オリジナルブレイブサーガSS
「恐怖の爆弾」
 

 

「やっぱりさ、」
 午後のティータイム。不意に橘美咲(たちばな みさき)が口を開いた。
「料理できた方が男の子も喜ぶよね?」

「……艦内に爆弾が投下されました!」
 万能戦艦「ラストガーディアン」。そのブリッジでナビゲータの金髪の少女シャルロットが叫んだ。
「なんですって!」
 艦長である綾摩律子(あやま りつこ)が腰を浮かせて、正面のメインスクリーンを凝視する。
「爆発衝撃波……きます!」
 同じくナビゲータで金髪金眼のアンドロイド、メイアの声にブリッジ内の3人が身構える。
 と、ふと3人揃って遠い目をする。
(自分が食べる分にはいいけど、人に食べさせるのは…… あの人、どんな料理が好きなんでしょう。)
(咲也(さくや)は喜んで食べてくれますけど…… たまには他の人にも食べさせたいですね。)
(まだ子供だからこれから憶えれば。まだ子供だからこれから憶えれば。)
 ブリッジはそれなりに平和であった。

 思わず手が止まる同席の面々。
「しーちゃんの方が上手なんだよね。」
 お菓子作りは得意だけど、料理は将来が決まった相手であるしーちゃんこと秋沢雫(あきざわ しずく)の方が上手なので些か立場がない空山(そらやま)ほのか。それでも雫の作った料理を思い出したのか思わず頬がゆるむ。しーちゃんのご飯ならいくらでも食べられるよ♪ というのが本人の弁だが、たまに物理的におかしい食事量なので、愛の素晴らしさなのかもしれない。
「にゃ、にゃははははは〜 にゃんのことかな〜」
 思わず乾いた笑いを上げたのはエリス=ベル――通称エリィ。これまたお相手の御剣志狼(みつるぎ しろう)の方が料理上手な上に「やればできる」という本人の言い分に対し、その成果はまだ誰も確認していない。
「べ、別に料理なんかできなくたって……」
 お嬢様育ちで、この年までまともに料理をしたことない神楽崎麗華(かぐらざき れいか)だが、年頃の少女としてはやはり好きな相手に料理の一つでも作れるようになりたい。しかし身近に料理上手の美咲がいて、リンゴの皮むきだけでも散々たる結果を見せた麗華だが、まだ美咲に料理を習おうとする決心ができていなかったり。
「料理、ですよね……」
 ほのかの姉でもある空山リオーネが遠い目をする。料理以前の問題で、特殊なまでの味オンチで「美味しい」の概念すら怪しいとなると悲しくなってしまう。将来を誓った仲の秋沢飛鳥(あすか)は、弟の雫ほどではないとはいえ料理ができるために悲しみを倍増させてしまう。罪深き男である(何)
「…………」
 麗華付きの執事ドラゴン型ロボのカイザードラゴンを見に来たついでに同席していた羽丘(はねおか)リリィはあからさまに目を反らす。一人だけ年が離れていて小学生なのだが、これでも勇者ロボの設計をした才女であるが、メカの設計はできても料理はからっきしで、今まで作ったこともない。まだ他の少女達に比べて未来があるとはいえ、未知の領域(謎)に不安しか感じられない。
 重くなった雰囲気の理由が分からず首を傾げる美咲だが、とりあえず自分に一番近い異性――大神隼人(おおがみ はやと)のことを思い出してみる。いつも美咲の料理を食べて、顔には出さないが喜んでいる、と思う。
(ん〜 やっぱりできないよりもできた方がいいかな?)
 誰も答えてくれないようなので自己完結する。
 昼下がりの艦内は平和であった。……今のところは。

 

「そういえばさ、」
 ほのかが焼き上がったばかりのクッキーを持ってきて、それに合わせて新たな紅茶が淹れられたところで美咲が口を開く。
「男の子ってさ、キスされると喜ぶのかな?」
 地獄の門が開かれた。

「……艦内に再び爆弾が投下されました!」
「なんですって!」
「爆発衝撃波……きます!」
 と、心が小さく痛む。
(そうよね。研究ばっかりで、この年まで何かあったこともないし…… ああ、でもあの人はどうなんだろう……)
(咲也には雪乃(ゆきの)さんがいますし、私もそろそろ…… どこかに素敵な方はいないでしょうか。)
(まだ子供だから大丈夫。まだ子供だから大丈夫。)
 ブリッジはそれでも平和であった。

 ぶふっ、と同席していた少女達が飲んでいた紅茶を吹き出すという乙女にあるまじき所行をどうにか耐えきると、美咲に視線を向ける。が、何をそんなに驚いているのか全く分からないような顔で首を傾げるので、どうも拳の振り下ろし場所がない。
「でも…… しーちゃんは喜んでくれるよ。」
 と、一人だけ乙女であり続けた(謎)ほのかが嬉しそうな顔で言う。しーちゃんこと雫とは自他共に認めるラヴラヴカップル(古ぅ)なのでこれくらいの発言はまだ手ぬるいくらいだ。
「にゃ、にゃははははは〜 にゃんのことかな〜」
 赤い顔して照れ笑いを浮かべたのはエリィ。志狼とは大胆なスキンシップ(謎)をしているのを艦内で何度も目撃されているが、それ以上は意外と進んでいないらしい、との噂である。何度かは経験あるそうだが、というのもまた噂であるが。
「あ、飛鳥さんがもう少ししっかりしてくれたら……」
 小柄な身体を真っ赤にしながらも、どこか悔しそうなのはリオーネ。この飛鳥が肝心なときにダウンしてしまうというやっかいな体質純情さ故、なかなか事に及ばない。それでも、少なくともこの話題になることくらいは何度かこなしていた。
「な、何言ってるのよっ!」
 思わず腰を浮かせて激昂したのは麗華。普段は非の打ち所がないお嬢様なのだが、恋愛関係はまったくからっきしだったりする。最近同じチームの田島謙治(たじま けんじ)と色々あっていい関係になったらしいのだが、まだまだ初心者レベルである。
「〜〜〜〜〜っ!」
 声も出ないのがリリィ。まだ恋愛経験は無いかと思えば、実は年上の男のファーストキスを奪ったという輝かしい戦歴を持っていたりする。そのときの事を思い出したのか見事な赤である。
「どうしたのかな?」
「どうしたんだろうね?」
 天然風味の美咲とほのかが周りの少女達の過激(?)な反応に首を傾げる。
〈私の口からはなんとも……〉
「さっきも言ったけど、しーちゃんは喜んでくれるよ。」
「ふ〜ん……」
 ホントに分かっているかどうか怪しい美咲であった。

 カイザードラゴンが紅茶をいれなおして落ち着いた面々。
「まったく、いきなり変なこと言わないでちょうだい。」
 さっきまでの混乱も無かったかのように優雅に紅茶を味わう麗華。同じチームなので、美咲の唐突さには慣れているつもりだったが、さすがに古傷(?)を抉られるのはキツかったようだ。すぐには頭の中から消せないのか、頬の赤みはなかなか落ちない。エリィは立ち直りが早かったが、リオーネとリリィは俯いたままお茶請けのクッキーを端から削るようにぼそぼそ食べている。
〈まぁ、恋多き乙女なのですから、接吻一つにも大きな意味があるのですよ。〉
「多くなんかないもん。ボクはしーちゃん一筋だよ。」
〈おっと、これは失言でございました。〉
 鋼の顔に変化は無いが、どこか笑っているらしいカイザードラゴン。
「ふ〜ん…… 難しいんだね。」
「でもさ、なんでいきなり?」
 エリィがクッキーを親指で弾いて口でキャッチしながら聞くと、美咲がう〜ん、と唸って首を傾げる。
「なんでだろうね?」
 ギャグキャラが揃っていたら、頭をテーブルに叩きつけている所だろう。頭に疑問符を浮かべる美咲にもうかける言葉は無かった(謎)
 とりあえず、未だ調査結果は出てないようである。

「そういえばさ……」
 大いなる力が働いて、話題がたわいもない方向に切り替わった頃、それまでとはわずかに違う口調で美咲が口を開く。あまりにも天然なタイミングで、誰も止めに入れなかった。
「やっぱり男の子って、胸が大きい方がいいのかな?」

「艦内に再び爆弾反応!」
「爆発衝撃波……来ます!」
 またこう何とも言えない感覚が胸中を通り抜ける。
(悪くは無いとは思う。でもデスクワークばかりでもしかして…… あの人はそういうこと気にするのかしら? でも私も女性なんだから……)
(スタイルは悪くないという自負はありますが…… 見せる相手はいませんね。どこかに素敵な方はいないでしょうか。)
(まだ子供だからこれから。まだ子供だからこれから。)
 やっぱり平和だった。

にゃにゃにゃ、にゃんのことかにゃ〜
 当社比200%くらいのエリィの慌てように全員――いや、カイザードラゴンだけは「紳士」なのか全員に含まれない――の視線が、狭そうにブラウスを押し上げている二つの膨らみに向く。ワタワタと腕を振るだけで揺れる部位に羨望のまなざしと、絶望を秘めたため息があたりに満ちる。
 特に同じ悩みを共有するほのか・リオーネ・美咲が自分と見比べて肩を落とす。ちなみに将来的に裏切り者(謎)が出るのだが、今はその前兆すら見受けられない。
「…………」
「…………」
 まだまだ将来に希望があるリリィと、そういう悩みには縁がない麗華はまだ冷静だが、それでも心中落ち着かない。
(お兄ちゃんはどうなんだろ……)
(……どうなのかしら。)
 さすがに聞けないし、そういう部分で意見の相違があっては努力でどうにかならない問題なので致命的である。
「あ、でもしーちゃんは好きだって言ってくれるからボクはいいや。」
 いきなりの裏切り(笑)が出たが、その内容を想像してしまったのか半数ほどが顔を赤くして言葉を失う。
「……ん〜 今度聞いてみようかな?」
 神をも恐れぬ美咲であった。
 やっぱり調査結果は出ない。

 

 小規模ながら戦闘があった。
 怪我や破損はあったものの、無事全員で艦に戻ってくることが出来た。
 一緒に出撃する者や、帰りを待つ者。戦闘終了後には無事再会できたという安堵と、もしかしたら次は、という不安がまだ若き少年少女達の距離を近づけさせる。
「ふぅ、今日も大変だったね。」
「そうだな……」
 シャワーでも浴びて一休みしようか、という大神隼人(おおがみ はやと)の前をちょこちょこと美咲が歩いている。と、不意に少女が立ち止まって振り返る。
「そうだ。今日はありがとうね。」
「……勝手に身体が動くのはお前の専売特許じゃない。」
 不機嫌そうに、でもそれは単なる照れ隠しなのか、そっぽを向いてぽりぽりと頬をかく。今回の戦闘の最中、ピンチに陥った美咲を身体を張って護ったのであった。それによる名誉の負傷は大したこと無かったものの、ちゃんとお礼を言いたい。
「でも本当に嬉しかったんだよ。」
「あ〜 分かった分かった。」
 面倒くさそうに手を振る隼人。動作通りじゃないとは分かっているけど、ちゃんと気持ちを伝えたかった。自分が嬉しかったのと同じくらい嬉しくなって欲しかった。なんか方法は……
(あ、そうだ。)
「隼人くん!」
 ギュ。
 腕にしがみつく。意図した訳じゃないが、女の子特有の柔らかい感触と、もっと柔らかい感触が隼人に伝わる。
「お、おい。いきなりしがみつくな! 分かったから離れろ!」
 嬉し恥ずかしな状況に思いっきり振り払いたくなるが、相手が女の子なのと、どこか甘受したいところがあるのがあまり力が入らない。
「あのね、」
 腕を引いて少し屈ませる。身長差をもう少しカバーするためにつま先立ちになる。
「ボクからのお礼。」

 chu!

 小さな唇を隼人の頬に押し当てると、急に恥ずかしくなってきたのかダッと走り去っていった。

 ………………
 …………
 ……

 数分後、頬に手を当てたまま茫然自失となった隼人が発見されたらしい。
 ちなみに結果を見ることが無かった美咲は、今後も探求を続けていくのかもしれないのだが、それが誰にとって幸か不幸かは……どうなんでしょ?

「なぁなぁ、ちゃんと教えたらええy、ってうわなにをすんn」
 オチとして、とりあえず隼人は西山音彦(にしやま おとひこ)を心と魂を込めて殴っておく。