− Please be Cool! −
我が名はレイファルス
我が司るは冬
大地に霜を、湖には氷を
山には雪をもたらす者
我が求めるは知恵
破壊より停止、争いより平和を好む
我は冷酷なる哲学者
我は冷気を操り、氷を生み出す者
そして氷の精霊を従えし者
大地に縛られし者は我をこう呼ぶ
気高き氷の魔狼、フェンリルと
未だ神の力、滅び去った古代王国の魔法が残っている大地。剣と魔法が支配する世界。それがフォーセリアである。その中心を占める巨大な大陸・アレクラスト大陸では冒険者と呼ばれる者たちが名誉や富を求め、あるいは自らの腕を試すために今日もまた危険にむけて旅立つのであった。
「旅人たちの王国」
アレクラスト大陸を大きく東西にわけるとその中央付近にロマールが存在する。交易も盛んであり、冒険者も多く立ち寄る街。
ここには二つの名物がある。一つはここに来れば全てのものが揃うという「闇市」。もう一つは悪趣味なことに命がけで闘うものを物見高く見物するという「闘技場」である。
「あら? レイファルスってそういうの嫌いなんですか?」
まあな……
木陰で私の隣に座っている小妖精の少女にそう言葉を返す。彼女の名前はシャラン。小妖精の名が示すとおり身の丈は私の柄くらいもない。
おっと、自己紹介が遅れたようだ。私の名前はレイファルス。これでも氷の上位精霊、氷雪の魔狼と呼ばれる存在である。太古の昔、まだカストゥール王国という魔法王国があった頃に私は一本の大剣に封印され、それ以来ずうっと氷の魔剣として様々な人間を主として存在してきた、というわけである。
「えい! やあ!」
ロマールに向かう街道の途中、ちょっと開けた場所で目の前で二人の少女が剣を交えていた。片方は長めの髪を頭の後ろで子馬の尻尾のように束ねた少女。人間に比べると華奢な体つきとわずかに尖った耳が示すように彼女はハーフエルフである。外見は一六、七だが、普段の言動と行動を考えると実際の年齢も同じくらいだろう。
短めの木の枝を剣代わりにもう一人の少女に振りかぶるが、簡単に避けられる。逆にもっと小柄の少女の枝がハーフエルフの少女の手の甲を叩いた。
木の枝がポトリと落ちた。
「いったぁ〜い、ミル。ちょっとは手加減してよ……」
「エレナでしょ。剣を教えて、って言ったのは。少しは我慢しなさい。」
サファイヤブルーの瞳とセミロングのプラチナブロンドの髪をした一二、三くらいに見える少女が腰に手をあててエレナと呼んでいた少女を見上げる。
実をいうとこの少女……ミルが私の現在のマスターである。この私の全長ほどもないエルフにしてもまだまだ年若の少女なのだが、精霊使いとしては超一流。剣(もっぱら私なのだが)を使わせても下手な騎士よりもずっと腕が立つ。「人は見かけによらず。」とよくいわれる言葉が服と鎧を着て歩いているようなものだ。
で、何をやっているかといえば、剣の練習である。ミルみたいに剣も精霊魔法も扱えるとか、シャランみたく精霊魔法と古代語魔法の両方を扱える優秀な魔法使い、というわけでもないエレナにとっては自分の身を守るくらいの芸は身につけておきたい、というところだろう。
ま、それでも新米の冒険者よりはずっとマシに精霊魔法は使えるのだから悲観することもあるまい。
なんて考えていると私の予想を大きく外れて教える側のミルが先に音を上げていた。
「やっぱり教えづらいよぉ。」
細い木の枝をブンブン振ってミルが不満げな声を出す。
「何で?」
「だってさあ、あたしの剣術って……」
ミルがこっちに近づいてきた。ヒョイ、と私をつかむと鞘の留め金を外す。実際の金属にはあり得ない真っ青の光沢。まさに魔法銀ならではの美しさだ。魔法銀できているため、自分の身長を超えた剣も軽々扱うことができる。
逆にいうと、これがミルの剣の唯一、そして最大の欠点であろう。私のように長く、そして異常なまでの軽い剣しか使ったことのないミルは私以外の剣をまるで扱うことができない、ということだ。
ミルは私を手近な木に向けると軽く振りかぶった。空気をも断ち切りそうに鋭く切っ先が走る。
ミルが私を正面に構えて動きを止めてから数秒経って葉っぱの一枚がハラリと落ちた。
「レイファルスなら簡単なんだけどな……」
「えぇ〜 ……ねえ、あんた。あたしの剣にならない?」
「ダメェ、レイファルスはあたしのなんだから。」
おい、それを決めるのは私なのだが……
私の言葉も聞こえないのか、しばらく私の所有権についてもめていたようだが、どちらかともなく息をつく。
「まあレイファルスは諦めるとしても…… やっぱり剣を教えるのは無理?」
「う〜ん……」
ミル、いっそのこと別なことを教えた方がいいんじゃないか。
「別なことって?」
急に言われても困るが…… そうだ、体術なんかどうだろう。知らなくて散々苦労した覚えがあるだろう?
「う……」
馬車から落ちたり、屋根から落ちたり……
ん? エレナはやけに落ちることに縁があるな。
「あんたねぇ……」
エレナが私を睨んでくるが、気にしない。
ともかく、必要最低限の護身術、これもエレナの課題にしておこう。
しかし不思議である。私がミル達と旅に出たときはあんなにも行く先々で騒動に巻き込まれるとは思わなかった。ある程度安閑とした旅になると思ったのだが……
ま、何があるか分からないからこそ、人生は面白いのかも知れない。それでもミルと出会ってからの一年が一番慌ただしいというのはどういうことだ?
まったく……
「さっきからなにブツブツ言ってんのよ。不満があるならハッキリ言いなさい!」
不満、か……
よく考えれば、私とて誇り高き氷雪の魔狼である。本当にミルに不満があり、気に入らなければさっさとミルを殺してでも主従関係を放棄すべきである。
それをしない、ということはミルのことも、今の境遇にも小さな不満があっても別離を考えるまでの不満がない、ということか……
「ちょっと、レイファルス!」
……一つ質問なのだが、もしも私に会わなかったらミルは今頃何をしていた?
「いきなり変なことを聞くわね……
何のつもりか知らないけど、そんなこと聞かれても答えられないわよ。そりゃ、あんたに会わなかったら旅にも出なかったかも知れないし、エレナとも会わなかったかもしれないけどさ。……いいんじゃない? あたしは今が気に入ってる。だから無理にやり直そうとは思わない。」
ミルらしいな……
「変なレイファルス。
ま、いいわ。さぁ、ミッチリ鍛えてあげるからねぇ……」
フッフッフ…… と心底嬉しそうに笑うミルにエレナが顔をひきつらせる。エレナの心に大量の闇の精霊が湧いてくる。シェイドは闇の精霊であると同時に恐怖を司る精霊でもある。
「冷静に解説しないでよ……」
ま、気休めかも知れないが、死ぬことはないだろう、うん。
「本当に気休めですね。」
シャランの何気ない(本人にしては全然悪気はないし、そんなことをカケラも考える妖精ではない。)一言が更にエレナに追い打ちをかける。
「あうぅぅぅぅ……」
と、いうわけでエレナの特訓が始まった。「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
木の枝からの飛び降り。自分の身長よりも高いところから…… エレナはとりあえず落下している。多少の怪我なら〈治癒〉の魔法で何とかする、ってミルは言ってたが……
おいおい、怪我しないようにするものではないのか、普通?
「逆よ。怪我したくないからすぐに体で覚えるのよ。あたしだってこうやって訓練したんだから。」
その憂さを今晴らしている、ということはないだろうな。
「…………そんなことないよ。」
今の妙に長い間は何だ?
「もしもホントに危険ならシャランが『落下制御』を準備してるから大丈夫よ。」
なるほど。言われれば確かに頭を打ちそうな危険な落ち方の時は魔法で安全に着地している。
「エレナ! 人間は頭が一番重いのよ! 頭から落ちやすいんだから気をつけて!」
顔から軟着陸したエレナ。疲れ切ったのか、しばらくうつぶせのまま動かないでいたが、ゆっくりと顔を上げる。土や木の葉が顔にひっついている。
「ねえ、あたし一つ提案あるんだけど。」
「なに?」
答えるミルの目はわずかばかり冷たい。
「もう…… 今日はヤメにしない?」
「そうねえ…… じゃ、後一回で飛び降りはお終い。」
「飛び降りは……」
ハァ、と疲れたように息をつくと、再びスリ傷だらけの手で木を上り始める。
フム。見ていると最初に比べて大分手慣れてきている。多少は特訓の成果が出てきているようだ。
「あ、ちょっと待って。
そこでいいよ、そこで。」
「え?」
三分の二ほど登りかけたところで呼び止められてエレナが下を振り向いた。
「こんなところでいいの?」
こんなところ……
散々、高いところから落下していたせいなのだろうか、高さに対する感覚が麻痺しかけているようだ。今までよりは確かに低いけど、常人では簡単に怪我する高さだ。
エレナはいいのかなあ、といいたげな表情をすると、ヒョイ、とそこから飛び降りた。危なげなく足から着地すると何事もなかったかのように立ち上がった。
「これで…… いいの?」
「はいはい、お見事。」
パチパチとミルが手をたたく。エレナとシャランが不思議そうに首を傾げる。
「じゃ、次はこれやっててね。」
荷物の中から小さな錠前をいくつか取り出すと曲がった針金と一緒にエレナに放り投げる。慌てて受け取ろうとするが、手が滑って大半を拾い損ねる。
「ノルマは最低三回ずつね。じゃ、あたし達は薪でも探してくるから。行こう、シャラン。
あ、レイファルス、見ててあげてね。」
はいはい……
シャランを連れてミルが林の中へ消えていく。しばらくエレナは錠前と針金を見つめていたが、ノロノロとそれらを手にする。
「ハァ…… ミルちょっと厳しすぎない?」
ああ、私から見てもそう思うぞ。
私の言葉にエレナはガックリ肩を落とす。
「失敗したかなぁ……」
盛大にため息をつきながら錠前に突っ込んだ針金をこねくり回す。
おいおい、力入れすぎだぞ。
「こんなのできるわけないよ……」
なあ、エレナ。さっきどこから飛び降りたかおぼえているか?
「ええと…… ええっ! あんなに高いところから……?」
やっと気づいたか……
ミルの受け売りだが、アクロバットの失敗の理由の大半は恐怖心らしい。能力的には可能なのだが、心理的なブレーキがかかるわけだ。あともう一つ、疲労しているときは余分な力が抜けて自然な動きができるそうだ。
「…………」
ま、私なりの分析だが、ミルのあのスパルタはエレナに手っ取り早く基礎を教えようとした結果じゃないのか? 変な話だが才能のない人間にあんな無茶な特訓をしたら十中八九死んでいると、私は思う。
「あたしに…… 才能?」
……悪い、訂正する。才能云々より努力だな。本気でおぼえようという気が無いならどんな特訓も無駄に終わる。
「……そうよね。あたしに才能なんて確かに無縁よね。あ〜あ、ミルが羨ましい。なんでもできてさ。」
少し寂しそうな顔をしてまた錠前と格闘し始めるエレナ。偶然、針金がいいところを突いたのかピンと音がして鍵が開く。エレナがパッと顔を輝かせた。
言っておくが、私が聞いた話だと、ミルは相当の苦労をしているぞ。ミルは絶対話そうとしないがな。
「じゃあ、なんで知っているのよ。」
ミルの昔の冒険仲間が言ってた。ミルは二年に満たない期間であれだけの腕前を身につけたのだ。何があったか私は想像したくないがな。忘れているかも知れないが、ミルは冒険者だったんだ。
「そうだったんだ……」
私だって昔からずっとミルの魔剣では無かったのだ。敵対したこともあったしな。
「うそぉ。」
ま、その時のマスターが力バカの間抜けで、こっちから見限ったけどな。
「……ミルはどうなの?」
いきなり凄いことを聞くな。
……そうだな。もし私がミルを見限ったらエレナがマスターになるか?
私の問いに、エレナはニッコリ微笑んだ。
「できないことを言わないの。あたしの方も変な質問したわね……」
〈待って。〉
不意にエレナが精霊語に切り替えた。耳を澄ます彼女に倣って、私も感覚を周囲に広げる。
ガサ、ガサ。
草を無造作に踏む音がこちらに近づいている。人数は一人、体重はそんなになさそうだ。が、ミルやエレナほどではない。
足音で性格分析ができるかどうかは定かでは無いが、その足音は不安そうに、あたりを探すように動いていた。
ガサ。
木々の間から人影が姿をあらわした。出てきたのはエレナよりも年上だが、まだ少女と呼べるくらいの人間の娘だった。厚手の革鎧を身につけている。腰の剣の長さを見ると見かけ以上の腕力の持ち主であることが容易に想像できた。
背中には盾、逆の腰には小型の石弓を下げている。用途に違う短剣を何本も持っているところを見るとよほど手慣れの戦士のようだ。
あ、なるほど。首から下げた小さなペンダントが彼女の素性の一部を示していた。
戦神マイリーの聖印が彼女の胸で輝いている。ということは単純に考えてもマイリーの神官戦士だということだ。
……しかし、私の認識違いなのだろうか。マイリーの神官戦士とは勇敢な者ばかりと思っていたのだが。
「あ、あの、すみません……」
その少女(おそらく)神官戦士は消え入りそうな声で、しかも怯えたようにこっちに近づいて来ようとして、やっぱり思い直したのかその場で止まる。
私の推論。どうやらある種の対人恐怖症らしい。
「これくらいの……」
と言って自分の胸の高さくらいに手を水平に差しのべる。フム、それの対象が人間だったらミルくらいの大きさかな?
「エ、エルフの女の子を見ませんでしたか?」
…………
〈それってもしかして……〉
「あ、そうですそうです、」
言いながら手を自分の頭の上まで伸ばし、それでも足りないと思ったのか、少し背伸びまでする。
私はあそこまで長かっただろうか……?
「こんな長い剣を背負っているんです。見ませんでしたでしょうか?
あ、申し訳ありません。いきなりこんなこと聞かれてもお困りですよね。」
……ああ、別な意味でな。
「ねえ、その剣って……」
エレナの指が木に立てかけてあった私に向いた。つられて少女が私を見た。
少女の顔が凍り付いた。
分かっていると思うが、いつもの例えというやつだ。少女は震える指を私に向けると、更に震えた声が口からもれる。
「あ、ああ…… レ、レイファルス様! このことは是非ともミルリュミエール様にご内密にお願いします!」
……ふうん。しゃべり方に東方系の訛りが混じっているな。で、私とミルのことを知っていているとならば、オランの手の者と考えてもいいだろう。神官戦士ならば下手すると騎士団の者という可能性もある。
少女はペコペコ頭を下げると慌ててその場から去ろうとする。が、その足がピタリと止まった。私の感覚にも小さな足音と更に小さい羽音がわずかに聞こえてくる。
帰ってきたな。
「ヤッホーッ! 調子はどう、エレナ?
……誰、この人?」
神官戦士の少女は卒倒寸前の顔をすると、後ずさりを始めた。
「あの…… 私は…… その……
し、失礼いたしますっ!」
いきなり後ろを見せて逃げ出すとは…… 何かやましいことでもあるのか?
ミルは軽く眉をひそめ、スッと右手をあげた。
〈人の心を惑わし森の娘、ドライアードよ。汝が腕を優しき束縛の網に変えたまえ!〉
ミルの呪文と共に周囲の木々がざわめきだした。木の枝や草などが獲物を狙う蛇のように鎌首をもたげると、一直線に少女を捕らえようと伸びた。
後ろからの気配に少女が振り返った。次の瞬間には大量の草木に囲まれ、次々にそれらが絡み付いてくる。瞬く間に少女は宙づりのまま、身体の自由を奪われてしまった。
どうでもいいがミル。ちょっとひどいのではないか、これは?
「いいのよ。いきなり人の顔見て逃げ出す方が悪い。」
と言いつつも、悪いことしたかな? という顔をするところがミルらしいところでもある。気を取り直したように動けない少女に近づくと、彼女は私たちの予想もしない行動をとった。
「う、ううっ……
ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ!」
私たちの予想を超えた行動。そう、いきなり彼女は泣き出したのだった……
なんか私の方が泣きたくなってきた。「グス、グスン……
どうもすみません……」
泣きじゃくる少女をどうにか落ち着かせると逃げ出す気力も失せたのか、少女は黙ってこちらのしゃべるのを上目遣いで待っている。
「ええと…… とりあえず名前を教えて。それも分からないと話ができないわ。」
「は、はい……
私、レベッカ=シャルナーズと申します。マイリーの神官戦士をやっておりまして、この度、ミルリュミエール=メイ=ライファン様を陰ながら警護するように命じられ参りましてぇ……」
レベッカと名乗った少女の言葉にミルが渋い顔をする。大きく、あからさまにため息をつくと不機嫌そうに口を開いた。
「あのね…… お願いだからあたしをそんな長ったらしい名前で呼ばないで。それと様付けも止めて。」
「でも…… ミルって実はすごそうな名前なんだ。知らなかった。」
「……エレナもお願いだからそういうこと言わないで。」
随分嫌そうだな。
「そんなこと言うんなら、あんたももっと立派で虫酸の走るような名前にしときゃよかった……」
お断りする。
ミルは周りから散々に言われたせいか疲れたようにため息をつくと、その場にへたりこんだ。よっぽど嫌だったらしい。ミルの意外な弱点だな。
ま、これ以上からかうの今のところは止めておこう。
「レイファルス…… どうやら痛い目に遭いたいようねえ。」
ま、それはいいとして…… 待てよ、さっきから私の言葉に反応しないところをみると、レベッカは精霊語を理解できないのではないのか? やれやれ、誰の手配かは知らないが何とも頼りない護衛だな。
「ま、ともかく…… どうしよう?」
私に聞くな。それより自覚して欲しいのだが、このパーティの行動決定権はミルにあるのだぞ。少しは考えてくれ。
「むぅ…… よし、決めた!」
一緒に連れて行くんだろ。
「う…… なんで分かったのよ。」
簡単に言えばミルに断る理由がない。実に単純だ。
「単純でもいいでしょ。別に。」
さっきの件もあり、少々機嫌が悪そうである。これ以上煽るような発言は控えよう。どうやらマスターに感化されたか、私も少々意地が悪くなったのかもしれない。
「ま、いいわ。行くわよ、レベッカ。」
「え? で、でも私は陰ながら……」
「いいの。結局同じでしょ。
ね、シャランもエレナもいいでしょ?」
二人に同意を求めるが、聞くまでも無いと思うがな。
「ええ、私は構いません。」
「いいんじゃないの? 旅は多い方が楽しいだろうし。」
「はい、決まり。」
ここで本人的には凄んでいるつもりなのだろうが、もう少し自分の外見というものを理解すべきだろう。知らない人が見ても怖く感じないだろう。私は怖いがな。
「いい? ジタバタ言っても無駄だからね。あたしが一緒に行く、って言ったら絶対そうするんだから。」
「はぁ、はい。」
卒倒寸前の顔でレベッカが頷く。
こうして旅の仲間が一人増えた、わけだが…… 私としては嬉しい半分、先行きが不安である。神聖魔法の使い手がいれば有り難いことこの上無いのだが……
なんで私がそんな心配をしなければならないのだ? この旅は単なる、ごく普通の、ありきたりのものではなかったのか? 何で行く先々でトラブルに巻き込まれなくてはならない。誰か教えてくれ。
まったく…… レベッカもミルとは別な意味でトラブルメーカーに見える。
きっとロマールでも何かあるに違いない。そうだ、そうに決まっている。
諦めよう。なんか最近なんだか悟りが入ってきたようだ。