オリジナルブレイブサーガSS
「今年も恒例」
(イラスト:サイレント・ストーム氏)

 

 

「は〜 今日から2月か……」
 西山音彦(にしやま おとひこ)が壁のカレンダーの1月を破ろうとして、不意に嫌な予感が背中を走った。
 ゴゴゴゴゴゴゴ…… とオーラが聞こえてきそうな雰囲気に思わず息を飲む。
(なんや、このプレッシャーは?!)
 このカレンダーをめくったら死ぬ! それくらいの威圧感を感じる。気分はまさにアブドゥル(謎)
(わいは…… こんな事では負けへん!)
 一気にカレンダーをめくる。
 ……別に何もない。
 急に緊張が解けて、ほーっと息をつく。
(何にそんなに恐れていたんやろ……)
 別に何か脅すようなメッセージも何もない。せいぜい3日の所に赤い丸がついているくらいだ。
「なんやて?!」
 自分でそんなところに印を付けた憶えがない。
 そんなに気を遣ってないとはいえ、万能戦艦「ラストガーディアン」内の個室のセキュリティはしっかりしている。部屋に侵入した形跡もなく、部屋に来た誰かが書き加えたとも思えない。
 丸が付けられたのは2月3日。この日は確か……
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
 急に過去のトラウマが蘇る。すぐに思い出せなかったのはきっとどこか頭か心が拒否していたからかもしれない。
(逃げるか?)
 とはいえ、何処に逃げる? どうやって逃げる?
「あかん……」
 こー 字に書いたような“orz”みたいなポーズで絶望に頭を振る。
 どう頭で考えても、捕まってあ〜んなことやこ〜んなことをされる映像しか見えてこない。
(どうするどうするどうする?)
 何も考えが浮かばなかった。

(まずは味方や。)
 巻き込まれるのはもう半分以上諦めた。こうなったら1人でも犠牲者味方を増やして、影響を減らすしかない。
(わいは負けへんでぇ。)

「え? シロー? あれ? 見てないな〜」
「なぁなぁ、そんなことよりわいと……」
「おや、エリィちゃん。どうかしたのかね?」
「あ、おじさま。」
「…………(脱兎)」

「そう言えば拳火、何処行ったのかしら?」
「なぁなぁ、そんなことよりわいと……」
「また今度誘ってくれる? まだお仕事が残ってるの。」

「ようへい、いない。」
「なぁなぁ、そんなことよりわいと……」
「何か用か?(チャキ)」
「イ、イエ、ナンデモゴザイマセン。」

「あーちゃん見なかった?」
「なぁなぁ、そんなことよりわいと……」
「(後ろを振り向いて)あ、しーちゃーん! やっぱあーちゃんいないよー(ぱたぱた)」

「柊? そう言えば見ないですね。」
「なぁなぁ、そんなことよりわいと……」
「申し訳ありませんが、失礼します(どろん)」

「ねーねー、ラシュネス見なかったぁ?」
「わ、わいは見てへんで。」
「ふ〜ん…… でさ、ボ・ウ・ヤ。アタシと遊ばな〜い?」
「失礼します〜(脱兎)」

「なぁなぁ……」
「この馬の骨! 汚らわしいから近づかないでくださいませ!」

「……何かおかしい。」
 艦内を一通り回った音彦。腕を組んで首を傾げる。
「なんでこんなに成功率が低いんや?」
 違うだろ。
「そうやなくて、」
 いや気づいたか。
「なんや、なんかおらん奴がおるなぁ。まさか……?!」
 はっ! と無駄に暗い考えに辿り着いたキバヤシのような険しい表情をする。
「わいに黙って皆でナンパに?!」
 その推理に頭を殴られたようなショックを受ける。
 否、実際に殴られた。ツッコミにしては激しすぎる。関西人の遺伝子を受け継いだ音彦でも耐えられない衝撃だ。
 というか、倒れた上に意識も飛んだ。
 首が飛ばなかっただけマシかもしれない。
 最後の一瞬見えたのは、100tと書かれたハンマーと、それを軽々と振り抜いた少女の姿だった。

 気づくとなんかテーブルのでかいような物に仰向けに寝かされていた。
 両手両足が×のように広げられ、頑丈な枷に繋がれている。
「な、なんやて?!」
「うふふふふのふ。」
 手に歯医者を思わせるような怪しい器具を持った少女が立っている。逆行で顔は見えないが、この時期には妙にお世話になる少女だ。
「後は脳改造を残すだけです。」
 うふふ笑いを携えて、怪しい器具がキュイーンキュイーン唸りながら近づいてくる。
「さぁ、」
 女の子に迫られるのは希有な経験だが、この状況はもっと希有かもしれない。良いか悪いかは別として。
「これを見るのです。」
 ぶ〜らぶ〜ら。
 目の前で5円玉が揺れる。
「わいがそんなもんで……!」
 かくん。
 音彦は堕ちた。

「毎年恒例、鬼の襲撃です! サイズは人間大です。」
 ブリッジ内に金髪金眼の少女、メイアの声が響く。
「保安部隊を出撃させて。」
「了解。ビーントルーパーに出撃要請。」
 指示を飛ばす艦長の綾摩律子(あやま りつこ)の指示を受けるシャルロット。でも彼女の言葉に思わずコマンダーシートから転げ落ちそうになる。
「ビーントルーパーですって?」
「はい。艦内の一般クルーより戦闘経験のある者、適性のある者を集めて、緊急時の戦闘要員に。
 今までの経験により“鬼”に有効な装備が分かっていますので技術部の開発した簡易型ビーンシューターを装備させ、ビーントルーパー隊を結成しました。」
「……そう。」
 どこかため息混じり。
 でも「鬼を倒せる物でなければ倒せない」という「概念」を備えた鬼には通常の武器・兵器はほとんど通用しない。裏を返すと、そういう“概念武器”は一般の敵にはほとんど通用しないわけなのだが。
 ワラワラと「ラストガーディアン」に迫る鬼の軍勢に、揃いの制服にベスト型の防具とヘルメット姿のビーントルーパー隊が右腕に装着した繭のような物体を向ける。
「てーっ!!」
 ちょっと装飾が増えたヘルメットの隊長格らしいビーントルーパーの号令で一斉に繭が火を噴き、無数の弾丸が鬼を襲う。
 否、繭――簡易型ビーンシューターから発射されたのはピーナツを圧縮空気で撃ち出した物だ。それが鬼達の表面で弾ける。
 派手に火花(?)が散って、鬼の動きが一瞬止まり怯んだように見えたが、さほど効果がなかったのかそのまま金棒を振り回してビーントルーパー達を蹴散らしていく。
「ビーントルーパー隊、全滅です。戦果0、死者0ながら戦闘続行不能です。」
「…………」
 役に立たねー、と言いたくなるのをグッと堪えて、律子は周囲をキョロキョロ見回す。
 いつものパターンだとそろそろ……
私の名前はジョーカーっ!!
「じょーかー?」
 不意に背後から鋭く少女の声が聞こえてきた。さっき振り返ったときは見えなかったような気がするが、まぁそういうものなのだろう。
 この時期、というかこの日の限定の強制イベントである空山(そらやま)リオー……
「ていっ☆」
 ……すみません。ボーリングの黒玉は真剣に痛いです。
「艦内の平和を守る正義と飛鳥さんへの愛の美少女科学者。誰が呼んだかマッディ・リオリオとは私のこと!」
 まだ慣れない。しかしきっと今年も彼女の力を借りないといけないのだろう。
「ビーントルーパー隊はまだまだ甘い。甘いぞドモン!」
 くわっ、と伊達眼鏡の奥の目を光らせて、白衣を翻す。
「これまでの研究で、鬼に有効なのはやはり“概念”の力。火克金の考え方で、やはり煎った豆が必要なのです。ピーナツでは効果が薄い。そして更にその力を増すには……」
 スポットライト(?)の光を浴びながら、謎解き前の古畑任三郎のように訥々と語るマッディ・リオリオ。いきなり手を広げて空に掲げる。。
「手、つまりはハンド。この手で投げるという行為が更に概念力を増すのです。」
 大豆もきな粉に出来そうな握力で拳を握りしめると、そのまま正面のスクリーンに向けた。
「我らが精鋭の勇姿を今こそ見てください!」
 何故か艦のメインスクリーンがメイア達の制御を外れ、少し離れた崖の上に映像が移動する。

 そこには4つの人影が背を見せて立っていた。マッディ・リオリオの声が届いたのか、次々と振り返る。
「スペード・ビーンッ!!」
 鋭くポーズを取りながら叫ぶ。赤い全身スーツ(腕は白い)を着て、赤いオープンヘルメット姿の秋沢飛鳥(あきざわ あすか)が何処か途方に暮れたような顔でポーズを決めている。ちなみに額の部分にスペードのマークがついている。
「ダイヤ・ビーンッ!!」
 同じく青いスーツに白のヘルメット姿の御剣志狼(みつるぎ しろう)。覇気のある声と表情が不釣り合いだが、ポーズだけは決まっている。
「ハート・ビーン、で〜っす!」
 何処か気の抜けた声のピンクのスーツ姿は、いつかのゴタゴタのまま人の姿になっているラシュネス。前のふたりと比べると、楽しげでウキウキしているようにも見える。
「クローバー・ビーンッ!!」
 緑色のスーツは風雅陽平(ふうが ようへい)である。まだ艦のこーゆーことに慣れてないのか、驚愕の表情でポーズを取っている。……どうやら、ラシュネス以外の3人は自分の意志でやっている訳じゃなさそうだ。
「「「「我ら!」」」」
 4人が並んでポーズを取る。
「「「「節分豆まき隊!!」」」」
 名前は決まらなかった。

『…………』
 ブリッジ内に天使が親戚まで連れて大量に通り過ぎる。
「いつものようにマッコイ姉さんが特別に仕入れてきた特殊大豆を、聖霊の特殊な炎で煎った物を、特殊な方法で封入し手中に射出して投擲します。」
 とりあえずサッパリ分からないのはいつものことだ。諦めよう。しかし一つ疑問が残る。
「……ずいぶん協力的ね。」
「ええ、それはもう。」
 にっこり微笑むマッディ・リオリオ。
「スーツにバッチを組み込み、名乗りをさせるようにしましたので。」
 ……それって、強制? って、きっと気にしない方がよいのよね。
 そう律子が達観した思いに耽ると画面の中で戦いが始まっていた。

「「「「とぉ!!」」」」
 理不尽に叫びたいことはあるのだろうけど、鬼が迫ってくる以上、正義の勇者としての魂が躊躇いを許さない。別な意味で逃げ出したくはあるが。
 現れた新たな戦力に反応して、鬼の一部がこちらに迫ってくる。
 4人が構える。右手の中指で手首の内側あたりにあるスイッチを軽く押す。すると、びみょーに収納場所が不明な所から豆が射出されるので、素早く他の指も閉じて豆をキャッチする。
 このシステムを見たときに飛鳥がちょっと不安げというか、気になるような表情を浮かべていたような気がするが、まぁそーゆーこともある。
「アトム投げ!」
「エレキ投げ!」
「磁力投げ!」
「重力投げ!」
 叫ぶ意味は不明だが、単に豆を投げるだけではない何かしらのエネルギーが次々と鬼達を打ち倒していく。
『リロード。』
「「「「は?」」」」
 不意にヘルメット内にそんな声が響くと、急に豆が手の中に補充されなくなる。
『何をしているんですか! ちゃんと画面の外目がけて投げて補充しないとダメなんですよ!』
 ぷんぷん、って擬音が聞こえそうな口調に和みそうになるが、その発言の内容に魂を折られそうになる。
(……画面の外、ってどこだよ!)
「あ、分かりました〜」
 何処か気の抜けた声でハートビーン――ラシュネスが手をブンブン振って新たな豆を投げつける。
「こ〜やって〜、」
 ラシュネスが後ろに向かって手を振ると、どこからかガションという音がして、豆が補充されるような音がする。……ちなみに外見上には何処に装填されたかは分からないが。
「……斬新だな。」
 経験が薄い陽平がコメントに困るような感想を漏らす。
「とにかく片づけるぞ。」
 萎えそうになるやる気をどうにか振るって志狼が鬼達を睨み付ける。知っている「鬼」に比べればナンボも怖くない。
「敵の攻撃は単調だが、威力はありそうだ。気を付けろ。」
 飛鳥の指摘ももっともで、鬼達はぶっとい金棒をブンブン振り回してくる。とてもじゃないが手縫いっぽく何処か縫い目が粗いこのスーツの防御力を試そうとは思わない。
 豆は確かに効果があるが、手で投げている以上、あまり射程距離がない。4人が背を向けあって死角がないように攻撃しているが、倒す以上に鬼が出てきているような気がする。
「なんか他に武器はないのか!!」
 ヘルメットの奥のマッディ・リオリオに向かって志狼が叫ぶと、ちょっと詰まらなそうな残念そうなため息が聞こえたような気がした。
『実は皆さんにはそれぞれエホウ装備があります。』
 そーゆーのがあるなら早く言ってくれ、と思いつつ、言われたとおりに武器を準備する。
「エホウアーツ!」
「エホウソード!」
「モモミラー!」
「エホウメガトン!」
「「「いや、それおかしいだろ。」」」
 恵方巻きで縁を彩ったハート形の鏡を嬉しそうに持つラシュネスにツッコミが入る。
『あ、ラシュネスさんには別に装備を付けておきました。』
「「「早く言えよ!」」」
「あ〜 これですね〜」
 ひとりだけ背中に背負っているピンク色のランドセル。それがバカッと開くと、底から無数の恵方巻き(短い)が飛び出して、ラシュネスを護るように回りを囲む。
「エホウビット!!」
 ラシュネスのかけ声一発、恵方巻きが次々に鬼達に殺到する。それぞれ対消滅しながら鬼を倒していく。すでにランドセルの容量とはかけ離れた数の恵方巻きが鬼を打ち倒し、いい加減ネタ切れ(切れたのはシャリかもしれないが)なのか、最後に端っこの部分のような恵方巻きがポトリと落ちて打ち止めとなる。
 それでも今の攻撃で鬼はほぼ全滅させ……
「まだだ!」
 鋭い気配を感じて飛鳥・志狼・陽平の3人がそれぞれの恵方巻きを構える。とりあえず見せ場はまだまだ作れるらしい。
 鬼達がやってきた方から、体格も威圧感も全く違う鬼が現れた。
「こいつ…… 強えぇ……」
 剣士でもある志狼がその強さを肌で感じる。負ける感じはしないが、油断は出来ない。
「……っ!」
 そうだった。今の武器は豆と恵方巻きだけなのだ。
「飛鳥! 陽平! 援護を頼む。」
 2人の武器が接近戦向きじゃないことを判断すると(ラシュネスの武器は問題外)、志狼がひとり斬り(?)かかっていく。海苔がいいのか不明だが、振りかぶっても手の中の恵方巻きは崩れるどころかしなりひとつ見せない。
(……なんか海苔巻きに対する考え方が変わりそうだ。)
 自分でも料理をする志狼がどこか遠い目をした。

 鬼(区別がつくように今後は「超鬼」と呼称)の金棒と、ダイヤビーン――志狼のエホウソードがガッチリと組み合う。恵方巻きは超鬼の力にも耐えているが、その巨躯から繰り出される怪力は徐々に志狼を追いつめていく。
「動くな!」
 遠くからの声と共に、一本の恵方巻き(極細に巻いた物)が矢のように飛んで超鬼の顔に突き刺さる。怯んだ隙に超鬼を蹴飛ばしながら間合いを開くと、恵方巻きで出来た鞭――エホウアーツを弓状に構えたスペードビーン――飛鳥の元まで一度下がる。
「食らえっ!」
 ボクシンググローブサイズに太く短く作られた恵方巻きを、海苔のチェーンで繋いだエホウメガトンを振り回して超鬼にプレッシャーをかけるクローバービーンこと陽平。この手の武器の扱いに慣れている訳じゃないが、訓練したことはある。忍者となれば武器の扱いは一通り出来なければならない。
(短刀の方が良かったのに……)
 でもきっと今なら単に短い恵方巻きだったことだろう。でもそれでもそれさえあれば志狼とコンビを組んで、更に飛鳥の援護があれば圧倒できたかもしれない。
(それでも……)
 足りない、という思いが脳裏をよぎる。志狼も飛鳥も同じ考えだろう。ラシュネスに関しては…… なんとも言えない。少なくとも、手持ちの武器だけであの超鬼を倒すのは難しいだろう。決め手に欠ける。
「やるしかねぇっ!!」
 陽平が分銅状の恵方巻きを、金棒の隙間を縫って叩きつける。その衝撃に超鬼がグラリと揺らぐ。……もう余計なことは考えないようにした。
 そこにすかさず飛鳥が3連射。さすが射撃を主体とするロボの乗り手だけあって、その集中力は伊達じゃない。その全てが超鬼の右スネに刺さりバランスを崩す。
「今だ!」
 この恵方巻きで耐えられるかどうか分からないが、ここは全力を出すところだ。
 発動までの時間は稼いでもらった。雷のマイト(志狼たちブレイブナイツが持つ魔法的な力)をエホウソードに収束させ、敵の頭上から大上段から一気に叩き斬る。
 そのつもりであったが、その超鬼の強靱な肉体は志狼がエホウソードを振り下ろすよりも先に回復し、空中で無防備になった志狼に向かって金棒を構える。良くて相打ち、おそらく七三で一方的に負けるかも知れない。
「モモミラー、です〜」
 何処か気の抜けた声と一緒に、眩しい太陽の光が超鬼の目を貫いた。反射的に目を逸らす。その一瞬さえあれば志狼には十分だった。
御剣流天剣、御雷落しぃぃぃっ!!
 恵方巻きを覆っていた雷のマイトが、超鬼の全身を貫いた。落雷のような轟音が鳴り響き、超鬼が爆発に巻き込まれたかのように吹き飛ばされる。
「……そんで耐えるか。」
 手の中のエホウソードは米粒一つ飛んだ様子もない。おそらくだが、これはそのまま食べられるのだろう、という直感が更に世の中の不条理を感じさせる。
(……あれ?)
 そういえば毎年毎年節分に欠かせない男がいたはずだが、今の今まで姿を見せていない。
 しかしそんな疑問は、全身から煙をたなびかせた超鬼がゆっくりと起きあがってきたところで中断させられる。動きも鈍く、ダメージが大きそうだがトドメを刺すまでに至ってない。
 一応4人がそれぞれの武器や豆を構えたところで、不意に声が鳴り響いた。
ビーンボンバーッ!!
 まるで太陽に向けてカメラを回しながら撮影したようなエフェクトの方から声が聞こえてくる。どこかで聞き覚えがあるような気もするが。
 と、いきなり4人の身体と口が勝手に動き出す。
「「「「ビーンボンバーッ!!」」」」
 拳を突き上げて、何かしかねない感じで声が揃う。
(またか……)
 このスーツの機能で最初に4人名乗りをさせられた経緯があるので、強制イベントとして受け入れるしかないのだろう。
「とぉ!」「とぉ!」「とぉ!」「とぉ!」
 無駄にあっちこっちに前方宙返りする。伝統だから仕方がない。
「セットワン!」
「セットツー!」
「セットスリー!」
 ダイヤとハートとクローバーの3人がそれぞれ手にスコップと肥料とジョウロを手に今度は横回転しながら跳んでくる。素早く地面に穴を掘り、肥料を入れ、水で湿らせる。
「セット種植え!」
 あんまり締まらないことを言いながら、手にソフトボール台の大豆を手にスペードビーンが横回転しながら跳んできて、穴に豆を放り込む。後は花の世話に慣れているラシュネスの指示で、丁寧に土がかけられ、再度水をかける。
 すると、まるで早回しのビデオのように今埋めた豆のあたりから蔓がヒュルヒュル伸びてくる。それらは量も太さも増すと、それらが寄り合わさって強固に伸びていく。まるでジャックと豆の木を思わせるような伸び方だったが、急に成長が止まると、その先端がつぼみのように膨らむ。
 そのつぼみは先の方から開いていくと、表面が黒くなりながら硬化していく。更に重みを増したのか、こちらにゆっくりと迫る超鬼の方にくにゃ、と頭(?)を向ける。
 ……なるほど。素材は豆の蔓とはいえ、その先端部はまるで分厚いコップ状になっていて、強度も十分にありそうだ。見方によっては、旧式の大砲のようにも見えなくもない。
「「「「ビーンワン!!」」」」
 まだ強制イベントが残っていたのか、その大砲――おそらくビーンボンバーを左右に囲んで、拳を突き上げて何かの名前を呼ぶ。
 すると声が聞こえてきた方から、無駄にバク宙を三回ほどしてから、白い姿の人影がビーンボンバーの遙か後方に背を向けて着地した。その人影が振り返る。
「「「……!!」」」
「わ〜 格好いいです〜」
 どこかずれた感想のラシュネスはさておき、そこに現れた人影は全身に白タイツを着こんで同色のマントを翻していた。
節分豆まき隊攻撃隊長、ビーンワン!!
 それは更に頭にでっかい大豆のかぶり物をしている音彦だった。手に持った恵方巻きを高々と天に掲げてポーズを決める。
「「「…………」」」
 自分たちの方がまだマシだった、という思いも込めた同情というか哀れみの視線に、音彦が悲痛な叫びを上げる。
「わ、わいをそんな目で見るな〜っ!!」
「それよりも鬼さんがこちらに迫ってきますよ〜」
 ほのぼのとしたラシュネスの声に、急に戦場の空気を取り戻す。
 もう汚れ役(笑)は慣れたのか、気を取り直したビーンワン――音彦がかぶり物で重い頭をふらつかせながら皆の所まで走っていく。
節分豆まき隊必殺武器、ビーンボンバーっ!!
 手にしたバレーボール大の大豆を地面から生えたビーンボンバーに装填すると、左右の4人と共に音彦がポーズを取る。
「「「「「ファイヤーっ!!」」」」」
 凄い勢いで巨大大豆が撃ち出されると、それまでの長いドラマの間にも全然たどり着けなかった超鬼に命中する。一度カメラを止めて、爆発物に入れ替わったくらいの爆発が起きると、何故か全身から煙を立ち上らせながらもさほど損傷していない超鬼が横たわっている。ただし、もう動き出すような気配はない。
(終わった……)
 いくら今日限定のヒーローとはいえ、いい加減この扮装から解放されたい。
 戦いで疲労したのも手伝って「それ」に少し気づくのが遅れた。

「レーダーに反応あり! サイズは20m級ロボと同等と思われます!」
 ナビゲータのメイアの言葉に、勝利気分になっていたブリッジに再び緊張が走る。
「まさか?!」
 マッディ・リオリオが珍しく焦ったような顔をする。
「このシリーズで巨大ロボが出ることはないのに……」

 ぐおんぐおんという擬音が聞こえてきそうな雰囲気で、倒れた超鬼の元に、同じようなデザインの巨大ロボが着地する。さすがに相手が相手なので、地上の5人には打つ手がない。
「りふれっしゅぱわ〜」
 その巨大ロボの額あたりから光線が出ると、超鬼がムクリと起きあがり、そのまま巨大ロボの額へと吸い込まれていった。

「そんな! 番組が違います!!」
 驚愕に唇を振るわせるマッディ・リオリオが次の手を打とうとする前に、笑い声がブリッジ内に響いた。
「おーっほっほっほっほっほ。
 こんな事で取り乱すとはあの噂に名高いマッディ・リオリオも墜ちたものですわね。」
「何者ですかっ!!」
 こー 端から聞いていると、緊迫した雰囲気なのだろうけど、律子はまたややこしいことになったわね、とため息をつく。
 ブリッジの後方入り口付近に襟が妙に高い厚手のマントを羽織った少女が立っている。小柄な身体に赤いシャギーがポイントの羽丘(はねおか)リr……
「やぁっ☆」
 ……すみません、さすがにプレッシャーガンの直撃は死にそうです。

「艦内の平和を守る正義の癒し系美少女科学者。ドクトル・リリーとはあたしのことよ!!」

 誰か私の精神の平和を守ってくれないかしら、と思いつつ律子がはぁ、とため息をつく。
「あ〜 リリィちゃん。」
 それまで展開について行けず、ずっと黙っていた副官の神楽悠馬(かぐら ゆうま)が恐る恐る挙手をする。
「ドクトル・リリーです!」
 憤慨したように訂正するドクトル・リリーだが、発音でどうやって聞き分けたかは不明。
「えっと、じゃあリリーちゃん。ちょっと思ったんだけど、女の子ならドクトリーヌになるんじゃないかな?」
 神楽の指摘に自称ドクトル・リリーが固まる。
「う……」
「う?」
「う、うるさいうるさいうるさーい!」
 赤い顔で叫びながらも、いたたまれずにブリッジの隅の椅子に半分身を隠してしまう。
「こっちは偉い科学者なんだぞ。お前なんか一ひねりなんだぞ。」
 えぐえぐ涙目で力説されると、とても悪いことをした気になって申し訳なくなる。
「あ、えっと、ごめん……」
 困ったように謝る神楽にどうにかこうにか落ち着いたドクトル・リリー改め、ドクトリーヌ・リリーがブリッジに戻ってくる。
「ともかく!」
 それまでを誤魔化したいのか、ことさら大声を出す。
「ここはあたしに任せてもらいましょう。」
 ニヤリ、と笑みを浮かべると指を鳴らす。
 そうするとまたメインスクリーンが勝手に切り替わって、豆まき隊を少し遠く望む位置に視点が切り替わる。
 何処にマイクがあるのか分からないが、ガションガション、と人とは思えない足音が聞こえてくる。
 そしてついにその姿が現れた。
 周囲の比較から人よりもやや大きいくらいの赤と青のロボット。現れた鬼ロボと比べると、とても相手になるようには見えない。
「さぁ、その勇姿を見せてください。」
 と、その2体のロボットが(メインスクリーンに向かって)振り返る。
 頭が三角に尖ったジェット機を思わせる赤いロボと、車を思わせる意匠の青いロボットだ。
 その顔の部分が開くと、ガラスの素通しになっていて顔が見えた。
『お、おい! これはどういうことだ。』
『なんでおいらが……?!』
「「「…………」」」
 赤いロボの中に詰まって(笑)いたのが龍門拳火(りゅうもん けんひ)、青いロボの中身は風魔柊(ふうま ひいらぎ)であった。
「あら、素敵なロボじゃない?」
 お茶に座布団と準備万端で見学モードの龍門水衣(みい)――拳火の姉がお茶を飲んでほぅ、と息を吐く。
「何事も訓練ですし。」
 同じくカウチポテトでくつろぎモードの風魔楓(かえで)――柊の妹がパリパリとポテチをかじる。
「これがあたしが開発した強化スーツ。サンプルとしてお兄さんと弟さんに入ってもらったので、キョーダINと命名しました。」
「「「いやいやいやいや……」」」
 あちこちからツッコミが入るが、ドクトリーヌ・リリーが生まれるずっと前の話なので、きっと気にしない。
「もういい加減、話が長くなってきたので、とっととケリをつけましょう。
 スカイHELL! グランHELL! スカイミサイルとグランカーに変形よ!」
 なんか不吉な名前で呼ばれた2体が顔のシャッターを閉じ、中の人の意志に関係なくいきなり動き出した。

「スカイミサイル!」
「グランカー!」
「「うごがぎがぎがぐぎゃー」
 まるでモーフィングするかのような変形に、内部の拳火と柊が人間が発したとは思えない悲鳴を上げる。ミサイルと発射台付きの車輌に変形した2体を見ると、とても中に人が入っているとは思えないが、きっとどうにかなっているのだろう。しかも次の瞬間、ちょっと忘れかけていたロボ超鬼の相手が出来るほどに大きくなったので、大丈夫なのだろう。……中でゴムのように伸ばされている可能性があるが。
『発射ぁっ!!』
 ドクトリーヌ・リリーの声で、中がどうなるか気になるスカイミサイル――拳火が悲鳴のドップラー効果を残して大空へ飛び立っていく。さすがは炎のマイト使い、というべきか、吹き出す炎は何とも豪華だ。
 ちゅど〜ん。
 そして爆発もなかなか豪華であった。

「敵大型ロボへの損害効果率20%。あまり効いておりません。
 やはり“概念”を備えていると考えられます。」
「むー やっぱり火克金だけじゃダメかー」
 持っていたモバイルに何か打ち込むと、ヘロヘロ戻ってきたスカイミサイルに冷めた視線を向ける。

「根性無し。」
「頑張りが足りないわね。」
 ずずー、とお茶をすする水衣が追い打ちをかける。
『み、水衣姉ぇぇぇぇぇぇっ!!』

 声しか聞こえないが、涙とか鼻水とか、こー人として大事な何かを垂れ流すような雰囲気は伝わってくる。
「じゃあ、次。
 スカイジェット! グランミサイル!」
『『うごがぎがぎがぐべぎがげぎゃひー』』
 また凄い悲鳴が聞こえてきた。
 こー中の人がいないかのような変形を経て、ジェット機と爆弾風のミサイルに変形する。
 中身の事情は無視して、スカイジェット(らしい)がグランミサイル(らしい)を抱え込んで飛び立っていく。
「いけー キョーダIN! 理論上は1京ダインまでのパワーが出るのにー」
「1京ダイン?」
 聞き慣れない単位というか、数字の単位に枝毛探しをしていた律子が思わず振り返る。
「1京ダインですからえ〜と……」
 暗算しようとするが、なかなか桁が合わせられずに苦戦。
「リリィさん、良かったらこれを。」
「あ、リオーネお姉さん、ありがとう。」
 マッディ・リオリオが差し出す電卓を受け取るドクトリーヌ・リリー。いや、お前ら今全く素だったろ?
 ともかく、ドクトリーヌ・リリーがポチポチ電卓を叩く。
「なんと! 10の11乗ニュートン! ということは……」
 またポチポチ電卓を叩く。
「大雑把な計算で10の6乗トンほどの衝撃ry……」
「スカイジェット、グランミサイル、敵大型ロボに衝突。
 損害率70%オーバー。概念存在特有の現実矛盾作用で消滅を確認。敵勢力を一掃いたしました。」
 そういやぁ、電卓を叩いている間に派手な爆発音を聞いたような気がする。
「……終わり?」
 どこか拍子抜けしたような表情で、律子が今の報告をしたメイアに尋ねる。
「節分豆まき隊、帰還いたしました。艦内コンディションをレッドからイエローに。周囲の確認が終わり次第ブルーに移行します。」
 返事代わりか、隣のオペレータのシャルロットが続きの報告をする。
「そう…… で、今爆発したのは?」
「…………」
 レーダーを操作して状況を確認しているらしいメイア。しかし彼女としては珍しく、ピクッと手を止める。やっと制御の戻ったメインスクリーンの一部がアップになる。
「無様ね。」
「帰ったら特訓ですね。」
 こーウレタン製の着ぐるみを潰したかのようにひしゃげたキョーダINに姉と妹が間髪入れずに感想を述べる。……ちなみに中身がどうなったかは知らない(マテ)
「なるほど! 火の力と、概念武器である“柊”の相乗効果ですか! さすがはドクトリーヌ・リリー。その科学力は舐めてかかれませんね……」
「いや、そっちの科学力も前から一目置いてましたよ、マッディ・リオリオ。」
 気づくと2人の美少女科学者とやらが意気投合していた。
 ……いいから、誰か哀れなキョーダINを助けてやれ。

「いやー 今年の節分は良かったなー」
 百歩譲って汚れたヒーロー(笑)になってしまうのは諦めた。しかし無傷で苦労らしい苦労をしなかったのは初めてだ。それがこんなに爽快だとは!
「あ〜 いたいた。」
「探しましたよ〜」
 通路を歩いていると、飛鳥とラシュネスが何故か斧を手に前からやってきた。
「ほら。」
 何故か斧を手渡される。
「なんやこれ?」
「斧だ。行くぞ。」
「……は?」
「艦長さんがぁ、あのビーンボンバーの始末をしなさい、って……」
 じっと手の中の存在感に目を落とす。
「いやや……」
「ん?」
 よく聞こえなかったのか、飛鳥が聞き直すと、ガバッと音彦が顔を上げる。
「いやや! きっとこれは陰謀なんや!
 わいがあのゴツい豆の木切ったら、何故かわいの方に倒れてきて、酷い目に遭うんちゅーわけや!」
 投げると危ないので、そっと斧を床に置くところに音彦の漢がかいま見える……じゃなくて、斧を置くとすかさずダッシュの体勢になる。
「ほぉ、」
 単なる一言だが、それだけで音彦が絶対零度に凍り付く。
「与えられた仕事から逃げるとは感心せんな。」
 ゴゴゴゴゴゴゴ……と書き文字が見えてきそうな迫力に、ガクガク震えながらゆっくりと振り返る。
「鬼」がいた。
 艦内で「最強」と名高く(ちなみに「無敵」と「不敗」の称号も別にいるらしいが)剣鬼とも恐れられる御剣剣十郎(けんじゅうろう)が腕組みをして立っていた。ちなみに志狼の父でもある。
「少し性根をたたき直した方が良いかな? 前々から不穏な話を聞いておるからな。」
「お助けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 連れ去られていく音彦を見ながら「仕事が増えたなぁ」と思ったかどうかは知らないが、飛鳥とラシュネスは斧を手に外に出て行く。
 結局、音彦の節分は鬼と不幸とは切っても切れない関係らしい。

 追記。
 医務室にひとり追加で運ばれて、艦医の氷室耕作(ひむろ こうさく)と手伝いのレスキューたんの仕事が増えました。