オリジナルブレイブサーガSS
「コタツのある風景」
 

 

「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 万能戦艦「ラストガーディアン」の一角。購買という名の摩訶不思議な何でも屋の主、本名不明のマッコイ姉さんの唸り声である。
「唸ってないっす。」
 いや、地の文に突っ込まないでください。
「で、ホントにどうしたの?」
 購買の奥。マッコイ姉さんの私室があるのだが、その場所を一言で表すと「宿直室」という感じだろうか? 6畳くらいの畳部屋に押入。簡単な流しとガス台。そんで部屋の中央にはドドーンとコタツが置いてある。
 普段のエプロン姿の上からドテラを羽織って、コタツにこもってパチパチソロバンを弾いている姿を見ると、どうもやり手の商人(あきんど)には…… いや、普段から見えませんが。
「ん〜 こーなんか売れ行きがびみょーなんすよ。」
 パチパチパチパチ。
 手書きの帳面をペラペラめくりながらぼやくマッコイ姉さんに、向かいでミカンをムキムキしていた鈴(りん)がピコピコ頭の上の獣耳を揺らす。
「な〜にが売れなかったっすかねぇ……」
 バサバサバサバサ。
「……お?」
「なになに?」
 興味本位で帳面を覗くが、日本語どころかまともな数字すら読み取れず、暗号解読というかすでに考古学の分野になっていて、思わず頭がクラクラしてしまう。
「分かったっす!」
「何が分かったアルか?」
「あ、ケイ。ちょっと待つっす。」
「い、いつの間に?!」
 さっきまではいなかったはずの後方(経理や総務を担当)のリー妹ことケイ=リーがコタツに入り込んでいた。バトルコスチューム(チャイナドレス)姿なので、面倒な仕事の最中らしい。マッコイ姉さんがザザザと帳面にペンを走らせると、近くで大口を開けていた謎の怪獣の縫いぐるみに帳面を押し込む。
 ずみゅりゅりゅりゅ、と怪しげな音を立てて怪獣風味が帳面を飲み込み、お返しとばかりに一枚のデータディスクが飛び出してきて、それをマッコイ姉さんがキャッチする。
「ほい、集計データっす。」
「ハオ。今月は早くて助かるアル。」
 ディスクを受け取ってもはふー、とコタツから出ようとしないケイ。どうやら言葉通りに思ったよりも早くもらえたので、少し余裕ができたようだ。ミカンをムキムキしてくつろいでいる。
「……ま、いいけど。」
 さっきむいたミカンの最後の房を口に放り込むと、鈴はまたミカンに手を伸ばした。
 と、
『ヤマトー ヤマトー どこですのー』
《おや、暦(こよみ)様、いかがなされました?》
『あら、カイザードラゴンさん。先程からヤマトが見えませんで……』
 店頭からそんな声が聞こえてくる。
《そういえば、先ほど見たような気が…… マッコイ様ならご存じかも? お呼びしてきましょう。》
『お手数はとらせませんわ。あたくしが直に伺いますわ。』
 本人の性格通りのキビキビとした足音が近づいてくると、何故か昔懐かしい感じの「宿直室」っぽい引き戸が開いて、長い黒髪ポニーテイルとつり目がちの猫目が覗き込んできた。
「お〜 暦っち。ヤマトっすか?」
「ええ、マッコイ姉様。」
 生活班郵便部の新人。黒羽根(くろばね)暦がきっちりとした制服姿でぺこりと頭を下げる。
「さっきからヤマトも子猫たちも見あたらなくて……」
「あ〜あ、さぼりっすか? いけないっすねー」
 マッコイ姉さんが布団をめくり上げてコタツの中に向かって言うと、
 ミー
 ニャー
 ニャオン
「わぁ♪」
 小さな黒猫がもぞもぞコタツの中からはい出してきて、鈴が嬉しそうな声を上げる。
「ノワール、シュバルツ、ネロ、」
 ミー
 ニャー
 ニャオン
 ちょっとコタツに未練がましい様子だが、暦に呼ばれてそれぞれ彼女の両肩と頭の上に乗っかる。
「いいなぁ……」
 最初にちょっと抱っこさせて貰った以来はほとんど暦の側を離れないので、ちょっと羨ましい鈴。
「…………」
 そんな羨望の視線にも気づかない様子で、暦がそんなに広くない部屋の中を見回す。
「……ヤマト?」
 暦の声にぽすん、と誰も足を入れていないコタツの側から巨大な黒猫の顔が現れる。
「ひゃぁっ。」
 どう見ても物理的におかしい大きさの出現に思わず鈴が悲鳴を上げる。ちなみに他の3人は驚きもしない。
 ちなみに黒猫のヤマトに、同じく黒猫の子猫ズは暦が郵便部――通称郵便戦隊に入った時にマッコイ姉さんからお祝いとして送られた「ビークル」である。当然、化け猫ではなく、精巧に(摩訶不思議な技術で)作られた巨大黒猫型ロボ&子猫型ロボである。
「外に出なくてはなりませんの。ヤマト、参りますわよ。」
 みゃう〜
 ロボットとはいえ、コタツの魔力には抗いがたいのだろうが、それはそれ、暦の飼い猫だけあって切り替えが早いというか、真面目というか。ずむりゅ、と5m程の身体をコタツの中から引きずり出すと、先に歩き出した暦の後をパ・ドゥ・シャでついて行く。
「え? え? えぇ?!」
 コタツ布団をめくって中を覗き込むが、普通に掘りゴタツになっているだけであれだけの体積が入る余裕は見えない。頭だけでも無理っぽい。
「鈴さん、寒いっすよ〜」
「そですよ。鈴サン、コタツはおとなしく入るものアルね。」
「え、でも、あれ?」
 凄く納得がいかないのだが、目の前の2人がまるで動じてないので幻でも見たのか、と自分の感覚を疑って……
 いやいやいやいや。
「あたし、まだこの艦、慣れないかも……」
 大人の階段を上る日はまだまだ遠いらしい。