オリジナルブレイブサーガSS
「密林の恐怖(嘘)

 

「…………」
 深いジャングルの中を歩く。
 周囲の気配を探るが、様々な生物に満ちあふれる密林はあちこちから気配が感じられて何も分からない。それこそ下手な隙を見せたら息を殺した猛獣に襲われてしまうのかも知れない。
 ぎゅっ、と刀を握り直す。ナイトブレードは持ち込めないので、用意された物が唯一の武器だ。
(いや……)
 自分にはマイトもある、と御剣志狼(みつるぎ しろう)は無理矢理有利な条件を探そうとした。
 今彼がいるのは特殊な仮想空間であった。環境再現や訓練用のシミュレーションスペースとドリームフィールドシステムを適当に組み合わせて作った、というのは空山(そらやま)リオーネと小鳥遊一樹(たかなし かずき)の弁だが、
(適当、って大丈夫かい。)
 ひとりぼやく志狼。とはいえ、草を踏む感覚もリアルで、肌にまとわりつくような湿気も作り物とはとても思えない。
 相手が相手だから、たやすく見つかるような場所にはいないのだろう。撃つ瞬間の殺気さえ捉えることが出来たらまだ勝機はある。見える銃からの弾丸ならどうにか見切る自信があった。
(どこからでも……)
 ぷつん。
 気配ばかりに気を取られて、足が何かを引っかけた。
(なんでこ……)
 そこまで考えるまもなく、横合いから爆発音と共に飛来してきた1.2ミリの金属球700発の内の何割かが志狼の意識を刈り取っていった。

 教訓。
 ジャングルでは足下に気を付けましょう。

 

 ことの起こりは相変わらず些細であった。
 勇者のパートナーや搭乗者、その他が日々鍛えあう道場。
 その中で志狼はやはり、というか抜きん出る存在であった。
 いわゆる「少年少女」達の中で剣を使った技はトップクラス。身体能力も超人並。更に意識的に無意識的に使っているマイト(魔法的な力)が身体能力を更に上昇させている。剣鬼とも恐れられる父剣十郎(けんじゅうろう)の鍛錬にも耐えられるのは伊達ではない。
「やっぱり御剣君は強いですねぇ。」
 持ち方からして怪しかった竹刀を杖代わりにして、へばった田島謙治(たじま けんじ)が感心とどこか揶揄したような口調で言う。
「まぁな。」
 満更でも無い志狼。
「剣さえあれば、まぁ同じ年代で勝てる相手はいないんじゃないか?」
 あながち間違いでも無いから、ちょっと天狗になるのも仕方がないのかも知れない。
「なるほど……」
 すっ、と謙治の声の温度が下がる。
「じゃあ、一つ勝負してみませんか?」

 

 そんなわけで謙治の発案により、以前から研究中だった仮想空間システムが用意された。
 ドリームフィールドにより擬似的な夢の世界をつくり、そこにシミュレーションシステムで仮想空間を作り上げるのだ。ここに入ることにより五感全てに影響するシミュレーターとして作用するのだが、システムを安定させるためにドリームナイツの持つドリームティアが最低一つ必要だったりする。今後はダミークリスタルで代用を考えているが、現時点ではドリームナイツ1人に後1人が入るのが限界であった。
「じゃあ、御剣君は刀でいいですね。こちらは個人レベルの装備・火器しか使わないので。」
「ちょっと待ったぁ! 火器って何だ火器って。」
「……小銃とか、拳銃とか、いわゆる銃器ですね。さすがに重火器は取り回しが利かないので。」
「いやそうじゃなくて。」
「嫌ですねぇ、」
 心から爽やかな笑顔を浮かべる謙治。
「接近戦で僕が勝てる道理があるわけないじゃないですか。」
 それに、とこの勝負のきっかけになった言葉を出されて志狼も納得せざろう得ない。
「それじゃ始めますよ。」
 小鳥遊の声が二人を遮る。
 またこう、微妙にタイミングをずらされて声を掛けられると、もう言葉を返せない。
(まぁ、どうにかなるか。)
 気楽に考えて寝台に横たわる志狼。向こうでは既に謙治も準備を済ませていた。
「ヴァーチャルドリームシステム、最終確認終了。」
「了解。それでは起動します。」
 リオーネの小鳥遊の声が聞こえて、装置のスイッチが入れられると、志狼と謙治は夢の中に落ちていった。
 そして冒頭に戻る。

「ちょっと待てぇっ!!」
 夢から醒めた瞬間に身を起こす志狼。
「……おや、どうかしました?」
 少し呆けていたのか、一拍遅れて返事をする謙治。
「何だよ今のは!」
「え〜と、M18A1クレイモア対人地雷ですが?」
「たぶんあっているんだろうけど、そうじゃなくて……」
 はて? と謙治は小鳥遊やリオーネに同意を求める視線を向けるが、2人とも分からない、と言うように首を傾げる。
「ていうか、おかしいだろ! なんで1対1の勝負で地雷なんか出てくる!」
「いや、一応勝負が始まってから僕が仕掛けたものですが?」
「…………」
「こう言っちゃあなんですが、僕が真正直に御剣君の前に出たら十中八九負けるじゃないですか。」
「あってるような気がするが、なんか釈然としねぇ……」
 ぶちぶちぼやきながらまた寝台に戻る。まだまだやる気らしい。
 謙治も同意して、再び装置のスイッチが入れられた。

「……トラップを仕掛けてきているわけだ。」
 どのみち気配で探すのはあまり有用ではない。
 身体を低くして目をこらしながら歩いていると、しばらくして足に引っかかる高さにワイヤーが見えた。
(よしよし……)
 今度は引っかからないぞ、と思いながらワイヤーをゆっくりまたいで……
 ズム、と足を置いた地面が沈んだ。どうやら浅い落とし穴のようになっていたのだろう。
 予想しない事に身体が傾く。手をついて身体を支えようとして、のばした手の先にワイヤーが見えた。
 ぷつん。
 避けられない体勢で戦場のパイナップルが至近距離で爆発した。

「もう一度だ!」
「いいですよ。」

 3戦目。
 トラップを避けようとして、沼地に誘導され戻ろうとしたところにロケットランチャー。

 4戦目。
 虫眼鏡と太陽を使った簡易タイマーで鳴り響いたライフルの銃声に気を取られた所を背後から撃たれる。

 5戦目
 電光石火でトラップが発動する前に駆け抜けようとする。
 狙いは正しく、発動までのタイムラグが一瞬あるので背後で爆発音が立て続けに聞こえた。
 が、トリガーのワイヤーの中に1本だけスネア(転ばせる)ワイヤーが仕掛けられていて転倒。爆発が志狼を包み込む。

 6戦目
 色々策を練って行動しようと思ったら、いきなり落とし穴にはまった。
 穴の底には尖らせた木が。

 7戦目
 対抗して、マシンガンを使ってみる志狼だが、反動に振り回されている間に銃声一発。

「これで負けたら8連敗か……」
 得意の剣を使う機会も与えられてない。
 まるでこちらの動きを読んでいるかの如くにトラップが……
「ちょっと待てぇ!」
 そうだ、忘れていた。
 向こうには心理学者がついているのだ。幼なじみのエリィか父親の剣十郎に色々聞いて分析すればこちらの行動を読めるのかも知れない。
(どうするどうするどうする……)
 ダメだ。下手に考えても意味がない。
(こうなったらっ!)
 向こうは地上に罠は張れるだろうが……
(樹の上までは無理だろ!)
 3m程の所にある枝に飛びつくと、そのまま器用に昇っていく。
 樹の上に立って、周囲を眺めて……
「待ちくたびれましたよ。」
 高台でライフルを構えた謙治が見えた。
 銃声。

「先に断っておきますが、小鳥遊博士には手伝ってもらってませんよ。」
「でもなぁ……」
「これも“戦術”って奴です。
 どうですか? 剣の腕があったとしても、状況をうまく使えば幾らでも封じることができるわけです。」
 ハッ、と志狼が何かに気付いた。
「もしかして……」
「ヴォルライガーは基本的に接近戦能力に長けています。御剣君のスキルもあって、接近戦ではほぼ最強クラスです。
 しかし、相手が多い場合、1体1体倒している間にダメージが蓄積されていきます。……心当たりはありませんか?」
「…………」
 指摘通りだった。
 一騎打ちではほぼ無敵。大抵ダメージを受けるのは敵の集団に無策に突っ込んでいった時だ。縦横無尽な攻撃を避け続けてはいるが、それでも避けきれないことが多い。
 ヴォルライガーはその性質上、合体する度に志狼に負担がかかり数日間戦闘が出来なくなる。その間に自己修復しているのだが、最近はそれだけじゃ修復しきれなくなってきた。志狼が負担に慣れ、戦闘のインターバルが短くなれば、ますますヴォルライガーのコンディションは悪くなるかもしれない。
「それを教える為に……」
 少し天狗になっていたのかも知れない。そう考えて落ち込む志狼。
「いやぁ、それが……
 なんかやってる内に僕も楽しくなってきて……」
 あっはっはと笑う謙治に志狼はがっくり肩を落とす。
「でもまぁ、エリィさんが心配していたのは確かですよ。
 それにせっかくですから、一太刀くらい返して下さいねぇ。」
 謙治はニヤリと笑みを浮かべた。
 そして再び勝負が始まった。

 

 

 それからずっと連敗街道まっしぐらだったのだが……
「よぉし、もう一度だ!」
「……もう勘弁して下さい。」
 謙治根負け。