オリジナルブレイブサーガSS
「ロードVSカイザードラゴン 真剣勝負?!」
「ああ、そうか。元々、精神力でできているわけだから『デフォルトの大きさ』というのも存在しないんだ。と、なると……」
「というわけで、ちょっと試してみたいんだけどいいかな?」
〈私は構いません。それにちょっと興味あることでございますし……〉
「まぁ、パラメータの値を少しずらすだけだから、問題はないと思うよ。
いざ、って時の問題が無いように元のデータも残して置くから問題はないし……」
カチョン、カチョン、カチョン……
別に雪乃のことを考えていた、というわけではないが――ただ否定もできないのがホレた弱み、ってやつなのだが――半ばボンヤリと『ラストガーディアン』の通路を歩いていた咲也は、異質な足音らしきものを耳にした。金属製の物が歩いているような物だ。ちょっと音が高いのでスパイクか何かが床を叩いているのかも知れない。
床が傷つくなぁ、と思いながらふとその方向に目を向けて……
「――!!」
驚きのあまり、仰け反りなら壁にべったり張り付くように逃げてしまった。
カチョン、カチョン…… カチン。
〈おや、これは咲也様。そのような場所でいかがなされましたか?〉
その相手――身長2mを超えた深紅の鋼のドラゴン――が畏まった口調でペコリと頭を下げる。
「……カイザー、か。」
いつもはカイザスかクロノカイザーになったときにしか見てないから違和感ですぐに思い出せなかったが、その口調にも声にも姿にも十分すぎるほど憶えがある。
〈左様でございます。謙治様のちょっとした実験で1/10の大きさになってみたのでございます。〉
いつもの執事然とした語り口。その落ちついた声音に、自分だけワタワタしてしまったのが情けなくなっしてまう。
(……こんなことじゃあ、まだまだ慎之助さんに認められないな。)
心持ち肩を落としたのに気付いたのか、もし人並みに表情が出せたのなら空惚けた感じでカイザードラゴンが言葉を紡ぐ。
〈どんなに硬き壁も叩き続ける努力さえ忘れなければいつかは崩れるものです。
肝心なのは諦めずに、正しき方法を貫きつづけることです。〉
「え……?」
咲也が何か言いかける前に、〈あ、急ぎます故〉とカチカチ爪を鳴らしながら去っていく。
「……カイザーの言う通りかもしれないな。」
何か身にまとっていた「重さ」を下ろしたような少し晴れ晴れした表情で咲也はカイザードラゴンと反対方向に歩いていった。
戦術指南も受け持っている葛葉が各勇者のデータを自室で眺めていた。
(コンビネーションを考えるには、各勇者や搭乗者などの相性も重要になるな。
出来ればお互いのコミュニケーションをとらせたいところだが…… 搭乗者や「戦巫女」たちならともかく、「勇者」同士はなかなか……)
難しいものだの、と小さくため息をついていると部屋のインターホンが鳴った。
《葛葉様、少々御教授願いたいことが。》
(……?)
年を経た落ちついた声音に聞き覚えがあったのだが、どうも思い出せない。
《申し遅れました。私め、カイザードラゴンでございます。》
その言葉にドリームナイツの慇懃な火竜を思い出す。
「おお、カイザー殿か。いや、開いておるぞ。」
言ってから、自分の発言に違和感を感じる。確か……
《それでは失礼いたします。》
プシュー、とドアが開きながら、その隙間から赤い色が見えた。
ドアが開ききると、身を屈めて頭がぶつからないように入ってくる2m超の鋼のドラゴンが入ってくる。
(そういえばロードも同じように入ってきたな……)
同じく2mを超える鋼の騎士ロードも「ラストガーディアン」艦内のドアは小さいのか、屈むように入っている。
ロードよりも突起や長い尻尾があるせいか、なんか苦労しながら入ってきたカイザードラゴンに思った疑問をぶつけてみる。
「で、お主。普段は20m以上なかったか?」
〈左様でございますが、謙治様がサイズを一桁ずらすことが出来るようになったとかで。
無論、戦いになればいつでも元に戻れることは確認済みでございます。〉
「なるほど……」
思わず興味にかられてあちこちから見てみる。スクリーン越しでしか見たこと無かったが、間近で見るとなかなか感慨深いものがある。
〈それで、本日お伺いした旨ですが、前に聞かせていただいた「ショーギ」なるものを御教授願えれば、と。なんでもチェスに似ている、とのことで。〉
「そうであったな。よし、ちょうど煮詰まっていたところだ。しばし相手をしてやろうか。」
と、葛葉は表に出さなかったものの、嬉しそうに奥から将棋盤を取り出した。
〈「成る」という行為と駒の再利用が可能なのがチェスと違うところですな。〉
「私もチェスをしたことあるが、将棋の方がずっと奥が深いぞ。」
〈……む。私、ナイト使いでしたが、この「桂馬」という駒は性質が違うようです。基本戦略から変えるべきですか……〉
「なるほど、元の素養があるから憶えるのも早いな。だが……」
パチン、と葛葉の指が駒を刺す。
〈……!〉
表情には現れないが、苦悩の声を漏らすカイザードラゴン。しばし悩んでから頭を下げる。
〈参りました。〉
「正直、お主はまだまだだな。私とばかり打っても上達しないか? となると……」
言いかけたところでインターホンが鳴る。
『師匠、こちらにおられますか?』
「……ん? ロードか?
ちょうど良い。手が空いているなら一局打たぬか? 面白い相手がおるぞ。」
『……は?』
何か含んだような「師匠」の言葉に、鋼の騎士は思わず間の抜けた声を上げてしまった。
『葛葉さん…… その、書類を持ってきました。』
ちょっと気弱そうな声がインターホンから聞こえてくる。
「神楽殿か。開いておるぞ。」
今日は千客万来だな、と思いながらも返事をする。
また、プシュ、とドアが開くと、
「叔母様、ロード来てませんか?」
「和菜もおったか。ほれ、ロードはそこだ。」
と、指さした方にフェアリスと手に書類を持った神楽が目を向けると……
ガタッ、バサバサバサ……
思わず驚いて仰け反りながら書類を落とした神楽と、何か嬉しそうに目を細めるフェアリス。
そこでは、鋼のナイトとドラゴンが差し向かいで将棋を打っていた。
元より人型のロードはともかく、カイザーはその爪の生えた手で器用に駒をつまみ、パシンと心地よい音を立てて打っている。長い尻尾を持て余し気味だが、それでもなんとか正座をしていた。
熟考していて周りが見えてないのか、二人――というべきかは難しいところだが、あえて「二人」としておく――はただ黙々と手を進めていた。
苦悩を示すようにカイザードラゴンの尻尾がパタパタと揺れる。
「どちらが優勢なんですか?」
二人の邪魔をしないように小声で葛葉に問うフェアリス。
「そうだな。ロードの方が打ち慣れているが、元々の性格か打ち方が堅いな。カイザー殿は慣れていないものの、持ち前の老獪さで翻弄しているようだ。
私から見ればどちらともまだまだだけどな。」
「でもロード、なんか嬉しそう。」
「嬉しそう?」
うん、と頷くフェアリス。
「ほら、普段ロードの周りには『人間』しかいないでしょ。やっぱり『心』を持っていても『作られた者』という気持ちがどこかにあるんじゃないかな?
だからきっと、自分と同じように『機械の身体』を持った人と何かできる、って嬉しいことじゃないかな、って思うの。」
「なるほど……な。」
〈ぬぅ…… これはどうしたら良いものか……〉
「さ、カイザー。手が止まっているぞ。」
「ああ、これは難しいですね。」
〈いやいや、神楽様。これは我らの真剣勝負。手出しは不要ですぞ。むむむ……〉
パシッ。
長考の後、やっとカイザーが一手進めた。
それをフム、と顎に手をかけていたロードが駒に指を伸ばそうとして途中で止まる。
そうやら予想していたような手では無かったらしい。
「むむむ……」
ロードが困ったように一声唸る。
コツコツコツ…… と指先で膝を叩く音。
〈うぬぬぬぬ……〉
まだ窮地から抜けてないのか、カイザーも悩んだように唸る。
ペシペシペシ…… と尻尾が床を叩く音。コツコツコツ……
ペシペシペシ……
そんな鋼の「勇者」たちの姿に、フェアリスと葛葉は小さく笑みを浮かべた。