オリジナルブレイブサーガSS
「プールにおけるエトセトラEX」
〜プール×ハプニング=?〜
(イラスト:阿波田閣下氏)

 

 

 ――PM2:00

 すいー、すいー
 一部を除いてスポーツ万能、と自他共に認める御剣志狼(みつるぎ しろう)。地元ではそれで女の子にキャーキャー言われているのだが、各地各世界から「勇者」が集まるこの万能戦艦「ラストガーディアン」内ではそう珍しくもない。

 すいー、すいー
 まぁ、別段女の子にキャーキャー言わたいと思っているわけでも無く、気になっている異性は一人くらいしかいないので、それでどうこう思ってる事もない。

 すいー、すいー
 今いるのは、艦のジェネレーターの余剰熱を利用した温水プールである。元々戦艦である「ラストガーディアン」は戦闘時と非戦闘時のエネルギー消費率は桁違いであり、逆に非戦闘時はエネルギーが余りすぎて色々な事に無駄に消費されているという一面もある。

 すいー、すいー
 100mクラスのただのんびり泳げるプールを、そのままのんびり泳いでいる志狼。
 普段鍛錬によって痛めつけられている(でもすぐ回復する)身体には休息にも等しいくらいの運動だ。

 すいー、すいーばしゃばしゃ
「……?」
 不意に自分の泳ぐ音に水しぶきの音が混じる。
 まぁ、泳いでいるのは自分だけじゃないからそれくらい珍しくはない。

 すいー、すいーばしゃばしゃ
 気のせいかも知れないが、水音が近づいているような気がする。

 すいー、すいーばしゃばしゃ
 いや、間違いなく近づいている。
 嫌な予感が背中を走った。
 でもここで速度を上げて逃げるというのも……

 ばしゃっ!!
 いきなり水音が大きくなると、後頭部に圧力がかかっていきなり頭が水没する。不意をつかれて息を止めることもできず鼻や口から水が入り、呼吸が止まりそうになる。頭を押さえつける手は一瞬で離れたので、酸素を欲する呼吸器をすかさず水面に出す。気管に入った水を咳き込んで排出した。
「おいっ!」
 たった今殺人未遂を犯した犯人に視線を向けるが、その重要容疑者は明るい太陽のような笑みを浮かべていた。
「えっへへ〜ん、シローに勝っちゃった♪」
 泳ぐためか、普段の変形ツインテールを一本の長いポニーテールにまとめた金髪が太陽灯の下、ふわりと広がる。水しぶきが光を乱反射させ、少女を眩く見せた。いつもとは若干違う髪型がとても新鮮だ。
「…………」
 その顔に広がる笑みと、B85・W58・H86(公式データ)のボディラインを包む緑色のビキニに一瞬魂を抜かれそうになる志狼だが、水中で見そうになった死神の鎌を思いだし激昂する。
「こら待てエリィ!!」
「きゃ〜☆」
 マジになった志狼に嬌声を上げながら逃げ出すエリス=ベル――通称エリィ。
「今のはマジでやばかったぞ!」
「ん〜 エリィちゃんのお・ちゃ・め♪」
「お茶目じゃねーっ!!」
 いつものおふざけがあって、きゃいきゃい水中で追いかけっこをする二人。
 後ろ向きで逃げるエリィに、追う志狼。事件はその直後に起きた。
 エリィを捕まえようと伸びる志狼の手。
「あ。」
「きゃっ。」
 二人同時に足を滑らす。踏みとどまろうと、どうにか足を止めるエリィ。そして上体が泳いで前につんのめってしまった志狼。
 神の悪戯か、悪魔の陰謀か。
 バランスを崩した志狼が何か支えを得ようと手を伸ばす。
「「あ。」」
 動きが止まる二人。
 志狼の手はなんと、エリィの豊満な胸の谷間に伸び、そこにある唯一の手掛かりというべきビキニのブラを掴んでいた。
 手の左右に触れる柔らかな感触。掴んでしまった小さな布地。
 その過ちに気付いて手を離そうとするが、それこそ魔王の力か、天使の導きか、それともただ単に勢いのついた身体を止めることができなかったのか、

「それ」を手に握りしめたまま、うつぶせに志狼は水没した。

「ぷはっ!!」
 鍛えた身体の賜物か、すかさず水上に顔を出して止めていた息を復活させる。
「…………!」
 回復した呼吸は再び止まった。
 元よりストラップレスだったからそんな危険性はあっただろう。しかし人為的な手段により、エリィの水着(上)は完全にその使命を放棄させられていた。まさに令呪を使われたかのごとく(謎)
 エリィは自分を襲った衝撃的な出来事に茫然自失としていた。
 志狼もまた自分の目の前に繰り広げられた光景に茫然自失としていた。
 ボッ、キュッ、バンというスタイル。その「ボッ」の部分が赤裸々に外気にさらされていた。曇り一つない真っ白な肌の蠱惑的な膨らみだけでなく、その全てが……
 志狼だって健全な男子である。そーゆー物は艦内裏ルートで回ってきた様々な「機密書類」で見たことはある。
 だからとはいえ、生で、しかも自分の身近な、そして自分の心の一部を占める少女の裸身。
 プチン、と志狼は自分の何処かが「切れ」た音が聞こえたような気がした。シャイニングボーイ(エリィ父談)の志狼としては目の前の光景は刺激的すぎる。それと同時に剣士として冷静さを司る部分がフル回転する。
 その冷静な部分が今の状況を素早く分析する。
 エリィは脱がされた&見られているショックで固まっている。家庭環境によりオープンな性格のエリィだが、決して羞恥心に欠けているということはない。逆にそういう方面には身持ちが堅いだろう。しかし今回は「志狼に見られた」ということが逆に恥ずかしさをフルドライブさせてフリーズしてしまった。これが他の人相手なら、素早く身を翻してお宝シーンも無かったことにできただろう。
 一方の志狼は自分の中のマイト(魔法的な力)が暴走しそうになっているのを感じていた。いつもは無意識に外部に放出しないよう抑えているのだが、そのセーフティが外れ、また全身をかけめぐる熱い血流がマイトを増幅させてしまう。
(やばい……)
 志狼のマイトは雷の属性、つまりは電気だ。
 自分の容量がどれだけかは分からないが、少なくとも水を通してエリィが雷撃にさらされるのは間違いない。
(どうする……?!)
 二人がいるのはプール中央なので、外に出すには遠すぎる。
(上なら……?)
 暴走するマイトの一部を腕に回して、放電する瞬間に上に放り投げるという手もある。
(それは駄目だ!)
 剣士としてではなく「男」としての判断がそれを拒む。
(今のエリィを他の奴には見せたくねぇ。)
 胸を隠すこともなく、顔どころか全身を真っ赤にして茫然自失と志狼を見つめるエリィ。
 それはいわゆる「独占欲」というべきものかも知れない。「エリィを守る」と心に刻んだ幼少の誓いかもしれない。
「エリィっ!!」
「ほえ?」
 事が起きてまだ一秒にも満たない時間。志狼の鋭い声にエリィの瞳に理性の光が戻る。
「悪ぃ!」
 両腕ごとエリィを抱きしめる。
「シロー?!」
 少女の身体に回した両腕を輪にして、その外側に雷のマイトを這わせ一種の結界とする。
(もう抑えきれない……)
 胸板に直に触れる柔らかな感触が体内のマイトの暴走を一気に加速させた。
「…………っ!!!」
 声にならない叫びを上げると、雷のマイトが志狼の身体から一気に放電された。
 艦内のカメラによると、プール全体が一瞬発光したかと思うと、カメラが焼き切れてしまったらしい。

 

「……ふぅ。」
 どうにかマイトの暴走が収まった志狼。マイトの大量放出による疲労感がズッシリとのしかかってくる。プールのあちこちに死屍累々が浮かんでいるのは見なかったことにしよう。ただ逆にあの大放電の中、いかなる手段を用いたのか平気で立っているのが何人か見えたりもする。
(どうやって耐えたんだ……?)
 考えないようにしよう。そう思った志狼、不意に五感の幾つかによって一人の少女の存在を思い出させる。彼が守りたいと心から願っていた物は守り切れたようだ。
「ねぇ、シロー……」
 囁くような声。恥ずかしさに熱っぽさが混じっている。
「うわっ、ご、ごめんエリィ!」
 マイトからエリィを守るためとはいえ、しっかり抱きしめているという状況を再確認して思わず離れようとする志狼だが、腰に回された細い腕にそれを止められる。
「もうちょっとこのままでいてね……」
 手を離しても志狼は動かない。それを確認するとエリィは目の前の引き締まった筋肉に自分の体重をわずかにあずける。
「……?!」
「あー 動かない動かない♪」
 志狼の身体から腕を解くと、引きずり下ろされた(笑)水着のブラを一度外して、もう一度胸元に持っていく。
「……!!!」
 エリィのやろうとしていることが分かって、視界に納めることもできず上を向いて必死に心の中で般若心境のような物を唱える。
 見えなくてもピッタリ触れ合ってゴソゴソ動く感触から否が応でも想像力を発揮してしまい、さっきの光景が脳裏にプレイバックした上に書込禁止属性までつけあちこちに保存される。
「シロー?」
 ちょっとうかがうような、からかうような口調。
「な、何だよ。」
 クスッと嬉しそうな笑い声。
「見たいんでしょ〜♪」
「な、な、なななななななな……っ!!」
 顔を真っ赤にしながら焦りながらも、エリィを支える腕はビクともしない。
「……シローだけなんだからね。」
「え?」
「シローだから、許してあげるんだからね。」
 うつむいてボソボソと呟く。
「…………」
「とぉっ!」
 狼狽している間に身支度を整えたエリィ。するりと志狼の腕の中から抜け出すと、拳を水面に叩きつけて派手な水しぶきを志狼の顔に直撃させる。
「……あ。
 このぉ、エリィ待ちやがれぇっ!!」
「うふふふふ〜♪ 私を捕まえてご覧なさ〜い☆」
 またきゃいきゃいと微笑ましい追いかけっこが始まった。
 今日もプールは平和だった。

 ……あちこちに浮かんでいる死屍累々にさえ目をつぶれば。

 

 オマケ

 ――マイト暴走数秒前
 不意に感じた異様な気配にプールサイドの神崎慎之介(かんざき しんのすけ)は気持ちを戦闘モードに切り替えた。気配の発信源を察知し、何が起きるかを未来予知にも近い直感で見極めた。
「!」
 ふとプールに目を向ける。
 愛しい妹の一人を奪っていった(という事になっている)草薙咲也(くさなぎ さくや)の周りで目で入れても痛くない雪乃(ゆきの)、月乃(つきの)、花乃(はなの)の3人の美人姉妹がはしゃいでいる。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
 時間がない。素早く自分のやるべき事を悟った慎之介は白フンをなびかせながら、水面を疾走する。常人にあるまじき速度で妹たち+悪の権化の元まで走り寄る。
「慎之介さん?!」
「兄さん?!」
 返事をする間も惜しんで、畑の大根を引っこ抜くよりも容易く月乃と花乃の二人の腕を引き上げる。小柄とはいえ、少女二人を軽々と小脇に抱えた。
「草薙! 雪乃は任せる!」
 その言葉だけを残し、そのままソニックブームの尾を引いて、慎之介はプールサイドまで水面を一気に駆け抜ける。悔しいことに武人としての慎之介は草薙を信用と信頼に足る男と認めていた。
「!」
 慎之介の語気に素早く思考を巡らす咲也。まだ状況を掴めずにキョトンとしている最愛の少女を見て考えを決めた。
ブレイブ・オンッ!!
 慎之介の感じた危険が水中にあると察した咲也はクロノテクターを装着してブレイバーに変身する。
「雪乃っ!!」
 すかさず少女の背と腰に手を回すと、まさに阿吽の呼吸でブレイバーの首にしっかりしがみつく雪乃。
バーストモードッ!!
 そのまま高出力モードにチェンジすると、背中のバーニアを吹かし一気に水中から脱出。直後、水面が眩く輝いた。
「…………」
「…………」
 一瞬でも判断が遅れたら巻き込まれていただろう。
「…………」
「…………」
 それよりも……
「慎之介さんはどうやって水面を走ってきたんだ?」
 もっともな疑問に雪乃は曖昧に笑うしかできなかった。