オリジナルブレイブサーガSS
『リオーネの新薬騒動あるいは律子ちゃん奮戦記? 海賊版』

 

 二日目。
 幼児化による衝撃はだいぶ収まったように見えるが、これに起因する騒ぎは収まる気配を見せなかった。
「はなせ〜 みさき、はなせ〜」
 本人は何かを意図してるわけではないのだが、ついつい小隼人を抱きかかえてしまう美咲。
 精神年齢は落ちたとはいえ、本人たちの認識はほとんど変わっていない。
 身体のあちこち――特に背中あたり――に感じられる柔らかさや温もり、そして少女の匂いなどが多感(?)な少年には刺激が強すぎた。更にそれを甘受してはいけない、という強い理性が抵抗という行動に現れる。
 が、そういう方面での鈍感(というか朴念仁)さと、体躯や外見にそぐわない身体能力が小隼人の逃亡を阻止していた。
「何言ってるの、隼人くん! ちゃんとお風呂入らなきゃダメでしょ!」
 今回の「逃亡」の理由はそれであった。
 別に風呂が嫌い、というワケではない。その「方法」に問題があったのだ。
「大丈夫、ちゃんとボクが一緒に入ってあげるから。きれいきれいにしないとね。」
「おれはひとりでもはいれる〜」
 ジタバタジタバタ。
「溺れちゃったらどうするの!」
 ここで「逃げだそうとする隼人がどうして顔を赤くしているのか」ということに気付けば話は早いのだろうが…… いや、無理か(ぼそ)
〈美咲様、私でよろしければ隼人様をお預かりしますが……〉
 と、救いの神か、等身大カイザードラゴンが手に洗面器他風呂道具を持ってやってきた。
「みさき、はなしてあげなさい。」
「あれ? 麗華ちゃん?」
「……どうせつめいしたらいいかしらね。
 けっかだけいうと、こどもになっても『なかみ』はかわらないのよ。」
「?」
 小首を傾げる美咲。隼人も麗華の言いたいことに気付いたのか、ちょっと安心と気まずさの混じった表情をする。
「けんじ、あとはまかせるわ。」
 隠れていた、というわけじゃないのだろうが、カイザードラゴンの陰から謙治が出てくる。
 スッと眼鏡を直す、という(外見)五歳児にそぐわない仕種をしてから、これまた麗華と揃って五歳児にそぐわない口調で話し始める。
「たかなしはかせからのうけうりなのですが、どうやらいまのぼくたちはがいけんとせいしんねんれいだけがこどもになっているようです。」
「……??」
「ですから、ちしき・かんじょうなどはまったくかわっていないのです。しこうとかはせいしんねんれいにひっぱられますがね。」
「う〜ん……」
 隼人を抱えたまま唸る美咲。
「つまりは、『同じ』なんですよ、全く。」
 不意に漢字のセリフが聞こえてきて、美咲は隼人ごと振り返った。というか、まだ抱っこされている隼人。顔を赤くしたまま脱力している。
「この外見年齢六歳の隼人君の中には、ちゃんと十六歳の隼人君が入っているわけでして……」
「え〜とぉ……」
 腕の中の隼人に目を落とし、それを頭の中で「いつもの」隼人に変換してみる。
 身長差のせいか、自分が隼人の背中にしがみついているようにしかならない。
(よく分からない……)
 ふと思いたって、さっきの自分の発言を振り返ってみる。
 引きずり込んだ(違)女湯の中に一人だけ隼人。周りは裸の女性達。無論その中には自分も……
(うわぁっ!! って言うか、なんかダメっ!!)
 何がダメなのか説明はつかなかったが、何となくでも「良くない」ことが分かる。
「……はい。」
 複雑な気分でカイザードラゴンに隼人を差し出す。無論、美咲はともかくカイザードラゴンに抱きかかえられるのは嫌なのか、美咲の手を振りきって久々の地面に降り立つ。
 と、麗華が先程の漢字セリフの主を振り返る。
「で、たかなしさんもおふろですか?」
 ええ、と答えた小鳥遊は、これまた小さくなった艦長――いや、律子「ちゃん」の手を引いていた。
「さすがに同様の理由で、彼女と一緒にお風呂、ってワケにはいきませんで。
 ただ、やはりそれで風呂に入らないというのも問題ですし。」
 それで、と前置きして、ズボンに縋り付いている律子に目を落としてから言葉を続ける。
「誰かいたら、律子さんの事をお願いしようと思って…… で、美咲さんも麗華さんもお願いできますか?」
「うん、いいよ。」
「まったく…… みさきがものたのまれていや、っていったのきいたことないわ……」
 麗華はちょっと呆れたように溜息をつくと、カイザードラゴンから洗面器を受け取り、普段と変わらない仕種で女湯に歩いていく。
「わ、わわっ。あ、ほら、律子さんも行こ。」
 一瞬小鳥遊にすがるような視線を向ける律子だが、小鳥遊の笑顔と引っ張られる手に、麗華の後を追って女湯の更衣室に入っていく。
「さて、我々も一風呂浴びてきますか。
 ……と、隼人君。逃げないで下さい。臭いと美咲さんに嫌われますよ。」
 美咲の束縛から解放された隼人。ダッシュで逃げようとするが、小鳥遊の一言に足が止まる。
「ま、ふろにははいらないとな……」
 さも、小鳥遊のセリフが理由でないような口調でぼやく隼人。子供は素直である。
「……ところで、デカブツ。おまえもはいるのか?」
〈さぁ、いかがいたしましょうか……?〉

 カポン、カポン……
 女湯は美咲たち三人の貸し切り状態だった。
 チラ。
 麗華を見る。
 チラ。
 律子を見る。
「うふふふふふ……」
 思わず顔がほころんでしまう美咲。
「どうしたんですか? みさきおねえちゃんは……?」
 律子の問いももっともなのだが、麗華はいつものごとく冷たかった。
「つまらないことよ。……ま、すぐに『負け』ちゃうでしょうけど。」
 なんて言ってると、甲高い声――いや、悲鳴が聞こえてきた。
「きゃっ!」
 スッテンコロリン。
「痛いです〜 あ、マスター達は大丈夫でしょうか〜?」
 いきなり大ドジを披露したピクシー。隙間も何もないのだが、男湯と女湯を隔てる壁の前でピョンピョン飛び跳ねている。まぁ、女湯だから良いと言えば良いのだろうが、あまりいい格好ではない。
「ちょっとピクシーさん。転びますよ。」
 麗華がそう言うと、ピクシーは彼女の顔をマジマジと見て、一言。
「えっとぉ…… どなたかの娘さんですか?」
 ギロッ。
 五歳児の一睨みで固まってしまう十三歳。
「…………」
 と、そのやりとりを見て、美咲も固まっていた。
「?」
 律子はにやけていた理由も、固まっている理由も見当がつかない。
 と、ガララ…… と音がして、人が新たに人が入ってくる。
「咲也くん、大丈夫かなぁ……」
「子供相手に乱暴なことはしないと思うわ。」
「やっぱりこっちに連れてきた方がいいんじゃなかったの?」
 神崎三姉妹。
「あぅ……」
 固まっていた美咲が、悲しそうな表情をすると、そのままブクブクと水の中に沈んでいく。
「おねえちゃん、ほんとにどうしたんですか?」
「ほんとにつまらないことよ。」
 律子の問いに麗華はそうとしか答えなかった。

〈いや、風呂はいいですな。〉
「ほんとかよ……」
 赤い巨体をお湯につけ込んだカイザードラゴン。それをジト目で見ている隼人。
 謙治と小鳥遊は今身体を洗っているようだ。
〈ところで…… 実はこちらにきて後悔している、ってことはないですか?〉
「! な、なんだとっ!!」
〈子供の振りをしてれば…… とか。〉
「そりゃおれだって…… で、でもなぁ、おれは…… しねぇ。」
 赤くなって言いながらも、その目は真剣だ。それを聞いても鋼の顔故、表情の変化は分からない。と、カイザードラゴンの口調がとぼけたものになる。
〈いや、風呂はいいですな。〉
「てめぇ……! くそっ……」
 どうせ言ってもやり返されると思って、隼人はそっぽを向いた。

「……で、どうです? 子供の気分は?」
「そうですね。ぼくとしてはあまりかわりませんね。」
「やっぱり麗華さんも一緒に小さくなったからですか?」
「そうですね。」
 いつもの悪気の無い鋭い言葉だが、珍しく謙治は素直に返答する。
「どちらかだけだったら…… それこそおおがみくんみたいになっていたでしょう。」
 ニヤリと子供らしくない笑みを浮かべると、ちょっと疲れたような顔をする。
「やっぱりりせいのおさえがききづらいですね。
 ぼくもかぐらざきさんもうかつなことをおたがいいわないようにきをつけてるから、こどもらしくないんですよね。」
「せっかく子供になれたのだから気楽に、ってわけにはいきませんかね?」
「いいですよ。ぼくたちはどうやらこっちのほうがきらくらしいですし。
 ……さすがにからだがちいさいのはたいへんですが。」
 よいしょ、と腰を浮かせて、シャワーを取る。やっぱり細かい動作動作に「子供の身体」という不便さが付きまとってしまう。
「ふと思ったのですが、この効果って、若返りですよね。それって……」
「そういえば……」
 ふと手が止まり、思考を巡らす二人。
 見えないところに大粒の汗を張り付ける。よくよく考えなくても「人類の夢」の一つだったりする。
(考えないようにしよう……)

「あついよ〜」
「我慢だ草薙。別に私はお前が憎くてやっているわけではない。
 ……まぁ、正直なことを言えば、雪乃を奪っていったお前が憎くないワケがない。
 だからこそ、お前には私が安心できるほど強くなって欲しいわけだ。」
「う〜 でもぉ……」
「……お前は雪乃の事が好きか? 月乃は? 花乃は?」
「みんなすきだよ。」
 ニッコリ素直に答える咲也。
「でもいちばんはやっぱりゆきのちゃん!」
 躊躇わずに答える咲也に、慎之介は少しだけ嬉しいものを感じた。が、やっぱり、
「もうでていい?」
「いや、まだだ。お前にはもっと強い男になってもらわねばならぬ。」
 やはり厳しい「兄」であった。
 ふと慎之介は思う。いつもの咲也相手だったらこんなこと言っただろうか?
 その答えは誰にも分からない。

 ……風呂場には色々なドラマがある(謎)