− 第二章 −

 

 屋敷の中には様々な工芸品や美術品がいたるところに並んでいた。惜しむべきは飾った奴が芸術のセンスがカケラもないことだろう。せっかくの芸術も宝の持ち腐れである。
 もったいない。
 泥棒なんて仕事をやっていると、美術品などの目利きができるようになってしまう。俺の目から見れば、無造作においてある壺一つとっただけで普通の人が一生遊んで暮らせるほどの価値はある。
 帰りに余裕があったら、二つ三つもらって行こう…… 捨て値でさばいても結構な金になる。どうせ真っ当な方法で手にいれたものでもあるまい。
 人の気配を探りながら二階への階段の方に足を向ける。大抵、偉そうな奴、もとい、屋敷の主人の部屋は上の方にあると相場が決まっている。
 侵入前にジャニスが仕入れてきた屋敷の間取り図を頭の中に描きながら二階のいちばん広い部屋に向かう。
 それっぽい厚手の木製のドアの前までついた。珍しく、と言うか、このドアは電磁ロックではなく、昔ながらの機械的な錠がかかっていた。
 屋敷に入ってから結構な時間が経った。足音を忍ばせながら、まわりの気配に注意しながらであるから移動速度はさすがに遅い。しかし、これだけ不用心なら大胆不敵に闊歩しても見つからない可能性の方が大きかったろう。
 前の連絡からだいぶ時間が経っているから、通信機の向こうではジャニスがやきもきしているだろう。おもむろに通信機のスイッチをいれた。
「はーい、こちらフェイクでーす。元気してますかぁ?」
 俺の軽いノリについてこれなかったらしい、耳にあてたヘッドセットの向こうから呆れたようなため息が聞こえてきた。
『フェイク! なに馬鹿なことやってんの!
 いきなり連絡いれるから何かトラブったのかと思ったでしょ!』
「トラブるも何も、全然人の気配がしない。全く拍子抜けだよ。」
『ホント? どれ…… あ、本当だ。あなた以外誰も廊下には見えないわ。』
「室内に何十人も人がいたりして……」
『そんなわけないでしょ!』
 漫才はこれぐらいにしておこう。
「ま、そんなこんなであと十五分もしたら戻れると思うよ。」
『分かりました。通信終わり。』
「はい。」
 さて、緊張もほぐれたし、ドアの鍵との対決である。シリンダー錠よりも更に旧式なタイプの錠だ。昔の映画によくあった、鉄棒のような鍵を使って開けるようなやつである。
 ……これほどの旧式なものだと逆に開けづらいな。しょうがない。少々強引な手を使わせてもらうか。
 腰からバトンのようなものを取り出し、それについているスイッチをいれる。ブーンと低いハム音がして、バトンの先にレーザーの刃が生まれる。軍の白兵戦部隊が使用しているものに類似しているが、ジャニスの調べたところによるとそれよりも高性能のものだ、という話である。親父の残してくれたトレーラーにつんであったものだから出所は不明だけど、今までずいぶん役に立ってくれた。
 できた薄っぺらいレーザーの刃をドアのすき間に差し込み、上から下まで薙ぎ降ろす。
 刃を消して、そっとドアに手をかける。手入れがいいのか、ドアは音を立てずにスッと開いた。俺としてはあまり物を壊さないようにして盗むのがポリシーだから、今一つ不満が残るが、まあ、贅沢も言ってられない。
 一番偉そうな部屋にはいる。玄関ホール同様に様々な美術品が何の脈絡もなく並べてある。成金好みのハッキリ言って悪趣味な部屋だ。
「大体、パターンとしては額縁の裏だよなあ…… あるとしたら。」
 美術品の間をすりぬけながら目についた絵画の裏をのぞきこむ。ほとんどは額ごと壁に固定されていたが四つ目あたりの額がヒョイと持ち上がる。
 予想通りであった。
 額縁の裏には真っ黒でいかにも丈夫そうな合金製の扉があった。おそらくこれが金庫なのだろう。こいつを開ければ今夜の仕事はほぼ完了である。
 しかし、油断は禁物だ。金庫自体には手を触れないようにしてそのまわりを注意深く調べる。独自の警報装置が一つ、うかつに開けると高圧電流が流れるものが一つ、極めつけは金庫の扉に仕掛けられた指向性の爆薬だった。
 もし解除に失敗したら手はもちろん、上半身ごと吹き飛ばされるに違いない。しかも指向性だから金庫や他の美術品には害が及ばないようになっているのだろう。よほど俺は嫌われているらしい。
 ま、この程度の罠など、この怪盗フェイクの手にかかればおもちゃと大差ない。
 何の苦もなく金庫は俺に心を、いや、扉を開いてくれた。中には希少金属(レアメタル)のインゴットや、株券証券の類、現金の束、そしてチェックカードもあった。
 こいつはプリペイドカードの子孫みたいなものだが、それ故に楽である。特にこの中のチェックはプラチナ、つまり、百万クレジット単位のチェックであることを示している。軽いし、無記名だから足もつきにくい。
 株券証券は換金しにくいからパス。現金もかさばるから置いて行こう。プラチナチェックは確実に持っていくとして、インゴットかあ…… こいつは確か通称G合金と言われている人工重力装置や慣性制御装置に必須な触媒金属だったっけ…… さばくルートを知らないからこいつもパスだな。
 ええと…… あとは何かないかなあ……
 暗い金庫の中を探っていると何か硬いものが手に触れる。引っ張りだしてみると大きな赤い石がはまったペンダントだ。売れるかどうかは別にしてもジャニスにいいお土産ができた。
 更にしつこく手を入れていると、今度は光ディスクが見つかる。はて……? 金庫に入れるほどのものなのか? そうだとしたら結構価値のあるものかも知れない。
 そうこうしていると、耳元で通信機の電子音が鳴った。はいよ、と返事をする前に切羽詰まった声が耳に飛び込んできた。
『フェイク、気をつけて! そっちに三人ほど向かって……』
 そこで急にノイズが大きくなり、ジャニス声が聞こえなくなる。このノイズのパターンだと、携帯妨害電波発生機(パーソナルジャマー)というところだろうか。
 気配が近づいてくる。手慣れた連中だ。そこいらの警備員どころではない。訓練を受けたプロの動きだ。
 戦うか、逃げるか。俺は躊躇わず後者を選んだ。まあ、俺の実力を考えれば正面切って喧嘩してもいいが、それをしたくない理由が二つほどあった。
 一つは騒ぎを大きくしたくないから。そしてもう一つは相手がジャマーを使ってきたからである。こっちの通信を妨害したということは、ジャニスの存在がばれている可能性が大、ということである。
 俺一人なら何人やってきても(限度はあるが)怖くはないが、ジャニスがからむとちょっと不利になってしまう。
 それにもらう物は頂戴したし、長居は無用である。幸い、ここはまだ二階だ。窓もあるし、中庭に面しているというわけでもない。脱出するのは実に容易である。
 豪勢なつくりのフランス窓を開け…… おっと、忘れるとこだった。俺は胸ポケットから灰色のトランプのカードを一枚とりだした。今日のカードはスペードの7だ。赤のペンでそのカードにサインを一筆。
「ご寄付感謝いたします(サンクス フォー ユア コントリビューション)。怪盗フェイク」
 この直筆のカードを目につくところに張り付けておく。最後に深々と一礼してから俺は開け放たれた窓からマントをなびかせて飛び出た。天然芝の広い庭に音も立てずに降り立つ。
 その場で耳をすます。
 草木のざわめく音に混じって、何人かの人の気配がする。数人程度だろう。もう少し気を凝らせば正確な人数が分かるだろうが、そんなことをしている暇なんぞない。
 追手を撒くように木々の間をすり抜け、塀を乗り越えジャニスが待機している車の方に走る。
 パーン。
 闇の中に乾いた銃声が響いた。この音は…… ジャニスの持っている銃の音だ!
 彼女が銃を撃ったということは、敵に襲われているということである。俺と違って、ジャニスは戦闘に関する訓練をまるで受けていない。少々、銃の扱いを教えてやっただけである。
 姿がまる見えになるのも構わず、一直線にジャニスのもとに向かった。間に合えばいいが……
 赤いエアカーが見えた。三人の黒づくめの男と…… ジャニスが地面に倒れているのが確認できた。ピクリとも動かない。外傷がないようだからおそらく気絶しているだけだろう。男の一人がジャニスに覆いかぶさるようにかがみ込もうとしていた。男達の意図を察して俺は冗談抜きに激怒するかと思った。決めた、手加減なしだ。
 飛び出すと同時に怪盗フェイク特製の閃光弾を地面にたたきつける。あたりは一瞬のうちに真っ白な闇におおわれる。光に目を灼かれた男達の悲鳴が聞こえた。
 手近な男にフルパワーの蹴りを入れる。足の先に肋骨が五、六本まとめて折れる感触が残った。次の奴には顔面に向かって強烈なパンチを。これで鼻の骨と上の顎は完全に砕けたに違いない。最後の奴には背中を大地にたたきつけるように投げをうった。おそらく背中の骨にひびがはいったことだろう。
 まだ今一つ怒りがおさまらない。レーザーソードを抜いて、倒れている黒づくめの両手両足の腱を切り裂く。これで今度からは機械のお世話になることだろう。
 一瞬、心臓に突き立ててやろうか、とも思ったが、ジャニスが悲しむだろうし、怪盗フェイクは無駄な人殺しをしない主義である。俺はその衝動を必死に抑えた。
 閃光弾が光ってからキッカリ三秒後、再び闇の色が戻ってくる。光にやられないよう閉じていた目を開き、戦果を確認した。息をひきとった奴はいないが、その口からは苦しそうなうめき声が聞こえる。
 俺はそれを無視して、ぐったりとしているジャニスをそっと助手席に座らせて、車を出した。俺の方の追手は俺の力に恐れをなしたのか追ってくる様子はない。
 そんなことよりもジャニスの手当の方が先である。

 別な場所にとめてあったトレーラーに戻り、中のリビングのベットにジャニスを横たえる。
 頬にぶたれた痕があった。女の子の顔を殴るとは…… やっぱりとどめをさしておくべきであったか……
 それ以外には外傷はなく、着衣も乱れていない。そのことに一安心すると、椅子を引き寄せてジャニスの意識が回復するのを待った。
 さほど待たずに少女は小さなうめき声とともにゆっくりと、あたりを窺うように目を開いた。
「フェイク…… いや…… ジーク?」
 おっと、忘れてた。まだコスチュームを着たままだった。
 バイザーとマントを外し、にっこりと少女に微笑む。
「大丈夫かい?」
 自分でも陳腐と思いながらもそんなセリフが口をついて出た。が、怖いおもいをした少女はそんな使い古された言葉にも過敏に反応する。その瞳に涙が溢れてきた。
「あ、あの。ジャニス?」
 情けないことだが、俺は女の子の涙ってやつにからきし弱い。目の前で泣かれたらどうしていいのか分からなくなってしまう。
 が、次のジャニスの行動は更に俺を困惑させることとなった。
 彼女は俺の胸にすがりついてわんわんと泣き出したのだ。こういう時に自分がまだまだ人間ができていないと感じてしまう。
 気のきいた言葉一つかけることもできず、俺はどっかの柱のようにつっ立っていることしかできなかった。
 しばらくして心を決め、壊れ物を扱うようなこわごわとした手つきで、左手は触っただけで折れそうな細い腰に、右手を首筋のあたりにまわした。そのまま軽く抱きしめてやる。
 腕の中で震える少女を急にいとおしく感じた。そのまま強く抱きしめたくなる衝動が俺を襲う。今の泥棒と借金取りという関係を気に入っているわけでもないが、嫌ってもいない。この微妙なバランスの上に成り立っている関係を壊す勇気は俺にはなかった。……そう、今の俺には。
 ふと思いついて、右手を更に上にあげ、ゆっくりと髪の毛を撫でて…… おや?
「痛い。」
 急に声をあげるジャニス。
「ジャニス…… コブになってるぞ。」
 顔をあげて、正気を取り戻した彼女はさっと俺から離れる。
「そういえば…… 殴られたときに、頭をどこかにぶつけて意識を失ったような……?」
 内心ホッとする俺。ジャニスも多分そう思っているのだろう。確かにまだ若い少女にとっては得体の知れない男との二人きりの旅、しかも危険がつきまとう旅である。心細くなってもおかしくはない。逆にここまで保っていること自体、賞賛に値するほどである。
「まあ…… 俺の見たところ、数日もすれば頬もタンコブもきれいさっぱり無くなってるでしょう。」
 わざと陽気な口調で俺は言った。一応これでも医者の心得がある。泥棒というものには様々な知識が必要とされるものだ。
「それはさておき、ホッペタは冷やした方がいいな。」
 俺は冷蔵庫に氷を取りに行った。その時、ジャニスが何か呟いたようだが、幸か不幸か俺の耳には届かなかった。

 一晩明けて、とは言っても忍び込んだ時点で次の日になっていたのだからこの表現は正しいのかどうかは自信ない。
 いや、そんなことを言おうとしたんじゃなくて…… とりあえず朝食のテーブルである。
 自家製の焼き立てパンに目が覚めるようなコーヒーの香り、ベーコンエッグに新鮮なサラダ。なかなか理想的な朝食である。世界が宇宙規模に広がったとしても食事は三度三度とらなければならないことにかわりはない。
 その点、ジャニスは優秀なコックであった。和・洋・中の料理をそつなくこなす彼女は料理のできない俺にとってたいへんありがたかった。
 TVでニュース番組を見ながらの朝食であるが、いつもここがトレーラーの中とは思えなくなってくる。行方不明の親父の残してくれたトレーラーは人が生活していけるほどの装備が備えてあった。ま、それでもたまにはホテルに泊まりたくなることもあるが、こいつはすでに俺の家と化している。
 そんな席でだ、
「そういえばあの黒づくめって何者なのかしらね。」
 とジャニスが口を開いた。
 確かに、俺も何度か警備員などと出会ったこともあったが、今回みたいな奴らは始めてだった。……ハッキリいって奴らは俺たちの口を封じようとしていた素振りがあったような気がする。当然、「殺す」方の意味だ。
 別に盗んだだけで殺されそうになるような物に手をつけた覚えは…… 待てよ。もしかして……
 パンを口にくわえたまま(ジャニスが「行儀悪い」と文句を言っているが)昨夜の戦利品を取りに戻る。
 プラチナチェックが七枚。安く見積もっても一千万クレジット程度の代物だが、これで命を狙われるとは考えにくい。
 光ディスク。何かあるとしたらこれだろう。おそらく何らかの知られるとまずいデータが記録されているのだろう。
 ペンダント。俺の記憶だと、どこぞのいわれのあるような品ではない。だからこれも違うよう…… いやちょっと待て、これはもしかして……
 ベルトからナイフを一本取り出してペンダントの石に刃を立てる。
 チン。
 ジャニスは俺のやっていることを興味深げに見ている。そのジャニスも小さくあっ、と声をあげた。
 俺のナイフは使い捨ての投げ専用のものもあるが、今使ったのは特殊合金製の物で硬度は十弱の硬い代物だ。こいつで傷つけられない物はダイヤモンド以外にはない。しかし、そのナイフの方が少し欠けてしまった。
 ということは、この血のように真っ赤な石はダイヤであるはずだが…… 俺の記憶ではこれほど真っ赤なダイヤというのは聞いたことがない、ある一つを除いては。しかしそれを認めたくなかった。
「スカーレット・デビル……」
 無意識のうちにそのダイヤの名前が口をついてでた。

 この緋色の悪魔(スカーレット・デビル)と呼ばれるダイヤはある種の人工ダイヤの総称である。合成するのがたいへん難しい割には外観がルビーに酷似しているため、あまり流行らなかった人工物ではあるが…… こいつには一つの、そして悪魔の名前を冠されるような特徴があった。
 ある波長の光を当てると、特殊な光線を発する。光線はこの方法でしか得ることができず、また、この光線でしかできない事があった。
 麻薬の合成である。
 その麻薬は「悪魔の囁き(デビルウィスパー)」という名で、強い習慣性と暗示性、そして…… 恐ろしいほどの肉体改造力があった。
 これを大量に投与された者はその肉体を一〇〇%、いや、それ以上の能力で使う事ができる。それに比例して知性も下がり、本能のみで暴れるモンスターに変化してしまうのだ。
 その昔、これのせいで暴れた男が百発以上の銃弾やレーザーを受けても死なずに暴れ続きたという記録がある。その後、薬が切れた瞬間に出血多量と、筋肉の過剰疲労によって死亡したという。
 当然ながらダイヤと麻薬、共々製造を禁止どころか、関わっただけで重犯罪者になるほどのものである。
「どうしたのジーク? 顔が真剣よ。」
「ジャニス。悪いが至急このディスクを解析してくれ。」
 えぇ……、と文句を言いながらも朝食を中断して端末に向かった。肩ごしにジャニスの作業を見守る。
 光ディスクには当然のように何重ものプロテクトがかかっていた。鼻歌まじりにジャニスがそのプロテクトを次々に解除していく。いつ見ても惚れ惚れするような腕前だ。コーヒーが冷めきらないうちにディスクはその中身を俺達の前にさらけ出した。
「……何かの顧客リストのようね。」
 借金取りの娘であるジャニスは金銭が絡むことに関しての徹底的な教育を受けていた。俺からみれば文字の羅列にしか過ぎないデータも彼女にしてみれば意味のあるものになる。
「ええと…… 一グラム百万クレジットする物ってなんでしょう?」
 俺の予想通りだ。そんなふざけた値段が存在するとしたら麻薬以外には考えつかない。ということは…… この星に「悪魔の囁き」をさばこうとしている阿呆あほうがいるということか?
「そいつは麻薬だ。」
「麻薬?」
「デビルウィスパーという名の凶悪な薬…… その一グラムで十人の怪物が作れる恐ろしい麻薬だ。」
「…………」
 真剣な表情でジャニスがディスプレイに向き直った。再び、キーをリズミカルに叩き始める。さっきとは段違いのスピードで画面が流れていく。しばらくそれが続き、そして始まったときと同様に唐突におさまった。
「あ、あの……?」
 おそるおそる訊ねる俺にジャニスは一枚のさっきとは別の光ディスクを差し出した。少女は少々怒ったような目をしていた。
「これ、さっきのリストのプロテクトを完全に外して、なおかつ、暗号化された取引先の詳しいプロフィール付きのものに書き換えておきました。」
 怒ったような、というのは俺の勘違いだった。ジャニスは怒っている。どうやら彼女は麻薬と名のつく物が大嫌いのようである。まあ、俺も大嫌い、いや憎んでいると言っても過言ではない。麻薬なんぞ、宇宙から根絶されるべきである。
「これを銀河連合警察(GUP)に提出すれば、調査の為に捜査官が送られて来るんじゃないでしょうか?」
 うーむ。確かにそうだけど…… 泥棒が警察にか…… 何かが間違っているような気がするが。
 それにざっと見た限りでは、捕まえる相手は相当の大物揃いである。下手にGUPに起訴しても圧力をかけられウヤムヤにされる可能性がないとは言い切れない。よほど腕がたって、しかも機微に通じた奴でないと……
 幸か不幸か俺にはそんな知り合いに心当たりがいた。好きで知り合いになったわけじゃあない…… 奴の手を借りるか……
「ま、とにかくこれは俺が預かっておく。しかし…… もう少しこの星にいることになりそうだな……」
 ジャニスが俺の言わんとしていることに気づいて無言で頷いた。「仕事」を終えた後はすぐに高飛びすることにしているが……
 ちっ、この怪盗フェイクが無料奉仕とは…… ずいぶん俺も人生に余裕ができてきたというものだ。
 手の上でディスクがキラリと光った。

 

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