オリジナルブレイブサーガSS
「超人伝説3rd」

 

 

 フェアリス=和菜(かずな)=ウィルボーンはちょっとした不満があった。
 不満、というのはちょっと言葉が違うが、概ねそんな感じだ。
 彼女のナイトとなることを自らの誓いとしている鋼の騎士ロードのことだ。彼自身には何も不満はない。しかし、ロボット然していることが問題であった。
 艦内には人でない機械の身体を持つ者は彼だけじゃない。
 カイザードラゴンなんてドラゴン型のまさしくロボットだが、20センチくらいに縮んだり、またはデータに返還することもできる。またオペレータのメイアはロボットと言うよりアンドロイドで言われても人間と見分けがつかない。
 しかしロードはどう見てもロボットであり、「こちら」の世界の技術レベルではあり得ない存在である。それ故に街を歩くことが出来ない。
(ロードが悪いんじゃないけど……)
 フェアリスが小さくため息をつく。
 記憶を失ってからずっとナイトとして付き添ってくれているロード。
 トリニティとの戦いはあるが、世界自体は平和なこの世界。街の散策もショッピングも気軽に出来るけど、ロードとは一緒に歩けない。
(寂しい、なぁ……)
 こっちに来て艦内の友人に外に連れ出されたことは何度もある。確かに楽しかったが、やはり隣にいない鋼の騎士が気にかかる。
 姿を変えたり消したりする方法も色々考えてみたが、どれも決め手に欠け実現しそうに無い。
「う〜ん……」
 ぽすっ、とベットに横たわる。
 ロードとの関係は一口では説明できない。フェアリスにとっては兄でも父でも恋人でも無いような気もするし、そうであるような気もする。パートナーなのだろうか? それとも姫とそれに仕える騎士?
 自分がロードと一緒に街を歩きたい、というのは単に姫のワガママなんだろうか。
 ぐるぐる色んなことを考えながら室内に視線を彷徨わせていると、ふとカレンダーが目についた。10月も終わり。そう言えば艦内でも……
「あっ!」
 もしかしたらその日だけ使える方法があるかも知れない。
 そう思い当たったフェアリスは善は急げと部屋を飛び出していった。

「え? イベント?」
「はい。」
 ん〜 と指を口元に当てて考える桃井皐月(ももい さつき)。生活班郵便部、通称郵便戦隊のお荷物兼ムードメーカーだ。とはいえ、情報通であり自分の業務に関係ない知識には定評がある。歩くタウンガイドと密かに艦内では通っていた。
「沢山ある、って言えばあるんだけどぉ〜」
 埋め立てで作られた人工島アクアワード。BAN(「ラストガーディアン」が所属する秘密裏の地球防衛組織)の隠れ蓑としての側面もあるのだが、設計段階から綿密な都市計画がされて、数年前に開かれた人口都市である。それ故歴史も無いのだが、その反面新しい文化を柔軟に取り入れるという面もある。
 日本ではあまり見られないこのイベントも、あちこちで大々的に行われていた。
「やっぱ、シーサイドパークのが一番大きいかな? みんなそんな感じだからきっとバレないんじゃないかな。」
「はい、ありがとうございます。」
「ん〜 あとはあそこに応援頼んだらいいかな?」
「あそこ?」
 何となくイヤな予感がするフェアリスだった。

 ぐおんぐおん……
 白を基調にしたバイク……でいいのだろうか? 後ろに巨大なロケット状のパーツがつきだしており、それの大きさに比べると前後のホイールはどうも頼りない。しかもホイール自体も普通のバイクとは付き方が違うようで、バイクというよりは未来から来たマシン、と表現した方がいいのかもしれない。
 それに乗っているのは黒いボディの全身に白いラインが走った人型のもの。肩が三角形に張り出し、顔には丸を左右に分割し、上に三角のマークを配したような目とその額の三角から伸びるアンテナが目立つ。腰には大きな大きなバックルを持つベルトを巻き、バックルの中央には顔のデザインを模したようなチップが埋め込まれている。
「しかし…… これは一体何の姿だ?」
 その異形の戦士が疑問の声を上げる。その声は鋼の騎士ロードの物だ。
「こう、ちょっとヒーローっぽい感じもするけど……」
 全身に様々なパーツを付けられて、一回り大きくなったロードの膝の上にちょこんと乗っているのはフェアリスだった。しかしいつもの格好ではなく、長い髪を巻くように丸めて緑色のドレスを着ている。頭には飾り布を乗せ、カラーコンタクトを入れているのか、鳶色の目は赤と緑に彩られていた。
「でも私のとは雰囲気が違うみたい。」
「しかしその…… なんだ。お人形のようで似合うぞ。」
 少しぎこちないロードの言葉に頬を赤らめるフェアリス。
『お二人さん、そろそろ到着しますよ。』
 と、2人のいる格納庫に声が響き渡る。
 せっかく用意してもらったバイク(?)だが、そのあまりの形状の為、公道を走れそうにもなかった。そんなわけで郵便戦隊の赤沢卯月(あかざわ うづき)の郵便用ビークルに乗せてもらってシーサイドパークの近くまで乗せてもらうことになったのだ。
 ちなみにこのバイク(?)を用意した某メガネ曰く「捕まるような速度じゃないですよ」との事だが、そこは装甲並みにお堅いロードのこと、見事却下された。ただ「その扮装にはそれが必須です」と言われ、こういう形の移動となったわけだ。
『後部ハッチ、オープン。』
 卯月が乗るのは大型・重量貨物を扱うための大型トレーラーだ。コンテナを換装することにより、その収容量が大きく変わるが、今回はロードとフェアリスとバイク(?)だけなので小型のコンテナで十分だ。
 ハッチが開いて外が見えると、ロードはフェアリスを抱きかかえながら、操縦用のグリップを握る。過剰なまでのパワーがあるのか、ちょっと動かそうとするだけで吹っ飛びそうになる。どうやらホバー機能もあるので、そっちを強めにしてゆるゆると動き出す。
 クラクションを鳴らして卯月が去っていくと、あちこちに奇抜な格好をした人を見ながら、ロードはバイク(?)を駐車場のスペースに入れる。
 ここはシーサイドパーク。
 人工島アクアワードの一番「外側」に位置する遊園地。アクアワードの中ならどこからでも見えるという巨大観覧車で有名である。ただ、都市設計の観点からすると、外敵から一番最初に襲われやすい所に広大な土地を用意することによって、襲撃時の都市機能への被害を最小限に食い止め、なおかつ迎撃に有利な地を確保するということは意外と知られていない。
 まぁ、でもそんなことを気にするような人はこんな所に遊びに来ないわけで、今日はその「イベント」で遊園地内は大きく賑わっていた。
「はい、どうぞお入り下さい。」
 2人してて遊園地のゲートを通る。
 今日は「ハロウィン」ということで、コスプレをしている客は無料、というイベントを行っているのだ。
 中に入ればジャック=オー=ランタンを始めとして、様々な扮装を凝らした人たちが歩いていた。

「おい、あれ見ろよあれ。」
「うわ、すげー、マジか?!」

「ん?」
 さっきから視線を感じる。
 ロードの扮装と同じような感じのコスプレ達が羨望と驚愕の目でこちらを見ている。

「おい、外見たか外!」
「え? なんだよ!」
「マジでスゲーぜ。」

「……なんか慌ただしいな。」
「お祭りだしね♪」
「…………」
 すっかり上機嫌なフェアリスに理由が思い当たらなくて首を傾げるロード。
「せっかく来たんだから楽しもう、ロード♪」
「ああ…… そうだな。」
 フェアリスが絶叫系のマシンが苦手なのか、比較的おとなしめな乗り物を一緒に乗っていく。
「……こういうのもたまにはいいな。」
 ちょっと一休み。ベンチに座って空を眺める。
 空は青く、雲は白い。
 秋らしく空は高い。
 そう言えば久しく空なんて眺めたことも無かったような気がする。
「そうでしょ?」
 フェアリスがロードの顔を覗き込む。
「身体に休みは要らないかもしれないけど『心』の休息は必要よ。」
「確かに。
 フェアリス、今日はありがとう。」
 感謝の言葉に少女は小さく首を振る。
「ううん、私も…… こうしてロードと遊びたかったから。」
 ちょっといい雰囲気が流れるが、そこに声がかけられた。
「おお、ぬしら、やはり来ておったか。」
 どこか古風ながらも凛と涼やかな声。
「叔ば……」
「師しょ……」
 フェアリスの叔母であり、ロードの師匠でもある観崎葛葉(かんざき くずは)の声に振り返って、同時に絶句した。
「ん? 私の格好のどこかおかしいか?」
「いや、その……」
 必死に言葉を探すロードに葛葉は不思議そうに自分を見下ろした。
 なんてことはない普通の濃い色の細いストラップのドレス。何か思惑があるのか、前髪を少し立たせている「だけ」である。
「たまにはこのような格好も悪くない。
 しかし、ちと冷えるのはいたしかたないな。」
 露出している肩にチラリと目を落として小さく嘆息。
「まぁ、よい。
 若い2人の邪魔するのも野暮という物。私はひとりで楽しんでくるか。」
 どこから取り出したのか、扇子で口元を隠しながら笑うと、ドレスをを翻していずことなく歩き去っていった。
「叔母様って……」
「それ以上は言うな。」
「……うん。」
 ロードの鬼気迫ったような口調にフェアリスは素朴な疑問を口に出すことは出来なかった。

「……ところで、」
「なんでしょうか?」
 トゲを交えて放った少女の言葉も、少年には通用しないようだった。
「…………」
「あの…… え〜と?」
 トゲが不発に終わったのを悟って、ため息混じりに質問に変えることにする。
「で、これは何の服装なの?」
 まるでバーテンダーのようにパンツとベスト姿の神楽崎麗華(かぐらざき れいか)が田島謙治(たじま けんじ)に問う。
「まぁ…… でも別に変な衣装じゃないでしょ?」
 曖昧な笑みを浮かべながら、ちょっとつり上がったメガネの謙治が答え、手に持った詩集を持ち直す。
「そうね。きっと聞いても分からないのでしょうけど。」
「そう、ですね。」
「まぁいいわ。行くなら行きましょ。」
「はい。」
 よく考えたらデートなのだろうが、素直になれない性格と、ここぞとばかりの鈍感さで、この少年少女はいつものように歩いていくのであった。

「む。」
 ある達人が空を見上げて唸った。

「これは……?」
「どうしたのロード?」
 1人の騎士が「何か」の接近を感じた。

「次はどこがいいかしら?」
「あ、これなんてどうでしょう?」
 この2人は他のチームメイトと比べ、見事に一般人だった。

「ディメンションディスt以下略!」
「大量のロボット兵g以下略!」
「白兵戦が出来r以下略!」

 ワラワラとあちこちからロボット兵が湧いてくる。
 いきなり現れた「敵」に悲鳴が上がり、様々な扮装をした一般市民たちが蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す。
 ただ、ロボット兵の数は多く、避難誘導もされないで逃げまどう人たちにシーサイドパーク内は混乱の極みであった。
「ファイヤ。」
 ――burst mode
 コスプレの小道具かと思った腰の銃らしき物は本当に銃だった。
「このっ!」
 銃から放たれたエネルギー弾がロボット兵の表面で弾ける。一撃では倒せず、数発でどうにか倒せるようだ。銃を使うのはほとんど初めてだが、機械の身体故に正確な射撃が出来るのがありがたい。
「フェアリス! 今の内に他の人を!」
「はい!
 こっちです、早く!」
 その小さい身体で一生懸命大声出して、人々を誘導していく。
「チャージ。」
 ――charge
 一定量撃つと弾切れになるのだが、すぐに装填できるので問題はないが、そのタイムラグが乱戦になると辛くなってくる。倒す速度よりも多く敵が増えてきて、少しずつ辛くなってくる。
(剣さえあれば……)
 コスプレの為に愛剣のローディアンソードは置いてきてある。ローディアンソードでなくても通常レベル以上の剣さえあれば剣技で圧倒する自信はある。
「きゃあっ!」
 背後で悲鳴。
 倒しきれないロボット兵がフェアリスに迫っていた。
フォトンバレット!
 手から光弾を飛ばすが倒すには至らない。半ば破損しながらもその腕を振り上げる。フェアリスは防御魔法も編めずにただそれを見つめるだけだった。
「フェアリス!」
 戦いの最中に背を向けると愚を犯しながらも、ロードは護るべき少女に向かい走り出した。しかし、その距離はあまりにも遠かった。

 少し時間は遡る。
「……敵のようですね。」
「見れば分かるでしょ。」
 麗華と謙治は物陰に隠れてロボット兵が歩き回っているのを見ていた。格闘技の心得も無い2人には徒手空拳で敵うような相手ではない。
 よいしょ、と謙治が持っていた「詩集」を開く。その中身はくり抜いてあって、手の平大の携帯端末――ロードコマンダーが入れてあった。蓋兼ディスプレイを開き、幾つか操作。途端に渋い顔になる。
「通信妨害がかかっています。艦に通信はもとより、リアライザーへのアクセスもできませんね。」
「…………」
 事の重大さに麗華も顔をしかめる。
 彼らドリームナイツは精神力を糧に物体を一時的に生み出すことができる。しかし、人の記憶力や想像力には限界があり、棒とか簡単な物ならともかく、武器やロボなどは作り出すことが出来ない。しかし、補助システムであるドリームリアライザーからデータを受け取りそれを実体化させているのだ。
 そのシステムにアクセスできない、ということはこの場を切り抜けるための道具を作り出せないのだ。
「後は…… ロードコマンダーに入れておいたデータですが……」
 謙治が使うこの端末にはリアライズ(実体化)に必要なデータを収納できるようになっている。
 こういう状況はあまり無いので、何が入っているかはその時の状況次第なのだが……
「お、」
 謙治の目がどこか楽しげに光る。
「何かあるのね。」
「ええ。」
 自信ありげに笑みを浮かべる。
「どうにか、してみましょう。」

「フェアリス!」
 自分を助けるために鋼の騎士が敵に背を向けてこちらに駆けてくるのが見えた。
 それでもフェアリスはいきなりのことで魔法を使う暇もない。それでもロードが間に合わないことだけは分かった。そんなことをしても仕方がないのだが、迫り来るロボット兵にフェアリスは思わず目を閉じた。
 ギンッ!
 予想したような衝撃はなく、金属と金属がぶつかる音が響いた。
 おそるおそる目を開くと、自分の肩越しに何かが突き出されていた。
 それは三つ葉のように広がった3枚の丸い刃だった。それには長い柄がついている。
「謙治!」
「2人とも動かないで!」
 続けざまに銃声が轟く。
 三つ葉の杖で動きを止められた敵ロボットは、フェアリスの後ろから放たれた銃撃にその機能を停止させられた。
「ロードさん、こちらは任せて!」
 彼女の手には不釣り合いな杖を構え直した麗華が、再び迫る新たなロボット兵にそれを突き出す。
「すまない!」
 感謝の言葉を返しながら転がるように背後からの攻撃を避ける。
「その銃に向かってスリーエイトトゥーワン、とコードを入力して下さい。」
「分かった!
 スリー・エイト・トゥー・ワン。」
 ロードが銃に向かって言うと、ピピッと電子音が鳴る。

 ――jet*lig*r
  ――get closer
 外に止めてあったバイク(?)がうなり声を上げて動き出す。
 ホバーを吹かして遊園地のフェンスを飛び越えると、一目散にロードに向かって走り出した。

「謙治! 何が起きるんだ?!」
「もう少しです!」
 迫るロボット兵にロードもそろそろ突破されてしまいそうだ。
 と、その時、横滑りしてきたバイク(?)がロボット兵をなぎ倒しながらロードの前に止まる。
「よし、」
 そのバイク(?)に乗ると、腕から接続用の端子を伸ばしてバイク(?)からデータを読み込む。使い方は理解した。
 まるで戦闘機のコクピットのようなコンソールを操作すると、側面の装甲が開き、その奥からミサイルがスライドしてくる。
 ロードの目とリンクした照準が次々とロボット兵をロック。続けざまに発射されたミサイルがロボット兵を次々と残骸に変えていく。
 ミサイルで、そして体当たりで敵を粉砕していく。
 ロードの後方ではフェアリス達3人が、一般人を逃がしながら迫る敵に対処していた。
 と、いきなりバイク(?)の後部警戒レーダーが警告を発する。
 空が一瞬かげったかと思うと、巨大な影が降ってきた。
 その影の一撃が後部に突き刺さる。バイク(?)の後ろのロケットの一機が根本からもぎ取られる。その分のエネルギーが暴発して、ロードの意志とは関係なしにバイク(?)が横に流れる。
「くっ!」
 機体を立て直せない間に再度衝撃がロードを襲う。
 まるで頭部のない肉食恐竜のような姿の大型ロボが見かけを裏切るような俊敏な動きでバイク(?)を追撃する。
 2撃目は更に深くえぐられていた。コントロールを失ったバイクが周囲のロボット兵を巻き込みながら照明のポールの一つに引っかかって前輪をもぎ取られれ、火花を散らしながら動きが止まる。
 更に大型ロボが追い打ちをかけるように上から覆い被さる前にどうにかロードは脱出した。爆風に押され、転がりながらバックルのチップを抜く。
 ――ready
 抜いたチップを銃に差し込むと、その前半分が伸びる。
「チェック。」
 ――exceed charge
 変形した銃にエネルギーが集まっていく。
 バイク(?)を破壊した大型ロボットの爪を避けながら、トリガーを引いた。
 銃口から放たれた光線がコーン状に広がり。それが何かプレッシャーを与えるのか、敵ロボットの動きが鈍くなる。
「とぉっ!」
 跳んだロードがコーンごと敵ロボットを蹴り抜く。しかし直前で動かれて、片腕を破壊するだけに留まった。敵ロボットの背中側に電送したように着地したロードだが、腰を回転させた大型ロボがそのまま腕を振るう。
「ぐはっ!」
「ロード!」
 視界に鋼の塊がいっぱいに広がると、胸に強い衝撃を受けロードは仰向けに殴り飛ばされた。
 衝撃で全身を覆っていたコスプレ用の装甲が弾け飛び、ロードの地の身体が現れる。ベルトも外れ、それは地面に落ちる前にその存在が揺らぎ、消滅してしまった。
 ……さすが△は外れやすい(ぼそ)
 一瞬回路が不調になったのか、思うように身体が動かないロードを踏みつけるかのように、大型ロボが脚部を上げた。

「まだまだ未熟だな。」
 凛とした声が聞こえたかと思うと、大型ロボの動きが止まる。
 剣閃が何筋も走り、関節部を切断された大型ロボがガタガタとそのパーツを落とす。
 物言わぬ残骸の向こうから現れたドレス姿の美女――葛葉は弟子の不甲斐なさにため息をついた。その美麗の剣士は手に赤い2本の刃物を持っている。それは時計で言えば7時くらいに曲がった刃であった。形状から考えると、刀ではなく鎌なのかもしれない。
「師匠……」
「まぁ、よい。私もたまには楽しませてもらおうか……」
 おそらく対抗勢力がいるのを察知したロボット兵がワラワラと集まってくる。
 100や200では利かない数かも知れない。しかしそれも気にした様子もなくニヤリ、と葛葉は笑みを浮かべた。
「しかして謙治殿、この“鎌”、なかなか具合が良いな。」
「いやいや、斬れ味を確かめるのはこれからですよ。」
「だがここはBGMの一つでも欲しいところだな。」
「……用意してみましょう。」

 CGを駆使しないと用意できないほどのロボット兵が列をなしていた。
 その動きがピタリと止まる。
 進行方向に人影が見えたからだ。
 人影は防具も重火器も身につけた様子が無く、手に短い刃物を持っているだけだ。しかも構えのひとつもとらずに両手を下ろして、あまつさえこちらを見てもいない。脅威度としては最低ランク。
 今回の作戦行動はこの土地を占拠し、前線基地とすること。そのために不要な“物”は排除するのだ。
 そう判断し、再び行軍を開始した。
 しかし、その人影はまるで動こうとしない。
 ロボット兵のAIではその理由までは考えもしない。排除することを実行するだけだ。

♪ ヤ○マーニ ヤン○ーニ ヤンマ○ニ ヤ○イヤ

 滑るようにその人影――ドレスの女性が走り出した。隊列の先頭に躍りかかると、両手の刃を閃かす。
 その女性――葛葉が走り抜けると、次々とロボット兵の首が落ちていく。
 シーサイドパークのあちこちに配置されているスピーカーがアップテンポの曲を流す。曲に合わせて長い髪とドレスの裾がひるがえり、刃が駆ける。
 それはまさに舞であった。
 全てが最初から決められていたような動き。敵ロボット兵が放つ破壊光線も掠りもせず、まるで演出のように空間を彩る。
 そして葛葉の刃は引き付けられたかのようにロボット兵の首を斬り落としていった。
 決してその動きは速くない。
 しかし葛葉の流れるような動きを捉えられるものはいない。
 倒されたロボット兵は物言わぬ塊として散乱しているが、それらもまるで無いかのように滑らかな足取りで駆け抜ける。

「なんてデタラメな……」
 その達人技に適切な言葉が見つからず麗華はやや見当違いの単語を呟いた。
 刃のひと振りで2、3体の敵が倒れていく。まるで漫画かアニメのようだ。
 一方ロードはグリップガードの大きい剣をリアライズしてもらって使っている。彼も一人で戦っているが、その倒す速度は師匠と比べるまでもない。
 他の3人は謙治が銃で攻撃。接近されたら対処できない謙治を麗華の杖とフェアリスの防御魔法で食い止めている。葛葉が一人で敵を引きつけているとはいえ、敵の数はなかなか減らずに、ロードはともかくフェアリス達は押されてきている。
「謙治さん!」
 一瞬、防御の呪が間に合わず、射手に迫るロボット兵。
「このっ!」
 間に無理矢理割り込んだ麗華が身体を捻るようにして杖を突き出す。
「神楽崎さんっ!」
「いいから早く!」
 返事をするよりも早く、ロボット兵の頭に銃を押し当て引き金を絞る。
 爆発した頭部の破片が細かい傷を増やしていく。
 それも治癒していくフェアリスも無限に魔法を使えるわけでもない。
「ロード!
 グリップガードの中がカードホルダーになっています! その中からスペードの6をこちらに!」
「分かった!」
 敵の1体を切り伏せながら、剣を持ち替えて扇状に広がるカードホルダーを展開する。その中から1枚のカードを抜いて、謙治に向かって投げた。
 それと同時に謙治も銃の後部にあるカードホルダーを広げ、その中からダイヤの2と4のカードを抜く。ロードから受け取ったカードを合わせて3枚のカードを手にすると、銃身の上のスリットを次々と通していく。
 ――Bullet
  ――Rapid
   ――Thunder
 ――Lightning Shot
 意味無くポーズを取った謙治の回りにアルマジロとキツツキと鹿の絵が取り囲み、それらが銃に重なっていく。
 迫る敵に銃を向け、引き金を絞ると、雷をまとった銃弾が無数に吐き出される。
 それらは謙治の意志でわずかずつ軌道修正しながらロボット兵を粉砕していく。少し無理をしたのか、やや疲労の色が見て取れるが、それでも今の一斉射で彼らに迫っていたロボット兵をだいぶ減らすことが出来た。
「代わりにこれを! 2のカードと一緒にスラッシュして下さい!」
 投げられたカードを受け取って、ロボット兵の腕をかわしながら続けざまに2枚のカードを剣の横のスリットに通す。
 ――Slash
  ――Fire
 ――Burning Slash
 ポーズを取ったロードの回りにトカゲとホタルの絵が浮かび、それが剣に集まって刀身を炎に包む。
「行くぞ!」
 キン、と一瞬ロードが光を放つと、遥か向こうまで移動していた。
 その間にいたロボット兵が炎に巻かれて次々と爆発していく。
 滅多に使うことは無いが、ロードの特殊能力であるシャインスライド――短時間の亜光速移動である。ロボット兵の間をすり抜けながら、その炎の剣を振るっていったのだ。
 謙治とロードの2人の活躍で、彼らの周囲のロボット兵は一通り片づいた。後は葛葉の周りだけなのだが……

 

♪ ヤ○マーニ ヤン○ーニ ヤンマ○ニ ヤ○イヤ

 2番に入ったらしい(謎)
 爆風や破片に巻き込まれたらしく、ドレスの裾が少し裂けたりしているが、その玉のような肌には傷一つついていない。
 見る者がいれば魅了するかの動き。しかしそれは周囲に破壊をばらまく魔性の舞だ。
 爆発で生じた炎をバックに踊る彼女は……美しかった。
 艶やかな黒髪が風に舞い、絶え間なく刻まれるステップがリズムを生む。
 3桁はいたロボット兵も残るは1体。
 その最後の1体は迫る葛葉に身じろぎせず見つめているように見えた。
 ……そう、まるで見惚れてしまったかの如く。
 シュン、と刃が走ると最後のロボット兵は首を含め全ての関節を斬り落とされ行動を停止した。
 最後の余韻を味わっているかのように刃を振り抜いたポーズで止まる葛葉。
「……悪くない。」
 そう呟くと、口元に蠱惑的な笑みが浮かんだ。

 静寂の戻ったシーサイドパーク。
 何百体分のロボット兵の残骸が転がっている。
「回収班を呼ばないといけないですね。」
 敵を全滅したようだから、艦に連絡を取ろうとしてロードコマンダーを開く謙治だが、雑音しか聞こえない。
「まだ通信妨害が?!」
「謙治、気をつけろ!」
 ロードの声に振り返るとさっきまで残骸だったロボット兵がウゾゾゾゾとうごめき出す。
「……嫌な予感がするわね。」
 皆の心中を代弁するかのように麗華が呟く。
 その予感通りに残骸がウゾゾゾゾと組合わさって、ジャンクで作られたような巨大な人型になろうとしていた。さっきまで使っていた武器はすでに夢の世界に返してある。仮にあったところで、自分たちの10倍以上の大きさの相手にどう戦えば良いのだろうか。
 腰のローディアンソードを探して舌打ちをするロード。
 分かっていることだが、艦に置いてきてあるのだ。ローディアンソードはロードを巨大化させる魔法力が込められている。巨大化さえ出来ればフェアリスの喚ぶ聖魔法獣ゲイルフェニックスと合体してヴァルロードになれるのだが。
 同じ事は麗華や謙治にも言える。通信妨害さえ無ければブレイカーマシンを召喚して戦うことが出来るが、それもできない。
 彼らの見ている前で部品の寄せ集めのような、それでいて絶望的に脅威な巨大ロボが完成する。
 腕のような部分を伸ばすと、その先からロボット兵の残骸を高速度で撃ち出してくる。
『レイウォールッ!!』
 ロードとフェアリスの声が重なると、2人の作った光の壁が発射された残骸をはじく。しかし勢いに負け押され始めてくる。更に耐えきれないのか少しずつヒビが入ってきた。
「くっ……」
「ううっ……」
 ロードはともかく、フェアリスは長引く戦闘で限界が近い。手の先の障壁の光も弱まってきている。
 ここぞとばかりに敵巨大ロボットが腕を短くしながら残骸を飛ばしてきた。
「このままじゃ……っ!」
 視界の隅でフェアリスが倒れたのが見えた。レイウォールの強度が一気に落ちて、砕け……
させるかっ!!
 裂帛の気合いと共に光り輝くレイウォールが張り巡らされる。
はっ!
 両腕を突き出すと、残骸を弾き返しながら障壁が巨大ロボにぶち当たる。ずずーんと、鈍い音と振動を伴ってその巨体が倒れた。
「ふっ、久々にやってみたが、結構できるものだな。」
 涼しげな笑みを浮かべた葛葉がドレスをなびかせながら立っていた。
「師匠……」
「和菜の様子はどうだ?」
 振り返らずに問う。
「大丈夫です。気を失っているだけのようですわ。」
「ならばよし。しかし、どうしたものかな……」
 起きあがろうとする敵巨大ロボを睨み付けたままの葛葉。彼女の愛剣アーサキャリバーなら倒せるかも知れないが、これまた艦に置いてきてしまったのだ。師弟揃ってのミスとはいえ、嘆いている暇はない。
「……神楽崎さん、ちょっと手貸してもらえますか? 僕もいい加減精神力が辛くて。」
「いいわよ、きっと素敵なアイデアなんでしょ?」
 どこか憔悴して足下がおぼつかない謙治に肩を貸しながら、ロードコマンダーを持っている手に自分の手を重ねる。
 実のところを言うと、ロードのコスチュームやバイク(?)、そして使っていた武器は全て謙治がリアライズした物である。一部壊されたり、はたまた大技を使ったりとしてそのフィードバックが謙治にも来ているのだ。
「きっと観崎さんなら使いこなせるかと。」
「ほぉ?」
 自分の名前を呼ばれて興味深げに振り返る葛葉。気を失ったフェアリスをお姫様抱っこにしているロードを手で下げさせると、少年少女の動向を見守る。
 ロードコマンダーを操作してデータを呼び出すと、お互い手を握り合って精神を集中する。麗華と謙治のクリスタルが光を放った。
リアライズ!
 2人の前に光が集まると、それは一本の大剣となった。柄の部分には何かギミックがあるのか、四角いボックス状になっている。
「……変わった剣だな。」
 本気のアーサキャリバーよりは短いが、それでも葛葉の身長よりも少し短い程の大剣。剣全体に金色の意匠が施されている。斬れ味は確かに生半可な感じはしないが……
「それとこれを!」
 最後の気力を振り絞ってリアライズした5枚のカードを投げる。それは操られていたかのように葛葉の手に収まる。
「ふむ……」
 受け取ったカードを柄のボックスに通すと、カードが次々と飲み込まれていく。

 ――Spade Ten
  ――Spade Jack
   ――Spade Queen
    ――Spade King
     ――Spade Ace

 ――Royal Straight Flash

 カードの形をした光が5つ大剣から飛び出すと、それは一列に並んで宙に停止する。
 残骸をこぼしながら敵巨大ロボがゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「そろそろ幕引きとするか。」
 魔法力を込めたものか、それとも素の実力なのか、カードの光をくぐり抜けながら、立ち上がった敵ロボの頭上まで一気に跳び上がる。
「せいっ!」
 5枚のカードの光が宿った大剣をその頭に振り下ろし、そのまま落下しながら残骸ロボを斬り裂いていく。
 胴半ばまで刃を通したところで、壁のような胴体を蹴って離れる。空中で身を捻りながら大剣を両腕で抱くようにして着地。
 その背後で爆発。
 目を閉じた葛葉のストラップが無駄に肩を滑り落ちた。

「いやいや、面白かったな。」
「はぁ……」
 迎えに来た卯月のビークルの格納庫でウキウキとした雰囲気を隠そうともしない葛葉。
 フェアリスはロードの腕の中眠ったままで、麗華と謙治はお互いにもたれ合って夢の中。ただ一人ロードだけが師匠の相手をしていた。
「なかなかスリリングなイベントだったな。」
「違います。」
 ロボットの自分はため息が出るのだろうか?
「しかし洋装もたまには良いものだな。お主もたまに着てみたらどうだ?」
「無理言わないで下さい。」
 きっと今晩は酒盛りをするのだろうか? と考えると、エネルギーが落ちそうな気がする。
 ふと腕の中の少女に目を落とす。
 自分はフェアリスのナイト。故に少女は自分にとって「姫」なのだろう。
 剣を捧げた騎士にとっての最大の褒美はやはり「姫」の笑顔で間違いあるまい。
(まぁ、色々あったが……)
 師匠の言葉を右から左に聞き流しながらロードは今日を振り返る。
(良い一日、だったかな?)
 そう思うと追わず笑みが浮かぶ鋼の騎士であった。