若しくは、逃れる。


   ……。


   …先代様もこの部屋に篭っては、本を読んでいらっしゃったわね。


   ……。


   ……お茶、飲めば?


   ……。


   冷めるわよ。


   …蓉子が、起きてない。


   その時は淹れ直せば良いだけの事。


   …。


   その時は、私は持ってこないわ。


   …良いよ、別に。


   …。


   …。


   …此処は静か過ぎて、退屈だわ。
   息が詰まりそう。


   だったら、行けよ。


   ええ、然うするわ。


   ……。


   …風邪、ひかせないよう。


   お前に言われるまでも無い。


   …然う。


   ……。


   ……。


   …江利子。


   ん…。


   ……これ、なんのお茶だよ。


   梅昆布茶。


   ……。


   先代様が、お好きだったでしょう?
   あんたは好きでは無かったようだけど。


   ……お前は昔から、そういう奴だよ。


   人の業なんて、変わらないもの。
   あんたも含めてね。


   ……。


   それではごきげんよう、天狗面。


   …ごきげんよう、でこちん。








   ……。


   …ふ、


   ……。


   あぁぁぁぁ………。


   ……。


   …んん。


   ……。


   …ねぇ、そろそろ起きない?


   ……。


   つまんないよぅ…。


   ……。


   ……よーこ。


   ……。


   …あーあ。





   お姉さま。





   …。


   …宜しいでしょうか。


   おいで。
   来るとは思ってたから。


   …では。


   で、志摩子は何を持ってきたの?


   …?


   ああ、でも祐巳ちゃんは何も持ってきてないっけ。
   祐巳ちゃん、読めた?


   ……。


   然う。
   それで?


   …それが。


   うん。


   江利子さまが行けと。


   は?


   …面白いものが見られるから、と。


   ……。


   ……無理矢理。


   ……あのでこすけやろう。


   すみません、お姉さま。
   蓉子さまがお休み中だと知っていれば…


   良いよ、別に。


   …。


   見ての通り、良く寝ててさ。
   起きる気配が全く無いの。


   …然うみたいですね。


   おかげで詰まらなくて。


   ……。


   ……。


   …蓉子さまは。


   うん。


   …ずっと、気を張って生きてこられたのでしょうか。


   …なんで?


   ……。


   志摩子、さ。


   …はい。


   あいつに術、習ってるんだっけ。


   …江利子さま、でしょうか。


   然う、あのでこすけ。


   …はい、然うです。


   どこら辺まで行った?


   …然うですね。
   今は、雷獅子を…。


   へぇ。


   …未だ、呼び出せもしませんが。


   じゃ、真名は?


   …未だ。


   鳥は?


   …未だです。


   ふぅん。


   ……。


   でもま、一度見せた事があるから。
   志摩子ならなんとかなるんじゃないかな。


   …分かりません。


   細かい事はでこすけが教えるだろうし。
   私はそういうの、苦手なんだ。


   …。


   感覚で、覚えてるから。


   …ああ。


   納得?


   …すみません。


   はは。


   …?


   志摩子はいつも、下を見ているね。
   私がそんなに怖い?


   いえ、怖いわけでは…。


   なら。


   ……。


   前を、見なさい。


   …。


   真っ直ぐに、とは言わないけど。


   ……。


   志摩子。


   ……はい。


   うん。


   ……。


   …ごきげんよう、志摩子。


   ごきげんよう、お姉さま。


   ……。


   ……。


   …あまり、似てないね。
   志摩子は。


   …先代様に、でしょうか。


   さぁ、ね。


   ……。


   思えば、初めてかも知れない。
   こうやって向き合うのは。


   …。


   今度、蓉子に鳥を見せて貰えば良いよ。


   え…。


   鳥は江利子に聞くより、蓉子に聞いた方が良い。
   蓉子の鳥はこの家で一番だからね。


   …良いのでしょうか。


   なんで?
   志摩子が覚えて、祐巳ちゃんや由乃ちゃんに教えてあげなよ。
   由乃ちゃんは兎も角、祐巳ちゃんのお姉さまはおっかないからね。


   ですが、お姉さま…。


   その時、ついでに私の真名も見せてあげよう。


   お姉さまが…。


   言ったでしょう?
   教えるの、苦手なのよ。


   いいえ、いいえ…。


   ま、今度だけどね。
   今はほら、寝てるから。


   はい…。


   じゃ、もう戻りなさい。


   ……。


   で、あいつに「このでこすけやろう」って伝えておいて。


   …ふふ。


   はは。


   …それはまた後で。
   ごきげんよう、お姉さま。


   ん、ごきげんよう。
   志摩子。








   ん、んん…。


   ……。


   ……。


   ……起きたー?


   …え?


   蓉子。


   …聖?


   ごきげんよー。


   ……え、と。


   あ、それは聖さんのお腹です。


   ……何、この状況。


   こんな状況、かな。


   …とりあえず。


   うん。


   私は寝ていた…のよね?


   うん、結構寝てたよ。


   …どれくらい?


   んーー…。


   …ところで。


   考えてたのに。


   どうして私は聖のお腹を枕にしているの。


   はっきり、してるね。


   …。


   お目覚め。


   ……兎に角。


   あ、起きなくても良いよ。
   これはこれで可笑しくなってきたから。


   …可笑しくないから。


   硬かったー?


   …。


   ん?ん?


   …以前より。


   わ…。


   …明らかに、締りが無くなっているわ。


   えー。


   鍛錬もしないで、ほぼ毎日、ぐうたらしているから。


   だってもう、行く事無いし。


   そんなの、誰が決めたの。


   私?


   …そんな時ばかり。


   ねぇ、蓉子。


   …何。


   こういうのも、たまには良いね。


   ……然うかしら。


   最初は膝だったんだけどね。
   足、痺れちゃった。


   …貴女はそれを私にやらせるのだけど。


   私は腕を提供、の方が性に合ってるなぁ。


   意味が分かりません。


   あれにもコツ、あってさ。
   この辺に蓉子の、


   それは前、聞いたから。


   言ったっけ?


   言ったわよ。


   じゃあ、もう一度言おうかな。


   良いから。
   そもそもどうして貴女が


   居るよ。


   ……。


   此処が私の家だもの。


   …けれど。


   お。


   此処は私の部屋、よ。


   つまりは私の家の一部。


   屁理屈。


   けど、間違ってない。


   …。


   でしょや?


   …ああ言えばこう言って。


   はは。


   …。


   …蓉子、さ。


   …なに。


   やっぱ、抱っこの方が良いなぁ…。


   …は?


   二人で、寝転がるなら。


   …貴女まで横になる必要は無かったのではないの。


   だって蓉子、ちっとも起きないんだもん。


   …そもそも。


   また?


   私、横になっていなかったと思うのだけど。


   文机に突っ伏してた。


   ……。


   それだと躰、痛くなっちゃうでしょや?


   ……見たのね。


   うん。


   ……。


   涎は垂らしてなかったかな。


   …!


   あはは。


   ……ばか。


   お…う?


   ……。


   蓉子、蓉子さん、頭でお腹をぐりぐりされるのは…。


   …うるさい、ばか。








   で、これは一体どういう状況?


   ……。


   …江利子。


   絡まっていて解けない、とでも言うのかしら?


   ……。


   ……。


   ともあれ、豎子がじゃれてあっているみたいよ。


   …今度は何の用だよ。


   そろそろ起きるんじゃないかと思って。
   ごきげんよう、蓉子。


   …ごきげんよう。


   お目覚めはどうかしら。


   ……良さそうに見えるの。


   ええ、とても。


   …。


   …。


   お茶、熱いのを持ってきてあげたんだけど?
   如何かしらね。


   …梅昆布茶は要らない。


   お茶?


   ええ、然うよ。
   貴女のも持ってきたのだけど…冷めてしまったでしょうから。


   聖、然うなの?


   …。


   聖。


   …そこにあるよ。


   そこ……ああ。


   ……。


   聖!


   …。


   こぼれてしまっているじゃないの。


   それは蓉子が暴れるから。


   暴れてません。
   人聞きの悪い事、言わないで頂戴。


   でも先刻
〈サッキ〉まで私のお腹に


   それは聖が


   だからその時、ぶつかって


   本に染みが出来てしまうじゃない!


   大丈夫だよ。
   本はそこに無いから。


   そういう問題じゃありません。
   大体、なんで下に


   だって蓉子が


   そもそも聖が


   蓉子


   聖


   ああ、もう良いわ。
   要はじゃれあっていた時に聖の何かしらがぶつかって零した。
   何、今更幼少期のやり直し?


   …。


   …。


   団子は?
   食べたの?


   …。


   …お団子?


   由乃が持ってきたでしょう?


   然うなの、聖。


   蓉子と食べようと思って。


   思って?


   だから、そこに。


   …そこ。


   うん、そこ…。


   あらあら。


   …聖。


   だって蓉子がお腹をぐりぐりやるから


   聖。


   …うー。


   要は腹が弱いのね、あんた。


   うるせぇ、でこっぱち。


   でもまぁ、食べられるわよ。
   少々、梅昆布茶の風味がするでしょうけど。
   どうする?


   勿体無いから頂くわ。


   …えー。


   聖。


   でも、餡子に梅昆布茶…。


   食べられるわ。


   ……えー。


   一応、新しいのも此処にあるから。
   どうぞ、蓉子。


   有難う。
   でも


   二本くらい、食べられるでしょう?
   貴女、甘いのに目が無いものね。


   ……江利子。


   良く眠れた?


   え?


   聖のお腹で。


   ……。


   ……。


   事も無し、ね。
   まさに。








   …。


   …。


   ……甘い。


   ……美味しい。


   …。


   …。


   ……蓉子にあげる。


   要らないの?


   …もう、無理。


   そんなに?


   …これ、いつものより甘い。


   …確かに少し甘いわね。
   味、変えたのかしら。


   ……。


   …聖。


   ……。


   …?


   ……。


   聖、駄目。


   …え。


   それ以上、引っ掻いては。
   発疹が広がってしまう。


   ほっしん?


   赤くなってる。


   …でも、痒い。


   駄目よ。


   ……。


   治セ、泉源氏。


   …。


   …駄目だわ。


   ……。


   聖、大丈夫?


   …あまり大丈夫じゃない。


   こんな事、今まで無かったのに。


   …蓉子、痒い。


   ……。


   うー…。


   …貴女、梅昆布茶飲んだ?


   ……舐めるくらいに。


   以前のお団子は平気だったわよね?


   …平気って?


   食べても。


   …甘かったけど。
   これ程じゃなかった。


   ……若しかしたら。


   …。


   食べ合わせが良くなかったのかも知れないわ。


   …食べ合わせ?


   若しくは……。


   ……。


   聖、駄目よ。


   …ほとんど無意識です。


   癒セ、円子。


   ……。


   …矢っ張り、駄目だわ。


   でも、ちょっと気持ち良かった。


   …兎に角。
   掻いては駄目よ、酷くなってしまうから。


   はぁい…。


   …。


   …蓉子?
   食べないの?


   …聖が、食べないのなら。


   食べなよ。


   …。


   蓉子?


   …一人で食べても美味しくないわ。


   ……。


   ……。


   …よーこー。


   ……。


   …私の気持ち、分かった?


   聖の?


   …蓉子が寝てた時の、私の気持ち。


   ……状況、違うと思うけど。


   似たようなもん。


   …然うかしら。


   ……。


   …聖。


   ……いつもの渋いお茶が飲みたいー。


   …。


   …これ、やっぱり好きじゃない。


   ……私が淹れて


   誰か、来ないかな。


   …誰か?


   蓉子が寝てる時、入れ替わり、来てた。


   ……。


   来れば、良いのに。


   …江利子でも?


   …。


   …渋い顔。


   あいつはもう良い。


   …。


   …。


   ……祐巳ちゃんでも来ないかな。


   …自分で動いた方が早いわ。


   えー、面倒。


   だから、締りが無くなるのよ…。








   …ねぇ、蓉子。


   うん…?


   この部屋、相変わらず狭いよねぇ…。


   …まぁ、一朝一夕では広くはならないわね。


   ……。


   …聖、駄目。


   んー…うん。


   ……。


   …この部屋、どうしてあるのかな。


   さぁ、どうしてかしらね。


   …いつ頃?


   少なくともお姉さまの先代の、そのまた先代の…頃には。


   それは遠いのかな、それとも近い…?


   …私達にとっては、遠いわね。
   屹度。


   ……。


   …聖、眠いの?


   うん……ううん。


   …。


   ……それより、痒い。


   漢方、効くのあるかしら…。


   ……。


   …聖。


   自由にしとくと、引っ掻いちゃうから。


   ……。


   …だから、さ。


   ……分かったわ。


   …。


   …。


   …お団子、美味しかった?


   ……美味しかったけれど。


   けれど…?


   …前の方が、好きだわ。


   そっかぁ…。


   ……。


   んー……。


   …誰も、来ないわね。


   そうだねぇ…。


   本当に来てたの?


   来てたよー…。


   …ふぅん。


   ……。


   ……聖。


   …此処を作った人は。


   ……。


   …一人に、なりたかったのかねぇ。


   ……今となってはもう、分からないわね。


   …。


   分からないけれど、これだけは分かるわ。


   …何?


   この部屋の外は、とても広くて、とても明るい。
   それから、


   騒々しい?


   …聖。


   はっは。


   でもね、聖。


   …ん。


   それもまた、人が生きていく上での営みの一つなのよ。


   ……。


   篭ってしまう事はいつだって、出来るけれど。


   簡単に、ね。


   ええ…然うね。


   イキオイ余って家出、とかさ。


   …それにしても。


   ん?


   もう少し言い方、無いかしらね。
   騒々しいばかりじゃないでしょう、外は。


   どんちゃん騒ぎとか?


   はい?


   乱痴気騒ぎ、とか。


   …。


   あとなんだっけ。


   …歌って、踊って、奏でて。


   一言じゃ、言い表せないかな。


   ……。


   しかしほんと、誰も来ないなぁ。
   待ってる時ってさ。


   若しかしたら。


   若しかしたら?


   イツ花に聞けば、この部屋の主の事が分かるかも知れないわね。


   そこに戻る?


   ええ。


   イツ花、ねぇ。
   初代の頃から、いるんだもんねぇ。


   ずっとこの家の事、やってきてくれたのよね。


   何年、この家にいるんだか。


   遡れば、分かるけれど。


   十年以上、は、分かる。


   ……。


   ……。


   …想像、出来ないわね。
   十年、なんて。


   別にしなくても良いんじゃない?


   …然うね。


   しし…。


   …何が可笑しいの。


   寝てる蓉子も、好きだけど。
   綺麗で。


   …。


   …でもやっぱり、起きてる方が良いなぁ。


   ……然う。


   私が、起きてる時は。


   …自分勝手にも程がある。


   ……。


   ……。


   ……よーこ。


   ん…。


   ……。


   …。


   ……む。


   …。


   …蓉子。


   来た、わよ。


   えー…。


   ふふ。


   …むぅ。


   さぁ、入っていらっしゃいな。








   ごきげんよう、蓉子さま。
   当主様。








  T e l l  y o u r  W o r l d 了