− 第六章 −

 

 コン、コン。
 規則正しいノックの音が…… って、ちょっと待て。
 確かこの部屋のドアは宇宙船のエアロックのような意味なく頑丈そうなやつで、ノックの音どころか、外の音なんぞカケラも聞こえないような物だったはずだけど…… 何でノックの音が聞こえるわけ?
「はい、どなたですか?」
 リーナちゃんがドア横のインターホンに近づく。それのスピーカーから初老の男の声が流れてくる。
『セバスチャンでございます。博士がお二人をお呼びするように、とのことで。ご足労ながらリビングまでお越し下さい。』
 ここまで丁寧だと断るのにも勇気がいりそうだ。が、とりあえず断る理由もないのでその言葉に従うことにした。
 廊下に出て、後ろのドアを振り返る。どう見てもノックの音が出るような木製の物とは思えない。こうやって軽く叩いてみても……
 コン、コン。
 ノックの音がする。……え?
「……ちょっとセバスチャン。このドアどうなっているのよ。」
 背中を向けてリビングに行こうとしているセバスチャンを引っ張る。
「ラシェル様、何か不都合でも?」
「これよ、このドア。何か仕掛でもあるの?」
「ははあ、これでございますか……」
 セバスチャンはニコリと子供のような、得意げな笑みを浮かべた。ジェルと違う意味でとらえどころのない性格をしている。
「このドアには表面に感圧式のセンサーが仕込まれておりまして、ノック程度の衝撃が加わりますと、ドアの内外に音声合成された音が鳴るようにできております。」
「暇な仕掛ねえ……」
 そんなものならどう考えてもジェルの造った物に違いない。宇宙船から音の出るドアまで、何かのキャッチフレーズのようだが、ともかくスゴ腕なのと暇なことだけは分かった。
「ま、いいか。」
 あたしは肩をすくめると、二人と一緒にまたリビングに向かった。

「で、何か用?」
「いや、用と言うほどではありませんが……」
 気がつくと、リビングにはジェル一人しかいなかった。
「あれ、あの二人は?」
「ああ、ヒューイとカイルならもう帰りました。明日、早いって言ってましたから。」
 ふーん。そう思ってから、ふと壁の時計に目を向ける。確かにもう遅い時間だ。後一時間程度で明日になってしまう。……寝不足はお肌の大敵よね。
「……というわけで、リーナ。ラシェルを送ってやってくれ。パンサーが玄関で待機しているから。」
「はい。
 では、ラシェルさん。行きましょうか。」
「そうね。」
 リビングに置きっぱなしだった買い物袋を手にして玄関から表に出ようとする。その背後からジェルが声をかけてきた。
「ラシェル…… 次は間に合うかどうかは自信ありません。くれぐれも無茶をしないで下さい。現実はTVとは違うのです。」
「うん……」
 振り返らずにあたしは応えた。ジェルの言いたいことは分かるが…… 分かるんだけど…… 
 心の葛藤に悩みながらあたしはミルビット研究所を後にした。

 出たところで黄色のホイールカーがあたし達を待っていた。夕方、ホーネットで飛んでいたときに下に見えた奴だろう。
 あたし達が近づくと音もなく左右のドアが自動的に開く。ジェルやリーナちゃんの話を聞いていたし、すでにホーネットを見ていたので特に驚きはしなかった。
 リーナちゃんが左の運転席に乗り込むのを見て、あたしも反対側から車に乗る。二人が中にはいると、これまた自動的にドアが閉まる。
 中は車というより、何かの宇宙船や飛行機のコクピットのようであった。何に使うのかよく分からないパネルが助手席側まで広がり、中には火器管制(ファイヤーコントロール)と書かれた物騒なコンソールパネルまである。
 手も触れないうちに、それのエンジンが低く唸り始めた。中央のディスプレイに周辺の地図が映し出された。
〈初めまして。私はMIAIC−007、ダッシュパンサーです。〉
 声が車内に流れた。通信機越しに聞いたのと同じものである。そうしてからパンサーが走り始めた。
 広い公園の中を車道が貫いていた。道路わきの街灯があたりの緑を鮮やかにに照らす。さすがに深夜近くだと人影は見あたらない。
 よく観察していると、その街灯はこちらの移動に合わせて点いたり消えたりしているようだ。と、いうことは、ここの公園自体が何らかのコントロール――恐らくはミルビット研究所によってだろうが――を受けているのだろう。
 パンサーが公園を抜けた。後ろを振り返ると、夜の色に染まった木々が闇の中に静かにたたずんでいた。
 市街地に入って始めてリーナちゃんがハンドルを握った。彼女に言わせれば、市街地に入ってまで手放し運転をしているわけにはいかないから、ということである。
「まあ、そりゃそうだけどねえ……」
 さっきから見ていると、リーナちゃんは何も運転をしていない。ただ手をハンドルの上にのせているだけである。それなのに勝手にハンドルが動き、ペダルが踏まれ、ギアが切り替わっている。
 不思議よねえ…… こんな車、あたしも欲しいなあ…… ジェルに頼んだら造ってくれるかなあ…… とつまらないことを考えていると、パンサーは歓楽街を抜け、住宅街へと入っていった。
〈あと五分ほどでラシェルさんのマンションに到着する予定です。〉
 パンサーがポツリと口(どこにあるのか知らないけど)を開いた。いつの間にあたしの家を、と聞きかけたが、ジェルがあたしのIDカードを偽造…… いや再発行したわけだから住所の一つくらい知っていてもなんら不思議でもない。
 ううぅ…… あたしのプライバシーみんなバレているんだろうか。登録されているパーソナルデータには住所氏名年齢職業電話番号から最新の身長、体重、スリーサイズまで記録されている。で、諦めた。どーせ、ジェルが本気になれば誰のデータだって見ることができるんだし、と悩むことを放棄することにした。
 パンサーが言ったよりも一分ほど早くマンションの前に着いた。大学生の一人暮らしなら平均的な大きさのところである。
 ブレーキの音も聞かせずにパンサーが入り口の前で停止する。あたしが降りようという意志を見せる前に、ドアが開いた。
「ありがとう。それじゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
〈私達はこれで失礼します。〉
 相変わらず丁寧な言葉を残して、パンサーはリーナちゃんを乗せて夜の街に消えて行った。
 ……この時、あたし達を見ていた存在がいたのに誰も気づかなかった。

「セバスチャン…… ウイスキーでも出してくれるかい……」
 ラシェル達がいなくなると、ジェラードは疲れたように息をはいた。
「おや、博士。お酒を召されるとは珍しい。何かあったのですか?」
「酒が飲めなくたって生きていくのに関係ないと今まで思っていたが…… 今日ばかりは飲めないのが疎ましいよ……」
 無言で初老の執事がボトルと氷、そして二つのグラスを持ってきた。それを見てジェラードがいぶかしげな顔をする。
「二つ……? お前だって酔えないタチじゃなかったっけ?」
「左様ですが、それでも博士のお相手くらいならできるかと……」
 そう言って手慣れた様子でオンザロックを二つ作った。
「せっかくですから、乾杯でもいたしましょう。何に対してがよろしいでしょうか?」
「乾杯する気分でもないが…… そうだな、私の平穏無事な生活を祈って、つーのはどうだ?」
「難しそうですなあ。まあ、よろしいでしょう。それでは、乾杯。」
「乾杯。」
 二つのグラスが鳴った。
 ジェラードは一息でグラスを空けると、また疲れたように息をはいた。
「……博士、そんなにラシェル様のことが気にかかりますか?」
 セバスチャンの問いに珍しくあっさりと応えた。
「ああ、あの娘の瞳を見ていると、昔無くした掛け替えのない光を思い出してしまう。
 同じ瞳で私の名を呼ぶんだ。嬉しいけど…… 嬉しいんだけど、とても悲しく、胸を締め付けられる。」
 遠い目をしてジェラードが誰ともなしに呟く。執事はそれを黙って見ている。
「私はどうすればいいんだ? 私はどうしたいんだ? あの娘をどう思っているんだ? 分からない、分からないんだよ……」
 頭を抱えるようにして呻くジェラード。そこには普段のジェラードは存在していなかった。そこにいるのは過去に後悔して、未来に絶望しかけている孤独な男だけだった。
「博士、」
 セバスチャンがグラスを傾けながら口を開いた。
「人間、どんなに辛くても生きていかなければならないのです。そして、未来はどんな人間にも分からないものです。」

 ふぅ〜
 あたしは疲れたようにベットに腰掛けた。今日は午前中までは平穏な一日かと思ってたが、午後に入って大きく予定が狂った。
 唐突に訪れた生まれて初めての死の危険。そこへ現れた謎の男(いまだに謎だらけだが)ジェル。ホーネットに乗っての空中戦などなど…… 十八年間、生きてきたけどあれほどの興奮を味わったのは始めてよねえ。って簡単に言うけど、今こうして無事(?)にすんだからまだ笑い事ですむが……
 ふう。
 冗談抜きに今日は疲れた。ジェルに買ってもらった(ことになっている)洋服も整理するのは明日にしよう。どーでもいいが眠い。
 リボンを外して髪を下ろしてからブラシを軽くかけた。それからナイティに着替え……って期待しないでよ。あたしがいつも着ているのは普通のパジャマなんだから。友達はスケスケのネグリジェとか、中には何も着ない、という人もいるけど…… あたしには真似できないな。
 そんなくだらないことを考えながら、街を望める窓に足を向けた。十二階の窓は街の明かりを映すスクリーンのようだ。今日は天気もいいから遠くまで見渡せる。けれどホーネットから見た街の光も捨て難い。
 壁の時計の針が真上に達しようとしている。そろそろ寝ようと窓に背を向けた瞬間、背後から奇妙な音が聞こえてきた。
 キリキリキリ……
 上から聞こえてくる。すぐにその音に思い当たったが……
 変ねえ……
 その音は窓拭きのゴンドラの音だった。
 キリキリキリ……
 近い。何を? なぜ?
 もしかして……
 悪い予感があたしを動かした。電話を手にして…… ああっ! ミルビット研究所の番号が分からない!
 諦めて都市警察(シティポリス)に電話をかける。
 トゥルルルル…… トゥルルルル……
 呼出音がやけに遅く感じられた。後ろでガラスの割れる音が聞こえた。防犯システムが侵入者の存在を警告する。
『はい、こちら都市警察。』
 モニターにオペレーターの姿が映し出される。
「あの……」
 受話器が音もなく奪われた。背中に硬い金属質のものが押し当てられる。
「あ、すみません。子供がいたずらをしたようでして……」
 画面の向こうには死角になる位置から黒ずくめのしかも覆面をした男が電話を取った。いたずらに対する注意を二、三言ってから向こうから電話が切れた。
 モニターが再び闇にかえる。
「余計な事はするな。」
 更に見えないところから足音が聞こえる。感じからするとあと二人はいるようだ。姿が見えた。それぞれが太い筒をつけたような大型の拳銃を手にしている。
「一緒についてこい。」
 後ろの男がそう言うと、別の男が銃で割れて開け放たれた窓を指す。三人目の男が防犯システムを解除しているようだ。少しして、警告の表示が消える。この程度の時間なら防犯システムの故障と思われるのだろう。
「早くしろ。」
 後ろの男が銃を握る手に力を込める。それに押されるように立ち上がった。どうやらあたしの「今日」はまだ終わりそうにない。この分だと下手すると「明日」が来ない、という可能性もある。
 開けた窓から風が入ってくる。夏が近いが、飽くまでも暦の上のことである。夜の風はまだ寒く感じる。パジャマだけだとさすがに冷える。あたしは軽く身震いした。
「ねえ、」
 あたしは男達に文句を言う。
「何か上に羽織らせてよ。風邪ひくじゃない。そうでなくても殿方の前にパジャマ姿をさらしてんのよ。恥ずかしいでしょ。」
 あたしの言葉に一瞬考えるような素振りを見せた。それくらいさせても危険が無いと判断したのだろう。男はそれを許可してくれた。
「うーむ。」
 ああは文句を言ったものの…… コートを羽織るだけならすぐに終わってしまう。メッセージを残していくとか、何か手がかりを作るくらいの時間は…… ないか。こーゆー時にジェルが来てくれると感謝感激雨あられなんだけどなあ……
 何かいい手はないか……
 ふと、その時に部屋の隅に放り出しておいた買い物袋が目についた。もしも…… もしも、あたしの記憶が間違ってなければ…… あった!
 よいしょ、とそれを引っ張り出す。ジェルが着ていた白衣を。返し忘れていたやつだ。
 見ていた範囲だと、ジェルはこの中から摩訶不思議な道具を取り出していた。何かの役に立つかも…… 使い方はわからないけど。
 いや、もしかしてこの白衣自体が発信機になっていて…… そんなこともないか、どう見ても重いだけのただの白衣よねえ……
 ま、いいか。ジタバタしていても始まらないし…… 半分諦め気分で袖を通す。相変わらず何でできてんのか知らんけど重い。丈もあたしには大きいし。くるぶしのあたりまであるぞ、これ。
「早く来い。」
 ホントにどーでもいいことだけど、こいつらって無口というか、無愛想よねえ。賭けてもいいけど、きっとこいつら彼女なんかいないわよ。
「早く来い。」
「わかったわよ。そんなにしつこいと女の子に嫌われるわよ。」
 文句を言いながらあたしは黒ずくめが乗ってきたゴンドラに乗り込む。当然ながら背中にはまだ銃口が押しつけられている。
 ゴンドラが動きだした。ゆっくりと降りていく。下にはそれこそ馴染みになった黒塗りの車がエンジンをかけたまま止まっていた。
 いちばん下でゴンドラが停止する。その間、男達は一言も喋ろうとしない。後ろの男が銃を突きつけたまま車を顎で指し示す。
 ホントに無愛想。さし当たってすぐには殺そうとしないところを見ると、何か聞きたいことでもあるんだろうか?
 ……ああ、やだやだ。あたしは普通の女子大生のはずなのに、どうしてこうも冷静でいられるんだろう。来てくれるかなあ…… ジェル。来てくれないと困るんだけど。
 ふと考えたことから無性に腹が立ってきた。なんであたしがあんな奴を頼りにしないとならないんだ? あー、イライラする。
「乗れ。」
「分かってるわよ! あたしだって頭は人並に働くんですから!」
 ゴリッ。
 背中にあたる銃口が強く押しつけられた。
「黙って乗れ。」
 ……ありったけの文句を口にしたかったが、こんなところでうら若き乙女の命を散らすのはしのびないし、それにクリスの仇もとってない。悔しいけど、男の言う通りにした。
 車はあたしと男達を乗せて走り始めた。

〈博士、一つお聞きしたいのですが。〉
 帰宅途中のパンサーが研究所に通信をいれた。その時、ジェラードは五杯目のオンザロックを空けたところだった。
「どうした?」
〈実は……〉
 パンサーの説明によると、ラシェルのマンションから戻るときに妙な感覚があった、ということである。
「記録はしてないのか?」
〈残念ながら…… ちょっと気になっただけでしたから……〉
『一度ラシェルさんのところに戻ってみましょうか?』
「頼む。」
 通信が切れた。
「家にいるなら安全かと思ったが……」
 苛立たしいようにコツコツと指でテーブルを叩く。一瞬ジェラードの脳裏に襲われているラシェルの姿が映し出された。そして、昔見た思い出したくない記憶まで……
「ホーネット! スクランブルだ。発進準備を整えておけ!」
 猛然と立ち上がったジェラードはリビングから血相を変え、走り去って行った。
 それから三十秒もしないうちにホーネットは夜の闇にとけ込んでいた。

『博士! 大変です! ラシェルさんの家の窓ガラスが割れています!』
 もうちょっとで目的地が見える、というところで通信機に切羽詰まったリーナの声が入った。
《中には人影もなければ血痕もありません。恐らく連れ去られたのでしょう。》
 パンサーの声にも緊張が混じる。
「ホーネット、ブースト全開だ!」
〈了解!〉
 ホーネットは機体下部についているイオンジェットエンジンに点火した。ヘリコプターながらマッハ二を出すことができるものだ。激しいGがジェラードをシートに押しつける。しかし、今の彼にはそんなことは気にならなかった。
 連絡を受けた五秒後にはマンションの上空にホバリングしていた。
「全周囲レーダーでこの近辺から離れる方向に移動する物体をサーチしろ。」
〈了解、サーチ開始。
 ……見つかりません。数が多すぎます。〉
「そうか…… しようがない。手近なところに着陸だ。リーナと合流する……」
 悔しそうな表情を隠さずにジェラードが呟いた。思わずわいた怒りを何かにぶつけようとして拳を振りあげるが、力が抜けたようにゆっくりともとの位置に戻した。瞳が刹那、銀色の光を帯びるが、それも普段の黒っぽい色に戻る。
「怒ってはいけない…… 怒っては……」
〈博士……〉
 ジェラードの一瞬の豹変に口を挟めないでいるホーネットだった。

「ここに入っていろ。」
 黒ずくめたちはあたしをどこかの廃ビルの一室に放り込むと、ドアの外に見張りを置いて去って行った。
 簡素なベットに衝立もないようなトイレとお手洗いがあるくらいのなんとも粗末な部屋である。ご丁寧に鉄格子が完備されている窓はガラスも割れ、外の風が入ってくる。居住環境としてはすこぶる悪い。
 そう、映画で哀れなヒロインが閉じ込められるような所だ。映画ならハンサムな主人公が助けに来てくれるが、生憎とそんな知り合いはいない…… はずだ。
 眠くなってきた…… 時計がないから正確じゃないが、そろそろ一時くらいのはずだ。このままボーッとしていても事態は進展しないだろう。見たところあたし一人が暴れても脱出どころか待遇が変化する様子もない。
 パターンだと、待っているといかにも悪そうな親玉が現れて自分の悪事をペラペラと説明した挙げ句、「殺れ!」とか言って、美少女の大ピンチ! って時にヒーローが現れて円満解決をする、とゆーのが常套手段だけど……
 ふう。やっぱり寝よ。
 相手の様子を見る限り、最低でも朝までは待ってくれるに違いない。楽天的、と言われればそれまでだけど…… 今はそれくらいしか思いつかない。無駄に体力を消耗するよりは…… という考えだ。
 備え付けの虫がわいてそうな不潔なベッド(あー、やだやだ)に横たわる。一応、毛布らしいものもあるが、とてもかけて寝られるような代物じゃない。あたしゃ一瞬ゴミが置いてあるのかと思ったよ。
 夜の風が割れたガラスのすき間から容赦なく忍び込んでくる。しかし、意外と寒くない。この時期なら凍死まではしないけど風邪をひくかも、と覚悟していたけどその心配もなさそうだ。
 足を曲げ、白衣にスッポリと体を入れて目を閉じる。実は疲れていたのか、予想以上に早く意識が闇に沈んでいく。
(一応、期待はしているからね……)
 あたしの記憶はそこで途切れた。誰に向かってそう呟いたかは覚えていない。

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