−そのころ親は





   あ、ちょっと葵。


   はい?


   これ、お小遣い。


   え、でも、


   確かに今月のはもう渡したけど、いまから買い物するんだし?
   あと智。あの子の分もこれで買ってくれないかな。


   …はい。ありがとうございます。


   余ったらご飯でも…て、そういや晩ご飯どうするかな。


   朝に蓉子さんといろいろ買ったので、材料は家にあると思いますが。


   あぁそっか。そうだよね。
   うーん……ま、後でメールするよ。


   はい。送ってもらってありが
   いいよいいよそんなの。
   ていうか、約束してたみたいなのにひーも一緒になっちゃって、ごめ


   いえ、そんな。
   ひーと一緒だと楽しいですから。


   ……うん。まぁそういうこと。


   え?


   こっちもお出掛け出来て、楽しいですから。


   ……。


   本当に蓉子に似て真面目だね、葵は。
   可愛い奴め。


   わ。


   よしよし。子供はそんな気ぃ遣わなくていーの。


   ……はい。


   うん、まぁ葵のことだし、なんだかんだで蓮もひーの扱い上手いし、心配はしてないけどさ。
   なんかあったら電話ちょうだいね。


   はい。


   じゃ、この辺りで解散しましょっかね。


   智、蓮と葵の言うことをよく聞いて、お利口さんでいてね?


   はーい!


   返事だけはいいんだよな…。


   そんなことないよ、ちゃんとおりこーさんになるもん。


   …意味を分かって言ってるんだよな?


   もちろん!


   ………はぁ。


   じゃあひーのことお願いするわね、蓮。そして葵。


   …うん。


   はい。
   携帯ちゃんと持ってるよね?


   えと……はい、大丈夫です。


   んじゃさっきも言った通り、集合はメールとかでね。
   じゃあじゃあこの辺りで、ごきげんよー?


   ごきげんよー!


   うむ、良い返事だひー!


   ………。








   ………。


   どしたの?難しい顔して。


   うーん…。


   ……蓉子?


   ………。年の離れた姉妹って、こんなものなのかしら、と思って。


   …と言うと?


   蓮と葵に、よく智のことを任せてしまっているけれど。
   年が近いなら一緒に遊んでいても楽しいでしょうけど、一回り離れているのよ?


   そうだねぇ。


   あの子達は姉妹なんだけど、なんだか……二人に智の面倒をみてもらっている、というような表現が近い気がして。


   うーん……なんというか…。


   何?


   本当に蓉子と葵って親子なんだなぁって。


   …どういう意味?


   いや、さ。そんな真面目に考えなくて良いじゃん。


   あなたは軽く考え過ぎのように見えるけど。


   なら私の意見も聞いて、私と蓉子の間を取れば良しだね。


   ……それで?


   うん。年が近かろうが遠かろうがさ、あの子達は姉妹なんだよ。


   それはそうね。


   私と蓉子の、愛の結晶…!


   ……怒るわよ?


   えー、違うの?


   ……あのねぇ。何度このやりとりをさせるつもり?


   …はぁい。ごめんなさい。


   …はぁ。


   それで…えーとなんだっけ……あぁ、そうそう。


   年がどうであれ姉妹だ、と言ったわね。


   うん。
   そう、姉妹なんだよ。


   つまり?


   つまりも何も、ほぼこれで完結かなぁ。


   は?


   そして私達は親子だ、とも付け加えてみようかな。
   家族ってさ、そんな所には気なんて遣わなくていいと思うんだ。


   ………。


   確かに面倒をみてもらっている、とも言えるだろうけど。二人ともそれを嫌がっているように見える?


   ……いいえ。


   そして私にも見えない。
   だからさ、良いじゃん。


   ……でも、


   でも?


   ………いいえ。何でもない。


   蓉子さんのそんなお堅いところも好きだけどねー?


   いいから。というか、私だってそこまで深刻に考えていたわけではないわよ。


   ふーん?


   ただ、私には歳の離れた兄弟は居ないから。どうなのかなと思って。


   それがお堅いって言ってるんだけど。


   ………あ、そ。
   …いつもそんなだからひーに……。


   え、なに?


   べっつにー。


   ちょ、ちょっと待ってよどういうことさ。
   あ、っていうかそうそう!酷くない?昼のあの話!


   昼?


   お昼食べてて出掛けるって話になった時、
   なんだったら聖はほっといて二人で出掛けましょー
   みたいなコト言ったじゃん、あの時はなんとなく空気読んでスルーしたけど、何気に酷くない!?


   あら、あなたも空気を読んだりすることもあるのね。


   そりゃあ…ってそうじゃなくて。
   あぁ、そんなだからひーにって、何なの!?ひーが何か言ってたの!?


   まぁ、別に。
   こないだ、「せーちゃんはうるさいー」って。


   えぇー……そんな理不尽な…。


   まぁ、実際うるさいじゃない。


   そりゃひーのテンションに合わせて…ってか、そんなぁ…。
   今日もたかいたかいして遊んでたのに…。


   まぁ、特に意味の無い、背伸びしたい頃なんじゃないの?そろそろ。
   ぷち反抗期みたいな。


   そりゃそうだろうと思いたいけど……早くない?
   蓮君だってあの頃は……いや、うーん。どうだったっけ。


   確かに少し早いかもしれないけれど…末っ子は成長が早いって言うし。


   でも……あぁぁ……えぇー…?
   なんかいろいろショックが…。


   まぁとにかく、そんなことを言っていたから。
   今度は聖とあまり一緒にいたくないのかなと思って。


   ひー……。


   だから時期よ、時期。そのうち「おかーさんいや」、とか言うかもしれないし。


   いや、蓉子のこと嫌がったりはしなさそう。


   どうして?


   うーん…なんとなくだけど。
   蓮君も蓉子には素直だし。


   そんなこと言い出したら、葵はまったく無かったじゃない?そういう反抗期。
   一概には言えないわよ。


   でもなんか…うぅ……。
   蓉子には反抗しなさそうなんだよぅ。反抗するとしたら私相手なんだよぅ。


   もう…。
   だとしても意味の無い背伸びしたい時期だって言ってるじゃない。


   うん…そうだろと思いたいけど…。


   まぁ、そうやって凹むぐらいなのなら、昼のあの発言を反省したら?


   あの発言?


   そ、あの発言。
   いつでも所構わずよーこよーこ言うのは止めてちょうだい。


   うぅーん……それは難しいなぁ…。
   蓉子を求めるのは私の生活の中で必要不可欠な活動であって…


   はぁ…。そんなだからひーにあんな風に気を遣われるようなことになるのよ。


   あぁそう、あれってやっぱり気を遣われたのかなぁ?


   そう見えたけれど。


   だって、ひーってまだこんななんだよ?簡単にたかいたかいできちゃうんだよ?


   そうねぇ。


   あんな小さい子があんな風に気を遣ったりするのかな、とか思ってさ。


   …それも、末っ子独特ってやつなのしら。


   かなぁ…。


   ………。


   ……はっ、まさかこれも蓉子さんの遺伝!?


   馬鹿なこと言ってないで、反省しなさいと言っているの。


   ぶー。


   ………。


   ………はい。すみませんでした。


   ………。


   ………。


   …はぁ。
   ね、ちょっとそこの喫茶店入らない?


   あ、それ私も思った。入ろう入ろう。








   コーヒーセットでいいよね?


   ええ。


   すみません、コーヒーセットふたつ。ケーキはこれと…


   これを、お願いします。


   ふぃー。


   あなたも食べるの?ケーキ。


   うーん、なんか美味しそうだったから。
   いいね、ここ。店員さんも可愛い子ばっかだし。


   ……。


   もちろん、蓉子さんには叶わないけどね。


   ……さっき言ったことを、もう一度言わなければいけないのかしら?


   さっき?


   ………そぅ。分からないのね。あぁそぅ。


   じょっ、ジョークジョーク!分かってますとも!


   …まったく。


   うーん……しかしそっかぁ、ひーがねぇ。


   なに?


   子どもってほんと、すぐ大きくなるなぁと思って。


   あぁ。


   ひーももうそんなお年頃なのかぁ、ってさ。


   本当、まだまだ小さいと思っていたけど。いつまでも小さい子扱いしていちゃ駄目ね。


   ま、いくら大きくなったって私達の子供だけどね。


   …だからあなたね。それは分かるし、確かにそうなんだけれど。そんなだから今日もひーが


   いや、あの、その辺りはほんっとーに反省しておりますので。申し訳ございませんでした。


   …どうかしら。


   ていうかこれ以上つつかれるとマジ凹みしそうなので勘弁して…。


   ………はぁ。


   ………。


   ………。


   なんかさ、葵がひーのこと可愛いがるのはなんとなく分かってたんだけどさ。
   蓮君があそこまでひーの扱い上手くなるとは思わなかったな。


   唐突ね。


   でもそうじゃない?
   この立場から見れば不器用なんだってのが分かるんだかけど。愛想も無いし、小さい子には好かれなさそう。


   まぁ、智があんな子だし、っていうのもあると思うけど。
   蓮だって本当にちょっと不器用なだけで優しい子だもの。


   蓮君もやっぱり蓉子によく似てるってことかな。


   …どうかしらね。


   ………。


   ………。


   ……あ、ありがとうございます。


   ありがとうございます。


   ……うん、いい香りだ。


   ケーキもすごく綺麗。


   早速いただきましょうか。


   そうね。








   いやぁ、今日は疲れたな。


   運転お疲れさま。


   いや、なんのこれしき。


   どっちなのよ。


   ははは。


   …智もよく寝てるわ。


   家に着いてもすぐ寝るもんだから、夜更かししちゃうかと思ったけど。ほんとよく寝る子だねぇ。


   そうね。


   はー……蓉子は明日からまた仕事かぁ。


   まぁね。


   それ、どのくらいかかりそう?


   そうね……手袋は複雑ではあるけれど、そんなに大きくもないし、仕事も今は落ち着いてるから。
   あなた次第ってところじゃない?


   私?


   そう肩を抱かれちゃやりにくいんだけど。


   えー、そうかな?


   そうなの。


   むぅ…じゃあこっち。


   ……。
   寒くなる前に仕上げてしまいたいし、しばらくは放っておいてくれれば嬉しいのだけど。


   出来ると思う?


   …威張らないでくれる?


   そんなつもりじゃないけど。


   もう、この手。


   腰なら邪魔にならないでしょ?


   動かさないで!


   …はぁい。


   ………。


   ………。


   いつまでも子どもみたいなんだから。


   でもそれは、いつでも蓉子が優しいから。


   ……。


   いつも甘えてばっかで、ごめんね?


   ……あんまり気にしてないでしょ。


   蓉子からも甘えて欲しいな、とは思ってるよ。


   ……私は…。


   ん?


   なんでもない。


   なにさー。


   なんでもないの。


   ………。


   ………。


   ……蓉子。


   …………もぅ。


   はい。


   私は…、
   私に聖が甘えてくれているという立場にいることが、甘えなのかもしれない…。


   ………。


   なんて、最近ちょっと思ったの。
   それだけ。


   ……いや、それは…。


   …なによ。


   ここにきて蓉子さんの愛の深さを実感というか…なんというか。


   ………。


   …蓉子。


   ……なに。


   愛してるよ……。


   ………ん。


   ……へへ。


   …これ、早く作りたいんだけど。


   今日はここまで…じゃだめ?


   ………。


   ね、そうしよう。


   ………ばか。







ーユキさまより−
2011.8.7

みなさま、佐藤家ですよ!!
そんなわけで私の妄想爆発甚だしい佐藤家を頂いてしまいました!
好きと言って頂けるだけでそれはもう、足を向けて眠れないほどだと言うのに!
佐藤家三人姉妹はどうしても双子ばかりに焦点が当てられてしまい、
末っ子がどうにもこうにもほったらかしになりがちなんですが、
そんな末っ子ちゃんをちゃんと描いて頂いてもう、言葉になりません。
ぷち反抗期らしいですよ。ああもう!って感じですね☆
佐藤は少し、子供達からやられた方が良いと思います。(真顔)
しかし双子が…双子が!(悶)

本当にありがとうございました!!
宝、宝!!