……。


   じゅん。


   …うん?


   ……。


   なに、ゆうほ。


   …。


   わ。


   …むぅ。


   ひめ?


   …。


   …いたい。


   ひめ、じゃない。


   …いたいよ、ゆうほ。


   じゅん。


   なに?


   へんなかお。


   …そう、ですか。








   いちばんすきなひとが、いちばんちかくにいること。








   ……。


   ……。


   …ねぇ、ゆーほー。


   …。


   ねぇ、ねぇ、ねぇ。


   ……。


   ねぇ、ひうげ。


   姫言うな。


   …。


   …。


   …ねぇ、何か話そうよー。


   何もない。


   …。


   …。


   …ゆーほー。


   自分の部屋に戻ったら良いのに。


   いやいや、折角だし。


   折角?


   夕歩のルームメイトが刃友とお出掛け中☆


   きもい。


   …。


   だから?


   …一人で淋しいんじゃないかと思って。


   全然、淋しくない。
   帰れ。


   えー、またまた姫ったら。
   無……ッ。


   ……。


   ……。


   姫、言うな。
   うざい。


   …すみません、ごめんなさい。


   …。


   …。


   ……。


   …ねぇ、夕歩。


   何。
   またうざい事?


   またって。
   あたし、そんなしょっちゅう


   言ってる。
   うざい。


   …あの、流石に傷付きます。


   ……。


   …ねぇ、夕歩。


   …。


   …髪、触って


   駄目。


   ……。


   ……。


   …夕歩、さ。


   …。


   調子、どう?


   …は?


   なんて言うか、身体の具合?


   …。


   …わ。


   別に大丈夫だけど。


   ……。


   変な顔。


   …夕歩さん。


   さん付けするな、きもい。


   ……。


   それから、手を伸ばしたくらいで身構えないで。


   え、と…条件反射、ってやつかな。


   …。


   …なに。


   変な顔。


   ……夕歩。


   順。


   …なんでしょう。


   動きが、鈍い。


   …はい?


   私に気を取られすぎ。


   …それは星奪りの事でしょうかね。


   …。


   …そういうわけでは。


   じゃあ、何。


   …えーと。


   私はもう、大丈夫だから。


   それは、頭では、分かってるんだけ…ど。


   けど?


   …体力の面とか。


   …。


   …夕歩が思うようにはいっていない、と言いますか。


   そんなの、順に言われなくても分かってるよ。


   …ですよね。


   ……。


   …。


   順。


   …うん?


   勝負して。


   …は?


   勝負。


   て、お風呂に入れるあれ?


   …。


   …すみません、勝ち負けの勝負ですね。
   分かってました、ごめんなさい。


   私が勝ったら。
   心配するの、止めて。


   …。


   ……。


   …じゃあ、あたしが勝ったら?


   …。


   あたしの利は何?


   …。


   あたしが勝ったら、好きにしても良いとかさ。
   それくらい


   良いよ。


   …はい?


   好きにすれば良い。


   …いや、夕歩さん?
   好きにするって


   明日の昼休み。


   ……。


   …。


   …抜刀、しちゃいけないんじゃなかったっけ。


   ……。


   ……。


   ……会長に理由を話せば、案外。


   …それ、洒落にならなそうだって。


   洒落じゃないから。


   ……。


   ……。


   …あたしは、負けても。


   …。


   夕歩の心配はするよ。


   …。


   …すぐにどうこう出来るものだったら。
   今頃、夕歩にそんな事言われてないと思うしさ。


   ……。


   …うざいって、言われても。


   知ってる。


   …。


   …順の事だから。


   ……。


   …だから。


   ……。


   ……。


   …ねぇ、夕歩。
   髪の毛、触っても良い…?


   …触って、どうするの。


   …。


   ……順。


   …。


   じゅ


   おかえり、夕歩。


   …。


   ……。


   …今更。


   だってあたしにだけ、知らせてくれなかったし…。


   …。


   …帰ってきた早々、ハード過ぎるし。


   ……。


   …?
   ゆ…


   ばか。


   ……。


   …順は。


   あーーー……。


   ……。


   …ぎゅうっとしても良いかなぁ。


   だめ。








   わたしの、ねがいは。








   やっほー、ゆーほ!


   ……。


   お昼ぶり!


   ……何。


   今日は節分ですので、これを一緒に食べようと思いまして。


   ……。


   巷で流行の恵方巻でございます、姫。


   ……。


   あ、あの、久我さん?


   や、増田ちゃん。
   丁度良いや、増田ちゃんも一緒に食べる?


   いや、私は


   順。


   はいはーい。


   良いから、くっつくな。


   えー。


   ……。


   …はい、ただいま。


   ……で?


   や、あの、ごはん…。


   恵ちゃんと食べるから。


   え、え?


   じゃあ、順ちゃんも一緒


   食べない。
   帰れ。


   えーーー……。


   ゆ、夕歩、折角だから久我さんと


   …。


   …そ、そうだ!
   私、ちょっと用事が


   なんの。


   だ、だから、その…そう!
   今後について、刀友と


   ……。


   …え、えと。
   じゃあ、ちょっと行ってくるね!


   あ。


   夕歩、折角久我さんが来てくれたんだから。


   …いつも来るよ。


   そ、そう言わず。
   ね?


   …むぅ。


   じゃあ、久我さん。


   あー…うん。


   ……。


   ……。


   …順。


   …はい。


   それ、食べるんでしょ。


   …うん。


   食べるなら、早く食べようよ。


   …。


   一緒に、食べるんでしょ。


   ……。


   何。


   ただいま!


   ……。


   これが普通の、これが海鮮、でもってこれが節分和ロールでございます。


   …こんなに?


   はい、姫。


   節分和ロールってなに。


   便乗商品ってヤツだね。
   スイーツ、好きでしょ?


   …。


   で、どうしよっか。
   やっぱり方角向いて


   ……。


   確か、今年の方角は


   ……。


   …て、姫。
   もう、食べてるし。


   ……。


   まぁ、良いや。
   おいしい?


   ……。


   …ん?


   ……。


   ああ、喋っちゃいけないんだっけ。


   ……。


   …んー。


   ……。


   …これは、なかなか。


   …?


   姫が黒い物体を口いっぱい、頬張ってる、のッ。


   ……。


   …ごめんなさい、もう二度と言いません。


   ……。


   …あたしも、食べるかなー。


   ……。


   夕歩は、さ。


   …。


   いや、いかがわしいコトじゃないから。


   …。


   どんな願い事、思い浮かべてるかなぁって。


   ……。


   …教えてくれないと思うけどさ。


   ……。


   ……。


   …。


   …やっぱり、これはこれで。


   …。


   か、かわいいなぁって思っただけです。
   いかがわしい意味じゃなくて、ほんとに。


   ……順。


   あ。


   早く食べなよ。


   て、食べ終わってないのに。


   …。


   夕歩。


   ……これ、大きい。


   え。


   …食べ切れない。


   あ、ああ。


   …。


   じゃあそれ、ちょうだい。


   いや。


   でも、食べ切れないんでしょ?
   だったら、残りはあたしが


   なんか、いや。


   間接キス、とか思ってないから。


   思ってる、きもい。


   そりゃ少しは思ってるけど、でもさぁ。


   順の分は、どうするの。


   まぁ、これくらいなら食べ切れるよ。


   …。


   夕歩はこれ、これ食べなよ。
   和スイーツ。


   …。


   ほい、夕歩?


   ……。


   で、そっちをわたくしめに。


   …変なこと、思わないなら。


   この命にかけて、姫。


   ……。


   ほんとに思わないから。
   ただ、


   …。


   夕歩の願い事、叶えてあげたいなーって。


   …。


   ほら、半分じゃさ?


   順のくせに、生意気。


   はは。


   ……。


   さぁ、姫。


   …姫言うな。


   ……。


   …順。


   うん。


   順の願い事は?


   夕歩が教えてくれたら。


   …。


   ま、内緒って事で。


   生意気。


   はいはい。


   ……。


   スイーツ、食べられる?


   …うん。


   じゃ、どうぞ。


   ……。


   いや、それは別に無言で食べなくても良いと思うけど。


   …これ。


   ん?


   おいしい。


   …それはようござました、姫。








   あなたのとなりを、おなじほちょうで。








   ……。


   あー、やっぱちょっち多かったかなぁ。


   …順。


   はい、なんでしょう。


   ちゃんと叶えて。


   …。


   何。


   …もう、力いっぱい!


   …。


   叶えて差し上げます、姫!!


   ……。


   夕歩、ゆーほ、ゆーほぉ!!


   …うるさい、ばか順。








   ただ、おもいだす。








   ……。


   …順。


   うん…?


   鬱陶しい。


   …。


   …。


   …。


   順。


   …うん。


   …。


   …なんか、さ。


   …。


   …。


   …なんか、で。
   触らないで。


   …。


   …。


   …あの頃は気にしてなんか、なかったんだけど。


   …。


   すぐに、治ると思ってたし…。


   …私は。


   …。


   …。


   …夕歩?


   順にこうされてると、思い出して。
   だから…。


   …。


   …でも、順だから。
   順はこんなこと、気にしないって。


   …。


   …でも、少し嫌だった。
   順に見られるのが、一番…。


   …今になって、怖くなってきた。


   …。


   …あれ、本気だったのよ。


   あれって…?


   …生まれてきておいて良かった、云々。


   ……。


   …。


   ばか順。


   …はい、姫。


   姫、止めて。


   …うん、夕歩。


   …。


   …。


   …私は、大丈夫。
   順が…くれたから。


   うん…。


   …。


   …今、こうしてて改めて思うんだけど。


   …。


   夕歩の髪って、きれいだよね。


   …順に、言われたくないよ。


   え、なんで…?


   …なんでも。


   …。


   …。


   …やっぱり、言いたいなぁ。


   だめ。








   ただ、ただ。









   …。


   …。


   …こうなっちゃった以上。
   腹、括るしかないんだろうけど。


   …。


   夕歩。


   …。


   あたしは


   順。


   …。


   思い切り、やって。


   …。


   やってくれないなら。
   一生、口利かない。


   …それは勘弁して欲しいです、姫。


   だったら。


   約束。


   …。


   あたしが、勝ったら。


   …私が、勝ったら。


   夕歩を、好きにする。


   …私を心配しないで。


   …。


   …。


   なんだかな…。


   ……。





   もう、良いか。





   …。


   良いよ、綾那。


   そこのエロ忍者は?


   …綾那もどうして乗るかな。


   夕歩の頼みだからな。
   じゃなきゃ、乗らん。


   …へぇへぇ、そうかい。


   じゅんじゅん、しぐま!


   チビっ子。


   はやてちゃん。


   いざ、ジンジャーにショーブですな!!


   …ジンジャー?


   ああ、尋常ね…。


   お前は黙って見てろ、クロ。


   だって綾那、じゅんじゅんとしぐま、夫婦のごらんこ


   黙れ。


   …あい。


   それじゃ始めるぞ。
   二人とも、良いな。


   うん。


   一つ。


   …。


   時間無制限、は、無しで。
   長くて10分にしておいて。


   順。


   その代わり、思い切りやる。
   手加減は、一切、しない。


   …。


   夕歩。


   …順。








   『いざ、尋常に勝負。』








   仕方が無いよ。
   そう言っては、諦めた顔で貴女は笑う。多分、無意識に。

   静馬と久我。
   姫と御庭番。
   その名が示す通りの関係。
   守られる者、守る者。
   私は静馬の子。久我に守られる者。

   それが、嫌だった。
   姫、と呼ばれる事も。
   今となればそんなもの、ただの名目に過ぎないとしても。
   私はただ守られるだけの姫になりたくなかった。
   なかった、のに。




   …楽しいな。




   本気の順と仕合う事。
   叶えたかった事。
   今の私なら、出来る事。
   順は、本気になった順は誰よりも強い。
   私よりも。
   それは嘘でなく、誇張でも無い。
   それは、紛れも無く、本当の事。




   …ずっと、続けば良いのに。




   順の呼吸と、自分の呼吸。
   徐々に合わさってきているように感じる。感じてる。
   剣を弾き、撃ち込み、返され、流し。
   順の呼吸に合わせて、私の躰が動く。
   動かされる。




   ……順、私は。




   何も無い事に、無かった事にする事は出来ない。
   姫である私も、御庭番である貴女も。
   血を半分、同じとする事も。
   これからもそれは付き纏うのだろう。
   それでも。




   ゆうほ、あそぼ!




   順、笑ってよ。
   小さかった頃のように、私だけが知っている顔で。
   私はもう、大丈夫だから。
   笑って、順。








   母さんは罪の意識に堪えられず出て行った。
   あたしを置いて。

   静馬の家。久我の家。
   主たる者、付き従う者。
   昔から続く、主従としての関係。
   それは屹度この先も変わる事の無い、関係。
   あたしは久我の子、姫に従う者。

   正直な事を言うと、家なんかどうでも良かった。
   静馬の家がどうなろうと、あたしには関係ない。
   あたしはどこまで行っても久我の子で、父さんの子だ。
   でも、夕歩は。
   子供の頃から、夕歩だけは。




    …何、してんだろ。




   夕歩が本気であるのは、十分に分かってる。
   だから、あたしも本気を出さなければならない。
   手を抜けば直ぐにばれるだろうし、そもそも、そんな事をすれば一生口を利いてくれなくなるかもしれない。
   でもさ、夕歩。
   あたしの本気なんて、夕歩が思ってるようなもんじゃないんだよ。
   強くなんて、ないんだよ。




   …早く、終われば良いのに。




   夕歩の呼吸、自分の呼吸。
   確実に夕歩の方が追いつかなくなってきている。
   合わさってるような感じがしたのも、結局は、気のせいだったのかもしれない。
   夕歩の呼吸はもう、あたしの動きに合わない。
   ついて、こない。




   …夕歩、あたしはさ。




   諦めてるわけじゃない。欲しがってないわけじゃない。
   姫である貴女も、御庭番である自分も。
   血を半分、同じとしている事も。
   あたしが欲しいものに、そんなものは関係ない。
   …なかったんだよ、夕歩。




   じゅん、あそぼう。




   ねぇ、夕歩。
   あの世界で、夕歩の笑顔だけが、あたしの特別で。
   この世界で、夕歩だけが、ただ一つの存在だった。
   だから…夕歩。








   ……。


   ……。


   ……姫。


   ……止めて。


   ……。


   ……。


   …夕歩。


   ……。


   …とりあえず。
   何か、飲みませんか。


   ……。


   動いたら喉、乾いたっしょ。
   何が良い?買ってくるよ。


   順。


   …何でしょう。


   約束。


   ……。


   好きにすれば良い。


   …あのさ、夕歩。
   意味、本当に分かって言ってる?


   …。


   ……大体。


   …。


   勝ち負け、ついてない。


   …。


   引き分けの場合の約束はしてなかった。
   だから、


   つけなかっただけ。


   …。


   あのまま、続けていたら


   続きは無いよ。


   …。


   なんか飲もうよ。
   喉、渇いちゃった。


   ……私は負けてたよ、順。


   …。


   順も、分かってるんでしょ。


   …分からないよ。
   続きは、無いんだから。


   目を、逸らさないで。


   …。


   私は、楽しかった。


   …。


   ずっと、続けば良いと思った。


   …夕歩。


   たとえ、順の思いと違っても。


   ……。


   …もっと、遊んでいたかった。


   ……。


   …。


   …分かった。
   夕歩をあたしの好きにする。


   …良いよ。


   姫、あまり心配させてくれますな。


   …は?


   でも、するけどねー。


   …順。


   こればかりは、しょうがない。
   あたしが夕歩の隣にいる限り。


   ……。


   んで、夕歩があたしの隣にいてくれる限り。
   ね。


   …ね、じゃない。


   お…。


   うざい。


   えぇ、つれなぁい。


   その言い方、きもい、うざい。
   止めて。


   …そうですか。


   何、笑ってるの。


   笑ってる?


   きもい顔で。


   ……ちょっと、泣きそう。


   ……。


   姫?


   …。


   …と。
   夕歩、どちらに?


   喉、渇いたんでしょ。


   …。


   早く、順。


   …はい。


   ……何、この手。


   好きにしようかと思いまして。


   …。


   夕歩もして欲しいなー。


   じゃあ、心配しないで。


   それは好きにするのとは違いまーす。


   順。


   はっはー。


   …。


   …。


   ……。


   …夕歩、さ。


   ……何。


   遊ぼう、また。


   …。


   やっぱり、夕歩と遊ぶのが一番楽しいなー。
   綾那をいじるのも楽しいけど。


   ぼこぼこにされてるけど。


   夕歩にもされてるけどね。
   順ちゃん、Mなのかしら。


   知らないよ、そんな事。








   んー……。


   順。


   …うん?


   ……。


   なに、夕歩?


   …。


   わ。


   …む。


   ひ、姫?


   …。


   …痛い。


   姫、言うな。


   …痛いです、夕歩さん。


   順。


   …なんでしょう。


   変な顔。


   …。


   でも、ニヤニヤしてるよりマシ。
   あの顔、かなり、きもい。


   …ああ、そうですか。


   ……。


   …夕歩、そろそろ離してくれたら嬉しいなぁ。


   ……。


   …へいへい、夕歩のお好きなままに。














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