オリジナルブレイブサーガSS
「郵便戦隊の日常〜緑〜」

 

 郵便戦隊の朝は早い。
 ついでにそこそこ夜遅い。

 それはさておき。

 郵便「戦隊」というが、別に、
ポストホワイト!
ポストレッド!
ポストブルー!
ポストグリーン!
ポストピンク!
郵便運んで西東!
戦え!
郵便戦隊!

ポストレンジャー!

 ……なんて物ではない。
 ただ女の子5人組で、生活班の中で独自の制服を着ているので、いつの間にかにそう呼ばれているだけだ。
 この万能戦艦「ラストガーディアン」には勇者に関わる者だけじゃなく、沢山のクルーもいる。幾らネットが発達したところで、紙による手紙は廃れず、また小包だけは情報社会になっても物理的に運ぶしか無い。
 最初は購買が代理でやっていたのだが、さすがに数が多くなってきて「郵便部」が新たに設営されたのだ。
 上記の通り、女の子5人で編成されており、艦外から来る郵便物を仕訳し、また艦内から出される郵便物を回収して発送するのが基本の仕事だ。
 リーダーでもある白神葉月(しらかみ はづき)を筆頭に、気は優しくて力持ちの赤沢卯月(あかざわ うづき)、クールで辛辣な青木神無(あおき かんな)、ほのぼの癒し系の緑川弥生(みどりかわ やよい)、そして小動物系の最年少桃井皐月(ももい さつき)の5人である。微妙に共通点のありそうな名前も「郵便戦隊」なんて呼ばれる所以でもあるのだが。

「弥生、ちょっといい?」
「はい〜?」
 午前中の仕訳が終わった昼前のちょっと開いた時間。葉月が弥生を呼んだ。
 郵便物を受け取りに来た人も一段落して、5人が窓口に詰めてなくても良くなってくる。これから交代で食事や休みをとったり、他の仕事で外に出たりするわけだ。
「この荷物なんだけど『壊れ物』だから、直に受け取りに行って欲しいのよ。」
「は〜い。あ、これはいつもの荷物ですね。」
「そう、お願いね。」
「了解しましたぁ。」
 ちょっと間延びした感じの口調(そこが癒し系と密かに人気なのだが)で立ち上がると、窓口のあるブースを出て格納庫に向かう。通常、郵便物は補給と同時に入ってくるのだが、当然の事ながら補給のスケジュールは決まっており、タイムラグが生じるのは否めない。そのため、ある程度の都市圏に停泊しているときは直接外部に取りに行くこともある。購買の仕入れ品の場合もあるし、厨房の生鮮食品の場合もあるし、艦内のクルーのお取り寄せの場合もある。
 その情報は葉月の元に集められ、適切なメンバーが集荷に行くのだ。
 この「適切」というのが……
「いつもお疲れ様です。」
 世界を超えて勇者達が集うこの「ラストガーディアン」。きっとたくさんの勇者ロボが集うのだろう、と格納庫は果てしなく広い。戦艦と言うより空母か強襲揚陸艦のたたずまいなのだが、召喚系のロボが予想を遙かに超えて多かった為、意外と閑散としていた。そんなわけでいつの間にかに倉庫やリクリエーションの場としても活躍するようになった、というのは今回の話とは一切関係ない。
 弥生が向かったのは、そんな理由で別の使い道をされることになったサブの格納庫の一つ。
 自転車やバイク、自動車など日常使いそうな乗り物が置かれている格納庫だった。ちなみに適切な申請を出せば誰でも使うことが出来る。
 そんな格納庫の更に一角。
 5色のビークルが鎮座している。白・赤・青・緑・桃の5色。
 そう、郵便戦隊の公用(?)ビークルだったりする。自分と同じ色のトレーラーに葉月が近づくと、声をかけられた整備員がやってくる。
「あ、弥生さん、お出かけですか?」
「はい、ちょっとお仕事で。」
 にこやかな笑顔に整備員の心が和む。
「整備はバッチリですので、安心して行ってきて下さい。」
「はい、行って参ります。」
『行ってらっしゃいませ!』
 いつの間にか集まってきた整備員の声に見送られてグリーンのトレーラーはトテトテ格納庫を出て行った。

 基本的に「ラストガーディアン」の停泊場所は秘密、ということになっているので、そこから一般道路に出るのもいくつかのシークレットルートを通らなければならない。
 無論、そのルート自体も秘密なので、一般道路に出る際も細心の注意を払わねばならない。
 ……ということになっているが、大抵は倉庫とかにそういう通路が隠されているためにそうも神経を使う必要も無い。
「え〜と……」
 一見たどたどしいような手つきでトレーラーのコンソールを操作する弥生。実は彼女、元ブリッジクルーであり、この手の操作はお手の物だったりする。たどたどしく見えるのは単なるイメージなだけで、操作に微塵の迷いもない。
 ピッ、という電子音と共に周囲の地形や交通状況がディスプレイに映し出される。
 複雑に入り組んだカラフルな線の表示を、口元に指を当てて眺めることしばし。
「これですね。」
 指がコンソールの上を踊ると、線が一本だけになる。
 彼女のトレーラーはナビ機能を強化してあり、多種多様な方法(敢えて詳細は秘す)で周囲の道路情報を収集する能力がある。そしてレーダー員をして鍛えた分析能力で最善のルートを検出するのだ。
 彼女――緑川弥生は郵便戦隊の優秀な通信・分析担当であった。
 そんなわけで、目撃されることもなくシークレットルートを抜けた緑のラインの入ったトレーラー。郵便の集荷局ではなく、ここのクルーがよくお世話になるサンライズデパートの方へと走っていった。

「え〜と、ではこちらにサインを。」
「はい。」
 サラサラと弥生のペンが走ると、達筆なサインが描かれる。
「はい、確かに確認いたしました。いや、しかし、いつもの事ながら大変ですね。」
「いえいえ、これが仕事ですから。」
 デパートの荷物搬入口にトレーラーを止めると、コンテナに段ボール箱が詰まれていく。
 男女差別する気もないのだろうが、20前後にしか見えない女の子がトレーラーを駆ってくる、というのはやはりそういう風に見えるのだろう。
 まぁ、実のところは彼女たち専用に設計されているので、運転しづらいということはない。郵便部創設の際に、購買から贈られた物だ。
「しかしまぁ、こういう言い方もナンだけど、変わった会社なんですねぇ。」
「えぇ、まぁ……」
 苦笑して言葉を濁す弥生。
 今回の「荷物」は山のような玩具であった。しかも、弥生が直接ここに取りにくる荷物の8割はこれだからそう思われても仕方がない。無論のことBAN(「ラストガーディアン」が所属する地球防衛組織)や艦の名前を出せないから、そういうとき用の会社名を名乗っているのだが、通常の会社で社員が玩具を買いあさって、それをわざわざトレーラーで取りに来る、というのは不思議な光景だろう。しかも荷受人の大半は女性名と来ている。
「え〜と、荷物の確認願いますか?」
「あ、はい。」
 トレーラーの後ろからタラップを伝って中へ。
 中に積んである荷物を子細に観察する。ちょっと窮屈そうな所や、逆に動きやすそうなところと適度に調整すると、荷を積んでいる2重コンテナの内側を閉め、更に外側のコンテナも閉める。
 強化ナビシステムと共に、弥生のトレーラーは振動に弱い精密部品を運搬するための特殊コンテナである。あんまり使う機会も多くないのだが、箱のスレも気にする荷受人の為にわざわざ弥生が来ているのだ。というか、他のメンバーだといささか乱暴に扱われかねない、という実情もあるのだが。
 そうして荷物を受け取ると、再び「ラストガーディアン」にハンドルを向けた。

「わー、来た来たっ!」
 格納庫に弥生のトレーラーが戻ってくると、神代沙希(かみしろ さき)や神崎花乃(かんざき はなの)、空山(そらやま)ほのか、斎賀纏(さいが まつり)などの艦内でも有名な玩具好きが待ちかまえていた。
「まぁまぁ……」
 そんな様子を微笑ましく、嬉しそうに眺めながら定位置にトレーラーを停めてコンテナを開く。
 順番に並んでいる面々を前に、預かり証を見比べながら一つ一つ着実に渡していく。渡すと共に聞こえる喜びの声。最初は慣れない上に思った以上に重労働で不満もあったけど、こんな声を聞く度に郵便部で良かった、と思う弥生であった。

 郵便戦隊は「ラストガーディアン」にまつわるたくさんの郵便物と日々戦っている。
 そしてその戦いはたくさんの喜びを運ぶ戦いでもあるのだ!

 

「お疲れ様。」
「あら、葉月さん。」
 一通り荷下ろしが終わったところで葉月がやってきた。
「ご飯まだでしょ? 一緒に行きましょ。」
「はい。」

「お。」
「あら。」
 昼過ぎのため、大食堂はガラガラだった。
 テーブルに座るのも仰々しいな、と思ってカウンター席に向かうと、見知ったどころか見慣れた顔がそこにあった。
「葉月っちに弥生っちじゃないっすか。こんな時間にお昼って相変わらず大変っすね〜」
 購買部の主兼仕入れ兼販売員の本名不明マッコイ姉さんであった。
 もともと郵便は購買の仕事であったのは前述の通りであるが、となるとその責任者である葉月とマッコイ姉さんが浅からぬ因縁であるのは容易に想像がつく。というか、郵便部の創立にマッコイ姉さんが大きく関わっているのは言うまでもない。
「あ、いえ、こちらも仕事ですから。」
 どこか恐縮したような葉月と、
「はい、ちょっとさっきまで配送を。」
 マイペースを崩さない弥生。
「ダメっすよ〜 仕事は仕事だけど、もっとリラックスしないとパ〜ンって破裂しちゃうっすよ。
 ……って、葉月っちに言ってもすぐは無理っすね〜 もう、購買にいた頃から真面目だったっすから。」
「そうなんですか?」
 邪気の無い笑顔で弥生が尋ねると、葉月がちょっと慌てたように弥生を制する。
「教えてあげたいのは山々っすけどね、今は葉月っちは郵便戦隊のリーダーっすからね。」
 でしょ? と小さくウィンクを向ける。
「まー 真面目なのは今も昔も変わらないようっすけどね。でもそれが葉月っちの良いところっす。」
「はい。」
 笑顔のマッコイ姉さんと弥生がそううなずきあって、葉月としては居心地が悪い。
「あーっ!!」
 そんな空気をぶち破るように大きな声が聞こえてきた。
「葉月に弥生! もう大変なんだよっ!!」
 あっちこっち走ってきたのだろうが、息一つ乱していない卯月がズカズカとやってくる。
「あ、マッコイ姉さん、こんにちわ。
 ……じゃなくて、もう窓口混雑してきてて、神無だけじゃ足りないんだって!」
「皐月は?」
「……あいつに窓口業務がまともに勤まると思う?」
「そうね。」
 卯月の言葉に葉月がため息を漏らす。
「すみません、仕事が……」
 立ち上がる葉月と弥生にマッコイ姉さんがヒラヒラと手を振った。
「うんうん、しっかり働いて来るっす。簡単につまめる物作ってもらうっすから、後で持ってくっすよ。」
「重ね重ねすみません。卯月、弥生、行くわよ!」
「りょーかい!」
「はい。」
 キビキビと立ち去っていく郵便戦隊をマッコイ姉さんは優しい笑顔で見送っていった。