オリジナルブレイブサーガSS
「郵便戦隊の非日常〜桃」
(イラスト:嘉胡きわみ氏
CG:緋水氏)
 

 

「なんですって?!」
「はい。輸送部隊からメイデイが送られてすぐに反応が消失。撃墜されたものと思われます。」
 異世界からの侵略者トリニティに対する正義の砦、万能戦艦「ラストガーディアン」のブリッジ。ナビゲータのメイアに報告を受けた艦長綾摩律子(あやま りつこ)が驚きの声を上げながらも、手元のディスプレイに流れてきたデータを流し読みする。
「……敵?」
「艦のレーダーを撃墜地点と思われる方向に向けてみましたが感無し。
 ただ、今回の補給でメインエンジンを修理する予定でしたので、また出航が遅れることになります。」
「修理状況は?」
 メイアの隣でコンソールを叩いていたもう一人のナビゲータのシャルロットに聞く。
「サブエンジンの修理率は80%。メインエンジンは現時点でほとんど動かすことが出来ません。部品も底を尽き、今回の補給を待っているところでした。」
「…………」
 困ったわね、とため息。
 艦の状況が悪い時に限って「敵」が現れる。
 今「ラストガーディアン」は太平洋上のドッグの一つに停泊している。そこで戦闘による損傷の修理をしようと思っていたのだが、その部品を届ける輸送部隊が襲われたようなのだ。だからミデアだけで敵の出てくるような場所に(以下略)
 食料他には十分な余裕があるので、前みたいな事態にはならなそうだが、敵はやはり倒さなければならない。
「至急反応消失地点の調査を。それとコンディションをグリーンからイエローに。」
「了解!」

 無論、輸送部隊の運ぶのはエンジンの部品だけでは無い。
「することないねー」
 生活班郵便部、通称郵便戦隊のブースで桃井皐月(ももい さつき)がダラけていた。輸送部隊の中には艦宛の郵便物のコンテナもあったのだ。
 コンディションがイエローに移行したので、郵便部や購買部などのいわゆる「一般職」は外出が禁止される。まぁ、外に出たところで何か出来るわけでもないし「仕事」である郵便物が来なければ、郵便戦隊も開店休業状態である。
「皐月、」
 リーダーである白神葉月(しらかみ はづき)が皐月を窘(たしな)めるが、聞く耳は部屋に忘れてきたらしい。いや、部屋にあるかどうかすら怪しいが。
 助けを求めるように対皐月用最終兵器――通称青木神無(あおき かんな)――に視線を向けるが、神無も困ったように肩を竦めるだけだ。
「昨日までの仕事は既に片づいているからな。今日のが来ない限りほとんど仕事がないのは私も同じだ。」
 困ったものだ、と某所から渡された懸賞雑誌を読む。
 無論艦内では戦闘になりそうな雰囲気なので、慌ただしくクルーが走り回っている。しかし名前だけは郵便戦隊だが、こういう事態には全く手が出せない。忙しそうなクルーには申し訳ないが、やはりすることがないのは否めない。
「あー そういえば卯月(うづき)ちゃんに弥生(やよい)ちゃんはー?」
 椅子をグルグル回していたのにも飽きた皐月がブースにいない残り2人について誰ともなしに聞く。
「ん? あいつらは格納庫じゃないか? 卯月も弥生もビークルがでかいから、邪魔にならないように隅に移動させているんだろ。」
 付せんのついた懸賞雑誌の内容を確認しながら、メモを取っていく。
 ちなみに彼女たち郵便戦隊には、結成当時に大恩ある(笑)某所からプレゼントされた専用のビークルがある。単独で重要書類を運搬することがある葉月はバイク型。運搬業務が多い卯月は大型コンテナ車。郵便戦隊の通信担当の弥生は通信システムを強化した精密運搬用コンテナ車。特殊な任務(?)が多い神無は飛行型の小型ビークルを所持している。
「ふ〜ん…… って、あたしのは?!」
「「はい?」」
 急に大声出した皐月に、葉月も神無も手を止めて思わず振り返る。
「みんなビークル持ってズル〜い!!」
 じたばたじたばた。
 暇なのも味方してかいつもよりも当社比200%のはっちゃけぶり。
 でもそう言われてみれば皐月のビークルって見たことが無かったような気がする。
「というか小動物、お前免許あるのか?」
「へ?」
「葉月は言うに及ばず。私のは特殊だから免許は別だし、卯月も弥生も普通免許は持ってるし、年齢が微妙に引っかかるが特例で大型特殊免許も持ってる。……で、お前は?」
「めんきょ……?」
「そうだ、免許だ。法律では免許の無い奴が乗り物を道路で走らせてはいけないことになっている。」
「え〜と、え〜と……」
 論理的に、かつ簡潔に説明する神無の前に、皐月がきょろきょろ視線を彷徨わせる。
「あ、そうい「ちなみに“勇者”たちのは除外するからな。」
 もし彼らが何かに乗るたびに免許が要るのだったらとても戦っていけないだろう。
「あぅ〜」
 神無、Win! というところだが、そんな勝者の余韻に浸ることもなく再び懸賞雑誌に目を落とす。
「あ、でもでも!」
 神無の側に来てアピールしようとする皐月をチラリと一瞥すると、無言で手を伸ばす。
 ギチギチギチギチ……
「ま、魔の将軍クロぉぉぉぉっ!!
 こーヤバげな音が皐月の頭から聞こえてくるのをBGMに葉月はそっとため息をついた。

 そんな平和な光景とは裏腹に、勇者達は激戦を繰り広げていた。
 海上に浮かぶ算盤の玉(つまりは背の低い円錐を上下に重ねたような形)に上下から針を刺したような形状の巨大な移動要塞と思われる敵。
 ただ巨大なら熱い勇気で粉砕できるのだが、この移動要塞は強靱なバリアシステムを備えていた。生半可な攻撃は一切通用せず、必殺技クラスの攻撃でもバリアを集中させて耐えきっている。さらにバリア自体がステルス性を持っているのか、これだけの巨大物体をレーダーで捉えられなかったのはこのためだ。
 防御が固い上に攻撃も熾烈を極めた。
 円周部に密に装備されたビーム砲がバリア内を自在に屈折し、四方八方を死角無しに薙ぎ払う。ビーム1門ですら防御系の勇者がどうにか受け止められるくらいで、それが複数門束ねられたら一溜まりもない。
 その巨大さ故移動はゆっくりなのだが、攻撃が足止めにならない以上、「ラストガーディアン」が停泊しているドックを射程に納めるのは時間の問題だ。「ラストガーディアン」が身動き出来ない以上、ここで食い止めなければならない。
 敵の能力により高速機動型及び、防御系の技を持った勇者で部隊を編成してこの移動要塞に立ち向かうが、前述の通り全く刃が立たなかった。
 焦りが広がる中、ジワジワと移動要塞は「ラストガーディアン」に迫りつつあった。

「あれ? 皐月どうしたの?」
「あらあら、こんなところで寝てると風邪ひいちゃいますよ。」
 戻ってきた赤沢(あかざわ)卯月と緑川(みどりかわ)弥生が戻ってきて、床に倒れた皐月にそれぞれ違った反応を見せる。
「起きろ。」
 わざわざ毛布を取り出そうとする弥生を止めると、雑誌から目を外さずに呟く神無。するとバネ仕掛けのように起きあがって神無に詰め寄る。
「ちょっとちょっとちょっとぉ! あたし今ちょっと川見ちゃったよ、川っ! なんか黒い服着た人が船乗って迎えに来てたし!」
 きっと名前はカロンさん。
「それにそれに!」
 騒ぎ続ける皐月。
 神無が“マスクにはツッコミ入れられなかった自称神父の超人”の必殺技のかけ方を思い出していると、不意に郵便戦隊ブース内が赤い光に包まれる。
 ATTENTION! ATTENTION!
 謎の声が響き、壁の一角に謎のスクリーンが降りてくる。

 

『やぁ、諸君。』

 前ので味をしめたのか、郵便戦隊の制服+ネクタイにサングラスの追加装備をつけたマッコイ姉さんがスクリーンの中でふんぞり返っていた。隣には謎の操り人形がいる。マッコイ姉さんの両手が見えているところを見ると、別の誰かが操っているらしい。
『私が郵便戦隊影の長官、キャプテンマッコイっす。』
 そのままやん。
『オイラは哀愁のぽすとめ〜んでやんす。』
 自称ぽすとめ〜んは「女性が演る男の子の声」でカクカク手を動かす。聞き覚えの無い声だが……
「?」
 何か心当たりがあるのか葉月が首を傾げるが、なかなか記憶にヒットしない。
『君たち郵便戦隊に特別任務っす。』
『特別任務でやんす。』
『輸送機がトリニティの手によって撃墜されたのは君たちも聞いてるっすね。』
『聞いてるでやんすね?』
「「「「「…………」」」」」
 5人の間にびみょーにもやもやしたものが広がる。
『運ばれた荷の中には艦の補修部品だけじゃなく、皆の心を満たすステキ商品や郵便物もあるっす。』
『あるでやんす。』
『撃墜されているので、全てを求めるのは無理があるっすけど、幾つかは特注のマッコイコンテナに入っていたっすから、直撃受けたとしても中身は無事なはずっす。』
『無事なはずで――はい?』
 さすがにぽすとめ〜んも驚いたのか、オウム返しだったぽすとめ〜んが可愛い女の子の声で思わず返してしまう。
『あ〜 こらこら、ダメっすよ。』
『は、はいでやんす。』
 声を戻したぽすとめ〜んだが、そんなコントに気を緩めたらいいのか、怒ったらいいのか、このスクリーンを壊す為に皐月を飛ばすローラーを探すべきか悩む面々。
『調べたところ、あの海域は海底付近の潮流が激しいらしいっす。』
『ですからあんまり時間が無いでやんす。』
『しかも、潮流の方向には海溝があるっす。』
『落ちちゃうでやんす。』
「でも…… 私たちの装備では不可能ですよ。」
 冗談半分差し引いても、マッコイ姉さんの言ったことを理解した葉月が言葉を返す。
 彼女の言う通りなら今戦闘が行われているだろう海中に荷物を取りに行くことになる。葉月と神無のビークルは論外。卯月と弥生のビークルは何故か完全防水なので水中でも一応は行動できるが、そこまで水圧に耐えられるほどではない。
『そこでっ!』
 ビシッ、とマッコイ姉さんとぽすとめ〜んが指を突きつける。
『『その恐るべき力に封印された皐月っちのビークルの戒めを解く時が来たっす(でやんす)。』』
「やったぁぁぁぁっ!! あたしのビークル♪」
「……なぁ葉月。マッコイ姉さんって何処まで本気だ?」
「私に聞かないで下さい。」
「皐月にもビークルあったんだ……」
「封印されるほど、ってどれくらいのものなんでしょうね?」
 はしゃぐ皐月と対照的に、酸っぱい物を食べたような顔の3人+1人であった。

「♪」
「「「…………」」」
「まぁ。」
 1人だけ上機嫌+1人だけ変化無しと好対照の3人。
 マッコイ姉さん(+ぽすとめ〜ん)の指示で向かった郵便戦隊が使う格納庫。その片隅についさっき設置したようなぴかぴかの“長年封印された扉”があった。
 なんか錠前がついていたり、引き手に頑丈に鎖が付けてあったり「KEEPOUT」「立入禁止」の紙がベタベタ貼ってある。
「あ、プラスチックだ、この鎖。」
 試しに手をかけた鎖が金属じゃないのに気づいて、卯月がちょっと力を入れて鎖を引きちぎる(←無論、通常の人間の力では無理です)。
「鍵も飾りかー」
 ぶちぶちぶちぶち。
 封印は解かれた。
「よーし、皐月のビークル大公開〜!」
 がしっ、と扉の引き手を掴んだ皐月だが、予想に反して扉はビクともしない。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 ツインテールをぶんぶん振って引っ張るがやはりビクともしない。
「卯月ちゃ〜ん……」
 半分涙目で戦隊一の怪力娘を振り返ると、やれやれと卯月が代わりに扉に手をかける。上の「封印」は飾りとはいえ、扉本体はちゃんとした金属製。
 重々しい音を立てて開くと、長い間溜まったほこりの匂いが鼻を突く。
 暗い格納庫だが、徐々に目が慣れてきた何かしらの巨大なシルエットが見えてきた。
 壁に見つけたスイッチで照明を付けると、その姿があらわとなる。それは……

 ピンク色の戦車

 だった。

「皐月、視界はどうですか?」
『ん〜 全然オッケ〜』
 皐月に用意されたビークルは全地形型装甲車であった。武装もされているのだが、使う機会があるのかどうか。というか、郵便の仕事に戦車? という気もする。
 ホントは外に出られないはずなのだが、マッコイ姉さんが艦長に2、3通信すると、何故かあっさり許可が出た。
 そんなわけで、皐月と、レーダー監視用に弥生、そして上から見張るために神無がそれぞれビークルを出している。葉月と卯月は皐月のビークルに乗せてもらって通信やレーダーの様子を見ていた。
 遠い海の上では閃光が飛び交い、今も戦いが続いていた。

「くっ…… マキシマム・レイっ!!
 グリファリアスがライザーシールドを構えながら片手で光線を放つ。光線はバリアに当たる直前何条にも広がって突き刺さる。
「今よ! トライガーディオン!」
了解! シューティングスターッ!!
 トライガーディオンの神崎雪乃(かんざき ゆきの)の指示で正反対の位置目がけてビームエネルギーに包まれたボーガン状の武器トライシューターをブーメランのように投げつける。
 ある程度以上の攻撃が加われば、バリアを集中させて防御する、ということが分かっている。だから球状バリアの両側から攻撃をすればもしかしたら突破できるかもしれないし、そうでなくても負荷を与えられるかもしれない。
「まずい! 離れろ!」
 誰の声だろうか。聞こえた瞬間にはグリファリアスとトライガーディオンが浮遊要塞から離れる。その浮遊要塞の円周部が輝き、目で見える速度のビームが水平に放たれる。しかしそれらはバリアの内部で屈折しながら加速されて、近くにいたグリファリアスとトライガーディオンにビームの雨となって迫る。
リフレクタープレート射出!
ガードシールド!
 ライザーシールドから撃ちだした反射ユニットやトライシューターに張ったシールドで直撃コースのビームの軌道をずらす。それだけでもリフレクタープレートは破損し、ガードシールドも少しずつ損耗していく。すでにプレートの半分は失われ、シールドも後何回保つことか。
「……いかん!」
 同じようにレイウォールでビームを弾いたヴァルロードが浮遊要塞の位置に気づいた。
「ラストガーディアン」が停泊しているドッグが目視できるくらいになっていた。
 勇者達の攻撃を悠々とバリアで受け止めながら、一度停止した浮遊要塞がビームを屈折させる。放たれた全てのビームが一方向を目指していた。

「高エネルギーのビーム多数接近!」
「シールド展開…… 間に合いません!」
 敵浮遊要塞の射程に捉えられた「ラストガーディアン」のブリッジ内。メイアとシャルロットの悲鳴混じりの報告が飛び交う。
「全員衝撃に備えて!」
『大丈夫だ!』
 いつの間にかにブリッジの外に1機のロボが立っていた。
『ツインタージ、セット!』

 

ダイヤモンドフィールド!!

 シェルヴェイティアスが構えた盾から生じた広範囲のフィールドが「ラストガーディアン」よりも大きく広がる。フィールドの表面に何条もの突き刺さるが、御盾の戦士の名に恥じぬその防御力でその全てを防ぎきる。
「……くっ。」
 例え勇者とはいえ20mにも満たないロボ1機の出力で、その数十倍の敵の攻撃を一身に受け止めたのだ。いくら「御盾の戦士」とはいえ限界がある。
 身体のあちこちからスパークや煙を漏らしながらガクリと「ラストガーディアン」の甲板上に膝をつく。
「また…… 来る!」
 今度は全てのビームを束ねて撃ってきた。
 一点集中の攻撃ならさすがのダイヤモンドフィールドも破られるかもしれない。しかし逃げるわけにはいかないのだ。
 先ほどの何倍もの光圧がフィールドに叩きつけられる。少し遅れて「ラストガーディアン」もシールドを展開するが、すぐに限界が来てしまう。
 たとえ突破されたとしても、ツインタージと己の身体を盾として艦を護ろうと覚悟を決めたとき、新たな防御壁が展開される。
サークルディフェンダーっ!!
《シールド》っ!!
 防御技を持っているが空を飛べないために攻撃部隊に加わっていなかったナイトブレイカーと、一応は(笑)生身なので待機していたトーコが収束ビームの位置に合わせてフィールドを展開する。4重の防御壁がビームをどうにか相殺した。
「さ、さすがにキツいね……」
「何発もやってられないぞコレ。」
 決め手に欠ける以上、消耗戦は負けと同義語になってしまう。しかも人類の最後の砦「ラストガーディアン」本体が狙われているのだ。どうする我らが勇者?!

「…………」
 自分のビークルの中で、流れてくる大量の情報を処理しながら、皐月の位置を確認する弥生。
「……葉月?」
 何か思うところがあるのか、目を伏せたまま葉月を呼ぶ弥生。
「何?」
「マッコイ姉さん、ってどういう方ですか?」
「……え?」
 真剣な声の弥生にどう答えていいか分からない。
「あの人の『正義』って何ですか?」
「…………」
「あの人は他人を危険にさらしてでも事をやり遂げる人ですか?」
「それは無いわ。」
 弥生の質問の意味は分からないけど、それだけはハッキリ言えた。
「マッコイ姉さんは危険なら自分でやるタイプよ。何か人にさせるときは必ず理由と勝機があるときだけ。」
「…………」
 葉月の言葉に少し考え込むと、それまでの倍する速度でキーを叩き始める。
「皐月、」
 真剣な表情で荷物の捜索をしている海底の皐月を呼ぶ。
「今から上の浮遊要塞のバリアを破壊します。私の指示通り撃ってください。」

『えぇ〜っ?!』
「なんだって?!」
「弥生?!」
 三者三様に驚く。
「あの浮遊要塞のバリアの弱点は上下の発生ポイントの中心です。そこを正確に撃てばバリアに負荷がかかるはずです。」
「弥生、どうしてそんなことが?」
 葉月のもっともな疑問ににっこりを笑みを浮かべる。
「はい、艦のコンピュータから戦闘データをくすねました。」
「「…………」」
「それにマッコイ姉さんの資料によると、皐月のビークルはオリハルコニウムの装甲で、いわゆる“科学的”な探知には強いそうで、更に敵のビーム攻撃は水中ではほとんど効果をなさないと思われます。
 ……それと、マッコイ姉さんがこの状況を作り上げた、ということはそうさせようという意図があったのかと。」
「そうね…… でも私たちは……」
 飽くまでも郵便を運ぶのが仕事、言いかけたところで、ずっと様子を見ていた卯月がヘッドセットのマイクを口に近づけた。
「皐月! 仕事だよ。
 郵便戦隊特製の砲弾を敵のバリアに速達で3通!」
『え〜 でもぉ〜』
 面倒くさいな〜 というスメルぷんぷんな皐月の返事。
 葉月としてはやはり仲間を危険な目に遭わせたくないし(ただでも戦闘要員じゃないわけで)、説得すべきかどうかも悩む。と、
危ないっ!!
 神無の声とともに、青い飛行型ビークルが葉月達の前に飛び込んできた。
 流れ弾のビームが1条、弥生のビークル目がけて飛んできたのだ。安全距離を置いていると思っていたのだが、予想以上に浮遊要塞が接近していたのだ。神無のビークルの前の空間が歪み、その中にビームが吸い込まれていく。しかしそれだけで済まなかったのか、エネルギーの余波が神無のビークルを吹き飛ばした。

危ないっ!!
 さっきまで話をしていたところに神無の声が割り込んできて、何かが吹き飛ぶ音。通信機越しに激しく物が壊れる音が聞こえる。
『神無ぁっ!!』
 今の悲鳴は誰の声だろう。
「ねぇ! どうしたの! 何があったの?!」
『神無が…… 私たちをかばって…… 今卯月が……』
 さすがの弥生もショックで言葉がうまく繋がらない。
 何かを引きちぎるような音が聞こえて、神無を呼ぶ卯月の悲鳴じみた声も聞こえてきた。
『ダメよ卯月! 動かさないで! ……大丈夫、見た目ほど重傷じゃないわ。』
 声を震わせながらも神無の容態を見ているらしい葉月。
「神無ちゃん……」
 皐月は神無の事が理由は分からないけど好きだった。
 だってそうじゃなければ神無が傷ついたことにどうしてこんなに熱くなる自分がいる?
 許せない許せない許せない……
神無ちゃんいじめた! 許せない!!
 データをリンクしているから、敵の浮遊要塞の位置は分かっている。
 既に画像処理されているので、海越しながらもハッキリとターゲットがHUD(ヘッドアップディスプレイ)に表示されている。
 狙うは点にしか見えないポイント。照準を合わせて撃った。

「海中から砲撃。バリアに当たったため損害は0。」
「対象に反撃。」
「対象の位置を特定できないのと、ビームは効果が薄いため、爆雷を投下します。」

「ふぇ?!」
 レーダーにバラバラ落ちてくる爆雷が見える。
 こちらが見えていないのか、周囲で爆発が起きるがとりあえず直撃弾は受けていない。
「やったなー この! この! この!」
 狙って撃っているつもりだが、全く思った通りの所に当たらない。
 無駄弾ばかり撃って、足止めの役には立っているが、ただそれだけである。
「なんでよぉ! なんで当たらないのよぉ!!」
『……落ち着け小動物。』
 いきなり聞こえてきたノイズ混じりの通信に熱くなっていた頭が冷える。
「神無ちゃん?!」
『いいか。これはゲームだ。最後のボーナスステージだ。3発同じ所に当てたらクリアで飴玉のひとつもやろう。
 ……できるな、皐月。』
「え? あ、うん…… あたしに任せてよ!」
『そうか…… よし、頑張れ。』
 それだけ言うと不自然に通信が切れ、遠くから神無を呼ぶ声が聞こえる。
 また熱くなりそうになって深呼吸。
プレイヤーチェンジ。プレイヤーネーム、MAY。
 自分に言い聞かせるように呟くと、ビークル内のシステムを確認する。表示モードを変えていかにも「ゲーム」らしくする。
ステージスタート。
 この瞬間、万能戦艦「ラストガーディアン」生活班郵便部の桃井皐月ではなく、全国トップクラスのゲーマーMAYへとなる。
 内容は降り注ぐ爆雷を避けながら、バリアの中心点に3発。コンティニューも無い一発勝負だ。
 さっきまでと違い、身体が軽い。搭載されている主砲の照準を簡単に合わせる。
 爆雷の影響で海中に不規則な水の流れが出来ているし、海から空へと砲弾が飛ぶ時の抵抗だって馬鹿にならない。
「ふっふ〜ん、このMAYちゃん相手に難易度が低すぎるわよ。」
 端から見たら無造作にトリガーを引くと、発射された砲弾が爆雷の中をくぐり抜け、浮遊要塞へと真っ直ぐ突き進んだ。

「バリア集結点に着弾。バリア発生システムに負荷。」
 今までとは違い、浮遊要塞全体が小刻みに揺れる。
「回避。」
「了解…… 第2射接近。回避間に合いません。着弾します。」
 再び浮遊要塞が小刻みに揺れる。そして状態が悪化したのか浮遊要塞が異常振動を始める。
「小数点以下5桁の着弾精度です。もう一撃受けたらバリア発生システムがオーバーロードします。」
「砲撃から敵の位置を割り出し、直ちに全力攻撃。」
「敵位置補足不能。広範囲に攻撃を開始します。」

「だ〜から遅いってぇの!」
 HUDの中で回避運動を始める浮遊要塞。しかしその巨体が災いして動きは遅い。そして皐月がいるだろうと思われる範囲に爆雷やビームが突き刺さるが、すでにそんなところにはいない。
「最後の1発は精度にチャレンジしよっかなー」
 舌なめずりするかのようにターゲットを睨むと、今までより2割増し位の慎重さでコントロールスティックを傾ける。
ファイナル、シュートっ!!
 トリガーを引くと3発目の砲弾が発射される。
「そんで〜」
 楽しげに言いながら、ファイヤーコントロール(火器管制)のパネルの上に指を滑らせる。続けざまに入れられたスイッチに明かりが灯る。
おっまけ〜☆
 発射スイッチを殴りつけるように押すと、セーフティを解かれた皐月のビークルの全武装が一斉に火を吹いた。

「何が起きている……?」
 トライガーディオン達と同じく攻撃部隊に配置されたガードパラディン。いきなり海中から砲撃があった。何が撃っているかレーダーにも見えないが、何となく「何か」がいる感覚がする。ヴァルロードも同じように何かを察知しているので、どこか魔法的な存在なのかもしれない。
 最初、砲撃もバリアに当たるだけで何もダメージを与えてないようだったが、バリアの最下部に砲弾が当たった瞬間にまるで激痛に苦悶するかのようにバリアが震えた。
 そして更に2発。
 それまでずっと勇者達の攻撃を受け続けてきたバリアの正面にシャボン玉のような7色の縞が走ると、突如消滅した。直後、何十本ものミニミサイルが海から飛び出して浮遊要塞へと命中した。
 バリアが浮遊の補助をしていたのか、ダメージが大きかったのか浮遊要塞がグラリと傾く。
「何か分からないが今だ! トライガーディオン、手を貸してくれ!」
「分かった!」
 2機が並ぶとそれぞれの盾から防御フィールドを発生させる。そのフィールドが重なり合い強固な光り輝く巨大な盾となる。
「行くぞ!」
「おおっ!」
 ガードパラディンとトライガーディオンが背中のバーニアを全開にすると、浮遊要塞にフィールドを押し付ける。バリアが無いため屈折させることは出来ないが、全方位に広がるビームはそのまま光の盾の前に弾け散る。
「「うぉぉぉぉぉぉっ!」」
 そしてそのまま浮遊要塞を押して「ラストガーディアン」から離していく。
「今だ!」
「任せたぞ!」
 その言葉にグリファリアスが空に手を掲げた。

キマイザー、ウェポンコール! ライザーランス!
 ライザーシールドを返還すると、キメラ型サポートロボ・キマイザーのドラゴンの頭がグリファリアスの手元に転送される。その口から円錐状の刃が伸びランスとなる。背中のブースターから吹き出す炎が緋色のマントとなってはためく。
ライザーランス、アクティブ!

 更にもう一人の勇者も動く。
マギセイバーっ! フェアリス! 言葉を!
はい! “純粋なる光よ、この剣に破邪の力を与えよ!”
 ヴァルロードが魔法力で生み出した剣・マギセイバーを構えると、フェアリスがそれに純魔法力をコーティングしてその輝きを増す。

エンチャント! エレメンタル・チャージ…… ウィンド!
 ライザーランスの回りに風が巻く。
うぉぉぉぉぉぉっ!! はぁっ!!
 ヴァルロードがマギセイバーを全力で振るうと、剣に宿った光が翼を広げた鳳凰となって羽ばたく。それはまるで太陽が地上に降りたかのように辺りを照らしながら離れていく浮遊要塞へと迫る。
貫け!
 グリファリアスがその鳳凰を追う。
「「我らが正義の光よ!」」
 グリファリアスとヴァルロードの声が重なると、ライザーランスに鳳凰の光が重なる。ガードパラディンとトライガーディオンがフィールドを解除して浮遊要塞から離れた。
「「シャイニング・ジャスティィィィスッ!!」」
 鳳凰をまとったグリファリアスが浮遊要塞を刺し貫く。
「THE・END」
 大穴を空けられてゆっくりと墜落していく浮遊要塞をバックにランサーを戻したグリファリアスがマントを1度だけ翻した。

「え〜と、聞きたいことも言いたいこともたくさんあります。」
 戦闘終了後。
 ブリッジに呼び出されて艦長の前に並べられた郵便戦隊。
 神無の傷は額がちょっと切れたのと、腕を少し強打したので吊った程度で済んだ。輸送機に積んであった荷物も、郵便戦隊が先行して捜索していたため、破損が少ない物――それこそマッコイ姉さん特製コンテナの中身とか――の回収もはかどった。その中にはメインエンジンに必要な部品もあったので、今急ピッチで整備班が修理を行っている。数時間程度でまた「ラストガーディアン」は飛び立てるのだろう。
「元ブリッジ要員とはいえ度重なるチェックをくぐり抜けたバックドアからデータを引っ張ってくるとはシャルロットも驚いたし、あの強度のビークルの装甲をどうやって工具も無しで引きちぎったとか、どうやってあの小型ビークルでビームのエネルギーを相殺できたかとか。
 そうそう、メイアの分析したデータだと、バリアを破壊した3発の砲弾。3発目に至ってはミクロン単位の誤差しかなかったそうよ。どうやったらそんなに当てられるのかしら?
 というより……」
 律子は疲れたようなため息をつく。
どうしてあれだけ強力なビークルが郵便部にあるんですか!
「…………」
 どう説明したらいいか悩む葉月に、律子はほぅ、とため息をついた。
「いえ、ちょっと意地悪でしたね。
 どのみち、一般職であるあなた方が無断で戦闘に参加したところでそれを罰する規定もありませんし、元々この艦は軍艦でも無いので処罰もありません。」
 ただ、と前置きをして律子が真剣な目をする。
「この艦のクルーである限り、私は艦長としてあなた達を護る責任があります。あなた方が危険に飛び込むなら私は身体を張ってでもそれを護ろうと思います。
 ……できればこれ以上、私の仕事を増やさないで欲しいものです。」
 最後は少しおどけた言い方だが、その思いは伝わって郵便戦隊各人もちょっと姿勢を正す。
「あと最後に一つだけ。
 ……この艦を護ってくれてありがとう。艦長として礼を言わせてもらうわ。」

「ああもう! 郵便物郵便物郵便物! 全然片づかないよ〜」
「……黙って働け、小動物。」
 片腕が使えないため、今日は郵便部の仕事が出来ない神無。
 最初の内は素直に働いていた皐月だが、そんなものは当然(?)長続きせずにわぁわぁ騒ぎ出す始末。リーダーの葉月の言葉も右から左。
 郵便部のブースから逃げ出そうとする皐月の襟首を左手一本でむんずと捕らえる神無。
「わ、神無ちゃん、その背中に背負った6本腕のギミックは…… え? マッコイ姉さんに借りた? って、この体勢は、あの伝説のぉぉぉぉぉっ!!!!
 皐月の悲鳴が聞こえる中、郵便戦隊は今日も平和……なのかもしれない。