オリジナルブレイブサーガSS
「理由と改善と結果」

 

「相変わらず艦内部の修繕費が減らないわね……」
「そうですね。」
 艦長室で経費の一覧を見ている律子。戦艦であるし、人が多いし、物はいずれ壊れる運命にあるのは自明の理なのだが、その「理」を超えて物が壊れる。
 理由はある意味とてもシンプルだ。
 艦内通路を大型バイクで爆走する。パワードスーツと日本刀で派手に「戦闘」を行う。弟を溺愛する姉の暴走。エトセトラエトセトラ……
「それにしても最近は通路の補修費が減ったわね。」
「そうですね。」
 副官ある神楽が同じテンポで返事をする。
「通路破損――つまりは廊下の傷ですが、あれもカイザードラゴンに言って改善してもらったので……」
 神楽の言葉に律子もふと思い出す。鋼の体を持つカイザードラゴン。無論足も強靱な金属で、更に爪も生えているので、本人(本竜?)は気をつけているつもりだが、どうしても通路に傷が付いてしまう。さらに同じく金属製の尻尾を引きずって歩いているので、やはり注意していても傷が付いてしまうのは免れない。そこでとった「対策」というのが……
〈失礼いたします。〉
 礼儀正しい口調で、話題にのぼったカイザードラゴンが入ってくる。乞われたわけでも無いのだが、艦内の細々とした雑用をやっている。特に変形すると空を飛べる、というのが空中で待機している万能戦艦「ラストガーディアン」において、便利なお使い役となっている。
 今回は整備班から書類を持ってきたようだ。
 ……と、律子は気になって机から少し身を乗り出すようにしてカイザードラゴンの足下を見る。
「!」
 自分が驚いてるのか、噴き出しそうになったのを堪えているのかよく分からない。
「……神楽君。それが『改善』ってこと?」
「え、ええ。まぁ……」
 ゴニョゴニョと言葉を濁す神楽。おそらくは「改善」の内容は知っていたけど、こういう風になると思わなかったのだろう、と律子は推測した。
〈おや、律子様。何か不可解な点でも?〉
 変わらぬ口調――「飄々とした」とか「空惚けた」などと言われる事が多いのだが――で尋ねるカイザードラゴン。律子や神楽の視線や態度を知ってか知らずかはその金属製の異形の顔からは読みとれない。
 ――いや、分かって言ってる。
 きっと内心面白がっているのかもしれない、と、この物理的にも喰えない竜の足下から視線を外す。
 金属製の足だから傷が付く。ということはそれを柔らかい素材で覆えばいいわけだ。家具なので床を痛めない為に接地面にゴムやフェルトをあてる、というのにも似ているだろう。
〈私め、何か「足下」を見られるような事を致しましたかな?〉
 人によっては殺意を覚えそうな程の空惚けた口調のカイザードラゴン。
 その足下は恐竜の足を模したフカフカのスリッパに覆われていた。
 無論の事、その体躯もありトンを超えるであろう重量を支える足は人間の物と比べてサイズも形状も全く違う。
 何を言いたいのかといえば…… つまるところ、カイザードラゴンが履いているスリッパはどう間違えても市販されている物ではない、ということ。
「一つ好奇心を満足させたいけどいいかしら?」
 皮肉と、誰がこんな馬鹿げた物を、という言葉を刺にして交え、普段から頭が痛くなることが多い美貌の艦長は精神的な頭痛に顔を僅かにしかめ口を開く。
〈ええ、何なりと。〉
 分かっていて、それでも口調を変えずに返すカイザードラゴンに何となく頭痛が増したような気がする。
「誰が作ったのかしら、それは。」
 一瞬迷って――おそらく「何を?」と聞くか聞くまいか迷ったのだろう。さすがにこれ以上引っ張るのは色々マズいと判断したらしい――鋼のドラゴンが答える。
〈美咲様に作っていただきました。〉
 相変わらず器用でございます、とカイザードラゴン。
 あんまり聞く意味もなかったな、と退室を促す。
 ……と、何か忘れているような気がした。
〈それでは失礼いたします。〉
 ペコリと頭を下げ、カイザードラゴンが後ろを向いた。
「!!!」×2
 声を失う律子と神楽。
 持っていた書類をバサバサと落としポカンと口を開く神楽に、思わず机をバシンと叩き立ち上がる律子。
〈おや、如何なされましたか?〉
 そう問うカイザードラゴンには「狸の尻尾」が生えていた。