オリジナルブレイブサーガSS
「厨房の光景」
〜しかし料理ネタにあらず〜
(イラスト:
嘉胡きわみ氏・阿波田閣下氏)

 

 ぼんっ!

 万能戦艦「ラストガーディアン」内の厨房で爆発音が響いた。
「……何やってるんだ、お前らわ。」
 ジト目で爆発の原因を作ったトーコとエリィを睨む御剣志狼(みつるぎ しろう)
 時は昼下がり。昼食時のラッシュも過ぎ、夕食への仕込みもまだ位の丁度厨房が空いた時間。年頃の女の子(男も?)も多く、料理を憶えたい、という人もいて、開いた時間は厨房の一部が解放されていた。
 そんな中、いきなり鍋を爆発させたのはトーコとエリス=ベル――愛称エリィだった。
 料理に関しては特に話を聞かない二人なので、特訓か研究というところなのだろう。ごく普通の寸胴鍋をどうやったら爆発させたのか、一料理人としては気になるところだ。
「……ジャンクさんは何をしていたんですか?」
 この二人に立ち向かう愚(笑)を知ってる志狼は視線を横に向ける。そこには椅子に腰掛けて憮然とした表情をしたトーコの兄ジャンクがいた。厨房内は禁煙と(トーコに)言われているのか、口にくわえたトレードマークの煙草には火がついていない。余談ではあるが、艦内は禁煙のところが多く、数少ない喫煙者のジャンクは結構肩身が狭い。本人が気にしているかどうか別だが。
「ん? ちゃんと『見て』いただろ?」
 半分お約束のような返事をして、また志狼の疲労度を増やす。
 エリィがちょっと心配だが、異能力を持つトーコとジャンクだ。大けがするような事にはならないだろう。
 いや、それ以前に料理ぐらいで大惨事が起きること自体ないはず……と信じたい。
(ホントに何をやったんだ?)
 一人の料理人として「爆発料理」のレシピが気になったが、志狼は本来の「仕事」に戻ることにした。

「調子はどうだ?」
「はい…… 難しいです。」
 メモとにらめっこしていたフェアリス=和菜(かずな)=ウィルボーンは鍋を前に思案顔だった。ちなみに爆発する気配はカケラも無い。
(普通はこうだよな。)
 ついさっきまで異世界の出来事を見ていたから、余計にそう思う。
「どれ?」
 鍋の中を覗き込む。
 料理を憶えたい、ということで今回は煮物に挑戦させてみた。
 手は切らなかったもののデコボコになってしまったジャガイモと、炒めすぎて焦げた豚肉と、ブチブチに切れてしまった白滝。それをダシで煮込んでから調味料とダシを交互に入れて、半ば煮詰めてしまった物が焦げ付いていた。
「…………」
 見た目は裏切らないだろうなー と思いながらも小皿に取って味見。

「どう、ですか?」「40点」「はぅ……」

 自分でも甘すぎたかな? って点数にもしょぼんとしてしまうフェアリス。
「まぁ、」
 ぽん、と志狼はフェアリスの頭に手を乗せる。
「これからだこれから。俺だって最初から出来たわけじゃない。」
 力加減が分からないが、グリグリ、とならない程度に少女の頭を撫でる。
「は、はい……」
「わ、フェアリスちゃん、良かったね。」
 背伸びするように鍋を覗き込んだ橘美咲(たちばな みさき)が照れたように顔を伏せるフェアリスに目を細める。いきなり現れた(ように見える)少女に驚く志狼とフェアリス。そんな様子を見ているいくつかの目。
「う〜ん、でもどうするかなぁ?」
「ダシを足して、煮るのはどうだ?」
「これ以上やったら煮くずれちゃうよ。」
「ん〜 となると……」
「揚げて表面を固めるのはどうかな?」
「うまく行くかぁ?」
 志狼と美咲の二人でフェアリスの煮物の復活法を考えていると、フェアリスがあることに気づいた。
「……あれ? エリィさんはどちらに?」
 言われて厨房内を見るとあの目立つ金髪がいない。
「あれ?」
 と首を捻りながらも志狼は嫌な予感が背中を走る。
 そういやぁ、厨房に来る前に通路でアラビア風の衣装を着た(自称)謎の美少女(←ここはちょっと恥ずかしそうに)占い師に女難の相が出ている、とか言われたっけ。
 そんなことを考えて遠い目をしていると、厨房の入り口に人影が見えた。

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、女の子といちゃいちゃしているシローを倒せと轟き叫ぶ!
 愛と正義と夜の使者、美少女戦士プリティ・エリィ!
 いきなり高らかな声が響き渡った。声の主にすぐ思い当たり、志狼の疲労度がグーンとアップする。
「……エリィちゃん?」
「ちがーうっ!! 私はプリティ・エリィなの!」
 女子プロレスラーのような水着っぽいコスチュームにマント、そしてコウモリのような仮面を付けたエリィ――いや、プリティ・エリィが美咲の指摘に必死に否定をする。
「ともかく!」
 ビシッと志狼に指を突きつける。
「頭なでなでなんて不埒な事、わわわ私は全然平気だけど、見てられないのだ!」
「うらやましいんだね。」
「うらやましいんですね。」
「ち〜が〜う〜っ!!」
 美咲とフェアリスのツッコミに、手をバタバタ振って否定するプリティ・エリィ。
「ともかく!」
 2度目の指さし。
「お仕置きなのだ〜っ!! プリティ・ダイブ!
 状況のワイルドな変化について行けない志狼に、いきなりプリティ・エリィが飛びかかった。
「ぐはっ!」
 避けても良かったのだが、へたに避けると彼女が怪我しそうなダイブぶりに、受け止め半分押し倒され半分で倒される。豪快に後頭部を打って一瞬意識が飛びそうになった。
プリティ・エリィ必殺固め〜
 その隙をついたかどうかはともかく、がばっ、とプリティ・エリィが志狼に覆い被さる。でもネーミングセンスはバットマンなみ(ぼそ)
「横四方固めだね。」
 美咲の指摘通り、柔道で言うところの横四方固めだ。
 ちなみにどういう寝技かというと、仰向けに倒れた相手に横から覆い被さり、片手を首の下に回して奥側の襟を掴み、反対側の手は遠い方の足の腿の下を通して、腰のベルトあたりを掴むものだ。
 相手が男なら力任せに振りほどく――それこそ雷のマイトで無理矢理引き剥がす手もある――ところだが、相手は女の子でしかも自称はともかくエリィなのだ。掴んで引き剥がそうにも相手は水着のようなコスチューム。掴み所は無いし、しかも護身術を習っていることが予想以上に巧みに志狼を押さえつけていた。
「お、おい! 止めろエリィ!」
「エリィじゃないの! 私はプリティ・エリィなの!!」
「どっちでもいいから止めろ!」
「これは天誅にゃのだ〜っ!!」
 言葉による説得も通用せず、ジタバタ暴れる志狼をグイグイと押さえつけるプリティ・エリィ。
「……10。あと10秒で効果入るよ。」
「そういう問題じゃねぇっ!!」
 微妙にズレた冷静さを見せる美咲にツッコミを入れる志狼。フェアリスはワタワタとするだけで、ジャンク・トーコの兄妹はニヤニヤと面白そうに観戦している。
 ジタバタ。
 ぐいぐい。
 むにゅぅ〜
 賢明な読者諸氏なら想像つくだろうが、横四方固め、という技は上半身――特に胸のあたりで相手の身体を押さえつけるものである。更にジタバタ暴れるところにグイグイ押しつけられているわけで……
「くっ……」
 明らかに志狼の顔色が変わる。
 双方の両親公認(笑)の仲ではあるが、シャイニングボーイと名高い志狼、エリィのセクシーハラスメント攻撃(大笑)には未だに慣れず、紙で火矢を食い止めるような抵抗しか出来ない。
「……20。効果入ったよ。」
 美咲のカウントも聞こえてない。
 今志狼は自分の中の衝動と戦うのに精一杯だった。
 熱が入って汗ばんだ体から立ち上る少女の香り、そして温もりに柔らかさ。変形ツインテールが左右に揺れて志狼の鼻先を刺激する。
 ジタバタジタバタ。
 グイグイグイグイ。
 むにゅむにゅ。
「……24、25。技あり!」
「にゃはははは。プリティ・エリィは無敵にゃのだ〜」
 すっかり目的が入れ替わっているプリティ・エリィ。
 ジタバタジタバタジタバタ。
 グイグイグイグイグイグイ。
 むにゅむにゅむにゅむにゅぅ〜
「……29、30。一本、そこまで!」
 ビシッと審判よろしく美咲が手を挙げる。
「うぃなー!」
 勝ち誇った声で志狼の上から離れようとして、プリティ・エリィは志狼の変化に気づいた。
「ふわ……」
 ガバッと飛び退いて自分の胸元を隠すように腕を交差させる。
「ふぇ……」
 どこか泣き出しそうな顔。
 その間にそそくさと起きあがった志狼だが、何故か身を縮こまさせて立ち上がろうとしない。
「「??」」
 そんな二人の様子にフェアリスも美咲も何が起きたのかさっぱり理解できない。少し離れたところで見ていたトーコはニヤニヤを強くして、ジャンクはハーッと呆れたようなため息をついている。
「し、」
「し?」

シローのえっちっち〜〜〜〜っ! うわぁぁぁぁぁぁんっ!!!

 噴水のような涙を流しながら猛ダッシュするプリティ・エリィ。艦内だが何故か派手な土ぼこりが舞い上がる。
「「……えっちっち?」」
 純真な瞳4つに見つめられて、志狼の顔色が目まぐるしく変化する。
「「どういうこと?」」
 二人同時に小首を傾げて志狼に近寄ってくる。
 それ以上近づかれるのは非常に危険だった。
「お、」
「「お?」」

俺は無実だぁぁぁぁぁぁっ!!

 同じく噴水涙で猛ダッシュする志狼。先程と同様に派手な土ぼこりが舞い上がった。
 いきなり喧噪が消えた厨房だが、追求するのも無駄に思えたのか、それぞれがまた料理の練習に戻った。
「おいおいトーコ、野菜は皮を剥くものだ。」
「え〜 別にいいでしょ?」
「あ、そうそう。こうやると簡単に美味しく作れるんだよ。」
「本当ですね。為になります。」
 万能戦艦「ラストガーディアン」の昼下がり。いつものように平和であった。

 余談だが、この日中に「志狼はえっちっち」という噂が一気に艦内に広まったが、それは無知の天然が故の喜劇か、幾ばくかの悪意が混じった悲劇かは不明である。
 ただ「まーいつものことだし」とそんなに大騒ぎされなかったのが幸か不幸かは誰も分からない。