第二十三話 言葉の要らない友情

 

 

 

  キーンコーンカーンコーン。
 今日は土曜日なので授業は午前中でおしまい。
 HRが終わり、担任が教室を出て行くと、にわかに教室内が騒がしくなる。
 その中を美咲はすり抜けるように出て行こうとして……
「あ、美咲みーっけ。」
 と友人の一人に呼び止められる。
「なんか今日遊びに行こーって感じしない?」
 別の友人も現れ、退路を塞がれてしまう。
「えっとぉ……」
 この包囲網から逃げようと思えば逃げられないこともない。しかし、そうすれば彼女たちも気分が良くないだろう。でも早く帰りたい理由は言うわけには……
「はいはいはいは〜い!」
 美咲の友人ズの襟首を引っ張る者が現れた。
 ひょい、とその背後からトンボ眼鏡とポニーテールが見えた。
 これまた友人の法子だ。
「今日はね、サキちゃん仲間はずれの日なのよ。いっつ罰ゲーム!
 ……そんなわけで、あたしたちでチャキチャキ遊びに行っちゃうわよ〜!!」
 と有無を言わせず二人を引っ張っていく。
 なんか引きずられている二人が何か言っているようだが、すぐに聞こえなくなっていく。
 まるで嵐が過ぎたかのように美咲の周りに静けさが戻ってくる。
(ありがとう、法子ちゃん……)
 もう見えない背中に向かって、美咲は小さく呟いた。

 前の話にも登場したと思うが、隼人は今も花屋のバイトを続けている。それこそ手の空いたときだけのバイトという実に有り難い条件であった。妹の和美の入院費用の捻出などにも大助かりだったので、その恩義を感じて、こうして現在もアルバイトを続けている。まぁ、ここの店長──遠野冴子曰く「やっぱりハンサム君がいるといないじゃ客足が違うのよね」とのことなので、隼人もさほど負担に思わずにすむのも有り難い。
「すみませ〜ん!」
 と、店の奥で在庫の整理をしていると、店先から声が聞こえてきた。隼人が仕事をしている時は冴子は更に奥で伝票整理に専念しているため、接客も含め何から何までやらなければならない。でもさほど大きい店ではないので、それほどの苦労ではないが。
「はい。」
 無論、隼人に愛想を求めるのはお門違いというものだが、女性客に言わせれば「あのクールなところがいいのよねぇ〜」ということらしい。
 が、そのクールフェイスがピキッと強張る。
「た、橘……」
「あれ……? じゃなくて、今ボクたちしかいないよ。」
「あ、う…… その、どうした、み、美咲……」
「うん♪」
 名前で呼ばれて嬉しそうな顔をする美咲。一瞬その笑みに心がグラッと揺れたような気がした。気を落ち着けるために咳払いを一つ。
「……で、何かいるのか?」
「うん。
 ……あ、それより、どうして隼人くんが花屋さんにいるの?」
「まぁ、色々あってな。」
 和美のことも知ってるから、話しても問題は無いだろうけど、そうなるときっとこの少女は必要以上に心を痛めるかも知れない。
「で、何がいるんだ?」
「うん、とね……」
 珍しく悩んだ様子の美咲。急かしても仕方が無いので、ゆっくり待つことにする。しばらく隼人を見たり、視線を逸らしたりしていたが、おずおずと口を開く。
「あのね…… お墓に備えるような花……」
 ガン、と殴られたようなショック。気付けば美咲の服装は黒のワンピースだった。昨日の戦闘中の麗華の言葉を思い出す。
『あの子の両親は七年前の明日、飛行機事故に亡くなったのよ。』
 そうなら今日が命日なのは明白だった。夢魔との戦闘中に、偶然ながらも美咲の過去の記憶に触れてしまった自分がそのことを失念していたとは……
「どうしたの隼人くん?」
 心配そうに見上げる目。そのまっすぐ見つめてくる瞳に、ついと視線を逸らしてしまう。笑顔は作れないが、無理に作ったいつもの調子で少女に向き直る。
「よし、分かった。今適当に見繕ってくるからな。」
 と、自分でも気づかぬ内に逃げ出すように奥に入っていった。

 落ち着いた色の花をまとめ、花束を作る。ふと思いついて、カスミソウを一輪その中に混ぜた。
「ふ〜ん。あの子、四月生まれなんだ。」
「!」
 声をかけられるまで気付かないほど集中していたのだろうか? それとも……
(不覚だ……)
 心の中でため息をついてから、背後の年齢不詳の美女を振り返る。
「て、店長、いつの間に……?」
「イヤだわ隼人君。冴子さん、て呼んでちょうだい。」
「…………」
 いつもの会話にため息が漏れそうになる。
「ま、それは気長に調教するとして、」
 ボソリと恐ろしげなことを言う冴子だが、顔は笑ったままふと真剣なまなざしを見せる。
「花束に一輪誕生花を混ぜるなんてニクいわね。『ここにいるよ』ってことかしら?」
「…………」
 言葉を返せない隼人の手から花束をとると、慣れた手つきで花を加えていく。
「はい、これで500円でいいわ。」
「え……?」
 とてもそんな金額では作れない花束だ。素人の美咲が見たとしても、それくらい容易に想像がつくだろう。
「はい、質問はなし。あたしが店長よ、何か文句ある?」
「いえ……」
「ほら、早く行きなさい。女の子を待たせていい法律はこの世に無いのよ。」

「やっぱり悪いよ……」
 予想通り、美咲は困ったような顔をした。
「いや、店長の意向だから仕方が無い。
 ……俺も逆らえないんだ。」
「でもぉ……」
「こら、あんまり遠慮すると『じゃ、お金は要らないわ』って言っちゃうわよ。」
「…………」
 また気配が読めなかった。
 別に鍛錬を怠っている覚えはない。だから余計に不気味だった。
「えっと……?」
「あ、ごめんなさいね。あたしは遠野冴子。ここの店主よ。」
 大輪の花のような、人を明るく照らすような笑み。くすっ、と意味ありげに笑う。
「あなた、隼人君の大切なお友達でしょ? 隼人君にはお世話になっているから、今回限りのサービスよ。」
 美咲はしばらく渡された花束と冴子を交互に見ていたが、肩からかけていたポシェットから財布を出して、五百円玉を差し出した。
「はい、どうもありがとうございます。」
 ニッコリと華のような笑み。美咲もそれにつられて笑顔を浮かべると、ペコリと頭を下げた。
「こちらこそどうもありがとうございます。」
「う〜ん、素直ないい子ね。お姉さん、気にいっちゃったわ。
 機嫌がいいついでに、もう一つオマケしてあげる。」
 と、トン、といきなり隼人の背中を押した。
「?!」
 さっきまで蚊帳の外で、のんびり外を眺めていたところから、急に現実に戻される。
「これからお出かけでしょ?」
 花の内容を見ているから、敢えて「どこ」へ行くかまでは言わない。
「だから、荷物持ち兼ボディガードをつけてあげる。」
「はい?」
 言われたことが理解できない顔の隼人にビシッと指を突きつける。
「店長命令。そんなわけで拒否権は無しよ。」
「はい……」
 甚だ不本意だが、こうなった冴子には逆らえないことは重々承知だった。
 花屋のエプロンを外して、美咲と去っていく隼人の背中を見つめる冴子。
 なんかその光景が微笑ましくて、思わず鼻歌なんかもれてしまう。
「もしかして、あの子がパンジーの花のお相手かな?」

「……いいのか、俺も行っても。」
「う〜ん……
 でも、今日はボクの荷物持ち兼ボディガードなんでしょ?」
「そうだな。」
 少女がいいと言うのなら、いいのだろう。
 でも、二人きりで美咲の両親に会いに行くとは……
「? どうしたの?」
「……いや、なんでもない。」
 言えるわけが無かった。
 美咲の話だと、電車で数駅行った先にあるとか。
「じゃ、まずは駅まで行くか。……美咲。」
「うん!」

「……すっかりタイミングを逸したようね。」
「そうですね。」
 二人からちょっと離れたところに一台の黒のリムジン。
 その中には美咲のように黒のワンピースに着替えた麗華と、学生服姿の謙治がいた。
 おそらく電車で行くのだろうとあたりをつけて、駅に向かう道で待っていたのだが、楽しそうに隼人と一緒に歩いている姿を見てどうも声をかけづらい。
 邪魔になる、とかではないだろうが…… やはり馬には蹴られたくないのだろう。
 予定では駅に向かうだろう美咲の前にさりげなく現れて、そのままさりげなく同行しようと思っていたのだが……
「……よくよく考えると、一緒にお参りする理由が無いわね。」
 それももっともである。美咲の両親とはまったく面識も無く、友人であり一緒に戦う仲間ではあるが、そこまで踏み込んでいいものか……
「でも…… 僕は橘さんのご両親の墓前に手を合わせて花を置きたいと思っています。……理由までは分かりませんけど。」
 謙治の言葉に麗華はふっと視線を彷徨わせる。
「そうよね。理由なんて無くてもいいのかもしれない……」
「いささか陳腐かもしれませんが、『友達だから』というのはどうでしょうか?」
 謙治の言葉に、驚いたように目を二、三度またたかせる。その表情にちょっと不安になってしまう。
「なにか僕、変なこと言いましたか?」
「あ、いえ…… ちょっと、ね……
 別になんでもないわ。」
 ふと視線を逸らしてしまう。
(でも…… なんか心地よい響きね。)
 窓の外を見ながら、声に出さずに麗華は呟く。
 それで車内に沈黙がおり、なんか気まずくなってしまう。気の利いた話題も振ることもできず、何となく雰囲気を変えようと思って謙治は持っていたノートパソコンを開いた。
 電子音と僅かなファンの音。そしてカタカタとキーを叩く音に麗華が振り返った。
 気まずい雰囲気を誤魔化すために開いたのだろうが、自分のやっていることに没頭してしまう謙治に思わず笑みが浮かぶ。
(どれどれ……)
 謙治の隣に移動して、液晶ディスプレイを覗き込む。
 ディスプレイの中では六台のマシンのワイヤフレームが描かれていた。その中の一台──おそらくは消防車を模した物──が抜き出されて、画面の半分くらいを使って形を変えたり、たくさんの注釈が書かれたりしていた。
 どうやらまた新たなマシンを開発中のようだ。
「ふ〜ん……」
 熱中していたとはいえ、耳元で呟き声が聞こえたらさすがに気付く。反射的に声の主を探そうとして顔を上げると、
「わっ!」
 至近距離に麗華の顔が見えて激しく驚く。
「……何やってるのよ。」
「あ、いえ……」
 半分以上、それどころか九分九厘自分のせいだと分かっていても、つい意地悪く聞いてしまう。と、不意に謙治がちょっと自信ありげな表情をする。
「……そりゃぁ、気付いたら飛び切りの美人がすぐ隣にいたら、健全な男子なら皆驚きますよ。」
(え……)
 ぱくぱく。
 不意の逆襲を喰らって、言葉が出なくなる。自分でも頬が紅潮するのが分かった。
 それこそありきたりの美辞麗句なんか小さい頃から言われ続けていて飽きている。
 自分でも容姿は並以上、どころか自分で美人だと言っても恥ずかしくないくらいの自負はある。
 ……と思っていた。
(な、なんでよ……)
 心臓の鼓動が抑えられない。セルフコントロールに努める麗華だが、そんな彼女の様子にも気付かないのか、言ってしまってから困ったように、そしてニッコリと笑った。
 それがまた麗華の鼓動を一段高くする。
「まぁ、これくらいで神楽崎さんが驚くとも思えませんが、これでおあいこということで。」
 と、液晶画面を少し傾けて、麗華にも見えるようにする。
「聞いてもつまらない話かもしれませんが、まぁ暇つぶしということで。」
 謙治の指がキーの上を滑らかに踊ると、画面上に六体のマシンが並んだ。
「これまではほとんどありませんでしたが、都市部での戦闘を想定しますと、レスキュー用の装備も考えないと、と思いまして。」
「ふ〜ん……」
 一台一台のマシンがワイヤーフレームでクルクルと回る。
「基本は消防車・救急車・パワーショベル・ドリルタンク・水空両用潜水艇。あとは汎用攻撃機です。」
ここでチラッと麗華の方を窺って、退屈してないかどうか確認する。でもまだ目的地までは遠い。とりあえず大丈夫のようだ。
「さすがにパイロットもそんなにいませんし、飽くまでもサポートマシンなので、AI搭載型になる予定です。」
「AI…… artificial intelligence?」
 いきなり流暢な英語で言われて、頭の中で変換するのに時間がかかってしまう。
「えっと、そうですね。いわゆる人工知能、って……
 そうか! その手があったか!」
 不意に表情を真剣なものにすると、さっきを倍する速度で指が踊る。
 いきなり無視されるような形になってあまり気分が良くないが、その横顔を見ているとそんな気が何故か失せてしまう。
(こういうときの謙治の顔って悪くないわね……)
 呟いてから、自分の発言に驚いてしまう。
(! な、なに言ってるのかしら、私……)
 集中している謙治には聞こえていないのだろうから、オロオロしない方が身の為なのだろうが、さっきのこともあって、どうも落ち着かない。
 小さく深呼吸をして、なんとかはやる鼓動を抑える。どうにか息をつくと、今度はゆっくりと横顔を眺める余裕もできる。
(別にどこがどう整ってる、ってわけじゃないんだけど……)
 極端に悪いパーツもないし、かといって見栄えがする、というわけでもない。
(目…… かな?)
 眼鏡越しに見るからあんまりハッキリしないが、横顔になると真剣な時の鋭さを増した目がよく見える。
(…………)
 話し相手がいなくなって退屈になったのかも知れない。
 自分のような美人が隣にいながら、コンピュータに夢中になっているのがちょっと腹立たしかったのかも知れない。
「ちょっと謙治。」
 肘でつついて、無理矢理現実世界に戻し、自分を振り向かせる。
「はい?」
 麗華を放って没頭していたのを詫びるようなすまなそうな表情をしている謙治に小さく口元だけに笑みを浮かべ、そのまま顔に手を伸ばした。
「あ! ちょっと……!」
「ふ〜ん…… 眼鏡外すと結構印象変わるものね。」
「か、返してください!」
「そう? 結構いい顔してるじゃない。」
「…………なら尚更です。」
 ほとんど目の見えない状態で、迂闊に麗華に触れるのを恐れたのか、ちょっと憮然とした口調で彼女に手を差し出す。さすがにからかいすぎたかな、と眼鏡を返す。
「悪かったわね。」
「いえ別に。ただ…… なんか面白くないんです。なんでなのでしょう?」
「…………」
 分かるのかも知れないし、分からないのかも知れない。
 なんかギクシャクした雰囲気を誤魔化したいのか、その後は淡々と新マシンの説明を続ける謙治と、それを黙って聞いている麗華を乗せてリムジンは走る。

 電車からバスに乗り換えて、山道の停留所で降りる。それから長い石段を登りやっと山の上の寺に到着。入り口で桶と柄杓を受け取って、お墓が立ち並ぶ中を二人で歩いていく。
 もう何度も来て場所を憶えているのか――それだけ両親の墓を訪れている、というのは物悲しいが――迷わず歩く少女の少し後ろを隼人が追う。
「お――」
 声をかけようとして、その横顔が緊張と真剣を足したものになっているのに気付いて、さすがに躊躇われる。
 ピタ、と美咲の足が止まった。
 クルリと体ごと横を向いて、一つのお墓を凝視する。
 その小さなお墓は――
「…………?」
「あ、うん…… ボク、お母さんの苗字名乗ってるから。」
「橘」ではなく「星澤」と書かれたお墓。何を言えばいいのか分からずに二人で黙って立ったまま。ふと、お墓が綺麗に掃除してあるのに気付く。誰か訪れた後なのか、花が一輪、いや三つ置いてあった。
「……あれ?」
「誰か来たみたいだな。」
「うん…… でも違うの。いつもは、いつもの年は一つしか無かったの。」
「…………」
 無言で美咲の頭に手をやり、軽く撫でる。
「……良かったな。」
「うん。」
 と、ふと隼人が僅かに眉を動かした。
「すまん、……美咲、水を汲んでくるのを忘れてきた。ちょっとここで待ってろ。」
「あ、ボクが……」
 行くよ、と言いかける美咲を手で制する。
「いや、今日はお前の荷物持ち、だったよな?」
「あ…… うん。」
「なに、すぐ戻るさ。」
 駆け足でその場を離れ、ふと足を止めて横道に入る。
「……お前だな。」
「まぁな。」
 木々の影に溶け込むような黒衣の男が立っていた。そばには小柄な老人が控えている。
 と、そのバロンがいきなり深々と頭を下げた。
「わ、若?!」
「今回は俺が関与していないとはいえ、俺たちの所業だ。すまない。」
 老人はその言葉にバロン同様に深々と頭を下げる。
「左様でございましたか。
 わしのような老骨の頭で申し訳ございませんが、此度のことは如何様に謝罪すればよろしいのか……」
「……顔を上げろ。それは俺にするものじゃないだろうが。」
「それは分かっている。
 だが、ミサキの前に出るわけにはいかないからな。さすがに会わせる顔がない。」
「……気にするようなタマか。」
「そうかもしれない。
 だから俺のつまらないプライドとでも思っててくれ。」
「そうか……」
 二人の間を一陣の風が通りすぎる。
「ミサキを待たせているのだろ。さっさと行ったらどうだ。どうせ俺たちの用はもう終わった。」
「……用?」
「ああ。また今度、改めて来るさ。」
 クルリと背を向けると、バロンは老人を連れ去っていく。
 その姿を見送って、隼人はふと最後の言葉を思い出した。
「……って、あの野郎、また来るのか?」

「悪い、ちょっと道に迷ってた。」
「あ、そうなんだ。」
 ちょっと拗ねたような顔がパッ、と明るくなる。心配、というより寂しかったのかもしれない。
 うんうん、と一人納得したような顔をしてからポシェットから線香の入った箱を取り出し、さらにその中から一束取り出す。と、そこで手が止まった。
「ねぇ、隼人くん。火持ってる?」
「ちょっと待て、よっと……」
 とポケットをゴソゴソ探るが、はたと気付いて手が止まる。
「阿呆、持ってるわけ無いだろ。」
 高校生でそんなもの持っていたら、喫煙しているか放火魔のどちらかだ。
「あ、そうだね。えっと…… 困ったね。」
「そう思うなら、もう少し困ったような顔をしろ。
 ま、寺から借りて……」
 言いかけて、ハッと顔を上げる。遥か遠くから異質な物音が聞こえる。隣の少女も同じものに気付き、音の発生源を探して周囲に視線を巡らす。
「あ、隼人くん、あれ!」
 そんなにも高くない山の斜面をフリスビーを二枚張り合わせたような巨大な円盤状の物が転がりながら昇ってきた。薄いものの直径だけでブレイカーマシンの倍近くある。
「行くぞ、美咲!」
「うん!」
 桶と線香を置いて、二人は駆け出していった。

 石段を並んで落ちるような速度で走っていく。
『ブレイカーマシン……』
 途中の踊り場で二人の足が大地を蹴った。
『リアライズッ!』
 白と青の閃光の中から二体のロボットが飛び出した。
「……大きいよ。」
「ああ、大きいな。」
 それだけ言い合うと、その円盤――というか、独特の気配もするので、夢魔に間違いないだろう――に向かう。
 相手の重量が分からないが、相当の速度だ。二機で押さえられるだろうか。
「……やるしかないか。」
「そうだね。」
 フラッシュブレイカーとヒューマンフォームのウルフブレイカーが夢魔の前に立ちふさがる。補助の為か、美咲は棍を召喚し構える。
「…………」
「…………」
 大地に溝を穿ちながら迫る夢魔。ここで食い止めなければ寺や墓地に被害が出る。それだけは避けなければならない。
 と、いきなり夢魔が中心から分かれて二つになった。そして、二機を避けるように左右に進路を変える。
「あっ!」
「ちっ…… シェイプシフト!」
 隼人はウェアビーストに変形して片方を追う。瞬間的になら音速を超えられるウルフブレイカーなら追いつくのは容易い。真横について素早く回し蹴りを喰らわし、横転させる。
 しかし、フラッシュブレイカーでは追いつくので精一杯の感だ。ライトクルーザーなら速度は上だが、山の斜面を走るには向いてない。コメットフライヤーを喚ぶのも時間がかかりすぎる。
 ギリギリ寸前で追いつくが、蹴って止めるには遅すぎた。隼人のように横転させたとしても、勢いがついた夢魔はそのまま墓地に突っ込んでいくだろう。
 どうにか夢魔の前に立ちはだかり、水際で食い止めようとする美咲。隼人はもう一体の夢魔を押さえるので精一杯のようだ。
 ジャギン!
 そんな音がしたかどうか不明だが、いきなり円盤の縁にノコギリを思わせるような刃が飛び出した。
「ええっ?!」
 大きさを考えると、あの回転ノコギリ相手ではフラッシュブレイカーの手の中の棍はひどく頼りなく見えた。
 刃さえ出てなければ体を張って止めることもできそうだが、今となっては不可能に誓い。おそらくあの回転力ならばブレイカーマシンの装甲どころか、それ自体真っ二つにしてしまう勢いがあるだろう。
 ……そして、橘美咲という少女はたとえそうなることが分かっていても、一歩たりとも引き下がらないのだ。
「…………」
 それでも棍を水平に構えて、ピクリとも夢魔の前から動かないフラッシュブレイカー。
「くそっ…… 美咲っ!!」
 どうにか自分の手持ちの夢魔をとりあえず叩き伏せて駆けつけようとするが、さすがにそこまでの距離はあまりにも遠すぎた。

「へぇ、知らなかったわ。」
 不意にここにはいないはずの声が聞こえてきた。
 赤いシルエットが視界をよぎる。
フルブラストッ!!
 火線が夢魔の接地面あたりに着弾し、巨大な円盤が宙に浮く。
 ビシッ、ビシッ、ビシッ。
 着弾の後に銃声が聞こえてくる。よほどの遠距離射撃なのだろう。
 西部劇なんかで銃の腕前を見せるために、コインや缶を連続的に撃ち上げる。そんな感じで夢魔が宙を跳ねる。空中で勢いを殺され、円盤形夢魔が地面に落ちた。
「あ、麗華ちゃん!」
「危なかったわね。もうすぐ謙治が来るわ。そうしたら一気に合体するわよ。」
「うん!」
「……それと、隼人。」
「…………」
 ブレイカーマシン同士の通信機から小さく鼻で笑うような声が聞こえてきた。
「ま、いいわ。」
「……何が言いたい。」
「べ〜つに。」
「麗華ちゃん! 隼人くん! 夢魔が起きあがってきたよ!」
 どういう原理か知らないが、円盤がムクリと立ち上がった。隼人が相手していた夢魔にも刃が現れて、今度はブレイカーマシン目がけて転がってくる。
 空を飛べるフェニックスブレイカーは難なく避けられるが、地上を走るフラッシュブレイカーとウルフブレイカーはそうはいかない。
 ただ、動きが単調なのでまだなんとかなる、というところだ。
「とぉっ!!」
 身軽に夢魔を避け、横から蹴飛ばすが、倒れるだけで大したダメージにはならない。かといって追い打ちをかけるのも危険である。
「お待たせいたしました!」
 手にライフル型の武器を構えて、連射しながらサンダーブレイカーが走ってくる。
「……遅いわよ。デートなら相手に帰られてるわ。」
「その時は気をつけます。」
 弾を撃ち尽くしたブラスターライフルを虚空に消すと、肩の主砲を続けざまに撃って夢魔を吹き飛ばす。
「今だ、橘!」
「うん!」
「……ふ〜ん。」
 聞こえてきた意味ありげな麗華の言葉は無視しておく。
「いくよ!
 ドリームフォーメーション!!
 フラッシュブレイカーを中心に四機のブレイカーマシンが一つになる。
夢幻合体、ナイトブレイカーッ!!

 ナイトブレイカーに合体すると、夢魔は二体とも牽制するように宙に浮いて回転する。
「うわ、空も飛ぶんだ。」
「距離をおいて戦った方がいいわね。」
 機体背部のキャノン砲、左腕のフェニックススライサーを展開する。相手に飛び道具がないことを思っての判断だ。
 左腕を上げて、夢魔に狙いを付けようとして、不意に夢魔の動きが速くなった。
 霞むくらいの速度でナイトブレイカーに迫る。無論撃つ暇も無く、避けるだけで精一杯だ。それも美咲の常人を超えた反射神経だったから避けられただろう。それでも鋭い刃が装甲に傷をつける。
「損害は軽微。まだまだ大丈夫です!
 ただ、接近戦に持ち込んだ方がいいです。」
「だな。」
 と、身構えた瞬間。今度はいきなり距離を離される。ナイトブレイカーの周りをグルグル回りながら断続的に光線を放って攻撃してくる。
「うわっ!」
 驚きながらも何とかかわす。
 近づこうにも、二機のどちらかが背後をとるように移動するので迂闊に動けない。
 それよりもまるでこちらの戦い方を読んでいるような動きだ。
「……なんか嫌な感じね。」
 防御に専念してれば美咲の技量もあって、攻撃を受けることはない。でも戦闘が長引けば全員の精神疲労が溜まってくる。
「こちらの行動を読んでるの?」
「そうかも知れません。でもどうやって……?」
 謙治が戦闘時のデータを調べ直す。タイミング的にはこっちの行動を先読みしているように効果的な行動をとってくる。どうやってそれをなしているのかは全く分からない。
「橘、思いついたことがあるから、ちょっと距離を離してくれ。」
「え? あ、うん。」
 隼人の言葉に、ナイトブレイカーを下げさせる美咲。
 が、すぐに夢魔が迫ってくる。
「やはりか……」
 一瞬だけ美咲からコントロールを奪うと、近づいてきた夢魔に右手を振り上げ殴りつける。
 何故か今までのように、こちらの動きを読むような回避ができずに地面に叩きつけられる。ただ、無理矢理の行動だったので当たりが浅く、ダメージは小さい。
 予想外の攻撃を受けたのに警戒したのか、夢魔の方から大きく距離をとってナイトブレイカーの挙動を伺う。
「うわ、どうしたの隼人くん?」
「……いや、今ので分からなかったのか?」
「ううん、分かったけど…… せめて先に言ってくれたらボクも驚かなかったのに。」
「それが出来ないから困っているんだろうが……」
 美咲と隼人が理解しているように言い合うが、まだ麗華と謙治には何がどうなっているのか分からない。我慢しきれなくなって麗華が口を開く。
「どういうことよ?」
「どうやっているか分からねえが、こっちの会話を聞いているようだ。それぐらいだな、考えられるのは。」
「……なるほど。」
 唸る謙治。それならば今までの行動も、今の行動も理解できる。
 でもそうだとするならば、事態は難しくなる。分離して各自バラバラで戦うには不利な相手だし、かといって戦術無しで勝てるとも思えない。思ったより相手のコンビネーションは良く、お世辞にもメインパイロットの美咲の戦術能力は高くない。
 謙治としては分離してスターローダーとフレイムカイザーで戦いところだが、それを行ってしまえば分離中を狙われるのは想像に難くない。
「……美咲。」
 落ちついた麗華の声が聞こえる。
「前のアレ、覚えてる?」
「前の…… アレ?」
「そう。それを思い出せないと、きっと負けるわね。」
 冷たいまでの口調に、美咲が首を傾げる。
 睨み合いの中、時間だけがゆっくりと過ぎる。
「……多分大丈夫。でも前と違う所は?」
「そうね。臨機応変、ってところで。分かってる? 前とは逆になるわよ。」
「あ。それならバッチリOKだよ。うん。」
 これまた二人だけで分かったように言い合う二人の少女。でも今度は誰も口を挟まない。
「みんな、準備はいい?」
「準備、って言われてもな。」
 麗華の言葉に隼人が肩をすくめる。
「僕たちのやれることをやりましょう。」
「……どうやらいいようね。」
 クス、と麗華が笑う。
「美咲! 行くわよ!」
「うん!
 フォーメーション・アウト!

 美咲の声と共にナイトブレイカーが四機のブレイカーマシンに分離する。
スターローダーッ! コメットフライヤーッ!
カイザー、スクランブルッ!
 少女二人の声に地平線の彼方から光の道に乗って疾走する白い車輌と飛行機が、そして天空の彼方から深紅の重戦闘機がやってくる。
「各自、自らの判断で夢魔を攻撃!」
 麗華の号令で各機が散開する。
 特に示し合わせたわけじゃないが、絶妙なコンビネーションで夢魔と戦う。火力自体は夢魔を倒すほどでは無いが、翻弄するには十分である。
 夢魔二体に隙が生まれた。
スターライト・イルミネーションッ!!
ドラゴニック・コンビネーションッ!!
 次のかけ声で全てのブレイカーマシンが光に包まれた。
 スターローダーが変形し、胸の部分が空洞の巨人となる。その胸部の手足を畳んだフラッシュブレイカーが合体する。更に背部にコメットフライヤーが翼として合体し、新たな頭部が現れた。目に光が灯り、力強くポーズをとった。
 重戦闘機カイザージェットから竜型のカイザードラゴンに変形する。カイザードラゴンの頭部が胸に移動し、前足を畳む。背部のパーツが脚部に展開し、そこにフェニックスブレイカーとウルフブレイカーが合体し、赤と青の足になる。更にバスタータンクが分割し、胴体の左右から合体して鋼の腕になった。竜を模した兜を被ったような頭部が現れ、目に光が灯り、炎をまとってポーズをとった。
流星合体、スターブレイカーッ!!
竜帝招来、フレイムカイザーッ!!

「とぉ!」
「行くわよカイザー!」
〈畏まりました。〉
 空戦能力はフライヤーモードのスターブレイカーの方が高い。というか、フレイムカイザーの飛行能力はジャンプの補助程度しかなく、基本的には陸戦型である。よって、フレイムカイザーが地上から、スターブレイカーが空中から攻撃を仕掛ける。
「コズミックブレード!」
「ドラグーンランサー!」
 それぞれが自分の武器を構え夢魔に向かう。二対二ではなく、一対一を二組で戦うことにより相手のコンビネーションを封じ、ほぼ互角で戦うことができた。
 ただ、お互いに決定打に欠けたまま、しばらく距離の取り合いが続く。距離を開けようにも、美咲は離れずにピッタリつくし、フレイムカイザーも謙治の正確な射撃が夢魔の逃げ道を塞ぐ。
 と、ふと戦いながら。スターブレイカーもフレイムカイザーも微妙に位置を変えだした。
(ああ、なるほど……)
(そういうことか。)
 その動きに、何となく少女二人がしたいことを察知した謙治と隼人。その「瞬間」をジッと待つ。
 スターブレイカーから見て、夢魔が一直線上に並んだ。
スターキャノン! スピンカッター!
フレイムスライサー!
 スターブレイカーが足のキャノン砲と背中のローターを発射し、フレイムカイザーが炎に包まれたドラグーンランサーを回転させて投げつける。
 何の小細工もなしに放たれた攻撃は容易く避けられるが……
「そっちには行くな。」
 地上の夢魔の行く先を蹴り足でフレイムカイザーが遮り、
「そちらは行き止まりです。」
 腕のキャノン砲が空中の夢魔を足止めした。
 直後、元々お互いの相手を狙っていた攻撃が夢魔に突き刺さる。次の瞬間にはスターブレイカーは六芒星を描き、フレイムカイザーも投げつけたランサーを構えなおしていた。
スターダスト・シューティング…… ブレイクッ!!
カイザー・グランド・スラッシュッ!!

「イルミネーション・ダウン!」
「コンビネーション・アウト!」
 再度分離して、再合体の準備をする。
 まだ夢魔の気配が消えてない。
「! デカイの! そこだ!」
〈デカイの、とは…… もう少し何かございませんか?
 サラマンドラ・フレアァッ!!
 口先だけでそう言い返しながら、カイザードラゴンが隼人の示した場所に灼熱の炎を吐きかける。
 熱さに追い立てられるように、地面を割って人型の巨大な何かが出てきた。さっきの夢魔よりも一回り以上大きいものだ。
 両肩の部分に何かをつけていたような形跡があるので、もしかしたらさっきの円盤状の夢魔はこの夢魔の分身だったのかもしれない。倒した後では確かめようがない。
 炎に半分焼かれながらヨロヨロと土から全身を出したところで、今度はスターローダーが夢魔の上半身を轢いていった。
 二度の攻撃を受け地に倒れ、なんとか態勢を立て直したところで、不意に頭上がかげった。
 夢魔が顔と思われる部分を上げると、そこには再合体したナイトブレイカーが夢幻剣を今まさに振り下ろさんとしていた。
ドリーム・レボリューション・ブレイクッ!!

「星澤」と彫られた墓の前で黙って手を合わせる四人。しばらくそうしてから、不意に麗華が口を開いた。
「そういえばよく分かったわね。」
「……?」
「何となく、ですかね? 僕は過去の戦闘については一通り見てましたし……」
「俺は本当に何となく、だな。」
 それこそ「何が」よく分かったのか、言ってもいないのに答えられる二人。
 ふと麗華は「友達だから」という謙治の言葉を思いだした。
(そうなのかしらね。)
 なんか嬉しくなる。
「ねぇねぇ、何の話?」
「ん? ああ、さっきの戦闘の話。よく何も言わずにやろうとしたこと分かったわね。ってこと。」
「あ、そうなんだ。
 うん。ボクもなんとなく……」
 その言葉に麗華がクスッと笑った。
「あんたたち、それしかボキャブラリーがないの? まったく……」
 一陣の風が吹いた。秋の風が髪や服を揺らす。
 その風に何か感じたのか、美咲が顔を伏せた。それに気付いて、麗華が謙治の腕を引いた。
「さ、行くわよ。ちょっと謙治にやってもらいたいことあるから。」
「え? あ?」
 疑問符をたくさん浮かべながら麗華に連行されていく謙治。お墓の前は美咲と隼人の二人きりになった。
 と、隼人はやっと美咲の様子が変なのに気付いた。
「その…… 美咲、どうした?」
「う、うん…… ゴメン、ちょっと…… パパとママのことを思いだしただけ。うん、ゴメン……」
 馬鹿、と小さく呟くと、隼人は思わず美咲を抱きしめた。
「隼人……くん?」
「謝ることか。昔を思い出すことは何も悪い事じゃない。
 だから…… 謝るな。」
「う、うん……」
 キュ、と美咲から隼人にしがみつく。その胸に顔を埋めるようにして、小さく首を振った。
「ゴメン。ちょっとボク泣く……」
「ああ。
 その…… 『友達』だからな。ポンポン泣かれても困るが、泣きたいときは…… その…… そばにいてやる。」
 うんうん、と頷く美咲。
(パパ、ママ。ボク、幸せかどうか分からないけど、沢山の『友達』に囲まれていて楽しく過ごしています。
 だから…… だから…… なんだろう? でも…… ボク、いやボク達のこと、これからも見守ってて下さい。)

「……で、僕は何をすればいいんですか?」
「謙治…… アンタって馬鹿?」
「は?」
 何も分かっていない謙治に大きくため息をつく。
「友達ならもう少し気をきかせなさい。ったく、もう……」

「和美ちゃんはいいんですか?」
「はい。あんまり沢山で行っても困ると思いますし……」
 お寺の入り口が見えるあたりに一人の白衣を着た男と、一人の少女が車のそばに立っていた。入り口のすぐ近くには黒いリムジンが停まっている。
「ところで……」
 不意に白衣の男――小鳥遊が背後の木陰を振り返った。その奥に呼びかける。
「せっかくだから乗っていきませんか?
 ……高橋さん。」
 がさっ、と木陰から一人の丸メガネ・ポニーテールの少女――法子が現れた。首からカメラを下げた取材をするようなスタイルだ。
「あはは。分かっちゃいました?」
「まぁ、何となく半分、カマかけ半分、ってところでしょうか?」
「やりますねぇ、小鳥遊先生。
 ……で、どうして一介の保険医が、一生徒の妹さんとこんなところに?」
 メガネの奥の目をキランと光らせて、鋭い質問を飛ばす法子。
「いやいや、私はそれよりも昨日もこちらに来た理由をお伺いしたいのですが?」
 お互いの質問に、フッフッフと不敵な笑みを浮かべあう二人。と、小鳥遊の顔が真剣なものになる。
「一つだけ聞かせて下さい。何処まで掴んでますか?」
 その言葉に法子の顔からも笑みが消える。
「物証が無いだけで、100%あたしの予想通りだと思ってます。」
「……何の話ですか?」
 二人の会話についていけない和美が恐る恐る尋ねる。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。
 あたしは高橋法子。美咲の友人よ。あなたは大神君の妹さんの和美ちゃんね。」
「はいそうです。初めまして。」
「お兄さんと比べて礼儀正しいわね。
 で、今話していたのが…… 最近登場した正義のロボットの話。」
 いきなり言われた事に、動揺を隠せないのか、和美は思わず息を飲んでしまう。
「……というわけ。
 でもね、今回ばかりはネタにしたくないって言えばしたくないのよね。」
「そうですか。それは助かります。
 ところで、ついでにもう一つ聞いていいですか?」
「はい?」
「どうして美咲さんに内緒で、お墓の掃除に来ているのですか? それも出来るだけ会わないように日付をずらして……」
「う〜ん……」
 法子は腕を組んで、困ったような顔をする。少し悩んでから口を開いた。
「掃除に来ているのは特に理由はないです。大切な友達のご両親だから、ってところでしょうか? 内緒にしているのは、あたしが両親のことを知っている、って事をあの子に知られたくないから。
 あの子に聞いたわけじゃないからね……」
「そうでしたか。分かりました。
 で、本当にどうします? 乗っていきますか? お送りしますよ。」
 とポンポンと自分の車を叩く小鳥遊。法子は小さく肩をすくめてから承諾の意を示した。

 キーンコーンカーンコーン。
 週明けて、月曜日の放課後。
 HRが終わり、担任が教室を出て行くと、にわかに教室内が騒がしくなる。
「は〜い、サキィ〜」
 いきなり後ろから羽交い締めにされる。
「わっ、法子ちゃん……」
「いっつ罰ゲーム! 今日はサキちゃん連行の日なのよ!」
「ふぇ?」
「さ、今日はガシガシ食い倒れよ〜!!」
「ふぇぇぇぇぇ〜っ?!」
 グイグイと引っ張られていく。と、不意にこんな言葉が美咲の口をついて出た。
「……ねぇ、法子ちゃんってボクの…… 『友達』?」
 シンプルな問いかけに法子の力が緩まる。が、すぐにさっきの倍する力で締め上げられる。
「何言ってるのよ! あたしとサキちゃんが友達? とんでもない!」
「え……?」
 思いもよらない言葉。
「いい? しっかり覚えておきなさい。
 あたしとサキちゃんは『親友』よ。し・ん・ゆ・う。分かる?
 あ〜 もう傷ついちゃうなぁ。この真摯な友情を疑うなんて。」
 よよよ…… と泣き真似するような声が美咲の背後からする。
「こーなったら! よし、当社比200%の食い倒れツアーよ。レッツゴー!」
「うわぁ、ゴメンゴメン! だからボクにも歩かせて〜!」
 ズルズルと引きずられていく美咲。その顔には背後の親友と共に、とても嬉しそうな笑みが広がっていた。

 

 

 

 

バロン「ほぉ、おもしろそうな事をやってるな。
 ……って、俺もミサキとやるのか? なんかやりづらいな……
 ん? あれはなんだ? 俺も知らない獣魔だが……
 ミサキ……! くそ、あいつの相手をするのは俺一人では荷が重いな。
 よし、ハヤト、やるぞ!

 夢の勇者ナイトブレイカー第二十四話
『友と呼べる敵』

 俺の夢とお前の夢、どっちが強いかな?」

 

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