オリジナルブレイブサーガSS
「ドアを破壊せしめし者」
(イラスト:阿波田閣下氏)

 

 

 ピロピロピロ……
 就寝には少々早い時間。神楽悠馬(かぐら ゆうま)副長の部屋のインターコム(艦内電話)が鳴った。
 警視庁から出向し、この万能戦艦「ラストガーディアン」の副長として就任してだいぶ経つ。それでも時折上司の神代詩織(かみしろ しおり)の手伝いもしたりと忙しいながらも充実した日々を送っている。ま、今回の話には全く関係ないのですが。
「あれ……?」
 IDカードを作ったときの写真をそのまま着信画面に使われていて、緊張した面もちの少女が映し出される。
「美咲(みさき)ちゃん? まさか……」
 嫌な予感がしながらもインターコムに出る。
『えっと、そのぉ……』
 嘘がつけない性格なのか、困っているのがそのまま顔に出ている。
『あの、ですね……』
 橘(たちばな)美咲は半ば上目遣いで神楽を窺うように言葉を探しては詰まっていた。
「またドアが壊れたのかな?」
 子供に語りかけるような優しい口調で尋ねる神楽。そう言われて、あははははと乾いた笑いを浮かべると、シュンとうなだれる、
『はい…… ごめんなさい。』
「まぁ、前に艦の1ブロック丸ごと壊した人もいるから、それほどじゃないんだけど。」
 あの時は大変だったな、と回想しつつ、前々から気になっていたことを聞いてみる。
「でも…… 何で美咲ちゃんの部屋だけ、そんなにドアが壊れるんだい?」
『う……』
 あからさまに顔色が変わる。そのあまりにもの表情に、心優しい(というか押しが弱い)神楽はそれ以上の追求ができない。
「分かったよ。修理依頼しておくから。」
『ありがとうございます……』
 心底済まなそうな顔にまぁまぁ、と声をかけるとインターコムのスイッチを切った。
(……まぁ、修理は朝一番に終わっているんだろうな。)
 ラストガーディアンの整備班は優秀で、材料さえあれば何でもすぐに直してしまう。そして材料も無限の貯蔵庫があると言われる艦内購買に頼めば、不気味なくらいの早さで調達してくれる。
 その旨を整備班と購買に連絡すると、様子を見るために脱いだ制服を着直して通路に出た。

〈おや、これは副長。見回りご苦労様でございます。〉
 美咲の部屋の前に赤い鋼のドラゴンが歩哨よろしく立っていた。
「カイザードラゴンか……」
 1/10サイズで2m程のドラゴン型ロボがいつもの慇懃な口調で神楽に頭を下げる。おそらくは壊れてロックが効かなくなったので、防犯の為に立っているのだろう。
 ……まぁ、本人自体も格闘技が得意で、怖〜い風紀委員もいて、もし彼女に何かあったら殺戮も厭わないというようなのがいるような所に忍び込もうなんて思うようなチャレンジャーもいないのだろうけど。
〈美咲様に何か御用でも? すでに就寝されたようでございますが……〉
「あ、いや…… ちょっとドアの様子を確認しようかと、ね。」
〈左様でございましたか……〉
 と、ドアの前からどける。
「…………」
 機構的な事は専門外でよく分からないが、どうやら強い力で無理矢理閉められたようだ。自動ドアなので、内部からまたは登録された人間のIDで開くことができる。閉めるときは安全装置が働くが、開くときは基本的にはそういうセーフティは無い。
 おそらくは開きかけたドアを力任せに閉じたのだろう。
 誰が壊したのだろう。性格的に美咲とは考えづらいのだが……
「何か知ってるかい?」
 彫像のように立っているカイザードラゴンに聞いてみる。
〈何を…… とは?〉
 視線を逸らして答える鋼の竜。
「何か…… 知っているんだね?」
〈いえいえ、滅相もございません。見たことがないので確実なことが言えないだけでございます。
 ……おっと、余計なことまで言ってしまいました。〉
「…………」
 わざとだな。
 今の言葉を、言葉通りに解釈するようなお人好しや素直な人間は……
(……艦内には結構いるな。)
 笑えないセルフツッコミに苦笑しながら、カイザードラゴンに向き直る。
「じゃあ君は誰が知ってると思うのかな?」
 ここは相手のペースに合わせるべきだろう。きっとすんなり教える気が無いだけだろうし。
〈そうでございますなぁ…… やはりここは美咲様に近い人物に聞くのがよろしいかと。〉
「となると…… やっぱり彼か。
 ん、ありがとう。きっと朝一番で修理が入るから、それまでよろしく頼むよ。」
 畏まりました、と頭を下げるカイザードラゴンを背に、神楽は携帯端末でインターコムを呼んだ。

「……何だ。」
 いきなり会議室の一つに呼ばれた大神隼人(おおがみ はやと)
 彼は美咲と同じ勇者チームのドリームナイツの一員。自他の内、他だけが美咲との仲を「友達以上恋人未満」と認めている。
「ちょっと、話が聞きたくてね。」
 神楽は質素な机の向かいに座り、着席を促す。
(なんか…… あれみたいだな。)
 無機質な室内。一つだけ置かれた机。そして机の上のライト。
「…………」
「ま、まぁ、気楽にして。」
 そういう神楽の方がそう見えないのだが。色々腑に落ちないところはあるが、年上だし、この艦の副官ということでおとなしく座る。
 席に着いたのを確認すると、コホンと咳払いして緊張した面もちでアーアーと発声練習みたいなことをする。
 バンッ! と机を叩いて立ち上がる神楽。
いい加減ネタは上がってるんだぞ!
「……は?」
 隼人にとってはいきなり声を荒げたところで、脅威も何も感じない。反射的に体が動くようなこともない。対する神楽はアテが外れたような顔で、とほほと座り直す。
先輩ならこれだけで大抵の奴は落ちるんだけどなぁ……
「なんだ一体……」
やっぱり先輩の真似は無理かぁ……
「おいこら!」
 バン、と逆に隼人が机を叩いて立ち上がる。これまた逆に腰が引ける神楽。
「なんか俺が悪いことしたのか!」
「……美咲ちゃんの部屋のドアの破壊。」
「う……」
 明らかに顔色が変わる隼人。そのまま力を失ってペタンと腰をおろす。
(そういやぁ、隼人君は美咲ちゃんが絡むと分かりやすいんだよね。)
「壊したのは隼人君で間違いないようだけど……」
 その言葉にカマをかけられたのに気付いて、思わず掴みかかりそうになるが、どうも旗色が悪いのでグッと堪える。
「なんでまた何度も何度も?」
「…………」
 ふと神楽の脳裏に恐ろしい想像がよぎる。
「まさかっ!
 フレンドリーに美咲ちゃんにドアを開けさせて、中に入った後に無理矢理ドアを壊して閉めて開けられないようにしてから襲いかk
んなわけあるかぁ!
 艦内でもトップ10に入るほどの速度の蹴りが神楽の首を襲う。避けられる術もなく吹っ飛ばされて壁に激突。
「あいたたたたた……」
「…………」
 それでも鍛えられているのか、むっくりと体を起こして頭を振る。手加減をしたつもりはないのだが…… 手応え(足応え?)もしっかりあったのだが。
「酷いなぁ。なにするんだ、いきなり。」
「俺が橘を襲うわけないだろ!」
「……そういえばそうか。」
「いや、納得されてもな……」
 改めて座り直す二人。
「で、本当は?」
「……言わなきゃ、ダメなんだろうな。」
「まぁね。これでも立場上、艦の管理をしなきゃならないからね。」
「…………」
「…………」
 しばしの睨み合いの後、観念したように隼人が口を開いた。
「実は……」

勘弁してくれ……

「…………」
「…………」
「それは…… 困ったね。」
「ああ。俺もドアを壊した回数だけ言ったさ! でもあいつはいつもいつも訳が分からない、って顔で首を傾げるんだ。
 俺だって健全な男なんだぞ! あんな無防備な姿を見せられて、俺に何をしろっていうんだ!!」
 激昂してひとしきり叫んでから、肩で息をしつつ座る。
「しかも、誰か通りそうなときは絶対しないんだ。俺だけがいるときだけ…… 何考えているんだ橘は!!」
 涙を流しそうなくらいの慟哭にかける言葉もない。
「事情はよく分かった。
 その…… ドアを壊したときは僕に言ってくれ。艦長にはうまく言っておくから。」
「……ありがとうございます。」

 ピロピロピロ……
 就寝には少々早い時間。神楽副長の部屋のインターコムが今宵も鳴る……