オリジナルブレイブサーガSS
『狙われた絆』

 

「この区域全体に強力な通信妨害を確認!」
 万能戦艦「ラストガーディアン」は時空湾曲(ディメンションディストーション)を察知してアクアワード周辺で警戒態勢に入っていた。
 その報がメイアによってもたらされたのは偵察の為に勇者達が出撃した直後の事である。
「各自警戒を促すために信号弾を発射して。」
 艦長――綾摩律子の指示は早かった。すぐさま多目的ランチャーから数発の信号弾が撃ちあげられる。
「これで何も無ければいいけど……」
 漠然とした不安がその言葉を口にさせた。

「大変だ、音彦が!」
 ガイアンチームの道原大地がランドビークルを急制動させてラストガーディアンに戻ってきた。
 その助手席には同じガイアンチームの西山音彦がグッタリしている。
 格納庫にストレッチャーが運ばれ、音彦が連れていかれる。
 医療スタッフの氷室耕作が薄汚れた――それでいて清潔な白衣を袖に通しながら走っていく。
 数十分後。
「あのナンパ男は意識不明だ。外傷はほとんどないが、その……吸収合体って言ったか? その状態で倒されたショックだと思うが……
 原因は正直よく分からん。だがしばらく目を覚ましそうにない。」
「そう……」
 氷室の言葉に艦長は考えこむ。
「一体誰が……」
 次の言葉を紡ぐ前に、緊急事態を知らせるアラームが艦内に鳴り響いた。
『ナイトライナーが帰還しました。
 クィーンライナーが攻撃を受けて大破の模様!』
「第一種警戒態勢! 通信の取れない勇者達に敵出現の信号弾を!
 整備班、医療班は待機。観測班周囲警戒レベルを上昇!」
 次々と律子の指示が飛ぶ。
 一気に艦内が騒然となった。
 こうなると事情があって別働隊を派遣していたのが痛い。ブリッジ要員も何人かが代行で行っている。
 その中の一人――ドリームナイツの田島謙治が立ち上がる。
「艦長、僕も出撃します。
 ……ちょっと嫌な予感がしまして。」
「嫌な予感?」
「ええ、」
 眼鏡をくいっ、と直すとキーを叩きながら言葉を続ける。
「西山君のソニックライナー、そしてクィーンライナー。両方とも整備や治療を得意としているはずです。
 この二人が行動不能にされたとすると……」
 謙治の指摘にハッと気付いた律子。
「これから、と言うこと?」
「予感が外れてくれればいいのですが……」
 呟いてから隣のメイアに後を頼み、謙治はブリッジを出ていった。

(え〜と、通信障害があっても、これだけ近ければリアライズはできるな……)
 ポケットから手のひらサイズの厚めの箱を取り出す。
 横のボタンを押すと、それがパカッと開く。
 開いた中には細々とボタンや液晶画面。そして一つの黄色のクリスタルがはめ込まれていた。
「さて、と……
 ブレイカーマシン、リアライズ!」
 その「開いた箱」を持った手を上に伸ばして叫ぶと、クリスタルが光を放ち彼のマシン、バスタータンクを召喚する。
 コクピットに入った謙治は箱――ロードコマンダーをコンソールの中央に据えると、表面にある1から6までのボタンを次々と押す。
「ロードチーム、エマージェンシー!」
 クリスタルがもう一度光を放った。

 その後、フェリアこと笹山椿が重傷を負って運ばれてきたことで、謙治の懸念が当たってることが証明された。彼女もまた数少ない治癒能力の持ち主であった。
 この時点でまだ三人とも意識を取り戻さないため「敵」の正体も分かっていない。
 正体も数も方法も不明。
 その特殊能力の為、若干戦闘能力の低い三人――いや、逆に防御能力に関しては高いくらいだ――だが、それでもほぼ一撃でロクに抵抗もしないでやられている姿には疑問符ばかりだ。
 超長距離からの攻撃? または強力なステルス(隠蔽)能力? はたまた反撃も出来ないほどの超高速移動?
 こんな時に限って副官の神楽も、オブザーバーの小鳥遊もいない。
 どちらかでもいてくれれば考えもまとまるのだが、ブリッジ内はただでさえ人員が不足しており、意見を求める余裕もない。
「みんなを信じるしかないの……」
 艦長という立場上、弱気な顔は見せられない。
 だからその呟きはどうにか口の中で潰すことができた。

 ――神楽崎さんを回収!
 ――大破したオフェトが謎のロボットにより運ばれて来ました!
 ――謎の飛行ロボットに乗せられた綾瀬さんが到着。原因不明の意識不明状態です!
 次々と嫌な報告が入ってくる。
「……謎のロボット?」
「はい。映像出します。」
 メインスクリーンの片隅にCGで合成された3D映像が六体分描かれる。
「ビークル形態を持つことも出来る可変ロボのようです。」
 メイアの声と共に想定データが重なる。
「形状や意匠から同一人物による設計と思われますが、艦のデータにない機体です。」
 救急車や消防車、パワーショベルなどどちらかというと「実用的」な六体。
「このロボ達が行動不能になった勇者や、意識を失った搭乗者達を救助している模様です。ただこちらの呼びかけにも応じないので、正体は一切不明ですが……」
「そう…… とりあえずこの六機を一時的に味方機として扱って。
 ただでさえ状況が掴めないから、少しでも味方が多い方がいいわ。」
「了解しました。」
 そうしている間にも次々に勇者達が犠牲になっていった。
 整備班も医療班もてんてこ舞い。それにも関わらず、事態はまるで把握できていなかった。

「このっ……!」
 クロノカイザーに時空合体した草薙咲也は「敵」と戦っていた。
「雪乃の声で嗤うなぁ……っ!!」
 その「敵」は神崎雪乃とその妹達が乗っているはずのトライガーディオンであった。
 外観は全く一緒であるのだが、能力が違う(例えば目から光線を発する)のですぐに偽物と分かった。だがその偽物は正体がばれているのにも関わらず、雪乃の声で呼びかけてくるのだ。
 まるでからかうような散発的な攻撃に、そして何より最愛の少女を侮辱するかのような行動にすっかり咲也は頭に血が上っていた。
 未だに通信妨害が続いていることもあって「本物」のトライガーディオンに連絡が取れないことも焦りを加速させる。
 ビル街をあざ笑うような声をあげて飛ぶ「トライガーディオン」。それを追うクロノソードを構えたクロノカイザー。
「トライガーディオン」が通りを曲がって一瞬視界から見えなくなる。その後を追うと、曲がり角の先では「トライガーディオン」が待ちかまえていた。
「咲也君?」
 驚いたような「雪乃」の声。一瞬の違和感を感じたが、それを怒りが一気に押し流した。
ヴォルテェェェック…… スラッシュ!
 エンドフィールドを張らないものの、まるで油断していたような「トライガーディオン」は避ける素振りも余裕も見えない。
 光に包まれたクロノソードが「トライガーディオン」を捉えた。

 神崎三姉妹の悲鳴。
 ダメージが許容量を超え、ガードコマンダーの中に強制的に収容されたトライガーディオン。
 倒れた雪乃に、そのそばで姉の名を呼びかける月乃と花乃。

「バカな……」
 クロノカイザーの手からクロノソードが落ちる。
「そんな……」
 パイロットの精神状態の異常に合体を維持できなくなったクロノカイザーが分離する。
「俺が……」
 更にコアロボットのカイザスとのリンクも維持できなくなり、ブレイバーになった咲也が地面に降りる。しかしその両足は自分の体重すら維持できずにガックリ膝を折る。
「雪乃を……?」
 ブレイバーも除装されたが、咲也はそれに気付く様子もない。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 頭を抱えて絶叫する咲也。一台の救急車が音もなく四人の元に近づいてきた。

「メインパイロットの嬢ちゃんに一気に負担がかかったってトコか? まぁ、もしかしたら妹達を守るためなんかもしれないな。」
 いい加減患者も増えすぎて、余程の重態以外は氷室の手から放れている。
 そして「治癒の巫女」たるフェアリスは必死にロボや人の治療の為に走り回っていたが、すでに氷室に止められている。そうでなくても「力」を使いすぎて彼女の体力もすでに限界を超えていた。
 次々に増える破損機体の対応に整備班の中からも倒れる者が出てきた。
「事情を知ってそうな兄ちゃんがあの状態じゃなぁ……」
 咲也は完全に錯乱状態で、自虐的に暴れていたところを氷室の当て身を喰らって昏倒している。たとえ目が覚めたとしても、しばらくは話もできないだろう。
 こういう状況でカウンセリングが出来る小鳥遊がいないのが痛い。
 ここまで被害が広がっているのに、状況を把握できていないことに律子は苛立ちを感じていた。

「しーちゃん! しーちゃん! しっかりしてよぉっ!!」
「飛鳥さん! 飛鳥さん!」
 また二つの悲鳴がラストガーディアンの通路に響き渡る。
 二人の似た容貌の少年のそれぞれに少女が泣き出しそうな顔で付き添っている。そのまま二人の少年はICUへと運ばれていった。
「しーちゃん……」
「飛鳥さん……」
 レイバーチームの秋沢雫と飛鳥の兄弟と、その恋人である空山ほのかとリオーネの姉妹だ。秋沢兄弟も襲われて、倒れていたところをその恋人達が見つけたのは単なる偶然なのだろうか?
 破壊されたレイバーやサイザー、マスターが倒れたためにガードパラディン・ライトニング、そしてほのかとリオーネが人事不肖になったためにシャドウとアースパンツァーもほぼ行動不能になってしまった。

「なんてこと……」
 次々に入る報告に、律子も血の気が失せるのを隠せなかった。
「アースパンツァーも封じられるなんて……」
 数少ない修理を得意とする勇者。しかもラストガーディアン内でもトップクラスの巨躯と攻撃力を誇る彼だが、それもマスターであるリオーネを精神的に叩きのめすことによって刃も交えずに倒されてしまったことになる。
 ふと「全滅」という言葉が頭をよぎる。
 通信妨害もまだ解除できず、連絡のとれない勇者達のどれだけが無事なのか見当もつかない。
 その間にも「敵」の魔の手はまた伸び始めていた。

「隼人くん!」
 必死に防御するフラッシュブレイカー。
 橘美咲の戦っている相手は同じドリームナイツの大神隼人操るウルフブレイカーであった。
「どうしたの隼人くん! 目を覚まして!」
 ウェアビースト形態で何かに憑かれたかのように奇声をあげて爪を振るうウルフブレイカー。その爪がフラッシュブレイカーを少しずつ傷つけていく。
「隼人く……!」
 ウルフブレイカーの蹴りがフラッシュブレイカーを吹き飛ばす。
 立ち上がったフラッシュブレイカーはまさにボロボロだった。装甲のあちこちがひび割れ、右腕は力を失ったように垂れ下がっている。
 右肩を庇うように左手で押さえ半身になって構えるが、相手がウルフブレイカーである以上、美咲には戦うことが出来なかった。

「…………?」
 何か心がざわめく。
 通信が使えないので、一度ラストガーディアンに戻ろうと思った少年は不意に感じた奇妙な感覚に足を止めた。
「コイツか……?」
 腕にはめたブレスレットからだろうか?
 ズクン。
「くっ……」
 心臓を鷲掴みにされるような感覚。自分が呼ばれている……? いや、それだけじゃない!
「まさか……!」

「はやとくん……」
 ガックリと膝をついたフラッシュブレイカー。
 機体と同調しているため、美咲も外傷がないだけで全身打撲と同じくらいのダメージを受けていた。
 もう指一本動かす力も残っていない。それでもまだ倒れるわけに行かなかった。
「はやと、くん……」
 ウルフブレイカーが無造作で爪を突き出した。
「…………っ!!」
 腹部を貫かれたフラッシュブレイカー。痛みと衝撃に目を見開く美咲。
 ガクガクとその腕が動き、自らを貫く腕に優しく手を添える。
「だい、じょうぶ、だか、ら…… だから……」
 そんな自分の身を挺した美咲の行動にも、ウルフブレイカーは反対の手を振り上げただけだった。今度はその頭部に目がけて振り下ろ……
てめぇぇぇぇぇぇっ!!!
 咆吼と共に青い疾風が吹き抜ける。
 轟、と空気を斬り裂きながら爪が閃いた。ウルフブレイカーが吹き飛ばされる。
 青いオーラに包まれたウルフブレイカーの爪が、ウルフブレイカーの胸部に鋭い爪痕を残していた。
「え……」
 現れたもう一機のウルフブレイカーは目の前のウルフブレイカーを、そして背後のフラッシュブレイカーに一瞥を加えると、準備動作無しに再び「ウルフブレイカー」に襲いかかった。

「それ」は混乱していた。
 ウルフブレイカーに姿を変え、フラッシュブレイカーを襲ったときには「本物」に察知されないように場所をちゃんと選んだはずだ。
 通信もできない中、フラッシュブレイカーの状況を知るのは不可能なはずだ。それが何故……?
 胸部の傷は深い。構造上、それで動きが鈍ったりはしないが……
 フラッシュブレイカーはもう虫の息だ。このまま正面からウルフブレイカーと戦うか?
 ……いや、ここは退こう。正面から戦うのは自分の戦い方ではないし、更に今のウルフブレイカーの戦闘力は未知数である。
 そう「それ」は判断した。

 振るわれた爪の先で「ウルフブレイカー」がいきなり消滅した。
「何?!」
 ザッと辺りを見回しても姿が見えない。
 逃げられた、と判断したときにはすでに意識は美咲の方に移っていた。
「おい、しっかりしろ!」
「よか……った、はやとくんが…… ぶじで……」
 途切れ途切れの声が聞こえてくる。
「良かないぞ、この馬鹿!」
「…………」
 少女からの返事はなく、フラッシュブレイカーの姿が霞むように消え、美咲がウルフブレイカーの手の中に残された。
「……!」
 美咲の呼吸は安定せず、今にも止まりそうにも見えた。
 限界を超えた、なんて生やさしいレベルじゃないダメージが少女の身体を蝕んでいた。
「死ぬなよ…… 死ぬんじゃねぇぞ、美咲!!」
 隼人は少女を自分のコクピットに入れると、ウルフブレイカーを全速力で走らせた。

 ストレッチャーに乗せられて運ばれる美咲。
「てめぇ、美咲に何かあったら承知しないからな。」
 噛み付かんばかりの形相と殺気に、さすがの氷室もたじろいでいた。
「いいから少し落ち着け大神。」
 後ろから掴まれた手の強さと、その鋭いまでの冷たさに隼人も思わず動きが止まる。
「あんたは……」
 隼人を止めた慎之介は目に見えそうなくらいの怒りのオーラをたたえていた。しかしそれは隼人に向けられた物ではない。
「雪乃が草薙に斬られて重態だ。」
「……!」
「だが私は分かっている。草薙はどう間違ってもそんなことをする男ではない。」
 精神安定剤のようにいつも持っている木刀を血管が浮き出るほど強く握りしめる。
「だからなおさら許せないのだ。そんな草薙に雪乃を斬らせるような真似をした『敵』が!」
 そこで顔を上げて隼人に視線を向ける。
「お前くらいだ。今まで敵と対峙して話せる状況にあるのは。
 敵の正体は一体何なんだ?」
 妹を傷つけた敵に対する怒りを抑え、事態を収拾させるべく少しでも情報を集めようとしている姿に、隼人は何となく恥ずかしくなった。
(さすがだな、この人は……)
「ああ、俺が見たのは『俺』だった……」
「つまりは姿を自在に変える敵だと思われます。」
 不意にそんな声が割り込んできた。

「データが完全じゃないので推測の域を出ないのですが……」
 ブリッジに集まった面々を前に、謙治はそう切り出した。
「結論を先に言いますと、相手は姿を自在に変える敵だと思われます。
 仲間やパートナーに化け、この通信障害の中接近し、不意をついて各個撃破したものと思われます。」
『…………』
 そう言われれば思い当たる節もある。不意をつかれたにしても鮮やか過ぎた。なるほど、もしそれが「味方」ならば……
「そしてこの敵の恐ろしい所は、巧みに人間関係を突いて同士討ちを狙ったり、倒さずとも戦闘不能にさせた点です。」
「あ〜 それと一つ分かったことがある。」
 挙手をしながら氷室が立ち上がった。
「パイロット連中を調べたらな、薬物のようなものが検出された。どうやらなかなか目を覚まさないのはこれが原因らしい。
 ……まぁ、中にはそれでなくても目を覚ませない連中もいるがな。」
 悔しそうに吐き捨てながら氷室が拳を握りしめる。
「……ところで、あのロボット達は一体?」
 元々ブリッジ要員で出撃を控えていたロードがふと疑問を述べた。この鋼鉄の騎士も出撃をしようと思ったのだが、治療に走り回っているフェアリスの身を案じて残っていたことが幸いし難を逃れていた。
「ああ、あれなら僕です。」
『…………』
 あっさりと謙治が言ったので、色んな感情が混じり合った沈黙がブリッジを満たす。
「こういう事態を想定して、新たに開発していたロードチームを自律行動させておきました。
 指示は二つ。勇者ロボや搭乗者の救助。そして、稼働している勇者ロボを見かけたら接触を避けること。
 その為味方にも見つかりませんでしたが、敵にも見つからずにすみました。内緒にしていたのは謝りますが、さすがに根拠が希薄だったので……」
「そう。それならいいわ。
 それで、他に分かっていることは?」
「はい。ウルフブレイカーの爪に敵の物と思われる組織が付着していました。
 詳しくは研究班の結果待ちですが、水晶質の結晶体でした。
 推測ですが、これで外観を変化させられるのなら、透明になることも可能かも知れません。」
「更に、相手の行動を見る限りは知性もあり、陰湿な相手のようね……」
 咲也の様子を聞いていた律子は疲れたように溜息をついた。目まぐるしい勢いで指揮官としての頭脳を回転させる。
「現時点よりこの敵を水晶体生物と呼称します。
 これ以上の被害拡大を防ぐために、別働隊の帰還前に決着をつけます。
 メイア、現時点でのラストガーディアンの戦力は?」
「はい。現時点で直接戦闘可能な戦力はサンダーブレイカー・ウルフブレイカー・ロードの三機です。」
「なんてことなの……
 それでこれまでの情報から総合し、考えられる作戦は?」
「はい……」

「それでおびき寄せて正面撃破、というのは作戦か?」
「しかたがありません。何せ僕たち三人しか戦えないわけですから。」
「ああ。だがそれでも我々は勝たねばならない。そうだろう?」
 ロードの呼びかけに頷く二人。
「おそらく相手の行動パターンを考えると、単独で行動しないと現れないかと思います。ですから……」

 住人が避難して静まり返った街を走るバスタータンク。
 レーダーが不意に飛行物体を発見した。
「謙治! 無事なの!」
 Gフレイムカイザーが謙治に追いつくように飛行してきた。
「神楽崎さん! 目が覚めたのですか!」
「ええ、フェアリスのおかげよ。」
「それは良かった。」
 ええ、とても。と謙治は口の中だけで呟く。
「もう、まだ通信妨害がおさまらないから探すのに苦労したわ。」
「そうですね。とりあえず二人と合流するまで一緒に行動しましょう。」
「隼人とロードさんは何処?」
「連絡が取れないので分かりませんが、指定時間までは別の地域を警戒してもらっています。」
「分かったわ。」
 そう返したGフレイムカイザーが何かしようとして構えたとき、いきなりバスタータンクがサンダーブレイカーに変形した。
「すみません、ちょっと先行してもらえますか?
 空から偵察した方が効率がいいので。」
「そ、そうね。」
「すみません、サンダーブレイカーは足が遅くて……」
 しばらくドシドシとしたサンダーブレイカーの足音と、Gフレイムカイザーの飛行音だけで会話がない。
 特に方向の指示もなく、サンダーブレイカーが歩いていた方――港湾部へ向かうGフレイムカイザー。
 海の青が見えてきたところで、不意に謙治が口を開いた。
「そういえば神楽崎さん。」
「何?」
「ここだけの話ですがね……」
 声を潜める謙治。サンダーブレイカーが腕をブンと上に振り上げた。
「ブースタータンク、ロックしてあるんですよ。」
「……?」
「つまりはですね……」
ローディアンソード!
 Gフレイムカイザーの背後で高らかにロードの声が響いた。
 サンダーブレイカーに投げられたロードがローディアンソードの力で巨大化したのだ。
「はっ!」
 空中で回し蹴り。背中を蹴られたGフレイムカイザーが斜めに落下する。
「だから、グレイトフレイムカイザーは存在できないんですよ……! 大神君!」
「おおっ!
 ブレイカーマシン、リアライズッ!
 シェイプシフトッ! チェンジ、ウェアビーストッ!!
 サンダーブレイカーの側に突如現れたウルフブレイカーが地面に激突寸前のGフレイムカイザーを体当たりで大きくはじき飛ばした。
 大きな水柱をあげてGフレイムカイザーが海に落ちる。
 水から体を起こしたときにはその本来の姿に戻っていた。
 赤紫の水晶で出来た巨大な人型。顔に当たる部分には口しかなく、その中に鋭い牙、そして手に細く長く伸びた爪。
 その姿が確認できる頃には水晶体生物を三機で取り囲んでいた。
「もう逃げられないぞ。」
「これで終わりにしましょう。」
「ああ、ぶっ潰してやる。」
 追いつめられた水晶体生物は逃げ場を探そうと周りを見回すが、この三機の囲みを突破するのは容易ではない。
 と、その姿が透き通ったかと思うと、いきなりその姿が消えた。
「やはりそう来ましたか。サンダードーム!」
 サンダーブレイカーのあげた手の先から目が眩むほどの稲妻が広がると、それは周囲数百m程の電撃のドームを形成した。その一角でバチッとスパークが広がる。
 すぐにスパークが消えたところを見ると、突破は諦めたらしい。突破は可能だとしても、一瞬で突破できなければ場所を察知されると判断したのだろう。
 そして水晶体生物はこの三人の勇者を正面から倒す方法を選んできた。
 姿を消したまま、手の爪で次々に襲いかかる。
 どうにか寸前で致命傷だけは避けるものの、姿が見えなく動きの速い相手に防戦一方だった。特に格闘戦に弱いサンダーブレイカーの傷が徐々に増えていく。
「くっ…… なら!」
 両肩のサンダーキャノンが吼えた。しかしその砲弾は水晶体生物に掠りもせず、海に着弾し派手に水柱が立つ。
「何を……」
 している、と言いかけた隼人があることに気付いた。
「そこだぁぁっ!!」
 ウルフブレイカーの蹴りが見えないはずの水晶体生物を捉えた。
 サンダーブレイカーが跳ね上げた水しぶきが、その動いた軌道を示したのだ。
 蹴り飛ばされた水晶体生物が再び海に落ちる。透明とはいえ海水を押しのけたため、その場所が分かる。
「ならばその隠蔽の衣を剥ぎ取ってやる。
 ……クリスタルフラッシュスペシャル!」
 両手を広げ十字になったロードの全身から眩しい光が放たれる。
 光は見えない水晶体生物の内部に満ち、その姿を白日の下に晒した。
「オマケだ、受け取れ! ブリザード・ストームッ!」
 ウルフブレイカーの両腕から極低温の猛吹雪が吹いた。
 吹雪は立ち上がった水晶体生物の足下を周囲の海水ごと凍り付かせる。
 隠蔽を解かれ、動きを封じられた水晶体生物にサンダーブレイカーとロードが構えた。
バスター・ライトニング・ブレイクッ!
クレセントスラッシャーッ!
 両手に間に作られた雷球と、ローディアンソードを振り下ろすことによって生まれた三日月型の光の刃が同時に炸裂した。
 爆発の煙が視界を覆う。
「やったか……」
 誰が呟いた言葉か分からないが、その煙が晴れるとそこには傷一つない水晶体生物の姿があった。
『……!』
 あの水晶質の体は二人の必殺技に耐えきったどころか、ダメージすら受けていないようだ。
 しかも今の衝撃で足下の氷塊も脆くなってきて、脱出するのも時間の問題だ。必殺技を放つためにサンダードームも消しており、今ここで逃げられたら……
「待て。あの胸の傷は……?」
 ロードが水晶体生物の胸に刻まれた数条の傷に気付いた。
 治癒なのか修復なのは不明だが、よほど深い傷だったのか、まだ外からでもその痕跡が見て取れる。
 それは傷つけられた美咲を見つけたときに、隼人が振るった爪でできた物だった。怒りを感じるよりも速い一撃。それが唯一水晶体生物につけた傷であった。
「……謙治。私を撃ち出せるか?」
「ロード、それは……」
「出来るかどうかだけでいい。等身大になった私を高速度であいつに向かって撃ち出せるか?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「時間はない。私があの傷口から入って、巨大化し内部から破壊する。それしかないだろう。」
 その躊躇いの欠片もない口調に謙治も必死に考える。
(サンダーキャノンではロードにも衝撃がかかってしまう。更にいえば等身大とはいえ、口径が小さい。
 衝撃がかからずに、口径の大きい……)
「大神君、僕の前に立って下さい。」
「何?」
「説明は後で。それよりも…… 失敗しても恨まないで下さいね。」
「いや、しっかり恨ませてもらおう。」
「そうだな。そのかわり、上手く行ったらジュースの一本でも奢ってやる。」
「意外と安いですね……」
 苦笑しながらも、等身大になったロードを手に乗せ、反対の手を上げた。
「重いのでしっかり支えて下さいね。
 G−プレッシャーキャノン、リアライズッ!
 二機の上空にCGによるワイヤーフレームが描かれた。描かれた砲はブレイカーマシンよりも遙かに大きく、仮にブレイカーマシン四機が合体したナイトブレイカーでも支えるのがやっとな程の巨大さだった。
 ワイヤーの内部に色が描かれ、一気に現実の物となる。
 重さを得たGープレッシャーキャノンが落下する。それを二機がかりで支えるが、ホントに支えるのがやっとであった。
「し、試作品の重力砲です。
 これを重力カタパルト代わりに使います……」
「ゴタクはいい、早くしろ!」
 さすがの隼人も砲の重さに耐えるのがやっとのようだ。
 ロードが砲の内部に入り、ローディアンソードを構えて剣の先端にレイウォールを展開させる。
「よし、撃て!」
 しかし重さが手元をぶれさせ、さらにもがく水晶体生物のせいで照準が定まらない。
(神楽崎さん、僕に力を……!)
 脳裏にベッドで寝かされた麗華の姿が蘇る。データをチェックしたらフェニックスブレイカーを撃墜したのは「自分」であったことを知って謙治は怒りをおぼえていた。
 その熱い怒りを思いだして、逆に冷たいほどの冷静さが沸き上がってくる。
 ぶれのタイミング、もがく「敵」の動き。それらの軌跡の線が見て、一つにまとまった。
いっけぇぇぇぇっ!!
 トリガーが引かれ、人工的に作られた重力によってロードが「落下」させられる。放たれた「砲弾」は狙い違わず水晶体生物の傷の一つに突き刺さった。
 動きが止まる水晶体生物。
 その胸から光が溢れた。突如苦しみ出す水晶体生物。光は徐々に強くなり、ある時点を境に、いきなり爆発した。
 光の爆発の中、胸元からひびが走る。そのひびは瞬時に広がり、次の瞬間には木っ端微塵に砕け四散した。
 光がおさまると、光を纏った鋼鉄の騎士が雄々しく立っていた。
「……謙治、手を上げてくれないか?」
「いっそのこと両手を上げろ。」
 ロードと隼人に言われて訳も分からず万歳のような格好をするサンダーブレイカー。
 パン、と二つのハイタッチが静けさを取り戻したアクアワードに鳴り響いた。

 

『Brave Academy Network業務日誌 11月22日 チーフディレクター記載』

 こうして、たった一体で勇者達に壊滅的被害を与えた水晶体生物の撃破に成功した。
 派遣していた別働隊も帰還し、勇者達や搭乗者の治療も順調に進んでいる。
 ある意味「絆」を狙われたような形になったが、この事件を期に更に強く結びついたような気がする。
 例えその身を砕かれたとしても、絆だけは砕けないというところだろうか?
 それこそが「勇者」の強さの秘密なのかも知れない。

 

「破片の重量が少ない?」
「ええ、研究班からそう報告が来ています。まぁ、0.1%ほどなんで誤差の範囲というか回収漏れなのでしょうけど……」
「0.1%…… 数字としては微妙なところね。」
 久しぶりに帰ってきた小鳥遊から報告を聞いて、難しい表情の律子。
「あ、申し訳ありません。ちょっと仕事が立て込んでまして……」
 言葉通りに申し訳ない顔の小鳥遊。心理学者としてのカウンセリングと、医者としての治療にまだ忙しいのを知っているので、報告書を受け取って行くように指示する。
 白衣の背中を見送ってから、律子はもう一度報告書に目を落とした。
「0.1%、か……」

 

next episode“Until death divides Lovers...