オリジナルブレイブサーガSS
「チャイナドレスシンドローム」
(イラスト:サイレント・ストーム氏 
 イラスト:阿波田閣下氏 
 イラスト:嘉胡きわみ氏)

 

「何してるっすか〜 チンタラしていると約束の時間に遅れるっすよ〜」
 真っ赤なチャイナドレスを身にまとい、真っ黒のサングラスで顔を隠し、そして首に真っ白な毛皮を巻いたマッコイ姉さん――万能戦艦「ラストガーディアン」の購買部の主である――がすえた匂いのする路地裏を歩いていた。呼びかけた同行者は怪しい中国人マフィアのような服を着せられたカイザードラゴン――ちなみに黒丸サングラスも装備――と、揃いの人民服を着せられたロードチームである。
「……とても嫌な感じがしますが。」
「大丈夫なんですか?」
 ロードチームに囲まれるように歩いている(残念ながら私服の)神楽崎麗華(かぐらざき れいか)と田島謙治(たじま けんじ)。半ばカイザードラゴンとロードチームの維持・運用に呼ばれたようなものではあるのだが。
 3人と7体がいるのは中国の某都市。その裏通り。
 まさに中国マフィアのお膝元である。
「変なことさえしなければもーまんたいっすよ。
 あちこちにマフィアの目が光ってますから、逆に安全なくらいっす。それにちゃんと心強い護衛がいるっすからね。ねぇ? カイザードラゴン君。」
〈はぁ……〉
 鋼の竜が困ったような声を出す。
 そんな風にしながら歩いていると、不意に人の気配が途切れ、巨大な倉庫街へと入った。
 カッ!
 いきなり正面から眩しい光が浴びせられる。
 3人を守るためにすかさず前に出るカイザードラゴンとロードチーム。
 それこそ人間レベルの武器で容易く傷つけられるような彼らではない。
 と、そんな鋼の勇者達を押しのけるようにマッコイ姉さんが前に出て、奥に向かって何かを叫ぶ。
「……中国語?」
「みたいですね。」
 こうTVの中でイントネーションだけは聞いたことあるような言葉が放たれて、思わず顔を見合わせる麗華と謙治。
 声をかけた方からたくさんの黒服に囲まれた老人が姿を現す。小柄ながらもその存在感は思わず一歩引いてしまうほどである。
 そんな老人に気圧されることもなくマッコイ姉さんが前に進む。老人の前まで来ると、周囲の護衛が懐に手を入れて身構えるが、老人が軽く振り返るだけで皆直立不動に戻る。
 双方がどちらともなく口を開いた。中国語の会話らしく、簡易翻訳ソフトを入れたカイザードラゴンが聞き取れる範囲で解説する。どうやらまずは時候の挨拶らしい。
 そして「商売」の話に入ったらしい。
 急に二人の語調が激しくなった。
 叩きつけるような口調にカイザードラゴンの翻訳も追いつかない。
 どう見ても喧嘩のような二人に、護衛の黒服立ちも色めき立つ。懐に手を入れて殺気を放つ黒服だが、二人の勢いにその先まで手が進まない。
 一方、麗華と謙治はコッソリ逃げ出したくなっていたが、マッコイ姉さんを見捨てる訳にもいかず……
 ぎゅ。
「か、神楽崎さん?!」
「黙りなさい。」
 ついつい謙治にしがみついてしまったり。
 そんな間にも二人の口論はヒートアップし、今にもつかみ合いになりそうな雰囲気である。
 と、いきなりお互いに笑みを浮かべると、再開した旧知の親友のように抱き合い、肩をたたき合う。
 満面の笑みを浮かべた老人が、配下の黒服に合図をすると、奥から巨大なコンテナが二つ運ばれてきた。
 意気揚々と戻ってきたマッコイ姉さんだが……
「……どうしたっすか?」
「「心臓に悪いです。」」
 うずくまって胸に手をあてながら、麗華と謙治はやっとのことで声を出した。

「調子はどう?」
「口に出すのが憚れるほどひどいものです。」
 艦長の綾摩律子(あやま りつこ)の何度目かになる質問に、ナビゲータのメイアはため息混じりに答えた。
 万能戦艦「ラストガーディアン」は太平洋上でのトリニティの戦闘でメインエンジンに達するまでの損傷を受けながらも辛勝した。
 移動しながらのメインエンジンの修理は諦め、サブエンジンにメインエンジンの部品を回しての騙し騙しの航行をしている。艦内の被害も大きく、資機材不足が大きくのし掛かってきた。
 補給を受けたい所だが、さすがに海上では無理である。せめて何処かに着陸できれば落ちついて修理や補給も出来るのだろうが、1キロを越える「ラストガーディアン」が着陸できそうな島もない。
 メイアの試算ではとっくの昔に航行不能になっているはずなのだが、不思議と修理部品が途切れる気配がない。
『おい、メイア!』
 と、艦の外から通信が入った。
 航行中の修理責任者(というか親方)のアースパンツァーだ。
 相棒の空山(そらやま)リオーネと共に、今日もねじりハチマキで槌振るっている。
「どうかされました?」
『購買はまだ開かないのか?』
「……そうですね、まだ戻られていないようでして。」
『かぁ〜 そうか。部品がないとちっともはかどらんなぁ。』
 ブツブツ言いながら通信が切れる。
「…………購買?」
 なんかとても場にそそぐわない単語を聞いたような気がした。
「あ、いえ、その……」
 言葉を濁すメイアにおおよその見当がついた。
「つまり、今の『ラストガーディアン』は購買のおかげでどうにか飛んでいるってこと?」
「はっきり言ってしまうとそういうことです。」
「この科学の粋を集めた『ラストガーディアン』が艦内の購買無しでは飛んでいられないとは……」
 大抵のことでは驚かなくなったが、さすがに今回は情けなくて涙が出そうである。とはいえ、部品がなければ艦も修理できないし、乗っているクルーの腹や心も満たさなければならない。
 資材が心許ないとは知っていたが、まさかそこまでだったとは。
「予定では本日夕方くらいには戻ってくるとのことです。」
「そう……」
 何となく整備班がそわそわしていたのはそのせいか、と律子は小さくため息をついた。

「う〜ん、カイザードラゴン君も良いですけど、ロードストライカーも乗り心地いいっすねー。」
〈はぁ……〉
 ブースタータンクと合体したドラゴンフォートレスと、ロードチーム6機が合体した輸送機ロードストライカーで巨大なコンテナを運んでいる。
 自動操縦も出来るのだが、いつもの服装に着替えたマッコイ姉さんは機首にあたるロードドリルで操縦桿を握っていた。

マッコイ姉さん公式設定画
イメージCV:こうろぎさとみorかないみか?

 知られていないことだが、マッコイ姉さんは密かに数ヶ国語を使いこなし、更には様々な重機や航空機まで操縦出来たりする。
「言われてみるとそれくらい出来てもおかしくないわね。」
「しかし、そうなるとますます経歴が謎な人ですよね。」
 ロードストライカーのサブコクピットであるロードダイバーに乗っている麗華と謙治がひそひそと言い合う。
「ん〜 何か言ったっすか?」
「「いえいえ、何も。」」
〈しかし、これだけ持ち帰れば喜ばれますな。〉
 横を飛ぶドラゴンフォートレスにうんうんとマッコイ姉さんが頷く。
「商売、ってゆーのもあるっすけど、やっぱ喜んで貰えると嬉しいっすよ。
 最近食材も不足がち、って事言ってたっすから、食べ物も沢山っすよ。やっぱガツンと食べないと力出ないっすからね〜」
 中国を離れ太平洋上を航行中の「ラストガーディアン」に向かう2機。
 そろそろお互いのレーダーに見えてくるだろう。
「っ!
 ロードストライカー、リミッターリリーブ! マキシマムブースト!
 カイザードラゴン君もぶっ飛ばすっす!!」
 いきなりの叩きつけるような加速にシートに押し付けられる麗華と謙治。
「なに一体?!」
「神楽崎さん、あれを!」
 それに気付いた謙治が前方を指さした。

「周囲に空間変動を察知!」
「こんな時に……!」
 ブリッジが一気に戦闘状態の緊迫感に包まれる。
「センサー最大出力。敵の出現に備えて! 第一級戦闘配備!」
「レーダーに機影2。こちらに急速接近中!」
「空間偏差率増加!」
 律子の言葉に艦内に警報が鳴り響く。メイアと、同じくナビゲータのシャルロットの声が飛び交った。
『艦長ーっ! 第2ハッチ開けて下さいっす〜っ!!』
 聞き覚えのある声と口調に、すかさず律子は指示を飛ばした。

〈艦の周りを不可解な空間が取り囲みつつあります!〉
「飛ばすっすよ〜 2人ともしっかり掴まってるっす!」
 外から見ると「ラストガーディアン」を怪しげな闇が包み込もうとしていた。不吉な前振りにしっかり座席にしがみつく2人。
 姿勢制御用のスラスターも全て後ろに向けて、爆発的な加速を見せるロードストライカー。ドラゴンフォートレスも必死に後を追う。
 コンテナの重さが結構負担だが、今はエンジンが焼き付いてでも今は辿り着かなければならない。
「艦長ーっ! 第2ハッチ開けて下さいっす〜っ!!」
 通信が届いたのか、左舷格納庫のハッチがゆっくりと開き始める。
「さ、マッコイ大サーカスっすよ!!」
 開きかけたハッチの隙間に機体を傾けながら近づくと、その隙間目がけてコンテナのロックを外して放り込む。
「何ぃ?!」
 資材が来るのを今か今かと待ちかまえていたアースパンツァーが慌ててコンテナを受け止める。40m超の巨躯と怪力があってこそどうにか出来たようなものだ。
「よいしょっとっす!」
 ロードストライカーを横にしたままの横宙返りで、まだ開ききってないハッチへの侵入ルートに再度アプローチすると、そのまま機体を滑り込ませる。
 ……垂直尾翼のあたりから火花が散ったのはきっと気のせいだろう。
「セパレイション!」
 マッコイ姉さんの言葉に、合体していたロードチームが6体に分離する。
 減速できる暇もなく、あちこち飛び交うロードチームを、格納庫内にいたオフェトやディファー、ライナーズたちがキャッチする。
「……謙治。生きてる?」
「どうにか……」
 上下逆さまになったコクピットで麗華と謙治が呻いていた。

 僅かに遅れたドラゴンフォートレスの前で「ラストガーディアン」が闇に飲み込まれようとしている。
〈このままでしたら…… ならばっ!〉
 高度を取りながらカイザージェットとブースタータンクに分離して、合体フェイズに入る。本来なら背部にフェニックスブレイカーが合体してGフレイムカイザーになるのだが、無くても短時間及び機能制限付で合体可能である。
竜人変化、マイティカイザー!
 各部のリミッターを解除しながら、闇に飲み込まれようとする「ラストガーディアン」のハッチに向かって全力でコンテナを投げつける。
 コンテナがハッチを凹ませた瞬間、マイティカイザーの前で「ラストガーディアン」の巨体が眼前の空間から消え失せてしまった。
〈麗華様! 皆様……〉
 直後、無理をさせた手足がスパークを散らすと、推進力を失ったマイティカイザーが海へと落下していった。

 大騒ぎの格納庫。
 中途半端に開いた第2ハッチにコンテナが二つ目のコンテナが衝突してひしゃげている。ただ引っかかっているだけなのでワイヤーで固定しようとしたところで激しい揺れが「ラストガーディアン」を襲った。
 無論、中は更にしっちゃかめっちゃかに。
 ……でもコンテナがビクともしないのはマッコイ印だから(笑)

「状況は!」
「……少しお待ち下さい!」
 メイアの指がコンソールの上を走る。説明よりも先に解決すべき事があった。
 1キロを超える「ラストガーディアン」がねじ切られるかのようにきしむ。
「……くっ。」
 ブリッジの天井付近に映し出されている艦の全体図のあちこちが赤く染まる。謎の外力によってストレスが発生している部分だ。艦長というのは飽くまでも命令をする仕事だ。直接何が出来るというわけじゃなく、命令を下して、いや命令を下さない時でもクルーを信用するだけの仕事だ。直接何か出来る訳じゃない。
「リジェクションフィールド(拒絶空間)展開!」
 メイアの声が響くと、艦を襲うプレッシャーが手で払ったかのように消え失せる。
 揺れが収まり、軋む音も止まった。
「……状況は?」
「現在『ラストガーディアン』は閉鎖空間に閉じこめられた模様。空間の変動が連続的に起きており、艦が保たないと判断。『時空ゲートシステム』の応用で、艦を周囲の空間から隔離しました。」
「さすが、空間技術に関してのオーソリティね。艦を代表してお礼を言わせてもらうわ。」
 律子の心からの謝辞にメイアは顔を赤らめると、慌てたように言葉を紡ぐ。
「あ、いえ、その、『ラストガーディアン』は私の第2の家のようなものですから……」
 言ってることがしどろもどろ。彼女は未来世界からやってきたアンドロイド(と書くと、某青狸型ロボットのようだが、それは彼女に対して大変失礼である)なのだが、そう言われないと誰も分からない程人間くさい。唯一、金色の目がいささか人とは趣を違わせているが、彼女の美貌が故にアクセントになっても、異質感を感じさせることはない。
 と、さすがにナビゲータとしての任務を思い出したか、コンソールに向き直ると改めて状況を説明する。とはいえ……
「まだ調査中で現状を把握できません。探査プロープを射出します。」
「艦の損傷は?」
「はい。第1装甲レベルAの損傷で止まっています。左舷第2ハッチが……」
 同時に艦内のサーチをしていたシャルロットがちょっと口ごもる。
「いいわ、続けて。」
「はい。左舷第2ハッチがコンテナの直撃を受け損傷。同時に左舷前方格納庫に強行着陸かけたもう一つのコンテナとロードチーム、及び待機中の何機かが艦の揺れに巻き込まれて格納庫内部の壁に損傷を与えました。幸か不幸か『彼ら』の損傷は軽微。しかし、ロードドリルが内部から突き刺さった為、レベルCの破損を確認しました。
 それと……」
 艦内のチェックが一通り終わったのだろうが、さっきに増して微妙な表情をする。
「大抵のことには慣れたからいいわ。」
 ちょっとため息混じりに先を促すと、シャルロットはひどく困ったような口調で呟いた。
「先程の空間変動により、2ヶ所に大きな被害が出ました。」
 少女の言葉の響きにえらく不吉な物が混じる。
「人的損害は皆無ですが…… 食料庫及びランドリースペースがほぼ壊滅状態です。」
「つまり……?」
 普段は指揮官として回転するはずの頭脳が上手く動かない。
「はい…… ごはんたべられません。おせんたくできません。あらったものダメになっちゃいました。」
 相当ショックだったのか、子供のような口調で目をウルウルさせて振り返るシャルロット。ちなみに彼女、外見は15歳、頭脳はそれ以上だが、実際の生活年齢は3歳。たまに退行しちゃうことがあったりなかったり。

「そんなわけで……」
 リクリエーションルームに艦の主要クルー――つまりは名前がある人たち――が集められた。
 それこそ独自で現状を把握しようとした者もいるだろうが、一応艦の責任者としては現状を皆に知らせる義務がある。
「今当艦はトリニティの作った閉鎖空間におります。本当なら閉じこめられた時点で周囲の空間の軋轢に艦を沈められているところですが、メイアの機転により圧壊を免れています。
 艦の損傷は軽微、ですが……」
 ここでちらりと損傷の一部の原因を作ったサーカスパイロットを睨むが、周囲から隔絶された現状で貴重な物資を持ってきてくれたのはマイナスを差し引いて大きなプラスであるので、それ以上責めることは出来ない。
 今度はクルーたちを見回す。
 大半の少女と、一部の少年が落ち込んだような顔を見せている。それを差し引いても皆の顔が不安げにこちらを見ている。
「食料と洗濯物が全滅です。」
 ズーン、と一気に場が重くなる。それこそ家事が達者なクルーは既に気づいていることだが、敢えて言われると現実逃避も出来なくなる。
 個人個人が持ってる食料や、植物園での食べられる植物。後は……
「食料はあるっすよ。ちゃんと仕入れて来たっすから。」
 おおっ!!
 歓声が沸き上がる。
「元々備蓄が少なくなっていたっすから、多めに仕入れたっす。
 それに購買の倉庫にもまだ出してないのもあるっすから、しばらくは大丈夫っすよ。」
 豪快に振り回されたはずだが、かすり傷一つ追ってないマッコイ姉さんがピコッと手を挙げる。
 食糧の問題は解決した。しかしまだ問題が残っていた。
 数日前の激戦を切り抜け、どうにかこうにか通常状態に戻ったのが昨日今日。その間に溜まった洗濯物を、という人が多かったため、ランドリースペースにはここぞとばかりに洗濯物が集められていた。各個室には洗濯機が無く、コインランドリーのように洗濯機が並んでいる区画があるのだ。さすがに洗剤他は本人持ちであるが。
 その区画が丸々崩壊してしまい、洗濯機は皆ペチャンコに。洗濯物も再起不能となっていた。下着程度なら手洗いも出来るだろうけど、洗濯板なんて物もないだろうし、大体洗うべき服も大量に失われている。
 どれくらいこの空間に閉じ込められるのか知らないが、特に女の子の服のストックが怪しくなってくる。
「それも…… どうにかなるっすよ。」
 もう一度挙手したマッコイ姉さんにまた歓声が上がるが、その顔に悪戯っぽい笑みが浮かんでいたことには誰も気付かなかった。

「隼人く〜ん、ご飯行こ〜」
 橘美咲(たちばな みさき)が同じチームの大神隼人(おおがみ はやと)の部屋の部屋のインターホンを鳴らした。
『今行く。』
 友達以上恋人未満のチームメイトに呼ばれて渋々腰を上げる。
 最初の頃は面倒かつ照れくささがあるのか断っていたのだが、意外と頑固に誘ってくるので、もう諦めている。本心はきっと嬉しいのかもしれないが、それを認めるほど隼人は素直では無かった。
「今日は……」
 ドアを開けて、迎えに来た美咲を見て隼人は固まった。そこには、

紅白の中国人形(チャイナドール)が立っていた

「…………」
「あれ? どうしたの隼人くん?」
「…………」
「なんか変なのかな?」
 自分のチャイナドレスを見下ろしながらクルリと回る。そうすると両側のスリットがふわりと広がって白い足がチラリと見える。
「……!」
 自分の意志に反して頬が紅潮しそうになって、いつものようにそっぽを向く。
「相変わらずね。」
 一方の麗華は静かな足運びで、スリットの奥をシークレットゾーンとしている。それでも隣の謙治の目はついつい下に。その視線を感じて、麗華は小さく笑みを浮かべていた。……結構いぢわる(ぼそ)
「隼人くん?」
「……その格好はなんだ?」
「あ、うん。え〜とね……」

「いやー 行った先で安かったんで大量に入手した服があるんすよ。サイズも選り取りみどりっす。ただ……」
『ただ?』
 皆の目がマッコイ姉さんに集中する。
 彼女が近くに置いてあった箱に頭を突っ込んでゴソゴソしていたかと思うと、1着の服を取り出した。
『…………』
 豪快に天使の大群が通り過ぎる。
 すでにそのリアクションを予想済みだったのか、あっはっは、と笑いを浮かべて後頭部を掻く。
「行った先が中国だったんで、中華服ばかりなんすけどね。」
 手にしたチャイナドレスはなかなかスリットが深かった。

「……というわけ。
 ボクも麗華ちゃんも替えの服だいぶダメにしちゃったから。」
「そうか。」
 どうにか見慣れて、美咲の方を向いて返事が出来るようになった隼人。
「あ、そうだ。隼人くんの分もあずかってきたよ。」
 と、紙袋を差し出す。
「……俺も着るのか?」
「ゴメンね。隼人くんの服も結構ダメにしちゃったから……」
 すまなそうな顔をする美咲に何も言えない隼人。隼人の洗濯物は美咲に一任しているので、これで恐縮されるのは本末転倒のような気がする。
「分かった。ちょっと着替えてくるな。」
 紙袋を受け取るとまた部屋に入る。
「じゃあ、私たちは先に行ってるわ。ね、謙治?」
「……あ、はい。僕たちは先に。」
 麗華に目が行っていて、一瞬返事が遅れた謙治をちょっといぢわるそうに見てから、彼を連れて麗華は去っていった。
「……やっぱりな。」
 隼人が紺色のパオ(中国服の長衣――やはりというか長身の隼人にはよく似合う)を来て出てくると美咲しかいないことに諦めの混じったため息。お節介なのか、単なるからかいなのか、こういう「気遣い」をされることは良くある。というか、この艦に乗るようになってとても増えた。
(端から見るとそう見えるのか?)
 ふと思い返してみる。食事も大抵一緒。掃除と洗濯は少女任せ。一人でいる時間と、少女と一緒の時間を引いたらどれくらい残るのだろう?
「…………」
 否定する材料があまりにも少なかった。
「どうしたの?」
 下から心配そうに見上げてくる目。この真っ直ぐな目の前では自分を偽れない。
「いや、何でもない。行くか?」
「うん!」
 嬉しそうな笑顔に、こういう関係も悪くないかな? と思う隼人であった。

 ――数時間ほど前。
「…………っと。」
 一人の少年が壁から這い出てきた。
 別に黒猫と一緒に塗り込められたわけでも無く、謎の壁抜け男、というわけでもない。ただ単に壁の穴にはまりこんでいただけである。
 ただ、その穴が己の身体で開けた穴、しかも他者の一撃によるものだ、というのが彼の(一応)不幸なわけなのだが。ただ、日常茶飯事だと壁の修復が面倒なだけで、後で購買に板買いに行くか、と思うだけである。
 ここまで語れば、彼の正体は明らかだろう。
 いつものように朝の稽古で壁に埋められたのはみt
「おっと、ちょっと待った。」
 彼の前に一人の男か“いきなり”現れた。
「俺の目を見ろ。」
 と言いながら目を覗き込む。
 壁からの大脱出で疲労が抜けていなくて反応が遅れた。それ以前に現れた男の素早さは際だっていた。
 少年の目から光が失われると、その男――ジャンクはグッタリとした少年の足をつかんでずるずる引きずっていった。

「…………」
「うわ……」
 食堂は大盛況だった。食材に余裕が無いので、メニューも営業時間も限定している為、人が集中しているのだ。
「悪い橘! こっち手伝ってくれ!」
 人が足りずに料理上手な秋沢(あきざわ)兄弟や神崎月乃(かんざき つきの)も厨房に入っている。しかし、重い中華鍋は月乃の細腕では辛く、飛鳥(あすか)は弟の雫(しずく)と比べると腕は落ちるので、実際に鍋を振るっているのは雫だけだ。
「うん、分かった! ……ゴメンね、隼人くん。」
 元気良く返事するが、すまなそうな、そしてちょっと寂しそうな顔で隼人を振り返る美咲。そんな少女の頭にポン、と手を置く。
「落ちついたら言え。」
「あ…… うん!」
 こんなことで、と思うくらいに笑顔になる美咲を見ると、何となく自分も嬉しくなるような気がする。
「「いらっしゃいませ〜」」
 そんなちょっと甘めの空気が2人の声に遮られた。
 ちょっと不愉快そうに振り返ると、

やっぱりチャイナが立っていた

 茶色と黒髪の少女。2人とも艦内で見た憶えが無い。
 いや、待て。何処かで……
「あれ? ユーキくんに……」
「あ、そこまで♪」
 チャイナドレスの女性が“いきなり”テレポートして、美咲の唇に指を当てる。
「面白いから言っちゃダメ。あたしと約束。」
 と現れた女性――トーコは美咲と無理矢理小指を絡めると指切りをした。
「じゃねーっ!」
 現れた時と同じ唐突さで消えるトーコ。
「ユーキ…… ああ、ユーキか。」
 トーコの弟、ユーキの事を思い出して、その容貌が茶色の髪の少女と重なる。
「似合うな。」
 隼人が心底爽やかな笑顔で茶色の髪の少女の肩を叩くと、ユーキの顔がピキッと引きつる。
「そんなわけないだろ! くそぉぉぉぉぉっ!!
 ねーちゃんのばっきゃろぉぉぉぉぉっ!!!」
 泣きながらダッシュするユーキだが「誰がバカだぁぁぁぁっ!!」という怒鳴り声と共に宙に舞ったりする。とりあえずテーブルを巻き込まなかったのは僥倖(ぎょうこう)であったろう。
 ……天井は誰が直すのかな?
 上、下と首の運動をした3人。
 そういやぁ、この黒い少女は誰だろう?
「あ、美月(みつき)ちゃん美月ちゃん。ちょっとこっちお願い〜」
 翠緑玉(エメラルド)を思わせる光を放っているような緑のチャイナドレスのエリス=ベル――通称エリィがその美月と呼ばれた黒髪少女の肩を叩く。
「あ、はい。エリィさん、すみません。」
 おとなしい娘なのか、エリィの言葉にぺこりと頭を下げると、奥へと戻っていく。あちこちで「美月ちゃ〜ん」と声をかけられて、とても急がしそうだ。
「ゴメンゴメン、すぐ席に案内するわね。」
「あ、ボク厨房行かないと。」
「俺は後でいい。」
「ふ〜ん……」
 2人の発言に意味ありげな笑みを浮かべる。
「オッケーオッケー。ん、分かったわ。」
「おーい、橘ぁ!!」
 厨房から雫の悲鳴じみた声が聞こえる。さすがに鍋の振り過ぎで腕が痛くなってきたらしい。
「うん! すぐ行く! それじゃ、後でね。」
「ああ。
 というわけで、俺は行くから。」
「オッケーオッケー。分かったわ。」
 食堂を出ていく隼人をエリィはヒラヒラ手を振って見送った。
 ちなみに黒髪美少女――美月の正体は(一部を除いて)誰も知らない。

「思ったより艦内は落ちついてますね。」
「ええ、カウンセリングに来る人も稀ですし。おそらくは普段と違う服装の為、そちらに集中してしまったのでしょう。逆に言うと、この状態はもって数日、とも考えられます。」
「そう……」
 艦長室。最初は全力を尽くして拒否していたものの、制服の替えを結構ダメにしていた。それをどうにか騙し騙し着ていこうかと思ったときに限って、艦内の破損状況を見に行ったときにオイルをかぶってしまって、いよいよ着る物がなくなってしまった。
 泣く泣く購買で入手したのが紺のチャイナドレス。
 普段パンツルックなので、どうも足がスースーする。いつもの癖で思わず足を組みそうになって、スリットの存在を思い出している。
 ……ちなみに律子の前に座っている心理学者小鳥遊一樹(たかなし かずき)は彼女のそんな苦悩にはカケラも気付いていない。
「脱出方法に関しては?」
「それは草薙君とメイアが中心に研究中です。……正直、状況が状況ですることがさほどないのですよね。」
 だから相談と称して、密かに気になる異性である小鳥遊とお茶しているわけなのだが。まぁ、実際どこぞと分からない空間に閉じこめられたことで精神的に参る人が出てくるかも知れない。と思っていたのだが、予想ほどそういう「患者」は来なかった。
「適応力があるというか、それとも若さなのか……」
 空いた茶碗を手の中で回していると、それに律子が気づいた。
「もう一杯いかがですか?」
「いただきましょう。」
 自分のも含めて二つの茶碗を持って、壁際の調理台に向かう。
 律子の好みは中国茶だ。しかも今日はチャイナドレスで何となく雰囲気も出てしまう。いつもの制服姿と違って女性らしいラインが強調されるのがやっぱり恥ずかしい。
 ……見ているのだろうか?
 鉄瓶で茶壺にお湯をかけながら、ちらりと背後の小鳥遊を窺う。
 一応こっちを見ているが、ただ単に手際を眺めているだけのようだ。制服の時だろうが、私服の時だろうがその目は変わらない。
「…………」
 小鳥遊に関しての何度目かの落胆を憶える。いつも穏やかで知的で優しく、周囲に気を遣い、そしてそれだけでない「強さ」も持ち合わせている。……そして、呆れるほどの朴念仁。
 他人の色恋沙汰には敏感なくせに、自分に関しては全くの鈍感。その上……
「いや、艦長のそういう姿もなかなか良いものですね。思わず見とれてしまいました。」
「はい?」
 何の計算も駆け引きも無く、まさにクリティカルヒットな事を言い出すのだ。そういえばドリームナイツの面々(1名除く)も「言ってることは嫌みなのだが、本人には全くその気がない」と評していたような。
「え、あ、その、博士? いきなりなに…… きゃぁっ!」
「艦長!!」
 小鳥遊の言葉に動揺したのか、手元が滑って思い切り熱湯を足にかけてしまった。
「いいから動かないで!」
 医師免許を持つ小鳥遊が素早く状況を判断する。確か中国茶に使うのは100度に近い熱湯だ。しかも服にしみこんでいる。
「失礼。」
 濡れている腿の部分を肌から離すようにめくり上げる。
「きゃっ。」
 しかし、律子のは彼女たっての願いで(笑)スリットが深くなく、上手く捲ることが出来ない。業を煮やした小鳥遊がスリットを引き裂いて足をあらわにする。律子としては悲鳴の一つでも上げて引っぱたくべきなのかも知れないが、いきなりの事と、恥ずかしさと、そして真剣な小鳥遊の顔にされるがままになっている。
「これなら大丈夫。軟膏でも塗っておきましょう。」
 部屋にあった救急箱の中にあった軟膏を指に乗せて律子の足に触れる。
 ……と、
「艦長。脱出のプランが……」
 携帯端末を手に艦長室のドアを開けたメイア。そこで繰り広げられていた光景と言えば、

 律子を押し倒した(ように見える)小鳥遊。
 律子のチャイナドレスは引き裂かれ、足があらわに。半ば呆然とした(ように見える)律子の足に小鳥遊が触って……

「……失礼いたしました。」
 真っ赤になりながらドアを閉めるメイア。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「15分後にまた参ります。」
「何よその微妙な時間は!」
 律子の声は届かず、逃げ去るような足音が閉まるドアの向こうに消えていった。
「おや、どうしました?」
「あ、いえ……」
 この騒ぎ(?)にも気付かなかった小鳥遊にため息一つ。
「終わりました。数日は痛むかも知れませんが、我慢して下さい。」
「あ、はい…… その着替えてきますので……」
「そうで……」
 不意に言葉が途切れる小鳥遊。
 やっと今になって状況に気付いたのだ。
 下着までは見えないけど、あらわになった足。そして無遠慮に触れている自分。
「え! あ! その……!
 ……どうしましょう?」
「知りません! 私が聞きたいくらいです!」
 真っ赤になる艦長及びカウンセラー兼艦長補佐。そんなのでも艦は飛ぶのである。

「それで、脱出方法とは?」
 きっかり15分後にメイアが迎えに来て、更に5分後のブリッジ。
 濃緑のチャイナドレス姿に着替え直した艦長席の律子。
「ええ、この空間の解析結果ですが……」
 伊達眼鏡に白衣姿と博士モードの草薙咲也(くさなぎ さくや)がバインダー片手に説明を始める。
 曰く、この空間は「ラストガーディアン」を破壊するために展開された人工空間であり、本来ならラストガーディアンを圧搾すると同時にその質量をエネルギーに転嫁させて完全消滅をもくろむ物であったが、メイアの機転によりそれは失敗に終わった。
 しかし、このままだとこの人工空間は自己崩壊を起こし、その崩壊に艦が巻き込まれてしまうだろう、と。
 そこで逆に内側からこの空間を破壊し、その崩壊に乗じて脱出、という方法を提案する、というわけだ。
「必要なのは空間に綻びに生じさせるほどのエネルギーを射出可能な勇者ロボです。俺――クロノカイザーを含め、何体かピックアップしました。」
「なるほど……」
 リストを見て納得する律子。これならいけるかも知れない。
「作戦の発動を許可します。作戦指揮は草薙君。サポートはメイア。頼みましたよ。」
「「了解!」」

 メイアの計算により、この空間が一番不安定になる2日後に作戦決行日が選ばれた。
 さすがに材料の関係で中華料理が続いたのと、何処とも知れぬ空間に閉じこめられたという不安感がクルーの中に広がっていく。中華フェアじみた艦内の空気もいい加減空々しくなってきている。
 士気が落ち続ける中、ついに作戦決行日が来た。

「クロノクルゥゥゥザァァァァッ!!」」
「ゲイルフェニックス!」
「コール、シャインサイザー!」
「来て…… カイザーウルフ。」「瑠華(るか)、カイザー、合体だ!」
「ロードチーム、フォームアップ! セットコンバージョン!
 トランスフォーメーション、フェイズ1。
 アゲイントランスフォーメーション、フェイズ3! ……ユナイト!」

 セイバージェットから変形したカイザスにリンクしたブレイバー――咲也がクロノクルーザーと合体。
 フェアリスが喚びだした聖魔法獣ゲイルフェニックスに包まれたロードがフェアリスを取り込んで鳳凰の騎士へと姿を変える。
 サポートマシンのシャイニング・ウィンガーを召還した飛鳥とサイザーが合体。
 寺崎(てらさき)瑠華が喚びだした銀狼カイザーウルフとシルバーウルフ――桜神刃(おうがみ じん)が融合したヴォルガードが合体。更にその背にマッハカイザーが合体し翼となる。
 謙治のサンダーブレイカーを中心に6体のロードチームが合体した。

時空合体! クロノッ! カイザァァァッ!!
ヴァルロードっ!!
閃光合体っ!! シャインサイザーッ!!!
飛翔合体! ウィングヴォルカイザー!!
重装合体、ヘキサローディオン!!

 5体の巨大ロボが甲板に着地する。
 フィールド越しに見える世界は闇があちこちで渦巻いていた。
「作戦は説明したとおり。謙治の荷重力弾で空間を乱し、そこにロード・飛鳥・ジンの3人で空間のひずみを大きくして、最後に俺だ。失敗は許されない。フルパワーで撃ってくれ。」
「「「「了解!」」」」
「問題は、もっとも“壁”の薄いところ――つまりは現実空間に一番近いところを探すことだが……」
 クロノカイザー――咲也が呟く。力業ではあるが、それ故にもっとも弱いところを狙って少しでも成功確率を上げたいところだ。
『草薙さん、カイザー…… いえ、カイザードラゴンに連絡が取れませんか?』
 ブリッジから通信が入った。通信の主は麗華である。
『もしラストガーディアンが消えた位置で待機しているなら、そこが接点になるかも。まだカイザーとのリンクが切れていないので、いることは間違いないのですが……』
「メイア、聞いたか?」
『はい、マスター。やってみます。』

 太平洋上。
「ラストガーディアン」が消滅してから数日。まだ自分の“主”である麗華とのリンクは切れていない。それこそ彼女に何か起きたら自分も存在を維持できないはずだ。まだ麗華は生きている。そのことだけを糧にカイザードラゴンは待っていた。
 精神力の消耗を押さえるために2mサイズになって、更に水に浮かないのでカイザージェットで海底に。それでも1時間くらいごとに海面に出ては必死に呼びかけている。下手に通信をかけているとトリニティに察知される危険もあるが、それよりも自分の“主”の方が大事だ。
 何度目かの浮上を開始し、海面付近でホバリング。
 と、カイザードラゴンが電波をキャッチした。
『こ……ら、……トガー……ン。……ザード……ん。お……いま……』
「! この声はメイア様!
 私です! カイザードラゴンです! ラストガーディアン応答願います!!」

『マスター! 捉えました! 方向は……艦首方向、真っ正面です!』
「よし、謙治!」
「はい!
 G−プレッシャーキャノン…… リアライズ!
 クロノカイザーの指示にヘキサローディオン――謙治が巨大砲を実体化(リアライズ)させる。
 砲から伸びるチューブを胸部に差し込みエネルギーをチャージ。足のラダーとショベルアームを倒しステビライザー(安定器)にする。
ロード・インフィニティ・グラビトン!
 放たれた荷重力弾が艦の前方に向かって飛んでいく。メイアの観測した位置に到達すると、そこで重力を解放した。その超重力に空間が捻れ、軋む。
「次は我々だ。」
「「おう!」」
 ロードの声にシャインサイザー――飛鳥とウィングヴォルカイザー――ジンが頷く。
 3体が横並びになるとヴァルロードが腰ために構え、シャインサイザーが右腕にシャイニングクォースを構える。ウィングヴォルカイザーの背中からマッハカイザーが分離するとヴォルカイザーの正面に来て胸の狼に接続される。
フォトン…… バーストッ!!
シャイニング、インパクトッ!!
カイザァァァ、ゴオォォォォォガンッッ!!
 鳳凰の顔から放たれた魔法光が、シャイニングクォースから撃ち出された光の鷹が、マッハカイザーの開いた嘴から発射されたビームが、歪んだ空間に突き刺さる。
 その膨大なエネルギーが空間のゆがみを更に大きくする。
「よし…… いける!」
 クロノカイザーの胸のクロノクリスタルが光を放つ。その光を包み込むように両手を胸の前に間を開けて構えた。
クロックッ!!
 手の間にエネルギーが集まってくる。
バーストォッ!!
 集まったエネルギーが空間の歪みを起こしていく。
エンダァァァァッ!!
 集まったエネルギーがクロノカイザーの腕の中で圧縮され炸裂し、それと共に両腕を前へと突き出す。
 解放された空間歪曲エネルギーが周囲の空間を巻き込みながら突き進む。クロノカイザーが生み出したマイクロブラックホールは崩壊寸前の空間に最期のとどめをさした。

 まるでガラスが砕けたかのように空間が「割れ」た。闇が裂け、その向こうに空と海の青が見える。
「ラストガーディアン。全速前進! それと甲板上の5機を回収。急いで!」
「了解!」
 息も絶え絶えのエンジンを吹かすと、空間の裂け目に向かって「ラストガーディアン」が進む。さっきの攻撃ですでにフィールドは無くなっており、また艦を捻られるような衝撃が襲うが“外”に向かって空間の流れが発生し、比較的早く脱出できそうだ。
 大技を放って合体が維持できなくなって分離しても動けない勇者ロボ達を、待機していたスターブレイカーやトライガーディオン達が艦内に収納していく。
 艦の後ろで空間が崩壊していく。崩壊の速度は思った以上に速く、そして「ラストガーディアン」の疲弊は思った以上に酷かった。
「……! 発進許可は出てません! 至急艦に戻って下さい!」
 焦燥を隠せない律子はシャルロットの叫びに意識を戻す。
「なにごと?!」
「はい。何名も許可無く外へ……」
 艦の外は荒れ狂う空間の嵐である。たとえ勇者ロボでも長時間は……
「……艦の速度が若干ながら上がっています!」
「モニターに出して!」
「はい!」
 シャルロットの指がコンソールの上を走ると、メインスクリーンがいくつにも分割され、艦のあちこちを映し出す。
 ブリッジの全員が息をのむ。
 空を飛べる勇者ロボ達が微力ながら艦を押していた。荒れ狂う空間が身体を傷つけてもその手を止めることはない。
「艦の後方に撃てる実体弾で全力斉射! こうなったらどんな推進力でも使うわよ!」
「了解!」
 ミサイルや砲弾を発射するときの僅かな反動をも推進力として脱出を試みる。
 加速度的に崩壊する空間から裂け目を通じて通常空間へと艦首が到達した。
「もう少しよ。みんな頑張って!」
「空間が崩壊します! 残り3秒…… 2秒……!」
 1キロもある「ラストガーディアン」。その全体が出るのは間に合いそうにない。
『よっしゃぁ! これだけ広ければどうにかなるぜ!
 城塞合体、アースフォートレス!!
 艦の横に超巨大ロボが現れた。それまでは逆にその巨体が空間に干渉することを恐れて現れることが出来なかったが、半分近く通常空間に出たからにはBAN最大の巨漢を誇るアースフォートレスの出番だ。普通の勇者ロボを握りつぶせるほどの巨大な手を艦にかけると、パワーに物を言わせて無理矢理通常空間へと引きづり出す。
「1秒…… ゼロ! 空間が崩壊しました!」
「崩壊に巻き込まれて第7エンジンが脱落。艦や味方にそれ以上の被害はありません。」
 久しぶりの青い海と空。それがこんなに美しい物だとは思わなかった。
〈おお、皆様。無事で何よりでございます。〉
 カイザージェットが浮上してきた。そのまま甲板に着艦する。
「お〜っと、カイザードラゴン君! 休んでる暇はないっすよ! これからまた仕入れに行かないといけないっす!!」
 次は何処まで行くのか不明だが、厚手のコートに暖かそうな尻尾の付いた帽子をかぶったマッコイ姉さんがパタパタと駆け寄ってくる。
〈わ、私もそろそろメンテナンスを……〉
「何言ってるっすか! 今飛べるのは君しかいないっすよ。今飛ばなくてどうするっすか!」
〈そ、そんな…… 麗華様〜っ!!〉
『行ってらっしゃい。』
 がっくり。
「さ、次はお寒い国へレッツゴーっす!!」
〈これも私への試練と申されるのですか……
 ……カイザージェット、発進致します。〉

 科学の英知を結集させた万能戦艦「ラストガーディアン」
 その維持に一軒の購買が大きな役割を担っていることは意外と知られていない。
「さぁ、ドンドン仕入れてバリバリ稼ぐっすよ!」
〈左様でございますか……〉

 

「あれ? なんだ。ここ数日の記憶が……」
 一人の少年が不意に気が付いた。でも寝ていたとか気を失っていたとかではないようだ。
 強いて挙げるなら、まるで催眠術をかけられたか、精神操作を受けたのか……
「!!」
 何故自分はチャイナドレスなんか着ているのだろう? もしや……
「あ、美月ちゃん。あのさぁ〜」
「……エリィ。これはどういうことだ?」
「あ、もしかして……」
 美月(仮)に呼びかけたエリィだが、怒りを押し殺しているような様子にこめかみにマンガのような大きい汗が流れる。
「あは、あは、あはははははは…… ダメよ。女の子がそんな怖い顔しちゃ〜☆」
 愛想笑いを浮かべて後ずさる。
「ほぉ……」
 怒気を含んだ目つきでエリィを睨む美月(仮)。手をワキワキさせて美月(仮)がエリィに迫る。
「いやぁ〜 エッチなことされる〜♪」
「するかっ!!」
「え〜 したくないの〜?」
 まるで天然記念物を見るかのような目つきに美月(仮)が一瞬気圧される。
「いや、別にしたいとかしたくないとかそういう…… じゃないだろ。ごまかすなエリィ!」
「バレちゃった〜♪」
「バレちゃった〜、じゃねぇ!!」
 怒りMAX。今ならサムライマンに変身できるかもしれない。
「ジャンクさぁ〜ん!」
 パチン、とエリィが指を鳴らす。
「呼んだか?」
 空間を超えて《テレポート》してくるジャンク。と、今の状況を素早く察知して、つまらなそうに頭を掻いた。
「なんだ。もう解けたのか…… 全く面倒だな。」
 指をパチン、と鳴らし美月(仮)が振り返った瞬間にその目を睨み付ける。
 一瞬カクンと、膝を折りかけた美月(仮)だが、すぐに立ち直る。
「……あら? エリィさんにジャンクさん。どうなされました?」
 美月再降臨
「ううん、何でもないの〜 じゃ、行きましょ?」
「……俺は寝るからな。」
「あ、ジャンクさんどうもありがとう〜」
 ヒュイン、とジャンクがその場から消えると、よく分かっていない美月の手を引いてエリィは食堂へと向かっていった。

 補給できるドックまではまだまだ遠く、マッコイ姉さんが買い出しから戻ってくるまではチャイナフェアは続行の予定であった。