オリジナルブレイブサーガSS
「郵便戦隊の日常〜白」
 

 

 白神葉月(しらかみ はづき)は万能戦艦「ラストガーディアン」生活班郵便部のリーダーである。郵便“部”であるから本来は“部長”になるのだろうが、あんまりそぐわないような気もする。
 郵便部は通称「郵便戦隊」と呼ばれ、それから考えると“隊長”になるのかもしれないが、そうやって色々呼び方を考えても葉月が難色を示すだけなのだが。
 そのリーダーこと葉月は4人の仲間と共に今日も大量の郵便物と戦う。
 そんなある一日……

 白いオートバイがハイウェイを疾走する。
 乗っているライダーまで白づくめのバイクはヘルメットから長い髪をなびかせながら車の隙間を縫っていく。細く小柄で、しかも曲線を帯びたシルエットを見たところライダーは女性のようだ。それが大型のバイクを手足のように操って風となって走り抜けていく。
 女性ライダーと見てちょっかいを駆けようとしたライダーもいたが、彼女のテクニックの前のあえなく敗北してしまう。そんな勝利に酔いしれることもなく、ハイウェイを降りると人気のない倉庫街に入っていく。
 倉庫街の更に奥に入り込んでいくと、いきなり路傍に無造作に積まれた資材の山にハンドルを向け、一気にアクセルを全開にする。
 無造作に置かれているように見えるが、ちゃんと計算され、しっかり固定されていた資材はジャンプ台として白のバイクを空へと誘う。ライダーが手元のスイッチを操作すると前後のタイヤが水平となって回転し、下方向に推力を発生させた。そのまま倉庫の一つの屋根まで跳ぶと、その中央に着地する。
「……もうちょっとどうにかならないのかしら。」
 ため息混じりに呟くと、その女性ライダー――葉月がまた別のスイッチを操作すると、葉月のいる辺りの屋根に切れ目が生じてそのまま下へ降りるエレベータとなる。屋根から倉庫に入った葉月はまたバイクを走らせると、倉庫の中のから地下通路へ降りまたしばらく走る。
 地下通路から再び地上へ。見えた太陽に一瞬目を細めながらも、視線をすぐ側の巨大な建造物、否巨大な戦艦へと向ける。
「艦長の所へ緊急が一つ。ブリッジのメイアさんにデータディスクが一つ、と。」
 優先させるべき郵便物を口に出して確認すると、艦内の最短ルートを頭の中に描く。
「よし。」
 艦にシグナルを送って入口を開かせると、アクセルを吹かせて艦内に飛び込んでいった。

「なぁなぁ、ちょっとええやんかー」
「ん〜 自分から誘うのは楽しいんだけど、人から誘われるのはねー」
 艦内の通路。西山音彦(にしやま おとひこ)がトーコをナンパしていた。トーコは別に嫌でもないのだが、自分がリードしないのはびみょーな感じで、とりあえず言葉遊びを楽しんでいる。
 と、
 通路に埋め込まれた照明が道路のセンターラインのように点灯する。
「?」
「あ、ヤバっ。」
 音彦が首を傾げている間に、何か危険を察知したトーコが《テレポート》でその場から離脱する。照明の意味を思い出している間に何かのエンジン音が聞こえてきた。
 思い出して逃げようとした瞬間、走ってきたバイクに跳ね飛ばされて天井と床に叩きつけられる。
「な、なんでワイが……」
 しかも出番はこれだけ(笑)
「そんなアホな……」
 ガク。
 轢かれたことよりもこっちの方がダメージが大きかったらしい。

 ちなみに、葉月のバイクは唯一艦内を走ることを許されているマシンである。それ以外の人が艦内でバイクを乗り回すと、もれなく風紀委員に追いつかれることになったり。……ちなみにロードチームやカイザージェットがどういう扱いになるかは現在検討中である。

 閑話休題(それはさておき)
 元々広くは作られているが、バイクが走り抜けるのはやや余裕がない通路を危なげなく走る葉月。全長1キロ超なので、歩いて行くには時間がかかるし、トラムも行きたいところに真っ直ぐ行けるわけではない。となると、最速の手段は“走る”ことになる。
 長い通路を走り抜け、ブリッジの入り口前でタイヤを滑らせてバイクを止めると、その後ろに積んであった荷物を手にブリッジに入る。
「さすがね。」
 振り返りもしないで手を伸ばす艦長――綾摩律子(あやま りつこ)に封筒を手渡し、ナビゲータシートの金髪金眼の少女にディスクを手渡すと、それぞれから受け取りのサインをもらいこの仕事は終わりだ。
「ご苦労様。」
 艦長の言葉に送られて、葉月はブリッジを辞した。
 通路に出てメガネを外してヘルメットを取り、またメガネを付ける。
 頭を小さく振ると、ヘルメットで抑えられた髪が柔らかさを取り戻す。ポケットからリボンを出して髪を縛ろうとするが、どのみち髪も身体も汗で汚れている。元の業務に戻る前にシャワーでも浴びた方がいいだろう。
 ヘルメットをしまい、乗ってきたバイクを押す。
 普段置いてある格納庫まではさっきと同じ道を戻らなければならない。
 行きは仕事だったから走っていったが、帰りはトコトコ歩かなければならない。
(バイクを片づけて、シャワー浴びてから…… やることが沢山あるのに……)
「ぐぇ。」
 考え事をしていたせいか、押していたバイクが再び音彦を轢いているのにも気付かずに歩いていく。とりあえずもう一度出番があっただけ、まだ音彦にとっては幸運だったのかもしれない。
 再び艦後部の格納庫に戻ってバイクを整備班に預け、トボトボと自分の部屋に。
 ライダースーツのチャックを下ろし、溜まってきた洗濯物にため息を付いてから服を脱ぎ捨ててシャワールームに入る。本当は長風呂好きなのでゆっくり大浴場に入りたいのだが、時間が勿体ないので汗を流すだけ、こんな時は長い髪も邪魔に感じてしまう。
 洗った髪を半乾きで縛って、すぐに郵便戦隊の制服を着て仕事に戻る。
 早朝から出かけたので、朝から何も食べていない。時間はすでに昼を過ぎているが、空腹もピークを過ぎたのかあまり感じなくなってる。
 それよりもやらなきゃならない仕事のことでお腹ではなく頭がいっぱいであった。

「卯月(うづき)! この荷物、厨房までお願い!」
「あいよぉ!」
「弥生(やよい)! こっちのデータ入力お願い!」
「はい。」
「皐月(さつき)! この伝票、確認お願い!」
「はぁい。」
「神無(かんな)! 窓口ちょっとお願い!」
「ん。」
 4人の仲間に指示を飛ばしてから書類をまとめる。艦のあちこちに届けなきゃならない重要度の高い書類も多い。こればかりは後回しに出来ないし、性質上葉月か、またはサブリーダーの青木(あおき)神無でしか扱えない書類である。窓口を神無に任せたため、葉月が行かなければならない。
「ねーねー葉月ちゃん?」
「何?」
 急いで出ようとする葉月を桃井(ももい)皐月が呼び止めた。後で、って言わないのが葉月の生真面目なところだろうか。
「葉月ちゃん、あんまり顔色良くないけど大丈夫?」
 皐月の言葉に神無と緑川(みどりかわ)弥生も葉月を振り返る。
「確かに具合が良く無さそうだな。」
「少し休まれたらどうですか?」
「…………」
 確かにオーバーワーク気味なのは認めるが、だからと言って休んでもいられない。
「自分の身体のことはよく分かってるから気にしなくていいわよ。」
 なんて、アテにならないことを言い訳にして、郵便部のブースを出ていく。
 カツカツと靴を鳴らして通路を早歩きする。
 くしゅん。
 髪が生乾きだったのがマズかったのか、思ったより冷えてきた。
 まぁ、歩いていれば乾くし暖かくなるわね、と思いながら仕事を優先させることにした。

 艦長室に研究班、情報班に補修班と艦のあちこちを回ってくる。朝から働きづめで足も棒になりそうだ。あとは整備班と生活班を回ればとりあえず終わりだ。
 整備班に書類を届けるために格納庫に向かう。
「おや、ミス葉月。」
 いきなり目の前の列車(283系オーシャンアロー型なのだが、鉄道に詳しくない葉月には分からない)が声をかけてきた。
 乗り物から変形するビークルロボのたまり場なので、声をかけられること自体は珍しくないが、その理由に思い当たらずに驚いていると、それをどう判断したのかその列車が変形して立ち上がりビシッ、と直立不動の体勢をとる。
「申し訳ございません、私ナイトライナーです。」
 名前通りの騎士を思わせる精悍な顔が心配そうに葉月を見下ろす。
「失礼を承知で申し上げたいのですが、ミス葉月、体温がやや高いように感じられます。私のセンサーのミスだとよろしいのですが……」
「…………大丈夫ですわ。」
 不自然な間で返す。
「そう、ですか。」
 ナイトライナーも歯切れ悪く返すが、本人がそう主張している限りしつこく聞くのは失礼だと判断したのだろう。
「でもミス葉月、少しでも具合が悪いようでしたらすぐにでも休んで下さい。ただでさえ働き過ぎなのですから。」
 心底心配しているのが分かったので、事実あまり調子が良くない葉月は簡単に礼だけ言って、逃げるようにナイトライナーの前から去っていった。
「……でも休んでられないのよね。」
 まだまだ仕事は残っている。
 整備の担当者が見あたらなくて、広い格納庫のあちこちを歩き回らされる。
 少し気分がぽやぽやしてきた。心なしか視界がぼんやりしているような気がする。

 ♪〜♪♪〜♪〜〜

 どこからかもの悲しいハーモニカの音色が流れてきた。
 いつの間にかに格納庫の奥の方に来ていたらしい。収納されているマシンに比べ広大な格納庫だと、やはり発進口から離れたこのあたりにはウィルダネスという異世界から来た野生生活(笑)に慣れた人たちの住居のランドシップという巨大な装甲車が鎮座していて、あとはすぐに使わない物や、広い空間をバスケットコートに使っていたりと、ある意味やりたい放題の区画である。
 そんな更に奥からそのハーモニカが聞こえてきた。
 思考能力を失った頭でふらふらと誘われるように歩こうとして、不意に足がもつれた。
 あ、転ぶ、とどこか他人事のように思いながら、手をつくという本能的なことも出来ずに葉月はゆっくりと倒れた。倒れた拍子に眼鏡が飛んで床で跳ねる。
 服が汚れるな、とか床が冷たいな、とかどこかズレたことを考えながら彼女の意識は闇へと落ちていった。

「葉月ちゃん遅いねー」
「そうだなー」
 山のような荷を届けてきた赤沢(あかざわ)卯月も戻ってきて、葉月に言われた仕事も一通り片づき、窓口も平和を取り戻した。まだまだ未整理の書類もあるのだが、それは葉月が目を通さないと分からない……というか、分かるか分からないかすら分からないので、微妙に暇な時間になってしまった。
「困りましたわね。葉月が戻ってこない仕事が進みませんわ。」
 口元のほくろあたりに指を当てて「ちょっと困ったわね」という弥生の言葉の、他の3人もうんうん、と頷く。
「ちょっと様子見てくる。」
「あ、あたしもー」
 神無が立ち上がると、皐月もツインテールを揺らしながら立ち上がる。神無はそんな皐月を一瞥するがどうせ言っても無駄だと思って、小さく肩を竦めてから郵便部のブースのドアを開く。
 と、いきなり差し込んでくる光。
 通路の照明の何倍ものまぶしさに手で目を覆いながらも光の正体を探ろうとする。
 その光の中には人影が見えた。仁王立ちしてどうやら腕を組んでいるらしい。
「ふはははははは〜っす!」
 そのシルエットが笑い声を上げた。はたしてその正体は?!(バレバレ)

 ………………
 …………
 ……
「……ううん?」
「おや、気づかれたようですね。」
 目が覚めたところに柔らかい声がかけられる。
 高い天井。
 眼鏡が無いのかボンヤリとしか見えない。
 身体を起こそうとして、額に何か乗っているのに気づく。
「おっと、まだまだ安静にしていて下さい。」
 優しく肩を押さえられ、再び寝台に戻される。
 眼鏡が無い視力でも間近に見えた男の顔ははっきり見えた。あまり郵便物に縁がないのか会った機会は少ないが、ウィルダネスのイサムであった。にこやかな笑顔を浮かべながら、ウッドデッキの上に正座しなおしてコンロにかけた鍋の様子を見ているようだ。どうやら今寝かされているのはそのウッドデッキの上に置かれたローソファのようだ。
「これでもどうぞ、身体が温まりますよ。」
 眼鏡を手渡されて――どうやら壊れては無いらしい――次にセラミック製らしい食器とスプーンを持たされる。中身はシチューか何かのようだ。
 お腹までは鳴らさなかったものの、朝から何も食べてない胃袋にはとても魅惑的な香りと、イサムの笑顔に押されてゆっくり口に運ぶ。
「美味しい……」
「それは良かった。」
 ますます優しい笑顔を浮かべられて、あんまり異性に免疫のない葉月は顔を赤らめて、それをごまかすためにシチューに集中しているフリをする。葉月のそんな姿を自分の作った料理を喜んでくれたと思って嬉しいイサム。
 結局2回ほど葉月がお代わりをして、一息つくことができた。

「あ、あなたは……」
「あー マッコイ姉さんだー」
 一応は驚いてみる神無に、嬉しそうな声を上げる皐月。
 そう、光の中から現れたのは謎の数は日本で2番目(「じゃあ1番は!?」「ひゅ〜 ちっちっちっちっち(くいくい)」)という、どこからどこまでも謎だらけの購買の主、マッコイ姉さんその人であった。
「お手伝いに来たっすよー」
「はい?」
 神無の驚く声も気にした様子もなく、すたすたと郵便部のブースに入ってくるマッコイ姉さん。別段部外者立ち入り禁止、って訳でもないが……
「って、それ……?」
 入ってきたマッコイ姉さんに弥生も卯月も驚いた顔をする。
 いつものツナギ状の制服にエプロン姿ではなく、郵便戦隊の制服に腰からのエプロンをつけている。ちなみにいつもの5人はそれぞれ自分の色のリボンを首にしているが、マッコイ姉さんは紺色のネクタイを締めていた。
「そろそろ仕事の溜まり具合が大変なころっすしょ? それに葉月っちが倒れた、って連絡来たっすから、あたしが葉月っちの分もお手伝いっす。」
「はぁ、葉月の代わりですか…… って、」
『えええぇぇぇぇぇっ!!』
 ブース内で4人の叫び声がハモった。

「というわけで、格納庫で倒れていたところを……
 あ、そういうわけで、お二人さん、もういいですよ。」
「大丈夫ですかミス葉月!」
「…………」
 さっきまで背景の一部だと思っていた柱が動くと、ナイトライナーの顔が近づいてきて心配そうに葉月を見下ろす。そしてこれまた背景だと思っていたところにいた不知火誠(しらぬい まこと)が一瞬だけ葉月を見ると、何事も無かったかのように持っていたハーモニカを吹き始めた。
「大丈夫です。疲労と風邪が重なってダウンしただけですから。
 倒れていたあなたにナイトライナーさんが気づいて、不知火さんがここまで運んでくれたんですよ。」
「え……?」
 驚いて2人を見ると、ナイトライナーは「騎士たるもの当然のことです」とばかりに胸を張り、不知火は見られているのは分かっているのに気づかない振りをして黙々とハーモニカを吹いている。
 と、一度口を離してボソリと「無理はするな」と一言だけでまた演奏に戻る。
「ああいう人ですから気になさらないで下さい。少し顔色も良くなってきましたが、もう少し休んでいた方が良いですよ。」
「あ、でも、」
 仕事が…… と言いかけた所で、イサムの笑顔に止められる。
「ハーブティでも入れましょう。あ、不知火さんもどうぞ。ナイトライナーさんは…… 飲めないんですね。残念です。」
 テキパキと用意を始めるイサムに葉月は黙ってみているしかできなかった。

 

 ババババババババ……

 ホントにそんな音はしないのだが、アシュラマンが冷血の面を更に真っ青にするくらいの勢いでマッコイ姉さんの手が動く。
「ほぇ〜」
「…………(にこにこ)」
「うそぉぉぉぉぉぉっ!!」
「あ〜 マッコイ姉さん、これもこれも。」
 4者4様ではあったが、その働きぶりは驚愕に値するものだった。というか、下手するとデスクワークに限ってだが、郵便戦隊5人揃っても太刀打ちできるか怪しいくらいの速度だ。
 ひゅん、と風を切ってマッコイ姉さんが後ろも見ずに投げた書類の束が皐月の手に収まる。
「皐月っち〜 これ、チェックやり直しっす。」
「えええぇぇぇぇっ?!」
「ダメっすよ〜 こーゆー小さいミスはみ〜んな葉月っちに回ってくるっすから。そろそろ、って思ってたっすけど、予想通りっすね〜」
 手の速度は全く落とさずに次々と書類を片づけていくマッコイ姉さん。
「そろそろ?」
 処理が済んだ書類を片づけながら、こっそり他の書類を乗せていく神無が聞く。
「ん〜 葉月っちって我慢強いっすからね〜 多少キツくなっても黙っていること多いっすから。」
『…………』
「あ、今日はいいっすよ。あたしが勝手に手伝っているだけっすから。」
 眺めていただけの弥生達が動こうとするのに釘を刺す。
「できれば…… もう少し葉月っちを見ていて欲しいっすね。」
 しみじみ呟きながらも、サタンクロスを足しても負けそうな腕の数で、更にスタンドまで沸きそうな勢いで溜まっていた仕事が片付けられていった。

「ごちそうさまでした。」
「お粗末様です。」
 あの後、押し切られるように少し重めの食事も食べることに。
 お腹がすいていたのか、いささか恥ずかしい勢いになってしまったが、思い返すとゆっくり食事をしたのは久しぶりだったのかもしれない。
「だいぶ具合も良くなったようですね。今日はゆっくり休んで下さい。」
「…………はい。」
 仕事が気にならない、と言えば嘘になる。
 でも心配してくれる人がこれだけいる。それが好意と呼べるものかどうかは分からないが、その気持ちには応えなきゃならないのだろう。
 3人に礼を言うと、軽くなった身体で残った最低限の仕事だけを片づけ、郵便部に戻ると……
「……え?」
 明日頑張って片づけよう、と思っていた書類の山がすっかり消えていた。
 仕事が残っているはずの4人の仲間もどこか手持ちぶさたのようにボーっとしている。一瞬叱るべきなのか考え、でも自分も倒れたとはいえ休んでいたこともあるし、それよりも4人がまるで虚脱したかのように座っているのに何か異様な物を感じて何も言えなくなる。
「葉月、具合はどうだ?」
 比較的ぼやーっと感が少ない神無が彼女を振り返る。
「少し休めたから良くなったけど…… どうしたの?」
「ん? ああ……」
 謎めいた言い回しをすることは多いがキッパリとした物言いの神無が妙に歯切れ悪い。改めて他の仲間を見渡してみる。弥生はいつもと変わらぬニコニコ顔。卯月はUFOを目撃したネバダ州ダラスの農民みたいな驚き顔がまだ抜けない。
「……“あれ”はどうしたの?」
 人に向かって“あれ”呼ばわりは失礼なのだが、そう呼びたくなる光景があった。だいぶ復活した神無がどこか苦めの笑みを浮かべる。
「ああ、“あれ”ね……」
 そこにはバックを黒にして真っ白に燃え尽きた皐月の姿があった。ブツブツとうわごとのように何か呟いている。ちょっと怖かったが(笑)近づいて口元に耳を近づけると、居場所がどうとかこうとかとガタガタ震えている。
 微妙な顔つきで神無を振り返ると、ちょっと視線をそらして考えるような顔をしてから向き直る。
「ん〜 口止めされている訳じゃないからいいか。
 マッコイ姉さんが来てな、お前が倒れたからって、その分手伝ってくれたんだけど…… 一言で言うと“凄く”てな。」
「……そうね。」
 郵便戦隊の前は購買でマッコイ姉さんの下で働いていた葉月はその凄さを知っているからある意味納得できた。
「それでな、」
 と声を潜める。
「小動物がアレ見てビビッてしまってな。まぁたまにはいい薬さ。
 ……だいたいあんな躾の出来てない小動物、他に回したら大迷惑だ。」
 微表情で言う神無に葉月はクスッと笑みを漏らした。
「じゃあ、みんなの好意に甘えて、今日は上がらせてもらうわね。」
「ああ、あとは私たちでやっておく。」
 ヒラヒラと手を振る神無に見送られて郵便部を出る。
 時間が中途半端だったのか、誰もいない大浴場の湯にゆっくり身を浸し、そして久しぶりに日付が変わる前にベッドに入ることが出来た。
(色々お礼を言わないと……)
 なんて考えながら、結構昼間に寝ていたはずなのに葉月はあっさりと眠りに落ちていった。

 快適な目覚めに、よほど自分が疲れが溜まっていたのを改めて実感。脱皮したらこんな感じなんだろうか、と思うくらい気分爽快だったのは、
「!」
 時計を見た瞬間吹っ飛んだ。
 慌てて服を脱いでシャワーを浴びて、制服に着替えての大騒ぎで郵便部まで走る。記憶が確かなら今日は郵便物がまとめて入ってくる日で、自分がいなければ、とは言わないが、混雑しているだろうと思ったら……
「あー 葉月ちゃん寝坊だー」
 いきなり皐月の甲高い声に出鼻をくじかれる。
 郵便部は普通に動いていて、見た感じ来た郵便物も一通り整理が終わっているようだ。
「あ、来た来た。葉月ぃ、悪いけど受け取り票見てもらえる?」
「それが終わったらこちら見てもらえますか?」
 卯月と弥生にチェックを求められ、
「ん〜 もー一回お願い!」
「一回で憶えろ小動物。」
 皐月は神無に仕事のやり方を教わっていた。
「…………」
 一度郵便部を出て、入り口のプレートを確認して入り直し、やはり変わってないことを知って首を傾げる。
「微妙に失礼だな。」
「そう?」
 ジト目になった神無がふっ、と笑う。
「なんか吹っ切れたのか?」
「そういうわけじゃないけどね。
 あ、午後からちょっと抜けるからお願いね。」
「へ?」
「さ、遅刻した分、仕事仕事!」
 あっけにとられる神無を置いて、すぐさま卯月と弥生の出した書類を受け取る。
「さ、今日も一日頑張るわよ!」
 すっかり元気を取り戻した葉月の声が郵便部の中に響き渡った。

 予告通り、昼に休みをもらって自室にこもる葉月。
 部屋から出てきた葉月が向かったのは格納庫だった。
 手には紙ナプキンの包みを持って、誰かを探しているようだ。
 と、探すまでもなく、またあの音色が聞こえてきた。
 さて、なんと言って誘おう。イサムは二つ返事で。ナイトライナーも来てくれるだろう。後一人をどうやってお茶に誘おうか。
 仕事を片づける以上に難題だが、そういうことを考えるという楽しみが少し分かったような気がする。
 手の中のクッキーがカサリと小さな音を立てた。