オリジナルブレイブサーガSS
『ウェディングドレスは誰が為に?』
(イラスト:にいだこういち氏)

 

 

 戦艦ラストガーディアンの艦長、綾摩律子は一方アスタル学園大学部で教鞭を振るう教授でもあった。
 さすがに現状が現状なので、講義の時間は減っているものの、学園関係の仕事が無くなるわけでもない。
 更に艦長本来の仕事から、艦内での事件(苦笑)の報告書・始末書(苦笑2)などの処理もあり、職務はいつも多忙を極めていた。
 そして困ったことに副官である神楽悠馬が警視庁の仕事で先輩でもある神代詩織に呼ばれ、戦艦「ラストガーディアン」から離れていた。普段から「影が薄い」とか「家具屋」とか「あれ? いたの?」とか散々言われている彼だが、詩織に鍛えられたのもあるのか、気もつくし、サポート能力も高い。
「……やっぱり神楽君がいないと大変ね。」
「そうですね。彼は優秀ですから。」
「ええ……」
 と、そこでハッと気付いて声の主を振り返る。
「小鳥遊博士……?!」
「あ、すみません。神楽さんに頼まれてお手伝いに来たのですが、何度呼びかけても返事がなかったので……」
 と恐縮した顔。元より艦長の執務室は艦内スタッフには開放されている。個人の私室のように、インターホンを鳴らさなくても入れるわけだ。無論、ある程度以上のレベルのIDを持っていなければならないが。
 トントン、と恐縮したまま処理済みの書類の整理している小鳥遊。生活能力は皆無らしいが、こういう整理は出来るらしい。
 ふと見ると、乱雑に積んであった書類が優先順に並べ替えてあった。
 事務能力としては神楽よりも落ちるのだろうが、オブザーバーとして艦長の仕事を見ているのと、頭脳労働なら一通りこなせる器用さで、彼と同じくらい手際よく書類を整理していく。
「これは……」
「ああ、それはですね……」
 更にザッと目を通した資料の中身を記憶しているのか、要約してくれるので律子も楽である。
 と、一時間後……
 すっかり片づいた執務室で、「じゃぁ、失礼します」と言う小鳥遊を引き留めて、「手伝ってくれたお礼」にお茶を振る舞う律子。予想以上に早く片づいたので、雑談を楽しむ余裕もできた。陰で冷やかされているのも知っているが、律子は小鳥遊との時間を結構楽しみにしていた。
 話題はいつものように、心理学やハザード統計学とお互いの専門から、古書学・歴史・医学等々。共に博識故に話題の尽きることはない。
 まぁ、これまたお互いが朴念仁&奥手な為か、「そういった」話にはならないのは良いことなのか、悪いことなのか……
「あれ、これは……?」
 ふと机の下の隙間に一枚の紙を見つけた。
「あ、すみません。どうやら落としていたようです。」
 律子に言われて、小鳥遊が何かの拍子に滑り込んだ「書類」をつまみ上げ、視線を斜めに走らせる。
「……おや?」
 生来のものなのか、余程のことがない限り緊迫感の無い人なので、大事なのか小事なのか表情からは判断しかねる。仕方がないので、小鳥遊が何かを言い出すまで待つしかない。
「いやいやいやいや…… 困りましたね。」
 半ば口癖になっているせいか、これで緊迫度を測ることもできない。
「簡単にいうと『雑務』にあたることですねぇ……」
 と180度回転させて、その書類を律子に差し出す。
「えぇと…… はい?」
 それはアスタル学園大学部学生課からの要請だった。
「ウェディングドレスのモデル?!」
「のようで……」
 飽くまでも呑気な小鳥遊。慌てず騒がずティカップを傾ける。
「……これは私の所にしか来てませんよね。」
 戦々恐々の様子で隅から隅までその要請書を見つめる律子。
「ええ、運良くこのことを知っているのは、私と艦長だけのようです。」
「そう…… それは僥倖ね。」
 まるで自分の死刑宣告が印されているように「それ」を見つめる律子。
「でも…… やはり誰かを推薦しなきゃならないのよね。」
「いえいえ、それだけではなくて、どうやら『お相手』も必要だそうで……」
 要請書の中身を読み直した小鳥遊が言う。
「はぁ〜……」
 美貌の艦長の溜息が執務室を満たした。

ケース01:橘 美咲&大神 隼人

「ある意味無難じゃないかしら? 頼んだらやってくれそうですし……」
「いやいやいやいや、困りましたねぇ……」
「どうかなされました?」
「この一文が……」

 ――できれば外見が結婚可能年齢(女性十六歳・男性十八歳)以上であることを望みます。

「…………」
「ね?」
「…………(さらりとひどいこと言ってるわね……)」

ケース02:高岸 瞬&ピクシー

「バラバラに行かせたらきっと着かないでしょうね。」
「それ以前にあの子、見かけ13歳よ。」
「そう言われてみればそうですね。いやはや……」

ケース03:秋沢兄弟&空山姉妹

「この二組は残念ながら無理そうです。」
「あらそう? きっと乗り気だと思いますけど?」
「二組一緒に、というのなら問題ないのでしょうが、どちらか片方となると……
 空山さんたちはきっとお互いに遠慮しあって、ダメかと思われます。」
「……そうね、きっと。」

ケース04:草薙 咲也&神崎三姉妹

却下。」
「おや、これはお早い……」
「小鳥遊博士は艦内の破損の最大原因ってご存じです?」
「いえ…… ちょっと分かりかねます。」
「第1位。ブレイバー及び神崎慎之介の『戦闘』の余波、だそうよ……
 本人達は何も問題ないと思うけど…… さすがに却下させてもらうわ。」

ケース05:笹山 聡&織笠 紗由璃

「ちなみに第2位。笹山椿暴走による破損、よ。」
「いやいやいやいや…… それまた困りましたねぇ……」

ケース06:トーコ&ジャンク

「第3位。トーコさんの『暴走』によるもの。現在赤丸急上昇中よ。ランキングが代わるのも時間の問題ね。
 ……どうしてこの『ラストガーディアン』の被害が内部からの物が多いの?!」
 思わず手に持っていた紙をクシャと握り潰してしまう。
「……困りましたねぇ。」

ケース07:道原 大地&セレナ=ラクシュミー=ドラゴニール

「これは良いのでは……?」
「そうね。西山君の影響も微々たるものでしょうし…… あ。でも……」
「でも?」
「残念ながら『日本人に限る』って書いてあるわね……」
「さすがに…… 彼女は日本人には見えませんね。」
「となると、メイアさんも対象外になるわね。」

ケース08:屋敷 俊&相良 円

「この二人ならなんら問題は無いわね。急いで二人に連絡を……」
「それが……」
 喜色満面になる律子に申し訳ないと思ったのか、珍しくすまなそうな顔をする小鳥遊。
「屋敷さんは海外の大会に行っておりまして…… しばらく帰ってこないそうで。
 相良さんが落ち込んでましたよ。いやはや……」
「そう……」
 同じくらいに落ち込んだ律子に、小鳥遊はかける言葉が思いつかなかった(笑)

ケース09:隠しステージ

「ふと思ったのですが、艦長が、という手もありませんか?」
「え……?」
 一瞬思考停止。
 次の瞬間、様々な映像が脳裏を駆けめぐる。
 小さな丘の上に白い教会。
 周囲を沢山の人&ロボ――相変わらずアースフォートレスは大きすぎるわねとか思いながら――が自分「たち」を祝福してくれる。
 純白のウェディングドレス――でも何故か自分はいつものようにサングラスをかけていたが(嘆息)――が風に揺れ、今この瞬間、自分は世界一輝いていた。
「いい天気になりましたね……」
 隣の「彼」が優しく微笑む。
「艦長…… いや、今日からは『律子さん』って呼ばなければいけないんですね。」
 昨日自分が鏡の前で一生懸命相手を名前で呼ぶ練習をしていたことを思いだして、思わずクスッと笑ってしまう。
 式は滞り無く進み、誓約の言葉、指輪の交換、そして永遠の愛の誓い……

「……ちょう、艦長!」
 と、律子の想像(妄想?)は「一戸建ての小さな家のテラスで二人きりのティータイム。顔を上げるとあの人の優しい笑顔が」というところで中断させられた。
 ふと目の前には心配げな顔の小鳥遊。ちょっと呆然としていると、額に手を当てられたりする。
「ふ〜む、特に熱はないようですが、日々の疲れが溜まっているんですかね?」
 心配そうに見つめてくる小鳥遊に恥ずかしさで頬が熱くなりそうだったが、どうにか自制する。
「ま、まぁ…… さすがに私はね……」
 と、そんな風に誤魔化すくらいしか出来なかった。

ケース10:エクストラステージ

「ちょっとしたアイデアなんですが…… 乗り気かつ問題の無いカップルを思いついたのですが……」
「あ、そういえば神楽崎さんと田島君の名前が出てきてないわね。」
「いやいや…… なんだかんだで麗華さんは照れ隠しの為に意地になって拒否するでしょうし、謙治君もそういう彼女の性分を知ってますから、ダメでしょうね。」
「じゃあ…… 一体?」
「例えば綾瀬さんと御国守さんとか。きっと綾瀬さんは喜んでやってくれると思いますよ。」
「…………」
 想像してみる。
 男装の恵梨とウェディングドレス姿の麗奈。身長は靴とかで誤魔化すとして、まぁそれはそれでいいかも知れない。更にいえば何処からも文句が出そうにもないし、普段の言動を見てれば恵梨はやる気満々でやってくれるだろう。
「……って、御国守さんは嫌がるんじゃないの?」
「それじゃぁ、逆にしてみましょうか?」


 男装の麗奈にウェディングドレス姿の恵梨。悪くないかもしれない……

「じゃなくて、御国守さんの意向は?」
「……どうなんでしょうね?」
「却下。」

ケースXX:真のラスボス

 ポン。
「いい方法を思いつきました。これなら間違いなく問題無しです。」
 自信たっぷりに言う小鳥遊に、ちょっと不安な律子。
「ちょっとお耳を拝借……」
 と、二人きりなのだから、そんなことする必要もないのだが、小鳥遊の口元に耳を寄せる律子。
「あのですね……」

 …………
 …………
 …………

「という感じです。」
「なんか…… 騙しているみたいで気がひけるわね。」
「でもそれが一番平和ですよ。あのお二人もまんざらではなさそうですし……」
「そうね。やってみるわ。」

 Prrrrrr……
 はい、こちら神代。……って、なんだ律子か。どうした?
 神楽を貸して欲しい? ああ、いいよ。こっちの用は済んだし。
 え? ラスガーの仕事じゃない? ちょっとした所用?
 うんうん…… はぁ? ウェディングドレス?! 神楽がかぁ?
 勿論違うよな。……え? 神楽が新郎役……
 うん、うん…… あ、ああ。た、単なるモデルだよな。ああ……
 へ、へぇ、「花嫁役」は涼子か。う、うん? 綺麗なんじゃないの……
 ああ、分かったよ。当日神楽を連れ行きゃぁいいんだな……
 ん? 別に何でもないよ。それじゃあな……

「……先輩、どうしたんですか?」
「なんでもねぇ。」
「すごく不機嫌そうに見えますけど……」
「なんでもねぇ。」
「…………(今はそっとしておこう……)」

 当日。
「…………(不機嫌そう)」
「行った先に何があるんですか?」
「…………」
「って、いきなり車に乗せられても何がなんだか……」
「…………(ギロリと睨まれる)」
「……すみません。」
 トゲトゲした空気が流れる中、詩織の運転する車は一軒の写真スタジオに到着する。
「……ここですか?」
「…………(顎で指し示す)」
「(なんか僕、悪いことしたんだろうか……?)」
 気まずそうな顔で車を降り、写真スタジオに入っていく神楽の背中を、そして見えなくなってもしばらく見つめていた詩織だが、ふぅ〜と溜息をついて車を出そうとする。
 と、慌てたような神楽がその店から飛び出してきた。
「先輩先輩……!」

 …………

 …………

「律子! お前よくも謀ったな!!」
 数日後、ラストガーディアン内。
 艦長の執務室に怒鳴り込む詩織の姿が見られた。
「謀ったなんて人聞きが悪いわ。それに厳密にいうと私じゃないし。」
 怒鳴るのも疲れるのか、疲れたように肩を落としてから溜息をつく。
「こういうことを企むのは…… あの博士か……」
「正解。」
「一生の不覚だ……」

 結局、帰ろうとした詩織を神楽が呼び止めたのは、写真撮影の段になっても「花嫁役」が来ないということだった(それ以前に、自分に了承もなくモデルをやらされるハメになった神楽がえらく困っていたが)。
 そして「花嫁役」として詩織が選ばれるのに全く時間はかからなかった。

「じゃぁ、断れば良かったんじゃない?」
「そりゃぁそうだけど…… 向こうも困っていたしな。
 や、やはり公僕としては困っている市民に協力するも職務だし……」

 もう流れ作業のように化粧からヘアセットまでされて、長身のはずの詩織に何故かドレスがピッタリなところで気付くべきだったのだろう。
 しかし、何か夢うつつのまま、気付くと白のタキシード姿の神楽の隣に並んでいた。

「それで撮った写真は?」
「し、知らねぇよ……」
 照れ隠しにそっぽを向いたところで、執務室のドアが開き、その奥から鋼の竜が体を傾けながら入ってくる。
〈律子様、小鳥遊博士に言われて写真を届けにあがりました。〉
 その言葉に詩織がカイザードラゴンに詰め寄る。
「おい、カイザードラゴン! その博士は何処に行った!」
〈ああ、小鳥遊博士でしたら、詩織様と顔をあわせるわけにはいかない、と私めに写真を託しまして……〉
「あの笑顔魔人が……」
 拳を振るわせる詩織を横目に、カイザードラゴンは手に持っていた「写真」を律子に渡す。
「あら、綺麗に撮れているじゃない?」
「! ま、待て! もしかしてその写真……」
〈はい、左様でございます。
 先程現像が出来上がった、ということで私、取りに行って参りました。〉
 いきなりでかい鋼の竜が来たので、その写真屋さんも驚いたことだろう。
 と、それを聞いて、詩織がサッと青ざめる。
「しゃ、写真はそれだけか?!」
 もし肯定の返事だったら、律子から強奪してでも事実を隠蔽(笑)することだろう。が、
〈いえ、艦内を回って、律子様に届けたのが最後の写真です。〉
 律子に伸ばしかけた手が空中で止まり、ヘナヘナとその場に崩れ落ちる詩織。
「なんてこった……」
 崩れ落ちてても埒があかないと思ったのか、フラフラと夢遊病者のように執務室を出ていく。
 きっと誰かに(それこそ恵梨とか沙希あたりに)捕まる前に逃げる腹づもりなのだろう。
〈しかし、いいお写真ですな。〉
「そうね……」
 ピラリと写真を取り出す。
「ちょっと…… 羨ましいかも。」
〈羨ましい、ですか?〉
「ええ……」


 その写真には、緊張してかぎこちない笑顔を浮かべながらも、幸せそうに寄り添う一組の新郎新婦が描かれていた。