オリジナルブレイブサーガSS
「ハロウィンの夜〜Second Season〜」

 

「…………」
 神楽崎麗華(かぐらざき れいか)は今まで考えうる最強の「敵」を瞬きもせず睨み付けていた。
 きっと彼女の仲間であり、親友でもある少女はこの「敵」には何も恐れを抱くこともないだろう。
 それこそあっと言う間に「料理」してしまうのかもしれない。
「…………」
 ふぅ、と一つため息。
(なんでこんなに緊張してるのよ。)
 一息ついた麗華に何か小さい物が近づいてくる。
〈麗華様、〉
 彼女の従者(?)でもあるカイザードラゴン(20センチ)であった。さすがにパーティの時のタキシードは脱いでいるが……
「なんでまだ青いのよ。」
 普段は炎のような赤のボディだが、吸血鬼役ってことで青く塗っていたはずであった。
〈いえ、実は謙治様にお願いして、ボディカラー自体変えてもらっていたもので、明日にでもデータ修正していただかないとこのままなのでございます。〉
「まぁ、いいけど……」
 鋼のミニドラゴンの言葉の中の固有名詞に一瞬反応してしまった自分にちょっと苛立ちながらも興味なさげに言葉を切る。
〈あ、それでございましてですね、私め、本日夜回りであることを失念しておりました。それでこれから行って参ります故、〉
 そこまで行ったところで「はいはいいってらっしゃい」と麗華が手を振る。この執事ドラゴンが毎度毎度自分に許可を求めるのはいつもの事なので、いつもと同じ方法でさっさと送り出す。
〈それでは失礼致します。〉
 20センチのまま、部屋のドアの横にある小さな出口を抜けてカイザードラゴンが出て行った。
 急に部屋がシンとしてしまう。
 そうなると「敵」の存在がヤケにはっきりと感じられるようになった。
「…………」
 ふぅ〜っ、と少し長目のため息。
 すごく馬鹿馬鹿しいのは自覚しているのだが、女の子としてはなんとなく譲れない問題であった。
(確かに憶えはあったわね……)
 麗華は幼少を海外で育っており、ハロウィンにも結構慣れ親しんでいた。確かにそんなことを子供の頃にやった憶えもある。
 でもあの時は軽い気持ちでやっていたのだが、思春期を越え日本に戻って来てからはハロウィンのバカ騒ぎも無かったので、忘れかけていた。
(ハロウィンの真夜中にリンゴを食べて後ろを振り向かずに鏡を見たら、将来の……)
 伴侶、という言葉を呟きそうになって、慌てて止める。
「馬鹿馬鹿しい……」
 ホントにそう思うなら、普通にリンゴを食べれば良いのだ。こんな子供だましの……
(そう、子供だましよね。ちょっと試したところで何か起きるわけ無いじゃない。)
 自分に言い訳している時点ですでに末期のような気もするが、自分ではさり気なく、端から見ると何処か鬼気迫るオーラをまとってリンゴに口をつける。
「あら……」
 溢れる甘さに爽やかな酸味に思わず声が出てしまう。掛け値無しに美味しい。さすがはスーパー商売人のマッコイ姉さん、というところだろう。
 一応部屋にペティナイフの一つもあるのだが、このおまじないは皮ごと食べるのが習わしになっている。ただ、皮を剥けるか? と聞くのは彼女に酷である。
 少しは落ちついたのか、味わいながらリンゴを食べていく。
 芯だけ残って食べ終わると深呼吸。
(It is only a cantrip.There is no necessity of being afraid.)
 自分に言い聞かせるように呟くと、ゆっくりと鏡台に向かって歩いていく。
 バタッ。
 いきなり背後で物音がした。反射的に振り返りそうになって、意志でその動きを押さえ込む。後ろを振り向いては効果が無くなるのだ。
 物音に驚いた心臓もどうにか押さえ込むと、いつもの5倍くらいの時間をかけておそるおそる鏡を覗き込む。
 ……
 …………
 ………………
(まぁ、当然よね。)
 安堵と落胆の混じったため息が漏れる。
 鏡には自分の姿しか映っていない。
「…………」
 なんて顔しているんだろう。まるでプレゼントをもらえなかった子供のようだ。
 急に熱が冷めてくる。
 自己嫌悪になって顔を伏せたとき、ふと鏡の一部が光ったような気がした。
「?」
 ふと目をこらしてみると、何かの光の反射のようだ。
(ガラス……? あそこにあったのは確か……)
 振り返ると机の上の写真立てが目に入った。
 わざわざ各人別々に撮った仲間の写真。せっかくだから、とある少年と少女の写真を隣り合わせに置いておいたらそれが倒れてしまったらしい。となると……
 スックと立ち上がると、机に歩み寄ってひとつだけ倒れてなかった写真立てを倒す。
「……何も映らなかったわ。
 まったく、時間を無駄にしちゃったわね。」
 そろそろ寝よう、と思ってもう一つの言い伝えを思い出す。
(靴をT字に脱いで、後ろ向きに歌を口ずさみながら寝ると…… だったわね。)
 ぶつぶつぼやきながらも一度ドアの方に向かう。
「戸締まり確認しないとね。」
 言い訳するようにオートロックで締まるドアを確認して、ついでとばかりに一度靴をはき直す。
「もう寝るしね。」
 言い訳に言い訳を重ねながら靴を脱いでTの字になるように置いた。
(確か……)
 トーコが言ってた歌詞を思い出そうとする。そういえば遠い過去に聞いた憶えがあるが、正確に思い出せない。
(こんな感じよね?)
 二つの記憶を組み合わせて、どうにか歌詞を組み立てる。

♪ Tの字形に靴をぬぎ、
  ハロウィンの夜の夢を見る
  晴れ着姿の彼でなく
  さりとてボロも着ておらぬ
  普段のままの彼の夢

 小さくソプラノを響かせながら後ろ向きに歩く。
 ベッドまでたどり着くと、そんなおまじないを実際に試している自分がおかしくて、苦笑しながらシーツに潜り込む。
(……どんな夢が見られることやら。)
 ため息を漏らしながら、麗華はゆっくりと眠りに落ちていった。

 翌朝。
 いつもにも増して寝起きが悪かった。
〈麗華様、いかがなさ……〉
 まだ青いままのカイザードラゴンも絶句するほどの澱(よど)んだ目をしていた。
「あ゛〜〜〜〜〜〜 ちょっと眠れないような事が起きて……」
 ブルブル頭を振って眠気を強引に振り払おうとするが、実際に睡眠時間が短くてシャッキリとしない。
 カイザードラゴンの補助もあって、どうにかシャワーを浴び身だしなみも整えたのだが、顔全体に見える寝不足の跡はそう簡単に消せるものではなかった。
〈本日はお休みになられた方がよろしいのでは?〉
「大丈夫よ大丈夫……」
 寝不足だけじゃなさそうな体調不良に足下がフラフラと揺れる。壁に手を付きながらもどうにかこうにか「ラストガーディアン」の通路まで出た。
 バッタリ。
 外に出た途端、同じドリームナイツのメンバーである田島謙治(たじま けんじ)と鉢合わせする。
「あ、おはようございます。神楽崎……さん?」
 どう見ても具合の悪そうな麗華に謙治が心配げに声をかける。
 対する麗華は、というと、謙治を見た瞬間、目を見開いて驚愕に仰け反るように壁際まで下がる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 そして頭から蒸気を噴き出すかのような勢いで紅潮する。
「……え?」
 普段からは絶対想像できないような姿に謙治が目を丸くしていると、いきなり頬をひっぱたかれた。
「謙治のバカァァァァァァァッ!!」
「え? ええっ?!」
 現状を全然把握できないでいると、麗華は真っ赤な顔のまま勢いよく走り去ってしまった。
 早朝だったので、目撃者がいなかったのが不幸中の幸いというか何というか。
「僕が一体何を……?」
〈謙治様、朝から災難でございましたな。〉
「災難というか…… 一体どうしたんだろ?」
〈さぁ、私には見当も付きません。〉
 しれっとした声で遅れて出てきたカイザードラゴンが応える。
 ぶたれた頬はヤケに熱かった。