オリジナルブレイブサーガSS
「糸を切れないマリオネット(嘘)
(イラスト:阿波田閣下氏)
(イラスト:サイレント・ストーム氏)

 

 

『お前は私の言うとおりにしていればいいのだよ。
 ……そう、いわば私の人形だな。』
『ロードっ! ロード助けてっ!!』
 治癒の力を求めて様々な人間が彼女――和菜(かずな)=フェアリス=ウィルボーンを我が物としようと欲望の手を伸ばす。彼女のナイトたる鋼の騎士ロード。彼がいるからこそ、どんな状況からでも救い出してもらえたのだ。
『ふっ、あのポンコツはもう来ることはない。何故なら……』
「ロードっ!!」
 ガバッと身を起こすフェアリス。
「……夢?」
「どうしたフェアリス!」
 部屋のドアが開いて件の鋼の騎士が飛び込んでくる。
「ロード……?」
 寝ぼけた頭がハッキリしてくる。
 ここは万能戦艦「ラストガーディアン」の艦内のフェアリスの私室。
 諸般の事情があり彼女たちのいたところとは時空を越えてこのラストガーディアンのいる世界にやってきたのだ。その事情はさておき、同じ戦乱の中とはいえ、今までとはまるで違う平和な世界。
 こんな夢なんて久しく見た。
「フェアリス?!」
 眠りを必要としないロードは今夜は艦内の見回りをしていた。ともすれば過保護なロードが彼女の部屋の前で長時間立ち止まっていたのも仕方がないかもしれない。
 そして聞こえた悲痛な声に思わず飛び込んだのは自明の理であろう。
「……大丈夫。ちょっと嫌な夢を見ただけ。」
「そうか……」
 目に見えて身にまとった緊張感を解くロード。そんなロードにフェアリスはクスッと笑みを浮かべる。
「本当に大丈夫よ。だからロードも休んで。」
「あ、いや、私はまだ見回りの最中だから。」
 フェアリスの「危機」に思わず飛び込んだ自分が何となく恥ずかしかったのか、誤魔化すように背筋を伸ばすとフェアリスの部屋を辞する。
「でも…… なんで今頃あんな夢を……」
 その力強い背中を見送りながらも、心中にわだかまった翳りはなかなか晴れそうにない。

『ふむ、成功だ。この個体は“人形”として立派に働いてくれるだろう。』
 ガラス越しに無遠慮に突き刺さる目。
 チガウ、ワタシハ“ニンギョウ”ナンカジャナイ。
『あとは我らに逆らうことないよう“処置”するだけだな。』
 人ではなく物を見る目。
 イヤダ。ワタシヲケサナイデ。
『何だその顔は。これは単なる部品でしかない。人ではないのだよ。』
 命を弄ぶことをまるで超越者の如くの高慢さで語る声。
 ワタシハワタシ。モノジャナイ。
『さぁ、始めるぞ。』
「いやっ!!」
 万能戦艦「ラストガーディアン」のナビゲータの一人、シャルロット=ダンドリオンがガバッと身を起こした。彼女は人の手によって生み出されて、おそらくは邪な目的に使われそうになったところをBAN(Brave Academy Network――ラストガーディアンの所属する地球防衛組織)の前身組織の手によって助けられたのだ。
 身よりもない彼女を保護するかたわら、その天才的な頭脳を科学の粋を集めた最新鋭艦のナビゲータとして役立てることとなったのだが、それは彼女自身の希望でもあった。見かけは15歳だが、実際は3歳のシャルロット。そんな彼女が1歳の時に初めて自分で決めたことであった。
「…………」
 呼吸を落ち着けて、頭をクールダウンさせる。
 今いる場所は「ラストガーディアン」の自室。決してカプセルなんかの中ではなく、フカフカのベッドだ。
 視線を横に向けると、部屋にいる間は常時点いているコンピュータのディスプレイ。コンピュータを扱う為に“調整”されたこの身体――いや精神はコンピュータから長時間離れると情緒不安定になってしまうのだ。
(……本当に人形なのかもしれない。)
 久しく見なかった夢にシャルロットの心のざわめきは収まらなかった。

 翌日はそんな少女たちの心中と正反対に見事に晴れ渡っていた。
 まさに初夏の陽気で、停泊中の「ラストガーディアン」の甲板では真っ白な洗濯物が風を受けていた。
「あら? シャルロットさん。本日はオフじゃありませんでした?」
 シャルロットが日課のように「ラストガーディアン」のブリッジに入ると、閑散としたブリッジの中で金髪金眼の少女が振り返った。
 サラサラと広がる金髪が光を放ったように見えた。優しく微笑んだ顔に思わず息が止まる。
 現在ラストガーディアンは修理と補給を兼ねてアクアワードに帰還するために航行中であった。アクアワードに到着すれば半舷休息になる予定なのだが、残念なことにナビゲーターのメイアやシャルロットは艦のチェックのためにそのとき休めないのだ。
 トリニティの影もなく、航行は順調であった。それで先に交代交代で休みが入ったのだ。
 ブリッジ要員は一通り出払っており、メイアを中心に人よりも小さいロボットがチマチマあちこちで働いている。どうやらそれだけで艦を維持しているようだ。
「こちらは大丈夫ですから、何処かお出かけでも…… と言うわけにはまいりませんが、のんびりなさって下さいな。」
 人を癒すような微笑み。
 しかし彼女は人ならざる機械――アンドロイドである。しかしその笑顔は人を暖かくする。そんな姿を見ていると、ホントは自分の方が機械なのかと思ってしまう。
「ダメですよ、女の子は笑顔でなくては。」
「はい……」
 おざなりに返事をすると、シャルロットは逃げ出すようにブリッジを飛び出した。
 がしっ。
 ブリッジを出た瞬間、誰かに腕を掴まれた。
「お人形さんゲット〜☆」
「……っ!!」
 いきなりのことと、その「人形」という単語にシャルロットは一瞬呼吸が止まった。

 カイザードラゴンはいつものように(涙)購買でこき使われていた。
「さ、カイザードラゴン君。これも頼むっすよ。」
〈畏まりました……〉
 言いたいことは沢山あるが、どうしても逆らえない。
(……どこかプログラムを書き換えられたのでしょうか?)
 悩んでも仕方がない、と荷物を運ぼうとしたときに遠くから土煙を上げながら(ちなみに艦内)何かが近づいてきた。「それ」は何か声を発していた。
「マッコイねぇさぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 叫んでいる。
「カイザードラゴン、借りまぁぁぁぁぁすっ!!!」
 通り過ぎ……
〈おおっ?!〉
 尻尾を引っ張られるような感触。
 否、「ような」ではない。
〈おおおおおおっ?!〉
 ちなみにカイザードラゴン。1/10サイズとはいえ、全高2m超。全身金属製の為、下手するとトン以上の重量はある。
〈尾尾尾尾尾尾尾尾尾尾尾尾尾っ?!〉
 尻尾を引っ張って、カイザードラゴンを引きずっていったのは綾瀬恵梨(あやせ えり)その人であった。……腕力とか脚力とかは考えてはいけない。
「あとは麗華(れいか)ちゃんなんだけど…… 知らない?」
〈いきなりそのように言われましても……〉
 しばらく引きずったところで止まった恵梨。カイザードラゴンは引っ張られた尻尾を子細にチェックしている。どうやら関節部に異常は無いようだ。
「ん〜 カイザードラゴンと麗華ちゃんって、なんか繋がってるとかそーゆーのないの?」
〈と、申されましても、恵梨様とファリアス殿のような心の絆までは持っておりませんで。〉
(いや、僕だって恵梨と繋がっているわけじゃないよ。)
 あっさり否定されてむ〜と不満げな恵梨。
 ……と、
「あら、綾瀬さん? それにカイザーもどうしたのよ。」
 噂をすれば何とやら。神楽崎(かぐらざき)麗華が通りかかる。
「おお、麗華ちゃん! グッドタイミング!!」
「……はい?」
 喜色満面で瞬間移動するかのように麗華の前に立つ恵梨。
「ね、カイザードラゴン借りていい?」
「…………」
〈…………〉
 急にそんなこと言われても、という麗華と、色々釈然としないカイザードラゴンの目が合う。
「本竜(にん)の許可は?」
「……あ。」
 その顔は「いやーすっかり忘れていたよ、あはは。」というのを如実に表していた。
「い、嫌だなー ちゃ、ちゃんと聞いたよね?」
〈…………〉
 答えづらいのか無言で視線を逸らす鋼の竜。
 思い切り引きずられたために、通路に残る二筋の跡を見てため息。
「まぁ、ともかく。カイザーが了承する分には問題ないけど…… 何かあったのかしら?」
「ん〜……」
 ちょっと値踏みするような視線で麗華を見た後、その耳元でごしょごしょ何かを囁く。
 最初は「?」という表情を浮かべていた麗華だが、徐々に理解の色が広がり、最後には知るものだけが知る満面の笑みを浮かべていた。
(ああ……)
 カイザードラゴンが内心涙を流していた。
(麗華様が闇に染まってしまった……)

 一人と一台と別れた麗華。
 カツカツと通路を歩く姿は凛々しくもあり、颯爽としていた。
 誰かを捜し求めていたようだが、程なく目的の人物とエンカウントする。
「フェアリスさん、ごきげんよう。」
「あ、麗華さん。こんにちは。」
 ぺこりと頭を下げるフェアリス。頭の後ろでポニーテールが揺れる。
「あら? 今日はロードさんは?」
 つかみという訳じゃないが、そばに控える鋼鉄の騎士がいないことを話題にする。
「ロードは今日はお仕事なんです。」
「そう。」
 フェアリスは緊張していた。同じ「紅茶同好会」とはいえ、年齢も上でずっと「大人」。そして一部の隙もない淑女。そんな彼女が楽しそうに……
(楽しそう?)
 こう、何か嫌な予感がよぎる。
 目の前にレディの顔に浮かぶにこやかな笑顔。
 何だろう? 何がおかしいんだろう?
「それなら本日はお暇かしら?」
(あ、)
 そうだ。その“満面の”笑顔という物がくせ者なのだ。
 どちらかというと、艦内のバカ騒ぎ(笑)を醒めた目で一歩引いたところで見ている麗華。ふと思い出せば笑顔よりもため息をついている姿の方が多いかもしれない。
 いや、あの笑い方をどこかで見たことがある。どこで……?
「フェアリスさん?」
「え、あ、はい。今日は暇、だと思います。」
 思い出せ思い出せ。何か良くない記憶が共にあったような気がする。
「そ、そういえば今日は美咲(みさき)さんたちは?」
 どうにか思考を巡らす時間を稼ぐために、彼女と同じチームの少女の名を挙げる。
「ああ、」
 すっ、とその笑みが強くなる。……思い出した。
「そうね。隼人(はやと)はプールに行ったかしら? そのことを美咲にも教えたからきっと二人で泳いでいるでしょうけど。」
 くすくす、と音が聞こえそうなほどの楽しそうな笑み。
 そう、この人は結構「いぢめっ子」だったりする。
「それはそうと、今日は空いているのね?」
 あのすみません。どうしてその笑みが消えないのですか?
「それじゃあ、ちょっとお買い物に付き合ってくれません?」
 あのすみません。そのYESと言わないと容赦しないわよ、って笑顔の下に見えるのは何故でしょう? というか、すでに決定済であるかのような振る舞いはなんですか?
「それじゃ行きましょ? ――お人形さん♪」

ろーど、たすけて。ここにあかいあくまがいます。

「…………?」
 ラストガーディアン甲板。
 シールドを展開しているため、航行中ながら風はさほど強くない。
 天気も良く、冒頭のように洗濯物を干すにはちょうどいい。乾燥機もあるが、やはり太陽の光に当てる方が気持ちいいのだろう。とはいえ、太陽灯のあるプールに干す人はいないが。
 パン、パン。
 神崎月乃(かんざき つきの)は甲板に設置された物干し台に真っ白なシーツを干していた。神崎家の家事を一気に引き受けている月乃は上下にいる姉妹と、兄と、そして姉の雪乃(ゆきの)の恋人である草薙咲也(くさなぎ さくや)の5人分のシーツを干していた。
 ちなみに、兄馬鹿の慎之介(しんのすけ)が咲也を斬り捨てなければならなくなるような痕跡はまだ見つかっていない。
 一通り干し終えて戻ろうとすると、ドヤドヤと数人が甲板に上がってくるのが見えた。
 先頭で意気揚々と歩いている恵梨とエリス=ベル――通称エリィ。その後ろにドナドナが似合いそうな雰囲気でフェアリスとシャルロットが続いていた。更に後ろに麗華。殿(しんがり)をカイザードラゴンがつとめていた。
 こう、なんとも興味ひかれる集団に、トコトコと月乃が近づく。
「あのぉ……」
「あ、月乃ちゃん。そうだ、月乃ちゃんも一緒に来る?」
「はい?」
「そーそー。これから可愛いお人形さんを弄(いじ)って弄って弄りまくるのだ!」
 エリィの誘いと、恵梨の物騒な宣言に小首を傾げる月乃だが、コクンと肯いてついていくことにした。
「カイザー。」
〈は。〉
 麗華の言葉に承諾の意を返すと、距離を取ったカイザードラゴンが元のサイズに再リアライズ。
〈チェンジ、カイザージェット!〉
 軽く跳んでから空中で重戦闘機に変形。ゆっくりと着陸する。
〈ささ、お早くお乗り下さいませ。〉
 カーゴルームの扉を開くと、6人の少女(内二人戦々恐々)がカイザージェットに乗り込む。
 洗濯物に噴射炎を浴びせないように注意しながら甲板を移動。そもそも1キロ以上ある「ラストガーディアン」、少し移動すれば飛び立つ場所には苦労しない。
〈参ります!〉
 適当な場所を見つけると、ジェットの炎を吹き出して一気に蒼穹に飛び出した。環境保護用のシールドを突破するときに多少の抵抗があったが、そのまま遥か遠くに見えるアクアワードに向かって飛行機雲の尾を引いていった。

「……通路の破損に、シールドシステムの負荷による損傷。更に勝手に艦を離れるとは、また始末書ものですね。」
 ブリッジでメイアがこっそり溜息をついていた。

 アクアワードの郊外に着陸したカイザージェット。
 さすがに目立つので、降りたらすぐに1/100の20センチサイズに再リアライズし、更にブースタータンクを喚んで、フヨフヨと浮いてついて行くことに。
 6人(+1台)はバスに乗ると、アクアワードの中心部へと移動する。
 超巨大学園、聖アスタル学院を中心とする学園都市アクアワード。
 研究者も多いが、やはり学生も多く、中心街は聖アスタル学院の制服があちらこちらに見えた。
 元々人ゴミが苦手なフェアリスとシャルロットなので、街に来るのは珍しく興味深そうにあちこちを眺めている。時折その視線が、友人同士でおしゃべりしている女子生徒の上で止まる。
〈…………〉
 その目が何となく羨ましそうに見えたカイザードラゴンであった。
 ……と、ふと自分たちに視線が集中するのを感じて、フェアリスとシャルロットはどこか居心地の悪さを覚える。
 無理もない。宙をフヨフヨ浮いているカイザードラゴンは別として、タイプの違う美少女揃い。しかも内二人は目も醒めるような金髪の持ち主だ。目立たないはずがない。
 人混みも、自分たちに向けられる視線も苦手だ。害意が無いとは分かっているが、元より人からあまり良い意味での視線を浴びた覚えが少なかったので、どうしても身構えてしまう。
〈ご安心を。たとえ何がありましても、ここにいる方々はお二方をお守りします。無論、私もでありますが。〉
「はい。」
「頼りにしてます。」
 老竜のそんな気遣いに、二人の少女は小さく笑みを浮かべた。

「は〜い、とーちゃーく!」
 ツアーの搭乗員よろしく、見えない旗を振り回すような仕草で全員を止める恵梨。ビシッ、と一軒のお店を指さす。
「ここがマッコイ姉さんに教えてもらったお店なのだ!!」
 ENを消費してそうな鋭いアピールに、お〜と無駄に感嘆の声があがる。
「とーつげきーっ!!」
 号令一発、つられて6人+1台はゾロゾロと店内に入っていった。
 店内は服を始め、インナーやナイティ、その他小物まで多数取りそろえてあった。
 ……気のせいか、店の外観と中の広さがおかしいような気がするが。
 女3人集まればかしましい、というが、更にその倍である。「ラストガーディアン」のクルーの制服を着たきりで、あんまり服に気を遣っていなかったシャルロットですら、目の前の光景に目を輝かせる。
 と、
〈誰か助けて下さいませ……〉
「はぁい、いらっしゃ〜い。」
 情けなさそうなカイザードラゴンの声と、女性の声が聞こえてきた。
 カイザードラゴンは尻尾を捕まれてブラブラ逆さまに揺れていた。
「ん〜 こんなのを連れている、ってことはマッコイ姉さんとこの子たちですか〜?」
 サラリと重大発言されて固まりながらもカイザードラゴンを放っておいたことをちょっと後悔。というか、一回戻しておけば良かったのでは無いだろうか。
 そんな少女達の様子をその女性――この店の店員はクププと口元に手をあてて笑ってみている。
「大丈夫よ〜 あたしにとってはお客様だから、余計なことは気にしないの〜」
 と、その視線が艦内から無理矢理拉致(笑)されて「ラストガーディアン」の制服のままのフェアリスとシャルロットの上に止まる。
「ふ〜ん。この子たちの服かな〜?」
 そんなことよりも女性店員の興味は二人の少女に移っていた。
 上から下までマジマジと見られて同性相手とはいえどうも居心地が悪い。
「よ〜し、それでは第一回着せ替え人形大会〜っ!!」
 そして、当事者を余所に、恵梨とエリィはどんどんどんぱふーぱふーぱふーと盛り上がっていた。

「よ〜し、こんなのはどうだ!
 さ、フェアリスちゃんもシャルロットちゃんも出てくるのだ!」
 カーテンで仕切られた更衣ボックスの前で腰に手をあててふんぞり返る恵梨。
(…………)
(…………)
 カーテンの向こうから躊躇われるような気配が感じられる。
「「きゃっ、」」
 業を煮やしてカーテンに手を突っ込んで二人を引きずり出す。
「「「「おぉ〜」」」」

 

恵梨の趣味という訳じゃないだろうが、出てきた二人はボーイッシュに決められていた。

 フェアリスはストライプのシャツにオーバーオール。ポニーテールを若干低めにして、それでも頭に載せたキャップのつばを下げ気味にしてみる。対する(?)シャルロットはTシャツにショートパンツ。そしてキャップを横にかぶせてみる。フェアリスはスタイルと服装のギャップが、細身のシャルロットはどこか中性的な雰囲気が醸し出されて良い感じである。
「恵梨ちゃん、やりますね〜 じゃあ、次は私の番ね♪」
 やる気満々のエリィが二人を引きずっていく。
 あぅあぅ、と手足をジタバタするが誰も助ける者はいない。
(はて、そういえばシャルロット様は……)
 上下逆さまになった視界の中、カイザードラゴンはちょっとしたことに気になっていた。

「こんなのはどうかな〜♪」
 2番手のエリィ。さっきよりも出てくるのを躊躇っている雰囲気にエリィも強引な手段に出る。
「「「「…………」」」」
 受け狙いなのだろうか。
 二人は実に定番中の定番。そして不思議の国のアリスを彷彿とさせる紺のエプロンドレス姿だった。頭の上にホワイトブリム(フリル付きのカチューシャ。いわゆる定番のアレ)まで乗っている。
「「…………」」
 フェアリスとシャルロットは恥ずかしいのか少しうつむき加減でモジモジしている。それがまた初々しい感じを……
「あの……」
「すみません……」
「んー なにかねなにかね。」
 まるで「ご主人様」のように振る舞う悪のりエリィ。
「「…………」」
「次は私がいいかしら?」
 満面な笑顔で二人を促す麗華。
 逆らえるはずも無かった。

「……こんな所かしら?」
 どうやらテンションも落ちついたらしい麗華。いつものクールなお嬢様に戻っている。
「はい、出てきなさい。さっきよりは問題ないでしょ?」
「「…………」」
 そう言われると出てこないわけにはいかないのか、恐る恐るカーテンが開く。
「「「「おぉ〜」」」」
 見学者の中から心底感嘆の声が上がる。
「レディとしては、これくらいできませんとね。」
 シルキーサテンのラベンダーカラーのドレスがフェアリスの身を包んでいる。背中のVラインが白い肌を際だたせていた。スカートの裾は斜めにカットされ、右脚の露出がやや大きくなっている。歩く度に布をたっぷり使ったフリルが揺れる。長い亜麻色の髪はアップにしてシルバーのチェーンでまとめ、更に細工の入ったティアラが頭を飾っていた。
「このカラーならロードさんと並んでも映えるでしょ?
 そうそう、もう少し足を揃えて。一本の線の上を歩くような感じで。」
「は、はい……」
 ヒールにはまだ慣れていないのか、ぎこちない足取りのフェアリス。
「ほら、シャルロットさんも。」
「……はい。」
 消え入りそうな声でおずおずとシャルロットが出てくる。
 シャルロットはアメリカンスリーブのドレスだ。色は黒で、白い肌とそして鮮やかな金髪が艶やかなコントラストを見せている。ミディレングスのスカートがふわりと広がり、首元で十字架のペンダントがキラリと光る。腰に巻かれたスカーフがアクセントとして全体を締めていた。
 そんなシャルロットを上から下まで眺める麗華だが、何か不満らしく少女の前に立つ。
「ダメよ、そんなビクビクしちゃ。ドレスを着たら決して隙は見せないこと。そうでなきゃ社交界は戦えないわ。」
 クスリとも笑わない態度につられたようにシャルロットも背筋を伸ばして表情を引き締める。
「いかがなものかしら?」
 麗華が優雅に振り返る。その動きだけで普通の外出着ですらシルクのドレスに見えてしまう。
「くぅ〜 さすが生粋のお嬢様は違うわ……」
 密かな敗北感を感じている恵梨。と、ずっと黙ってみていた月乃がちょっと首を傾げてから静かに店内を散策に出かけた。

〈麗華様、素晴らしいコーディネイトでございます。
 さすれば次は私にやらせていただけませんでしょうか?〉
 どうにか解放されて2メートルの大きさになったカイザードラゴン。
「あなたが?」
〈はい。是非ともお二人に着ていただきたい衣装がございまして。
 よろしいでしょうか? フェアリス様、シャルロット様?〉
 強引に連れて行かれずに、丁寧に頼まれるとなかなか嫌とは言いづらい。……50センチ以上も上からドラゴンの顔が睨みを利かしているから、では無いと思う。
 器用に服の森をくぐり抜け、何かしらの服を持ってくるカイザードラゴン。何を持っているかは観客席(?)からは見えないが、その服を見て二人の少女が驚いたような顔をしているのは見える。
 しかし、嫌がっている様子はなく、逆に喜々として服を更衣ボックスに持っていったようだ。
「なんだろ?」
〈さぁ、なんでございましょう?〉
 首を捻るエリィだがカイザードラゴンはいつものように空惚ける。
「「せーのっ、」」
 カーテンの向こうから声が聞こえる。
「「じゃん。」」
 二人が声を合わせて飛び出してくる。
「「「「おおっ。」」」」
 その驚きの声は服のチョイスをしたカイザードラゴンのセンスに感心したのか、それとも……
「「似合いますか?」」
 二人の少女の喜んだ顔のせいだろうか。
 クルリとその場で回転したフェアリスとシャルロット。セーラー服っぽいデザインと、ちょっと短めのスカートが密かに好評な聖アスタル学院中等部の制服だ。
〈お二方ともとてもお似合いでございます。〉
 産まれた環境や境遇により「学校」という物に縁の無かった二人。
 仮にとはいえ、学院の制服に身を包むのはとても新鮮で嬉しいことであった。あ、リボン曲がってます、とお互いの服装を直しあっている姿を見ると、普段世界の平和の為に戦っているようには見えない。何処にでもいる普通の女の子だ。ちょっとしんみりしそうになる。
「ん〜 カイザードラゴンやるな!

「よし、制服が出てきたからには次は体操服でしょう!」
「いやいや、こーなったらスク水も押さえないと!」

 そんな空気を吹き飛ばしたかったのか、とんでもないことを言い出す恵梨&エリィの悪のりーズ。……しかし、何故この店は学院の制服だけじゃなく体操服とかも置いてあるのだろうか? 考えてはいけないような気がする。
 色は紺じゃなくては。いや黒も捨てがたい、と訳の分からない論争に熱が入り始めた頃、ずっと席を外していた月乃がそっとフェアリスとシャルロットを奥に引っ張っていった。

「これ、どうでしょうか……?」
 結局「基本の紺を押さえて、そこに一本白いラインを入れよう」という所で結論がまとまりかけた頃、月乃達が戻ってきた。
「「「「…………」」」」
 現れた3人の姿に言葉が止まる。
〈これはこれは……〉
 どうにか衝撃から回復したカイザードラゴンがやっとこのことで口を開く。
 実際はそれだけでは無いが、3人が3人揃って黒を基調とした服を着ていた。
 シャルロットはフリルをたっぷり使ったいわゆるドールワンピース。さっきもそうだったが、鮮やかな金髪と碧眼が映えてまさにフランス人形のようだった。
 フェアリスはグログランのプリーツの入ったジャンパースカート。髪をまっすぐ下ろして、同じ黒の帽子を合わせる。
 月乃はコサージュ付きのフリルのジャンパースカート。後はそれぞれシルバーのアクセサリーをあちこちに合わせる。
 そう、いわゆるゴシックロリータっぽい雰囲気に揃えてみたのだ。
 3人ともどこか儚げで神秘的な雰囲気を持っているからなおさら似合っていた。
「むー 月乃ちゃん、卑怯なのだー。」
「悔しいけど似合ってるなー。」
 元気溢れるこの二人では確かに難しいかもしれない。

 それからフェアリスとシャルロットだけじゃなく、他の人たちも色々着せ替えをしばらく楽しんで、さすがにそれだけじゃ悪いので、細々と色々買い込む。
 女の子の買い物だから量はアッという間に増えた。元々BANから給料のような物は出ているので、異世界から来ていようとも意外と裕福だったりする。まーお金の使い方は人それぞれであるのは言うまでもないが。
 両手に一杯の紙袋。
 艦に戻ってから自分を着せ替え人形にするのが楽しみかもしれない。

〈ところでシャルロット様?〉
「……はい?」
〈お身体の方は大丈夫ですか?〉
「あ。」
 ふと気付いた。そういえば自分はコンピュータから離れたら心が落ちつかないはずだ。機械の塊であるカイザードラゴンが近くにしてもそれは治らない。
(でも……)
 そうなのだろう。あくまでも自分の心の問題。
「楽しい」ということが私の心の特効薬。
 もしかしたら、マリオネットの糸も切れる日が来るのかもしれない。
 だからなのかは分からないが、シャルロットはちょっとした「仕返し」をしたくなった。

 

 ――数日後
「おはようございます。」
「おはようございます。」
 ブリッジに入ったシャルロット。眠る必要がほとんど無いメイアは朝早くからコンソールの前に座っている。
 アクアワードに着くのはもうすぐ。それ故に、着くまでに済ませることはほとんど済ませて、意外と暇であった。
「あの、メイアさん?」
「はい……?」
 シャルロットにしては珍しい含みのある口調に何か違和感を感じる。
「たまにはメイアさんもお休みいただいたらどうですか? 今日の仕事でしたら私だけでもできますから。」
「しかし…… 休みをいただいてもすることが……」
「あら? それなら一緒にお買い物に行きませんか?」
 にこやかな笑顔を浮かべた麗華が恵梨とエリィを連れてブリッジに入ってきた。
「「うふふふふふふ……」」
 恵梨とエリィがメイアの両腕をがっしり拘束する。
 あのすみません。そのYESと言わないと容赦しないわよ、って笑顔の下に見えるのは何故でしょう? というか、すでに決定済であるかのような振る舞いはなんですか?
「あ、あの……?」
「それじゃあ行きましょうか? ――お人形さん♪」

 

ますたー、たすけて。ここにあかいあくまがいます。

 そして「第二回着せ替え人形大会」は盛況のうちに終わった。
 ちなみに第三回大会も計画中だとか。