オリジナルブレイブサーガSS
「ロボットの心(導入編)」
(イラスト:ネモ氏)

 

「う〜〜〜〜〜〜」
 神楽崎麗華(かぐらざき れいか)が自室でうなり声を上げる。
 いつものように朝早く起きた麗華は、寝ぼけた頭で必死に起きてシャワーを浴び、目覚めのミルクと砂糖たっぷりの紅茶を飲みながらカイザードラゴンに髪を梳(す)いてもらうという日課の真っ最中であった。
 昨日は寝る前にちょっとだけ、と思った本が予想以上に面白く、思わず読みふけって夜更かしをしてしまったのだ。
 なかなか回転しない頭に半眼になっていると、ふと鏡の中のカイザードラゴンに違和感を感じた。2m超のドラゴン型ロボットのはずなのだが、鏡の中のシルエットの背も低いし妙にホッソリしている気がする。
「どうかなされましたか?」
 声もヤケにハッキリ聞こえてくる。
(……まだ寝ぼけているのかしら。)
 甘い紅茶を飲みながら自然に目が覚めてくるのを待つ。と、まだ朝早いのに部屋のインターホンが何度も何度も鳴らされた。覚醒するよりも先に不快感ばかり増幅されて、睨むようにして鏡の中のカイザードラゴンに行くように促す。
『たたたた大変なんです!』
 インターホンからとても慌てた田島謙治(たじま けんじ)の声が流れてくる。その慌てように麗華は思わず眉を潜めた。冷静沈着ないわゆる秀才君で、男女間のトラブルでも無ければああも慌てる事はない。それに関しては自分がいるので――まぁ、初心者マークながらそういう仲だったりする――、何かあるはずも無いのだが……
「ちょっと待ってるように言って。」
「畏まりました。」
 いい加減目が覚めてきて、バスローブを脱いで素早く着替える。櫛を入れていた最中ではあったが、ほとんど済んでいたので髪の乱れは無いに等しい。すっかり寝ぼけ状態からお嬢様へのクラスチェンジを果たすと、優雅に入り口を振り返って固まった。
「……誰?」
 入り口のインターホンの所には一分の隙無くタキシードを着こなした老人が背筋を伸ばして立っていた。何故か尻尾が生えていて、振り返ったその目は炎のように赤かった。
「おや、麗華様……」
 その老人はどこか人を喰った笑みを浮かべる。
「私ですよ私、カイザードラゴンでございます。」

「……それで?」
「ええ、朝起きたら……」

 赤い衝撃(謎)に耐えながら謙治を室内に迎えたところで麗華が半眼になる。

 謙治の足下には小学生低学年くらいの女の子がまとわりついていた。しかも6人。
 ひと言もしゃべらないのだが、謙治に懐く姿は「ぱぱー」と言っているようだ。
「ふ〜ん…… お盛んなことね。」
「ああぁぁあぁああぁぁあぁっ! 神楽崎さん! 凄い勘違いしてるでしょ!」
「いえ、自分ではちゃんと現状を把握しているつもりよ。」
 身に付いたものか、下品にならないようにニヤニヤする麗華。慌てる謙治を横目に紅茶を飲もうかとカップを傾けたところでカップが空になったことに気づく。
「麗華様、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「あ、ありがと。」
 老執事姿のカイザードラゴンが紅茶を注ぐ姿に謙治が首を傾げる。
「あの、それよりそちらの方は……」
「ああ、カイザーよ。見かけは全然違うけど、ラインも繋がってるし間違いないわね。朝起きたら……」
 不意に言葉を切る。
「「朝起きたら……?」」
 ふたりの言葉が重なると、麗華の足下にもまとわりついてきた幼女達に目を落とす。
 白い名札付きのスクール水着の子。手にシャベルを持ってぶかぶかのヘルメットを手で直している子。ランドセルを背負った子。その手には余る大きさのドリルや工具を持った子。両手に水鉄砲を持った子。看護師(婦)姿の子。
「ちょっと待って。」
 スクール水着の子の頭を撫でて引き留めると、胸の名札に顔を近づける。
“ろーどだいばー”
 ちなみに謙治のリアライズ(実体化)させるビークルロボであるロードチームの、水空両用潜水艇から変形できるのと同じ名前である。
「…………」
「…………」
「……趣味が知れるわ。」
「誤解です! ホントに誤解です! 僕はいつでも神楽崎さん一す……」
「黙りなさい。」
 顔を赤くしながら謙治の言葉を止める麗華。誤魔化すかのように残った紅茶を飲み干した。

 何が原因か、ということで6人の幼女を連れて通路を歩く。ちなみに(どうやら)ロードチームは謙治と麗華、そして(どうやら)カイザードラゴンの手に一人(?)ずつしがみついている。
 と、前から船医にあたる氷室耕作(ひむろ こうさく)が歩いてきた。謙治たちを見つけると、おぅ、と手を挙げる。
「秀才メガネにお嬢様、探してたぜ。」
 使い込まれながらも清潔さは欠かさない白衣姿ながら、どう見ても一昔前の番長を彷彿とさせる容貌なのだが、これでも何でもござれの名医である。
「いや、今日はいつもの救急車が来る……のが……」
 遅い、と言いかけたところで彼らの足下の幼女達に気づく。
「今の若ぇモンは早ぇなぁ……」
「「違います。」」
 遠い目をする氷室に二人がかりでつっこむ。
「あ、そっか……」
(元々は)未成熟のAIを育てるために艦内の仕事をさせているロードチーム。その内の1体のロードレスキューは救急車から変形することもあって、医療知識に長けていた。
 謙治が右手にしがみついていた看護婦姿の幼女の背中をポン、と押す。それでやっと気づいたかのように(おそらく)ロードレスキューが満面の笑顔で氷室に駆け寄ると、その足にしがみつく。
「おい、秀才メガネ、こいつは?」
 ちなみにこの氷室先生、致命的なまでに人の名前を覚えない。でもその割に毎度毎度人の特徴を的確に掴んだあだ名で呼んでくるので、微妙といえば微妙。
 くい、くい、と白衣を引っ張って医務室に引っ張っていこうとする看護婦姿の女の子の目を氷室がジッと見つめる。なんで見つめられているのか分からないので首を傾げる幼女。
「なるほどなぁ……」
 何か納得したのか、困ったような顔で頭をかきながらも幼女の手を取る。
「Inzwischen heute ist auch beschaftigt, es wird eilen.」
 氷室が一言二言麗華達には分からない言葉を言うと、うんうん頷く幼女を連れてスタスタと去っていった。
 どうやら幼女化(はたまた老執事化)しても基本的な能力は変わらないらしい。さすがにビークルに変形や(本来の)内蔵武器の使用はできないが、ロードショベルは見かけから想像できないほどの怪力だし、ロードアタッカーは背中のランドセルで空を飛べるのだ。そんなわけで、なんだかんだでいつものようにあちこちの手伝いに行かされて、なんか寂しい気分を味わった麗華と謙治であった。

 ちなみに、
「この子じゃ乗れないんだけど……」
 ロードダイバーの肩に乗って艦内を歩くのが好きな羽丘(はねおか)リリィだけがいつもと違って子守の気分になっていた。

「しかし……」
 昨日とは一転した艦内の様子に謙治達はとまどっていた。
「なんでぃなんでぃ、中もボロボロじゃねぇか。っと、こいつは腕がなるぜ。」
 見たこともない大男が通路に座り込んでいた。
 男の手の中にマンガのようなトンカチが現れると、壁にヒビが入ったところに座り込んでトントコ叩き始める。どういう原理かは分からないが、ヒビが綺麗に塞がっていく。
「おや、アースパンツァー殿、勢が出ますな。」
「おうよ、ってカイザードラゴンか?」
「左様でございます。」
 ふたり(?)の会話に思わず顔を見合わす麗華と謙治。
「アース……」
「……パンツァー?」
 ちなみにその固有名詞は超大型装甲車から変形する、40m超級の巨大ロボを意味するはずである。ちなみに趣味は整備に修理。
 カイザードラゴンとロードチームだけの話だったら、彼らを実体化させているドリームリアライザーに何らかの影響が出た、と考えることができるが、それとは全く違う聖霊であるアースパンツァーまで人の姿をしているとなると、状況は複雑そうだ。
「他も…… そうなのかな?」
「ん? なんだ謙治か。普段サンダーブレイカーしか見たこと無いから分からなかったぜ。」
 と豪快に(おそらく)アースパンツァーがガハハと笑う。
「他も、って他の奴らの事か? みんなリクリエーションルームに集まってるぜ。俺はリオーネを残してきてるから、心おきなく修繕さ。」
 とまた不思議トンカチでトントコ壁を直す。
「行ってみますか。」
「そうね。」

 場所はいきなり変わって、格納庫の片隅。ウィルダネスのランドシップが置かれている区画。
 素朴な顔の青年が、子供のように目を輝かせながらプランターに水をあげている。
「お花さ〜ん、きれ〜に咲いてくださいね〜」
 うずうず……
「あ、つぼみですね〜。いつごろ咲きますかねぇ。」
 うずうずうず……
「ちょぉ〜っと元気がないみたいですねぇ。もっと日のあたるところに移した方がいーんでしょうか。」
 うずうずうず…… うず!
「あ〜 もうコイツ見てると今までに輪をかけてイジめたくなる〜」
 いきなりトーコがその青年の後ろに回り込み、両拳でグリグリこめかみを刺激する。
「めう〜?! トーコ、痛いです〜。やめてくださいぃぃぃ!」
「あ〜 その哀れな声がアタシを刺激するんだよ!」
「トーコさん!」
 フリフリドレスを着た女性の声にトーコの動きが止まる。
「そうやってラシュネスさんを苛めるのは止めてください!」
「あ、いや、そのな?」
「言い訳は聞きません!」
 しどろもどろになるトーコにドレス姿の女性が鋭く詰問する。
 トーコから解放された青年――ラシュネスがめぅめぅとオイルじゃない涙を流す。
 ドレスの女性――グレイスがトーコを正座させてコンコンと説教を始めた。……例え人と同じ姿になっても本質は変わらないらしい。

 閑話休題。

 リクリエーションルームは人口密度がやたらと高かった。
 しかも中にいる半分くらいは見覚えあるような見たこと無い人であった。
 いきなり目に付いたのは十二単のような煌(きら)びやかな衣装をまとった女性の言動に振り回されるメイド姿の少女だ。
「え〜と……」
「なんか盛況ね。」
「あら、麗華さん。こんにちは。」
 お嬢様という共通項があるのか、年が離れている割には親しい草薙沙耶香(くさなぎ さやか)が声をかけてくる。どうやら何人かアフタヌーンティをしているらしい。その背後ではいつものように控えている長瀬倉之助(ながせ くらのすけ)だけじゃなく、実直そうな――というか、頭が固そうな――若者も周囲を警戒しながら立っていた。
「エリオス、そんなに怖い顔をしてはいけません。」
「しかし姫……」
 ビシッと背筋を伸ばして誇らしげに胸を張る(おそらく)エリオス。
「姫に害なす者があれば、それが目に触れる前に排除するのが騎士の役目。」
 ホントか?
「も〜 ランちゃんもフーちゃんも怖い顔しちゃダメだよ。」
「いいえ! 姫さんを護るのがアッシらの使命!」
「何人たりとも姫さんに近づけさせません!」
 沙耶香の向かいではちょっと困った顔の空山(そらやま)ほのか。
 その左右では風神雷神のように黒装束の男が睨みを利かせていた。
「少しはわきまえろ。姫様が困っているではないか。」
 その後ろで引き締まった肉体を持つ、同じく黒装束の男が困ったような顔をしている。その言葉にほのかが振り返る。
「ん〜 マーちゃんもちょっと怖いんじゃないかな?」
「そんな……」
 仕える姫の言葉にがっくり肩を落とすマーちゃんと呼ばれた黒装束。とはいえ、腕を組んで刃のように鋭い闘気を放っている時点でダメなような気がする。
「つまりはみんなそうなのかしら?」
「そのようですね。」
 同じテーブルについて、カイザードラゴンに紅茶を供された麗華の疑問に、フェアリスが答える。そんな彼女の隣には軽甲冑に身を包んだ男が座っている。麗華の位置からは見えないが、腰には剣を差していることだろう。
「私もこのような姿になってしまったからな。」
 落ち着いた声音には聞き覚えがある。多少変調した感じだが、自他共に認めるフェアリスのナイトのロードだろう。機械仕掛けの鋼の騎士なのだが、今はどこから見ても人間にしか見えない。
 そう、普段は巨大ロボ(一部例外有り)の者たちが全て人の姿になっているのだ。戸惑う反面、戦闘の時にしか触れあえない大切なパートナーや仲間と等身大の付き合いができる、ということでどちらかというと喜びの方が強くなってきている。
 そうこうしているとリクリエーションルームに艦長である綾摩律子(あやま りつこ)がナビゲータのメイアを連れて入ってきた。ツカツカと部屋の一番奥まで行くと、振り返って室内の全員を見渡した。
「アテンション!
 とりあえず現状を説明しましょう。メイア、」
 と傍らの金髪金眼のナビゲータを促すと、メイアが説明を始める。
 現時点で艦内の自己意志を持つロボが全員人間の姿になっている。原因は調査中だが、とりあえず手がかり一つ掴めていない。何人かに元の姿になれるかどうか確かめてもらっているが、まだ成功した者はいない。
「というわけで……」
 はぁ、と起こった異常事態に律子がため息をつく。
「現時点で戦力となる勇者ロボの搭乗者は艦内でコンディションイエローに。他の人間になった方は……」
 それでいいのかしら、と思いつつも言葉を続ける。
「半舷休息とします。せっかくの機会ですので楽しんでください、というのが小鳥遊(たかなし)博士の言葉ですので。」
 と艦内でも珍しい心理学博士の名前を挙げる律子。
 最初はその意味が分からずにいたが、理解が広がるにつれ歓声が上がる。
「それでは解散。」
 どこか疲れた感じで律子がリクリエーションルームを出て行くと、あちこちで外出先の相談が始まる。
「確かにいい機会ね。フェアリスさんもロードさんと出かけられるわね。」
「え? あ…… は、はい!」
 等身大のロードとはいえ、ロボット然としているロードとは特別な機会でも無い限り出かけられなかったフェアリス。でも人の姿をしているなら、大手を振って出られるのだ。
 そんな少女の心境を知っているからこそ、ロードもどこか嬉しそうだ。
「なんか…… 色々大事になりそうね。」
「左様でございますな。」
 浮き足立っている室内を見て、麗華はちょっとばかり先行き不安であった。

 

TO BE CONTINUED?